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銀時は横向けに身体を丸めて寝転がる。 「婚姻届の『夫になる人』の欄は俺?お前?」 「俺だ。決まってんだろ」 「なんで決まってんだよ」 「幕府から『嫁を娶れ』って言われてんだ。隊士が嫁になってちゃ命令違反だろーが」 「んじゃお前、真選組やめて嫁になれ。俺が隊士になってやっから」 「アホか。通用するわきゃねーだろ」 「目さえ治りゃ通用する。だってお前に務まるもの、俺に務まらねーはずないし」 「この仕事はそんな甘くねぇんだよ。第一お前、目は治るかどうか解らねぇんだろ」 「あ。やっぱ無理だって?」 銀時は合点がいったように問う。 「俺にはなんも言わなかったんだよね、どの医者も」 「……言う段階じゃねーからだろ。急に治るかもしれねぇんだ」 「なぁ、お前…いいの?」 毛布の端から手が出てきて毛布を握る。 「こんな見えないヤツ、祝言とか無理じゃね?」 「式のことなら心配ねェ。目はケガをしたつって包帯したまま進行するよう上には手を回しておく」 「そうじゃねーよ。お前は厄介者を抱え込むことになるつってんだよ。前に出ることはもちろん、後ろでテメーの世話するのだってままならねェ。文字通り飲んで食って寝てるからな。まあ俺にとっちゃおあつらえ向きの話だけどね!」 「…………お前に言っとく。俺がお前と婚姻を結ぶのはお前を何かに使うためじゃねェ。お前は傍に居りゃいい。お前が目を病んだのは元はといえば俺が賊を止められなかったからだ。もしお前が失明したら、俺は一生をもって償う」 「なんつー重い話してくれてんの、テメーは」 銀時の声が、しかし笑いを含む。 「まあいいや、どのみちオメーには世話になることになりそうだしな」 「…任せとけ」 「あ、そうだ。もうひとつ聞きてェ」 毛布の下で銀時が身じろぐ。 「先刻の客が言ってた『紅桜ネオ』だけどよ。お前ら、その情報は掴んでたわけ?」 「鬼兵隊の武器が流出した話は聞いていた」 銀時は源外との会話を土方たちが盗聴していたという前提で話している。 「しかしその噂と電脳幹違法コピーと辻斬り似蔵の結びつきまでは把握してなかった」 「その手の稼業か、闇に身を置く連中には当たり前みてーな話だったけどな」 「そっち方面にはどうしても弱ぇ」 「へぇ、認めるんだ。素直じゃねーか」 「今後、改めるさ。…万事屋、退院までこいつを持ってろ」 土方はポケットから携帯器機を取り出す。 「できりゃ肌身離さずな」 「これって…」 渡されて銀時は形を確かめる。 「携帯電話?」 「これがオメーの居場所を教えてくれたからな」 使い古された黒いGPS受信機。 「こないだ貸したのと同じ型だ」 「これって掛けられんの?掛けてもいい?」 「構わねぇが、内容は全部録音してるぜ。相手の場所や番号もな」 「んだよ。公開羞恥プレイかよ」 「副長」 室内警備の隈無清蔵が進言する。 「そろそろ行かれませんと局長の指定された時間に間に合いませんよ」 「そうだった」 土方は思い出したように顎を上げる。 「じゃあな。明日迎えに来る。ゆっくり寝とけ」 「なに。まだお仕事?」 銀時は呆れたように握った携帯を振る。 「商売繁盛で結構だなコノヤロー」 「残業手当なんざ出ねぇんだよ」 後ろに手を振って土方は出ていく。
長谷川はホストクラブ高天原の店頭で本城狂死郎に話しかけた。 「銀さんが大変なことになってるんだけど、知ってる?」 「御婚儀を控えてらっしゃるのですから大変なのは言うまでもないでしょう」 狂死郎は客の迎えに出てきていた。 「すみません、長谷川さん。後にしてもらえませんか」 「あっ、ちょっと待ってよ!」 女性をエスコートして店内へ姿を消そうとする狂死郎に長谷川は声を張り上げた。 「銀さんさ、目が見えなくなっちゃったんだよ! しかもあの結婚、なんか含みがありそうなんだよね。銀さん困ってて助けてやった方がいいんじゃないかな?」 「……どういうことですか?」 ぴたり、狂死郎は足を止める。 「銀さんは幸福の絶頂を迎えようとしているんじゃないんですか」 「普通さぁ、結婚しようってヤツは盛り上がってない? しかも急に決まったっぽいし、なおさらだよね。なのに銀さんその話は避けるしイライラしてる。もしかして仕事がらみでお芝居してるのか、あるいは面倒事に巻き込まれちゃったっぽいよ?」 「分かりました。店内に席を用意します。2時間後、もう一度来ていただけませんか」 「構わないけど」 長谷川は眉を下げて笑う。 「この格好でいい?」 「ええ。どうぞ」 狂死郎は如才なく女性を連れて扉の向こうへ踏み入れていく。 「その話を聞きたいという銀さんの御友人でもいらっしゃったら、一緒にお連れ下さい」
ころころと笑う笑顔に、しなを作った片手を添えてキャバ嬢が声を掛ける。 「その斬新的ないでたちでお店の前に座り込まないでくださる?営業妨害で警察を呼びますよ」 「妙ちゃん…」 グラサンの顔をキャバ嬢に向ける。 「銀さんと新八君の話、聞いた?」
ティッシュを配りながら大声を振り立てる。 「はいはいそこのお兄さん、1時間5000円ポッキリだよ。いい子つけるよ。ワンドリンクサービスだよ」 「ヅラっち、相談に乗ってよ」 長谷川は横で手を叩きながらエリザベスと一緒に店の看板を担ぐ。 「銀さんがヤバイことになってるみたい。ヅラっちだったらどうしたらいいか言ってくれそうだし」 「銀時がヤバイのはいつものことだ。とくにあのアタマ。天パがヤバい」 「今週末、結婚するって知ってる?」 「ははっ、めでたいではないか。そうか、ついに決めたか。恥知らずどもめが」 「真選組の副長さんと」 「そうか、真選組の……なに?」 喧騒の中、桂は呼び込みを止めて長谷川を見る。 「いくら頭髪並みに頭の中身が捩じ曲っても、それだけは無いだろう」 言って、目を細める。 「罠かな」
布団の上には隈無清蔵が隊服の上着を掛けてくれていた。 消灯時間には2時間以上、間があった。 頭の横に置いた携帯電話が鳴ったのはそんな時だった。 「…んだよ、これ。誰あて?」 銀時は携帯を掴んで隈無清蔵へ突き出す。 「これオメーらの仕事の用事だろ。早く出ろ」 「いいえ。これは貴方に貸し出されたものです。通話は貴方あてです」 受け取って隈無清蔵は発信者を確認する。 「屯所からですね。おそらく副長でしょう。どうします、私が出てもよろしいですが」 「そうしてくれ」 「どうせ貴方に代わることになりますよ」 「面倒くせーなぁ、もう」 銀時は手招きして返された携帯を毛布の中へ引き込む。 「もしもし。なんだよ?」 『………』 「オイ、なに?」 『………』 「聞こえてるぅ?もしもしィィイ!」 『………』 「切れちまったよコレ! どんだけ気が短いのアイツ!?」 銀時が携帯を耳から外して毛布の外へ突っ返そうとしたとき。 『……………銀時?』
携帯から聞こえた低いイントネーションを耳が拾いあげた。 PR |
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