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* 高銀話です(連載中)
『アレ…ここどこ?』 銀時は意識を浮上させる。 『俺、どうしてたんだっけ? これ自分の寝床じゃねーよな…』 身体も視界もモヤモヤしたものに包まれて、まわりをハッキリ確認できない。 ただパリッとしすぎる冷たいシーツの感触が、ここは慣れ親しんだ万事屋の布団でないことを示している。 「坂田さん、わかりますか?」 なんか呼んでる。 どうも気配が、だるーんとしていて、身に危険が迫ってる状況ではないから頭がうまく覚めない。 「目、開けられますか?」 誰かに覗きこまれる。 「ここは病院ですよ。まる一日、眠ったままだったんですよ」 「……ぁ、そんな寝てた…?」 やけにまぶしい。 目を閉じているのに光が当てられている。 「なんで俺…そんなに……、んぁぁああっ!」 重いまぶたをこじ開けた途端、両方の眼がいきなり刺し貫かれる。 あまりの激痛に両腕を交差させて顔の前にかざし、その「なにか」から身を捩って逃れようとする。 「動かないでッ点滴抜けちゃうでしょ!」 腕や肩を掴まれ制止される。 そんなの聞けたもんじゃない。 眼は防いだ腕の隙間から入ってくる凶器に苛まれている。 視界は真っ白だ。光っている。 とにかくまぶしい。 それ以外、なんにも見えない。 「坂田さん大丈夫ですか!?」 慌てた声を張り上げられる。 いや、それよりソレ、やめてください。眼ェぐりぐりすんの、痛ェから。 うつぶせになっても止まらないから、頭の下にあった枕の下へ頭を突っこむ。 頭の後ろに枕を乗せてシーツに顔を突っ伏していると、眼が切り刻まれるような拍動が少し緩んでくる。 「うぅ~、キモチわる…」 胃のあたりから絞りこむような不快感が上がってくる。 突っ伏した頭に乗せた枕をひたすら自分の頭の後ろに押しつけた。
別室で近藤と土方、沖田と山崎、そして神楽が説明を受けた。 「視覚器に器質的な異常はないし、脳の精密検査でも問題なかったので、機能異常、つまり『見る』ときに働くべき連携がうまくとれてない状態と考えていいでしょうね」 「治るアルか」 神楽が真っ先に尋ねる。 医者は難しい顔をする。 「原因は坂田さんの両眼を覆っていたカラクリから染み出した液体らしいんですね。その成分が目に入って網膜やブドウ膜…物を見たり光を感じたりする部分に化学変性を起こしたらしく、通常では考えられないような量の光を感知してしまう。ほんのわずかな明かりでも強烈なフラッシュを凝視したような衝撃があるってことです」 だから、と医者は続けた。 「もと通りになるかどうかは、その液体によって受けた影響が固定してしまった不変のものなのか、まだ元に戻りうる可逆的な変化なのか、そのへんに拠ります」 「それはもとに戻るものかどうか解ってるのか?」 土方が尋ねる。 医者は首を振る。 「液体の成分は分析できても、それが眼器に与える影響までは…こういう例がないものでデータがないんですよ」 「現時点では判断できないってことか…」 「治るでしょ」 考えこむ土方に、沖田が軽く言う。 「なんだかんだ、旦那は回復がいいから。どうせケロッと見えるようになるから辛気臭い顔並べてんじゃねーや」 沖田は医者に顔を向ける。 「それより先生、旦那の身体に変なモン仕込まれてなかったですかィ。カラクリの落し種みてぇな。異物とか毒とか」 「一応全身検査したけど、金属性のものは確認されなかったよ」 カルテをパラパラ捲る。 「毒はなんとも言えないけど、眼もそうだし、本人の様子を見ながらおかしな点があったら検査するしかないんじゃないかな。…毒といえば全身に筋融解性の強い薬液をそこかしこから注入されたみたいで、だいぶあちこち筋肉が侵されたみたいだね。本人、よく我慢したねぇ。生きたまま溶けてくわけだから、さぞ痛かっただろうね。若くて腎臓が強いから後遺症もないし、まあこれはおいおい回復していくでしょう」 「問題は、目だな」 近藤が口を開く。 「先生は本人の意識が戻ったら退院できるとおっしゃってましたが、あれじゃ退院は無理ですよね。目の治療をしなくちゃならないし」 「あ、退院していいですよ。あの目を治療する方法っていうのはありませんから」 「…は?」 「自然に治るのを待つしかないです。それは御自宅でも病院でも同じです。光を直視しないよう、暗いところで安静にしててもらえれば結構です」 「え、でも局長。旦那は目が見えないし、まだよく身体も動かない状態ですよね?」 山崎が小声で言う。 「病院に入院してた方が安心じゃないですか?いつどんな後遺症が出るかも分からないんだし」 「うーん、そりゃそうなんだが…」 「屯所の方が護りやすいだろィ」 沖田が山崎を見る。 「病院じゃ岡田が襲ってきたとき、ここは病人ケガ人だらけで思うように動きがとれねェ。始末書が増えるだけでさァ。あと近藤さんが上からガミガミ言われるんだろ」 「でも隊長、屯所にゃ看護婦さんみたいなプロはいませんよ。目が見えない人をどうするんですか。風邪で寝込んでるのとはわけが違うでしょ?」 「ワタシ看護婦さんやるネ!」 神楽が挙手する。 「銀ちゃんのお世話するヨ。この前も銀ちゃん寝込んでたし、姉御と二人で見れば楽勝だヨ!」 「やめとけってチャイナ。馬鹿を見るだけだぜ。あ、いつも見てるんだったな、鏡の中に」 「なにがアルか」 神楽が沖田をふくれっ面で振り返る。 「ご飯たべさせたり、ジャンプ読んでやったりできるネ。なにが馬鹿だヨ」 「空気読めよ。旦那は土方さんとの婚儀目前だぜ。あいつら絶賛イチャイチャモードに入ってるンだ。そんなところに割りこもうなんてのは、ただの頭の弱い邪魔者だろィ」 「それとこれとは別ダロ」 神楽がムッと睨む。 「イチャイチャすんのは邪魔しないヨ。トッシーだってずっと銀ちゃんと一緒にいるわけじゃないし、その間ワタシが銀ちゃんについてるってんだヨ」 「だそうですぜ、近藤さん」 沖田が近藤を仰ぐ。 「チャイナも屯所に泊まりこみでいいですかィ?それとも通い妻?どっちにしろ俺の部屋に引っ張り込んどきますから旦那たちの邪魔にはなりやせんけどね」 「ちょ、ちょ、ちょっと待って! チャイナ娘が屯所に出入りするのも、泊まるのも、いけません! 未成年だし女の子だし、世間的に問題ありすぎッ!」 近藤が首を振って二人に申し渡す。 「手伝ってほしいときは正式に書類出して要請するから、それ以外の立ち入りは禁止だからね!守ってよホント!」 「銀ちゃんはいいアルか」 拗ねた顔で近藤に抗議する。 「ワタシは駄目で、なんで銀ちゃんはいいアルか。ワタシも万事屋ヨ!銀ちゃんと同じにしろヨ!」 「銀時に関してはちゃあんと書類を出して上に通してある。あいつは成人した男だからなんの問題もねぇ。それよりチャイナ娘、そのぉ…、話は聞いたか?」 「話? なにアルか」 低く問い返す。 「銀ちゃんの結婚話なら聞いたケド」 「いや、それもそうだが…、新八君の」 「新八が、なにヨ?」 「聞いてない? ザキ、言ってなかったのか?」 「あ、え~と…それはこれから…」 「なにアルか」 「チャイナさん。いろいろ複雑だと思いますが、我々は貴女自身の心身の健やかなることを望むものであります。ウチの者から話を聞いて、冷静に考えて行動してくださいね!」 近藤が山崎に合図すると、山崎は神楽を誘って部屋を出ていく。 神楽に事情を説明しながら、新八が鬼兵隊と行動を共にしていることを万事屋の身内がどう受け取るのか、つまりどういう反応を見せるのか確かめておきたい狙いである。 「先生」 土方が、一同の様子を見ていた医者に尋ねる。 「アイツは暗いところで静かにさせときゃいいんだな?」 「そうだね。できれば目を覆って保護しておいた方がいい」 「じゃあそうします。薬とかは?」 「水分をとって、あとはしっかり栄養のあるものを食べてもらえば。飲み薬や目薬なんかはいらないでしょう」 検査データを見て、慎重に付け加える。 「あんまり動き回らないで寝ていた方がいいかもしれない。あと、激しい運動は避けるように」
沖田がニヤついて笑う。 「激しい運動は厳禁。旦那の視力が回復するまでセックスはお預けでさァ」 「うるせぇ。放っとけ」 説明を受けた部屋を出て、三人は銀時の病室へ向かう。 「近藤さん、祝言まで離れで俺が万事屋を見る。改装業者に、遮光性の建具を使うよう変更させていいか?」 「構わねぇさ」 近藤は控え目に笑う。 「銀時を囮に…ってか、まァアイツも災難だよな。毒食らわば皿まで、こうなったらとことんやってやろうじゃねぇか」 「それにガチで勝負かけてきたメガネはいい面の皮でさァ」 「う~ん…新八君のアレは、なんというか人を愛する一人の男として立派なんじゃないかな?」 「そんな呑気なこと言ってられっかよ。相手は鬼兵隊だぜ。メガネをあの若さで犯罪集団に傾倒させたなんつったら、あいつブチ切れるぞ」 「そのブチ切れるアイツには、なんて言うんで?」 「退院してからでいいんじゃないか?」 「いいや。聞きたがったら全部本当のことを話す」 土方は腹を決める。 「それが一番、傷が浅い」 「でもトシ、銀時は今そんな話ができる状態かどうか…」 「入りやすぜ、旦那ァ」 委細構わず、沖田が個室の引き戸を横へ開けた。
今回はきつかったです。
まあそんなこーとわすれて、楽しんでいただけたら嬉しいです!
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* 高銀話です(連載中)
「なんでメガネがここに、……追え!」 土方は部下たちに指示する。 「てめぇらは足で追いかけろ、……聞こえるか、山崎ィ!」 通信をつなげて携帯に怒鳴る。 「俺を目視しろ、家の斜め前だ。そっから直線で30メートル、万事屋のメガネがいる。上から追って位置を知らせろ。下から行って取っ捕まえる!」 『は、はいっ!』 虚を突かれた山崎は、すぐに頭を切り替える。 『そちらへ引き返します、まだ副長は見えません、新八君は無事ですか!?』 「無事もクソもねぇ、俺たち見て逃げやがった。逃がすな!」 『え、…それじゃなんで新八君がこんなところに居るんですか!?』 「知るか。見当もつかねぇ」 新八は徒歩だ。 泡食って走っていく。 誰か連れがいる雰囲気でもない。 単独で、こんな江戸から離れた山中に。 しかも『事件』の現場近くに。 新八が何らかの事情を承知していることは間違いない。
目を凝らした土方の視界から、しかし新八の姿は小さく遠のいて樹木の陰に見えなくなっていく。 飛行パトカーで追うかぎり取り逃がしはしないだろうが、自分たちの目が届かなくなるのは上手くない。 迂回の歩道を行った隊士はまだ追いつかない。 土方は現場を離れるわけにはいかず。 新八の消えた向かいの林を無為に睨んでいるしかない。 パトカーは戻ってこない。 コテージにも動きはない。 隊士たちの捜索の声も止み、周囲はシン、と静まっている。 「…ア?」 その音を耳が聞きとったのと、その機体が目に入ってきたのは同時だった。 樹梢から浮き上がり、推進してくるヘリコプターは、まっすぐこちらへ向かっている。 ─── 救難ヘリか? もう要請したのか? 俺はまだしてねぇぞ 銀時のために呼ぶ手筈だった。 沖田が呼んだのだろうか。 それにしては早い。 慣れてるからこその迅速な出動か。 解らない顔でヘリを見上げていると、近づくにつれ明確になる搭乗者の姿が目に入った。 「…!」 ヘリに乗っていたのは、新八と。 その隣りに笑って見下げている、隻眼の男。 「なっ…、」 操縦者は知らない男だが、おそらく鬼兵隊の一員だろう。 後ろに武市変平太の顔も見える。 「なんでテメェらが、……メガネ!オイッ!」 新八は申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。 高杉晋助の横に置かれて、拘束されている風でもない。 自分の意志でそこにいるのは明らかだ。 「副長、あれっ!」 屋外捜索の隊士たちもヘリを見上げている。 「どうしたら…!?」 ─── 鬼兵隊と、志村…新八 土方にはわけが解らなかった。 どうつなげれば奴等が揃ってここに出現する話になるのか。 混乱したのは、しかし一瞬だった。 「全員退避だ。なんでもいいから身を隠せ!」 「は、…はいっ!」 搭乗者が鬼兵隊なら自分たちがヘリから狙い撃たれるのは必至。 大声で命じて退かせると土方は自分も物陰へ身を翻す。 近づいてきた高杉のヘリは、しかし土方たちの頭上を通過しただけだった。 壁の陰で土方は耳を押さえる。 低空から爆音と風圧をこれみよがしに振り撒くと、ヘリは高度をあげてカーブを描きながら彼方へ飛びさっていった。 「副長!」 隊士が駆け寄ってくる。 「いまのヘリに新八君を見たという者が…!」 「…山崎」 いまいましく機影を睨んで携帯に告げる。 「メガネの捜索は中止だ。ヘリを追え」 『ええぇえぇぇえーッ!? 追いつけるわけないでしょう! アンタ解って言ってんですか!?』 「うるせぇぇぇぇぇ!! いまのに高杉とメガネが乗ってんだよ、つべこべ言わずに目的と行き先つきとめてこいやァァ!」 『行き先なんて江戸湾の高杉たちの所有艦に決まってるじゃないですか!』 「いいから行けっつってんだ!」
なんらかの方法で、この場所を特定して。 あるいは知っていたのか。この場所に誘導したのが高杉たちなのか。
それならば自分たちが着く前にここで『用事』を済ませる時間はたっぷりある。 岡田はどうなった? あれだけ銀時に執着していたのに見当たらない。 新八は?どう考える? まさか、銀時の祝言を阻止するために鬼兵隊に助力を仰いだというのか。 そんなことをするような奴には見えなかったが。 鬼兵隊と行動を共にしていたのは事実だ。 ならば新八は高杉と一緒にここに来て、そして……いや違う。 新八は「こちらへ向かって」きていた。 真選組を見て慌てて「引き返した」のだ。 ならば新八はこれからここへ来るつもりだったのか。 なにをしようとしてたんだ?
到着を待つ間に沖田がコテージから歩き出てくる。 「高杉が通ってったようですねィ」 「……」 「もう用は無ぇとばかりに俺たちに旦那の手当を任せて」 首を傾げる。 「岡田を追っ払ったのは高杉たちじゃないんですかぃ。じゃなきゃ、岡田が旦那から離れる理由が思いつかねぇ」 少し口を噤んでから、つけ加える。 「俺が高杉なら旦那を置いてったりしませんけどね」 「仮定の話ばかりしたってしょうがねぇんだよ」 土方はポケットから煙草を取り出し、火をつける。 「確たる証言が取れねぇことにはな。……細かいことは、万事屋が目を覚ましたら聞けるだろ」 「旦那が『覚えて』いればね」 「ア? 記憶障害起こした奴なんざ居なかったろうが」 「個人が意識的に『忘れた』場合もあるんでさァ、土方さん」 「……」
分譲リゾート地のふもとの町にヘリポートがある。 ここからヘリポートまで、要救護者を救急車で搬送するのだ。
その小回りのきく攻撃性の高い機体が自分たちを爆撃しなかったのは、ひとえに背後のコテージに銀時が居るからだ。 土方の目の前で銀時と視線を交わす高杉の瞳を思い起こせば、高杉が銀時を傷つける暴挙に出るわけがない。 「さぁて、俺たちもそろそろ撤退しやしょう。土方さんも帰りやしょうぜ。山狩りなんてタルいことしたってなんにも見つけられませんや」 「……まだ『岡田』がいる」 山並みの向こうの空を見上げる。 「銀時を狙って、この付近に潜んでる可能性が高い」 「なら旦那をしっかり護衛してれば済む話で」 「まだここにいると思いこんだ岡田がリゾートの住人を襲ったらシャレにならねぇだろ」 「そんなの、管轄に任せとけばいいんでさァ」 沖田と土方が問答しているところへ。 新八を徒歩で追っていった隊士たちが戻ってきた。 「副長、見てください。こんなものが…」 一人の隊士が、てのひらに収まるくらいのカラクリを土方たちに差し出した。 「新八君が居たあたりの地面に落ちてました。新八君が落としたんじゃないかと思うんですが…」 「……なんだこりゃ?」
土方が悩んでいると、一人の隊士が進言してきた。 「副長、それカラクリ人形の中枢電脳幹じゃないですか?」 その方面に詳しい隊士だった。 「一時期、カラクリ家政婦とか流行ったけど、いまは廃れて…その電脳幹が闇市あたりで出回ってるんですよ。中には相当ヤバイ代物もあるみたいで、ちょっと噂になってたんスけど…」 「ヤバイ…?」 土方は受け取ったカラクリの部品を沖田に渡す。 渡された沖田はそれを土方の頭に乗せる。 させず頭を逸したため部品は地面に落ちて転がる。 黙って見下ろしたまま拾う者はいない。 「…くわしく聞かせろ」 土方は隊士に促す。 救急車が鳴らしていたサイレンの音を停止し、付近で停車した。
つづく
11月12日は小説更新をお休みします。 |
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* 高銀話です(連載中)
自分は間に合わなかった。 これで銀時を失ったら、きっとこの刺さるような痛みは心臓が瓦解するまで止まらない。 この世で自分にできることなど何ひとつない。 「旦那、息あります!」 無力感なんて生やさしいものじゃない重荷が胸に落ちたとき。 銀時に駆け寄って間近に膝をついた隊士たちが土方に顔を向けて叫んだ。 「脈もしっかりしてます!」 途端に場が沸く。 殺気だった形相がゆるむ。 「大きい外傷はないようです。誰か、血圧計持ってこい!」 銀時は命に別状ない。 「旦那、聞こえますか、旦那!?」 最悪の事態はまぬがれた。 土方は詰めていた息を吐く。 その背をポンと沖田が叩き、面倒な指揮はゴメンだと言わんばかりに土方に場を譲り、隊士たちに混ざって銀時の容態を覗きに行ってしまう。 「意識ねぇのか。眠らされたかな。…にしちゃ、イビキかいてねーな」 土方を振り向く。 「やっぱり例の催淫剤つかわれてますぜ。意識とんでまさァ。よっぽど気持ちいい目に遭わされたんでしょうね」 「…野郎、タダじゃおかねぇ」 土方が押し殺したように吐き捨てる。 「よし、てめぇらァ! 岡田を引きずり出せ!」 よく通る声が隊士たちを高揚させる。 「この中をぜんぶ調べろ。隠れてるかもしれねぇ。手分けして家の周囲もだ。山崎、いるか!」 「はい!」 「この一帯を上空から捜索しろ。まだ遠くには行ってねぇ。目の効くヤツ連れてけ」 「はいよっ」 GPS受信機がこの建物の、おそらく銀時の着衣の中にあるため、逃げた賊の捜索は目視になる。 委細のみこんで山崎は戸外へ走り出ていく。 「万事屋はどうだ。ヘリが要るか」 「万全を期すなら呼んでくだせぇ。今までの被害者と違って旦那はヤツの本命だ。なにされてるか解らねぇ」 沖田がいつもの調子を返上して真摯に言う。 「この目隠しも取れやせん。そんな複雑なカラクリじゃねぇと思いますが、なにかの仕掛けだとマズイし無理やりひっぺがすわけにもいかねぇ」 銀時の両眼に圧着している金属質の平たい覆いを探る。 「ずいぶんマニアックなプレイしてくれたもんだぜ。厄介なモンでも植えつけられてねーといいが」 「厄介な物?」 「有害成分の入った毒液とか。遠隔操作できる玩具とか。腹ん中で育って産ませる仕掛けの子種とか」 「冗談じゃねぇ」 「動かした途端にカプセルが割れて女体化、ヤツの子供を身ごもるって想定だとパトカーじゃ無理でさァ」 「どういう想定だ」 「いいからヘリで病院に運びましょう。車でチンタラ飛ぶより大江戸病院までヘリならほんの5分だぜ。俺が付き添うんで土方さんはここで山狩りしててくだせぇ」 「なんでお前だ!」 「俺なら旦那が誰に種つけられようと広い心で愛せますからね」 「オイ。俺が愛せねぇみたいな言い方すんな」 「愛せないでしょ? 旦那似の巻き毛の赤ん坊が頭に触手はやして出てきたら無理でしょ土方さん」 「ふざけんな。そんなん余裕だ」 「いやいや。触手はともかく巻き毛ですぜ。天パーなんですぜ。可哀想な子供でさァ」 「どんだけ天パを否定してんだよ」 「コトは一刻を争うかもな。旦那のカラダをくまなく調べて、なにか仕掛けられてたら取り除かねーと。ついでに暴行罪の証拠に犯人の体液も採取しとかねーとな」 「…こりゃあ、岡田のモンか」 土方が銀時の足の間を見やる。 「カラクリの化け物になっちまっても精液は出るんだな」 「土方さんだってマヨラーだけど精液出るでしょ」 「テメェだって出してんだろ、ガキのくせに」 「マヨネーズ咥えて飲んでる乳恋しい大人より、健康的に出してまさァ」 「岡田は人間なのか。カラクリなのか。それとも天人みてぇに体の構造が特殊に変わっちまった異種族なのか」 「今のところなんとも。だからこそ旦那に何されてるか解らねぇ。たとえば…自分の一部を旦那の身体に植えて本体は消滅。旦那の体内で再生して甦る、とかね。ありそうでしょ?」 「…………、」 銀時の顔を見る。 力なく開いた唇が、静かな息を通している。
追跡していた目標点が静止した。 信州の山並みの中腹だった。 調べてみるとそこはリゾート分譲地だった。 個人の別荘や貸しコテージがまばらに山林の中に建っている。 銀時が連れ込まれたのは、その一棟だった。 管理人も借り手も不在だった空きコテージは車道から外れて他から孤立していた。 突き止めた真選組は犯人に悟られないよう離れた車道に車を下ろした。 建物近くに都合よく降りられるような拓けた場所はなかった。 現場へ至る道は雑草が覆い、蜘蛛の巣と垂れた枝と飛び回る昆虫が塞ぎ、やっと辿りついた建物を包囲するには裏手の深い藪の中へ踏み入らねばならなかった。 内部を探ったが動く者はおらず、銀時が倒れているだけだった。 横手の勝手口の鍵が開いていたことから、賊はすでに逃げたものと目された。 土方は突入を指示した。 賊の気配はなかった。 ただ、板敷きの広いリビングの真ん中に暴行を受けた銀時を見出した。 袖を通したまま着流しを肌蹴られ、上着をたくしあげられた肌には、硬い紐のようなもので絞めつけられた跡が無数に交錯している。 銀時の手足は力を失って床に横たわっている。 口元や乳首には茶褐色の粘液が飛び散り、性器や陰部にはそれが多量に滴っている。 おそらく銀時自身も達したのだろう、腹に精液が垂れている。 そして後孔には雄に犯されて精液を奥深くに出された有様が、剥き出しになっていた。 沖田の言うとおり、その身がまったく無事かどうかは確認しなければならない。 隊士たちが階段を駆け登る。このコテージには二階がある。 風呂場があり、クローゼットがあり、作業部屋まである。 賊が隠れ潜むには絶好の空間を隊士たちが開け放って暴いていく。 「副長!」 隊士の声が呼んだのは戸外からだった。 「まずいです、ちょっと来てください!」 「なんだと、」 土方は反射的にそちらを向いて外へと急ぐ。 「なにがあった、なにがマズイんだよ?」 「あれ、ほらあそこ…!」 隊士たちが2~3人、そちらを困ったように眺めている。 土方のいる場所から深い谷をはさんだ向こう側。ここから大きく迂回して歩道を登っていくと着くであろう樹木の間に。 小柄な少年、特徴的な着物の色、髪型と眼鏡の間違いようのない取り合わせ。 「メ…、メガネ!?」 こちらを見て、焦ったように逃げ出したのは銀時と土方が探し求めていた志村新八だった。
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* 高銀話です(連載中)
賊の移動が速すぎて目標を捕捉しているのに追いつけない。 パトカーの飛行車両は振り切られた。 北へ西へと進路を変える賊の居場所をモニター上で確認するだけで精一杯、江戸の外れで網を張っていた装甲車をなんなく躱すと、賊は人気もまばらな郊外へアッという間に駆け去った。 「どこまで行く気だ?」 土方は手持ちのモニターを見下ろしながら歯噛みする。 「オイ、狭山と相模原、念のため平塚の奉行所に連絡しとけ」 「配備要請しますか?」 「いや。奉行所の装備じゃ奴は止めらんねぇ。『凶悪な指名手配犯が逃走中。そちらの管轄で面倒事を起こす可能性あり』って伝えとけや。連絡しねぇで後でガタガタ言われんのは面倒くせぇからな」 「はいっ」 「野郎、この分だと山へ逃げる気か」 行き先は 武州とも相模原ともとれる。 モニターを見ていた部下が青ざめる。 「もしかして箱根を越えて富士の樹海かな。旦那を捕まえて心中するつもりだったりして」 「なんで万事屋と心中なんだよ。そしてなんで樹海だ」 土方が言下に否定する。 その不興を横目に見ながら愛想笑いで答える。 「好きな人と死ねるならいいじゃないですか。皆の前で奪い取って、これでこの人は俺のもんだ、ってね。どうせ旦那にゃ相手にされないんだから」 賊に肩入れした部下の口ぶりを聞いて土方は黙りこむ。 屯所にも銀時に報われない思いを抱いてる隊士が大勢いた。 『婿』に選ばれた自分も、銀時に心を寄せられているわけではない。 アイツの心は『誰か』のものだ。 自分には向けられないそれを欲っすると、土方も胸をそがれるような脱力に見舞われる。 その集大成が『岡田』なのか。 じゃあ一体なんなんだ、それを引き起こすアイツ──坂田銀時は。 アイツの視線が向く先を俺も、岡田も、誰も彼もが追いかける。 まぶしい光に、どうしようもなく惹きつけられるみてぇに。 アイツの銀色の魂が俺たちの根っこを捕らえて離さねぇのか。 俺は、こうして賊を追っているが、どっちの立場で追ってるんだ。 銀時を囮にした警察か。 賊に想い人を奪われて激高してる阿呆か。 どっちでもいい。 銀時が酷ぇ目に遭うことのねぇよう、取り返しがつかなくなる前に賊の手から取り戻したい。 アイツの無事を確認して、一刻も早く安堵したい。 そして、こんな事態を引き起こしたバカを取っ捕まえて二度とこんなことが起きないよう、トドメを差してやりてぇ。 「副長、目標が進路を変えました!」 モニター上で目標点が消えた、と思ったら基地局と交信していた部下が声をあげた。 「どうも甲斐をめざして山を抜ける…模様です、」 「狭山と平塚、相模原への連絡を取りやめろ」 土方もモニターを操作して目標点を探す。 自分たちはまだ江戸郊外の上空にいる。 銀時を連れた賊ははるか先だ。 いずれ追い詰めるにしても、この距離を縮めるにはかなりの時間を要する。 この時間が裏目に出なきゃいいが。 後部座席で土方は拳を揉んだ。
踏み込んだ現場で、土方は声を失った。 仰向けに、陵辱の跡もなまなましく銀時は倒れていた。 あちこち露出した肌は液体にまみれ、無数の縛めの痣が押印されている。 なにも身につけていない下半身は立てた膝を崩したように投げ出され、その後孔からあふれたと思われる液体が、むごたらしく局所を汚損している。 一目で銀時の身に起こったことが理解できる。 それを誇示するような現場。 「現場の保全と証拠写真」 動かない自分をよそに、後ろから追いついてきた沖田が指示を出す。 「旦那の息はあるのか。なかったら心臓マッサージと人口呼吸。AEDのスタンバイ」 呆けている土方をジロッと見る。 「副長、アンタがすべき指示ですぜ。できないんなら出てってくだせぇ、仕事の邪魔なんで」 「………、」 土方の耳を沖田の言葉が通りすぎていく。 ただ、胸の中心がやけに痛むのと、銀時の顔に張り付いた金属質の平たい物質、あれはなんだろうと土方はそればかり見つめていた。
続く
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* 高銀話です(連載中)
尻の中を熱くぬるついたものが進んでくる。 昔、覚えたとおりの快感の軌道をそっくりそのままなぞってくる。 「やめっ、アッ、」 熱い快楽が腹の中で溶ける。 下半身だけ持っていかれそうな不安に動かない指で床を掻く。 「お、追いつか…ねーって、」 腰が揺れ、膝がもがく。 臀丘が締まり、脚にかけて健やかな筋肉のラインが浮かんでは消える。 「ぁぐっ…、ダメだ、っ…!」 高杉との行為の記憶が体の奥から甦る。 疼くそこをどんな風に突かれたか。 突いては引くものを締め上げるとどんな風に呻いて声を掠れさせたか。 高杉の熱い汗が、腕が、どんな風に自分を掻きいだき、声を漏らして達したか。 それを描くだけで身体は動きを封じられたままゾクリと強い熱を発する。 それより高温の硬い岩石のような熱温で銀時にかぶさりながら、じっとりした生々しいものが銀時の腹の中を擦りあげる。 「ぃやだ…、はぁっ、…やめっ、」 昔以上にぴったりと銀時の欲しいところに先端が当たり、怖いほど男の上反りは前立腺をなぞって深い欲を腹の中に掻き回す。 「こ…これじゃ、味わえねぇ…、」 一人で「それ」をオカズにしているのとはワケが違う。 「オメーを感じる前に、カラダだけ、イっちまう…!」 高杉を捕らえて締めつける。 締めたとき体内に感じる男茎は、形も硬さも、かつて銀時に快楽を覚えこませた愛おしいもの。 「はっ…、ぁううッ!」 触手に弄られ、勃ちあがりっぱなしだった銀時のペニスに、長くて武骨で、どこかしなやかな手の指が絡む。 とっくに先走りで濡れていた亀頭に親指で新たにこぼれた体液を塗り広げる。 「…っ、んくッ」 きっと次は爪を立てて尿道口を抉られる。 結果的に気持ちよくても痛いものは痛い。 銀時は無意識に身構える。 ひさしぶりの慣れた衝撃をこらえたが、先端に与えられたのは指の腹で丹念に穴を開かれ、カリ首を他の指で掬いながら尿道に快感を押し込んでいく丁寧で細やかな動きだった。 「…っ、!?」 銀時の肌が熱を発する。 見えない相手は乳首を吸い、敏感なペニスの穴を開いて、やわやわと刺激する。 がむしゃらに突き入れてくるわけでもない腰使いは、銀時が快感を拾いやすいように、むしろそのことだけを目的にしたような愛おしみ深い営み。 「……ヴッ…、」 銀時は固く唇を結んで閉ざす。 顔の温度があがって他より赤い。 身体の奥は、そして相手の肌に触れているところは、どこもかしこも感じやすく、ちょっとのことでビクッと震えを走らせる。 「ぅぐ、み、見んな、」 銀時は急に声を荒げる。 「てめっ、見んじゃねーよっ、いいからアッチいけっ!」 ジタバタと身体を閉じようとする。 すっかり砕かれたような手足の筋肉は銀時の意志を受け付けない。
それでもなんらかの効果が薄れてきたのか、銀時の片手はゆるく相手の体躯に突っ張り、下半身は相手の視界から逃れようと膝を揺らめかせる。 「イヤだ、触んな、…ぅ、」 首を倒して顔をそむける。 「んぐっ、…おまえ、アレだろ? バカチンだろ?」 腸壁をこする硬茎の動きにあわせて身体を前後に揺さぶられながら、銀時は相手をなじり始める。 「んぁっ、わかったから…あー、そーゆう…カンジね…、」 熱い息を吐く合間に軽い調子で続ける。 「おまえはさぁ、あの触手野郎だってーのに、…高杉そのものだと思わせたいんだろ?」 相手の手の中で熱くそそり勃ったペニスから透明な液をこぼしながら、銀時はこらえきれない腰を律動させる。 「アイツ高杉に…、なりたがってたもんなぁ、俺に…薬つかっ、て…」 その律動が腹の中の高杉の雄の抽送に追いすがり、ぴったりした合一を求めていく。 「この、高杉みてーな感触も…ぅあっ、ウソっぱち…だよな、」 身体はますます熱を発し、相手の愛撫に酔い、高まっていく。 「俺がおまえを高杉だと、思い込むように…、そんな幻に浸(ひた)る薬で…細工したんだろ…ぅっ、?」 銀時の口元がだらしなく笑う。 「でも俺は、騙されねーから」 「言いてぇことは…それだけか」 肌を交わしている相手が業を煮やしたように口を開く。 「てめぇなんざ、…あの犬に、飼い殺されちまえっ…」 「なかなか良いセンいってるけど…っ、おまえは決定的な間違いを犯してんだよ…、」 おかしそうに銀時は自分にかぶさる相手の顔がある辺りを見上げる。 「高杉はなぁ、俺をいたわるようなセックスはしねぇの。あと、助けに来ることもねぇ」 言いきって、はぁ…とせつなげな吐息を漏らす。 「あいつはもっと薄情で凶悪で、暴れ馬みてーで、…ヤッてても痛くて痛くてしょうがねぇんだよ…っ、」 「……それがてめぇの報答か」 ぎり、と相手の骨格が軋んで力が篭る。 「なら、そのご要望に応えてやらにゃなるめーよ」 「う、…ぁ!? あぐぅ、…いッ…!」 荒々しく腰を突きこまれる。 容赦なく雄肉を捩じこまれ、爪を立てて尿道口を削られる。 「ぃやァッ、アッ、痛ぁ…っ、!」 「この方がイケんだろ? てめぇは、」 銀時を置き去りにした乱雑な動き。 「バカだ、バカだたぁ思ってたが…、てめぇはバカだけじゃねぇ」 乳首をちぎれるほど噛み切り、過敏な肉傘を爪責めにして痛めつけ。 「いっかな救いようのねぇ腑抜けだ、このナマクラはよォ…!」 足を全開させ、外していた体重をズシリと掛けて、銀時の後孔に一旦は収めたものをカリ首まで引きぬくと勢いよく根元まで一気に突き通す。 「ぅがぁッ、あぐっ、ぃあッ、ぁああぁあーッ!」 銀時の背が反りかえる。 高杉の怒張が根元まで刺さって腸壁を充満させたのをきっかけに、銀時は尻の中だけで達する。 痛みは甘い痺れにとって変わる。 とろとろと銀時のペニスから白濁液がこぼれる。 四肢が存分に緊張して雄の剛直を締めつけ、それから得る快感をさらに拾いあげて痙攣する。 その貪欲な締めつけに高杉の怒張も限界を迎える。 「うっ、く…、…ぁ…、」 グッ、と身体を硬直させる。 銀時の中へ膨れたものを吐き出す。 数度にわたり、熱い腹の中へ、こらえた精を放つ濃密な快感。 噎せるようなそれを噛み締める高杉の下で、銀時は腰をギュッと浮かせて受け止める。 「んっ…、熱ぅ…」 体の奥に熱い体液をかけられた、その刺激に悩ましく全身を撓らせる。 銀時のペニスは半勃ちのまま、射精もなくイキ続ける。 しなやかに凍りついて快感を追っていた身体が、やがて糸が切れたように床に落ちる。 詰めていた息を解き、一言もないまま銀時はゆるやかに弛緩した。 「……」 高杉は銀時の顔を覗きこみ、その頬に手で触れる。 間の開いた呼吸が静かに胸を上下させている。 それ以外、銀時は動かない。 「落ちたか…」 銀時の目に張り付いた金属の覆いは剥がれない。 瞳を見ることも、それが何を映しているかも見ることはできない。 「銀、時…、」 身を屈めて薄く開いた唇に唇を合わせる。 深く触れる前に、しかし高杉は耳をそばだてる。 「…フン」 やるせない表情を一変させて消し去り、ずるりと陰茎を引き抜く。 ビクリと銀時は震えて高めの呻きを漏らしたが目覚める様子はない。 「今度会ったらテメェは幕府の犬の一味だ」 素早く衣服を整え、刀を取って立ち上がる。 外に人数のある気配が近づいている。 一指も触れることなく銀時をそのままに、高杉は身を翻した。
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* 高銀話です(連載中)
「○○プレイあります、閲覧注意」とか詳しい注意書きを必要とされる方は、お読みにならないでください。読まれる場合は自己責任でお願いします。 人間の腕に抱かれて、銀時の肌が異を唱える。掴み方が、指の当たり方が、力の篭もり方が違う、と不快気に文句を言う。 だが、それも一瞬だった。 味気ないカラクリに弄りまわされていた身体に、やっと人間の皮膚の温度が触れてきたのだ。幸い視覚は塞がれていて何も見えない。 これが恋しい高杉で、なんの都合が悪い?高杉にしてしまえと淫欲が囁く。 「たかすぎ…、」 恋しい相手を確かめようと動かない手に力を籠める。 「…んぁ、なにっ…焦らしてんの? この、クソバカっ…」 力の抜けた悪態が口から出る。 「テメーは、…こっちが、はァッ、…痛ェぐれぇが、いんだろがっ…ん、くっ…」 高杉にしか向けない難癖という名の甘え。 「…んっ、のろくせーよ…ッ、…いつもみてーに、…てきぱき入れろテキパキ…ぁあっ…、」 『クク…、熱い愛欲の味は気に入ってもらえタようだね…』 男の身体が銀時に重なっていく。 『そうサ、俺はあの人だよ。雑作もなくアンタに愛される存在』 手の指が銀時のペニスを触手ごと握りこんで、ゆるく扱きはじめる。 『ありったけ…愛しておくれ、白夜叉ァ…、この俺ヲ…』 「あっ…、ぁあぐッ!」 注入液で敏感になった内部を、膨れ上がった触手が一斉に擦りあげる。思わず締めてはもっと奥へ受け入れようと緩んだ穴の横から更なる触手がめりこんでくる。 「ひぅッ、ぁうぁぁあッ!」 入ってるのに、もっと広げて求めようとする高杉の欲求に、腰から背骨へジン、と痺れが這いのぼる。 胸はたえまなく弄りまわされ、触手の吐いた液体を乳首にまぶされながら噛み立てられる。その痛みは火花を放ちながら芯の疼きにすり替えられていく。 触手に絡みつかれた亀頭は容赦なく擦りつづけられ、尿道口を開かされ、すでに中を愛撫している管づたいに注入液をそそがれる。 「んぁ、あっ、ぁッ、」 とめどない熱と欲が尿道から腹の奥、双の玉を駆り立ててどこまでも昇らされ、強烈な快感と同時に足りないと、物足りないと、身体の内側から飢えさせる。 「もっ、もッ、…ぁあーッ!」 触手に身体中を愛される。 膝を持ちあげられて左右に開かされる。 唇にキスが欲しいと、吸ってほしいと空気を吸う。 快楽が人の形をした熱の塊、それ以外の意識は銀時の心から溶けてなくなっていく。 「ぁッ…、たか、す…ぎっ…!」 触手がシュル、シュルと肌を撫でる。 巻きついていた本数が減っていく。 触手を引かせて高杉自身が人の形をとって銀時で満たしにかかるのだと、なんとなく察する。
─── 好きなのも 「お、前だ…、バカヤローッ…!」 『よく効ク媚薬だよ、本当に…』 笑う声が上から降る。 『さぁ…アノ人になろうねェ…』 ぐっと人間の手で両膝を分けられる。 さんざ触手が慣らしていたソコから一本ずつ抜けていく。 ペニスの根元に絡んでいる戒めだけが解かれない。 『一緒に逝くまデ、おあずケだよ』 ゆっくりと砲身を生身の手で撫でられる。 それだけで銀時の口から、あぅ…、と感じ入った吐息があがる。 『攘夷戦争のカリスマを…俺の汚い欲で犯すんダ』 触手の抜けきった、はくはくと挿れるものを欲しがって腰を動かす銀時の後孔に、人間の熱く勃ち上がりきった陰茎が押し当てられる。 『くだらない下っ端の雄が、栄光の白夜叉を穢すのサぁ…!』 「っ…、」 快楽に蕩かされる脳髄の片隅では解っている。 自分は体内に高杉でもなんでもないヤツの持ち物を突っこまれようとしている。
─── んだよ、栄光のって 「…ぅ、んぁ…っ、」 にもかかわらず、絶頂への到達をひたすら求める身体は、惜しげもなく『高杉』に縋って痴態をさらし、肉棒が命ずるまま達するだろう。
ぐっ、と喉を鳴らす。 尻に圧迫がかかる。 持ちあげられていた膝が、しかし急に下へ落とされる。 身体を戒めていた触手が、すべて同時に力を失って緩む。 精巧な動きをしていた一本一本が伸びるでも縮むでもなくボトボトと、ただの管に戻ったように床や身体の上に転がって停止する。 「……っ、?」 銀時は身体を開いたまま異変を伺う。 目を覆う幅広の触手は両眼に巻きついたまま動きを止め、あいかわらず視界は塞がれている。 相手の身体がガクンと揺れる。 すべての触手が、ペニスの根元を縛っていたそれさえ冷たいカラクリの紐と化して身体から剥がされていく。 ─── んだ、コレ…? いままさに挿入しようとしていた相手の気配が薄れて、自分から遠のいていく。
─── ちょ、なに? え、ウソ 「……っ!?」 冷えたカラクリ触手の残骸を絡ませた銀時の身体が、そのとき熱い手に引き起こされる。 紅桜の宿主に代わって銀時の膝を押し開き、火照った身体を抱擁したのは別の体躯。 「…ぎんとき」 耳元でくぐもる低い声。 馴染んだ感触、闊達な気概、ぴったりと添う肌と肌。 「…ぅ、あ」 ほのかに匂う、恋しい身体の持ち主。 黙ってくちづけてくる狂おしい唇。 ついばむやり方も舐めてくる順序も昔どおり。 「っ…た、かす…?!」 名を呼ぼうとして、途中で息が詰まった。 欲しくてたまらないソコへ、熱い雄の猛りを宛てがわられる。 「挿れるぜ。ぜんぶ呑みこみな」
─── ……ッ、 カラクリとは違う、欲の滴るような生身の脈動が伝わってくる。 焼けつくような熱塊が銀時の尻穴に埋め込まれ、腸壁を押し開いていく。 のたうつ身体を快楽の衝撃が串刺しにした。
続く |
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* R18 高銀話です(連載中) 浅い呼吸を繰りかえしながら銀時は切羽詰まった笑顔で尋ねる。 「こんな…カラクリで弄り回しといて…、ひとつもクソもねーだろ?」
岡田も声を歪めて笑っている。 『アンタのここも、ここも…俺の手の中にアる』
ペニスの根元に絡んでいた触手が固くそこを締め上げる。 同時にカリ首に絡んだ触手がスルッスルッ…と緩やかに回転する。 なかば固定された先端を別の触手が包みこみ、カリ首と亀頭を両方一緒に捏ねるように何度も何度も擦り潰す。 「うぁぁッ! アッ、! ぁ、あぅぅうっ、!」 強烈な刺激を亀頭に摺りこまれ、猛烈な射精感がこみあげる。 寸時の間断もなく触手の責めに晒される尿道口から、とろっ…と透明な液がこぼれかかる。 ぐぐっ…と精嚢が体液を押し出そうとセリあがる。 しかし、そこまでだった。 亀頭とカリ首だけを執拗に扱きながら、ペニスの根元をきつく戒めて精液の放出を堰き止める。 出したいのに出せない。 射精は厳密に管理されている。
動かぬ手足に力をこめる。 身体を、性器をいくら弄られようが、こんなのは快楽でもなんでもない。 金属質のものが強制的に局部を押したり擦ったりしているだけだ。 マッサージチェアに背中をゴリゴリされているのと変わらない、…はず。
足は開き気味に引かれ、ペニスと双玉を緊縛され、尻の穴から体内を満たされ、亀頭を柔らかく擦られながら左右の乳首を細かく噛まれている。 「いっ…、言っとくけどなァ、こんなのセックスじゃねーんだよ! 一方的な按摩だよ!」 触手がこぞってズボンと下着を膝まで引きおろし、上着を鎖骨の上まで捲りあげ、銀時は着衣のまま相手が意図した部分だけ露出させられている。 「押されてっ、キモチいとこも…あるけどなァ、た、…ただの条件反射にすぎねェ…、っあ…、」 高杉の瞳に射竦められ。 抱擁し、重みを密着させ、汗と欲に浮かされた肌を擦りつけあい、身体の最奥でひとつに溶ける。 そんな高揚はここには無い。 「俺はっ、…オメーのもん、にはならねぇし、…っく、オメーとひとつになることも…ねぇんだよ!」
銀時が言い放つと一瞬、岡田の動きが止まった。 ブシュ、ブシュ、と点鼻液を押してるような音がする。 『オヤオヤ…おかしィねぇ…』 岡田の変容が銀時にも分かる。 目隠しに視界を遮られた向こうでドクドクと押し出すような機械の鼓動が起こる。 鬱屈が吐き出す先を求めるような慙愧の念。 まれに剣の手練れが銀時に抱く殺意とそれ以上の淫欲、岡田はそれを醸している。 『…セックスじゃナイと言いながラ…アンタ…』 「…っ、!?」 『こんなにシたがってるじゃないカ…』 「ふ、っう…、ぅあ……、あふッ、…!」 固定され開かされた尿道口へ、触手が一本すりつけられる。 透明の液が滲んだそこへ、くぷんと触手が挿入される。 銀時の動かないはずの身体が撥ねる。 射精を堰き止められ、さんざ弄られて敏感になったそこへ、柔らかいとはいえ金属の硬さと冷たさをもった長い管が体内のもっとも弱い部分へグイグイとめりこんでくる。 「は、っ…ァ、ぁあっ、……ァァアッ、!」 『痛イかぃ…? そんなハズないだろ…?』 慎重な愉悦の声。 『アンタをこうシテ可愛がってやりタイと…ずっと思っテたのサ…』 「アッ、ぁああ、ふあッぁああッ、ッ!」 触手は尿道の中をたどってある場所に行き着き、ゆっくり回転をはじめる。 尿道に接する男性器の要である前立腺。 外部からの圧迫でも十分快感を得られる性感帯に、触手は尿道からの直接的な刺激をゆるゆると送りこむ。 「ヤッ、…や、無理ッ…、ムリだからぁあッ、はぁうぅ、ぅぐぅ! ぁぐッ、ぅ!」 悲鳴をあげる銀時の喉を太い触手が塞ぐ 「ぅぐ、…んぅぅ、んぅ…!」 口の中へ、喉奥めがけて太い硬いものが入りこみ、嫌でも口を開けさせて抽送する。 「ふ、…んぅ、…ぅぅ、…っ、んぐ、ふぐ…っ、」 喉がこじあげられる痛み、息が吸えない苦しみに嗚咽をもらし、目尻から生理的な涙があふれる。 その間も亀頭をしごかれ、尿道の中でゆるく弱く前立腺を刺激され、ときおり刺すような電撃が胸の乳首から伝わって撥ねあがる。 「うぅぐ、…んッ、…ヤ、ぁッ! はぁあっ、うぅっ…!」
双丘を開かせ、尻から侵入している触手も中で膨れて腸壁をこすりあげている。
可笑しそうな声がいたぶる。 『すっかりオレに犯されテルよ?…とはいえお愉しみはこれカラだね…』 「……ッ、…ゥッ…、」 『この味を…アンタが気に入ってくれルと嬉しいんだガねェ…』 「……、!?」 びくんと銀時は察知する。 身体中へ、じわじわとそれが染みてくる。 亀頭や双珠に絡む触手から。 尿道の中をこする管から。 尻の中で膨れる物から。 喉の奥を塞ぐものの真ん中から。 「…あ…っ、 ぐ…、?」
触手がドクドクと膨れて先端の割れ目から汁が滲む。 ドクン、と心臓が鳴る。 ペニスに力が集まる。 「はっ、ぁっ、…ぁぐっ、…う、」 身体が高まっていく。 呼吸が短く、早くなる。 肉の変化についていけない。 頭ではひとつのことしか考えていない。
─── やりてぇ 浮かんでくるのは高杉の体躯。 手荒く愛撫され、痛みが孕む快楽に溺れ、いつだって涼しげに人を見透かす野郎が必死になって男根押しこんで腰ふってるのが死ぬほど楽しくて有頂天で。 どんなときも生きてる実感と魂もってかれそうな昇天をないまぜに絶頂へ追いつめあって一緒に飛んだ。 その源が高杉の反り返ったアレで。 アレ嵌めればキモチよくヤれて。 欲しいのは、要るのはアレだけで。 あ…。 「……欲しッ……、欲しい、欲しいッ、…ぁ、ハッ…ぁあっ…!」 ぎゅううと尻肉が締めつける。 そのまま中に入ったものの感触で快楽を高めようとする。 こぽ、と触手を受け入れたままのペニスから液がこぼれる。 口の前にあった太い触手の先端を舐めてしゃぶる。 自ら乳首の愛撫をねだって胸を突き出す。 「は…ぁ、…たかすぎ、……たかすぎぃ…、」 『欲しいのかィ…?』 「…ん、…ぁ、欲しい…」 『オレは誰だぃ…?』 「ぁ……、たかすぎ…、もっと…ッ…、」 『そうダよ、…オレはアンタを得て、あの人にナる…』 人間の両の腕が銀時を抱きしめる。 快楽に溶けた銀時はほどよい熱を帯びて息をあげている。 『気にいったかぃ…? オレとアンタの…愛欲の味は…まるで伝説のようじゃ…ないかぃ…?』
続く
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* 高銀話です(連載中)
「まっ、………待て、落ち着けェーッ!」 身をかがめて迫ってくる気配に、銀時は必死で叫ぶ。 「てっ、テメーが何しようが俺は言いなりになるしかねェ、だから焦んな、逃げねーからッ、」 実は猛然と床を蹴って後ろへ逃げようとしているのだが、足も身体もまったく動かず、幸か不幸か相手には静止しているようにしか映らない。 だらだら汗を垂らしながら銀時は詭弁を弄し、得意の口先で活路を見いだそうとする。 「ホ、ホラ…あれだよ? オメーずいぶんムチャしたみてーじゃねぇの。なんか事情あんだろ? どうしちゃったかなァ、って気にしてたからさ、オメーの話が聞きてぇなって、思ってんだよ。よ、よよよかったらさァ、オメーの話、聞かせてくんねぇ?」 『………ギィ…』 「さ、最近どうしてたの。体とか壊してね? あんまり酷使すんなよ、生身がイカレちまったら元も子もねーんだから。 …ぶっちゃけ具合どうなの。体とかアタマとか痛いんじゃね?」 接近の動きが止まった。有効と見て銀時は捲(まく)したてる。 「お、俺はね、オレはだよ、オメーのことが心配なんだよ。オメーはさ、本心じゃねーんだろ、こんなの? やりたくねぇけど無理矢理、突き動かされてるってーか…、ホントは嫌なんだろ、こんなの?」 指先も身体も動かない。動くのは口だけだ。でなければとっくにここから激走している。 「本当のお前と話してェんだよ、俺は…だからさ、いろんな面倒なモンとっぱらって、オメーの顔が見てぇ、ってーか…、っア、気にすんな、べつにオメーに何かさせようとかじゃなくてだな、純粋にオメーの顔が見たいと思っただけだから、嫌ならこのままで…」 『ギ、…ギントキ、……』 歯車めいたぎこちなさで、その口が言う。 『サカタ…、ギントキ……』 「………う、うぁあ、そ、そうだよ。俺だよ、なに…?」 相手の反応が読み取れない。呻きと荒い息遣いしか聞こえない。 『欲しィ…欲しィィ…』 「も、ももも、もう貰ったろ? 手に入ったじゃねーか、よかったな、あとはオメーがなんでここまでやったか、だろ?」 笑顔を作ったつもりだが顔まで強張ってるせいか笑みが引きつる。 「いわゆる告白タイムってヤツ? オメー、俺のことなんだと思ってんの?雑巾?」 『グガ…、ググ…』 「いや、だからね、オメーは俺を探してたんだろ? ってことは何か言いたいことでもあるんじゃねーの、って思ったわけだ。俺でよかったら聞くから。なんでも聞くから言ってみ、ホラッ!」 銀時の胸がドクドク鳴る。本能的に危険を察知する。もたない、コイツはもう。 ─── ヤる気だ。 『眩しィ…悔しィ…光を追うダケ…お前にナレない…』 声帯から軋み出すような音。 『欲しィ…お前を得られナイ…コロせ…俺だけのモノ…』 カラクリが立てる音のように抑揚がない。 『犯セェ…食ゥ…あの人は俺のモノ…あの人のモノは俺の…俺はあの人のモノ…』 「あの人って…高杉?」 銀時は肩をあげて身構える。 「お前、高杉に…恋慕してんのかよ」 軽く塞ぎこむ。とんだお門違いだ。コイツは高杉に執着してるだけなのだ。 「内輪揉めなら高杉んとこ行けよな。俺は関係ねーよ」 『サカタ…ギントキ…に、ありつけば…俺はオレは、あの人にアノ人に…なれ、なれ、なれ、ナレるゥ…成れるゥ…ゥゥゥゥゥゥゥ…ウウウウッ!』 「───ッア、!?」 銀時の全身にゆるく巻きついていた触手が、急に膨れた。 長さを変え、太さを変えながら、目覚めたように動きだす。 「なっ、…ななッ…、?」 無機質なカラクリの紐にすぎなかったものが一本一本、意志を持ったように銀時の肌を探り、刺激し、ミミズのようにうねり始める。 「や、やめっ…、ちょッ!」 首に絡んでいた触手が、顔や耳へ這い上がってくる。 膨れた先端には割れ目があって、それが銀時の肌を噛んで引っ張る。 痛みか、くすぐったさか、その両方がないまぜになって銀時の露出した肌を刺激する。 「痛ッ、てか、気持ちワルッ…、!」 視界を塞がれたまま、自在に動く蛇とも百足ともつかないようなものが思いもかけない方向から肌を這う感触に、銀時は顔色をなくす。 それはカラクリの触手というより、血が通い、熱を持ち、個々に神経が通った生き物のようだ。 「あ、…や、ヤダ…、なに? どうなってんの?」 自分では動けない銀時も、表面を刺激されると肌が震えたり、その部分を熱くしたり細かな反応を返す。 それを感知した触手が鎌首をもたげ、歓喜したようにドクっと膨れて先端の割れ目から粘液質の汁を垂らす。 「え? ぁう、……うぅ…っ、!」 ヌチャ…としたなんともいえない、ぬるい感触が腕に、首に、胸元に粘りながらベットリと纏いつく。 「…これ、アレだよ…、最悪だよ? …情けなくて泣けるレベル」 もともと筋肉が摩滅したように銀時の全身は痛みを孕んでいた。 その肌を不特定数の吸い口が無頓着に啄(ついば)む刺激は、深部の肉を直接食むように鈍い痛みをもたらし、痛みと快楽ないまぜの熱となって身体の奥にくすぶる。 「───う、…ァ、…んあっ、…?」 その忌むべき状況に、ただ身体を投げ出しているしかなかった銀時の意識に、予想しなかった感触が掠めた。 「あ? ちょ、なにッ…!?」 ない、と思ってた部分に触手が触れた。 外から隠れた衣服の中。 着物の下、上着の下、ズボンの中。 まったくのプライベートな素肌にソレが蠕いている。 外気に触れないところを、くねりながら奥へ進もうとしている。 そんなことは思ってもいなかったが。 考えれば至極当然のことだ。 触手が服の中へ潜りこんできたのだ。 「ひっ、ぅわァアアアッ…アッ、アーッ…、あッ、!」 事態を察して、すくみあがったまま叫ぶ。 「やめっ、ダッ…、」 触手は銀時の腰から臀丘へ、少しずつのたくっていく。より体温の高い部分、湿った体内へと侵入できる場所へ着実に近づいていく。 「や、…やめろ、来んな…、」 払いのけようにも身体は意のままにならず、体内に力をこめて侵入を防ごうにも、ぎゅっと引き締まる感覚はなく。太股や尻の張り切った曲線を撫でながら、先端が銀時の深部をもとめ、あらゆる方向へ頭を突っこみ、くぼみを辿っては潜りこもうとする。 「ハッ、ァッ…、ぁう…!」 うっそりと、触手がその部分に到達する。
鎌首をもたげ、先端を擦りつける。抵抗を突破しようと、太い部分で圧迫したり、くねらせたりして穴をあやすように蠢く。 身体中が緊張する。 先端が何度もその部分をつついて試している。 「ヤっ、…ヤダ、やめっ、───うあッ、……ぁぁあーッ!」 ズルッと。 抵抗を突破して触手の先端が体内へ押し入ってきた。 銀時は息を詰める。 触手がドクドクと膨れながら中へ中へと進んでくる。 「あっ、…あ、……あぅ、ぅっ…、」
それの他にも体内へ侵入しようとする触手が次々と入りこみ、競うように最奥をめざして狭い場所を占拠し、中でこすれて腸壁を一杯に拡張させていく。 上着の襟の隙間から肌を求めていた何本かが乳首に齧りつき、強く吸いつき、液を吐いて濡らしては丁寧に細かく噛んでいる。 「は、…はぁ、……ァ、…ぁん、…ぅ、」
姿は見えない。 触手の目隠しはピッタリ視界を覆っている。 『…血も、肉も、精液も……オレのモノにナる……俺のモノにスル…』 巻きついた触手が足を強引に開かせる。 「ひッ、! …ぁう、ぅッ…、」 銀時の股間、ゆるく勃ち上がった男性器めがけて幾筋もの触手が這い寄ってくる。 それらはそうすることを熟知していたようにペニスの根元に絡みつき、双珠をつついて捏ねあげ、血管が浮き上がるほどがんじがらめに巻きつく。 荒い呼吸に胸を上下させる銀時の熱くなった頬にカラクリじみた手が触れる。 それは笑っている。 上から声が降ってくる。 岡田似蔵の、独特の言い回し。
続く
拍手ありがとうございます
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* 高銀話です(連載中)
銀時の胸や腰に触手が絡みつく。 地面へ向かって上から強力に押しつぶされる。 肺が潰されて咳を吐く。 「………ッ、」 足を踏ん張り、圧力を背骨で支え、反撃の足場を固めようとしたとき。 触手を押し返す銀時の力を利用して巨腕が地面から銀時を浚い、足が浮くまで持ち上げて銀時を宙吊りにしてしまった。 「ッ、!? 撃つな! 万事屋に当たる」 真選組は岡田を包囲し、槍や刺股で押さえようと一番隊が肉薄していた。 岡田はその頭上を飛び越え、他は目に入らないとでも言うように銀時の背後に降り立ち、銀時に捕獲の触手を放ったのだ。
反撃をしようにも地に足がつかず、足がかりを求めて触手を踏もうとする足は、ますます触手に絡みつかれて身動きが取れなくなる。 腕はもとより肩や腰ごと締め付けられて銀時の自在の動きは封じられている。 あとからあとから滑り出てくる触手、それらが巻きつく厚みで銀時の姿が見えないほどだ。
土方は銀時への奇襲を防げなかった。賊の体つきから予測される動きを遙かに超えていたのだ。 バズーカより砲身の太い中筒を担いだ隊士たちが前列の者と入れ替わる。 岡田が高く掲げた左腕、カラクリ触手が増殖した塊と化したものの中から吊り下げられた銀時の足がギリギリともがいている。 「射てーッ!」 筒口が爆音を立てて黒い塊を噴射する。 その塊が空中で異形の岡田を捕らえるべく散開してその網を広げる。 銃に連結したままの網はフチに分銅がついていて、目標を捉えると茶巾のように収束して生け捕りにする。
第二弾が放たれる前に網を打ち払って跳躍し、その巨体をしならせて店並みの一階から二階、見る間に触手を伸ばして屋根の上へ駆け上がる。 触手を巻きつけた銀時を懐に抱きこむと、そのまま川沿いから逸れて屋根づたいに瓦の上を走りだした。
土方は携帯を持ち直し装甲車とパトカーに叫ぶ。 「岡田が逃げた。万事屋を連れてる。てめぇらルートを先回りして塞げッ」 家屋を踏みしだく衝撃音を放ちながら巨体は軽々と屋根から屋根へ跳んでいく。 「動きが速い、大外から回り込めッ」 『しかし副長、目標を捕捉できません!』 「万事屋がGPS受信機を持ってる、携帯5番だ。屯所の基地局に補正データを要請しろ」 川辺にパトカーが何台も走りこんでくる。 隊士を次々と乗せて発車する。 そのうちの一台に土方も乗りこみ無線で檄を飛ばす。 「飛行を許可する。こっちからも追い立てろ、どんどん情報流せ!」
『アレ…? 目の前がまっくらだ』 銀時は全身の痛みに意識を焼かれる疼きで覚醒した。 筋肉という筋肉が、ちぎられて溶かされたように発熱している。 どうやら身体は横たえられている。 雑巾のように締め付けられていた手足には、まばらに触手の感触が絡んでいた。
気を失っていたことも知らなかった。 両眼から後頭部への圧迫感で、柔らかい金属質のものがピッタリと視界を塞いで張り付いているらしいことに思い至る。
感覚を研ぎ澄ませばそこが生活臭のない屋内で、天井はさほど高くはなく、自分が寝ているのは木製の床板の上であろうことが感じ取れる。
探ってみたが知り得なかった。 触手が身体に絡んでいる以上、あの怪異が遠からぬ場所に居ることだけは確かだった。
窮地に変わりはない。 だらん、と力を抜いたまま銀時は秘かに確かめる。 動かそうとしても指は動かない。首の向きを変えられない。 力は入るのにグンニャリと重い手足は自分のものではない物体のようだ。 そして四肢からたちのぼる熱い痛み。 雑巾のように絞られまくって全身の筋肉がズタズタにされたのだろうか。
木刀は腰から抜かれている。 おさまりの悪いスカスカした脇腹の軽さが自分が丸腰であることを告げている。
銀時はジッとしたまま考えを巡らせる。 『…走れねーな。膝が立たねェ。肩は…動くか。腹這ってでも、芋虫みてぇに転がってでも……ていうか、ここ、どこ?』 自分はどこまで逃げれば逃げおおせるのだろう。 風が枝葉を揺らす音は、ここが船舶の中でも宇宙空間でもないことを示している。 公園か、庭のある屋敷。その物置小屋とでもいったところか。
鬼兵隊が紅桜の宿主に用があるのは確かだろうが。 『あの意地っ張り。怒って帰っちまうし。幕府と契れだ? ふざけんなコラ』 頬が怒りにピクつく。 『テメーがそんな態度ならこっちにも考えがあんだよ。救出されちゃうよ俺は土方君に。はっきり言って靡(なび)くよ、土方君に』 心の中の仮想の高杉に毒づく。 高杉は偉そうに笑ったまま顔色ひとつ変えずにこちらを見ている。
一度や二度じゃない。 恨みでもあんのかってくらい戦場で高杉は銀時を邪険にあつかった。 身体の営みを差し引いても、なんだか辛く当たられた気がする。
直面する捕食者に意識を向ける。
また子の表現を思い出す。
しかも筋肉痛で身体がろくに動かないのだ。
そのとき不意に床の振動が鳴り渡った。 気配に銀時は総毛立つ。 ソレは銀時の目の前に立っている。
肉を、喰らおうと飢えているのが分かる。
続く
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* 高銀話です(連載中)
盛り上がった腕から刀が生えている。 巨体をズシズシと前進させてくる。 岡田似蔵としての面影はあるが、意味の解らない言葉を発する口は歯を剥き出しにしてヨダレを垂らし、どこを見ているのか眼球から焦点は失せている。 「おいでなすったか、…ずいぶんデケェな」 土方は値踏みしながら笑う。見かけより動きは軽い。本気になったら一飛びで馳せて一振りで捕り手を薙ぎ倒すだろう。 『副長、どうします?』 呑気に携帯が訊いてくる。 『高杉囲みますか、それとも予定通り岡田?』 「アホか、両方捕れ。両方ともウチのターゲットだろうが」 『無茶いわんでください、どっちも取り逃がします』 「弱音吐いてんじゃねぇよ! …なんだって一緒に湧きやがる」 土方はグッと握った携帯に叫ぶ。 「岡田だ。岡田に狙いを絞れ、そっちが先決だ」 高杉はここで取り逃がしても即座に具体的な脅威にはならない。しかし岡田は夜毎に犠牲者が出る。隊士の配置も装備も岡田を想定している。確実に岡田を捕ることが至上命令だ。 「逃げ道を想定して装甲車で押さえろ。一番隊二番隊、前へ出て岡田を囲め」 『相当人数の攘夷浪士が道を塞いでいますが、これは?』 「放っとけ、掻き分けてこい。手向かうようなら五番隊六番隊でお相手しろ」
武市が声を掛けてくる。 「あの人を貴方たちに渡すわけにいかないんですよ。ここは退いてくれませんか。我々が捕まえて連れ帰りますので」 「そういうわけにゃいかねぇよ」 土方は異形の相手を見上げる。 「アレを捕まえて事件を終わらせるのは真選組の急務だ。テメェら、万事屋と話しにきただけだろ。そっちこそ退きな。見逃すのも癪だが、邪魔がいなくなってくれる方がありがてぇ」 「私たちとしても、内部抗争の残務処理を幕府の役人に委ねるわけにはまいりません。…どうです? あの人を取り押さえるために、ここは協力するというのは?」 「本気で言ってんのか」 「ええ、あの人の身柄は譲りましょう。その代わり、あの人の一部分だけは我々に渡していただきたい」 「ククッ…やめときな、武市」 不愉快な冷笑とともに高杉が告げる。 「こいつらにアレの捕獲は無理だ。そして、俺たちはアレに用が無ぇ。こいつらが手を焼いてアレ相手に死闘を演じるのを楽しく見物しない手はあるめぇよ」 「テメェ、それで俺たちをバカにしたつもりか?」 土方は高杉を笑いながら見返す。 「すました顔して大口叩いてやがるが、テメェ、ここに何しにやって来た? 俺と万事屋が祝言あげるって聞いて、居ても立ってもいられなかったんだろうが」 いっときの、ささやかな意趣返しにすぎなくても、土方の吐き捨ては止まらない。 「どうだ? 俺とコイツが仲良く歩いてるのを見て、羨ましかったか? 素通りしようと思えばできただろう。なんでわざわざ声かけてきやがった。部下の作戦に口挟みに来たのか? 違うだろ?」 ボーッと立っている銀時を視線で指す。 「アイツは俺と一緒になることを承知した。テメェらに何があったか知らねぇが、アイツは俺のもんだ。俺は過去にはこだわらねぇ。尻尾を巻いて、とっとと帰りな、高杉。真選組は忙しいんだ。テメェなんぞに関わってる暇はねぇんだよ」
高杉は目を伏せて笑う。 「銀時ィ、テメェの牙は完全に腐れ落ちたようだな。もうそれ以上、凋落することもあるめぇよ。勝手に幕府と契(ちぎり)を結んで野垂れ死ね」 ふと顔をあげて銀時を見る。 「二度とそのツラ見せるんじゃねぇ。……斬るぜ」 その顔は激しい殺意に歪んでいた。 銀時は呆気に取られてそれを見つめる。 なにか言おうと銀時が口を開いた途端、高杉は身を翻した。 「武市。もう一度言う。兵を下げろ」 鬼兵隊の隊士が道を分ける中、騒ぎを外れてどことも知れない路地へ歩いていく。 「その野郎と関わったって時間の無駄だ。それだけ肝に命じたら、あとはてめぇらの裁量でカタァつけな」
武市は頭目の後ろ姿に声を掛ける。 「アレは回収しなくていいんですか!?」 答えは返らない。代わりに武市の横から鋭い一声があがる。
また子の指示で、鬼兵隊はザッと体勢を変える。高杉が歩き去ったことは志士たちも承知している。武市の顔を窺っていたが、また子の号令で志士たちの腹は決まった。 「また子さん、」 「なにしてるんスか、先輩。似蔵の亡霊より晋助様の意向が優先っスよ」 「しかし、……仕方がありませんね」 武市は銀時を振り返る。 「坂田さん。今日はこれで引きます。またいずれ」 「てめーら何しに出てきたんだ、ホント」 銀時は、バラバラと走りさっていく鬼兵隊の男たちを眺める。もうとっくに見えない高杉の消えた後を、つい銀時は目で追ってしまう。怒っていた。すごい顔で。あのまま食い殺されるかと思った。 意外だった。ちょっと笑ってしまう。そうか、アイツ怒ってんのか。 「万事屋ァ!」 「危ない、旦那ァ!」 土方と、真選組隊士たちの声が耳に入ったのは、そのときだった。 ブン、となにかが顔の前に飛来する。 「はぅ、ぐあ…っ!」 太い金属の管のようなものが数本、耳と首に巻き付く。 片手でそれを掴んで木刀を探る。 回避が遅れる。 胸や背中に衝撃がきて金属管が身体に絡みつく。 首が締まり、息が詰まる。 腰に差した木刀は抜けない。 腕が締め付けられ、上から力がかかって立ったまま地面に縫いとめられる。 背後から寄ってくる、重量のあるもの。 ズシ…、と地面が振動する。
人間のものとは思えない掠れて嗄(しゃが)れた声が、銀時の頭の後ろから降ってきた。
続く |
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