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* 高銀話です(連載中) 手を出せ、と言われて掌を掴まれ、その上に軽い物質を乗せられた。 両眼に包帯をしたまま銀時はそれをゆるゆる握る。 丸くてデコボコしてほんのり冷たい。 長さのある数珠つなぎになったもの。 「オメーのクスリだ」 言って土方は水の入ったコップを渡そうとする。 「とっとと飲んじまえ」 二人きりで過ごす挙式前の時間。 誰も立ち入らせないまま新居の居間で膝を突き合わせていた。 「ちょっ、…ちょっと待てェェェ!」 ひとまとめにしてもブレスレットよろしく手の上でとぐろを巻いている。 とても飲み下せるような形状ではない。 「なんなのコレ違うよね?薬じゃないよね?!」 銀時は『物体』を握った手をなるべく前へ突き出しながらコップを押し返す。 「少なくても口に入れて飲みこむような代物じゃねェだろーが!?」 「クスリじゃないなら、なんだっつうんだ」 「いやいやいや違うだろ、だってこれ繋がってるもの!ころころした丸いのがいっぱい連結してるもの!ケツに押しこむビーズとかパールの類(たぐい)だよね?そんなもん誰が口から飲むか、騙そうったってそうはいかねーよ!」 「なんでそれがケツビーズだ。そりゃそういう形のクスリなんだよ。粒ごとに種類の違うホルモン剤とか、骨格を変える薬とか、細胞を変える薬とか、違った成分のものを一緒に飲ませるために繋がってんだ。水を含むと柔らかくなって簡単に飲み込めるんだとよ」 「か、簡単だとォ?ふざけんな、こんなもん飲めるわけねーだろ!」 ことさら手の中の感触を確かめる。 「半分だけ喉から出てきたらどうすんだコラ!お前だってモズク噛みきれなくてヤッたことあんだろ!?飲めない吐けない苦し紛れに口から引っ張ったら一人SM状態で涙出たろーがァ!」 「誰がそんな真似するか。モズク酢だろうが糸コンだろうがマヨネーズかけて食や…、」 土方は気がついたように顔を上げる。 「…あ。クスリにマヨネーズかけろってか。悪かったな、気がつかなくて」 「ま、まて、待て待て待てェ!さらに飲みにくくすんじゃねーよ!てか完全に飲めなくなるからヤメろぉ!」 ポケットからマヨネーズを取り出す気配に悲鳴を上げる。 土方は意外そうに銀時を見る。 「飲む気はあんだな」 投げ捨てずにクスリを持ったままの銀時の掌。 うぐ、と銀時は詰まる。 難癖をつけながらもマヨネーズから死守してるのはクスリを飲むつもりであることに他ならない。 土方の瞳が和らいで銀時を見る。 「なんならイチゴ味の牛乳でも用意してやろうか」 「………いらねェ」 首を振った銀時の口から溜息が零れる。 「コレ飲んだら…俺は俺でなくなっちまうんだろ。心の準備なんかできねーよ。いくら準備したってやれるもんじゃねぇ」 「解らなくもねぇが」 水のコップを傍らの座卓へ置く。 「俺と祝言を挙げるためにはコイツが要る。変わっちまったお前を何があっても護ってやる。お前は俺の信条を頼みにするしかねぇんだろ?上等だ。俺はお前を裏切らねェ」 「土方くん…」 熱を含んだ土方の言葉に銀時は切なく告げる。 「女になったらさァ、俺、毎朝オメーに稽古つけてやる。だって死んじまったら護れねーもの。一瞬で未亡人とか泣けるもの」 「どんだけ弱いの俺!?オメーん中で!」 「布団の中では強いと思うけどね。最強クラスだけどね」 「………知るか、そんなモンんん!」 土方は言葉に詰まったあとグッと奥歯を噛み締めて横を向く。 その素振りに銀時は大きく息を吐いて肩を落とす。 「飲むわ。んでオメーと祝言挙げる」 空いてる方の手を差し出す。 「これ以上ガタガタ言ったところで俺はオメーを信じるしかねェ。女になったら確実に動きが取れなくなる。オメーの庇護を受けながらガキでもこさえて真選組の屋台骨を強化する気の長い労働に取りかかるとするか」 「……ぬかせッ」 嘯(うそぶ)く銀時に土方は吐き捨てる。 「ケツからビーズ突っ込まれねぇうちに、とっとと口から飲みやがれ!」 「それが覚悟を決めた相手に言う台詞ぅ?」 銀時は唇を尖らせる。 「まあいいけどね。とっとと水よこしやがれ」 「……、」 銀時の手に土方は水のコップを持たせる。 大きめのそれに十分な量の水が注がれている。 銀時は片手に持ったクスリをもう一度握ると、まとめて口の中へ放りこむ。 追うようにコップを口に運び水とともにクスリを喉へ流しこむ。 ゼッタイ飲みきれなくて悲惨なことになると覚悟した物体は、なんの抵抗もなく一塊となって無事に胃の腑へ落ちていった。 「ふぅ…」 ほっとしたように息をついたのも束の間。 「んぐッ!ののの、飲んじまったァ!」 サーッと顔がこわばる。 焦って口を開け、喉を押さえて舌を出す。 「やべ、やべぇって! これ俺、女になっちまわね!? ちょ、カンベン! ちゃんと飲んだんだからさァ、もう良いよね、吐いていい? てか吐くわ、マジで女になるとかありえねーし!」 「吐けるわけねぇだろ。一瞬で溶けて吸収される即効性だ」 土方が冷酷な笑いを浮かべる。 「舌を噛まねぇよう、口を閉じといた方がいいぜ? 身体の骨組みから造りが再構成されるんだ、どこもかしこも軋みをあげてバラバラになって別物に組み上がる。窒息しねぇよう、しっかり息してろや」 「んなっ、そっ!」 銀時は恨みがましく土方の方を向く。 「そんな危険なクスリなのかよ、あぶねーなんて…、聞いてねっ…!」 非難をあげる声は次第に喘ぎ混じりになり、苦し気に上下しはじめた肩はガクガクと揺れ、あるときを境に銀時は喉が塞がったように崩折(くずお)れる。 「…んッ、…っく…!」 畳を掻きむしる腕の筋肉がデタラメに収縮し、見る間に小刻みに震える波が全身へ伝わっていく。 土方は目を見張り、危険な徴候が無いかどうか目を走らせて確認する。 差し出した腕を、懸命に銀時に触れないよう空中にとどめて気遣う。 敏感な変異の瞬間を迎えている銀時の身体は、やがて常とは違うものに向かって仕上がっていく。 畳表を掴みあぐねた手も、腹部を押さえて突っ伏した躯幹も、畳に曲げ潰れた脚も。 ふんわりした光を放つ銀髪のなめらかな質感さえ。 音を立てて組み変わるように土方の目の前で、脆(もろ)く柔らかな構造へと姿を作り変えていった。 「大丈夫か?万事屋」 ゆっくりと背中が上下して息が通るのが見える。 着ていた単衣はもはや身体に合わず、不格好に布地が余っている。 変わりきった朧気な身体が力なく変異を終える。 「……ァ、はぁ…」 銀時の口から呻きが漏れる。 土方が聞いたことのない高さの銀時の声。 堪えきれず土方は銀時の背を抱き起こし、腕に抱いてその顔を覗きこむ。 「オイ、どんな具合だ?苦しいとこはねぇか?」 「んぁ…なにこれ……サイアク…」 銀時の手が動いて顔にまといつく包帯を剥がそうとする。 吸いつくような肌、しっとり水気を含んだ艶やかな唇。 細い肩は抱きしめても腕が余る。 「よォ、俺の…」 笑いかけて土方は銀時の眼から包帯を外す。 「花嫁さん?」
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