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* 高銀話です(連載中)
盛り上がった腕から刀が生えている。 巨体をズシズシと前進させてくる。 岡田似蔵としての面影はあるが、意味の解らない言葉を発する口は歯を剥き出しにしてヨダレを垂らし、どこを見ているのか眼球から焦点は失せている。 「おいでなすったか、…ずいぶんデケェな」 土方は値踏みしながら笑う。見かけより動きは軽い。本気になったら一飛びで馳せて一振りで捕り手を薙ぎ倒すだろう。 『副長、どうします?』 呑気に携帯が訊いてくる。 『高杉囲みますか、それとも予定通り岡田?』 「アホか、両方捕れ。両方ともウチのターゲットだろうが」 『無茶いわんでください、どっちも取り逃がします』 「弱音吐いてんじゃねぇよ! …なんだって一緒に湧きやがる」 土方はグッと握った携帯に叫ぶ。 「岡田だ。岡田に狙いを絞れ、そっちが先決だ」 高杉はここで取り逃がしても即座に具体的な脅威にはならない。しかし岡田は夜毎に犠牲者が出る。隊士の配置も装備も岡田を想定している。確実に岡田を捕ることが至上命令だ。 「逃げ道を想定して装甲車で押さえろ。一番隊二番隊、前へ出て岡田を囲め」 『相当人数の攘夷浪士が道を塞いでいますが、これは?』 「放っとけ、掻き分けてこい。手向かうようなら五番隊六番隊でお相手しろ」
武市が声を掛けてくる。 「あの人を貴方たちに渡すわけにいかないんですよ。ここは退いてくれませんか。我々が捕まえて連れ帰りますので」 「そういうわけにゃいかねぇよ」 土方は異形の相手を見上げる。 「アレを捕まえて事件を終わらせるのは真選組の急務だ。テメェら、万事屋と話しにきただけだろ。そっちこそ退きな。見逃すのも癪だが、邪魔がいなくなってくれる方がありがてぇ」 「私たちとしても、内部抗争の残務処理を幕府の役人に委ねるわけにはまいりません。…どうです? あの人を取り押さえるために、ここは協力するというのは?」 「本気で言ってんのか」 「ええ、あの人の身柄は譲りましょう。その代わり、あの人の一部分だけは我々に渡していただきたい」 「ククッ…やめときな、武市」 不愉快な冷笑とともに高杉が告げる。 「こいつらにアレの捕獲は無理だ。そして、俺たちはアレに用が無ぇ。こいつらが手を焼いてアレ相手に死闘を演じるのを楽しく見物しない手はあるめぇよ」 「テメェ、それで俺たちをバカにしたつもりか?」 土方は高杉を笑いながら見返す。 「すました顔して大口叩いてやがるが、テメェ、ここに何しにやって来た? 俺と万事屋が祝言あげるって聞いて、居ても立ってもいられなかったんだろうが」 いっときの、ささやかな意趣返しにすぎなくても、土方の吐き捨ては止まらない。 「どうだ? 俺とコイツが仲良く歩いてるのを見て、羨ましかったか? 素通りしようと思えばできただろう。なんでわざわざ声かけてきやがった。部下の作戦に口挟みに来たのか? 違うだろ?」 ボーッと立っている銀時を視線で指す。 「アイツは俺と一緒になることを承知した。テメェらに何があったか知らねぇが、アイツは俺のもんだ。俺は過去にはこだわらねぇ。尻尾を巻いて、とっとと帰りな、高杉。真選組は忙しいんだ。テメェなんぞに関わってる暇はねぇんだよ」
高杉は目を伏せて笑う。 「銀時ィ、テメェの牙は完全に腐れ落ちたようだな。もうそれ以上、凋落することもあるめぇよ。勝手に幕府と契(ちぎり)を結んで野垂れ死ね」 ふと顔をあげて銀時を見る。 「二度とそのツラ見せるんじゃねぇ。……斬るぜ」 その顔は激しい殺意に歪んでいた。 銀時は呆気に取られてそれを見つめる。 なにか言おうと銀時が口を開いた途端、高杉は身を翻した。 「武市。もう一度言う。兵を下げろ」 鬼兵隊の隊士が道を分ける中、騒ぎを外れてどことも知れない路地へ歩いていく。 「その野郎と関わったって時間の無駄だ。それだけ肝に命じたら、あとはてめぇらの裁量でカタァつけな」
武市は頭目の後ろ姿に声を掛ける。 「アレは回収しなくていいんですか!?」 答えは返らない。代わりに武市の横から鋭い一声があがる。
また子の指示で、鬼兵隊はザッと体勢を変える。高杉が歩き去ったことは志士たちも承知している。武市の顔を窺っていたが、また子の号令で志士たちの腹は決まった。 「また子さん、」 「なにしてるんスか、先輩。似蔵の亡霊より晋助様の意向が優先っスよ」 「しかし、……仕方がありませんね」 武市は銀時を振り返る。 「坂田さん。今日はこれで引きます。またいずれ」 「てめーら何しに出てきたんだ、ホント」 銀時は、バラバラと走りさっていく鬼兵隊の男たちを眺める。もうとっくに見えない高杉の消えた後を、つい銀時は目で追ってしまう。怒っていた。すごい顔で。あのまま食い殺されるかと思った。 意外だった。ちょっと笑ってしまう。そうか、アイツ怒ってんのか。 「万事屋ァ!」 「危ない、旦那ァ!」 土方と、真選組隊士たちの声が耳に入ったのは、そのときだった。 ブン、となにかが顔の前に飛来する。 「はぅ、ぐあ…っ!」 太い金属の管のようなものが数本、耳と首に巻き付く。 片手でそれを掴んで木刀を探る。 回避が遅れる。 胸や背中に衝撃がきて金属管が身体に絡みつく。 首が締まり、息が詰まる。 腰に差した木刀は抜けない。 腕が締め付けられ、上から力がかかって立ったまま地面に縫いとめられる。 背後から寄ってくる、重量のあるもの。 ズシ…、と地面が振動する。
人間のものとは思えない掠れて嗄(しゃが)れた声が、銀時の頭の後ろから降ってきた。
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