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【2024/05/04 02:05 】 |
第53話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第53話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

※『◯◯化あり閲覧注意』などの説明書きを必要とする方はお読みにならないで下さい。




「………なに、これ?」

手を出せ、と言われて掌を掴まれ、その上に軽い物質を乗せられた。

両眼に包帯をしたまま銀時はそれをゆるゆる握る。

丸くてデコボコしてほんのり冷たい。

長さのある数珠つなぎになったもの。

「オメーのクスリだ」

言って土方は水の入ったコップを渡そうとする。

「とっとと飲んじまえ」

二人きりで過ごす挙式前の時間。

誰も立ち入らせないまま新居の居間で膝を突き合わせていた。

「ちょっ、…ちょっと待てェェェ!」

ひとまとめにしてもブレスレットよろしく手の上でとぐろを巻いている。

とても飲み下せるような形状ではない。

「なんなのコレ違うよね?薬じゃないよね?!」

銀時は『物体』を握った手をなるべく前へ突き出しながらコップを押し返す。

「少なくても口に入れて飲みこむような代物じゃねェだろーが!?」

「クスリじゃないなら、なんだっつうんだ」

「いやいやいや違うだろ、だってこれ繋がってるもの!ころころした丸いのがいっぱい連結してるもの!ケツに押しこむビーズとかパールの類(たぐい)だよね?そんなもん誰が口から飲むか、騙そうったってそうはいかねーよ!」

「なんでそれがケツビーズだ。そりゃそういう形のクスリなんだよ。粒ごとに種類の違うホルモン剤とか、骨格を変える薬とか、細胞を変える薬とか、違った成分のものを一緒に飲ませるために繋がってんだ。水を含むと柔らかくなって簡単に飲み込めるんだとよ」

「か、簡単だとォ?ふざけんな、こんなもん飲めるわけねーだろ!」

ことさら手の中の感触を確かめる。

「半分だけ喉から出てきたらどうすんだコラ!お前だってモズク噛みきれなくてヤッたことあんだろ!?飲めない吐けない苦し紛れに口から引っ張ったら一人SM状態で涙出たろーがァ!」

「誰がそんな真似するか。モズク酢だろうが糸コンだろうがマヨネーズかけて食や…、」

土方は気がついたように顔を上げる。

「…あ。クスリにマヨネーズかけろってか。悪かったな、気がつかなくて」

「ま、まて、待て待て待てェ!さらに飲みにくくすんじゃねーよ!てか完全に飲めなくなるからヤメろぉ!」

ポケットからマヨネーズを取り出す気配に悲鳴を上げる。

土方は意外そうに銀時を見る。

「飲む気はあんだな」

投げ捨てずにクスリを持ったままの銀時の掌。

うぐ、と銀時は詰まる。

難癖をつけながらもマヨネーズから死守してるのはクスリを飲むつもりであることに他ならない。

土方の瞳が和らいで銀時を見る。

「なんならイチゴ味の牛乳でも用意してやろうか」

「………いらねェ」

首を振った銀時の口から溜息が零れる。

「コレ飲んだら…俺は俺でなくなっちまうんだろ。心の準備なんかできねーよ。いくら準備したってやれるもんじゃねぇ」

「解らなくもねぇが」

水のコップを傍らの座卓へ置く。

「俺と祝言を挙げるためにはコイツが要る。変わっちまったお前を何があっても護ってやる。お前は俺の信条を頼みにするしかねぇんだろ?上等だ。俺はお前を裏切らねェ」

「土方くん…」

熱を含んだ土方の言葉に銀時は切なく告げる。

「女になったらさァ、俺、毎朝オメーに稽古つけてやる。だって死んじまったら護れねーもの。一瞬で未亡人とか泣けるもの」

「どんだけ弱いの俺!?オメーん中で!」

「布団の中では強いと思うけどね。最強クラスだけどね」

「………知るか、そんなモンんん!」

土方は言葉に詰まったあとグッと奥歯を噛み締めて横を向く。

その素振りに銀時は大きく息を吐いて肩を落とす。

「飲むわ。んでオメーと祝言挙げる」

空いてる方の手を差し出す。

「これ以上ガタガタ言ったところで俺はオメーを信じるしかねェ。女になったら確実に動きが取れなくなる。オメーの庇護を受けながらガキでもこさえて真選組の屋台骨を強化する気の長い労働に取りかかるとするか」

「……ぬかせッ」

嘯(うそぶ)く銀時に土方は吐き捨てる。

「ケツからビーズ突っ込まれねぇうちに、とっとと口から飲みやがれ!」

「それが覚悟を決めた相手に言う台詞ぅ?」

銀時は唇を尖らせる。

「まあいいけどね。とっとと水よこしやがれ」

「……、」

銀時の手に土方は水のコップを持たせる。

大きめのそれに十分な量の水が注がれている。

銀時は片手に持ったクスリをもう一度握ると、まとめて口の中へ放りこむ。

追うようにコップを口に運び水とともにクスリを喉へ流しこむ。

ゼッタイ飲みきれなくて悲惨なことになると覚悟した物体は、なんの抵抗もなく一塊となって無事に胃の腑へ落ちていった。

「ふぅ…」

ほっとしたように息をついたのも束の間。

「んぐッ!ののの、飲んじまったァ!」

サーッと顔がこわばる。

焦って口を開け、喉を押さえて舌を出す。

「やべ、やべぇって! これ俺、女になっちまわね!? ちょ、カンベン! ちゃんと飲んだんだからさァ、もう良いよね、吐いていい? てか吐くわ、マジで女になるとかありえねーし!」

「吐けるわけねぇだろ。一瞬で溶けて吸収される即効性だ」

土方が冷酷な笑いを浮かべる。

「舌を噛まねぇよう、口を閉じといた方がいいぜ? 身体の骨組みから造りが再構成されるんだ、どこもかしこも軋みをあげてバラバラになって別物に組み上がる。窒息しねぇよう、しっかり息してろや」

「んなっ、そっ!」

銀時は恨みがましく土方の方を向く。

「そんな危険なクスリなのかよ、あぶねーなんて…、聞いてねっ…!」

非難をあげる声は次第に喘ぎ混じりになり、苦し気に上下しはじめた肩はガクガクと揺れ、あるときを境に銀時は喉が塞がったように崩折(くずお)れる。

「…んッ、…っく…!」

畳を掻きむしる腕の筋肉がデタラメに収縮し、見る間に小刻みに震える波が全身へ伝わっていく。

土方は目を見張り、危険な徴候が無いかどうか目を走らせて確認する。

差し出した腕を、懸命に銀時に触れないよう空中にとどめて気遣う。

敏感な変異の瞬間を迎えている銀時の身体は、やがて常とは違うものに向かって仕上がっていく。

畳表を掴みあぐねた手も、腹部を押さえて突っ伏した躯幹も、畳に曲げ潰れた脚も。

ふんわりした光を放つ銀髪のなめらかな質感さえ。

音を立てて組み変わるように土方の目の前で、脆(もろ)く柔らかな構造へと姿を作り変えていった。

「大丈夫か?万事屋」

ゆっくりと背中が上下して息が通るのが見える。

着ていた単衣はもはや身体に合わず、不格好に布地が余っている。

変わりきった朧気な身体が力なく変異を終える。

「……ァ、はぁ…」

銀時の口から呻きが漏れる。

土方が聞いたことのない高さの銀時の声。

堪えきれず土方は銀時の背を抱き起こし、腕に抱いてその顔を覗きこむ。

「オイ、どんな具合だ?苦しいとこはねぇか?」

「んぁ…なにこれ……サイアク…」

銀時の手が動いて顔にまといつく包帯を剥がそうとする。

吸いつくような肌、しっとり水気を含んだ艶やかな唇。

細い肩は抱きしめても腕が余る。

「よォ、俺の…」

笑いかけて土方は銀時の眼から包帯を外す。

「花嫁さん?」

 


続く

 


拍手ありがとうございます!
応援いただいたおかげで5月中に再始動できました!
読んでいただいてありがとうございました!


 

拍手[12回]

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【2012/05/26 09:17 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第52話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

更新情報

* 高銀第52話更新(ここ)/本日(1件)

* 余市日夏の銀魂たわごと更新/4月28日分(1件)

* 銀魂ネタバレ感想更新
     /今週の週間ジャンプの感想など4月26日27日分(2件)
      単行本派の方はネタバレありますので御覧にならないでください。

  パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます。

 

 

*  高銀話です(連載中)


第52話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

 


「気持ちよく晴れました!皆さま御覧いただけるでしょうか?抜けるような青空ですっ!」

ばらばらばら…とヘリコプターのプロペラ音をバックに花野アナが叫ぶ。

「今日は、真選組副長さんと婚約者の方の結婚式が執り行われます。いま私たちは真選組屯所の上空に来ていますっ!」

中継映像が空から真選組の拠点を映し出す。

「この結婚式では婚約者の方の性転換が話題になっているんですが、私たちはその現場に空からお邪魔しようと思いますっ! ……あっ、なにか屯所内で動きがあったようです!」

真選組の敷地内で黒い隊服の男たちが慌ただしい動きを見せている。

一斉に動き出した大勢の隊士に花野アナが声を弾ませる。

「練習のようですね。挙式のとき副長さんに内緒の演出でもあるんでしょうか!?隊士の方々によるサプライズな趣向が用意されてる模様です!」

映像が隊士たちを大写しにする。

なかには黒い隊服に混じって白い隊服を着た男たちが見慣れぬ機器を取り出して作業している。

花野アナは感心したように彼らをリポートする。

「真選組の方たちも、結婚式には白い隊服があるんですねっ!初めて知りました。着てる人と着てない人がいるようですが、式に参列する人だけが白隊服を着用なんでしょうか。デザインは一緒のようですが、白だと式典にピッタリな気品がありますね……えっ?なに、なんですかあれっ」

花野アナたち撮影の一行は、自分たちに向けられた砲口に気がつく。

グリグリ眼鏡の隊士が担いだバズーカが、撮影隊のヘリコプターに照準を合わせている。

「なんのお茶目でしょう、こちらを狙って…ウソですよね、……きゃあああああっ!!」

ドンッ!という発射音とともに空気が振動する。

すぐ近くでの炸裂と爆風。

ヘリコプターは衝撃に煽られ急激に傾く。

「う、うわああああああッ!!」

 

「チッ、外しやがったか」

グリグリ眼鏡の隊士、神山から沖田がバズーカを引ったくる。

「よく見ときなァ。バズーカってのはこうやって撃つんでィ」

銃器を肩に乗せ、スコープを覗いて標的を捕らえる沖田のさまは獲物を外さない不動の構え。

神山の砲撃を免れたヘリコプターも一瞬後には沖田のバズーカが命中し撃ち落とされるだろう。

「やめて、やめてぇ!」

「撃たないでくれ、頼む!」

大江戸テレビの中継ヘリがへろへろと体勢を立て直そうと必死で飛んでいる横を、沖田のバズーカの砲弾が通過する。

「墜ちる、だめだぁ!」

「当たったんですか、墜ちるんですかこれ!?」

「許可取ったんだぞ、なんで…!」

スタッフが頭を押さえ身を竦ませる中、ヘリの操縦士だけは懸命に操縦桿を操っている。

そのままヘリコプターは浮力を取り戻し、屯所から逃げるように高度をあげていく。

「まだ飛んでるんですか?」

「当たってない!?」

スタッフと花野アナが遠ざかる屯所に目を凝らしたとき。

離れた場所で、どーん!とぶつかったような音がして、近くの空を飛んでいた別のヘリコプターが撃ち落とされた。

「今日は招かれざる客、万来ですねィ」

沖田はまた次の方角へバズーカを構える。

「すいやせんが、空から来んのはやめてくだせェ。間違って撃ち落としちゃうんで」

花野アナのインカムに沖田からの音声が入る。

沖田もインカムをしている。

彼らは隊服に身を包み、警護に当たり、どう見ても婚礼に臨む支度ではない。

ふと付近の空を見渡すと、報道関係では見かけないヘリコプターが一定間隔おきにあちらにもこちらにもプロペラ音を轟かせて屯所上空を旋回している。

時折、その乗員が銃器を構え、屯所や隊士を銃撃している。

柄の悪そうな浪人たちや、統率の取れた若者集団、タスキを掛けた年かさの者たちなど、年齢も格好もヘリコプターごとにさまざまだ。

彼らはそれぞれ別口に屯所を襲撃しているようだった。

「なんで武力闘争になってるの!?」

花野アナは顰蹙する。

「今日は晴れの結婚式ですよ、今日ぐらい攘夷テロはやめてほしいですよねっ!」

大江戸テレビからそのとき彼らに指示が入る。

上空からの取材は中止し、屯所の正面から中継に入るように、とのことだった。

「そんな…!?いまからヘリポートに戻ってたら時間がない!」

花野アナは屯所の方向を振り返る。

「性転換薬を使うドキュメントを生中継する予定なんですよ、なんとかならないの!?」

しかし対空砲で迎撃しまくる屯所に戻るわけにもいかず、付近にヘリコプターが降りられる場所もなく、彼らは一旦大江戸テレビ局へ引き返すことにする。

「急いで、間に合わない! どこか降りられそうなところはありませんかっ?!」

花野アナは未練がましく地上を見つめる。

降りたところで車がなければ屯所へ行けないことは解っている。

走ってでも中継を間に合わせたいところだが、ヘリはどんどん遠ざかって走れる距離ではなくなっていく。

時計を見ながら我慢している花野アナはそのときふと街に人が見当たらないことに気がついた。

「…あら?」

屯所一帯、かなり広い範囲にわたってその周辺には歩いている者も車で移動している者もいなかった。

活動している人の姿が見られない。

しかもその区域への道路を真選組が封鎖しているさまが一部だけだが上空から確認できた。

「なんでだろう、なにかあるのかな? まさか結婚式に厳戒態勢ってわけでもないですよね?」

花野アナは首をかしげる。

自分たちが屯所へ向かう車まで真選組の規制を受けて通行許可が下りないとは、まさかこのときは思ってもいなかった。

 

 

続く

 

 

結局いつもの土曜日更新となりました。
今週はできないと思ってたから嬉しいです。
拍手ありがとうございます!
ひとついただくたびに「やたっ!」ってうきうきしてます

拍手[16回]

【2012/04/28 16:31 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第51話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

本日の更新

* 高銀第51話更新(ここ)1件
* 余市日夏の銀魂たわごと更新(一件)/パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます
* 銀魂ネタバレ感想更新(一件)/パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます



*  高銀話です(連載中)


第51話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

 

 

「お登勢よぅ…俺りゃ間違ってねぇよなぁ」

カウンターに酒を抱えこむようにして源外が潰れている。

「世の中どんどん物騒になってきてやがる…俺りゃ息子みてぇな連中に、こんな馬鹿げた体制の中で、あたら若ぇ命を散らしてほしくねぇんだ」

「まったくしょうがないね、この酔っぱらいは」

お登勢はカウンターの向こうで煙草片手に腕組みしている。

「お尋ね者のくせにさんざん飲み散らかして。若いモンの前に自分の腰が立つか心配しな。警察が踏み込んできたら自分が命散らしちまうよ」

「心配いらねェよ、その警察から貰ったのが今日の飲み代だ」

がはは…、と自棄な笑いを吐き出す。

「銀の字がよぅ、結婚だと! 幕府おかかえの公務員サマとよぅ。俺りゃアイツにはテメーの息子の分も幸せになってほしくてよぅ…」

「ホントなのかね、あの話」

お登勢は、ふーっと煙を上に向ける。

「アイツがなんの一言もなく出ていってそのまま結婚だなんて。あたしにゃ信じられないよ」

「本当に決まってるデショウ、ワイドショーはその話で持ちきりデスヨ」

キャサリンが横から口を挟む。

「好きな男と結婚するためにオンナになるなんて並みの覚悟ではできまセンヨ、いくらあのアホが甲斐性のないゴクツブシでも、今度ばかりは本気なんじゃないデスカ?」

「上は空き家になっちまったのか。あの嬢ちゃんはどうした?」

「そのままさね」

お登勢が嘆息する。

「荷物も子供もそのまま。家賃は払うから引き続き貸してくれって真選組から連絡があったよ」

「どういうこった?」

「ワケありみたいだね。こっちもすぐ借り手がつくわけじゃなし、話を呑んだけど。子供に良い状況じゃないことは確かだよ」

以前、銀時が記憶を亡くして不在だったときの万事屋を思い出す。

「様子を見て、目に余るようならキッチリ話をつけにいくさ。…もっとも、いま上には神楽も新八も居ないんだ。新八は行方不明、神楽は真選組に保護されてる。犬も寂しいだろうよ」

「犬は元気でしタヨ」

キャサリンがぼんやり告げる。

「様子を見に行ったら水もエサも換えてあって、一人でクウクウ寝てましたカラネ」

「真選組の連中が世話に来てるんじゃないかい」

お登勢は渋い顔で上を窺う。

「来てるなら顔を出して事情のひとつも説明していきゃいいのに。こっちはまるっきり蚊帳の外だよ。お役所仕事っていうのかねぇ」

「なんだ、オメーに正式な話も無ぇのか?」

「ただの大家と店子にそんなものあるわけないだろ、よしとくれ」

気がかりそうに顔を顰める。

「ただ…あの子が女になんか成りたがるかね。電話に出せって言っても出さなかったし、組があの子を抱えこんで無茶なことやらせてるんじゃないかって疑っちゃいるのさ。あの子も…いろいろあるからね」

「ははっ、ありゃ攘夷派でもっとも過激な大将の恋の片割れだからなぁ」

源外の口は酒でよく回る。

「幕府に目をつけられて真選組に鎖で繋がれちまうのも道理だろよ。だがなぁ、俺りゃそれを逆手にとって安楽な暮らしを手に入れるのも悪かないと思うぜ」

くい、と盃を干す。

「アイツはもう十分戦ってきた。ここらで羽を休めさせてやりてぇ。ましてや目があんなことになっちまったんだ、今度はアイツが誰かに護ってもらう番だ。大将は反体制、銀の字はそれに組みしねぇとなりゃ、真選組の懐に入っちまうのが一番安全だろ」

「アンタねぇ…寝ぼけたこと言ってんじゃないよ」

お登勢は呆れたように眺める。

「若いモンがそんな年寄りの繰り言みたいな勧めを聞くわけないだろ。だいたいアンタ、若いころ他人の忠告になんか耳を貸したのかい」

「…聞くわけねーだろ、そんなカビの生えた不味そうなもん」

「だったらアンタの役割は若いモンに保身を図らせることじゃないだろ。なにが正しいかなんて誰にも言えやしないけど、少なくとも…」


お登勢が言いかけたとき。

つけっぱなしのテレビが知った顔を大写しにしてきた。

『特集です!真選組副長の土方十四郎さんが今週、めでたく意中の人とゴールイン!』

リポーターの後ろに土方、そして銀時の顔写真が並んでいる。

『ということでワタクシ、真選組屯所に突撃リポートしてきましたぁ!今夜はそちらを御覧いただきましょう!』

源外もお登勢もなんとなく視線をテレビに向ける。他に客はなく、時間も過ぎたためキャサリンが暖簾(のれん)を仕舞いに立ち上がる。

『喧嘩するほど仲がいいと言いますが、お二人は会うと喧嘩するような間柄ということで、なんと御相手も男性の方なんです』

いまさらの情報を真面目な顔で説明する。

『男性同士の成婚はときどき見かけますが、今回特別なのは御相手の方が副長さんと結婚するために性転換、つまり女性になってしまおうという熱愛ぶりなんです!』

画面が録画映像に切り替わる。真選組屯所の正門が映り、ついで丁寧に手入れされた風情の良い庭へとリポーターが進んでいく。

『こんにちはー!』

花野アナが庭にいる二人に駆け寄っていく。

『すみませーん、大江戸テレビの者ですが!土方副長さんと婚約者の方ですよね!?お話伺えますかぁ?』

『なっ、んなっ!』

銀時は腕で顔を隠すと身を翻して背を向ける。

そのままカメラから逃げるようにヨロヨロ歩いていく。

『その反射板をどかせッ』

土方が撮影スタッフに手を翳す。

『眩しいんだよ、こいつは眼が悪ぃんだ、ギラギラしたもん向けるんじゃねぇ!』

『えっ、どこかお悪いんですか!?』

『だから眼が悪いつってんだろがァ!』

『…ぐぎゃっ!』

銀時が画面奥でコケる。庭石と立木の間につんのめって倒れこむ。

『ぎ、…万事屋っ!?』

土方が走り寄って倒れた相手の傍らに膝をつく。

迷いもなく抱き起こすとカメラから庇うように銀時の頭を自分の胸に抱きこんだ。

『婚約者の方は目をお怪我されたようですね。なにかあったんですか?!』

『先ごろ怪人に襲われてな。目を傷めた。安静にしなきゃならねぇ。悪いが撮影は向こうで、俺一人でやってもらえねぇか』

『あ、これ包帯だったんですね? 黒いからなんだろうと思ったんですが』

回りこんで銀時の顔を映し出す。

『じゃあ性転換は?まだされてないようですが、もしかして中止なんてことは無いですよね?』

『ちゅ、中止にできるもんなら中止して…』

『予定通り式当日に施行する』

銀時の呟きを遮って土方が告げる。

『遅発性の副作用で寝込むことがあるんだとよ。薬を使った初日なら、まだ副作用は出ないだろうから式当日にしろって医者には言われてる』

『わぁ、そうですかあ、楽しみですね~!』

花野アナは銀時にマイクを向ける。

『黒い包帯って珍しいですよね。もう屯所の中の新居にお二人で住んでらっしゃるそうですが、もしかして副長さんとそういうプレイで遊んでたりするんですか?』

『んっ、んなわけっ…』

『プライベートについて話すことは何も無ぇ』

土方は身体で銀時を隠す。

『こいつの準備があるんで当日は遅めの開始になる。中継は昼すぎになるぜ』

『その前に性転換の実況がありますんで私たち朝から入りますよ?』

『ふざけんな。そんなモン許可した覚えは無ぇ』

土方が花野アナと撮影クルーを睨む。

『大体、ここは立入禁止だぜ。誰に断って入ってきた?』

『広報の方です。屯所内どこでも撮影していいって言われてますよ。お二人の新居にもお邪魔していいですかぁ?』

『警備上の問題がある。そいつぁお断りだな』

眼光鋭く言い放ちながら、銀時の身体を支えて立たせる。

『大丈夫か?』

『あ…うん、』

銀時は土方に向かって俯いている。

『俺がぶつかったの、なに?』

『松の木の根本のデケェ石だ。その先に灯籠があったんだぜ、危なかったな』

『なんか…よく見えなくてよ…』

『気にすんな。きっとそのうち見えるようにならァ』

小声で言い交わす二人を見守る花野アナ、でVTRは終了となる。

画面変わってスタジオ、笑顔で祝福ムードのコメンテーターたち。


『というわけで、とってもアツアツムードのお二人なんですよ~!』

『あの包帯は本当に副長さんの趣味じゃないのかな?』

『新居にはカメラは入れたんですか?』

『実際にああいう包帯が眼科で使われてるそうなんです。眩しいときに目元を安静にするのに効果があるらしいんですね。けして怪しいグッズとかではありません(笑)』

『怪しいな~!』

スタジオに笑いが起こる。

源外とお登勢は画面から目を離して向き直る。

「銀の字…微妙に嫌がってなかったか?」

「微妙じゃないね。どっからどう見ても嫌がってたよ」

「じゃあなにか。あいつは嫌がってるのを無理やりオンナにされちまう、ということか」

「らしいね」

「そりゃ、あんまりな話じゃねぇか。男がオンナにされるなんざぁ、とても普通じゃねぇ」

「やっぱり脅されてんのかねぇ…」

お登勢が眉をひそめる。

「脅しに屈するような子じゃないし。真選組だってあの子を脅すようなタマにゃ見えないけどね」

「まいったな。こりゃ素直に祝福なんざしとる場合じゃねぇ」

「ちょいと。どうする気だい」

「いまさら罪がひとつふたつ増えたところで、この老いぼれには関係ねぇよぅ」

「助けに行くってのかい?」

「息子ばかりか、銀の字まで幕府に持ってかれちゃたまんねーからな」

「お待ちよ。どうにも裏がありそうじゃないか」

お登勢が諌める。

「事情も知らず余計なことしてあの子を窮地に追い込んだら目も当てられないよ」

「悠長なこと言ってる場合か、オンナにされちまうんだぞ!」

「ああ? 女のなにが悪いってのさ」

じろり、お登勢に睨まれる。

「男だろうが女だろうが、あの子はあの子だろ。動くなって言ってんじゃない、ちゃんと事情を確かめてから有効な手を打たなきゃしょうがないだろって言ってんだよ」

「事情を確かめるって言ってもなぁ…」

「アンタ、真選組にツテがあるんだろ。さっきそんなこと言ってたね」

「ツテって言うか、」

「そっから探りを入れたらいいだろうさ」

「探りもなにも…俺にカラクリ依頼してきたのは銀の字と祝言あげようってぇ兄ちゃんだけどよぅ」

源外は毛のない頭を掻く。

「なーんか銀の字のために必死でよ、あの兄ちゃん…とても謀り事してるようにゃ見えなくてなぁ」

「そりゃ…どうしたもんだろね」

お登勢も言葉に詰まる。先刻もテレビに映し出された二人、その銀時の相手にはわずかながらお登勢とも面識がある。

「ま…、あの子と添いたいなんて言ってる奇特な人間なら、悪い男じゃないと思うけどね…」

「暗闇と怒号の戦場」

源外は口の中で独りごちる。

「恐怖と疲労にずっしり重てぇ視界の中に、そこだけ重力から解き放たれて翻る白装束…それがテメーらの希望だと。テメーらの大将の拠りどころだと…お前は言ってたんだってなぁ、…三郎よォ…」

「アンタの息子さん、…良い働きをしたそうだね」

お登勢はカウンターにうなだれる源外を見つめる。

「銀時とよしみを結んだ男のもとに居たんだって? アンタがその男と銀時を気に掛けてるのは分かるけどね。惚れた腫れたの世界に他人が首つっこめるもんじゃないよ。せめてあの子が自分で人生の選択ができるよう、見守ってやるのが年寄りにできる精一杯の役目さね」

そのときだった。

ガラリと店の引き戸が開かれる。

「お、お登勢サン…!」

押されるようにキャサリンが暖簾を持ったまま店の中へ舞い戻ってくる。

お登勢、源外も顔を向けて戸口を見る。

そこに数人の人影、先頭にいるのは派手な着物を纏った隻眼の男。

「もう店は仕舞いかぃ?」

薄い笑いを浮かべて二人に尋ねる。

「なかなか良い店じゃねェか。よかったら俺にも一杯飲ませちゃくれねーか?」

「あんた…、」

源外が気圧されたように身を引く。

「なんでここに…!?」

キャサリンはカウンターの中へ逃げこんでくる。

お登勢は高杉とその後ろの男たちを、目を細めて見据える。

テレビ画面が繰り返し銀時の結婚を伝え、出演者たちは便乗ネタを連発して騒いでいた。

 

 

続く

 

 


拍手ありがとうございます。
心の支えにさせていただいてます。
この感謝を更新の力に換えてがんばります!

 

拍手[6回]

【2012/04/07 18:18 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第50話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第50話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

 


「なァ、万事屋。少し歩かねぇか?」

銀髪に顔を埋めて口付ける。

「屯所の中…、間取りや隠し通路も。お前に教えておきてぇ。オメーにはもうその権利がある」

「ん……いいけど」

銀時は包帯の上から眼を押さえる。

「俺、見えないし。たぶんなんにも覚えらんねーかも」

「武士は一回通った場所は体で覚えてんだろ?」

「う…、あ、あれは…、」

銀時は頬を赤くする。

「人に運ばれるなんて御免こうむりたかったし…、」

「みたいだな」

「なんで知ってんだよ」

「運ばれてる最中、そう叫んでた」

「…う~、いろいろとあんだよ」

銀時は横を向く。

笑って土方は銀時を抱く腕をゆるめると、銀時を連れて座敷を出ていく。

当日式場となる広い座敷や、続き部屋、控え室、あらゆる通路などの確認をしながら、ゆっくりした足取りで銀時を案内していく。

「この場所は、初めてじゃね?」

ふと銀時が顔をあげる。

母屋から庭へ降りたときだった。

「こんなとこ、あったっけ?」

「ああ。こりゃ非公開の中庭だな」

土方は銀時に草履を履かせる。

「当日は茶席を設けて客人に散策してもらう予定だ。庭師を入れて整えてる近藤さん自慢の庭で、通常は隊士も立入禁止だ。お偉いさんの接待に使ってるんでね、踏み荒らされるわけにゃいかないんだよ」

「いい匂いがする」

くんくん、鼻を効かせる。

「なんか花咲いてるよな?」

「あぁ、…白い花が咲いてる。匂うか?」

「葉っぱとか樹のニオイもする。池もあんの?」

「あるぜ」

「音がする。池の周りに樹が配置されてんだろ。見えたら見事だろうな」

「見えねェのに樹の配置まで分かるのかよ」

「んー、半分は勘だけど」

銀時は見えない眼で庭を見回す。

「なんつーの? 肌に感じんだよ。風が流れてくる間隔とか。湿った空気の方向とか。コウモリの出す超音波みたいな理屈じゃね?」

「オメーは眼が見えなくても他の感覚で補えるんだな」

土方は苦笑する。

「場数が違う…、か」

「そんなことねーよ。オメーらとたいして変わらねーって」

「そりゃどうも」

母屋と池、そして高い塀に囲まれた広い庭。

塀を越えて届く風にそよぐ銀時の髪に土方は目を細める。

「…オメーに聞きてぇことがある」

「ん。…なに?」

「まだ入院してたとき、病室でオメーが布団から手を出したんだけどよ」

こちらを見もせず風に吹かれてる銀時に、覚えてるか?と尋ねる。

銀時は解らない顔をする。

「そんなことしたっけ?」

「したよ。オメーは手ぇ振ってきた」

「…んー、覚えてねェな。それがどうかした?」

「ああいうとき、オメーはその手をどうされたいのか、聞きてぇと…思ってな」

「どうって…」

銀時は面倒臭そうに顔を背ける。

「そんなん、オメーの好きにすりゃいいんじゃね?」

「俺は、オメーの望むことをしてやりてぇ」

「だったら俺のして欲しいことすりゃいいじゃん。イチゴ牛乳掴ませるとか。チョコレート握らせるとか。パフェのひんやり感で驚かすとか。いろいろあんだろが」

「オメーは…」

つまらなさそうに土方は嘆息する。

「甘いモンのことしか無ぇのかよ」

「じゃあオメーはそういうとき、どうされてーの?」

むこうを向いたまま銀時が問う。

「俺に向かって手ぇ出して、俺になにしてほしい?」

「あ、…」

土方は状況を想像して絶句する。

もし、これが逆だったら。

自分が銀時に手を差し伸べたなら。

─── …手を、握ってほしい

    お前の手を、能うかぎり強く触れて感じて安心してぇ。

    伸ばした手を、いつでも聞かなくても握り返してくれ…

「ほれみろ」

銀時が黙りこんだ土方を笑う。

「別にこれといってやってほしいことなんて無ぇだろ?マヨネーズ握らせるくれーしか」

「高杉だったら」

思うより先に口に出していた。

「傍に高杉がいたら、オメーはどうされたかった?」

「なんで高杉」

銀時は憤慨したように口調を乱す。

「それがこれから祝言あげようって相手に聞くことかよ」

「いいから答えろや」

「なんでだよ」

「たんなる興味だ」

「そんなのに答えたくねーし」

「拒否権は無ぇつっただろ」

「えー、なんで拒否権?」

「言えよ」

語気を強める。

「それとも、俺に言えないようなことすんのか」

「しねーよ! たぶん…、」

「それとも、オメーも解らないんじゃねぇのか。高杉の考えなんざ」

「…んだよ、うっとーしい」

銀時は不快を露わにする。

と、同時に根負けする。

「ああもう、言うけどよ…、言った方がめんどくさくねーんだろ?」

ぶつぶつ言いながら口を尖らせ、それでも告げるのを迷った末。


「高杉は…きっと、俺の手に触らせると思う」

銀時の唇が開いてそれを告げる。

「アイツ自身の手を」


静かに、銀時は笑ったように思えて土方は思わず銀時を見る。

銀時は風を向いたまま口を噤んでいる。

知らず見開いていた目を、土方は伏せる。

その口元は苦しく歪んだ笑みを乗せていた。

─── そうか

    オメーは高杉を

    高杉はオメーを…互いに知ってんだな

    互いがなにを望むか…それを疑いなく差し出すことも


「あの…よ、」

銀時が手を動かす。

「そんなのどうでもよくね? オメー、俺を娶るんだろ。これから時間いっぱいあるし…好きな菓子のこととか…その、煙草やマヨネーズの銘柄もよ、少しずつ教えてくれりゃ…、」

見えない銀時の手が土方の在り処を探す。

その手を取ろうと土方が踏み出そうとしたとき。


「すみませーん、大江戸テレビの者ですが!」

中庭に撮影クルーを引き連れた花野アナが駆け込んできた。

 

 続く


拍手ありがとうございます!
コメントへのお返事は後日させていただきます。

 

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【2012/03/31 16:50 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第49話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第49話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

 


「なめらかでハリがあって、ものすごく頼りねェ…」

銀時は衣装の布地を掴む。

「とても触りなれた紋付の手触りじゃないんですけど」

「そうか?」

「ま、まさかたァ思うが…これ、コレ何?」

「白無垢だけど」

「しっ…しろむくぅ!?」

銀時は手を離して後退る。

「なんで白無垢?俺が白夜叉だから?白つながりで手のこんだ嫌がらせですかァァ!?」

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇからその名称を出すなァァ!」

「じゃあなんで白無垢?白無垢ってアレだろ、祝言のとき花嫁さんが着る礼服だろ?なんでコレが用意されてるわけ?」

「オイ、危ねぇぜ?」

「んあッ…!」

見えないまま衣装から離れようと後退る銀時を土方が引き戻す。

銀時は畳の上で何かの布地を踏んづける、と同時に背中に別に掛けてある着物が触れた。

「こっちにも着物…? なんだ、こっちが本命の紋付かよ?」

「いや違う。それも白無垢だ」

「白無垢? てことは、予備か。2着用意してんの、なんのために?」

「2着どころじゃねェ。ここには各サイズの白無垢を10着以上取り揃えている」

「じゅ、10着ぅ!? なんでそんなに用意してんの、ここは白無垢バーゲン会場かよ!?」

「だってオメー、当日オメーがどんな大きさになるか解らねぇだろ?」

「………はい?」

銀時は土方の腕に掴まったまま聞き返す。

「言ってる意味が分かんないんだけど」

「当日オメーには薬を飲んでもらう。そしたら体型も変わって、さぞこの白無垢が似合うことだろうよ」

「あの…あのぅ、それは…、」

銀時は片頬あげて引きつる。

「やっぱ、女体化…的な?」

「拒否権は無ぇぜ」

「だっ! ま、ちょ、でも、あのやっぱあ、ああ、アレだ、オメー俺を愛してないのかよっ!」

銀時は土方に顔を突きつける。

「愛してるんならこのまんまの俺でいい筈だぜ、俺がオンナにならなきゃ愛せねーっつうわけェ!?」

「アホか。愛してるよ」

「ん、…んがっ!」

銀時は言いかけた口を中途半端に動かす。

「んじゃ、…んじゃあ、このままで良いだろーがっ!」

「お偉いさんの前で同じ体格の野郎二人が祝言じゃ、カッコつかねぇんだと。こりゃ上からの命令だ。近藤さんが受けた。変更は無ぇ」

「なっ、………なんだよそれ! なにが命令だ、受けた、じゃねーよっ! 見損なったぜこの、…大バカヤローがぁ!」

怒りと焦りの入り混じった声で銀時がなじる。

「おっ、…おまえはっ! 『上からの命令』だけで、俺をオンナにしようってのか!? 俺の意志とか、人権とか希望より、そっちが絶対なのかよ!?」

土方の隊服を掴んで揺り動かす。

「結婚前からこれじゃ先が思いやられるぜ、テメーら『上』にゃ逆らえないんだろ?『上』が俺の手足斬れって言ったら斬るのかよ!? こりゃそういうこったろが!」

「『上』の命令だけじゃねーよ」

土方が言い放つ。

「お前がそうなった方が都合がいい。俺たちゃそう判断したんだ。お前に以前のような戦闘能力がないと知れ渡れば無駄にお前を戦場へ引っ張り出そうとする連中が仕掛けてこねーで済むだろ」

銀時を見下ろす。

「テメーは裏を守ってろ。ガキの世話して、隊士の面倒見て、真選組を支えてりゃいい」

「……ぐッ、」
 
隊服の襟を掴みあげる。

「テメー…俺を本気でオンナにするつもりか…」

「オンナどころか、下手すりゃガキになっちまうかもしれねぇな」

平然と土方は皮肉な笑いを浮かべる。

「地球人だと年齢設定ができないんだと。適齢期以前の年齢に戻っちまうこともあるらしい」

「…っ、」

「どんな大きさになっても当日は式を挙げて娶ってやる。ロリコンの誹(そし)りでもなんでも受けてやらァ。さすがに幼児用の白無垢は無ぇがよ、チャイナ娘くれーのサイズからなら用意してあるぜ」

「ろっ…ろりこ…、……っそこまでするかァ!?」

「悪いようにはしねぇよ」

悲痛に叫ぶ銀時を土方は抱き寄せる。

「オメーがえらく若返っちまっても、俺たちが全力で護る。もうオメーは刀を握る必要は無ぇんだ」

「そいつぁ御免だな、護られるなんて性に合わねェ」

銀時は腕を突っ張る。

本気でないそれを土方が強く抱き締める。

「たしかに…隊士全部あわせてもオメー1人の戦闘力に匹敵するかどうかかもしれねぇ。けどな、テメーがたった一人で戦ってきたもんを、これからは俺たちが支える。共有してぇんだ。お前の敵は、俺の敵なんだよ」

「あの…悪いけど、オンナになって若返っちまっても俺の方が強いと思う」

「……うるせぇ」

「戦力で考えんならさァ、誰か代役立てて俺の代わりに…」

「オメーを見に来んだよ」

銀時を抱いた腕に力をこめる。

「お偉いさん方も。『岡田』も。攘夷浪士たちも。往年の白夜叉の健在ぶりを…または無力化されたさまを愉しみてぇんだ。オメーじゃなきゃ意味が無ぇ」

「なんでお偉いさんが? 俺のことなんざなんにも知らねーだろ?」

「戦争末期に活躍した攘夷の英雄、それだけで十分なんだよ」

「見世物かよ」

「まあ、そうだな」

攘夷軍の英雄が、田舎の俄(にわか)侍の手に堕ちて封じられる不遇をな、とまでは土方は言わず噛み殺す。

銀時は、嘆息して力を抜く。

「『岡田』…てか、新八は来んの?」

抱かれるまま隊服の胸に顔を当てる。

「追っ払う算段はできてんだろうな? お偉いさんの前だからって仕留めるとか、重傷負わせるなんて余興になったら許さねぇ」

「備えはしてる。『岡田』の戦闘力は超大だ」

銀時の髪に手を添える。

「鬼兵隊も来るだろう。お偉いさんの前で失態は犯せねぇ。客人に怪我でもさせたら俺たち全員の首が飛ぶ」

「テメーらの首、つなげとくためにも…」

銀時はうっすら笑う。

「祝言は無事、お客に満足のいくよう終えなきゃならないってわけか。不興を買うわけにゃいかねーもんな」

 


続く



拍手ありがとうございます!
ものすごく、心身ともに嬉しいです!!体調もよくなりがちです!
もうちょっと先まで載っけるつもりだったので、近く更新できたらいいなあ…今夜は無理だけど!

右下に拍手レスがあります。
 

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【2012/03/24 16:41 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
【拍手御礼!本日一挙2話UP】第48話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)

第48話 気を引いても虚ろな世界(高銀)



【この記事は47話(本日UP)の続きです。下の記事からご覧ください】

部屋に呼ばれた山崎は手際よく用事をこなした。

二人分の朝食を運びこむと、彼は如才なく退出した。

「んで。婚礼衣装ってどれよ?」

朝食を済ませたらしい銀時と土方が姿を見せたのは、屯所の隊士たちが午前の勤務のためにとっくに宿舎から出払った後だった。

銀時は両眼に黒い包帯をつけ、土方の腕を掴んでいる。

「神楽は何を見ろって言ってんの?」

「さぁな。けど丁度良かった。オメーにも衣装を合わせておきてぇ。あとコンタクトレンズ」

土方は銀時が平らな地面を踏めるよう誘導していく。

「さすがにグラサンやアイマスクじゃお偉いさんたちに顰蹙を買う。包帯ってのも、めでてぇ席で負傷してるのかって煩せぇ小言を言われかねねぇ。それで遮光性の高い、ほぼ目隠ししてるのと変わらねぇコンタクトを用意した」

「コンタクトって、目ん中いれるヤツ?」

銀時は警戒気味に尋ねる。

「痛ぇのはゴメンだぜ。てか目ん玉に、ちっこいモンかぶせたくれーじゃ眩しくて目ェ開けてらんねーよ」

「安心しろ、虹彩よりでけぇ。眼への刺激もごく少なくしてくれるとよ」

「でけぇって、…そんなデカいもん入るかァ!」

銀時が声をあげる。

「まさか目ん玉全体に被せるんじゃねーだろな!?もうレンズってよりそりゃ眼球カバーだよ!目ぇ開けたら白目も黒目もなくベッタリ真っ黒だったら負傷中とかそんな可愛いもんじゃねェ、人前に出ちゃいけないレベルだよ、ホラーだよ!」

「さすがにそりゃ…大丈夫なんじゃねぇか? 一応、相手は技術屋だし」

土方は自信なさそうに口ごもる。

「ともかく完成品が届いてるはずだ。オメーにゃそれを着けてもらって本番に備え、慣れてもらう。なぁに、そんなに深刻に考えなくとも目ぇ伏せて下向いてりゃいい。わずかな時間の辛抱だ」

「いま辛抱つった。辛抱ってからには俺が辛くて苦しいことをオメーも解ってるってこった」

「…オメーはっ、苦しいのは自分だけだと思ってんのか!」

土方も声をあげる。

「ちったぁ人の気も考えろ!オメーが…! …っ、オメーが難儀してる横で俺が安穏と式の次第を満喫するとでも思ってんのか!?」

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇけどよ、もっぺんお偉いさんにだなァ、アイマスクか包帯の着用を認めさせるよう根回しする努力をだなァ!」

「こっちも大枚はたいてオメーの特殊コンタクトレンズを発注しちまったんだよ!」

銀時の手を引いて縁側の踏み石から母屋の廊下へあがる。

そのまま障子を開けて座敷へと踏み入れる。

座敷に人の気配はなく、真新しい衣装が上等な絹の匂いを放っている。

「だったらせめて「黒目です」ってごまかせるレベルの普通サイズに変更してくんない!?オメーは俺が『妖怪めぐろ』でもいいわけェ!?」

「………うるせぇぇえ! とりあえず暗室に入って包帯解けやァ!」

土方は急ごしらえの仕切りの中に銀時を連れ込む。

「ここでコンタクトの試着をだなァ、……あ。」

「んだよ。どーした?」

銀時は後ろから土方を窺う。

「黙ってちゃ解らねェだろ、俺は見えないんだからそうやって不安を煽るのはやめとけ。どうせ大したことじゃねーんだろ?」

「これ。……まごうことなき眼球カバー」

モノを取り上げて頬をヒクつかせながら銀時を振り返る。

「オメーの目にピッタリのサイズだと思う」

「………ホラね、ほらねェェェェ!!」

銀時が騒ぎ立てる。

「人類がなんでサングラスを採用してきたか解る?!光を遮るのに目ん玉に異物を差し込むのは効率が悪いからだよ!皆そろって目ん玉ヌラヌラになるのを防いできたんだよ!」

「ぐぬぬ…、どうなってんだ…、」

土方は長径3センチほどもある特注レンズを箱ごと握りしめる。

「祝言の席で使うって重々説明したんだぜ、」

その微妙な曲線を描く品物全体が黒い光沢を放っている。

装着したら、銀時の言うとおり眼が均一な黒光りに見えるだろう。

「あのカラクリ技師、祝儀代わりに腕を振るうってやる気出してたのに…なんでだ?!」

「祝儀代わり?カラクリ技師?」

銀時が聞きつける。

「それってもしかして平賀のジーサン?」

土方から否定の言葉が返らないのを見て鬼の首を取ったように笑う。

「そりゃ無理だろ。あのオヤジ、コンパクトで繊細なモンはカラクリじゃねェって豪語してるし。デカくてプリンなケツが好きだし。あんなガサツなオヤジに目に入れるような儚いモン作れるわけねーよ」

「光工学はお手の物って自負してたんでな」

土方は手にしたコンタクトレンズをためつすがめつ眺める。

「古来よりのカラクリ技術に天人由来の素材や原料を取り入れて100パーセント光をカットする十全なものが作れるって言ったんだ。可視外光線も弾くってよ」

「お前ら、よくあのジーサンに依頼する気になったね」

銀時は呆れと感心の入り混じった溜息をつく。

「相手は将軍暗殺未遂のお尋ね者だろうが」

「お尋ね者だろうがなんだろうが技術は買う」

土方は箱からレンズのひとつを取り出す。

「目的のためなら一時的な休戦だって有り得らァ。…入れてみろやコレ」

「エッ? …どうやって」

銀時は素朴な疑問を返す。

「やったことないし。コンタクトって目が見えなくてもハメられるモンなの?」

「さぁな、俺も使ったことねぇから解らねぇ。耳栓するみてぇにキュッキュと詰めちまえばいいんじゃねぇか?」

「ちょ、そんな鼻血にティッシュみたいなノリでいいのかよ? これ以上、目が再起不能になりたくないんですけど」

「…まて、ここに取説が入ってる」

土方はガサゴソ紙を広げる。

「『レンズは自然に眼球に吸いついていく』だとよ。やっぱり目に被せるだけでいいんじゃねぇか」

「ちょ待てェ、待ってェェ!」

銀時の包帯を解かせ、目にコンタクトを押しつけてこようとする土方の手を必死で掴む。

「そんなモン吸い寄せる磁石みてェな機能、俺の眼球には無いから!」

「けどそう書いてあんだぜ」

「それだけ!?他になんも無いの?」

「ええと、…あ。『極限まで近づけろ』って書いてある」

「ウソォォォ!」

再び目に迫ってくる巨大コンタクトを押し戻す。

「ゼッタイ違うぅぅ!なにかが違うぅ!!」

銀時は目を押さえて身を翻す。

「つきあいきれっか、そんなもん被せられんのはゴメンだぜ!」

「あ、バカッ、暗室から出たら…!」

「んぎゃがああああっ!」

黒いカーテンで遮られた狭い空間から出た途端、もんどり打って銀時は転がる。

両肘で眼を塞いだが室内の比較的弱い光でも過敏な眼器には耐えられなかった。

「言わんこっちゃねぇ」

土方がうずくまる銀時を抱え起こす。

「一旦、暗室へ入っとけ。もうしねぇから。……アレ?これ折れてるとこ広げたら続きがある」

源外の説明文に目を落とす。

「『指で上下のまぶたを開いて以上のことを行え』」

「ううっ…、あんのクソジジィ…、最初の手順を最後に書くんじゃねーよ!」

ぼろぼろと涙が銀時の両眼からしたたっている。

「オメーもなぁ、ひととおり読んでから人にモノを押しつけろやァ!」

「あぁ…つまりこういうことか。『指で上下のまぶたを開いて極限まで近づけろ。そうすりゃレンズは自然に眼球に吸いついていく』」

「ハメるのも吸いつかれるのも入れるのも今はしたくねェ…」

「そうか?じゃあやめとくか」

土方は暗室でしゃがみこむ銀時を見やる。

「『ハメたとしても痛くないはずだ。なぜなら痛みを緩和する特殊素材を練り込んである』」

「えっ、…そうなの?」

「『これには極秘に入手した失明毒中和剤が仕込んであるからハメていれば見えるようになる。騙されたと思ってハメておけ』」

「ま、マジでか!」

銀時は顔をあげる。

「やってくれたぜジーサン、アンタ掛け値なしの天才だ!救世主ってオメーのことだよ!!」

「『ただし視力が残ってないときは完全に悪化させる』」

「…エッ?」

「『目が痛ぇときや見えないときは、絶対にハメるな!』」

「………目が痛ェし見えないからハメようってんだろーがぁ!!」

うがぁぁぁ!と銀時は座敷の畳を叩いて暴れる。

「あのジジイなに考えてんだァ、俺の目に最後のトドメ刺す気ィ!?」

「今はやめといた方が無難だな」

土方は説明書もろともコンタクトを箱にしまい始める。

「もう一度、使い方を慎重に問い合わせてみらァ」

「…頼む」

すっかりうなだれた銀時は憐れを誘う。

そう見えても源外が入手した中和剤の情報がどこからもたらされたのか、銀時は十分に承知しているだろう。

土方は外した包帯をもう一度銀時の眼に巻き直すと銀時の手を引いて暗室を出る。

「先にコッチを済ませちまおうぜ。祝言当日、オメーが着る婚礼衣装だ」

暗室が置かれたと同じ座敷に、上等の着物が衣桁(いこう)に掛けられている。

「これっ…!?」

銀時の手に衣装の布地を触らせると、銀時は驚愕を浮かべた。

 

 


続く

 


拍手ありがとうございます!すごく嬉しくて、本日は2話一挙に更新しました!
きつかったけど、貴方様の拍手の御礼になればと思います。
読んでくださってありがとうございます!
 

 

 

拍手[15回]

【2012/03/17 16:34 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第47話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第47話 気を引いても虚ろな世界(高銀)





「銀ちゃんの部屋はここアルな」

神楽は真新しい集合住宅の区画へ一人で踏み入れる。

同じようなドアのひとつを選んでノックした。

「新婚さん専用部屋、間違いないアル。……銀ちゃん、起きてるアルか? 世話焼きに来てやったヨ、早く開けないと勝手にドア開けるヨ」

「かっ…神楽ァ!?」

蹴り心地を確かめるように神楽がドアをコンコンしていると、銀時の慌てて戸惑った声が部屋の中から返ってきた。

「ちょ、待て!開けんな、今そのっ…、やべーからいろいろと!」

「なにアルか?」

神楽がキョトンと訊ね返す。

「銀ちゃんの裸なんかヤバくないアル。それともパンツもどっか行っちゃうほど激しい夜を過ごして腹くだしながら吐いてるアルか」

「俺がいつそんな夜の果てに吐きましたァ!?そんなんじゃねェ、いいから誰か…、ええとジミー君呼んでくんない!?ジミー君だけ部屋に入ってもらう感じで、他の奴にはナイショな感じで頼みてェから!」

「ジミー君? 誰アルカそれ」

「山崎だ、そう言やァ通じる」

ドアは閉まったまま、銀時の傍らから土方が答える。

「悪いな、チャイナ娘。山崎に、…氷で冷やしたタオル持ってこいって伝えてくれねぇか」

「わかったアル。銀ちゃん、熱出したアルか」

神楽は部屋の中の銀時を気にかける。

「急な退院だったから熱出るかもって、あのアイツが言ってたアル。銀ちゃんが風邪で寝込むのはいつものことネ。でも今回は『ネオ紅桜』の毒でどんな後遺症が出るか解らないって、場合によったら誰とも知らない男の子供を身ごもることになるかもって言ってたから、銀ちゃんもしかして妊娠したアルか。それでドア開けられないアルな」

「なんで俺が妊娠んん!?俺は男だっつーの、しかも誰か解らないヤツの子供って、どんだけアバズレなんだよ!」

「『ネオ紅桜』の目的は銀ちゃんを襲って身ごもらせることだったって聞いたネ。ただし『ネオ紅桜』は実体がないから、それを使ってるシャバイ野郎どもが精子提供者になるって言ってたアル」

「それホントか?」

銀時はぐっと息を呑む。

「ヤツの目的ってソレェェェ?!なんつーとんでもねェこと考えてんだァ!そんであの実力行使ィ?…冗談じゃねェ、許せるかァ!!」

「銀ちゃんの体内でカプセルみたいなのが破裂すると身ごもるんじゃないかって言ってたヨ」

「か、カプセルぅぅ?」

銀時は自分の身体を探る。

「ちょ、どこにあんのそんなの?!取ってぇ今すぐ取ってェ!切れるとこなら切り落としてえいりあんの侵略を食い止めるわ、刀貸してくんない、お願いします!!」

「オイ、それ多分…総悟の流言だぜ」

土方が言いにくそうに口を挟む。

「全身くまなくオメーは病院で検査済みだ。これといった異常は無かった。『岡田』がオメーの身体に何か仕掛けを残してるってのは総悟が勝手に想像してるだけの話でなんの根拠も無ぇ」

「でもよ、沖田君がそう思ったってことはなんか理由があんだろ、まるっきり根も葉もないってわけじゃ…」

「あぁ、化け物じみた暴行犯がオメーを狙った合理的な説明を総悟はずっと考えていた。あんときゃまだ岡田似蔵とオメーの因縁をこっちは掴んでなかったのでね」

「あ…なに? なにか情報があったわけじゃねーの?」

「被害者の状況からして恨みよりゃ狂信的な執着のセンが強かった。手口を見るとどうも念入りな生殖行為なんじゃねぇかって現場じゃもっぱらの見方でな」

「…やめてくんない? ヤツの種ぇ仕込まれるとか考えたくねーし! しかもあれ、…ぱっつぁんだったら、…ぱっつぁんだったら…!!」

んぎゃああぁ…と雄叫びがあがる。

「ていうかあの花粉症リーゼント野郎、生きてんの!?死んでてもいいけど、もっぺん死んでくんねーかな!?一個の細胞も蘇らないカンジで!ゼッタイ俺の前に現れない保証書つきで!」

「…盛り上がってるとこ悪いけどワタシもう行くヨ」

神楽が乾いた口調で告げる。

「銀ちゃんなら身ごもってもなんとかなるアル。せいぜい優秀なオトコの種を狩りとれヨ」

「失礼なこと言うんじゃねーよ!なんとかならないしィ!てか身ごもらねーしぃぃ!」

「銀ちゃんが着る婚礼衣装見たアルか?」

神楽は大きな瞳でジッと扉を見つめる。

「自分の目で確かめるといいアル。話はそれからネ」

「エッ…?」

銀時は返事を待って耳をすます。

聞こえたのは神楽が駆けていく仄かな足音だけだった。



「俺、見らんないんだけど…」





続く



拍手ありがとうございます!嬉しいので連続して次話を更新する所存です!今日中にできたらいいなぁ…!
(できなかったら『無理でした…』のお知らせをします)

拍手[7回]

【2012/03/17 08:53 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第46話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第46話 気を引いても虚ろな世界(高銀)





「そりゃ変わるだろうよ。大人になるんだし。誰だってガキのままじゃいられねェ」

銀時は歯がゆそうに返す。

「けどそいつの本質は変わらねーんだ。生き方とか。信条とか。アレだ、三つ子の魂百までってことわざがあんだろ。世間を渡ってくために見かけが小器用になっても根っこんとこは同じだって」

「まあな。おおむね、そんなとこだろうよ」

「だろ?」

「だがな、それとは別に身近な人間を失ったヤツってのは、変わるんだよ」

わずかに土方の手に力が籠もる。

「もうこの世のどこを探しても触ることもできねぇ。世の中にゃ、それ以上に取り返しのつかねぇことなんざ、そうは無ぇんだ」

手を置いたまま銀時の胸元を掴んでくる。

「それを思い知った野郎は今まで気に障ってた過半のこたぁ大した問題じゃねぇって気づくんだよ」

「……お前…、」

「てめーらだって戦争で仲間がたくさん先に逝ったろうが。戦場じゃ、どっかマヒしちまうから身が刔(えぐ)られるような喪失感てのはそうは無ぇ。そんなことより戦わねぇとテメーが死んじまうからな」

銀時は口を噤んでいる。

土方が語っているのは彼自身の経験なのだろう。

「けどよ、高杉がいつの時点でかその痛みをマトモに感じちまったとしたら。世をはかなみ、己の無力を呪い、気が狂いそうな憎悪の中で、これだけは喪失(うしな)いたくねぇって本当に大切なものを探り当てたとしたら、テメェの信条曲げてでもソイツを離さねぇようにするだろ?」

「…アイツの…大切なもの…、」

「お前だよ」

土方は不愉快そうに言う。

「なんで俺がこんな節介焼かなきゃならねぇんだ。とんだ道化だぜ」

「…違ぇ!」

とっさに胸元の土方の手を払いのける。

「アイツが大事なのは死んだ人間だ、生きてるヤツは眼中に無ぇんだ!死者の無念を晴らすために、信じた道を貫くために命を掛けねーのはアイツにとって裏切りなんだよっ」

「高杉が死者のために戦ってるってのか」

土方は払われた手を泳がせる。

「そりゃあ戦争中だけじゃなくて今も?」

「あぁそうだよ、てかどーでもいいしッ!」

「よかねぇだろ、こんだけのことやらかしてる原因はオメーと高杉と岡田の関係の縺れだ」

「オレ外してくんない!? あのクソヤローが高杉に惚れてんのをこじらせただけじゃねーか!」

「外せねぇよ。『岡田』は深夜二人組を狙って一人を昏倒させ、オメーに似た方を襲う。どう見ても横恋慕した野郎がオメーを高杉から奪いとろうとしてんだろうが」

「あぁもうさぁ、もういいわ、めんどくせーよッ! 磔(はりつけ)でも拷問でも何でもすればァ! いっそ俺が攘夷軍の先陣きって天人ぶちのめしてた白夜叉ですぅって名乗っちまおうかなぁ、白日のもとで白夜叉だけに!」

「おまっ…、な、なな、なに言ってんだコラぁぁぁ!」

「知ってんだろ!?知っててその単語だけはずして喋ってんだろ!?そういうの、核心突いてこねぇまどろっこしいセックスみてぇで痛ぇやらコッチから言い出せねぇやらでイライラすんだよっ!」

「それでも口にしちゃならねぇ事柄ってのは存在すんだよッ、黙って近藤さん率いる真選組の武骨な優しさ受け止めとけやァ!」

「そんなもん受け止めきれるかァ!てか、なんで近藤さん!?まどろっこしいセックスに例えたら近藤さんって、テメーはどうなの、テメーはそんなにセックスに自信あんの!?真選組の大将はそんなにセックスが焦れったいんですかぁぁ!?」

「知るかァ!なんでそういう話になんだよ!?オメーがアレだってことは極秘なんだよ、テメーでばらしてどうする、それ隠すために俺たちがどんだけ苦労してると思ってんだァ!!」

「テメーら人を無理やり結婚させようとしといて何が苦労だァ!」

ぺしっと土方のスカーフを叩(はた)く。

「こういうのはさぁ、隠すから窮屈になるんだよ、嘘を嘘で塗り固めて最後は崩落すんだよ、自分で言っちまえば罪人みてーにテメーらの結婚の檻に一生繋がれなくて済むんだろ!?」

「その代わり見廻り組の獄に繋がれんだよ!下手すりゃ首が離れちまうわァ!」

「俺ってそんな極悪人?!なんで死罪って決まってんの!?」

「攘夷のプロパガンダに使われる危険性が高ぇんだ、そんくらい解んだろが!」

「ぷろ、プロパ…なに?」

「プロパガンダ、政治的な意図をもって特定の思想や世論、行動へ誘いこんでく宣伝行為のことだ。この場合は攘夷思想への扇動だよ、オメーを看板にすりゃ人が集まる。オメーは幕府にとって都合の悪い連中への影響力がデケぇ、そういうことだ」

「んなわけねーだろ、これだから関係者以外の当時を知らねぇ外野は困んだよ」

腹の底から溜息をつく。

「俺なんか『部活の対抗戦でちょっと目立ってた』くらいのレベルだかんね。全国水準じゃ、もっと有名なバケモンみてーな先輩ゴロゴロいたかんね。俺が戦(や)ってたのは戦(いくさ)も終盤、名を上げようにも戦況悪くてそもそも噂話広めてくれる生き残りがいねぇし。軍の大半の連中には面識無ぇよ。敗戦迎えちまったから語りつぐ後輩も居ねェから。『誰それ、知らない』って言われんのがオチだから恥ずかしいから良い加減にしといてくんない!?核心突いても誰もヨガりゃしねーんだよ!」

「安心しろ、そんなこたぁねぇ。俺が調べた限りオメーは名にし負う評判の英雄だ」

「やめて。恥かくの俺だから。ホントやめて」

「とにかく、オメーは一生俺の…、コホン、真選組のモンだ。オメーを真選組の鎖から解き放とうとやってくる連中を片っ端からしょっぴいてやらァ。屯所に居ながらにして浪士どもを大量検挙してやるぜ」

「なに壮大な夢見てんだァ! そんなん一人も来ねーよ!」

「まずは祝言だな。お偉いさんを揃えて真選組隊士がオメーを娶る、そんな席を設けりゃ総悟じゃねぇがオメーを略奪された怒りに燃えた連中がこぞって襲撃してくるだろうよ」

黒い包帯を巻いた銀時のこめかみを指先で触れる。

「俺たちの婚儀は盛大な罠でもあるんだ。狙いは『岡田』、岡田似蔵の執念に操られてオメーを求めて彷徨う辻斬り犯どもを一網打尽だ」

「だっ…!テメーらの罠はピンポイントで新八しかおびき寄せねェェ!」

「『岡田』は複数いたんだな。道理で捜査の狙いが定まらねぇはずだ。ここにいたと思ったら、とんでもないところで目撃証言が出やがる。電脳幹を解除すりゃ姿が変わるから逃走も潜伏も難しくねぇ。今度こそ逃がさねぇ、連続辻斬り事件、真選組が全面解決してやらァ!」

「あのー、聞いてる? 俺は言ったかんね、オメーらの望みの客は集まらねーって。そいつら来なくても俺のせいじゃないからね?」

「狙いは『岡田』だけじゃねぇ。瑣末な攘夷かぶれの浪人どもと、できりゃ『ネオ紅桜』を資金源にする攘夷組織、それから…」

「夢ふくらませてんじゃねーよ、ズボンの股間みてーによォ」

「最上の獲物は高杉晋助だぜ」

「……!」

名を聞いて一瞬固くなった銀時の身体を床柱から引き戻して布団に組み敷く。

「なんと言っても高杉は来る。俺を殺しに…、お前を奪いにな」

「んがっ、ぁ…っ…!」

単衣を剥がれ、むきだしになった胸に吸いつかれながら布団に押さえこまれる。

「や、ちょっ…、!」

「ぼちぼち観念しろや。婚儀は目前だ」

塞がりきらぬ刃物の傷を柔らかく噛んで唇でなぞる。

「口でなんと言おうとオメーが高杉を恋しがってんのは解ってる。けどあの野郎にゃ渡さねぇよ」

色の薄い乳首を下唇で楽しげに弾く。

「オメーに平穏な時間を、物騒な連中とは無縁の暮らしを享受させてやれんのは俺たち真選組だ。目が治らなくても手足が動かなくても構わねぇ」

もう片方の胸にも指が這う。

膝を割られ、股間に手が差し入れられてくる。

「ふッ…、んっ、ゃめ、…う、…っあぁ、」

見えないまま銀時は自分の上に重みをかけてくる土方の肩に掴まって息をあげていく。

『ちょうどいい潮時じゃねーか。これを機に雲隠れしちまったらどうだ? 目が見えなくても生きていけるぜ』

頭の中に浮かんでくるのは源外の言葉。

『攘夷戦争は遠くなったんだ。過去を引き摺ってるより、好いたヤツとその仲間に囲まれて安穏と暮らしてもバチは当たらねーよ』

「ァ、やッ…んぁあ! だッ、…ぁぁうッ…、」

「入籍したら遠慮しねぇ。毎日俺と、こんなだぜ?」

「な、なに…、どこ…触ってんだっ、…は、離しやがっ、ぁあっ…!」

「オメーなら手負いだろうが目が効かなかろうが、俺を拒むくれーのことはできんだろ?」

銀髪を掻きあげ、顔をよく見えるように自分へ向かせてから唇を唇に寄せる。

「よく考えろ。俺を選ぶか、高杉を選ぶか」

唇が力強い熱に覆われる。

「高杉を選ぶなら押しのけろや。けど俺とここで暮らすなら、このまま…」

「んっ……、は…、っ…、」

口にぬめる柔らかいものを受け入れながら下腹部をまさぐられる。

ようやく銀時は気がつく。

自分の恋心を向けるべき相手を明確にする時なのだと。

「どうする?」

囁きながら愛撫してくる。

身体はとっくにヒクついている。

誰を求めれば安楽か、身体は答えを知っている。

「んっ、は…ぁ、」

答えようにも口の中は熱い滾りに喉まで蹂躙されている。

手は、土方の隊服を掴んでいる。

裾を割って立てた足には土方の手が這っている。

ときおりひどく優しく手が髪を梳いてくる。

啼きながら身を震わせ、銀時は包帯の下で目を伏せていった。

 


続く

 

 

 

拍手ありがとうございます!
嬉しいやら、嬉しいやら、次話を書く原動力となっております!
(拍手を見ながら書き出しています!)

来週は更新をお休みさせていただきます。
間が空いてしまって申し訳ありません。
次話も読んでいただけると嬉しいです!

 

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【2012/03/03 15:26 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第45話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第45話 気を引いても虚ろな世界(高銀)




「攘夷戦争末期に目覚ましい活躍をしたオメーが、その異名をもって敵味方に畏れられていたのは周知の事だ。それでも俺たち真選組はそれに触れないようにしてきた。俺たちが見る限りお前は戦いの鬼神でも血まみれの殺人鬼でもねぇ。人を護りぬくために惜しむものなどありゃしねぇって、ただのバカだ」

「…バカじゃねーよ! これでもなぁ、いろいろ計算して生きてますぅ」

「テメーの命や体面、場合によっちゃ柵(しがらみ)さえもかなぐり捨てる野郎のどこが利口なんだ?」

「んな、大仰なもんじゃねー…」

「夜叉だろうが修羅に堕ちようがそんなことは厭(いと)わねぇ。ただオメーは自分の護りたいもん護るために刀振るったんだろ?俺たちゃなァ、その戦いぶりが簡単に目に浮かぶんだよ。今更イチャモンつけるような真似されちゃ真選組も黙ってらんねぇ」

土方の手が銀時の後ろ髪を掴む。

「俺たちの仕事は善良な市民を護ることだからな」

「あのよ、えーと…」

銀時は土方の腕をぱんぱん叩く。

「だからって政略結婚はやりすぎだろ? オメーら、そのへんなんも話さねーからワケ解んねーし」

「お前だって何にも明かさねぇだろが」

鼻で笑う。

「答えは全部テメーの中にあるじゃねぇか。『岡田』の蛮行や高杉の行動。テメー、桂と高杉の武力抗争で岡田とは並ならぬ悶着があったってな。橋田屋での捨て子騒ぎのときから岡田はオメーとの勝負に拘ってたそうだが。以前から岡田はオメーに執着してた、違うか?」

「なっ、なんでそんなこと…?」

「チャイナに聞いた」

あっさり土方は明かした。

「昔なじみの桂を殺されたと思ったオメーらが巻き込まれてったくだりもな。高杉が開発してたのは『紅桜』と呼ばれるたいそうなカラクリ仕掛けの刀で、そいつを爆破したのが桂なんだろ?」

「…ん、ぅぐ…、まあ…、そんなこともあった…かもしれませんねェ、」

「さらに高杉は天人とツナギをつけたらしいが、その相手ってのが銀河系最大の犯罪シンジケート『春雨』らしいな」

「え、そんなこともバレて…あ、いや、」

「チャイナによれば岡田はオメーに異様に執着してて、それこそ立ち会いの最中も性的な情熱を注いでたってなァ」

「くぁ~、あの娘ェ!ペラペラペラペラあることないこと何喋ってくれてんだァ!」

「宿主の情報を徹底的に集積した電魄『紅桜』をもとに作られたのが『ネオ紅桜』なら。岡田似蔵の情念を受け継いでオメーを付け狙い、その宿主を操って辻斬りよろしく暴行事件を起こしたってのも説明のつかない話じゃねぇ」

「ちょ、それはねーって!」

銀時は即座に否定する。

「岡田が惚れてんのは高杉なんだよ。野郎は高杉に認められ、重用されて高杉の一番大事な人間になろうとしてんだ。それにゃ俺を血祭りにあげるのがいいと思ったんだか、俺を目の敵にしてんだ」

「血祭りなら仕留めりゃ済む。奴はオメーを欲しがったろうが」

土方が見解を突きつける。

「オメーの名を呼んで探しながら似た野郎を見つけちゃ蹂躙する。けど全員、命は助かってる。ときどき催淫剤使われるケースがあったが、オメーみてぇに神経毒や筋融解剤使われることは無ぇ。悪ィが『岡田』にゃ坂田銀時への害意はあっても殺意は感じられねぇんだよ」

「てっ…、テメーは知らねーからっ!」

銀時は瞬間的な怒りに駆られる。

「野郎はなぁ、コトが終わったら俺を殺すつもりだったんだよ…っ! 生かしとく気ならこんな無茶しねーだろ。体中、毒まわってたし、目ェ潰れちまったし、…あの最中だってなぁ、なんかい死ぬって思ったか分からねぇ……って、オイ」

ピクリと妙な気配を滲ませた土方に逆上する。

「その『死ぬ』じゃねぇぇえええ! あんな野郎の触手マッサージに感じるわきゃねーだろォォォ!」

「……なにも言ってねぇよ」

「いや言った!心の中で!お前なぁ、俺がどんだけ悲惨な目に遭ったか解ってる? 憎らしい恋敵をいたぶって殺すために奴ぁ人体の急所を責め続けたんだよ?」

「そりゃ…その通りだろうがよ、」

「許せねぇのはなぁ、獲物にまったく反撃させねぇ卑劣な根性だよ、動けねぇまま嬲り殺しなんて、よくもそこまで人を貶められると思わねぇ?」

「オメー、よっぽど怖かったんだな」

「クスリで動くこともできねぇなんてサムライの死にざまとしちゃお寒い限りだ、奴が辻斬り騒ぎ起こして俺を探したのは手も足も出ずに死んでく屈辱を味わわせるためだよ、あそこで高杉が来なかったら思うつぼだっ…たっ……、んあ…っ!」

「高杉が、どこで来たって?」

「い……いやウソウソ、誰も来てねーよ、」

「隠すこたぁ無ぇだろ?」

後ろへ身を引こうとする銀時を土方が抱きとめる。

「高杉は自分が創り出した『紅桜』の劣化コピーを回収しに動いてんじゃねぇのか。武市が『犯人の身柄は譲る、だが犯人の一部を渡せ』つってたのは犯人が装着していた電脳幹をよこせってことだろうよ。案外、『ネオ紅桜』がオメーを狙って不埒な辻斬り事件を起こすから、高杉は陰ながら護ろうとしてたのかもな」

「……」

「岡田似蔵は死んだのか?」

「…知らねえ」

「高杉は、岡田の生死を掴んでるのか?」

「…どうだかな」

「本物の岡田似蔵が『ネオ紅桜』を携えてお前を襲ったら手に負えねぇ、高杉はそう考えてんじゃねぇのか」

「あのなあ、」

銀時は土方の胸に手を突っ張って距離を開ける。

「ものすごく勘違いしてるみてーだから言うけど、高杉は俺のことなんか何とも思ってねーから。昔っから妥協することも都合聞くこともねェ、はっきり言ってカラダの関係だけだったから」

「アホか。今どきそんなの小学生でも信じねぇ」

「なんで頭っから否定!? お前だって聞いてただろ、人のことボンクラだの死ねだの腑抜けだの、さんざんな言われようだったろーがっ」

「聞いてねぇ」

「エ?」

「少なくても俺のいる前じゃそんな話してねぇよ」

「居たっつーの。バッタリ高杉に遭ったとき言ってたろうが。絶対お前も聞いてた!」

「あぁ、ボンクラってのは昔のことほじくり返すなって釘差してたときな。…ったく、テメーはヤツの言う通りのボンクラだぜ」

あきあきした声で銀時に言う。

「テメーの耳にゃアレが悪態に聞こえたんだろうが、俺にゃそうは聞こえなかった。オメーへの愛着すさまじいだけだろうが。俺への殺気は半端なかったけどな」

「オメーに殺気?高杉が?」

銀時は少し考える。

「そうだっけ?全然気がつかなかった」

「お前と婚礼を挙げようってんだ、俺にはハラワタ煮えくり返ってんだろ」

「そんなことねーよ、俺が誰とどうなろうとアイツどうでもいいんだから」

「どうでもいいなら信州の山ん中までお前を助けに行くか?わざわざ真選組にツラ晒してまで町中で会いにくるかよ。ご丁寧に病院潜入まで果たしてくれやがって、警察のGPS電波まであらかじめ乗っ取っとく用意周到さだ」

銀時の頬をぎゅっとつまむ。

「てめーこそ高杉のあのツラ見てねぇから、んなこと言いやがんだ。ヤツが山荘から逃げてくヘリの中でどんな顔してたと思う? 勝ち誇ったような見下した、いかにも出し抜いてお前を手に入れたっつう、当てこすり満面の笑いをヘラヘラ浮かべてやがったぜ」

「ヘリん中のヤツ、よくそこまで見たな」

頬を変形させたまま銀時が可笑しそうに言う。

「アイツ昔っから高いとこ好きなんだよ、ヘリ乗んの嬉しくてたまんないんじゃね?」

「そんなら俺見てニヤつく理由はねぇだろ」

「ムカついてるとこ悪ぃんだけど、高杉が山ん中に居たのは『ネオ紅桜』を回収しに行ったからだよ。あんとき川辺で会ったのも自分の命令外で動いてた手下を無駄死にさせないためだろ?」

「ヤツは『岡田』をどうしたんだ?『ネオ紅桜』の電脳幹を持ち去ったのか?」

「知らねえって、見えなかったし。俺こそ聞きてーくらいだよ。あの『岡田』っぽいヤツ、どうなったの?」

「行方知れずだ。捜索はしたがな、あの付近にゃいなかった」

土方は遠慮がちに付け加える。

「オメーんとこの眼鏡が高杉のヘリに同乗してたのは見たんだが」

「……やっぱ、あのヘタクソなマッサージ、ぱっつぁんかよ。…涙出るわ、いろいろと」

「高杉はオメーを弄り回してた野郎を、たとえそれがガキでも懐に入れちまうような奴なのか?」

「だから先刻から言ってんだろ。高杉は俺を一線から退いた落ちぶれもんだと思ってる。歯牙にもかけてねーよ。アイツが動いてるのは『ネオ紅桜』が出回ってるのが許せねーだけだって」

「俺にはオメーとの体位にまで注文つけてったぜ」

銀時の胸に手を当てる。

「オメー、手負いか? 腹の上に乗っけろってのは自分たち過去の攘夷軍が崇めた武神を組み敷くなってことかと思ったが…あの抗争で怪我してんのか?」

「ちょ、セクハラだろ、」

「高杉はお前の傷に障んねぇように、じりじりしながら精一杯の配慮で俺に頼んだんじゃねぇのか」

「あのなぁ、オメー根本的に間違ってるぜ」

銀時は単衣の上から胸を撫でる手を掴んで動きを阻む。

「高杉は配慮なんかすることは絶対に無ぇ。ちょっかい出したり、邪魔だっつって殺そうとしたり、気まぐれに性欲の捌け口にしたりするけど、俺のために動いたり、都合考えたり、とりわけ俺を助けに来ることなんてありえねーから」

「じゃあなんのために病院に現れたんだ?」

手を掴まれたまま銀時の胸元に手を置いている。

「オメーへの用事以外、考えられねぇだろ」

「本当に来たのかよ」

腹立たしそうに問う。

「俺、全然知らねーんだけど」

「お前の部屋に見せかけた別の部屋に入ってった」

「じゃあ、そっちに用事あったんじゃね?」

「ッあるわけねぇだろが」

「とにかく。高杉は昔っから俺のことはどうでもいいの。本当ーっに、死んだって構わねーって勢いで、人をいたわるとか、ねぎらうとか、俺以外にはやってたけど俺にはこれっぽっちもねーから。集中砲火ん中でも人を捨ててっちまうし、扱いは乱暴だし、勝手に生きてろ、そんで自分が気が向いたらサッサとヤらせろ、それ以上でも以下でもねェ」

「そりゃ…戦争の頃の話か」

「そうだよ。今だって変わってねェよ」

「万事屋…、俺が高杉に塩なんざ送りたかねぇが」

正面から土方は銀時に告げた。

「人間(ひと)は変わるもんなんだぜ」

 

 


続く




拍手ありがとうございます!
前話は短かったのに拍手いただけてすごく嬉しかったです。


今日2月25日は定春の誕生日ですね。おめでとう、定春~ッ


 

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【2012/02/25 13:04 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
第44話 気を引いても虚ろな世界(高銀)

*  高銀話です(連載中)


第44話 気を引いても虚ろな世界(高銀)




「お前なァ…」

土方は銀時の笑う顔を呆れたように見つめる。

「そんなに俺が疎ましいのか。抱かれんのが嫌なら搦め手の嫌がらせはいらねぇ、ハッキリそう言え」

「嫌じゃねーよ」

銀時が口を尖らす。

「フンギリが付かねぇだけだ」

「高杉に操を立ててんのか」

座った銀時を、ほぼ抱き締めたまま土方が尋ねる。

「お前の心は高杉のもんだ。身体もそうしてぇんだろ?」

「………なに言ってんの?」

銀時は平坦に土方の顔のあたりを見上げる。

「アイツはなんの関係もねーよ。考えてもみろ、オメーだって道でときどき遭うだけの野郎とケッコンしろっていわれたら、そう簡単に身体の関係が持てるかよ」

「なァ万事屋。ネタは割れてんだ。そろそろ白状しようや」

土方は穏やかに、むしろ力無く銀時の頬を親指でなぞる。

「お前は隈無(くなまく)宛ての電話が俺じゃなく高杉からのもんだって解ってたんだろ?お前は病室に高杉が来ることを知っていた。そしてそれを誰にも言わず待っていた。反論はいい、俺ァ確信してる」

身じろいで口を開こうとした銀時を押しとどめて強く抱く。

「高杉はお前の目を治そうとしてたんじゃねぇのか。だから一人で来た。お前を連れて逃げる厄介な逃走経路を確保していたフシは無ぇ。平賀源外の推測どおり高杉はお前の目を治す方法を知っている、お前もそれを承知の上で隈無に黙ってた」

「だっ、そんなん…!」

「根拠はなァ、お前が隈無に電話を代わるとき、そいつが隈無であるかどうか確認しながら代わってたことだよ。普段、隊士の名前なんかどうでもいいお前が、高杉が『隈無は居るか?』って聞いたから隈無以外の野郎だったらまずいと思って確かめたんだ。通話の記録は残ってるんでな、お前らの会話は聞かせてもらったよ。ずいぶん殊勝な声、出すじゃねぇか」

「んぐ、だからそりゃアレだ、お前だと思ったから、えええ演技だろうが!隊士の前じゃアツアツにしとけって…!」

「『岡田』に連れてかれた山荘で、オメーを弄りまわしてた『岡田』を退けたのも高杉だな?」

土方の声は凪いでいる。

「お前は『岡田』は役に立たなかったと言ってた。『岡田』を撃退してお前と思いを遂げたのが高杉だ。身体に残ってた痕跡は高杉のもんだ。違うか?」

「うぅ、だ…だからあんとき、クスリとかいろいろ使われたし、なんにも見えなくて記憶がモーローで、ってか、そのぅ…」

「隠す必要は無ぇよ。攘夷戦争行ったとき、お前らが恋仲だったってのは有名な話らしいな。お前の過去なんざ調べたくもねぇが攘夷浪士を調査してりゃどっからでも目耳に入ってくる事柄だ。その二人がよ、夜中に密会してるとなりゃ、真選組じゃなくても放っておけない事態だと思わねぇか?」

「……え?」

「毎夜、犬つれたお前が高杉と逢ってんのは警察内じゃちょっとした関心事だったんだよ」

「ぁ~…、」

「攘夷戦争の英雄と過激派攘夷集団の頭目が並び立てば、どんな厄介な騒乱が巻き起こって各地にくすぶる浪士どもを奮い立たせねぇとも限らねぇ」

「…んなバカなこたねーって」

「お前を押さえるべきだって動き出そうとする野郎が…新設の警察組織の局長だけどよ、近藤さんがいくらお前は無害な一般市民だっつってこれまでの真選組への助力を挙げても聞く耳もたねぇ。このままじゃオメーを見廻り組に持ってかれちまう、そう判断して俺たちゃお前の囲い込みに踏み切ったんだ」

「つまり…助けてくれたってワケ?」

銀時は自分を抱く土方の腕に手を置く。

「婚姻話も、辻斬り話も、キツネうどんにのった油揚げみたいなもんで、本当のおめーらの狙いは…」

「『あんな野郎にオメーを捕られてたまるか』」

銀時を胸に抱きしめたまま土方はクスっと笑った。




続く




拍手ありがとうございます。
半端でも短くても更新する、それが今日のモットー!
くふふ!


 

拍手[13回]

【2012/02/18 16:48 】 | 気を引いても虚ろな世界(高銀) | 有り難いご意見(0)
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