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「『紅桜ネオ』か。報告は聞いちゃいたが、まさかあれほどの怪異とはな」 土方は監視カメラのモニターを睨んでいた。 「コピーであの性能だろ。高杉はとんでもねェ兵器を作り上げたもんだぜ」 「高杉よりも厄介なのはそれをバラ撒いてる攘夷一味でさ。なんの鍛錬もなくあんだけの力を手に入れる。そそのかされたバカなガキが良いように利用されて使い捨てにされかねねェ」 沖田は、エネルギー補給系のゼリー飲料に吸いつきながら横目に画面を眺めている。 「まさかメガネがそんな物に頼るほど旦那に惚れてたたぁな。気の毒だが御禁制アイテムを所持使用していた咎は見逃せねェ。今度『岡田』を見かけたら補導だな」 「どうやって?」 土方が困惑の汗を浮かべる。 「簡単に補導できると思ってんのか、あんなもん」 「そこは…ほら、強力電磁波砲かなんかで四方を囲ってパパっと」 「そんな便利な大砲は無ぇ」 「巨大スタンガンかなにかで」 「お前がそいつをヤツに押しつけて通電できんだな?」 「旦那を盾にして」 「もっかい攫われんのがオチだろーが」 「いっそ源外さんに開発を頼みやしょう、一撃で効きそうなヤツ」 「ありゃお尋ね者だってんだよ!そんな取引できるかァ!」 土方と沖田は銀時のすぐ隣りの病室にいた。 同じ特別室の造りでベッドがありソファがありテーブルがある。 そこへ器材を持ち込み、真選組隊士が交代で詰めて銀時の部屋の様子を監視しながら警備している。 銀時が退院するまでの間、真選組がこの部屋を借り受けることを病院側に交渉してあった。 「でもね、土方さん。もしかしたら生身の人間が『紅桜ネオ』に付け入る隙があるかもしれませんぜ。ずばり、変身を解いたあとしばらく変身できねぇの法則でさァ」 「…根拠は?」 「『岡田』以外の人間が旦那に中出ししたことです」 「ぶっ!」 「俺の予想じゃ『岡田』は旦那とヤるために電脳幹を解除して人間に戻ったんでさ。でも旦那は犯人を役立たず呼ばわりしてたから旦那をヤッたのは他の誰かだ。『岡田』が旦那を譲るわけがないから、『岡田』はその誰かと戦って負けたってことになる。つまり」 沖田は飲料のフタを締めて机の上に投げる。 「変身を解除しちまうとすぐには再変身できねェってことになりやせんか。もしそいつが『岡田』に変身して戦ってたら生身の人間にゃ負けねェでしょう」 「その誰かが仲間だったら?」 土方は座ったまま腕組みする。 「もしくはその誰かも『紅桜ネオ』を所持して使っていたら。『岡田』が身を引いてもおかしくはねぇぜ」 「使わないでしょ」 沖田は廊下に繋がる扉を見る。 「おそらくその成人した地球人男性ってのは…」 「失礼しますっ!」 ノックもそこそこに息せき切った隊士が病室へ駆け込んでくる。 「山崎さんから応援要請ですっ、チャイナ娘が暴れて…っ!」 ぜんぶを聞かずに沖田は刀を掴んで立ち上がる。 想像はつく。山崎から新八の話を聞いた神楽が荒れているのだろう。 「ちょっと行ってきまさァ」 場所は分かっている、ラウンジの横の面会室。 「あの小娘、俺たちの仕事の邪魔になるなら一度くれぇ補導して檻にブチ込んでやらねーとな」 言いながら沖田の身体は扉をすり抜けていく。 沖田に任せておけば神楽は押さえられる。 それより先決なのは『紅桜ネオ』の情報。 土方はここで隣室の会話から聞き取れる攻略のヒントに耳を傾ける。 「副長」 インカムをつけた監察の一人が監視器機を操作しながら尋ねてくる。 「話が終わったら平賀源外と長谷川泰三を押さえますか」 「万事屋との約束だ、そういうわけにゃいかねーよ」 土方は視線を監視モニターの画面へ戻す。 「丁重にお帰り願え。監視はつけなくていい」 「はっ」
銀時が億劫そうに毛布を引き寄せながら尋ねる。 「なーんか、また現れそうな気がすんだよね。あれで終わりってこたねーだろうし」 毛布ごしに源外を向く。 「じーさん、なんか知ってんだろ。『紅桜ネオ』との戦い方とか。バカ正直に戦らなくても勝てる方法とか。裏でサラサラ流れてる噂話の数々を教えろや」 「そんなもんあってたまるけぇ。三十六計逃げるに如かず、戦ったヤツの話なんざ聞くかねーよ」 「ちょっとちょっと、なに言ってんの。俺それ聞きたくて呼んだんだよ」 「あ~、一人いたな。ネオじゃなくてオリジナルの方だったがぁ…正面から戦って『紅桜』の刀身ブチ折ったってぇ話が」 「それたぶん俺ェ!なんの参考にもならねーよッ」 銀時が肩をいからせる。 「そうじゃなくて、あんなシンドいのと向き合わなくても済むような方法ねーのかよっ、一言でいってアレの壊し方だよっ、大砲ブッ放すとかさァ、チョークの粉で爆発させるとか、磁石のデカイのにくっつけて動きを止めるとか」 「そんなのは効かねーな、アレの動きを止めりゃなんとかなるかもしれねーがぁ……あ、そうだあれだ銀の字、抵抗しねぇで身を任せると手足はしばらく動かねーが生命までは取られねーで済むとか…」 「ソレも俺ェェェーッ」 毛布のまま顔を突き出す。 「おまけに目もやられちまったんだけどッ、これナニ? なんの呪い? それともカラクリの理屈でなんとかなるわけ? 治せよ、治すカラクリ持ってこいよ、300円しかねーけどォ!」 「あぁそりゃ無理だ」 源外は即答する。 「カラクリでも呪いでもねェ、そいつぁ毒だよ」 「ど、毒ぅ!?」 「『紅桜ネオ』は生物兵器も搭載しているって話だ。人間の身体に影響を及ぼす数種の薬液を調合して放射注入できるってよ。中でも原始的な深海生物から抽出した神経毒は百発百中で失明させる威力なんだと」 「失明?」 銀時の声が上擦る。 「ちょ、なにサラっと言ってくれちゃってんの。失明だよ、失明。もっと本人に配慮するとかさぁ、ショックを受けないようにそれとなく遠まわしにとか、ちったぁ気ィ遣えよ!」 「う~ん…俺りゃ思うんだけどよォ」 源外は声を落とす。 「オメー、真選組の兄ちゃんと添うんだろ? ちょうどいい潮時なんじゃねーか。これを機にドンパチから足を洗って幕臣の端くれとして真選組の奥深くに潜りこみ、雲隠れしちまったらどうよ?」 「それは失明と関係ねーだろ!」 「戦わねぇなら目なんか見えなくても生きていけるだろうよ」 源外は溜息まじりに笑う。 「攘夷戦争は遠くなったんだ。オメーもいつまでも過去を引き摺ってるより、好いたヤツとその仲間に囲まれて安穏と暮らしてもバチは当たらねーよ」 「…じーさん」 「俺にゃその目は治せねーし、治し方も皆目見当がつかねェ。だが…もしかしたら、鬼兵隊の大将は知ってるかもな」 ぴょんと椅子から降りる。 「俺りゃこれで帰るぜ。おしゃべりが過ぎちまった。どーせ会話は筒抜けだろうが…俺が耳にした噂話ばっかだ、支障あるめぇ」 「俺も帰るよ」 長谷川が席を立つ。 「また用事があれば呼んでくれよな?いつでも待ってるから」 「あ……、うん、ありがと、長谷川さん…」 「なんだよ、元気ないじゃねーか。銀さんらしくない」 笑って長谷川は銀時の両肩にポンと手を置くフリをして耳元に囁く。 『俺が鬼兵隊の人に伝言してやろうか?』 「……墨くれる?」 銀時は毛布の中から手を差し出す。 隈無清蔵が音もなく動いて銀時の手に筆を渡す。 「長谷川さん、こっちこっち」 手招きでダンボール着衣を近寄らせると、もう墨の隙間もなく塗りつぶされた紙面の上に筆を走らせる。 「銀さん、なんて書いてあるのか読めないよ、それじゃ」 「読めんだろ」 銀時は感情のない乾いた声を出した。 「『祝儀よこせ』だ」
すっかり日も暮れた病室は、数種の警報器の小さいランプだけが点いている他は暗がりに輪郭だけが浮かび上がる異様な空間となって静まっている。 「万事屋」 そのただ中にベッドに座る銀時がいる。 「俺は屯所に戻る。ここには寝ずの番をつける。明日、退院だ。なにか足りないものはあるか。具合はどうだ?」 「あいつら…帰してくれたろうな」 「約束だからな」 「神楽は? それから…新八」 「チャイナはメガネの捜索に行くといって聞かねぇんで屯所で保護している。メガネの足取りは…はっきりしねぇ」 「ん、…そうか」 銀時は座った姿勢から横になる。 「じゃメシ食って寝るわ。神楽にも腹一杯メシ食っとけって言っといてくれ」 「あぁ…、言っとく」 「オメーもおつかれさん」 毛布の中から手がヒラヒラ振られる。 銀時の声が押し殺されたように空虚なのを土方も感じ取っている。 「聞きてェことはそれだけか」
つい土方は口を滑らせ、銀時にそう尋ねた。 PR |
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