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* 高銀話です(連載中)
※『◯◯化あり閲覧注意』などの説明書きを必要とする方はお読みにならないで下さい。
花野アナは息を切らして走っている。 「なんとか挙式の取材に間に合いそうです!」 大江戸テレビ局に引き返した撮影クルーは中継車で屯所に向かった。 目的地一帯の道路は真選組に封鎖されていた。 歩行者は立ち入りを制限されていなかったため、彼らは撮影機材を担ぐと自分たちの足で走り始めた。 「このっ…右手に続いている塀が、もう屯所の塀なんです、結婚式はまさにこの向こうで執り行われるわけですっ! …あっ、あれはなんでしょう!?」 花野アナは行く手に群がる人垣を指す。 カメラがその光景を写しだす。 真選組屯所の正門には数十人の男女が押しかけて門衛と向かい合っていた。 「お連れできないって、どういうことかしら?」 にこにこと笑みを浮かべた人物が中心にいる。 ハチマキを締め、タスキ袴で薙刀を携え、すっかり戦闘態勢を整えた志村妙。 「新ちゃんのことで銀さんに聞きたいことがあるの。さっさと銀さんを呼んできてくださいな。今日は土方さんとの結婚式なんでしょう?新ちゃんを凶悪テロリスト集団に追いやったまま自分だけ幸せになろうなんて許せないわ」 ずい、と一歩、門へ踏み出す。 「銀さんが出てこないならこちらから行きます。どいてちょうだい」 「こっ、困ります、姐さん」 真選組の門衛たちが弱りはてる。 「誰も入れるなって命令なんで…!」 「あら。そんな命令、誰が出しているのかしら?近藤さん?」 妙は笑んだまま首をかしげる。 「だったらあのゴリラも潰す。まとめて潰すわ。よくも新ちゃんを犯罪者ふぜいの仲間入りさせてくれたわね。新ちゃんの口から聞くまでは信じませんよ。あのダメ侍に失恋して世をはかなんでテロに走ったなんて」 ブンっ、と薙刀が空を切る。 とっさに隊士たちは腰の刀を掴む。 妙の眼の色が変わる。 「やんのかコラ?」 「い…いえっ、滅相もありませんッ!」 隊士たちが平伏せんばかりに頭を下げる。
「大変なことが発覚しました、どうやら三角関係のようですっ」 花野アナがカメラを振り向く。
「婚約者の方に恋人がいたということでしょうか、結婚式当日に波乱含みの展開です! 引き続き我々は真相を確かめるため、この場に留まりたいと思いますっ!」 「なにをやってんだ、お前ら」 そのとき。 騒ぎを嗅ぎつけたのか、どこからともなく一人の男がやってきた。 「もうそろそろ時間だぞ、悪いが地域住民の方々にはお引き取り願わんと…、あっ、お妙さんッ!」 紋付袴に帯刀した正装の近藤は嬉しそうに眼を輝かせる。 「まさか貴女が俺を訪ねてくれるなんて、今日はなんて良い日だ!俺は幸せな男です…!」 眼を潤ませて敬礼する。 「お妙さん、まぶしいほど美しいですねッ!その薙刀、本当にお似合いですッ! で、どうしたんですか?こんなに大勢引き連れて。もしかしてトシと銀時の祝言に合わせて俺とダブル挙式をやっちゃおうとか!? ぐふっ!」 「誰がゴリラの世話係に就任するって言いました?」 薙刀の柄の先を近藤の腹に突きこむ。 大柄な男が腹から二つ折りになる。 「私の用件はただひとつ。新ちゃんを取り戻したいの。それにはあのダメ侍と話をつけなきゃならないわ。新ちゃんをフッて土方さんに愛を囁かれようだなんて。覚悟はできてるんでしょうね、あの天パ」 にっこり笑いながら指の骨をバキバキ鳴らす。 「今すぐここへ連れてきてくださる?」 妙の後ろには彼女に加勢する数十人のキャバ嬢が立ち並んでいる。 近藤は腹を押さえながら汗を浮かべる。 「いや、銀時は…今日は、表に出すわけにはいかなくてな、」 「そうなんですか。ならこちらから行くわ。お構いなく」 「ちょ、ちょちょちょ、待っ…!」 すれ違って門に踏み入れた妙を押しとどめる。 「挙式は幕府の重鎮たちの名代が居並ぶ予定でして、一般の方はお妙さんのお知り合いといえど、お招きするわけには…!」 「それは無いんじゃないの、近藤っち~」 横からザラついた男の声が軽く挟んでくる。 「俺たちさ、ずっと銀さんに会わせてくれって毎日ここへ来てたよね? おたくら、まったく会わせてくれなかったじゃん。そのまま結婚式を敢行しようなんて、そんなのおとなしくハイそうですかって引き下がれると思う?」 いつもの短い上着と膝までのズボン。 グラサンの鼻あてをずり上げながら長谷川泰三がキャバ嬢の後ろから歩き出てくる。 「どうも臭いんだよね、陰謀のニオイがぷんぷんする」 キャバ嬢たちが長谷川の異臭を追いやろうと顔を顰めて手を振る。 少し泣きそうになりながら彼は袴を押さえる。 「俺はアンタらのこともキライじゃないし。できれば波風立てたくないんだけどさ」 気を取り直して門の背後に広がる青空を見上げる。 「ダチが困ってるなら話は別だ。アイツが女になってまで野郎との結婚を望んでるなんて到底思えねェ。本人から直接事情を聞くまでは引き下がらないよ。腕づくでもここを通らせてもらう」 屯所の空は、今は機影ひとつない。 招かれざる者たちが一掃されたそこには晴れやかな静けさが広がっている。 「長谷川さん…、」 近藤は苦し気な顔をする。 「だったら俺たちは、アンタを逮捕しなきゃならなくなる」 「では我々も参戦しましょう」 逆方向からザッと、華美な装飾を身につけた男たちの一団が進み出る。 「私も納得のいかない者の一人です。なぜ友人である我々が銀さんと会って真意を聞くことができないのか。いやがる銀さんを女性として妻に娶るなど許されるはずがない」 フワフワの襟も美々しいナンバーワンホスト、本城狂死郎。 後ろにはアフロ頭の八郎も控えている。 「女性のために犯罪者の汚名を着るのはホストにとって栄誉ある勲章に等しい。手加減なくいかせてもらいますよ、近藤さん」 「ちょっ店長、銀さんは女性じゃないからね。れっきとした野郎だからね」 「もう性転換させられてるでしょう。この人たちの手によってね」 「なんかテンションあがってない? まあ、中身が銀さんであれだけの美形だからね。気だるい瞳でつまんなそうに赤い唇とがらせてシッシッて追い払われたらオレ速攻で猛獣になれるわ、解るよ」 「いや解らないです。貴方とは違うんで」 「正直、銀さんが他の野郎に処女散らされるとこ考えると興奮して夜も…いや、俺が言いたいのはね、本人が嫌がってる結婚なんか認めないって、ホントそれだけだよ」 「もういいわ。男の妄想という汚物を垂れ流さないでくださいな」 妙が長谷川に肘鉄をくれる。 「それよりどうするつもりですか、近藤さん。これだけの人数を相手に、これから結婚式という場所で一戦交える騒動をお望みかしら?幕府の偉い人たちも居るんでしょう、真選組の不始末になりますよ」 「できれば皆さんには、お妙さんだけ残して穏便に引き上げてもらいたいんですが!」 「そうはいきません。ここまで気合い入れて準備して手ぶらで帰るなんて冗談じゃないわ」 「いやだから、お妙さんだけは残ってくださって結構です! 式が終わったあと銀時にでもなんでも会わせますから!」 「式が終わった後じゃ意味がない」 狂死郎が実戦の気合いを露わにする。 「私たちの目的は銀さんの救出です。意にそまない結婚なんてさせません」 「銀さんを取り返しにきた。ぶっちゃけ、そういうことだから」 長谷川も武器を取り出す。 モップのようなデッキブラシのような掃除道具を構え持つ。 「頼むから穏当に銀さんに会わせてくれよ。事情があるのは解ってるし事と次第によっちゃオレは引き下がるつもりだからさ」
「お聞きになりましたでしょうか?ここへ集まった人々は結婚式の中止を求めていますっ!」 花野アナが声を潜める。 「婚約者の方を強奪しに来たと公言してはばかりません!現場は緊迫しています!」
「う~む…」 腕組みして近藤は考えを巡らせる。 その体躯に皆の視線が集まる。 局長の号令と同時に行動を起こせるよう隊士たちは戦闘体勢を取る。 対するホストやキャバ嬢も各々の得物を握りこむ。 「よし、わかった!」 皆が固唾を飲んで近藤の顔を見つめる。 「今から30分だけ屯所への立ち入りを許可します! だが全員、式が始まる前に御退出いただくぞ! そこはこちらも譲れない一線だ、なんとしても厳守でお願いしたいッ!」 ワッと歓声があがる。 「人数を確認させてください、ズルはしないように! こちらも逮捕者を出したくは、…ちょ、聞いてる!?」 正門に一気に押し寄せる人の勢いに押されて近藤が後退る。 「待って、まだだって、そんなに押したら…危ねーっ!」 気勢を上げて正門を突破するキャバ嬢たち、それに続く勇み足のホストたちに押し切られ、近藤と門衛たちは敷地の内側へ流されていく。 車寄せの広いスペースと、正面のいかつい建物、立ち並ぶ植木。 一般市民とはいえ武装した彼らが屯所内へなだれこみ、各自の直感を働かせてあちこち散らばっていこうとしたとき。 「待ちなせえ」 ヒュウゥゥ…と飛来音。続いて腹にズシンと響く振動、同時に足元の地面が炸裂する。 「そんな格好でウロチョロされちゃかなわねーや」 土煙、耳閉感、げほげほしながら悲鳴をあげて逃げ出す人々を一箇所に集めるよう第二弾、第三弾が浴びせられる。 「どこ行くつもりでィ。屯所内を勝手に歩くのは禁止ですぜ。一匹たりとも逃さないんで、ついてきなせェ」 煙の薄れた向こうにバズーカ砲を担いで立つ一人の青年。 「狙いは土方さんの首でしょ。解ってまさァ、案内するぜぃ」 青年の周りには十数人の武装隊士が控えている。
屯所の護りを担う真選組の一番隊だった。 PR |
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