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銀時は意識を浮上させる。 『俺、どうしてたんだっけ? これ自分の寝床じゃねーよな…』 身体も視界もモヤモヤしたものに包まれて、まわりをハッキリ確認できない。 ただパリッとしすぎる冷たいシーツの感触が、ここは慣れ親しんだ万事屋の布団でないことを示している。 「坂田さん、わかりますか?」 なんか呼んでる。 どうも気配が、だるーんとしていて、身に危険が迫ってる状況ではないから頭がうまく覚めない。 「目、開けられますか?」 誰かに覗きこまれる。 「ここは病院ですよ。まる一日、眠ったままだったんですよ」 「……ぁ、そんな寝てた…?」 やけにまぶしい。 目を閉じているのに光が当てられている。 「なんで俺…そんなに……、んぁぁああっ!」 重いまぶたをこじ開けた途端、両方の眼がいきなり刺し貫かれる。 あまりの激痛に両腕を交差させて顔の前にかざし、その「なにか」から身を捩って逃れようとする。 「動かないでッ点滴抜けちゃうでしょ!」 腕や肩を掴まれ制止される。 そんなの聞けたもんじゃない。 眼は防いだ腕の隙間から入ってくる凶器に苛まれている。 視界は真っ白だ。光っている。 とにかくまぶしい。 それ以外、なんにも見えない。 「坂田さん大丈夫ですか!?」 慌てた声を張り上げられる。 いや、それよりソレ、やめてください。眼ェぐりぐりすんの、痛ェから。 うつぶせになっても止まらないから、頭の下にあった枕の下へ頭を突っこむ。 頭の後ろに枕を乗せてシーツに顔を突っ伏していると、眼が切り刻まれるような拍動が少し緩んでくる。 「うぅ~、キモチわる…」 胃のあたりから絞りこむような不快感が上がってくる。 突っ伏した頭に乗せた枕をひたすら自分の頭の後ろに押しつけた。
別室で近藤と土方、沖田と山崎、そして神楽が説明を受けた。 「視覚器に器質的な異常はないし、脳の精密検査でも問題なかったので、機能異常、つまり『見る』ときに働くべき連携がうまくとれてない状態と考えていいでしょうね」 「治るアルか」 神楽が真っ先に尋ねる。 医者は難しい顔をする。 「原因は坂田さんの両眼を覆っていたカラクリから染み出した液体らしいんですね。その成分が目に入って網膜やブドウ膜…物を見たり光を感じたりする部分に化学変性を起こしたらしく、通常では考えられないような量の光を感知してしまう。ほんのわずかな明かりでも強烈なフラッシュを凝視したような衝撃があるってことです」 だから、と医者は続けた。 「もと通りになるかどうかは、その液体によって受けた影響が固定してしまった不変のものなのか、まだ元に戻りうる可逆的な変化なのか、そのへんに拠ります」 「それはもとに戻るものかどうか解ってるのか?」 土方が尋ねる。 医者は首を振る。 「液体の成分は分析できても、それが眼器に与える影響までは…こういう例がないものでデータがないんですよ」 「現時点では判断できないってことか…」 「治るでしょ」 考えこむ土方に、沖田が軽く言う。 「なんだかんだ、旦那は回復がいいから。どうせケロッと見えるようになるから辛気臭い顔並べてんじゃねーや」 沖田は医者に顔を向ける。 「それより先生、旦那の身体に変なモン仕込まれてなかったですかィ。カラクリの落し種みてぇな。異物とか毒とか」 「一応全身検査したけど、金属性のものは確認されなかったよ」 カルテをパラパラ捲る。 「毒はなんとも言えないけど、眼もそうだし、本人の様子を見ながらおかしな点があったら検査するしかないんじゃないかな。…毒といえば全身に筋融解性の強い薬液をそこかしこから注入されたみたいで、だいぶあちこち筋肉が侵されたみたいだね。本人、よく我慢したねぇ。生きたまま溶けてくわけだから、さぞ痛かっただろうね。若くて腎臓が強いから後遺症もないし、まあこれはおいおい回復していくでしょう」 「問題は、目だな」 近藤が口を開く。 「先生は本人の意識が戻ったら退院できるとおっしゃってましたが、あれじゃ退院は無理ですよね。目の治療をしなくちゃならないし」 「あ、退院していいですよ。あの目を治療する方法っていうのはありませんから」 「…は?」 「自然に治るのを待つしかないです。それは御自宅でも病院でも同じです。光を直視しないよう、暗いところで安静にしててもらえれば結構です」 「え、でも局長。旦那は目が見えないし、まだよく身体も動かない状態ですよね?」 山崎が小声で言う。 「病院に入院してた方が安心じゃないですか?いつどんな後遺症が出るかも分からないんだし」 「うーん、そりゃそうなんだが…」 「屯所の方が護りやすいだろィ」 沖田が山崎を見る。 「病院じゃ岡田が襲ってきたとき、ここは病人ケガ人だらけで思うように動きがとれねェ。始末書が増えるだけでさァ。あと近藤さんが上からガミガミ言われるんだろ」 「でも隊長、屯所にゃ看護婦さんみたいなプロはいませんよ。目が見えない人をどうするんですか。風邪で寝込んでるのとはわけが違うでしょ?」 「ワタシ看護婦さんやるネ!」 神楽が挙手する。 「銀ちゃんのお世話するヨ。この前も銀ちゃん寝込んでたし、姉御と二人で見れば楽勝だヨ!」 「やめとけってチャイナ。馬鹿を見るだけだぜ。あ、いつも見てるんだったな、鏡の中に」 「なにがアルか」 神楽が沖田をふくれっ面で振り返る。 「ご飯たべさせたり、ジャンプ読んでやったりできるネ。なにが馬鹿だヨ」 「空気読めよ。旦那は土方さんとの婚儀目前だぜ。あいつら絶賛イチャイチャモードに入ってるンだ。そんなところに割りこもうなんてのは、ただの頭の弱い邪魔者だろィ」 「それとこれとは別ダロ」 神楽がムッと睨む。 「イチャイチャすんのは邪魔しないヨ。トッシーだってずっと銀ちゃんと一緒にいるわけじゃないし、その間ワタシが銀ちゃんについてるってんだヨ」 「だそうですぜ、近藤さん」 沖田が近藤を仰ぐ。 「チャイナも屯所に泊まりこみでいいですかィ?それとも通い妻?どっちにしろ俺の部屋に引っ張り込んどきますから旦那たちの邪魔にはなりやせんけどね」 「ちょ、ちょ、ちょっと待って! チャイナ娘が屯所に出入りするのも、泊まるのも、いけません! 未成年だし女の子だし、世間的に問題ありすぎッ!」 近藤が首を振って二人に申し渡す。 「手伝ってほしいときは正式に書類出して要請するから、それ以外の立ち入りは禁止だからね!守ってよホント!」 「銀ちゃんはいいアルか」 拗ねた顔で近藤に抗議する。 「ワタシは駄目で、なんで銀ちゃんはいいアルか。ワタシも万事屋ヨ!銀ちゃんと同じにしろヨ!」 「銀時に関してはちゃあんと書類を出して上に通してある。あいつは成人した男だからなんの問題もねぇ。それよりチャイナ娘、そのぉ…、話は聞いたか?」 「話? なにアルか」 低く問い返す。 「銀ちゃんの結婚話なら聞いたケド」 「いや、それもそうだが…、新八君の」 「新八が、なにヨ?」 「聞いてない? ザキ、言ってなかったのか?」 「あ、え~と…それはこれから…」 「なにアルか」 「チャイナさん、山崎から話を聞いてください。いろいろ複雑だと思いますが我々は貴女に冷静な行動を望みます!」 近藤が山崎に合図すると、山崎は神楽を誘って部屋を出ていく。 神楽に事情を説明しながら、新八が鬼兵隊と行動を共にしていることを万事屋の身内がどう受け取るのか、つまりどういう反応を見せるのか確かめておきたい狙いである。 「先生」 土方が、一同の様子を見ていた医者に尋ねる。 「アイツは暗いところで静かにさせときゃいいんだな?」 「そうだね。できれば目を覆って保護しておいた方がいい」 「じゃあそうします。薬とかは?」 「水分をとって、あとはしっかり栄養のあるものを食べてもらえば。飲み薬や目薬なんかはいらないでしょう」 検査データを見て、慎重に付け加える。 「あんまり動き回らないで寝ていた方がいいかもしれない。あと、激しい運動は避けるように」
沖田がニヤついて笑う。 「激しい運動は厳禁。旦那の視力が回復するまでセックスはお預けでさァ」 「うるせぇ。放っとけ」 説明を受けた部屋を出て、三人は銀時の病室へ向かう。 「近藤さん、祝言まで離れで俺が万事屋を見る。改装業者に、遮光性の建具を使うよう変更させていいか?」 「構わねぇさ」 近藤は控え目に笑う。 「銀時を囮に…ってか、まァアイツも災難だよな。毒食らわば皿まで、こうなったらとことんやってやろうじゃねぇか」 「それにガチで勝負かけてきたメガネはいい面の皮でさァ」 「う~ん…新八君のアレは、なんというか人を愛する一人の男として立派なんじゃないかな?」 「そんな呑気なこと言ってられっかよ。相手は鬼兵隊だぜ。メガネをあの若さで犯罪集団に傾倒させたなんつったら、あいつブチ切れるぞ」 「そのブチ切れるアイツには、なんて言うんで?」 「退院してからでいいんじゃないか?」 「いいや。聞きたがったら全部本当のことを話す」 土方は腹を決める。 「それが一番、傷が浅い」 「でもトシ、銀時は今そんな話ができる状態かどうか…」 「入りやすぜ、旦那ァ」
委細構わず、沖田が個室の引き戸を横へ開けた。 PR |
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