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賊の移動が速すぎて目標を捕捉しているのに追いつけない。 パトカーの飛行車両は振り切られた。 北へ西へと進路を変える賊の居場所をモニター上で確認するだけで精一杯、江戸の外れで網を張っていた装甲車をなんなく躱すと、賊は人気もまばらな郊外へアッという間に駆け去った。 「どこまで行く気だ?」 土方は手持ちのモニターを見下ろしながら歯噛みする。 「オイ、狭山と相模原、念のため平塚の奉行所に連絡しとけ」 「配備要請しますか?」 「いや。奉行所の装備じゃ奴は止めらんねぇ。『凶悪な指名手配犯が逃走中。そちらの管轄で面倒事を起こす可能性あり』って伝えとけや。連絡しねぇで後でガタガタ言われんのは面倒くせぇからな」 「はいっ」 「野郎、この分だと山へ逃げる気か」 行き先は 武州とも相模原ともとれる。 モニターを見ていた部下が青ざめる。 「もしかして箱根を越えて富士の樹海かな。旦那を捕まえて心中するつもりだったりして」 「なんで万事屋と心中なんだよ。そしてなんで樹海だ」 土方が言下に否定する。 その不興を横目に見ながら愛想笑いで答える。 「好きな人と死ねるならいいじゃないですか。皆の前で奪い取って、これでこの人は俺のもんだ、ってね。どうせ旦那にゃ相手にされないんだから」 賊に肩入れした部下の口ぶりを聞いて土方は黙りこむ。 屯所にも銀時に報われない思いを抱いてる隊士が大勢いた。 『婿』に選ばれた自分も、銀時に心を寄せられているわけではない。 アイツの心は『誰か』のものだ。 自分には向けられないそれを欲っすると、土方も胸をそがれるような脱力に見舞われる。 その集大成が『岡田』なのか。 じゃあ一体なんなんだ、それを引き起こすアイツ ── 坂田銀時は。 アイツの視線が向く先を俺も、岡田も、誰も彼もが追いかける。 まぶしい光に、どうしようもなく惹きつけられるみてぇに。 アイツの銀色の魂が俺たちの根っこを捕らえて離さねぇのか。 俺は、こうして賊を追っているが、どっちの立場で追っている? 銀時を囮捜査に使う警察か。 想い人を賊に奪われて激高してる阿呆か。 どっちでもいい。 銀時が酷ぇ目に遭うことのねぇよう、取り返しがつかなくなる前に賊の手から取り戻したい。 アイツの無事を確認して一刻も早く安堵したい。 こんな事態を引き起こしたバカを取っ捕まえて二度とこんなことが起きないようトドメ差してやりてぇ。 「副長、目標が進路を変えました!」 モニター上で目標点が消えた、と思ったら基地局と交信していた部下が声をあげた。 「どうも甲斐をめざして山を抜ける…模様です、」 「狭山と平塚、相模原への連絡を取りやめろ」 土方もモニターを操作して目標点を探す。 自分たちはまだ江戸郊外の上空にいる。 銀時を連れた賊ははるか先だ。 いずれ追い詰めるにしても、この距離を縮めるにはかなりの時間を要する。 この時間が裏目に出なきゃいいが。 後部座席で土方は拳を揉んだ。
踏み込んだ現場で、土方は声を失った。 仰向けに、陵辱の跡も生々しく銀時は倒れていた。 あちこち露出した肌は液体にまみれ、無数の縛めの痣が押印されている。 なにも身につけていない下半身は立てた膝を崩したように投げ出され、その後孔からあふれたと思われる液体が、むごたらしく局所を汚損している。 一目で銀時の身に起こったことが理解できる。 それを誇示するような現場。 「現場の保全と証拠写真」 動かない自分をよそに、後ろから追いついてきた沖田が指示を出す。 「旦那の息はあるのか。なかったら心臓マッサージと人口呼吸。AEDのスタンバイ」 呆けている土方をジロッと見る。 「副長、アンタがすべき指示ですぜ。できないんなら出てってくだせぇ、仕事の邪魔なんで」 「………、」 土方の耳を沖田の言葉が通りすぎていく。
ただ、胸の中心がやけに痛むのと、銀時の顔に張り付いた金属質の平たい物質、あれはなんだろうと土方はそればかり見つめていた。 PR |
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