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銀魂高銀小説『気を引いても虚ろな世界』 をお読みくださる方へ PR |
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銀時は定春を連れて散歩するのが常だった。 夜遅い時間に定春の排泄を済ませておけば朝ゆっくり寝過ごせるからだ。
かぶき町の夜の賑わいを抜けて空き地や草むらの多い住宅地に出る。 定春はよろこんで綱を引っ張りながら前のめりに銀時を引っ張っていく。 とどこおりなく排泄を済ませたころ、定春の牽引力は一段落して前進する速度が落ちる。 そしてその頃、落ち合うのだ、銀時が夜中の散歩を繰り返すもうひとつの理由と。
神社の鳥居の陰から、空を見ながら歩いてくる男。 「ひでェ雨だった。今日はもう晴れないかと思ったぜ」 「オメーいたの」 銀時は期待通り現れた男に意外そうに応える。 「もう酒くらって寝てる頃だろーが」 「寝てた。けど、やんだからな」 高杉はスタスタ歩いて銀時を見もせずその横に並び、同じ方向へ歩き出す。 「突然の豪雨のあとの星をみるのも一興だろ?」 「あー、星でてんな」 銀時は定春の綱に両手をかけたまま空を見上げる。 「あんまり出てねーけど、見えるわ」 「そうかぃ」 高杉は眼を伏せながら愉しげに口の端で笑う。 「俺りゃそこまで探さなくても見えるがな」 「なに。お前の視力、もしかして片方の眼を遮断してるのは見える方を倍増させるとかそういう仕組みになってんのかよ」 「そういうわけじゃねェよ。ただ、俺の星はどこにいても目立つ。眩しいくれーだ」 「あー分かったから、お前のネタ。あれだろ、北極星」 謎解きを先回りして得意げに空の一点を眼で示す。 「明るいし、場所すぐ分かるし。そーいやさ、昔、昼間に北極星みようとして皆で林の丘に行ったじゃねーか。皆が空井戸に行っちゃって、ヅラとオメーが木のウロ探して、あんときよォ、林の方が遠かったし、俺は別にどっちに行ってもよかったんだけどね、林の方が面白そうっていうか」 「銀時、見ろよ。いっぱいいるぜ」 高杉が突然、よかったな、といわんばかりの含みで断言した。 言われて銀時は周りを見回す。 ここは人気のない夜の道。 自分と高杉と定春の他は無人。 いっぱいいるって、なんだよ。 なんにも感知できない。 まさか。 コイツ、霊感とかあったっけ? そういう、見えるけど触れないものが揃ってこっちを見てるとか? それとも足元に蠢く小型の生き物が黒々とした光沢をひからせながら集団で今しも足元から目の前に現れようとしてるとか? ふたつの想定に肝がスーっと冷えたとき。 「ホラ。このアパート、出ていってなかったな」 高杉が示したのは道沿いの集合住宅。 窓からいくつも照明が漏れていて、中の住人の存在を伺わせる。 「いなくなったんじゃないかって心配してたろ?」 そういえば。 前ここを通ったとき、あまりに真っ暗な部屋が多かったんで皆引っ越して出ていってしまったんじゃないかと、その理由をいくつか考えては危ぶんでいたのだった。 「お、おどかすなテメッ」 今になって心臓が高鳴る。 「こんななにもないとこで『いっぱいいる』とか言われたら怖いだろーが!」 「……ン?」 高杉は真顔で銀時を見る。 「ああ、そうか。そうだな、怖ェな」
思い至ったように眼を細め、笑いを噛み締める。 |
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団子屋の店主に捕まった。 「してねーよ、そんなスキャンダラスなこと」 「見たって言ってたぜ」 「なんかの間違いだろ」 「それもそうなんだけどよ、団子のツケ払ってけよ」 「のど焼け団子って知ってるか。みたらしとろとろの中にひとつだけワサビ入り激辛が混じってんだよ。合コンとかでロシアンルーレット的なアイテムは需要が伸びてんだよ。出血大サービスでアイディア料とツケを相殺してやるわ」 「ダメだ俺ァ、わさびみてェな辛ぇ団子には興味ねーから。それよりよォ、銀時お前たまったツケ払ってけよ」
「のど焼け直し飴ってのもセットで売るといいらしいぜ」 「俺はアンタが誰を知ってるか知らねーよ」 「またまたァ、隠さなくたっていいだろ。俺と銀さんの仲で」 長谷川はサングラスごしに興味の視線を向けてくる。 「最近いつもんトコにいないからどうしたのかと思ったんだよ。隅に置けないねェ」 「懐が寒いんだよ、飲み歩くには」 「もういいや、言っちゃおう」 銀時の耳に長谷川が小声で告げる。 「俺、ソイツに妬いてるかもしれないんだわ」 「あー、そうなんだ。ごくろうさん」 「お前と分かり合える同種は自分だけ、みたいなさ。なんかお前は俺をそんな気にさせる雰囲気がある」 「だろうな。俺ァ皆をそんな気にさせながらここまで生き抜いてきたからよ」
「ホント、今度見せてよ。アツアツの彼氏」 昼のかぶき町を歩いていた狂死郎と八郎に出くわした。 「かまっ娘倶楽部の人たちが騒いでましたよ。あんなイイ男、見たことないって」 「オイオイ、どこまで話が広がってんだよ」 「あの人たちがあんなに夢中になるなんて、少々ホストとしてのプライドをくすぐられましたよ」 憂い顔でうつむきながら、フッと銀時に眼を走らせて笑みを浮かべる。 「是非、店にお連れくださいませんか。無料招待させていただきたいので」 「なに闘争心燃やしてんの、この人。まったく意味ねぇエネルギーがメラメラ燃えてんだけど」 「僕は貴方と近しい方を拝見したいだけですよ」
「いやもう、ホントお構いなく。全力で放っといてほしいんで」 「知らねーよ。俺は犬を連れて散歩してるだけだ」 「相手は凄味のある兄ちゃんだって?あれか、鬼兵隊の大将か!」 「なに言ってんのォォ!!このクソジジイィィィイ!!!」 「がははは!隠すこたァあんめぇ。大将と白髪の仲ァ昔っからよく聞く話だ!それより銀の字、おめぇんとこのガキ、誰かに入れ込んでるみてぇだな。心当たりはあるか?」 「俺んとこのって…神楽?新八?」 「メガネの坊主よ。おっと、もしかして本人の前で言っちまったか。まあアイツには黙っとけよ!俺が言ったっていうんじゃねェぞ!」
さも可笑しげに歯を見せて源外が笑う。 編笠を深く被った僧侶姿の桂が橋のたもとに座っていた。 「貴様、あんなことのあとでよく逢引などという破廉恥な行為に及べたものだな」 「破廉恥なのは、お前の失恋ヘアーだ」 「…フン」 くい、と頭を上げて横に立っている銀時を見上げる。 「次に会ったら斬るんじゃなかったのか」 「お前ね、そう簡単に斬れると思う?」 銀時は桂の視線を受け流し、はぁ、と大きな溜息をつく。 「大根じゃないんだよ。お互い手の内は知ってるし。こないだの怪我まだ治ってねーし」 「お前とヤツの接近を快く思わない輩もいるだろう」 編笠が動いて桂の顔が見えなくなる。 「これは忠告だ」 高杉と関わるな。
立ち去る銀時を追う桂の声が告げる。 黒い制服の二人連れ。 横道から出てきた沖田に呼び止められた。 「ちょうど良かった。聞きたいことがあったんでさァ」 後ろから土方がゆっくり、しかし銀時を逃さぬ足取りで近づいてくる。
銀時は身体を正面に向けたまま、曲げた左腕を木刀に肘かけて肩越しに彼らを眺めた。 |
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「そうだけど?」 「つきあってる相手くらいは居ますよね」 さぐるように眼が銀時を見上げてくる。 「たとえば、夜な夜なデートしてる相手とか」 「…いねーよ、そんなん」 「そうなんですか、意外でさぁ」 沖田はトボけた顔で首を傾げる。 「こいつァ計算外だ。でも将来を誓いあった恋しい相手ってのは居るんでしょう?」 「だから居ねーッて」 言い放って沖田から離れる。 「話がそれだけなら行くぜ。愛しいパフェちゃんを待たせてるんでね、あっちのファミレスの厨房に」 「待ちな。話は終わってねェ」 土方が逃げ道を塞ぐように回りこむ。 「むしろこっからが本題だ。万事屋、これは武装警察真選組としての仕事なんでな」 刀の鞘をつかんだまま、その顔をあげて銀時を睨む。 「悪く思うなよ」 「…かまわねーよ」 銀時は感情をのせずにそちらに顔を向ける。 土方の鋭い視線を躱しもせず受け止める。 相手の呼吸を伺いながらあらゆる剣戟の動きを身体がなぞり始めたとき。 スッと間合いに入ったものが銀時の腕を掴んだ。 「と、いうわけで旦那。真選組に嫁に来てくだせェ」 掴んだものは沖田の両手だった。 ひとつ間違えば銀時の木刀に叩き折られていたそれは無邪気を装った呈で銀時の利き腕を絡めとっている。 「あ、俺だ。車まわしてくれ。場所は柳川の弁当屋の角な」 即座に携帯電話を取り出し指示を与える。 その間も銀時の腕を1ミリも離さない。 「ちょっと、ちょっと。沖田君」 銀時は首をまわして沖田を見下ろす。 「なにやってんのオメーは。そして今、俺の耳におかしなことが聞こえたんで離してください」 「おかしくねーでさぁ。あんたの耳はデビルマンより高性能だから自信持ちなせェ」 「いやだ。そんな自信は捨てる。捨て去る。人間、謙虚が一番なんだよ。お前も謙虚になれ。なんか変なこと言っちまっても取り返しがつくから。とりあえずこの手を離せ」 「離したら逃げちまうでしょう。そんな小学生でも分かりきったこと俺に勧めてアンタは恥ずかしいと思わねーんですか。悔い改めてとっとと真選組の軛(くびき)に繋がれやがれ」 「だからナニそれ」 真顔で沖田を覗きこむ。 「ぜんぜん意味が分かんないんだけど。連行か?つまり任意同行を求められているのか俺は」 「アタマが弱ぇ弱ぇとは思ってやしたが、ここまでとは」 沖田は情けない、といった風情で首を左右に振り動かす。 「アンタには好きな御人は居ないんでしょう?だから真選組に嫁に来てもらうんでさ。ウチはトップの近藤さんから最年少の俺まで、よりどり男が揃ってますぜ。好きなのみつくろってくだせェ。なんなら隊士をはべらせますんで。好みを言ってくれれば何人でも取り揃えまさァ」 「オメーにはいつか負けるんじゃねーかと思ってたけどよ。ボロ負けしたわ今、頭の悪さで」 銀時は声に苛立ちを潜める。 「オメーんとこの隊士、野郎ばっかじゃねーか。なんで俺が嫁?俺りゃ男だろ?男と男で嫁も婿も新郎も新婦もねーんだよ」 「大丈夫、天人の便利な薬があるんで。女体化なんてアッと言うまでさァ」 「んなもん、するかァァァ!!」 銀時は腕を引く。 「お前らが女になれ!いやソレだってお断りだけどね!とにかく妥協できそうなポイントがみつからねぇ、この件はなかったってことで!!」 「なに言ってるんですかィ、コトはそんなに簡単じゃねーや」 沖田はやってきたパトカーに合図を送って傍まで寄せる。 「一人ずつ試用期間で夜の相性でも見るんですね。俺もバッチリ旦那を俺好みの嫁に仕上げてみせまさァ」 「なに言ってんの、この子」 銀時は沖田の本気を感じて土方を見る。 「ちょっとおたく、どーいう教育してるわけ?これが警察の仕事だとでも言うつもりじゃねーだろな!」 「………岡田似蔵」 土方は二人のやりとりの間、取り出して吸っていた煙草を口から外して煙を吐く。
「この名を知ってるだろ。残念ながら、テメーに拒否権はねぇんだ」 |
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「ウソ、本当に来たァ!?」 真選組屯所は、にわかに騒がしくなった。 銀時がパトカーから降りるとそれを見かけた隊士たちがワッと銀時を取り囲む。 奥へ知らせに行く者や、緊張の面持ちで走りこんでくる者もいる。 「旦那、旦那、本当に嫁に来るんですか、誰にしたんですか、もう決めたんですか!?」 「俺って可能性もありますよね、」 「夢みてーだぁぁよかったァァァ!」 「旦那が嫁にッ!」 「触らせてくれ触りてぇぇぇ!」 群がって一歩も進めない。 銀時は真ん中でボーっと立ったまま興奮の隊士たちを意欲のこもらない瞳で眺めている。 その着物や主に腰のあたりに手を伸ばしてくる隊士たちを沖田が押しのけて道を開く。 「テメーら邪魔だ。すっこんでろぃ。旦那は俺の貞淑な淫乱嫁になるに決まってら。欲しかったら腕づくで奪りにきやがれ」 その場をぐるりと一瞥する。 「全員でなァ」 「……」 銀時は沖田に目をやる。 少し姿勢を低くした沖田から発せられたのは殺気。 眼にはギラついた刃物のような光が宿り、それに射竦められた隊士たちは反射的に腰の刀へ手を泳がせる。 後ろへ下がる者も、当の銀時の背中に隠れようとする者もいる。
土方の一声がその空気を破る。 「伝令いるか」 「はっ、ハイ、ここに」 「役職者に伝えろ。万事屋の件で会議室に集合。各部署の希望者志願者も同席のこと。以上だ」 「ははっ!」 一人の隊士が屯所内のどこへともなく走り去る。 それを見やることもなく土方は屋敷の中へと入っていく。 「いくぞ、総悟。とっととソイツ連れてこい」 「へい」 総悟は銀時の腕を取る。 「じゃあ行きやしょうか、旦那」 「いいけど。どこへ?」 「俺たちの愛の巣でさァ」 「どこ連れてく気だコラァ!」 土方が振り返って怒鳴る。 沖田は銀時を屯所の裏庭へ連れていこうとしている。 「ソイツの処遇はまだ決まってねぇ!テメェの部屋に勝手に引っ張り込むんじゃねぇよ!」 「チッ…年寄りはくだらねぇ会議とかで若者の貴重な愛の時間を奪いやがる。旦那はハナから俺のものって決まってんのにな」 「んなもん決まってねぇだろ!まだ万事屋の意向も聞いてねぇ。本人の承諾なく進む話じゃねんだよ」 「俺の愛はこうでさァ、旦那」 沖田は銀時へ向き直り、ヒシと握った銀時の両手を自分の胸元へ掻き抱く。 「アンタを縛り上げて一日中ベッドから降ろしやせん。むろん誰の目にも触れさせやせん。アンタは俺にすべてを任せ、俺はアンタに快楽を注ぎ続ける。アンタは永遠に俺のもんでさァ」 「……オイ、総悟」 土方は頭痛のしてきたこめかみを押さえる。 「大概にしとけ。万事屋がドン引きだろうが」 「え。マジで?」 銀時が沖田を覗き込む。 「一日中寝てていいの?仕事行ったり家賃払わなくていいのかよ?」 「あたりまえでさァ。アンタは俺の愛の奴隷なんですからねぃ」 「愛の奴隷つーか、金の奴隷な」 「お好みなら札束で頬をなぶってやりまさァ」 「うわソレ昇天するぞマジで」 「…ちょ、」 土方が頭を抱える。 「ちょっと待てぇぇぇ!なに意気投合してんのお前ら!お前らの趣味に走ったプレイの詳細なんかどうでもいいし!聞きたくねぇし!んなもんさせねーし!絶対やらせっかァァァ!」 「見苦しいですぜ土方さん」 言い放って、くるっと銀時を見る。 「じゃあ旦那、嫉妬男も見苦しいことですし、いったん戻って俺たちの愛を連中に認めさせやしょうかね」 「かまわねーけど」 銀時はダルそうな目で尋ねる。 「いつどこに俺たちの愛があったの?」 「ここでさ」 ちゅ、と握りしめた銀時の両手に口づける。 そしてそれを離すと、にこっと銀時にだけ、きれいな笑みを向ける。
「俺がアンタを手に入れたら一日中離しません。ソレだけは確かでさァ」 |
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全員こちらを、つまり銀時を向いて座っている。 「……」 「……」 皆、口をグッと引き結んでその眼にありたけの力をこめ、念力でもこめてるような勢いで銀時を見据えている。 銀時は彼らを見渡し、横に座る近藤と土方を見やり、ムンムンと男臭い空気の立ちのぼる天井を仰ぎ、そしてまた男たちに視線を戻す。 それをいくら繰り返しても、何分経っても誰も声を発さず、なんらかの動きを見せる者もない。 「……オイ、ちょっと」 「決まったのか銀時!」 銀時が声をかけると近藤は胸の前で組んでいた両腕を解き、銀時を向いて待ってましたとばかりに問いを発した。 「で、誰にするんだ。ここに居るのはお前のことが好きなヤツばっかりだ。誰でも構わん、遠慮するな!」 「いや俺が構う。遠慮してくれお前らが。だいたいさァ、」 銀時は座敷にギュウ詰めの隊士たちを指す。 「これ、どうして俺がこいつらとツラ付きあわせて息苦しい思いしなきゃならねーの。これ、なに?なんでこんなことになってんの?30字以内で説明してくんない?」 「アレ?聞かなかった、トシに」 近藤の視線が土方に移り、土方が面倒臭そうな顔で首を振るのを見ると近藤はもう一度あらためて銀時に頷く。 「これはアレだ、見合いだ。一人選んでくれ。それがお前の相手だ」 「だからなんの相手だ。決闘か、喧嘩売ってんのかテメーら」 「なにって…結婚の相手に決まってんだろ」 けろっとした顔で近藤が言う。 「お前、独身なんだろ?だから真選組の一人と婚姻関係を結んでここで生活してもらう。部屋は用意する。職業性別の選択はお前に一任する。以上だけど?」 「『以上だけど?』じゃねェェェ!!」 銀時は握った拳を震わせて、それでも思い紛れずダンッと畳にそれを叩きつける。 「なんで俺が独身だとお前らと縁組しなきゃならないわけ?バカ?お前らバカ?俺の選択は『テメーらみてェなバカと付き合いきれません』だ、それ以外にあるかァ!考えてもみろ、道歩いてたらパトカー乗っけられて、この中の一人と結婚してもらいます。ってどんなバトルロワイヤル?あ、バトルじゃねェか。いやある意味バトルだな、夜の。いやいやいや、帰るからね!しないから結婚とか!こんなとこまで連れてきて話がそれだけなら俺はこれで帰らせてもらう!」 「あぁ銀時、これ、お上にも話が通ってるから」 サラッと近藤が言った。 「もうさァ、お前個人がイヤだの良いだの言っていい世界じゃないからね。警察全体…ひいては幕府の政策みたいなもんだから、お前がここに来ることは。ヘタに出てったら指名手配かけられて検問はられて市民に通報されて容疑者扱いでお縄にしなきゃならないレベルだから、出ていくなよな」 「なにソレ」 銀時は不快をあらわに眉を立てる。 「なんでそんなことになってんの。てか、そんなことあるわけねーだろ。デタラメ言ってんじゃねぇよ。騙されねェから諦めろ。そんなことより俺に話があんじゃねーのか。…別件で」 「ふぅん。聞く気になったか」 近藤は銀時を見ながら口元に笑みを浮かべる。 銀時はイラッと身構え、否、警戒して反射的に身を引く。 近藤の眼は笑っていない。 両の眼は獲物を狩る雄のそれ。 「てめェ…」 「そうやってると、お前は毛ェ逆立てた猫そのものだな」 近藤は笑い、スッといつもの柔和な顔つきに戻る。 「詳しい話が聞きてェなら、ひとまずお前の気に入りを一人選べ。誰にでも聞かせる話じゃねェ。お前と、お前の選んだ野郎だけが知ることだ」 近藤が公然とそう言い放ったとき。 隊士たちの中から人を掻き分けて這いでてくる者がいた。 「あのォ旦那、俺なんかどうでしょうかね?」 頬を紅潮させ、恥ずかしげな、しかし得意げな瞳でまっすぐ銀時を見上げてくる。 銀時の見知った顔で、人に圧迫感を抱かせない、しかしそれだけにある意味、銀時にとっては警戒しなきゃならない真選組の監察、山崎退。 「俺ならコトの詳細は掴んでますし、旦那とはヒトカタならぬ馴染みもありますし、俺なら旦那も安心でしょう?」 「ぬっ、ぬけがけだぁ!!」 すかさず他の隊士たちが立ち上がり、騒ぎ出す。 「山崎てめェ、自分からは名乗りをあげない取り決めだろーが!」 「純粋に万事屋に決めさせるはずだ!だから平等に全員にチャンスがあるんだ、売り込みはナシだ、ひっこんでろ山崎ィ!」 前に這いでた山崎を、その隊服を掴んで隊士の群れへ引き戻す。 のみならず何人かはドサクサまぎれに山崎をボコる。 「あきれた。オメーら本当にチャンスは平等だと思ってんのかぃ」 隊士たちに混じって座っていた沖田が後ろを睥睨してほくそ笑む。 「冷静に考えてみなせェ。旦那が選ぶのはどう考えたって一番の野郎だ。一番、顔を合わせる喧嘩相手とか。一番権限のある局長とか。一番強いヤツとか。一番若いヤツとか。一番隊隊長とか。あ、やっぱ俺だ」 ズッと沖田が立ち上がる。 「というわけで万事屋の旦那。呼びにくいんで銀時って呼びますんで。それでいいですかねィ?」 座る銀時の前に進みでて片手を『よろしく』の形に差し出した沖田に、銀時が彼の顔を見上げる形で返答しかけたとき。 「ちょっと待て。そうはさせねェよ」 沖田の手から銀時を遮るように土方が二人の間に入る。 「お前これで万事屋が呼び名のことで承諾したら、『万事屋が選ぶのは俺だ、ってことでいいですかねって意味で聞いたんだ』って話をすり替える手だろうが。答えんな、こんな手に乗るこたァねぇ」 「なんでわかったんですかィ。邪魔すんなよ土方コノヤロー、もう少しで旦那が頷いたのに」 「コトがコトだけに万事屋の意志優先だ。姑息な真似すんな。いいから座ってろ」 「…なんだかんだ言いながら」 沖田は冷たい笑いで土方を見下ろす。 「アンタがここに居んのはどうしてなんでぃ?自分も万事屋の旦那の争奪戦に加わってる気ですかィ?え?選ばれると思ってる?土方さんが?旦那に選ばれる気でいる?うわ、痛たたたッ!」 「うるせぇ!放っとけや!」 グサグサ沖田の言葉に突き刺されながら土方はグッと堪える。 いつもなら売り言葉に買い言葉で沖田のからかいを全否定して回る。 しかし今回は否定するわけにはいかない。 銀時のいる目の前で心にもない逃げを打つことは自分の首を締めることになる。 おそらく沖田もそれを狙っている。 それだけに土方は口を噤む。
だから、銀時から目の前に指を突きつけられたとき、土方は一瞬判断が遅れた。 「…えっ?」 土方が顔をあげると銀時がこちらを見ていた。 ジッと正面から真面目な表情で、その深い色の瞳がふたつ土方に真っ直ぐ注がれている。 ─── ああ、綺麗だな 目が勝手に銀時の顔の造作を辿っていく。 分かりにくい輝きをたたえた瞳。 なめらかそうな頬、バランスのいい鼻すじと、よく動くけれど今は禁欲的に閉ざされた唇。
その唇が動いて自分の名を呼ぶ。 「よろしくな。ひじかたくん」
近藤が別室に来るよう声をかけても、その声すら土方の耳を素通りしていった。 |
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銀時は不躾に眺めまわす。 土方はここに私物を持ち込んでいない。 使った物はこまめに片付ける性格だ。 部屋は整然としている。 しかし初めて招いた客 ── 銀時に、プライベートを明かす面映さと、招いた理由の微妙さに、土方は何気ない風を装いながら銀時の視線の向かう先や、そのとき銀時の顔に浮かぶ表情をひとつももらさず伺っている。
銀時も感想を言いあぐねたようだ。 各所点検の末、床の間に向けた顔を静止させて呟く。 その瞳は床の間に置かれた土方の刀を見ている。 刀置きに掛けられた大刀は普段土方が持ち歩いている刀とは別の拵えだ。 「あれ、中身入ってんの?」 「入れてなきゃ意味ねぇだろ」 「見ていい?」 「構わねぇけど、その前に聞きてぇ」 「聞きたいのは俺だっつーの」 銀時は刀へ向けていた注意を土方に集める。 「真選組(オメー)ら、どんな情報掴んだの。んで、どんな作戦立てたわけ?」 「そいつァ近藤さんが来てから話す」 土方は向い合って座る銀時を、やりにくそうに見つめる。 「……なんで俺を選んだんだ」 「あぁ?いまさら苦情か。誰でもいいつっただろが」 「苦情じゃねぇよ」 土方は誤解を恐れて即座に改める。 「テメーが誰を名指ししようが問題なかった。ただ、テメーの魂胆を知っときたいだけだ」 サラッと自分の口が嘘をつく。 とんだ綺麗事だ。 銀時が誰かを選んでいたら大問題だ。 その選ばれた隊士と今まで通りの関係を保てた自信もない。 その一点をとってみても銀時が自分を選んでくれて感謝している。
銀時は白けた眼をあさっての方向へむける。 「テメーらの魂胆は明かさねェくせに俺にだけ喋らせようっての?これだから役人ってのは食えねェんだよなァ」 打ち解けた雰囲気が銀時から消える。 急に土方は銀時から弾きとばされたような遮蔽感を覚える。 この流れはまずい。 真選組の副長としても、土方個人としても。 「魂胆とか、言葉が悪かったな。俺ァそんな深い話してねぇよ」 平静を装って食い下がる。 「オメーが俺を選んだ理由が知りてぇ、ただそんだけだ」 「…マジで?聞きてーの?」 銀時は意外そうな瞳をして土方を見直す。 「なんでオメー分かんねェの?そっちのが俺わかんねェ」 「ア?」 土方は銀時と目を合わせる。 「俺を選んだ理由ってのは、わざわざ口に出すまでもねェくらい一般的な事だってのか」 「そうだよ」 銀時の眼がやる気なさそうに半分閉じる。 「言うまでもなく当然、てレベルの理由だよ」 「…分からねぇな」 土方は本気で思いめぐらせる。 銀時に、まがりなりにも婚姻の相手として名指される理由。 考えるうちに体躯が熱くなってきた。 冷静な思考は言っている。 銀時は今後の展開を考えて真選組副長を選んだのだ。 銀時の知り合いの女を追いかけている組織の長よりも。 暴走しかねない腕だけは立つ幼い青年よりも。 動きやすさ、情報の入りやすさ、隊内の権限などのトータルバランスがいいとでも思ったのだろう。 だが、決め手はない。 銀時が『副長』だけでなく自分という人間をどう捉えて下した結論なのか。 たとえば『副長』が自分以外の人間であっても銀時は『副長』を選んだのか。
「…言わせんのかよ」 信じられない、といいたげに土方に瞳を見開く。 まぶたが数度、まばたく。 土方に寄越される銀時の瞳。 「んー、ええと…ど、どうしよっかなァァァ!」 銀時は言いにくそうにしている。 『婚姻相手』などと言われても一向に動じず、むしろ余裕で計略を軽んじていたように見えたが、ここにきて銀時が平静でもなんでもなく頬に赤味を浮かべ、しかもそれを次第に濃くしているのが顕わになる。 一方の土方も銀時がそんな様子であると見るや対峙している自分の顔がおかしなことになっているような気がして焦りだす。 身体が熱いばかりではない。 首から上がのぼせたように熱くて、まさかコレ顔が赤くなってんじゃねぇだろな。 照れてねぇぞ、俺は照れてねぇ!と誰に向かってともなく心の中に大声で言い訳を響かせる。 そうしているうち銀時がキュッと唇を結んで顔をあげる。 思いきりを見せつけるようにその柔らかな唇をゆるゆる開き、 「じゃ、…言うぞ!あ…あのよォ、」 「お…オゥ」 自分はこんなの平気だから。 なにも躊躇ってないから、と表面を懸命に装う銀時の追い詰められ感を十分に感知していながら、今はそれをあげつらって揶揄する余裕も表情ひとつ変える心の寛ぎもない。 土方は観念する。 自分も銀時と同じくらい顔を赤く、身体を熱くしている。 こちらを見る銀時の瞳が、潤んでいく透明な輝きが、たまらなく土方の鼓動を煽り立てているのを、もうどうしようもなく開き直って認めるしかなかった。 ─── 銀時が好きだ 他のヤツに渡したくない その身体に綺麗な肌に触れることを自分は許され、 銀時も同じ心地で自分に触れてくる、 その指先を、まなざしを自分は欲してる
銀時は告げた。 「そのォ、俺よりデカくないし。顔見えるし。ちょうどいいし。だから」
見るからに『言っちまった!』ノリ。 言わせた自分を恨むように怒りの視線を向けてくるが、頬を染めてそれをされても欲を刺激されるだけだ。 「………エ?」 それはいい。それはいいのだが。 背ってなに? 「背って…背丈?」 「そうだよッ」 睨んでから目をそらし、ハァ~と嘆息する。 「同じ身長のヤツ、オメー以外に見当たらねーだろが」 「……いや」 土方は自分の声が答えてるのを遠くに聞く。 「調べてみりゃ何人かは居るかもしれねぇ」 「要らねーし、そんなん」 ぼそっと銀時が呟く。 「こいつマジか?マジで分かんない?もー分かんねェのはこっちだよ。つか、もういい。分かるまで放置してやる。たっぷり悩め、悩みぬけッ」 「………オィ」 「んだよ!?」 「聞こえてんだけど」 「……あ、」 バツの悪そうな顔が半端に動いて笑う。 「そ…そう、んじゃ、ひとつ……言っとくけど」 「…なんだ?」 「俺がお前を選んだのは、お前と同じ理由だから。……たぶん」 「…!」
今度こそ銀時は赤くなり、今度こそ土方の心臓は止まりそうになった。 |
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近藤はこの部屋ではいつもそこに座るのだろう、土方より奥に陣取ってドカリと腰を下ろした。 「どうだ。話は進んでるか?」 「まあな」 銀時は土方から目を逸らし、近藤にも向かぬまま答える。 「とりあえずオメーが来ないことには話にならねぇってとこまで進んだ」 「なんだ、全然進んでないじゃん!ありえなくね?」 銀時と土方を交互に見る。 「もう寝床で一戦終わって痴話喧嘩でも始まってる頃かと思ったのに!」 「そっちのがありえねぇだろ」 土方が嫌そうに近藤に視線を向ける。 「俺からはまだ何も話してねぇよ」 「なに。土方君ていつもそうなの?」 銀時が腕組みして近藤に向き直る。 「部屋に連れ込んだら超特急で終点突破して、もう車庫でメンテナンスしちゃってるカンジ?」 「そうそう。トシは口説く手間も脱がす時間もかからないから。皆、勝手にトシに熱あげちゃうからなァ、会って5分でベッドインなんてザラだと思う」 「てことはだ。俺がこの部屋に来て10分くれぇだから、5分で床入りしてたとしてオメーがもう一戦終わってると判断したということは、土方君てばラストスパートまで6分かからねーってこと?」 「トシは早射ちだからな」 「そんなせわしない早射ち、見たことねぇ。ちゃんと的に当たってんのか?」 「狙いも正確だぞ。そのうちトシ似の子供たちが集まってサッカーチーム作ると思う」 「てめぇらいい加減にしねぇか!」 こめかみに青筋たてた土方が大声で遮った。 「部屋に連れ込んだ覚えも無責任に手ぇ出した覚えもねぇ。人聞きの悪いネタで盛り上がんな!」 「ほー、珍しいじゃないか」 近藤が感心したように土方を見る。 「こんなの、いつもなら聞き流すだろ?」 「酒の席ならな。ありもしねぇ妄言で騒いでる酔っ払いなんざ相手にしねぇよ」 「そうか。わかった」 近藤は真顔でうなずく。 「銀時、お前グッジョブだ。俺からも頼む。トシをよろしくな!」 「よろしくって、お前。本気でコイツと結婚させる気?」 銀時は目を眇めて近藤を見る。 「お前言っただろ、一人選べってよォ。そろそろ本題に入ろうぜ。テメーら、なんのつもりでんなことやってんだ?」 「…うむ、それだがな」 近藤の顔つきが変わる。 「近頃、我が真選組の結婚率の低さが話題になった。お上からのお達しで立場上、俺も動かざるをえなくなった。そこでまず隊内の現状を把握しようと独身者を集めてざっくばらんに話し合った結果がコレだ」 「ええと、途中から聞いてなかった。聞く必要もねーだろ。帰らせてもらうから足代包め。それで昼飯食うことにするわファミレスで」 「待て待て、こっからが本筋だって!」 立ち上がろうとする銀時の腕を近藤が引き止める。 「皆が所帯持たないのはテメェが死んだとき嫁さんどうするって話なんだよ。それから仕事中、嫁さんに気ぃ取られて呆けてたら死ぬだろって話だ。だったら強くて美人で、テメェら守ってくれるくれぇ腕の立つ別嬪さんなら文句ねぇだろ。それが同じ職場にいりゃ心置きなく戦えんだろ、ってことになって」 「じゃ、そういうオンナ探してこいって依頼か」 「その条件にピッタリなのが、オマエ」 銀時の言葉を無視して近藤は銀時を、はったと見据えた。 「お上に言われて何もしなかった、なんてことになりゃ俺たちクビ飛んじゃうからね、一組でも祝言あげればちゃんと隊内で取り組んだ成果だって認めてもらえるからさぁ、もう招待状も用意したし。挙式は来週の土曜日だし。それまでに離れを新婚部屋に改装するから。いつ抜き打ちの見回りが来てもいいようにそこで生活してくれ。明日から改装業者が入るからな!」 「だいたい理解したと思うけどよ」 銀時は生気のない眼で近藤を見る。 「聞きたいことは二つだ。まず、俺の意志はどーしてくれんだ。二つ、俺ァ男だから嫁んなるのはムリ。お前らの前提おかしいだろ。そこんとこどーなってんのか説明しろ」 「うーん、そうだな。心苦しいが…すまん銀時!」 近藤は顔の前で両手を合わせて拝む。 「実はお前を婚姻相手としてお上に申請したら、テメーらみてぇなムサイ連中に嫁に来てくれる気のいいヤツは、そうはいねぇ。絶対に離すなって厳命が下って。お前の意志は二の次になっちまったんだ。もうお前、この話受けないと犯罪者だから」 「テ、テメッ!俺を申請!?なに勝手なことしてくれてんだァ!んなもん承諾した覚えはねーよッ」 「いわゆる事後承諾ってヤツだな」 「しねぇぞ、そんなもん!お偉いさんの集まった席で暴れてやる。テメェらの魂胆暴露してやる!」 「そりゃ困る」 近藤が笑う。 「なんとか協力してもらいたい」 「だから俺は男だから祝言ムリだし!それともなに?コイツが花嫁衣裳着んの?」 苛立たしげに土方を指す。 「だいたい俺には仕事があんだよ。従業員もいるし。ドッキリとしては面白かったけどナイから。現実にはナイから!」 「じゃ、こっから取引だな」 近藤が楽しげに言う。 「最近、江戸に辻斬りが出るのは聞いてるだろう。その人相風体の証言から高杉晋助率いる鬼兵隊配下の岡田似蔵と断定された」 「………」 銀時は近藤に顔を向ける。 銀時に言葉はない。 その反応を、表情を土方はジッと伺っていたが銀時の瞳には何の変化も見られない。 「いつぞやまでは岡田は実際に人を斬っていた。だが…そうだな、高杉率いる鬼兵隊と桂小太郎の攘夷党が江戸湾上空で武装戦艦を衝突させた内部抗争事件を境に岡田は人を殺さなくなった」 銀時は動かない。 呼吸すら留めているように見える。 「岡田が鬼兵隊の指示で動いているのか、だとしたら狙いはなんなのか、すべて不明だ。ただ、襲撃を受けた者たちは皆、同じことを言っている」 紅桜をその身に宿し。 銀時の一閃で散っていったその姿が銀時の脳裏に翻る。 「『坂田銀時はどこだぃ?』」 近藤の声が、岡田似蔵の言い回しと重なって銀時の耳にすべりこんでくる。 「終始、そんなことを言いながら被害者を嬲る、とな。最初は人の形をしているが、次第に腕や身体が膨れ上がってイビツな化物に変形していくそうだ。抜身の刀を持っていて、片腕だけは最後まで刀らしき原型をとどめているが、いずれにしろ全身から管(くだ)のようなものが出て被害者を絡めとり気が済むまで暴行を加える。皆、命は取りとめちゃいるが全治一ヶ月以上の重傷だ」 「狙われんのが全員、オメーと同じくれぇの年齢の、似たような背格好の男なんだよ」 土方が挟む。 「それも必ず二人連れで歩いてるヤツを襲う。一人を一撃で昏倒させたあと、もう一人を標的にする。テメェによく似た方をな」 「……で?」 銀時は低い声を出す。 「どのへんが取引?」 「お前と岡田似蔵の関係を俺たちに残らず話してもらう必要がある」 近藤が告げる。 「もちろん、鬼兵隊や高杉との関わりもな。残念だが今の時点でお前は限りなく黒に近けぇ」 近藤の眼光が銀時を捕らえる。 「お前が俺たちに素直に話すとは思えねぇ。だが手荒な真似はしたくねぇ。お前は拷問したって口割るタマじゃねぇし、なにより俺たちも今までのお前との関わりがある。できりゃ穏便に済ませてぇんだ」 微動だにしない銀時に、近藤が問う。 「銀時。あの内部抗争でお前が果たした役割はなんだ?岡田はなぜお前を狙う?奴らとモメたのか?なにが原因で決裂した?天人との取引か?新型の武器か?その現物はどこにある?お前、知ってるのか?」 「結婚云々は後付けか」 銀時は近藤から目を離さず、平坦に発する。 「どうせこっちの話が本命だろ」 「それだけじゃねぇよ」 近藤がフッと、すまなさそうに笑う。 「結婚話も今回の騒動の一環でな。お前が事情を話せばテロ事件の容疑者として捕縛。話さなければ公務妨害で捕縛。どちらにせよお前は俺たちに協力を『強要』されることになる」 「どっちもゴメンだ。弁護士呼べっつったら?」 「お前の自由意志はなくなる。ってことになる」 言いたくなさそうに、しかしあえて軽い口調で言う。 「必要なことしか喋らなくなって、おとなしく部屋に閉じこもって、ついでに身体も非力な女にしちまう。そんな便利な薬が天人の技術じゃいくらでも作られてるし、俺たちのところまでダブついてる」 「脅しだな。取引じゃねぇ」 銀時は血の気のなくなった顔でうっすら笑った。
それを見て土方は上着のポケットの中に煙草とライターを握りしめたまま、銀時から逸らすように俯けた瞳を静かに伏せた。 |
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近藤が白々しさを通り越した親しみの眼差しを銀時に向ける。 「お前を動かすことができるのはお前の意志だけだ。だから本当は取引もしたくねぇ。お前の中から自然に出てきた心情だけで俺たちに手ぇ貸してほしいんだ」 「ならはじめからそう言えって」 銀時は大きく肩を下げて嘆息する。 「おどかすなよ。要は依頼ってことじゃねーか。予算組んでバッチリ出すもの出せや。そうすりゃいくらでも俺の身体から労働意欲と義務感が最優秀演技賞なみの演技力とともに湧いてくるからよ」 「銀時。その方がお前が俺たちに協力する理由を自分につけられる、ってのは分かってる。だがな、俺はそれじゃ嫌なんだよ」 近藤が困ったように笑う。 「できりゃ本気で嫁に来てほしい。お前のことを大好きなヤツと穏やかな時間を過ごして、お前がそいつと本気で情を交わして、ここに居たいと思う気持ちから俺たちの輪に加わってほしいんだ」 「そいつぁストーカーの発想だな」 銀時は歓迎しない招致に苦笑する。 「頼まれたって居たくねぇところには居らんねーし。好きでもねぇヤツとどうこうなるはずもねぇ。薬使われよーが、痛めつけられよーが、俺の心は揺るぎゃしねーよ」 「だから形から入ることにする」 近藤が宣言する。 「いいか、お前はトシと両想いだ。屯所の中でも外でもラブラブのイチャイチャでやってもらう。若い恋人同士だ、あけっぴろげに行為に及んでくれて構わん。むしろ無いと不自然だからしっかり頼むぞ!とにかく隊士たちにもお偉いさんにもバレないように。バレたら即刻、留置所行きだから。それで昔の悪業とか引っ張り出されたら目も当てられねぇ、見せしめに磔(はりつけ)にして公開処刑もありだから気をつけてな!」 「ちょ待て。そんな強制取引はゴメンだ。いいから依頼にしろ。ひとことそう言や、おおむねテメーらの望みどおりにやっからよ」 「依頼ってのはお前の権限で解除できるだろ?」 近藤は笑って却下する。 「こいつァあくまでもお前の意志を尊重した取引だ。お前の自由意志で俺たちのところへ嫁に来る。そうすりゃお前は俺たちの身内だ。身内に拷問してまで鬼兵隊や高杉との関わりを吐かせろって話はねぇだろ?俺たちの嫁さんが真選組に不利な情報隠しとくわけがねぇからな。話さねぇのは本当に知らねぇってことになる。だからお前が嫁に来てくれるなら俺たちはお前に何も聞かねぇ。話したくねぇことは話さなくていい。現在のことも、過去のことも。それがお前と俺たちとの間で交わす取引だ」 黙って聞いている銀時を見ながら近藤が続ける。 「お前の自由意志から発生したものとして『取引』の形態を取ってることは内緒だ。契約書も作らん。証拠が残らんよう口頭で済ませる。ただしお前がこれに反したときは相応の罰則を伴うことだけは確かだけどな」 「お前らは?」 銀時が仏頂面で聞き返す。 「お前らが違反したらどうしてくれんの?」 「そうだな。なにを以てして違反となるのか曖昧なところだが」 近藤はまるで迷いのない眼を向ける。 「そんときゃ俺の首、お前にやるよ」 「……いらねーよ、そんなん」 銀時が鼻を鳴らす。 ハハッと近藤も笑う。 「そうだな!俺だってオメーの磔刑(たっけい)なんざいらねぇ。ま、お互いそうならねぇよう、よろしくな!」 近藤の話はそこまでだった。 彼はなかなかに忙しいらしく時間を思い出したとたんに立ち上がり足早に土方の部屋を出ていく。 「あ、オイちょ待て!」 「俺もう行かなきゃ、あとの細かいことはトシに聞いてくれ」 「こいつとここに二人で残されたくねぇんだよ、テメーと意味のねぇ問答してた方がまだマシなんだよ、察しろやゴリラァ!」 「そんだけ意識してりゃ十分だ。お似合いだぞ、お前ら!」 ピシャリと障子が閉められる。 ドスドスと廊下を鳴らして近藤は歩き去ってしまう。 「行った…行っちまいやがった。ちょ、やだコレこの状況」 ガクッと首を垂れ、畳に両手をついてうなだれる。 斜め横でカチッと音がし、たちどころに重苦い煙草の匂いが漂ってくる。 眼だけでそちらを見ると土方が澄ました顔して白い紙巻きタバコを咥えている。 「…ま、そういうわけだ」 その唇の間からフーッと煙が吐き出される。 「今から俺たちゃ婚前カップルだからよ。よろしく頼まァ」 「素朴な質問していーか」 「なんだ。浮気は許さねーぞ」 「うわ、浮気ィ?」 声が上擦る。 「て、テメッ、意外と縛りつけるタイプぅ?俺そういうの重くてダメなんだよね!」 「俺は惚れたモンには全力でそいつだけだ。よそ見なんかしねぇ。誰かがオメーに触ろうもんならブッた斬る。お前がそいつに走ろうもんなら」 土方は言葉を切る。 眉をしかめながら強く煙草の煙を吸い込み、同じくらいの時間をかけて横向きにそれを吐き出す。 「俺はオメーになにするか分からねぇよ」 「怖ぇよ。マジんなるなって」 銀時は小さく息をつく。 「どうせアレだろ。辻斬り事件が解決すれば俺はお役御免だろ。それまで仮面カップルってことだ。俺りゃアレだ、今の今まで誰かに懸想してそいつに繋がれるなんて経験はねぇからよ。お前もありもしねぇ恋情にふりまわされることになったら正真正銘、無駄な労力だからよ。そんなことになんないよう最初に言っとくわ」 「なにをだ」 「エ?」 「なにを最初に言っとくんだ」 「…だから本気にならないようにって」 「そうかよ。それじゃァ、キスでもしてみっか」 「ア?」 銀時はそちらに顔をあげる。 あまりに呆気なく言われたのでなんのことか理解してなかった。 文机の灰皿へ土方は慣れたように煙草を置き、身を返して銀時に乗り出して顔を近づけ。 「ちょ待ッ」 土方の意図を知って身を引いた銀時の腕を掴み。 逃げないように反対の肩を押さえ。 アッというまに目前に端正な黒い瞳が迫ってくる。 「こっ、こんなんしてられるかァァァ!やめっ、テメッ、」 土方の顔を掴んで押し戻す。 「結婚てのはフリだろうがよ、なんでだ、やめとけやァ!」 「こんな身体ギクシャクさせてなに言ってんだ」 土方は立ち膝で銀時に被さってくる。 「そんな熱愛カップルなんざ聞いたことねぇんだよ」 「人前ではうまくやるってんだよ、テメーの部屋でまでイチャこけるかっての!」 「テメー近藤さんが言ったの聞いてなかったのか」 銀時の抵抗に土方は後ろの銀髪ごと後頭部を掴んで上向きに固定する。 「不自然にならねーよう、行為もしっかりヤれって言われたろうが」 「だからそりゃ観客がいるときの話で、」 「隊士にもバレんなつってただろ。ここは部屋で何してんだか外から聞こえんだよ。さっきからフリだの演技だの言いやがって。そんなもん、要らねぇし」 「や…、やだって、」 半端な抵抗を続ける銀時を器用に押さえこみ、手が出ないよう、身体を痛めないよう、息がつまるくらい強く抱きすくめ。 「うそ、…ま、待て、待てぇ!」 なおも銀時は距離をとろうと土方の腕の中で後ずさる。 「俺、声の演技も得意だから!なんなら台本書く二人で?ほ、ほんと、こういうのダメだから頼むから300円やっからァァ!」 「いるかァァァ!!」 土方は律儀にツッコンだあと、フッと銀時に破顔する。 「心配すんな。台本はいらねぇ。唇あわせて身体あわせて嘘を本当にしてやらァ」 「んっ、やめっ…んぁ…っ…、!」 そっと唇が、こわばる唇に触れる。 その柔らかさに反射的に驚き、そしてどこか安堵する。 それでも土方の肩を掴んだ腕は、いつ相手を突き放そうか力をこめて惑っている。 我慢して食べないようにしていた甘味を、ついうっかり口にしてしまったような幸福感とチラホラ掠める罪悪感に、どうにかなりそうになってそんな自分が情けなくて泣きたくなる。 「好きだ」 耳に囁かれる。 「お前を俺だけのものにしちまいてぇ」 低い声は腰にクる。 しばらくぶりの他人の腕の甘い拘束は神経を酔わせる。 銀時はひとつ息をつく。
身体から力が抜け、その身が土方の腕に支えられて少しずつ崩れていった。 |
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背は倒れることも許されずに相手の腕に捕らわれていた。 ゆるいが確実な拘束の中で、接吻しやすいよう抱き締められては唇を噛まれ、隙間が空いてはまたその僅かな吐息の空間を埋められる、そのくりかえし。 唇の感触はなめらかだった。 触れては離れるさりげない接触も、その温度も、押しつけあうたび伝わる弾力も、いやに心臓を直撃してくるがキライじゃない。 続けたいと思うほどの楽しさもある。 いやむしろ好きかも。 直前まで吸っていた煙草の匂いが土方本人の整髪料かなにかと混ざって爽やかな男らしい香りとなるのか、脳に直接おくりこまれるソレが土方の前髪のあたりから降ってくる。 抱かれて捕らわれて、そのよどみなく鍛えられた腕の中で接吻を受ける。 そんな単純なことで身体は痺れるように熱くなる。 ハァと唇の合間に息を継ぎながら、今まで自分はこんな丁寧な扱いを受けたことがあったっけ?と頭の隅で思い返す。 浮かぶのは長いこと自然に隣りにいた相手。 いいか?の承諾もなく縺れあい、むさぼりあう衝動と発散の果てのセックス。 互い以外の一切を消したくて、だから穏やかな労りなんか邪魔だった。 その行為と相手を思い出した途端、なぜか身体をめぐる血の勢いが拍車をかけて熱くなる。 やばい。 アイツでもない相手とヤッちまうわけにいかない。 でもコイツの慎重なお誘いを、どうしよう。 やけに気持ちいいんですけど。 そう、まるで快楽に直結しないよう焦らされながらゆっくり食まれる唇は「性」を意識させることなく銀時の身体だけ溶かしていく。 この強引そうな、腕に収めたら脇目もふらずに即物行為に突入しそうな男が。 性急な動きを抑えた力の篭もった身をかがめて、努めてこちらの反応を伺いながら触れてくる。 手慣れたカンジだけど間近な息遣いに余裕はない。 これにピッタリの言葉は──そうだ、「優しい」だ。 どういうわけか自分はこの男に気遣われ、大切そうに優しく触れられている。それこそ愛されちゃってるみたいに。
銀時は自分の考えにギョッとした。 アレ?俺ってコイツに愛されてんの? だって普段コイツって人のことイライラ睨みつけてくるよね? ああ言えばこう言うし。 他の奴にはそうでもないのに俺には当たりキツイし。 お前とは相容れねぇって張りあって逆ばっか向いてんじゃなかったか? でも先刻「好きだ」とか言ってたよね?言ってたよな。 軽く雰囲気で流しちゃったけどアレ俺に言ってたんだよな?なにコイツ俺のこと好きなの?
「ア? …ンだ、なんの話だ?」 土方は銀時が唇を解いても顔をしかめも口調を荒げもしなかった。 まだ同じ体勢にいる銀時を熱っぽい切ない瞳で覗きこんでくる。 や、コイツすげー。と銀時は土方の忍耐に感心したが、その実、土方の熱が少しも陰らないのは銀時の瞳が欲を宿して土方を見上げて潤んでいるからだ。 その肌が土方の指に触れられるためのように歓喜に蕩けつつあるのを土方が身をもって感じているからだ。 なにか言おうとする銀時の唇、その合間から継がれる吐息、歯列、甘そうな舌が土方の目に映るたび、これがたった今自分を拒否することなく従順に口づけを受けていた、そう実感できる愛おしい対象となって土方を猛らせ、銀時が自分の腕にいること、これから自分のものにしようとしていること、その興奮になけなしの理性を苛まれる。
銀時が、どうあっても捕まりそうにない相手が、腕の中で溺れたような瞳をして自分を見ている事実。 もう離したくないと言わんばかりに銀時を抱く指に力が入る。 それに身を揺らして反応する銀時に、ますます逃がすまいと力が篭もる。
銀時の問いかけは囁くように睦言のように土方の耳をくすぐる。 「アァ、…好きだ」 たまらず銀時の跳ねた前髪を甘噛みする。 「お前のことが気になって仕方ねぇのは、好きだからだろう?」 「アレ、お前の態度、気になるとかいうレベルの話なのかよ」 いつもなら否定の決めつけ口調で放たれる言葉も、銀時に舌足らずに問いかけられれば心地良い戯れになる。 解っている答えをなぞるように問い詰められるのは恋人同士の愛の確認のようだ。
「きらいじゃねぇなら、このまま流されちまえ」 腕の中の銀時に口元を緩めてみせる。 目を細めて、想いを言葉に乗せて、銀時の存在すべてに言い聞かせる。 「俺とイケナイ遊びすんのはキモチイイぜ?」 「……ん、」 「最高にヨクしてやらァ」 「…それホント?」 「じゃなきゃオメーにこんなこと言わねぇよ」 「…ンなこと言われたら悩むだろーが」 「もうお前に触りてぇよ」 「ん、でもよ…」 「嫌れぇか、キモチイイのは?」 「…きらいじゃねェよ」 銀時は観念したように感じ入ったような溜息をつく。 「お前…キスしようつったのは、こーゆーことだろ?」 「……どういうことだと?」 「お前の唇キモチヨすぎ。キスしたら…ゼッテーその気になっちまう」 「その気になったんなら責任とってヤッから安心しろ」 「あぁ、でもなァ…」 銀時は瞳をさまよわせる。 「これ、ヤベェかもしんねぇ…」 「なにが」 「お前とそーゆうことになっちまうの」 「構わねぇよ」 「なんでだよ」 「俺はとっくに腹決めてる」 「そりゃお前はいいよ?でもよ…」 眉を寄せて土方に尋ねる。 「俺ってオメーのこと好きなのかな?」
そして直後、静かに笑う。 これまで土方など眼中になかった銀時が自分はコイツをどう思っているのかと検討するまでになったのだ。 銀時の意識に食い込むことができた成果は大きい。
好きだろ?と聞きたいのをこらえて反対で聞く。 銀時の気まぐれは読めている。 下手に押し付けると逃げていく。 この問答を恙無く進められるのも今までの銀時との不毛な積み重ねがあってこそだ。
「じゃあよ、」 ゆっくりと提案の形をとって銀時に望む。 「わかるまでこうしていねぇか?」 銀時の鼻先に自分のそれを近づける。 「俺はお前にキモチイイことする。お前はただキモチヨくなってりゃいい。面倒なことが起こったらそれは俺の責任だ。ぜんぶ俺が負ってやらァ。だからオメーはなんにも考えず俺の腕ん中に居りゃァいい」 「ちょ、ダメだろそれ反則だろ。んなキレイなツラで、んなこと言われて口説かれたらグラッとくんだろが」 「グラッときて足元くずされて俺んとこまで墜ちてきちまえ」 「なにこれ口説かれまくってね?」 銀時は笑って土方の頬ずりを受ける。 「なんだか気分イイし。お前真剣だし。匂い好きだし。なにより…身体キモチぃんだよな」 土方の首の後ろに手をまわす。 「流されちまいてぇ。オメーとキモチイぃことしながら日がな一日のんびりしてみてぇ。なんも考えないで頭カラッポにして寝ていてぇ」 「万事屋…、」 「でもよ。アレがあんだろ。アレが」 愛撫に酔った銀時の口が、ついでのように告げる。 「『辻斬り』?」 「……」 「なんか聞いたような名前の奴だよな。そいつのこと解決したらコレってどうなるわけ?」 「どうにもならねぇよ」 土方は一瞬だけ眉を歪める。 「お前に選択権がある。俺のもとにとどまるか、他へ行くか。そんときお前が決めるんだ」 「あ。そうなの?」 銀時の意外そうな声。 「ウチ帰っていいの?そりゃ助かるけどよ、つーか辻斬り片付いたら取引も終わりだろうな?」 「今んとこ、そーいう話だ」 当然ながら帰る気満々らしい銀時に胸のあたりが重くなる。 「よほど事情が変わったら分からねぇけど」 たとえば、お前が俺に絆されるとか。 土方はそれは言わずに銀時に頷いてみせる。 「辻斬り事件が思わぬ大物を釣り上げでもしたら延長要請するかもしれねぇ」 「どうせ拒否権はねぇんだろ?」 銀時は不服そうに口にする。 「お前はどう思ってるか知らねぇけどさ、お前らのコレ強制だしなんだかんだ言って。一般人を権力で言いなりにしてるって解ってるよな?俺がここに居んのはお前らに捕まったからで。お前を選んでケッコン?婚姻?させられるのも脅されたからで。お前に迫られてこんなことになってんのも祝言の偽装のためで。俺がなんの権限もない被害者で弁護士も拒否権も確保されずにこんな目に遭ってるんだってこと、誰かに知られたらお前らヤバくね?でもこれ俺には完璧に責任なくね?…つーか」 まわした手で土方を引き寄せながら、その指に触れる黒髪の手触りを楽しむ。 「俺の咎(とが)つったら、このままキモチヨくお前に流されちまいてぇって思ってることぐらいじゃね?」
つい、と銀時の顔が近づき土方の唇の中に柔らかな自分のそれを押しつけた。 |
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