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銀時は定春を連れて散歩するのが常だった。 夜遅い時間に定春の排泄を済ませておけば朝ゆっくり寝過ごせるからだ。
かぶき町の夜の賑わいを抜けて空き地や草むらの多い住宅地に出る。 定春はよろこんで綱を引っ張りながら前のめりに銀時を引っ張っていく。 とどこおりなく排泄を済ませたころ、定春の牽引力は一段落して前進する速度が落ちる。 そしてその頃、落ち合うのだ、銀時が夜中の散歩を繰り返すもうひとつの理由と。
神社の鳥居の陰から、空を見ながら歩いてくる男。 「ひでェ雨だった。今日はもう晴れないかと思ったぜ」 「オメーいたの」 銀時は期待通り現れた男に意外そうに応える。 「もう酒くらって寝てる頃だろーが」 「寝てた。けど、やんだからな」 高杉はスタスタ歩いて銀時を見もせずその横に並び、同じ方向へ歩き出す。 「突然の豪雨のあとの星をみるのも一興だろ?」 「あー、星でてんな」 銀時は定春の綱に両手をかけたまま空を見上げる。 「あんまり出てねーけど、見えるわ」 「そうかぃ」 高杉は眼を伏せながら愉しげに口の端で笑う。 「俺りゃそこまで探さなくても見えるがな」 「なに。お前の視力、もしかして片方の眼を遮断してるのは見える方を倍増させるとかそういう仕組みになってんのかよ」 「そういうわけじゃねェよ。ただ、俺の星はどこにいても目立つ。眩しいくれーだ」 「あー分かったから、お前のネタ。あれだろ、北極星」 謎解きを先回りして得意げに空の一点を眼で示す。 「明るいし、場所すぐ分かるし。そーいやさ、昔、昼間に北極星みようとして皆で林の丘に行ったじゃねーか。皆が空井戸に行っちゃって、ヅラとオメーが木のウロ探して、あんときよォ、林の方が遠かったし、俺は別にどっちに行ってもよかったんだけどね、林の方が面白そうっていうか」 「銀時、見ろよ。いっぱいいるぜ」 高杉が突然、よかったな、といわんばかりの含みで断言した。 言われて銀時は周りを見回す。 ここは人気のない夜の道。 自分と高杉と定春の他は無人。 いっぱいいるって、なんだよ。 なんにも感知できない。 まさか。 コイツ、霊感とかあったっけ? そういう、見えるけど触れないものが揃ってこっちを見てるとか? それとも足元に蠢く小型の生き物が黒々とした光沢をひからせながら集団で今しも足元から目の前に現れようとしてるとか? ふたつの想定に肝がスーっと冷えたとき。 「ホラ。このアパート、出ていってなかったな」 高杉が示したのは道沿いの集合住宅。 窓からいくつも照明が漏れていて、中の住人の存在を伺わせる。 「いなくなったんじゃないかって心配してたろ?」 そういえば。 前ここを通ったとき、あまりに真っ暗な部屋が多かったんで皆引っ越して出ていってしまったんじゃないかと、その理由をいくつか考えては危ぶんでいたのだった。 「お、おどかすなテメッ」 今になって心臓が高鳴る。 「こんななにもないとこで『いっぱいいる』とか言われたら怖いだろーが!」 「……ン?」 高杉は真顔で銀時を見る。 「ああ、そうか。そうだな、怖ェな」
思い至ったように眼を細め、笑いを噛み締める。 PR |
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