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【2024/05/06 04:02 】 |
第29話 筋肉痛は気がついた時が一番痛い 4





「ん、…はっ…ぁ、…?」

人間の腕に抱かれて、銀時の肌が異を唱える。

掴み方が、指の当たり方が、力の篭もり方が違う、と不快気に文句を言う。

だがそれも一瞬だった。

味気ないカラクリに弄りまわされていた身体に、やっと人間の皮膚の温度が触れてきたのだ。

幸い視覚は塞がれていて何も見えない。

これが恋しい高杉でなんの都合が悪い?高杉にしてしまえと淫欲が囁く。

「たかすぎ…、」

恋しい相手を確かめようと動かない手に力を籠める。

「…んぁ、なにっ…焦らしてんの? この、クソバカっ…」

力の抜けた悪態が口から出る。

「テメーは、…こっちが、はァッ、…痛ェぐれぇが、いんだろがっ…ん、くっ…」

高杉にしか向けない難癖という名の甘え。

「…んっ、のろくせーよ…ッ、…いつもみてーに、…てきぱき入れろテキパキ…ぁあっ…、」

『クク…、熱い愛欲の味は気に入ってもらえタようだね…』

男の身体が銀時に重なっていく。

『そうサ、俺はあの人だよ。雑作もなくアンタに愛される存在』

手の指が銀時のペニスを触手ごと握りこんで、ゆるく扱きはじめる。

『ありったけ…愛しておくれ、白夜叉ァ…、この俺ヲ…』

「あっ…、ぁあぐッ!」

注入液で敏感になった内部を膨れ上がった触手が一斉に擦りあげる。

思わず締めてはもっと奥へ受け入れようと緩んだ穴の横から更なる触手がめりこんでくる。

「ひぅッ、ぁうぁぁあッ!」

入ってるのに、もっと広げて求めようとする高杉の欲求に腰から背骨へジンと痺れが這いのぼる。

胸はたえまなく弄りまわされ、触手の吐いた液体を乳首にまぶされながら噛み立てられる。

その痛みは火花を放ちながら芯の疼きにすり替えられていく。

触手に絡みつかれた亀頭は容赦なく擦りつづけられ、尿道口を開かされ、すでに中を愛撫している管づたいに注入液をそそがれる。

「んぁ、あっ、ぁッ、」

とめどない熱と欲が尿道から腹の奥、双の玉を駆り立ててどこまでも昇らされ、強烈な快感と同時に足りないと、物足りないと身体の内側から飢えさせる。

「もっ、もッ、…ぁあーッ!」

触手に身体中を愛される。

膝を持ちあげられて左右に開かれる。

唇にキスが欲しいと、吸ってほしいと空気を吸う。

快楽が人の形をした熱の塊、それ以外の意識は銀時の心から溶けてなくなっていく。

「ぁッ…、たか、す…ぎっ…!」

触手がシュル、シュルと肌を撫でる。

巻きついていた本数が減っていく。

触手を引かせて高杉自身が人の形をとって銀時で満たしにかかるのだと、なんとなく察する。

─── 好きなのも、欲しいのも

「お、前だ…、バカヤローッ…!」

『よく効ク媚薬だよ、本当に…』

笑う声が上から降る。

『さぁ…アノ人になろうねェ…』

ぐっと人間の手で両膝を分けられる。

さんざ触手が慣らしていたソコから一本ずつ抜けていく。

ペニスの根元に絡んでいる戒めだけが解かれない。

『一緒に逝くまデ、おあずケだよ』

ゆっくりと砲身を生身の手で撫でられる。

それだけで銀時の口から、あぅ…、と感じ入った吐息があがる。

『攘夷戦争のカリスマを…俺の汚い欲で犯すんダ』

触手の抜けきった、はくはくと挿れるものを欲しがって腰を動かす銀時の後孔に、人間の熱く勃ち上がりきった陰茎が押し当てられる。

『くだらない下っ端の雄が、栄光の白夜叉を穢すのサぁ…!』

「っ…、」

快楽に蕩かされる脳髄の片隅では解っている。

自分は体内に高杉でもなんでもないヤツの持ち物を突っこまれようとしている。


─── んだよ、栄光のって

    そんなんモトだよ元ォ!

    ほんッと、心の底からくだらねーわ

    そんなもんに妄執してるヒマあったら乙女の純情でも狙った方が

    よっぽど建設的意義があるっつーの


「…ぅ、んぁ…っ、」

にもかかわらず絶頂への到達をひたすら求める身体は惜しげもなく『高杉』に縋って痴態をさらし、肉棒が命ずるままソレと共に達するだろう。


─── こうなったら仕方ねェ、コイツを高杉だっつーことにして楽しむしかねェ

    良くなかったらコイツのフニャチン食いちぎるしかねーな

    冥土の土産にシてやっからサッサと来いやゴラァ…!


ぐっ、と喉を鳴らす。

尻に圧迫がかかる。

持ちあげられていた膝が、しかし急に下へ落とされる。

身体を戒めていた触手が、すべて同時に力を失って緩む。

精巧な動きをしていた一本一本が伸びるでも縮むでもなくボトボトと、ただの管に戻ったように床や身体の上に転がって停止する。

「……っ、?」

銀時は身体を開いたまま異変を伺う。

目を覆う幅広の触手は両眼に巻きついたまま動きを止め、あいかわらず視界は塞がれている。

相手の身体がガクンと揺れる。

すべての触手が、ペニスの根元を縛っていたそれさえ冷たいカラクリの紐と化して身体から剥がされていく。


─── んだ、コレ…?


いままさに挿入しようとしていた相手の気配が薄れて自分から遠のいていく。


─── ちょ、なに? え、ウソ

    まさかコイツ、役に立たねーの?

    ざけんな、オイ

    この期に及んで寸止めとかねーわ

    伝説の栄光的なものになんてことしてくれてんだァァ!


「……っ!?」

冷えたカラクリ触手の残骸を絡ませた銀時の身体が、そのとき熱い手に引き起こされる。

紅桜の宿主に代わって銀時の膝を押し開き、火照った身体を抱擁したのは別の体躯。


「…ぎんとき」


耳元でくぐもる低い声。

馴染んだ感触、闊達な気概、ぴったりと添う肌と肌。

「…ぅ、あ」

ほのかに匂う、恋しい身体の持ち主。

黙ってくちづけてくる狂おしい唇。

ついばむやり方も舐めてくる順序も昔どおり。

「っ…た、かす…?!」

名を呼ぼうとして、途中で息が詰まった。

欲しくてたまらないソコへ熱い雄の猛りを宛てがわられる。

「挿れるぜ。ぜんぶ呑みこみな」


─── ……ッ、アッ、ぅあぁぁッ…!


カラクリとは違う。

欲の滴るような生身の脈動が伝わってくる。

焼けつくような熱塊が銀時の尻穴に埋め込まれ、腸壁を押し開いていく。

のたうつ身体を快楽の衝撃が串刺しにした。





続く

 

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【2012/11/30 21:10 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第30話 筋肉痛は気がついた時が一番痛い 5





「待っ、ちょッ、ぁあッ…!」

尻の中を熱くぬるついたものが進んでくる。

昔、覚えたとおりの快感の軌道をそっくりそのままなぞってくる。

「やめっ、アッ、」

熱い快楽が腹の中で溶ける。

下半身だけ持っていかれそうな不安に動かない指で床を掻く。

「お、追いつか…ねーって、」

腰が揺れ、膝がもがく。

臀丘が締まり、脚にかけて健やかな筋肉のラインが浮かんでは消える。

「ぁぐっ…、ダメだ、っ…!」

高杉との行為の記憶が体の奥から甦る。

疼くそこをどんな風に突かれたか。

突いては引くものを締め上げるとどんな風に呻いて声を掠れさせたか。

高杉の熱い汗が、腕が、どんな風に自分を掻きいだき、声を漏らして達したか。

それを描くだけで身体は動きを封じられたままゾクリと強い熱を発する。

それより高温の硬い岩石のような熱温で銀時にかぶさりながら、じっとりした生々しいものが銀時の腹の中を擦りあげる。

「ぃやだ…、はぁっ、…やめっ、」

昔以上にぴったりと銀時の欲しいところに先端が当たり、怖いほど男の上反りは前立腺をなぞって深い欲を腹の中に掻き回す。

「こ…これじゃ、味わえねぇ…、」

一人で「それ」をオカズにしているのとはワケが違う。

「オメーを感じる前に、カラダだけ、イっちまう…!」

高杉を捕らえて締めつける。

締めたとき体内に感じる男茎は形も硬さも、かつて銀時に快楽を覚えこませたそれに他ならない。

「はっ…、ぁううッ!」

触手に弄られて勃ちあがりっぱなしだった銀時のペニスに長くて武骨で、どこかしなやかな手の指が絡む。

とっくに先走りで濡れていた亀頭に親指で新たにこぼれた体液を塗り広げる。

「…っ、んくッ」

きっと次は爪を立てて尿道口を抉られる。

結果的に気持ちよくても痛いものは痛い。

銀時は無意識に身構える。

ひさしぶりの慣れた衝撃をこらえたが、先端に与えられたのは指の腹で丹念に穴を開かれ、カリ首を他の指で掬いながら尿道に快感を押し込んでいく丁寧で細やかな動きだった。

「…っ、!?」

銀時の肌が熱を発する。

見えない相手は乳首を吸い、敏感なペニスの穴を開いて、やわやわと刺激する。

がむしゃらに突き入れてくるわけでもない腰使いは、銀時が快感を拾いやすいように、むしろそのことだけを目的にしたような愛おしみ深い営み。

「……ヴッ…、」

銀時は固く唇を結んで閉ざす。

顔の温度があがって他より赤い。

身体の奥は、そして相手の肌に触れているところは、どこもかしこも感じやすく、ちょっとのことでビクッと震えを走らせる。

「ぅぐ、み、見んな、」

銀時は急に声を荒げる。

「てめっ、見んじゃねーよっ、いいからアッチいけっ!」

ジタバタと身体を閉じようとする。

すっかり砕かれたような手足の筋肉は銀時の意志を受け付けない。

それでもなんらかの効果が薄れてきたのか銀時の片手はゆるく相手の体躯に突っ張り、下半身は相手の視界から逃れようと膝を揺らめかせる。

「銀時、」

「イヤだ、触んな、…ぅ、」

首を倒して顔をそむける。

「んぐっ、…おまえ、アレだろ? バカチンだろ?」

腸壁をこする硬茎の動きにあわせて身体を前後に揺さぶられながら銀時は相手をなじり始める。

「んぁっ、わかったから…あー、そーゆう…カンジね…、」

熱い息を吐く合間に軽い調子で続ける。

「おまえはさぁ、あの触手野郎だってーのに、…高杉そのものだと思わせたいんだろ?」

相手の手の中で熱くそそり勃ったペニスから透明な液をこぼしながら銀時はこらえきれない腰を律動させる。

「アイツ高杉に…、なりたがってたもんなぁ、俺に…薬つかっ、て…」

その律動が腹の中の高杉の雄の抽送に追いすがり、ぴったりした合一を求めていく。

「この、高杉みてーな感触も…ぅあっ、ウソっぱち…だよな、」

身体はますます熱を発し、相手の愛撫に酔い、高まっていく。

「俺がおまえを高杉だと、思い込むように…、そんな幻に浸(ひた)る薬で…細工したんだろ…ぅっ、?」

銀時の口元がだらしなく笑う。

「でも俺は、騙されねーから」

「言いてぇことは…それだけか」

肌を交わしている相手が業を煮やしたように口を開く。

「てめぇなんざ、…あの犬に飼い殺されちまえっ…」

「なかなか良いセンいってるけど…っ、おまえは決定的な間違いを犯してんだよ…、」

おかしそうに銀時は自分にかぶさる相手の顔がある辺りを見上げる。

「高杉はなぁ、俺をいたわるようなセックスはしねぇの。あと助けに来ることもねぇ」

言いきって、はぁ…とせつなげな吐息を漏らす。

「あいつはもっと薄情で凶悪で、暴れ馬みてーで、…ヤッてても痛くて痛くてしょうがねぇんだよ…っ、」

「……それがてめぇの報答か」

ぎり、と相手の骨格が軋んで力が篭る。

「なら、そのご要望に応えてやらにゃなるめーよ」

「う、…ぁ!? あぐぅ、…いッ…!」

荒々しく腰を突きこまれる。

容赦なく雄肉を捩じこまれ、爪を立てられ尿道口を削られる。

「ぃやァッ、アッ、痛ぁ…っ、!」

「この方がイケんだろ? てめぇは、」

銀時を置き去りにした乱雑な動き。

「バカだ、バカだたぁ思っちゃいたが…、てめぇはバカだけじゃねぇ」

乳首をちぎれるほど噛み切り、過敏な肉傘を爪責めにして痛めつけ。

「いっかな救いようのねぇ腑抜けだ、このナマクラはよォ…!」

足を全開させ、外していた体重をズシリと掛けて銀時の後孔に一旦は収めたものをカリ首まで引きぬくと、勢いよく根元まで突き通す。

「ぅがぁッ、あぐっ、ぃあッ、ぁああぁあーッ!」

銀時の背が反りかえる。

高杉の怒張が根元まで刺さって腸壁を充満させたのをきっかけに銀時は尻の中だけで達する。

痛みは甘い痺れにとって変わる。

とろとろと銀時のペニスから白濁液がこぼれる。

四肢が存分に緊張して雄の剛直を締めつけ、それから得る快感をさらに拾いあげて痙攣する。

その貪欲な締めつけに高杉の怒張も限界を迎える。

「うっ、く…、…ぁ…、」

グッ、と身体を硬直させる。

銀時の中へ膨れたものを吐き出す。

数度にわたり熱い腹の中へ、こらえた精を放つ濃密な快感。

噎せるようなそれを噛み締める高杉の下で、銀時は腰をギュッと浮かせて受け止める。

「んっ…、熱ぅ…」

体の奥に熱い体液をかけられた、その刺激に悩ましく全身を撓らせる。

銀時のペニスは半勃ちのまま射精もなくイキ続ける。

しなやかに凍りついて快感を追っていた身体が、やがて糸が切れたように床に落ちる。

詰めていた息を解き、一言もないまま銀時はゆるやかに弛緩した。

「……」

高杉は銀時の顔を覗きこみ、その頬に手で触れる。

間の開いた呼吸が静かに胸を上下させている。

それ以外、銀時は動かない。

「落ちたか…」

銀時の目に張り付いた金属の覆いは剥がれない。

瞳を見ることも、それが何を映しているかも見ることはできない。

「銀、時…、」

身を屈めて薄く開いた唇に唇を合わせる。

深く触れる前に、しかし高杉は耳をそばだてる。

「…フン」

やるせない表情を一変させて消し去り、ずるりと陰茎を引き抜く。

ビクリと銀時は震えて高めの呻きを漏らしたが目覚める様子はない。

「今度会ったらテメェは幕府の犬の一味だ」

素早く衣服を整え、刀を取って立ち上がる。

外に人数のある気配が近づいている。

一指も触れることなく銀時をそのままに高杉は身を翻した。




続く

 

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【2012/11/30 21:00 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第31話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 1





銀時を奪取した紅桜の宿主を追った真選組は思わぬ事態に悩まされた。

賊の移動が速すぎて目標を捕捉しているのに追いつけない。

パトカーの飛行車両は振り切られた。

北へ西へと進路を変える賊の居場所をモニター上で確認するだけで精一杯、江戸の外れで網を張っていた装甲車をなんなく躱すと、賊は人気もまばらな郊外へアッという間に駆け去った。

「どこまで行く気だ?」

土方は手持ちのモニターを見下ろしながら歯噛みする。

「オイ、狭山と相模原、念のため平塚の奉行所に連絡しとけ」

「配備要請しますか?」

「いや。奉行所の装備じゃ奴は止めらんねぇ。『凶悪な指名手配犯が逃走中。そちらの管轄で面倒事を起こす可能性あり』って伝えとけや。連絡しねぇで後でガタガタ言われんのは面倒くせぇからな」

「はいっ」

「野郎、この分だと山へ逃げる気か」

行き先は 武州とも相模原ともとれる。

モニターを見ていた部下が青ざめる。

「もしかして箱根を越えて富士の樹海かな。旦那を捕まえて心中するつもりだったりして」

「なんで万事屋と心中なんだよ。そしてなんで樹海だ」

土方が言下に否定する。

その不興を横目に見ながら愛想笑いで答える。

「好きな人と死ねるならいいじゃないですか。皆の前で奪い取って、これでこの人は俺のもんだ、ってね。どうせ旦那にゃ相手にされないんだから」

賊に肩入れした部下の口ぶりを聞いて土方は黙りこむ。

屯所にも銀時に報われない思いを抱いてる隊士が大勢いた。

『婿』に選ばれた自分も、銀時に心を寄せられているわけではない。

アイツの心は『誰か』のものだ。

自分には向けられないそれを欲っすると、土方も胸をそがれるような脱力に見舞われる。

その集大成が『岡田』なのか。

じゃあ一体なんなんだ、それを引き起こすアイツ ── 坂田銀時は。

アイツの視線が向く先を俺も、岡田も、誰も彼もが追いかける。

まぶしい光に、どうしようもなく惹きつけられるみてぇに。

アイツの銀色の魂が俺たちの根っこを捕らえて離さねぇのか。

俺は、こうして賊を追っているが、どっちの立場で追っている?

銀時を囮捜査に使う警察か。

想い人を賊に奪われて激高してる阿呆か。

どっちでもいい。

銀時が酷ぇ目に遭うことのねぇよう、取り返しがつかなくなる前に賊の手から取り戻したい。

アイツの無事を確認して一刻も早く安堵したい。

こんな事態を引き起こしたバカを取っ捕まえて二度とこんなことが起きないようトドメ差してやりてぇ。

「副長、目標が進路を変えました!」

モニター上で目標点が消えた、と思ったら基地局と交信していた部下が声をあげた。

「どうも甲斐をめざして山を抜ける…模様です、」

「狭山と平塚、相模原への連絡を取りやめろ」

土方もモニターを操作して目標点を探す。

自分たちはまだ江戸郊外の上空にいる。

銀時を連れた賊ははるか先だ。

いずれ追い詰めるにしても、この距離を縮めるにはかなりの時間を要する。

この時間が裏目に出なきゃいいが。

後部座席で土方は拳を揉んだ。

 

 


「よ、…よろず…や…」

踏み込んだ現場で、土方は声を失った。

仰向けに、陵辱の跡も生々しく銀時は倒れていた。

あちこち露出した肌は液体にまみれ、無数の縛めの痣が押印されている。

なにも身につけていない下半身は立てた膝を崩したように投げ出され、その後孔からあふれたと思われる液体が、むごたらしく局所を汚損している。

一目で銀時の身に起こったことが理解できる。

それを誇示するような現場。

「現場の保全と証拠写真」

動かない自分をよそに、後ろから追いついてきた沖田が指示を出す。

「旦那の息はあるのか。なかったら心臓マッサージと人口呼吸。AEDのスタンバイ」

呆けている土方をジロッと見る。

「副長、アンタがすべき指示ですぜ。できないんなら出てってくだせぇ、仕事の邪魔なんで」

「………、」

土方の耳を沖田の言葉が通りすぎていく。

ただ、胸の中心がやけに痛むのと、銀時の顔に張り付いた金属質の平たい物質、あれはなんだろうと土方はそればかり見つめていた。




続く

 

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【2012/11/24 12:40 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第32話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 2




遅かったのだ。

自分は間に合わなかった。

これで銀時を失ったら、きっとこの刺さるような痛みは心臓が瓦解するまで止まらない。

この世で自分にできることなど何ひとつない。

「旦那、息あります!」

無力感なんて生やさしいものじゃない重荷が胸に落ちたとき。

銀時に駆け寄って間近に膝をついた隊士たちが土方に顔を向けて叫んだ。

「脈もしっかりしてます!」

途端に場が沸く。

殺気だった形相がゆるむ。

「大きい外傷はないようです。誰か、血圧計持ってこい!」

銀時は命に別状ない。

「旦那、聞こえますか、旦那!?」

最悪の事態はまぬがれた。

土方は詰めていた息を吐く。

その背をポンと沖田が叩き、面倒な指揮はゴメンだと言わんばかりに土方に場を譲り、隊士たちに混ざって銀時の容態を覗きに行ってしまう。

「意識ねぇのか。眠らされたかな。…にしちゃ、イビキかいてねーな」

土方を振り向く。

「やっぱり例の催淫剤つかわれてますぜ。意識とんでまさァ。よっぽど気持ちいい目に遭わされたんでしょうね」

「…野郎、タダじゃおかねぇ」

土方が押し殺したように吐き捨てる。

「よし、てめぇらァ! 岡田を引きずり出せ!」

よく通る声が隊士たちを高揚させる。

「この中をぜんぶ調べろ。隠れてるかもしれねぇ。手分けして家の周囲もだ。山崎、いるか!」

「はい!」

「この一帯を上空から捜索しろ。まだ遠くには行ってねぇ。目の効くヤツ連れてけ」

「はいよっ」

GPS受信機がこの建物の、おそらく銀時の着衣の中にあるため、逃げた賊の捜索は目視になる。

委細のみこんで山崎は戸外へ走り出ていく。

「万事屋はどうだ。ヘリが要るか」

「万全を期すなら呼んでくだせぇ。今までの被害者と違って旦那はヤツの本命だ。なにされてるか解らねぇ」

沖田がいつもの調子を返上して真摯に言う。

「この目隠しも取れやせん。そんな複雑なカラクリじゃねぇと思いますが、なにかの仕掛けだとマズイし無理やりひっぺがすわけにもいかねぇ」

銀時の両眼に圧着している金属質の平たい覆いを探る。

「ずいぶんマニアックなプレイしてくれたもんだぜ。厄介なモンでも植えつけられてねーといいが」

「厄介な物?」

「有害成分の入った毒液とか。遠隔操作できる玩具とか。腹ん中で育って産ませる仕掛けの子種とか」

「冗談じゃねぇ」

「動かした途端にカプセルが割れて女体化、ヤツの子供を身ごもるって想定だとパトカーじゃ無理でさァ」

「どういう想定だ」

「いいからヘリで病院に運びましょう。車でチンタラ飛ぶより大江戸病院までヘリならほんの5分だぜ。俺が付き添うんで土方さんはここで山狩りしててくだせぇ」

「なんでお前だ!」

「俺なら旦那が誰に種つけられようと広い心で愛せますからね」

「オイ。俺が愛せねぇみたいな言い方すんな」

「愛せないでしょ? 旦那似の巻き毛の赤ん坊が頭に触手はやして出てきたら無理でしょ土方さん」

「ふざけんな。そんなん余裕だ」

「いやいや。触手はともかく巻き毛ですぜ。天パーなんですぜ。可哀想な子供でさァ」

「どんだけ天パを否定してんだよ」

「コトは一刻を争うかもな。旦那のカラダをくまなく調べて、なにか仕掛けられてたら取り除かねーと。ついでに暴行罪の証拠に犯人の体液も採取しとかねーとな」

「…こりゃあ、岡田のモンか」

土方が銀時の足の間を見やる。

「カラクリの化け物になっちまっても精液は出るんだな」

「土方さんだって出るでしょ。マヨラーだけど」

「テメェだって出してんだろ、ガキのくせに」

「マヨネーズ咥えてる乳恋しい大人よりは健康的に出してまさァ」

「岡田は人間なのか。カラクリなのか。それとも天人みてぇに体の構造が特殊に変わっちまった異種族なのか」

「今のところなんとも。だからこそ旦那に何されてるか解らねぇ。たとえば…自分の一部を旦那の身体に植えて本体は消滅。旦那の体内で再生して甦る、とかね。ありそうでしょ?」

「…………、」

銀時の顔を見る。

力なく開いた唇が、静かな息を通している。

 

追跡していた目標点が静止した。

信州の山並みの中腹だった。

調べてみるとそこはリゾート分譲地だった。

個人の別荘や貸しコテージがまばらに山林の中に建っている。

銀時が連れ込まれたのは、その一棟だった。

管理人も借り手も不在だった空きコテージは車道から外れて他から孤立していた。

突き止めた真選組は犯人に悟られないよう離れた車道に車を下ろした。

建物近くに都合よく降りられるような拓けた場所はなかった。

現場へ至る道は雑草が覆い、蜘蛛の巣と垂れた枝と飛び回る昆虫が塞ぎ、やっと辿りついた建物を包囲するには裏手の深い藪の中へ踏み入らねばならなかった。

内部を探ったが動く者はおらず、銀時が倒れているだけだった。

横手の勝手口の鍵が開いていたことから、賊はすでに逃げたものと目された。

土方は突入を指示した。

賊の気配はなかった。

ただ、板敷きの広いリビングの真ん中に暴行を受けた銀時を見出した。

袖を通したまま着流しを肌蹴られ、上着をたくしあげられた肌には、硬い紐のようなもので絞めつけられた跡が無数に交錯している。

銀時の手足は力を失って床に横たわっている。

口元や乳首には茶褐色の粘液が飛び散り、性器や陰部にはそれが多量に滴っている。

おそらく銀時自身も達したのだろう、腹に精液が垂れている。

そして後孔には雄に犯されて精液を奥深くに出された有様が、剥き出しになっていた。

沖田の言うとおり、その身がまったく無事かどうかは確認しなければならない。

隊士たちが階段を駆け登る。このコテージには二階がある。

風呂場があり、クローゼットがあり、作業部屋まである。

賊が隠れ潜むには絶好の空間を隊士たちが開け放って暴いていく。

「副長!」

隊士の声が呼んだのは戸外からだった。

「まずいです、ちょっと来てください!」

「なんだと、」

土方は反射的にそちらを向いて外へと急ぐ。

「なにがあった、なにがマズイんだよ?」

「あれ、ほらあそこ…!」

隊士たちが2~3人、そちらを困ったように眺めている。

土方のいる場所から深い谷をはさんだ向こう側。ここから大きく迂回して歩道を登っていくと着くであろう樹木の間に。

小柄な少年、特徴的な着物の色、髪型と眼鏡の間違いようのない取り合わせ。

「メ…、メガネ!?」

こちらを見て焦ったように逃げ出したのは銀時と土方が探し求めていた志村新八だった。




続く

 

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【2012/11/24 12:35 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第33話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 3





「なんでメガネがここに、……追え!」

土方は部下たちに指示する。

「てめぇらは足で追いかけろ、……聞こえるか、山崎ィ!」

通信をつなげて携帯に怒鳴る。

「俺を目視しろ、家の斜め前だ。そっから直線で30メートル、万事屋のメガネがいる。上から追って位置を知らせろ。下から行って取っ捕まえる!」

『は、はいっ!』

虚を突かれた山崎は、すぐに頭を切り替える。

『そちらへ引き返します、まだ副長は見えません、新八君は無事ですか!?』

「無事もクソもねぇ、俺たち見て逃げやがった。逃がすな!」

『え、…それじゃなんで新八君がこんなところに居るんですか!?』

「知るか。見当もつかねぇ」

新八は徒歩だ。

泡食って走っていく。

誰か連れがいる雰囲気でもない。

単独で、こんな江戸から離れた山中に。

しかも『事件』の現場近くに。

新八が何らかの事情を承知していることは間違いない。

 

目を凝らした土方の視界から、しかし新八の姿は小さく遠のいて樹木の陰に見えなくなっていく。

飛行パトカーで追うかぎり取り逃がしはしないだろうが、自分たちの目が届かなくなるのは上手くない。

迂回の歩道を行った隊士はまだ追いつかない。

土方は現場を離れるわけにはいかず。

新八の消えた向かいの林を無為に睨んでいるしかない。

パトカーは戻ってこない。

コテージにも動きはない。

隊士たちの捜索の声も止み、周囲はシン、と静まっている。

「…ア?」

その音を耳が聞きとったのと、その機体が目に入ってきたのは同時だった。

樹梢から浮き上がり、推進してくるヘリコプターは、まっすぐこちらへ向かっている。

─── 救難ヘリか? もう要請したのか? 俺はまだしてねぇぞ

銀時のために呼ぶ手筈だった。

沖田が呼んだのだろうか。

それにしては早い。

慣れてるからこその迅速な出動か。

解らない顔でヘリを見上げていると、近づくにつれ明確になる搭乗者の姿が目に入った。

「…!」

ヘリに乗っていたのは、新八と。

その隣りに笑って見下げている、隻眼の男。

「なっ…、」

操縦者は知らない男だが、おそらく鬼兵隊の一員だろう。

後ろに武市変平太の顔も見える。

「なんでテメェらが、……メガネ!オイッ!」

新八は申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。

高杉晋助の横に置かれて、拘束されている風でもない。

自分の意志でそこにいるのは明らかだ。

「副長、あれっ!」

屋外捜索の隊士たちもヘリを見上げている。

「どうしたら…!?」

─── 鬼兵隊と、志村…新八

土方にはわけが解らなかった。

どうつなげれば奴等が揃ってここに出現する話になるのか。

混乱したのは、しかし一瞬だった。

「全員退避だ。なんでもいいから身を隠せ!」

「は、…はいっ!」

搭乗者が鬼兵隊なら自分たちがヘリから狙い撃たれるのは必至。

大声で命じて退かせると土方は自分も物陰へ身を翻す。

近づいてきた高杉のヘリは、しかし土方たちの頭上を通過しただけだった。

壁の陰で土方は耳を押さえる。

低空から爆音と風圧をこれみよがしに振り撒くと、ヘリは高度をあげてカーブを描きながら彼方へ飛びさっていった。

「副長!」

隊士が駆け寄ってくる。

「いまのヘリに新八君を見たという者が…!」

「…山崎」

いまいましく機影を睨んで携帯に告げる。

「メガネの捜索は中止だ。ヘリを追え」

『ええぇえぇぇえーッ!? 追いつけるわけないでしょう! アンタ解って言ってんですか!?』

「うるせぇぇぇぇぇ!! いまのに高杉とメガネが乗ってんだよ、つべこべ言わずに目的と行き先つきとめてこいやァァ!」

『行き先なんて江戸湾の高杉たちの所有艦に決まってるじゃないですか!』

「いいから行けっつってんだ!」


江戸で、岡田と遭遇した自分たちを残して去った高杉はヘリで先回りしたのだ。

なんらかの方法で、この場所を特定して。

あるいは知っていたのか。この場所に誘導したのが高杉たちなのか。

それならば自分たちが着く前にここで『用事』を済ませる時間はたっぷりある。

あの顔は俺を出し抜いたと言わんばかりだ。

奴は間違いなく『用事』を済ませていったのだ。

岡田はどうなった?

あれだけ銀時に執着していたのに見当たらない。

新八は?どう考える?

まさか、銀時の祝言を阻止するために鬼兵隊に助力を仰いだというのか。

そんなことをするような奴には見えなかったが。

鬼兵隊と行動を共にしていたのは事実だ。

ならば新八は高杉と一緒にここに来て、そして……いや違う。

新八は「こちらへ向かって」きていた。

真選組を見て慌てて「引き返した」のだ。

ならば新八はこれからここへ来るつもりだったのか。

なにをしようとしてたんだ?


土方は考えを構築しながら救護ヘリを手配する。

到着を待つ間に沖田がコテージから歩き出てくる。

「高杉が通ってったようですねィ」

「……」

「もう用は無ぇとばかりに俺たちに旦那の手当を任せて」

首を傾げる。

「岡田を追っ払ったのは高杉たちじゃないんですかぃ。じゃなきゃ、岡田が旦那から離れる理由が思いつかねぇ」

少し口を噤んでから、つけ加える。

「俺が高杉なら旦那を置いてったりしませんけどね」

「仮定の話ばかりしたってしょうがねぇんだよ」

土方はポケットから煙草を取り出し、火をつける。

「確たる証言が取れねぇことにはな。……細かいことは、万事屋が目を覚ましたら聞けるだろ」

「旦那が『覚えて』いればね」

「ア? 記憶障害起こした奴なんざ居なかったろうが」

「個人が意識的に『忘れた』場合もあるんでさァ、土方さん」

「……」


救急車のサイレンが遠くで鳴っている。

分譲リゾート地のふもとの町にヘリポートがある。

ここからヘリポートまで、要救護者を救急車で搬送するのだ。


「高杉たちのヘリはアパッチですかぃ。どこでも好きに飛び上がれて便利なこって」

その小回りのきく攻撃性の高い機体が自分たちを爆撃しなかったのは、ひとえに背後のコテージに銀時が居るからだ。

土方の目の前で銀時と視線を交わす高杉の瞳を思い起こせば、高杉が銀時を傷つける暴挙に出るわけがない。

「さぁて、俺たちもそろそろ撤退しやしょう。土方さんも帰りやしょうぜ。山狩りなんてタルいことしたってなんにも見つけられませんや」

「……まだ『岡田』がいる」

山並みの向こうの空を見上げる。

「銀時を狙って、この付近に潜んでる可能性が高い」

「なら旦那をしっかり護衛してれば済む話で」

「まだここにいると思いこんだ岡田がリゾートの住人を襲ったらシャレにならねぇだろ」

「そんなの、管轄に任せとけばいいんでさァ」

沖田と土方が問答しているところへ。

新八を徒歩で追っていった隊士たちが戻ってきた。

「副長、見てください。こんなものが…」

一人の隊士が、てのひらに収まるくらいのカラクリを土方たちに差し出した。

「新八君が居たあたりの地面に落ちてました。新八君が落としたんじゃないかと思うんですが…」

「……なんだこりゃ?」


楕円形と突起から成る、用途不明のカラクリ。

土方が悩んでいると、一人の隊士が進言してきた。

「副長、それカラクリ人形の中枢電脳幹じゃないですか?」

その方面に詳しい隊士だった。

「一時期、カラクリ家政婦とか流行ったけど、いまはちょっと廃れてますよね。その電脳幹が闇市あたりで出回ってるんです。中には相当ヤバイ代物もあるみたいで、ちょっと噂になってたんスけど」

「ヤバイ…?」

土方は受け取ったカラクリの部品を沖田に渡す。

渡された沖田はそれを土方の頭に乗せる。

させず頭を逸したため部品は地面に落ちて転がる。

黙って見下ろしたまま拾う者はいない。

「…くわしく聞かせろ」

土方は隊士に促す。

救急車が鳴らしていたサイレンの音を停止し、付近で停車した。




続く

 

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【2012/11/24 12:30 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第34話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 4





『アレ…ここどこ?』

銀時は意識を浮上させる。

『俺、どうしてたんだっけ? これ自分の寝床じゃねーよな…』

身体も視界もモヤモヤしたものに包まれて、まわりをハッキリ確認できない。

ただパリッとしすぎる冷たいシーツの感触が、ここは慣れ親しんだ万事屋の布団でないことを示している。

「坂田さん、わかりますか?」

なんか呼んでる。

どうも気配が、だるーんとしていて、身に危険が迫ってる状況ではないから頭がうまく覚めない。

「目、開けられますか?」

誰かに覗きこまれる。

「ここは病院ですよ。まる一日、眠ったままだったんですよ」

「……ぁ、そんな寝てた…?」

やけにまぶしい。

目を閉じているのに光が当てられている。

「なんで俺…そんなに……、んぁぁああっ!」

重いまぶたをこじ開けた途端、両方の眼がいきなり刺し貫かれる。

あまりの激痛に両腕を交差させて顔の前にかざし、その「なにか」から身を捩って逃れようとする。

「動かないでッ点滴抜けちゃうでしょ!」

腕や肩を掴まれ制止される。

そんなの聞けたもんじゃない。

眼は防いだ腕の隙間から入ってくる凶器に苛まれている。

視界は真っ白だ。光っている。

とにかくまぶしい。

それ以外、なんにも見えない。

「坂田さん大丈夫ですか!?」

慌てた声を張り上げられる。

いや、それよりソレ、やめてください。眼ェぐりぐりすんの、痛ェから。

うつぶせになっても止まらないから、頭の下にあった枕の下へ頭を突っこむ。

頭の後ろに枕を乗せてシーツに顔を突っ伏していると、眼が切り刻まれるような拍動が少し緩んでくる。

「うぅ~、キモチわる…」

胃のあたりから絞りこむような不快感が上がってくる。

突っ伏した頭に乗せた枕をひたすら自分の頭の後ろに押しつけた。

 

 


「眼科の先生の診たところによると、物が見えない状態だそうです」

別室で近藤と土方、沖田と山崎、そして神楽が説明を受けた。

「視覚器に器質的な異常はないし、脳の精密検査でも問題なかったので、機能異常、つまり『見る』ときに働くべき連携がうまくとれてない状態と考えていいでしょうね」

「治るアルか」

神楽が真っ先に尋ねる。

医者は難しい顔をする。

「原因は坂田さんの両眼を覆っていたカラクリから染み出した液体らしいんですね。その成分が目に入って網膜やブドウ膜…物を見たり光を感じたりする部分に化学変性を起こしたらしく、通常では考えられないような量の光を感知してしまう。ほんのわずかな明かりでも強烈なフラッシュを凝視したような衝撃があるってことです」

だから、と医者は続けた。

「もと通りになるかどうかは、その液体によって受けた影響が固定してしまった不変のものなのか、まだ元に戻りうる可逆的な変化なのか、そのへんに拠ります」

「それはもとに戻るものかどうか解ってるのか?」

土方が尋ねる。

医者は首を振る。

「液体の成分は分析できても、それが眼器に与える影響までは…こういう例がないものでデータがないんですよ」

「現時点では判断できないってことか…」

「治るでしょ」

考えこむ土方に、沖田が軽く言う。

「なんだかんだ、旦那は回復がいいから。どうせケロッと見えるようになるから辛気臭い顔並べてんじゃねーや」

沖田は医者に顔を向ける。

「それより先生、旦那の身体に変なモン仕込まれてなかったですかィ。カラクリの落し種みてぇな。異物とか毒とか」

「一応全身検査したけど、金属性のものは確認されなかったよ」

カルテをパラパラ捲る。

「毒はなんとも言えないけど、眼もそうだし、本人の様子を見ながらおかしな点があったら検査するしかないんじゃないかな。…毒といえば全身に筋融解性の強い薬液をそこかしこから注入されたみたいで、だいぶあちこち筋肉が侵されたみたいだね。本人、よく我慢したねぇ。生きたまま溶けてくわけだから、さぞ痛かっただろうね。若くて腎臓が強いから後遺症もないし、まあこれはおいおい回復していくでしょう」

「問題は、目だな」

近藤が口を開く。

「先生は本人の意識が戻ったら退院できるとおっしゃってましたが、あれじゃ退院は無理ですよね。目の治療をしなくちゃならないし」

「あ、退院していいですよ。あの目を治療する方法っていうのはありませんから」

「…は?」

「自然に治るのを待つしかないです。それは御自宅でも病院でも同じです。光を直視しないよう、暗いところで安静にしててもらえれば結構です」

「え、でも局長。旦那は目が見えないし、まだよく身体も動かない状態ですよね?」

山崎が小声で言う。

「病院に入院してた方が安心じゃないですか?いつどんな後遺症が出るかも分からないんだし」

「うーん、そりゃそうなんだが…」

「屯所の方が護りやすいだろィ」

沖田が山崎を見る。

「病院じゃ岡田が襲ってきたとき、ここは病人ケガ人だらけで思うように動きがとれねェ。始末書が増えるだけでさァ。あと近藤さんが上からガミガミ言われるんだろ」

「でも隊長、屯所にゃ看護婦さんみたいなプロはいませんよ。目が見えない人をどうするんですか。風邪で寝込んでるのとはわけが違うでしょ?」

「ワタシ看護婦さんやるネ!」

神楽が挙手する。

「銀ちゃんのお世話するヨ。この前も銀ちゃん寝込んでたし、姉御と二人で見れば楽勝だヨ!」

「やめとけってチャイナ。馬鹿を見るだけだぜ。あ、いつも見てるんだったな、鏡の中に」

「なにがアルか」

神楽が沖田をふくれっ面で振り返る。

「ご飯たべさせたり、ジャンプ読んでやったりできるネ。なにが馬鹿だヨ」

「空気読めよ。旦那は土方さんとの婚儀目前だぜ。あいつら絶賛イチャイチャモードに入ってるンだ。そんなところに割りこもうなんてのは、ただの頭の弱い邪魔者だろィ」

「それとこれとは別ダロ」

神楽がムッと睨む。

「イチャイチャすんのは邪魔しないヨ。トッシーだってずっと銀ちゃんと一緒にいるわけじゃないし、その間ワタシが銀ちゃんについてるってんだヨ」

「だそうですぜ、近藤さん」

沖田が近藤を仰ぐ。

「チャイナも屯所に泊まりこみでいいですかィ?それとも通い妻?どっちにしろ俺の部屋に引っ張り込んどきますから旦那たちの邪魔にはなりやせんけどね」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って! チャイナ娘が屯所に出入りするのも、泊まるのも、いけません! 未成年だし女の子だし、世間的に問題ありすぎッ!」

近藤が首を振って二人に申し渡す。

「手伝ってほしいときは正式に書類出して要請するから、それ以外の立ち入りは禁止だからね!守ってよホント!」

「銀ちゃんはいいアルか」

拗ねた顔で近藤に抗議する。

「ワタシは駄目で、なんで銀ちゃんはいいアルか。ワタシも万事屋ヨ!銀ちゃんと同じにしろヨ!」

「銀時に関してはちゃあんと書類を出して上に通してある。あいつは成人した男だからなんの問題もねぇ。それよりチャイナ娘、そのぉ…、話は聞いたか?」

「話? なにアルか」

低く問い返す。

「銀ちゃんの結婚話なら聞いたケド」

「いや、それもそうだが…、新八君の」

「新八が、なにヨ?」

「聞いてない? ザキ、言ってなかったのか?」

「あ、え~と…それはこれから…」

「なにアルか」

「チャイナさん、山崎から話を聞いてください。いろいろ複雑だと思いますが我々は貴女に冷静な行動を望みます!」

近藤が山崎に合図すると、山崎は神楽を誘って部屋を出ていく。

神楽に事情を説明しながら、新八が鬼兵隊と行動を共にしていることを万事屋の身内がどう受け取るのか、つまりどういう反応を見せるのか確かめておきたい狙いである。

「先生」

土方が、一同の様子を見ていた医者に尋ねる。

「アイツは暗いところで静かにさせときゃいいんだな?」

「そうだね。できれば目を覆って保護しておいた方がいい」

「じゃあそうします。薬とかは?」

「水分をとって、あとはしっかり栄養のあるものを食べてもらえば。飲み薬や目薬なんかはいらないでしょう」

検査データを見て、慎重に付け加える。

「あんまり動き回らないで寝ていた方がいいかもしれない。あと、激しい運動は避けるように」

 


「残念でしたね、土方さん」

沖田がニヤついて笑う。

「激しい運動は厳禁。旦那の視力が回復するまでセックスはお預けでさァ」

「うるせぇ。放っとけ」

説明を受けた部屋を出て、三人は銀時の病室へ向かう。

「近藤さん、祝言まで離れで俺が万事屋を見る。改装業者に、遮光性の建具を使うよう変更させていいか?」

「構わねぇさ」

近藤は控え目に笑う。

「銀時を囮に…ってか、まァアイツも災難だよな。毒食らわば皿まで、こうなったらとことんやってやろうじゃねぇか」

「それにガチで勝負かけてきたメガネはいい面の皮でさァ」

「う~ん…新八君のアレは、なんというか人を愛する一人の男として立派なんじゃないかな?」

「そんな呑気なこと言ってられっかよ。相手は鬼兵隊だぜ。メガネをあの若さで犯罪集団に傾倒させたなんつったら、あいつブチ切れるぞ」

「そのブチ切れるアイツには、なんて言うんで?」

「退院してからでいいんじゃないか?」

「いいや。聞きたがったら全部本当のことを話す」

土方は腹を決める。

「それが一番、傷が浅い」

「でもトシ、銀時は今そんな話ができる状態かどうか…」

「入りやすぜ、旦那ァ」

委細構わず、沖田が個室の引き戸を横へ開けた。




続く

 

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【2012/11/24 12:25 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第35話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 5





「あー…なに? 目ぇ痛いんだけど」

ベッドからくぐもった声が返される。

個室の中は薄暗かった。カーテンは閉められ、電気は点いておらず、ベッドのまわりに光を遮るように衝立(ついた)てが並んでいる。

それを分けて踏み入っていくとベッドの傍らに護衛の真選組隊士が一人、立っている。その隊士の上着を頭からすっぽり被ってベッドに突っ伏し、上着から銀髪の端をはみ出させている銀時が見えた。

「具合はどうだ?」

近藤が口を切る。

「少し話を聞きたいんだが、話せるか銀時?」

「…なに…なんの話? 俺が辻斬り野郎にヤラれた話? いいけど別に。なに聞きてーの…?」

「ヤツの化け物になる前の平時の素顔を見たか?」

「見ねぇよ」

銀時は上着の下から、もぞりとも動かず答えてくる。

「川んとこでヤツに捕られたあとブン回されて…気がついたら目の前まっくらで何も見えなかった」

「そうか。ならば銀時、ヤツはお前の知っている人物だと思うか?」

「………知らない野郎だった」

間を取り、声が沈む。

「俺は…あんなヤツ知らねー…」

「ヤツと話したか?」

近藤は眉を顰めながら問いを重ねる。

「声は聞こえたろ? ヤツはお前になんて言っていた?」

「…なんかいろいろ言ってたけど覚えちゃいねェ」

銀時は思い返すのを拒否するようにおざなりに答える。

「お前のモンは俺のモンだとか、伝説になりたいとか、なんかそんなんゴチャゴチャ言ってたな…」

「ヤツはお前に何した?」

近藤は簡潔に聞いた。

「ヤツの特定に繋がるような特徴的な行為があったら教えてくれ」

「…触手いっぱい生やしてた」

銀時は被った上着の端を掴んで握り、ことさら軽妙な口調で言い飛ばす。

「けどまァ肝心な生身のアナログ触手が役に立たねーんだからアイツ物笑いの種以外のなにものでもねーけどな!」

「役に立たなかったのか? アレ、でもお前…」

近藤は土方たちを振り返る。

自分の勘違いかと目で二人に問う。

土方は訝しげに銀時を凝視している。

銀時の言う『役に立たない』は犯人が挿入するに至る男性機能を持ち合わせなかった、という主旨だと受け取れる。しかし。

「旦那、完遂されてケツに中出しされてましたぜ」

沖田がシャラッと告げる。

「土方さんの指揮で現場に踏み込んだ野郎どもは全員見やした。それが地球人の成人男性のナニから出た精液であることも確認してありやす。旦那は強制わいせつと暴行罪の被害者でさァ」

「………はあ~」

沈黙が凍る前に銀時が大きくため息を吐いた。

「そんなの覚えてないっての。なんかされたってんなら、お前らの方がよくご存知なんじゃね? 俺は気ィついたら目に殺人光線刺さってきて、アイツに犯られたことなんかどーでもいい。…ってか、身体中に触手まきついてきて穴という穴に入りこんでマッサージされましたァ、それ以上でも以下でもねェよ」

「ヤツはどうなったんだ。岡田は?」

土方が銀時の様子から、ひとつの辻褄が合う線を閃かせる。

「お前を触手で弄りまわして、役に立たなくて…そのあとヤツはどうなった? なんでヤツは逃げ出したんだ?」

「…、知りませんんん~」

ふてくされたように銀時は答える。

「身体動かねーし、目は見えねーし、薬キメられてたみたいで、なんつーの?キモチいしかなかったし?それ以外なんも分かんなかったし…イッたんじゃね?ってくれーで……ってか、これ取り調べェェ?! なんでこんな恥ずかしいこと言わされてんだコラァ!」

がばっと銀時は上着を投げ捨てて身を起こす。

「んぎゃぁぁああ!」

近藤たちに向き直ろうとして、途端に両眼を隠して元の体勢に突っ伏すとバタバタ布団へもぐりこむ。

「目が、目がぁ~!」

「……なら、ひとつネタをくれてやるよ」

土方が、箱座りして丸くなる銀時に告げる。

「お前が岡田に連れていかれたのは信州の山ん中だ。俺たちでも追跡はたやすくなかった。そこに、お前んとこのメガネが居たぜ」

「…、」

「メガネは俺たち真選組を見て逃げ出した。追っかけたらな、妙なカラクリを落としていったよ。どうやら電脳中枢幹、ってヤツらしくてな。ヤバイ代物らしい。いま調べちゃいるが、カラクリが精巧すぎて手が出ねェ。闇市レベルの取引品らしいな」

土方は毛布にくるまっている銀時を見る。

「メガネがどっからそんなブツ仕入れたか、裏は取れちゃいねェ。だがメガネをそんな山ん中へ連れてって、また俺たちの前から逃走させた野郎の顔は見たぜ。テメェと深い仲だったっていう…鬼兵隊の高杉晋助だ」

「…!」

もぞ、と毛布が動く。

依然として銀時の身体は伏せられたままだ。

「メガネは反社会組織に踏み込もうとしてんだ、テメェが覚えてること話しやがれ。なにか手がかりが掴めるかもしれねェ」

「…知らねぇ、俺は何も覚えちゃいねェ!」

「ざけんなテメっ!」

「副長」

そのとき、銀時に上着を貸していた長身の隊士が止めに入る。

「それがこの人から効果的に話を聞き出す手段ですか。違います。貴方は御自分の疑念を持て余しているだけだ。結果、貴方はなんの成果もあげられずにこの人との関係を悪くするだけです」

「うるせぇ、ひっこんでろ!」

「いいえ、引っ込みません。私はこの方の護衛を命じられました。副長が相手であっても、この人の病状を悪化させるような行動は謹んでもらいます」

「なに自分はそっち側ですみてーな顔してんだ!? そもそも、なんでテメーはコイツに上着貸してんだよ! 所属はどこの隊だコラ!」

「俺んトコです、土方さん」

沖田が挟む。

「一番隊に配属された厠のスペシャリスト、隈無清蔵(くまなく せいぞう)さんでさァ」

ニヤリと笑って進み出る。

「清蔵さんの上着はアンタみてーに雑菌ついてませんからね。旦那の癒しが必要な身体には清蔵さんの鉄壁の清潔観念がもっとも効きやす」

「ぐぬぬ…、」

「真選組に、この人以上に清潔な人はいませんや。病人の世話するならこの人が適任でしょ?」

隈無は毛布の下に丸くなった銀時に自分の上着を丁寧に掛け直している。

銀時はその上着の端を掴んで握る。

「坂田さんの警護は責任者として私が任されました。明日の退院まで、一番隊が交代でこの部屋に詰めます。お話が終わったようでしたら副長たちも速やかに御退室ください」

「頼んだぜィ清蔵さん。旦那にとってバイ菌でしかない土方さんを撃退するのは清潔第一の清蔵さんしか居ねェよ」

「バイ菌ってなんだよ? なんで俺がバイ菌んん!?」

「おまかせください、隊長」

「…トシ、ここは清蔵さんに任せよう」

近藤がポン、と土方の肩を掴む。

「銀時。悪かったな。とんだ目に遭わせた」

そのままベッドの銀時に声を掛ける。

「お前をこんな事に巻き込むつもりじゃなかったんだが。…岡田は捕まえなくちゃならねぇ」

配慮しつつも淡々と申し渡す。

「祝言もあげなきゃならねぇ。お前はここを出て屯所の離れでトシと婚前生活するんだ。真選組はお前を手放すつもりはねぇからな」

「近藤さん、」

思わず責めるような視線を向けた土方を、近藤は片手で下がらせる。

「新八君のことも。俺たちのこの話がなければ彼が鬼兵隊に駆け込むことはなかったはずだ。彼を見つけ、なんとか説得して連れ戻すことに専念する。申し訳ない…!」

「…祝言」

銀時が毛布の下から問いかける。

「俺が土方君と結婚すんなら俺の罪状は問わねー…っつったよな?」

「ああ、言った」

「だったら…俺がここに見舞いに来てほしいヤツ呼んでも不問に処されるよな? 呼んでもらおうじゃねーか。俺をソイツと二人っきりにしろ」

「…誰を呼ぶつもりだ?」

銀時の目的が見えない。

まさか、鬼兵隊の高杉晋助その人を呼び出すとでもいうのだろうか。

「てめぇらに万事屋の諜報網もらすわけねぇだろ、企業秘密だ」

毛布の下で銀時が精一杯、吠えているのが分かる。

「いいから俺の言った通りに連れてこい。ソイツとの会話は誰も聞くな、ソイツを詮索もするな。婿入りする俺が真選組に不利なことするはずねーだろ、見舞い客との面会は自由にさせてもらうからな!」

「高杉はダメだぞ、銀時!」

近藤が先手を打つ。

「ヤツが来たら、いくらなんでも俺たちは見過ごすわけにはいかん!」

「誰があんなヤツ呼ぶっつったァ!? お前ら耳悪ぃの!? いいからとっとと俺のマブ友達(ダチ)連れてこいやァァァ!」

毛布を被ったまま、姿を隠した怯えた猫みたいにシャーシャー言いながら銀時は面会の希望を繰り返す。

銀時が会いたがっているのは闇世界の住人や指名手配犯かもしれない。

そういった人間には屯所は敷居が高すぎる。

退院して屯所に押しこめられる前に病院に呼んだ方が簡便だ、銀時はそう計算したのだろう。

「…仕方ねぇな。部屋の外には警備を置かせてもらうぞ」

「好きにしろ、ただし面会人には手ぇ出すな」

銀時が毛布の下で背中をふるふるさせる。

「……あ。土方君いる?」

探すような声が聞いてくる。

土方は眉を顰める。なんで居ないと思うのか分からない。

「居るぞ」

「筆、貸してくんない?」

毛布の中から、片手だけスススと伸ばされる。

「…墨は?」

「墨も」

携帯用の毛筆セットを用立てて、ベッドの横におかれた台の上に据える。

「ここに置いとく。使うときゃウチの隊士に言え。握らせてやる」

「ん、どーも」

ひらひらと片手が振られる。

土方はその手を見て、プイと顔を背ける。

握るのも叩くのも違うと思う。

こんなとき、銀時はどうされたいのか。

なにを求めて手を伸ばしてきたのか、知りたいと土方は思う。

しかし、それを十分知り得る時間も状況も得られないまま、数十分後。

銀時が示した条件の男を真選組隊士がパトカーに乗せて病院へ連れてきた。

エレベーターを昇り、特別室の並ぶ廊下へ踏み入り、銀時の部屋の前へやってくるまで、案内の隊士たちはその男を横目でチラチラ眺めていた。




続く


 

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【2012/11/24 12:20 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第36話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 6




「銀さん、見舞いにきてって言われたから来たんだけど」

ダンボールを洋服に仕立てたサングラスの男が入室した。

「見舞いのバナナとかカップ麺とかあったらくれない? お腹へってるんだよねぇ」

「まだ! まだだから長谷川さん! 本人かどうか調べてからだからっ!」

銀時が突っ伏したままベッドから両手を出して指をわしゃわしゃ動かしている。

「ここ! こっち来て、しゃがんで! 顔を確認すんだよ!」

「えぇ!? どうしたの、お前? なんで布団の中に入ってんの?!」

「眼が見えなくてまぶしいのッ! 光入れんな! ……んー、この手触り。やっぱ長谷川さんかなァ…?」

銀時の両手で顔に触れられて、長谷川はうっすら頬を赤らめる。

迷いなくサングラスを奪うと銀時はそれを執拗に指先で弄りまわし、全身で安堵の息を吐いた。

「やっぱ長谷川さんだ。来てくれて助かったよ…」

「いやそれサングラスだから! 俺じゃないから!」

「さっそくだが、誰にもツケられてねーだろうな、長谷川さん?」

「いやツケてはいるけど。ツケられてはいないと思う。もうどこもツケにしてくんないんだよねェ…このままじゃ飢え死にしちゃうよ、ホント」

「飲み屋のオヤジとの攻防なんざ誰も聞いてねぇんだよ」

銀時が布団の中から低い声を出す。

「解ってんの? アンタは俺の頼みの綱として来てもらったんだよ。いわば最後の砦みたいな? それがそんな意識の低いことじゃ困んだよ」

「最後の砦はいいけどさ、報酬は?なんか奢ってくれる?」

「そのへんにあるバナナ食っていいよ俺のだけど特別に報酬だから渡したから」

「これ? この給食の残り的に上んとこ切られて一本だけ転がってるこれ?」

「嫌なら俺が食う。よこせ」

「いただく、もらうってば!」

長谷川は急いでバナナを剥いてモシャモシャ食べ始める。

「うまいなァ…、ひさしぶりのマトモな食い物だ…、そういやぁ銀さん、アツアツの彼氏とどうなった?」

「な、ななななに言ってんの、長谷川さん、」

「妬けるくらい俺を放ったらかしにしてソイツと逢引してたろ? あぁつまり彼氏とツナギをつけてくれってことね。いいよ銀さん動けないんだろ? 真選組にパクられるなんて何やったのよ?」

「ちょ黙っ、俺こんど結婚すんだよ!知らねーの!?」

「え、そうなの? …誰と?」

「テレビでやってたろ」

「だって俺テレビ持ってないし。ラジオならあるけど」

「テレビくれーさぁ、家電屋で立ち見できねェ?」

「警備員がうるさくてさぁ、すぐ外へ出されちゃうんだよね」

 

パタン、と土方は特別室の扉を閉める。

様子を伺っていたが不毛な会話は終わりそうもない。

「どうでした土方さん。旦那がイの一番に呼び寄せた内通者は」

「あぁ…、いまバナナ食ってる」

「ありゃ、よく通報のある公園の路上生活者でしょ。もと入管の長谷川泰三」

「幕府からの切腹命令を嫌って逃げた逆臣だ。お尋ね者っちゃぁお尋ね者だな」

「でもわざわざ捕まえてお上に差し出すほどじゃねーや。さすが旦那、いい人選だ」

「あれのどこが企業秘密なんだ。ただのグラサンじゃねぇか」

「そうアンタに思わせることのできる優秀な人材でさァ…おっと、」

沖田は扉を見上げる。

引き戸が開いて中から長谷川が出てくる。

着衣のダンボールは真新しい墨で汚れている。

長谷川は微妙な顔をして二人の前を通り過ぎ、特別室から去っていく。

沖田は土方と顔を見合わせた。

「旦那、…見ないで書いたにしちゃ達筆だ」

「まんまじゃねーか!」

ダンボールには『しんぱち』『でんのー中すぅかん』『じょーほーくれ』などの字がのたくっていた。他にもいろいろ書かれていたが落書き以下の出来栄えだった。

「旦那が筆を欲しがってたのはああいうことだったんですかぃ」

「いったい誰に宛てたんだ…?」

エレベーターに乗り込む長谷川を見送る。

「あの人、あのまま町を歩く気みてーですが」

「他に無ぇだろ。他に着るもんなさそうだし」

「あれじゃ歩く広告塔だ。不特定多数の目に入らァ。旦那、まさかそこまで計算して…」

「そんな頭アイツにゃねぇよ。…ま、あれ見てグラサンに接触する人物がいたら全員身辺調査させてもらうがな」


1時間後。


「あ、どーもどーも」

戻ってきた長谷川は廊下で待ち構えていた土方と沖田に気安く会釈した。

「こちら、銀さんの頼みで連れてきた助っ人で…、へへっ」

彼は年配の小柄な男性を連れていた。

胡散臭いゴーグルを掛け、白い顎鬚をたくわえ、深々と頭巾をかぶったチャキチャキしたオヤジ。

「がっはは! そういうわけだ! お手柔らかにな、兄(アン)ちゃんたち!」

軍手をはめた手を振り、ガラガラ扉を開けて銀時の個室へ入っていく。

歯の欠けたオヤジには見覚えがあった。

「どうやらこっちが本命らしいな」

「旦那も意外なお人と繋がってますね。万事屋の伝(つて)もバカにならねぇや」

ピシャリと扉が閉められると二人は足早に隣室に向かう。

 

 

「容態はどうだ? おめぇ、ずいぶんとエレぇ目に遭ったみてぇじゃねーか」

頭巾をとった見舞い客、平賀源外はベッドの傍の椅子に腰を下ろした。

「『紅桜』の亡霊とやりあったってェ? おめぇも無茶するなぁ、銀の字よぉ。…解ってんだろ? ありゃとんでもねぇ代物だ。生身の人間の手に負えるもんじゃねェよ」

「俺のことはアレだけども…、新八のこと聞きてぇんだ」

毛布を頭からすっぽり被ったまま、銀時はベッドにあぐらをかいて座っている。

「あいつ、闇市で出回ってるカラクリを持ってたって話だが、そりゃアンタんとこで仕入れた物なんじゃねーのか。アンタこないだ会ったとき言ってたよな、新八のこと。ジーサン、なんか知ってんなら教えてくれ」(2話参照)

「ああ、たしかにメガネの坊主はワシの仕事場をチョロチョロしてたともよ。熱心にカラクリ弄りまわしてるんで訊いたらよォ『正面から向き合ってほしい人がいるんです』だとよ。ありゃ惚れてる目だったな」

うわはは、と笑う。

「それにしちゃ坊主の弄りまわしてるブツが違法コピーされた電脳幹でよ、何に使うんだって訊いたら

『あの人が僕に本気になるには、僕はこれくらいしないと…いつまでも僕を子供だと思ってるし、第一あの人はそういうのに積極的じゃないから。僕が強くなって仕掛けていかないと。そのための準備です』

だとよ」

「ちょい待った」

銀時が毛布から片手を挙手する。

「違法コピーされた電脳幹?それを惚れたヤツに…本気にさせるために使う? どうやって? …てか電脳幹って使えるの?電脳幹つかうって何?」

「なんだ銀の字、知らねェのか。電脳幹ってのはカラクリ家政婦の人工知能だけじゃねェ。人間が自立型のカラクリを操作するときカラクリに指令を伝達し実行させるコントロール装置の主幹として使われるんだよ。いろんなカラクリに仕込まれてるもんだ」

「はぁ、そうなの」

「合法的な家電に組み込まれてる電脳幹なんかは素人が弄ってもどうこうなるもんじゃねェ。だがな、複雑なカラクリを違法に動かす電脳幹てのもある。そいつを取り出してテメーの身体に馴染むようカスタマイズすりゃ、電脳幹に備わった機能を自在に使役できるってわけだ」

「新八はそんなヤバイもんに手ェ出してたのかよ」

「話によると、物体の理屈をねじまげて人間の細胞配列や器物の原子組成を組み替える代物まであるらしいな。恐ろしく賢い人工電脳は使った者のデータを蓄積して自己改良していき、そいつを人体や器物に忠実に再現するってェとてつもない現象を引き起こす。うまく使やぁ凡人が一瞬で超人になる。いわゆる『変身』ってヤツよ」

「……、」

「知ってるたァ思うがぁ、こないだ鬼兵隊の戦艦が内紛で墜とされただろ。その艦にしこたま積んであった紅桜が、紅桜に仕込まれてた電脳幹もろともゴッソリ海へ流出したんだと。まあ海の藻屑なわけだが、そういうのを回収して売るヤツがいるんだよ」

「『紅桜』に…電脳中枢幹なんてあったのかよ」

「ありゃ電魄(でんぱく)ってぇ人工知能を持った対戦艦用カラクリ機動兵器だ。電魄は電脳幹で紅桜に組み込む。まぁ潮に浸かっちまったからな、どいつもこいつもポンコツな不良品なわけだが、そいつを修理して新たな機動兵器『紅桜ネオ』を作っちまおうってぇ安易な輩が現れてな。そいつらは鬼兵隊なんかとは一線を画す攘夷組織集団なんだと。闇市で出回ってた紅桜の電脳幹は、ほぼそいつらが買い占めたって話だ」

「…新八が持ってた違法コピーってのは」

「おう、その『紅桜ネオ』の電魄をコピーした電脳幹よ。数少ないオリジナルは奴等が一手に握っているから市場には出回らねぇ。逆にコピーは大量に販売されている。売り上げは組織の資金源になる。若い連中の間ではちょっとしたブームみてェだな。坊主が持ってたのもそんなブツだろうよ」

「なんでそいつらはそんなもん市場に流してんだ。独占するつもりならコピーだって門外不出だろうが」

「そりゃおめぇ、あの電魄は人を廃人にするからな。組織にとっちゃ、実験体は多いにこしたことねぇんだろよ」

源外は空虚に笑う。

「力を欲しがる若者、世間に不満のあるやつら、…そんな連中を相手に電脳幹をバラまいて、うまく適合した人間を組織へスカウトする。あの『紅桜』を装着した兵が一個小隊いてみろ。なんの力も金もない組織が、一夜で天下とれらぁ」

「…てことは、ナニか。新八は、その電脳幹を使って…」

まさか。

「まさか、まさかアレが…………新八、だったってのか…!?」


真選組屯所を飛び出した新八。

その半日後、銀時の前に現れたカラクリ兵器『紅桜』の亡霊。

自棄になった新八が違法な品に手を出したのだとしたら、タイミングは合う。

信州の現場に居たというのも、アレが新八だったなら電脳幹を解除したあとを目撃されたということになる。

「そんな…、そんなの、嘘だッ」

銀時を連れ去り、身体を開かせ、性の愛撫の手管を尽くした歪な男。

新八の真っ直ぐな瞳。

あれが同じ魂なのか。

「あんなの、新八じゃねぇぇッ…!!」

銀時は拳を握って歯噛みした。




続く

 

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【2012/11/24 12:15 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第37話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 7





「落ち着け、銀の字」

毛布ごしに身ぶるいする銀時を宥める。

「まだそうと決まったわけじゃあるめぇ。『紅桜ネオ』を試す人間は少なくねぇみてぇだ。坊主が適合させたたぁ思えねェよ。おめぇが遭遇したのは間違いなく別人だ」

「銀さん、話が見えないんだけど」

やりとりを聞いていた長谷川が口を挟む。

「新八君、超兵器を使ったヤバイ事件に巻き込まれてんの?」

「このごろ江戸の町に、また辻斬りが出とるだろう。ありゃ、電脳幹を使って変身した『紅桜ネオ』の使い手よ。坊主はその電脳幹のコピーを弄っとった。事実はそれだけで、それ以上のこたぁ無ぇ」

「それで銀さんは辻斬りが新八君じゃないかって話? だって20~30代の男ばっか狙って襲うんだろ? ありえないよ!」

「………新八は俺に懸想してんだよ」

銀時は頭を俯けたまま言った。

「こないだそう言われた。俺ァ全然気づかなくてよ。…新八のヤツ、俺を本気にさせようとあんなもんに『変身』しちまったんだろ…」

「坊主が言ったのか。おめぇに惚れてるって」

源外が尋ねると銀時は毛布の向こうで、こくと頭を縦に振る。

「やっぱおめぇだったか。それで『紅桜ネオ』を使っておめぇを攫い、坊主が腕づくで思いを遂げようとしたと、おめぇはそう言いてぇんだな?」

「か、顔は?」

長谷川が焦ったように問う。

「銀さん、新八君の顔見たの? それ本当に新八君だったの?」

「顔は……違った」

銀時が答える。

「声も。ガタイも新八とは似ても似つかねぇ。仰ぎ見るくれぇタッパがあった」

「だったら…」

「顔や体格が別人でも、それで坊主じゃねェという保証にはならねぇがな」

源外が諭す。

「電脳幹は人間の細胞配列も変えちまう。アレは人間を、顔も身体もまったく別人に作り変えちまうんだ。だがな銀の字、そりゃ別人だぜ。誓って坊主じゃ無ぇ。なぜなら素人がカラクリ技師無しで『紅桜』みてぇな変身できるはず無ぇんだよ」

「…アンタ、新八を手伝ってやったんじゃねーのか」

「手伝うもんかよ。俺りゃ場所と道具を貸しただけだ。坊主があんまり夢中になってたからよ、他でやられるよりゃ良いかってな。だが断じて手出しはしてねぇ。成功させるわけにはいかなかったから、遠目に様子を見ちゃあいたがな」

「じゃあ新八が、アンタの知らないところで…カラクリ技師の世話んなってたとしたら?」

鬼兵隊の高杉晋助だ、と土方は言った。

新八は反社会組織に踏み込もうとしている、と。

ならもう、新八は高杉の抱えるカラクリ技師の助力を得ているのではないか。

「……アイツ、あの野郎。ドンピシャ俺を狙ってきた」

あぐらをかいた銀時が毛布の向こうで顔を背ける。

「身体から触手みてーなの生やしてよ、まともに自分の言葉喋ることもできねーで…あんなんでアイツ大丈夫なのか。今、どこでどんな思いしてんだか…」

声が毛布にこもる。

「俺がもっと早くアイツの気持ちに気づいてやってりゃ、こんなことには…」

「あ、…あのさ、銀さん」

長谷川がとりなす。

「源外さんも言ってるじゃない、新八君じゃないって。絶対違う、別人だって。だからさ、まずは新八君に会って話を聞いてみた…」

「別人なら、俺を狙う理由なんか無ぇだろうがッ!」

銀時は声を荒らげた。

「辻斬りの被害者は俺に似た野郎ばっかなんだと。俺の名を呼びながら探し回ってヤッてたってさ。新八じゃなかったら、あれがトチ狂った新八じゃなかったら、他の誰が俺似の男探してそんな真似するってんだよっ」

「いやだけどさ、」

「確かに電脳幹使ってる人間は他にいるかもしれねぇよ?けどな、そういうヤツは俺に用なんざ無ぇんだよ。辻斬りが俺を狙うのがそいつが新八だっていう何よりの証拠なんだ」

「だからってお前、あの新八君がそんなことすると思うわけェ!」

「じゃあ長谷川さん、あれが新八じゃないとして、俺を狙う理由はナンだよ?」

たんたん、と銀時は自分の膝を叩く。

「アイツ、俺とヤリてぇって。ガキだと思ってたのに道具まで揃えて準備してたらしい。思春期の男なんだよなァ、アイツも。ちゃんと汲みとってそれなりの対応をしてやりゃ良かった」

「それなりの対応って?」

「一人前の男と認めて、ガキ扱いしねーで話しあう。オメーとそういうことはできねぇから他を当たれってキッパリ言い渡す」

「言っちゃうの!?」

「だってデキるわけねーだろ、そんなん。お妙になにされっか解らねーし」

「どっちにしろ辻斬りに走ったんじゃないのソレ!」

「アイツがそんなバァッカなわけねーだろ。悟りと諦めの早いヤツなんだよ。どこまでも泣きながら走ってって強引に煩悩の火を消しちまう童貞思考のニルバーナ君なんだよ」

「ニルバーナ君て何!?」

「『涅槃』という意味ですね」

それまで離れたところに佇み、けして会話に入ってこなかった隈無清蔵が両腕を背中に回した直立姿勢で告げる。

「悩みや束縛から脱した安楽。一言でいうと悟りの境地です」

「…あ、ども」

長谷川がぺこと頭を下げ、銀時に顔を戻す。

「とにかくさぁ、銀さんだって分かってんじゃん、新八君が悪いことするわけないって。銀さんが信じてやらなくてどーするのよ」

「ん、…まぁそうだけどよ」

はぁ、と大きくため息をつく。

「じゃあ新八のヤツ、あいつ何やってんだよ。反社会組織に祝言ぶち壊す手伝いしてもらってるってのか…」

───アンタがそんなつもりなら僕にも考えがあります。

   銀さんが土方さんと結婚するなんて絶対イヤだ!絶対阻止してやる!

   実力行使でアンタの目を覚まさせてやる!後悔しないでくださいよ、銀さんッ!

新八の声を思い出すと、なにをどう判断していいのか考えが止まってしまう。

源外は、こほんと咳払いして話を切り出す。

「まぁおめぇの言うとおりかもしれねぇよ? あれが坊主じゃ無ぇとは言い切れねェ。だがもしそうなら一刻も早く坊主を電脳幹から切り離さねーとならねぇだろうよ」

源外の方へ無言で顔を向ける銀時に、源外は頭を掻く。

「『紅桜ネオ』は使ってるうちに気が変になって、だんだん錯乱して廃人になっちまうってぇ噂だ。電脳幹が人間の脳や身体を侵蝕していくんだろうなあ」

「切り離せるのか」

即座に銀時が尋ねる。

「どうやって?」

「そいつぁなんとも。ありゃ本人の意志でオンオフするもんだ。本人が意識を失えば、とりあえず外れるんじゃねーか?」

「あれを意識失わせるって、無理だろ。無理ムリ!」

銀時はぱたぱた手を振る。コテージで相対した『岡田』は生身で手向かいできるような状態ではなかった。

「…水とか?」

長谷川が源外と銀時を見る。

「電動のカラクリなら普通に水かけりゃショートすんじゃない?」

「オメー、なかなかいいこと言うなぁ。でもダメだな。電脳幹は完全なる防水仕様だ。水は無効だ」

「でもさ、海水に浸かったら故障したんでしょ?」

「通電中は対塵、対圧、対熱、対水、対衝撃の防御が完璧に施される。使用中に物理的に壊すのは不可能に近ぇ。通電してねェときは、その限りじゃねぇがな」

「じゃあ電気の供給を止めちゃう、ってのは?」

「もともと機動兵器『紅桜』を考案したのは鬼兵隊の大将と、大将に見込まれた稀代のカラクリ技師だ。エレキテルの遮断がなによりの弱点だってのは重々承知してたろう。『紅桜』のバッテリーは超小型で過酷な使用に耐える脅威の高性能、引火防爆機能付きの寿命知らずってぇ永久機関とも噂された、『紅桜』の肝(キモ)だ。詳しい構造は知らんが外部からどうこうできるようなもんじゃないことは確かだ」

「じゃあ他人が強制的に電脳幹を解除できないってこと?」

「そうとも言える」

がはは、と源外が笑う。

「俺の息子が担いだ大将だ、そんなヘマはしねーよう!」

得意気な源外、脱力する長谷川。

彼らの声を聞きながら銀時は、ふと思考を逸らす。

そういえば『紅桜』はもともと高杉と村田鉄矢が生み出したカラクリだ。

ああ、だから高杉が出ばってきてたのか。

『紅桜』の残骸を他人に拾われていいように使われるなんて、アイツ我慢できないだろう。

いっそ、きれいさっぱり殲滅されちまってた方が高杉もせいせいしたろうに。

ヅラの面当てか。

いやヅラはそんな気の利いた真似できねェ。


銀時は腿に肘をついた片手に顎を乗せる。

毛布をかぶって誰からも見えないのをいいことに想いを馳せる。

新八が、高杉のもとへ行った。

アイツは新八から受け取るだろうか?

悪戯の仕掛けの成果を待つように、銀時は満足気に目を細めた。




続く


 

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【2012/11/24 12:10 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
第38話 事後処理はすみやかにウヤムヤに 8




「『紅桜ネオ』か。報告は聞いちゃいたが、まさかあれほどの怪異とはな」

土方は監視カメラのモニターを睨んでいた。

「コピーであの性能だろ。高杉はとんでもねェ兵器を作り上げたもんだぜ」

「高杉よりも厄介なのはそれをバラ撒いてる攘夷一味でさ。なんの鍛錬もなくあんだけの力を手に入れる。そそのかされたバカなガキが良いように利用されて使い捨てにされかねねェ」

沖田は、エネルギー補給系のゼリー飲料に吸いつきながら横目に画面を眺めている。

「まさかメガネがそんな物に頼るほど旦那に惚れてたたぁな。気の毒だが御禁制アイテムを所持使用していた咎は見逃せねェ。今度『岡田』を見かけたら補導だな」

「どうやって?」

土方が困惑の汗を浮かべる。

「簡単に補導できると思ってんのか、あんなもん」

「そこは…ほら、強力電磁波砲かなんかで四方を囲ってパパっと」

「そんな便利な大砲は無ぇ」

「巨大スタンガンかなにかで」

「お前がそいつをヤツに押しつけて通電できんだな?」

「旦那を盾にして」

「もっかい攫われんのがオチだろーが」

「いっそ源外さんに開発を頼みやしょう、一撃で効きそうなヤツ」

「ありゃお尋ね者だってんだよ!そんな取引できるかァ!」

土方と沖田は銀時のすぐ隣りの病室にいた。

同じ特別室の造りでベッドがありソファがありテーブルがある。

そこへ器材を持ち込み、真選組隊士が交代で詰めて銀時の部屋の様子を監視しながら警備している。

銀時が退院するまでの間、真選組がこの部屋を借り受けることを病院側に交渉してあった。

「でもね、土方さん。もしかしたら生身の人間が『紅桜ネオ』に付け入る隙があるかもしれませんぜ。ずばり、変身を解いたあとしばらく変身できねぇの法則でさァ」

「…根拠は?」

「『岡田』以外の人間が旦那に中出ししたことです」

「ぶっ!」

「俺の予想じゃ『岡田』は旦那とヤるために電脳幹を解除して人間に戻ったんでさ。でも旦那は犯人を役立たず呼ばわりしてたから旦那をヤッたのは他の誰かだ。『岡田』が旦那を譲るわけがないから、『岡田』はその誰かと戦って負けたってことになる。つまり」

沖田は飲料のフタを締めて机の上に投げる。

「変身を解除しちまうとすぐには再変身できねェってことになりやせんか。もしそいつが『岡田』に変身して戦ってたら生身の人間にゃ負けねェでしょう」

「その誰かが仲間だったら?」

土方は座ったまま腕組みする。

「もしくはその誰かも『紅桜ネオ』を所持して使っていたら。『岡田』が身を引いてもおかしくはねぇぜ」

「使わないでしょ」

沖田は廊下に繋がる扉を見る。

「おそらくその成人した地球人男性ってのは…」

「失礼しますっ!」

ノックもそこそこに息せき切った隊士が病室へ駆け込んでくる。

「山崎さんから応援要請ですっ、チャイナ娘が暴れて…っ!」

ぜんぶを聞かずに沖田は刀を掴んで立ち上がる。

想像はつく。山崎から新八の話を聞いた神楽が荒れているのだろう。

「ちょっと行ってきまさァ」

場所は分かっている、ラウンジの横の面会室。

「あの小娘、俺たちの仕事の邪魔になるなら一度くれぇ補導して檻にブチ込んでやらねーとな」

言いながら沖田の身体は扉をすり抜けていく。

沖田に任せておけば神楽は押さえられる。

それより先決なのは『紅桜ネオ』の情報。

土方はここで隣室の会話から聞き取れる攻略のヒントに耳を傾ける。

「副長」

インカムをつけた監察の一人が監視器機を操作しながら尋ねてくる。

「話が終わったら平賀源外と長谷川泰三を押さえますか」

「万事屋との約束だ、そういうわけにゃいかねーよ」

土方は視線を監視モニターの画面へ戻す。

「丁重にお帰り願え。監視はつけなくていい」

「はっ」

 


「で? 中身が新八かそうじゃないかはともかく、また『紅桜ネオ』に遭っちまったら俺は一体どうすりゃいいわけ?」

銀時が億劫そうに毛布を引き寄せながら尋ねる。

「なーんか、また現れそうな気がすんだよね。あれで終わりってこたねーだろうし」

毛布ごしに源外を向く。

「じーさん、なんか知ってんだろ。『紅桜ネオ』との戦い方とか。バカ正直に戦らなくても勝てる方法とか。裏でサラサラ流れてる噂話の数々を教えろや」

「そんなもんあってたまるけぇ。三十六計逃げるに如かず、戦ったヤツの話なんざ聞くかねーよ」

「ちょっとちょっと、なに言ってんの。俺それ聞きたくて呼んだんだよ」

「あ~、一人いたな。ネオじゃなくてオリジナルの方だったがぁ…正面から戦って『紅桜』の刀身ブチ折ったってぇ話が」

「それたぶん俺ェ!なんの参考にもならねーよッ」

銀時が肩をいからせる。

「そうじゃなくて、あんなシンドいのと向き合わなくても済むような方法ねーのかよっ、一言でいってアレの壊し方だよっ、大砲ブッ放すとかさァ、チョークの粉で爆発させるとか、磁石のデカイのにくっつけて動きを止めるとか」

「そんなのは効かねーな、アレの動きを止めりゃなんとかなるかもしれねーがぁ……あ、そうだあれだ銀の字、抵抗しねぇで身を任せると手足はしばらく動かねーが生命までは取られねーで済むとか…」

「ソレも俺ェェェーッ」

毛布のまま顔を突き出す。

「おまけに目もやられちまったんだけどッ、これナニ? なんの呪い? それともカラクリの理屈でなんとかなるわけ? 治せよ、治すカラクリ持ってこいよ、300円しかねーけどォ!」

「あぁそりゃ無理だ」

源外は即答する。

「カラクリでも呪いでもねェ、そいつぁ毒だよ」

「ど、毒ぅ!?」

「『紅桜ネオ』は生物兵器も搭載しているって話だ。人間の身体に影響を及ぼす数種の薬液を調合して放射注入できるってよ。中でも原始的な深海生物から抽出した神経毒は百発百中で失明させる威力なんだと」

「失明?」

銀時の声が上擦る。

「ちょ、なにサラっと言ってくれちゃってんの。失明だよ、失明。もっと本人に配慮するとかさぁ、ショックを受けないようにそれとなく遠まわしにとか、ちったぁ気ィ遣えよ!」

「う~ん…俺りゃ思うんだけどよォ」

源外は声を落とす。

「オメー、真選組の兄ちゃんと添うんだろ? ちょうどいい潮時なんじゃねーか。これを機にドンパチから足を洗って幕臣の端くれとして真選組の奥深くに潜りこみ、雲隠れしちまったらどうよ?」

「それは失明と関係ねーだろ!」

「戦わねぇなら目なんか見えなくても生きていけるだろうよ」

源外は溜息まじりに笑う。

「攘夷戦争は遠くなったんだ。オメーもいつまでも過去を引き摺ってるより、好いたヤツとその仲間に囲まれて安穏と暮らしてもバチは当たらねーよ」

「…じーさん」

「俺にゃその目は治せねーし、治し方も皆目見当がつかねェ。だが…もしかしたら、鬼兵隊の大将は知ってるかもな」

ぴょんと椅子から降りる。

「俺りゃこれで帰るぜ。おしゃべりが過ぎちまった。どーせ会話は筒抜けだろうが…俺が耳にした噂話ばっかだ、支障あるめぇ」

「俺も帰るよ」

長谷川が席を立つ。

「また用事があれば呼んでくれよな?いつでも待ってるから」

「あ……、うん、ありがと、長谷川さん…」

「なんだよ、元気ないじゃねーか。銀さんらしくない」

笑って長谷川は銀時の両肩にポンと手を置くフリをして耳元に囁く。

『俺が鬼兵隊の人に伝言してやろうか?』

「……墨くれる?」

銀時は毛布の中から手を差し出す。

隈無清蔵が音もなく動いて銀時の手に筆を渡す。

「長谷川さん、こっちこっち」

手招きでダンボール着衣を近寄らせると、もう墨の隙間もなく塗りつぶされた紙面の上に筆を走らせる。

「銀さん、なんて書いてあるのか読めないよ、それじゃ」

「読めんだろ」

銀時は感情のない乾いた声を出した。

「『祝儀よこせ』だ」

 


源外と長谷川が退室したのを見計らって土方は銀時のもとへ赴く。

すっかり日も暮れた病室は、数種の警報器の小さいランプだけが点いている他は暗がりに輪郭だけが浮かび上がる異様な空間となって静まっている。

「万事屋」

そのただ中にベッドに座る銀時がいる。

「俺は屯所に戻る。ここには寝ずの番をつける。明日、退院だ。なにか足りないものはあるか。具合はどうだ?」

「あいつら…帰してくれたろうな」

「約束だからな」

「神楽は? それから…新八」

「チャイナはメガネの捜索に行くといって聞かねぇんで屯所で保護している。メガネの足取りは…はっきりしねぇ」

「ん、…そうか」

銀時は座った姿勢から横になる。

「じゃメシ食って寝るわ。神楽にも腹一杯メシ食っとけって言っといてくれ」

「あぁ…、言っとく」

「オメーもおつかれさん」

毛布の中から手がヒラヒラ振られる。

銀時の声が押し殺されたように空虚なのを土方も感じ取っている。

「聞きてェことはそれだけか」

つい土方は口を滑らせ、銀時にそう尋ねた。




続く


 

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