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* 高銀話です(連載中)
銀時の胸や腰に触手が絡みつく。 地面へ向かって上から強力に押しつぶされる。 肺が潰されて咳を吐く。 「………ッ、」 足を踏ん張り、圧力を背骨で支え、反撃の足場を固めようとしたとき。 触手を押し返す銀時の力を利用して巨腕が地面から銀時を浚い、足が浮くまで持ち上げて銀時を宙吊りにしてしまった。 「ッ、!? 撃つな! 万事屋に当たる」 真選組は岡田を包囲し、槍や刺股で押さえようと一番隊が肉薄していた。 岡田はその頭上を飛び越え、他は目に入らないとでも言うように銀時の背後に降り立ち、銀時に捕獲の触手を放ったのだ。
反撃をしようにも地に足がつかず、足がかりを求めて触手を踏もうとする足は、ますます触手に絡みつかれて身動きが取れなくなる。 腕はもとより肩や腰ごと締め付けられて銀時の自在の動きは封じられている。 あとからあとから滑り出てくる触手、それらが巻きつく厚みで銀時の姿が見えないほどだ。
土方は銀時への奇襲を防げなかった。賊の体つきから予測される動きを遙かに超えていたのだ。 バズーカより砲身の太い中筒を担いだ隊士たちが前列の者と入れ替わる。 岡田が高く掲げた左腕、カラクリ触手が増殖した塊と化したものの中から吊り下げられた銀時の足がギリギリともがいている。 「射てーッ!」 筒口が爆音を立てて黒い塊を噴射する。 その塊が空中で異形の岡田を捕らえるべく散開してその網を広げる。 銃に連結したままの網はフチに分銅がついていて、目標を捉えると茶巾のように収束して生け捕りにする。
第二弾が放たれる前に網を打ち払って跳躍し、その巨体をしならせて店並みの一階から二階、見る間に触手を伸ばして屋根の上へ駆け上がる。 触手を巻きつけた銀時を懐に抱きこむと、そのまま川沿いから逸れて屋根づたいに瓦の上を走りだした。
土方は携帯を持ち直し装甲車とパトカーに叫ぶ。 「岡田が逃げた。万事屋を連れてる。てめぇらルートを先回りして塞げッ」 家屋を踏みしだく衝撃音を放ちながら巨体は軽々と屋根から屋根へ跳んでいく。 「動きが速い、大外から回り込めッ」 『しかし副長、目標を捕捉できません!』 「万事屋がGPS受信機を持ってる、携帯5番だ。屯所の基地局に補正データを要請しろ」 川辺にパトカーが何台も走りこんでくる。 隊士を次々と乗せて発車する。 そのうちの一台に土方も乗りこみ無線で檄を飛ばす。 「飛行を許可する。こっちからも追い立てろ、どんどん情報流せ!」
『アレ…? 目の前がまっくらだ』 銀時は全身の痛みに意識を焼かれる疼きで覚醒した。 筋肉という筋肉が、ちぎられて溶かされたように発熱している。 どうやら身体は横たえられている。 雑巾のように締め付けられていた手足には、まばらに触手の感触が絡んでいた。
気を失っていたことも知らなかった。 両眼から後頭部への圧迫感で、柔らかい金属質のものがピッタリと視界を塞いで張り付いているらしいことに思い至る。
感覚を研ぎ澄ませばそこが生活臭のない屋内で、天井はさほど高くはなく、自分が寝ているのは木製の床板の上であろうことが感じ取れる。
探ってみたが知り得なかった。 触手が身体に絡んでいる以上、あの怪異が遠からぬ場所に居ることだけは確かだった。
窮地に変わりはない。 だらん、と力を抜いたまま銀時は秘かに確かめる。 動かそうとしても指は動かない。首の向きを変えられない。 力は入るのにグンニャリと重い手足は自分のものではない物体のようだ。 そして四肢からたちのぼる熱い痛み。 雑巾のように絞られまくって全身の筋肉がズタズタにされたのだろうか。
木刀は腰から抜かれている。 おさまりの悪いスカスカした脇腹の軽さが自分が丸腰であることを告げている。
銀時はジッとしたまま考えを巡らせる。 『…走れねーな。膝が立たねェ。肩は…動くか。腹這ってでも、芋虫みてぇに転がってでも……ていうか、ここ、どこ?』 自分はどこまで逃げれば逃げおおせるのだろう。 風が枝葉を揺らす音は、ここが船舶の中でも宇宙空間でもないことを示している。 公園か、庭のある屋敷。その物置小屋とでもいったところか。
鬼兵隊が紅桜の宿主に用があるのは確かだろうが。 『あの意地っ張り。怒って帰っちまうし。幕府と契れだ? ふざけんなコラ』 頬が怒りにピクつく。 『テメーがそんな態度ならこっちにも考えがあんだよ。救出されちゃうよ俺は土方君に。はっきり言って靡(なび)くよ、土方君に』 心の中の仮想の高杉に毒づく。 高杉は偉そうに笑ったまま顔色ひとつ変えずにこちらを見ている。
一度や二度じゃない。 恨みでもあんのかってくらい戦場で高杉は銀時を邪険にあつかった。 身体の営みを差し引いても、なんだか辛く当たられた気がする。
直面する捕食者に意識を向ける。
また子の表現を思い出す。
しかも筋肉痛で身体がろくに動かないのだ。
そのとき不意に床の振動が鳴り渡った。 気配に銀時は総毛立つ。 ソレは銀時の目の前に立っている。
肉を、喰らおうと飢えているのが分かる。
続く
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