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遅かったのだ。 自分は間に合わなかった。 これで銀時を失ったら、きっとこの刺さるような痛みは心臓が瓦解するまで止まらない。 この世で自分にできることなど何ひとつない。 「旦那、息あります!」 無力感なんて生やさしいものじゃない重荷が胸に落ちたとき。 銀時に駆け寄って間近に膝をついた隊士たちが土方に顔を向けて叫んだ。 「脈もしっかりしてます!」 途端に場が沸く。 殺気だった形相がゆるむ。 「大きい外傷はないようです。誰か、血圧計持ってこい!」 銀時は命に別状ない。 「旦那、聞こえますか、旦那!?」 最悪の事態はまぬがれた。 土方は詰めていた息を吐く。 その背をポンと沖田が叩き、面倒な指揮はゴメンだと言わんばかりに土方に場を譲り、隊士たちに混ざって銀時の容態を覗きに行ってしまう。 「意識ねぇのか。眠らされたかな。…にしちゃ、イビキかいてねーな」 土方を振り向く。 「やっぱり例の催淫剤つかわれてますぜ。意識とんでまさァ。よっぽど気持ちいい目に遭わされたんでしょうね」 「…野郎、タダじゃおかねぇ」 土方が押し殺したように吐き捨てる。 「よし、てめぇらァ! 岡田を引きずり出せ!」 よく通る声が隊士たちを高揚させる。 「この中をぜんぶ調べろ。隠れてるかもしれねぇ。手分けして家の周囲もだ。山崎、いるか!」 「はい!」 「この一帯を上空から捜索しろ。まだ遠くには行ってねぇ。目の効くヤツ連れてけ」 「はいよっ」 GPS受信機がこの建物の、おそらく銀時の着衣の中にあるため、逃げた賊の捜索は目視になる。 委細のみこんで山崎は戸外へ走り出ていく。 「万事屋はどうだ。ヘリが要るか」 「万全を期すなら呼んでくだせぇ。今までの被害者と違って旦那はヤツの本命だ。なにされてるか解らねぇ」 沖田がいつもの調子を返上して真摯に言う。 「この目隠しも取れやせん。そんな複雑なカラクリじゃねぇと思いますが、なにかの仕掛けだとマズイし無理やりひっぺがすわけにもいかねぇ」 銀時の両眼に圧着している金属質の平たい覆いを探る。 「ずいぶんマニアックなプレイしてくれたもんだぜ。厄介なモンでも植えつけられてねーといいが」 「厄介な物?」 「有害成分の入った毒液とか。遠隔操作できる玩具とか。腹ん中で育って産ませる仕掛けの子種とか」 「冗談じゃねぇ」 「動かした途端にカプセルが割れて女体化、ヤツの子供を身ごもるって想定だとパトカーじゃ無理でさァ」 「どういう想定だ」 「いいからヘリで病院に運びましょう。車でチンタラ飛ぶより大江戸病院までヘリならほんの5分だぜ。俺が付き添うんで土方さんはここで山狩りしててくだせぇ」 「なんでお前だ!」 「俺なら旦那が誰に種つけられようと広い心で愛せますからね」 「オイ。俺が愛せねぇみたいな言い方すんな」 「愛せないでしょ? 旦那似の巻き毛の赤ん坊が頭に触手はやして出てきたら無理でしょ土方さん」 「ふざけんな。そんなん余裕だ」 「いやいや。触手はともかく巻き毛ですぜ。天パーなんですぜ。可哀想な子供でさァ」 「どんだけ天パを否定してんだよ」 「コトは一刻を争うかもな。旦那のカラダをくまなく調べて、なにか仕掛けられてたら取り除かねーと。ついでに暴行罪の証拠に犯人の体液も採取しとかねーとな」 「…こりゃあ、岡田のモンか」 土方が銀時の足の間を見やる。 「カラクリの化け物になっちまっても精液は出るんだな」 「土方さんだって出るでしょ。マヨラーだけど」 「テメェだって出してんだろ、ガキのくせに」 「マヨネーズ咥えてる乳恋しい大人よりは健康的に出してまさァ」 「岡田は人間なのか。カラクリなのか。それとも天人みてぇに体の構造が特殊に変わっちまった異種族なのか」 「今のところなんとも。だからこそ旦那に何されてるか解らねぇ。たとえば…自分の一部を旦那の身体に植えて本体は消滅。旦那の体内で再生して甦る、とかね。ありそうでしょ?」 「…………、」 銀時の顔を見る。 力なく開いた唇が、静かな息を通している。
追跡していた目標点が静止した。 信州の山並みの中腹だった。 調べてみるとそこはリゾート分譲地だった。 個人の別荘や貸しコテージがまばらに山林の中に建っている。 銀時が連れ込まれたのは、その一棟だった。 管理人も借り手も不在だった空きコテージは車道から外れて他から孤立していた。 突き止めた真選組は犯人に悟られないよう離れた車道に車を下ろした。 建物近くに都合よく降りられるような拓けた場所はなかった。 現場へ至る道は雑草が覆い、蜘蛛の巣と垂れた枝と飛び回る昆虫が塞ぎ、やっと辿りついた建物を包囲するには裏手の深い藪の中へ踏み入らねばならなかった。 内部を探ったが動く者はおらず、銀時が倒れているだけだった。 横手の勝手口の鍵が開いていたことから、賊はすでに逃げたものと目された。 土方は突入を指示した。 賊の気配はなかった。 ただ、板敷きの広いリビングの真ん中に暴行を受けた銀時を見出した。 袖を通したまま着流しを肌蹴られ、上着をたくしあげられた肌には、硬い紐のようなもので絞めつけられた跡が無数に交錯している。 銀時の手足は力を失って床に横たわっている。 口元や乳首には茶褐色の粘液が飛び散り、性器や陰部にはそれが多量に滴っている。 おそらく銀時自身も達したのだろう、腹に精液が垂れている。 そして後孔には雄に犯されて精液を奥深くに出された有様が、剥き出しになっていた。 沖田の言うとおり、その身がまったく無事かどうかは確認しなければならない。 隊士たちが階段を駆け登る。このコテージには二階がある。 風呂場があり、クローゼットがあり、作業部屋まである。 賊が隠れ潜むには絶好の空間を隊士たちが開け放って暴いていく。 「副長!」 隊士の声が呼んだのは戸外からだった。 「まずいです、ちょっと来てください!」 「なんだと、」 土方は反射的にそちらを向いて外へと急ぐ。 「なにがあった、なにがマズイんだよ?」 「あれ、ほらあそこ…!」 隊士たちが2~3人、そちらを困ったように眺めている。 土方のいる場所から深い谷をはさんだ向こう側。ここから大きく迂回して歩道を登っていくと着くであろう樹木の間に。 小柄な少年、特徴的な着物の色、髪型と眼鏡の間違いようのない取り合わせ。 「メ…、メガネ!?」
こちらを見て焦ったように逃げ出したのは銀時と土方が探し求めていた志村新八だった。 PR |
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