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* 高銀話です(連載中)
「なんでメガネがここに、……追え!」 土方は部下たちに指示する。 「てめぇらは足で追いかけろ、……聞こえるか、山崎ィ!」 通信をつなげて携帯に怒鳴る。 「俺を目視しろ、家の斜め前だ。そっから直線で30メートル、万事屋のメガネがいる。上から追って位置を知らせろ。下から行って取っ捕まえる!」 『は、はいっ!』 虚を突かれた山崎は、すぐに頭を切り替える。 『そちらへ引き返します、まだ副長は見えません、新八君は無事ですか!?』 「無事もクソもねぇ、俺たち見て逃げやがった。逃がすな!」 『え、…それじゃなんで新八君がこんなところに居るんですか!?』 「知るか。見当もつかねぇ」 新八は徒歩だ。 泡食って走っていく。 誰か連れがいる雰囲気でもない。 単独で、こんな江戸から離れた山中に。 しかも『事件』の現場近くに。 新八が何らかの事情を承知していることは間違いない。
目を凝らした土方の視界から、しかし新八の姿は小さく遠のいて樹木の陰に見えなくなっていく。 飛行パトカーで追うかぎり取り逃がしはしないだろうが、自分たちの目が届かなくなるのは上手くない。 迂回の歩道を行った隊士はまだ追いつかない。 土方は現場を離れるわけにはいかず。 新八の消えた向かいの林を無為に睨んでいるしかない。 パトカーは戻ってこない。 コテージにも動きはない。 隊士たちの捜索の声も止み、周囲はシン、と静まっている。 「…ア?」 その音を耳が聞きとったのと、その機体が目に入ってきたのは同時だった。 樹梢から浮き上がり、推進してくるヘリコプターは、まっすぐこちらへ向かっている。 ─── 救難ヘリか? もう要請したのか? 俺はまだしてねぇぞ 銀時のために呼ぶ手筈だった。 沖田が呼んだのだろうか。 それにしては早い。 慣れてるからこその迅速な出動か。 解らない顔でヘリを見上げていると、近づくにつれ明確になる搭乗者の姿が目に入った。 「…!」 ヘリに乗っていたのは、新八と。 その隣りに笑って見下げている、隻眼の男。 「なっ…、」 操縦者は知らない男だが、おそらく鬼兵隊の一員だろう。 後ろに武市変平太の顔も見える。 「なんでテメェらが、……メガネ!オイッ!」 新八は申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。 高杉晋助の横に置かれて、拘束されている風でもない。 自分の意志でそこにいるのは明らかだ。 「副長、あれっ!」 屋外捜索の隊士たちもヘリを見上げている。 「どうしたら…!?」 ─── 鬼兵隊と、志村…新八 土方にはわけが解らなかった。 どうつなげれば奴等が揃ってここに出現する話になるのか。 混乱したのは、しかし一瞬だった。 「全員退避だ。なんでもいいから身を隠せ!」 「は、…はいっ!」 搭乗者が鬼兵隊なら自分たちがヘリから狙い撃たれるのは必至。 大声で命じて退かせると土方は自分も物陰へ身を翻す。 近づいてきた高杉のヘリは、しかし土方たちの頭上を通過しただけだった。 壁の陰で土方は耳を押さえる。 低空から爆音と風圧をこれみよがしに振り撒くと、ヘリは高度をあげてカーブを描きながら彼方へ飛びさっていった。 「副長!」 隊士が駆け寄ってくる。 「いまのヘリに新八君を見たという者が…!」 「…山崎」 いまいましく機影を睨んで携帯に告げる。 「メガネの捜索は中止だ。ヘリを追え」 『ええぇえぇぇえーッ!? 追いつけるわけないでしょう! アンタ解って言ってんですか!?』 「うるせぇぇぇぇぇ!! いまのに高杉とメガネが乗ってんだよ、つべこべ言わずに目的と行き先つきとめてこいやァァ!」 『行き先なんて江戸湾の高杉たちの所有艦に決まってるじゃないですか!』 「いいから行けっつってんだ!」
なんらかの方法で、この場所を特定して。 あるいは知っていたのか。この場所に誘導したのが高杉たちなのか。
それならば自分たちが着く前にここで『用事』を済ませる時間はたっぷりある。 岡田はどうなった? あれだけ銀時に執着していたのに見当たらない。 新八は?どう考える? まさか、銀時の祝言を阻止するために鬼兵隊に助力を仰いだというのか。 そんなことをするような奴には見えなかったが。 鬼兵隊と行動を共にしていたのは事実だ。 ならば新八は高杉と一緒にここに来て、そして……いや違う。 新八は「こちらへ向かって」きていた。 真選組を見て慌てて「引き返した」のだ。 ならば新八はこれからここへ来るつもりだったのか。 なにをしようとしてたんだ?
到着を待つ間に沖田がコテージから歩き出てくる。 「高杉が通ってったようですねィ」 「……」 「もう用は無ぇとばかりに俺たちに旦那の手当を任せて」 首を傾げる。 「岡田を追っ払ったのは高杉たちじゃないんですかぃ。じゃなきゃ、岡田が旦那から離れる理由が思いつかねぇ」 少し口を噤んでから、つけ加える。 「俺が高杉なら旦那を置いてったりしませんけどね」 「仮定の話ばかりしたってしょうがねぇんだよ」 土方はポケットから煙草を取り出し、火をつける。 「確たる証言が取れねぇことにはな。……細かいことは、万事屋が目を覚ましたら聞けるだろ」 「旦那が『覚えて』いればね」 「ア? 記憶障害起こした奴なんざ居なかったろうが」 「個人が意識的に『忘れた』場合もあるんでさァ、土方さん」 「……」
分譲リゾート地のふもとの町にヘリポートがある。 ここからヘリポートまで、要救護者を救急車で搬送するのだ。
その小回りのきく攻撃性の高い機体が自分たちを爆撃しなかったのは、ひとえに背後のコテージに銀時が居るからだ。 土方の目の前で銀時と視線を交わす高杉の瞳を思い起こせば、高杉が銀時を傷つける暴挙に出るわけがない。 「さぁて、俺たちもそろそろ撤退しやしょう。土方さんも帰りやしょうぜ。山狩りなんてタルいことしたってなんにも見つけられませんや」 「……まだ『岡田』がいる」 山並みの向こうの空を見上げる。 「銀時を狙って、この付近に潜んでる可能性が高い」 「なら旦那をしっかり護衛してれば済む話で」 「まだここにいると思いこんだ岡田がリゾートの住人を襲ったらシャレにならねぇだろ」 「そんなの、管轄に任せとけばいいんでさァ」 沖田と土方が問答しているところへ。 新八を徒歩で追っていった隊士たちが戻ってきた。 「副長、見てください。こんなものが…」 一人の隊士が、てのひらに収まるくらいのカラクリを土方たちに差し出した。 「新八君が居たあたりの地面に落ちてました。新八君が落としたんじゃないかと思うんですが…」 「……なんだこりゃ?」
土方が悩んでいると、一人の隊士が進言してきた。 「副長、それカラクリ人形の中枢電脳幹じゃないですか?」 その方面に詳しい隊士だった。 「一時期、カラクリ家政婦とか流行ったけど、いまは廃れて…その電脳幹が闇市あたりで出回ってるんですよ。中には相当ヤバイ代物もあるみたいで、ちょっと噂になってたんスけど…」 「ヤバイ…?」 土方は受け取ったカラクリの部品を沖田に渡す。 渡された沖田はそれを土方の頭に乗せる。 させず頭を逸したため部品は地面に落ちて転がる。 黙って見下ろしたまま拾う者はいない。 「…くわしく聞かせろ」 土方は隊士に促す。 救急車が鳴らしていたサイレンの音を停止し、付近で停車した。
つづく
11月12日は小説更新をお休みします。 PR |
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