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近藤が白々しさを通り越した親しみの眼差しを銀時に向ける。 「お前を動かすことができるのはお前の意志だけだ。だから本当は取引もしたくねぇ。お前の中から自然に出てきた心情だけで俺たちに手ぇ貸してほしいんだ」 「ならはじめからそう言えって」 銀時は大きく肩を下げて嘆息する。 「おどかすなよ。要は依頼ってことじゃねーか。予算組んでバッチリ出すもの出せや。そうすりゃいくらでも俺の身体から労働意欲と義務感が最優秀演技賞なみの演技力とともに湧いてくるからよ」 「銀時。その方がお前が俺たちに協力する理由を自分につけられる、ってのは分かってる。だがな、俺はそれじゃ嫌なんだよ」 近藤が困ったように笑う。 「できりゃ本気で嫁に来てほしい。お前のことを大好きなヤツと穏やかな時間を過ごして、お前がそいつと本気で情を交わして、ここに居たいと思う気持ちから俺たちの輪に加わってほしいんだ」 「そいつぁストーカーの発想だな」 銀時は歓迎しない招致に苦笑する。 「頼まれたって居たくねぇところには居らんねーし。好きでもねぇヤツとどうこうなるはずもねぇ。薬使われよーが、痛めつけられよーが、俺の心は揺るぎゃしねーよ」 「だから形から入ることにする」 近藤が宣言する。 「いいか、お前はトシと両想いだ。屯所の中でも外でもラブラブのイチャイチャでやってもらう。若い恋人同士だ、あけっぴろげに行為に及んでくれて構わん。むしろ無いと不自然だからしっかり頼むぞ!とにかく隊士たちにもお偉いさんにもバレないように。バレたら即刻、留置所行きだから。それで昔の悪業とか引っ張り出されたら目も当てられねぇ、見せしめに磔(はりつけ)にして公開処刑もありだから気をつけてな!」 「ちょ待て。そんな強制取引はゴメンだ。いいから依頼にしろ。ひとことそう言や、おおむねテメーらの望みどおりにやっからよ」 「依頼ってのはお前の権限で解除できるだろ?」 近藤は笑って却下する。 「こいつァあくまでもお前の意志を尊重した取引だ。お前の自由意志で俺たちのところへ嫁に来る。そうすりゃお前は俺たちの身内だ。身内に拷問してまで鬼兵隊や高杉との関わりを吐かせろって話はねぇだろ?俺たちの嫁さんが真選組に不利な情報隠しとくわけがねぇからな。話さねぇのは本当に知らねぇってことになる。だからお前が嫁に来てくれるなら俺たちはお前に何も聞かねぇ。話したくねぇことは話さなくていい。現在のことも、過去のことも。それがお前と俺たちとの間で交わす取引だ」 黙って聞いている銀時を見ながら近藤が続ける。 「お前の自由意志から発生したものとして『取引』の形態を取ってることは内緒だ。契約書も作らん。証拠が残らんよう口頭で済ませる。ただしお前がこれに反したときは相応の罰則を伴うことだけは確かだけどな」 「お前らは?」 銀時が仏頂面で聞き返す。 「お前らが違反したらどうしてくれんの?」 「そうだな。なにを以てして違反となるのか曖昧なところだが」 近藤はまるで迷いのない眼を向ける。 「そんときゃ俺の首、お前にやるよ」 「……いらねーよ、そんなん」 銀時が鼻を鳴らす。 ハハッと近藤も笑う。 「そうだな!俺だってオメーの磔刑(たっけい)なんざいらねぇ。ま、お互いそうならねぇよう、よろしくな!」 近藤の話はそこまでだった。 彼はなかなかに忙しいらしく時間を思い出したとたんに立ち上がり足早に土方の部屋を出ていく。 「あ、オイちょ待て!」 「俺もう行かなきゃ、あとの細かいことはトシに聞いてくれ」 「こいつとここに二人で残されたくねぇんだよ、テメーと意味のねぇ問答してた方がまだマシなんだよ、察しろやゴリラァ!」 「そんだけ意識してりゃ十分だ。お似合いだぞ、お前ら!」 ピシャリと障子が閉められる。 ドスドスと廊下を鳴らして近藤は歩き去ってしまう。 「行った…行っちまいやがった。ちょ、やだコレこの状況」 ガクッと首を垂れ、畳に両手をついてうなだれる。 斜め横でカチッと音がし、たちどころに重苦い煙草の匂いが漂ってくる。 眼だけでそちらを見ると土方が澄ました顔して白い紙巻きタバコを咥えている。 「…ま、そういうわけだ」 その唇の間からフーッと煙が吐き出される。 「今から俺たちゃ婚前カップルだからよ。よろしく頼まァ」 「素朴な質問していーか」 「なんだ。浮気は許さねーぞ」 「うわ、浮気ィ?」 声が上擦る。 「て、テメッ、意外と縛りつけるタイプぅ?俺そういうの重くてダメなんだよね!」 「俺は惚れたモンには全力でそいつだけだ。よそ見なんかしねぇ。誰かがオメーに触ろうもんならブッた斬る。お前がそいつに走ろうもんなら」 土方は言葉を切る。 眉をしかめながら強く煙草の煙を吸い込み、同じくらいの時間をかけて横向きにそれを吐き出す。 「俺はオメーになにするか分からねぇよ」 「怖ぇよ。マジんなるなって」 銀時は小さく息をつく。 「どうせアレだろ。辻斬り事件が解決すれば俺はお役御免だろ。それまで仮面カップルってことだ。俺りゃアレだ、今の今まで誰かに懸想してそいつに繋がれるなんて経験はねぇからよ。お前もありもしねぇ恋情にふりまわされることになったら正真正銘、無駄な労力だからよ。そんなことになんないよう最初に言っとくわ」 「なにをだ」 「エ?」 「なにを最初に言っとくんだ」 「…だから本気にならないようにって」 「そうかよ。それじゃァ、キスでもしてみっか」 「ア?」 銀時はそちらに顔をあげる。 あまりに呆気なく言われたのでなんのことか理解してなかった。 文机の灰皿へ土方は慣れたように煙草を置き、身を返して銀時に乗り出して顔を近づけ。 「ちょ待ッ」 土方の意図を知って身を引いた銀時の腕を掴み。 逃げないように反対の肩を押さえ。 アッというまに目前に端正な黒い瞳が迫ってくる。 「こっ、こんなんしてられるかァァァ!やめっ、テメッ、」 土方の顔を掴んで押し戻す。 「結婚てのはフリだろうがよ、なんでだ、やめとけやァ!」 「こんな身体ギクシャクさせてなに言ってんだ」 土方は立ち膝で銀時に被さってくる。 「そんな熱愛カップルなんざ聞いたことねぇんだよ」 「人前ではうまくやるってんだよ、テメーの部屋でまでイチャこけるかっての!」 「テメー近藤さんが言ったの聞いてなかったのか」 銀時の抵抗に土方は後ろの銀髪ごと後頭部を掴んで上向きに固定する。 「不自然にならねーよう、行為もしっかりヤれって言われたろうが」 「だからそりゃ観客がいるときの話で、」 「隊士にもバレんなつってただろ。ここは部屋で何してんだか外から聞こえんだよ。さっきからフリだの演技だの言いやがって。そんなもん、要らねぇし」 「や…、やだって、」 半端な抵抗を続ける銀時を器用に押さえこみ、手が出ないよう、身体を痛めないよう、息がつまるくらい強く抱きすくめ。 「うそ、…ま、待て、待てぇ!」 なおも銀時は距離をとろうと土方の腕の中で後ずさる。 「俺、声の演技も得意だから!なんなら台本書く二人で?ほ、ほんと、こういうのダメだから頼むから300円やっからァァ!」 「いるかァァァ!!」 土方は律儀にツッコンだあと、フッと銀時に破顔する。 「心配すんな。台本はいらねぇ。唇あわせて身体あわせて嘘を本当にしてやらァ」 「んっ、やめっ…んぁ…っ…、!」 そっと唇が、こわばる唇に触れる。 その柔らかさに反射的に驚き、そしてどこか安堵する。 それでも土方の肩を掴んだ腕は、いつ相手を突き放そうか力をこめて惑っている。 我慢して食べないようにしていた甘味を、ついうっかり口にしてしまったような幸福感とチラホラ掠める罪悪感に、どうにかなりそうになってそんな自分が情けなくて泣きたくなる。 「好きだ」 耳に囁かれる。 「お前を俺だけのものにしちまいてぇ」 低い声は腰にクる。 しばらくぶりの他人の腕の甘い拘束は神経を酔わせる。 銀時はひとつ息をつく。
身体から力が抜け、その身が土方の腕に支えられて少しずつ崩れていった。 PR |
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