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全員こちらを、つまり銀時を向いて座っている。 「……」 「……」 皆、口をグッと引き結んでその眼にありたけの力をこめ、念力でもこめてるような勢いで銀時を見据えている。 銀時は彼らを見渡し、横に座る近藤と土方を見やり、ムンムンと男臭い空気の立ちのぼる天井を仰ぎ、そしてまた男たちに視線を戻す。 それをいくら繰り返しても、何分経っても誰も声を発さず、なんらかの動きを見せる者もない。 「……オイ、ちょっと」 「決まったのか銀時!」 銀時が声をかけると近藤は胸の前で組んでいた両腕を解き、銀時を向いて待ってましたとばかりに問いを発した。 「で、誰にするんだ。ここに居るのはお前のことが好きなヤツばっかりだ。誰でも構わん、遠慮するな!」 「いや俺が構う。遠慮してくれお前らが。だいたいさァ、」 銀時は座敷にギュウ詰めの隊士たちを指す。 「これ、どうして俺がこいつらとツラ付きあわせて息苦しい思いしなきゃならねーの。これ、なに?なんでこんなことになってんの?30字以内で説明してくんない?」 「アレ?聞かなかった、トシに」 近藤の視線が土方に移り、土方が面倒臭そうな顔で首を振るのを見ると近藤はもう一度あらためて銀時に頷く。 「これはアレだ、見合いだ。一人選んでくれ。それがお前の相手だ」 「だからなんの相手だ。決闘か、喧嘩売ってんのかテメーら」 「なにって…結婚の相手に決まってんだろ」 けろっとした顔で近藤が言う。 「お前、独身なんだろ?だから真選組の一人と婚姻関係を結んでここで生活してもらう。部屋は用意する。職業性別の選択はお前に一任する。以上だけど?」 「『以上だけど?』じゃねェェェ!!」 銀時は握った拳を震わせて、それでも思い紛れずダンッと畳にそれを叩きつける。 「なんで俺が独身だとお前らと縁組しなきゃならないわけ?バカ?お前らバカ?俺の選択は『テメーらみてェなバカと付き合いきれません』だ、それ以外にあるかァ!考えてもみろ、道歩いてたらパトカー乗っけられて、この中の一人と結婚してもらいます。ってどんなバトルロワイヤル?あ、バトルじゃねェか。いやある意味バトルだな、夜の。いやいやいや、帰るからね!しないから結婚とか!こんなとこまで連れてきて話がそれだけなら俺はこれで帰らせてもらう!」 「あぁ銀時、これ、お上にも話が通ってるから」 サラッと近藤が言った。 「もうさァ、お前個人がイヤだの良いだの言っていい世界じゃないからね。警察全体…ひいては幕府の政策みたいなもんだから、お前がここに来ることは。ヘタに出てったら指名手配かけられて検問はられて市民に通報されて容疑者扱いでお縄にしなきゃならないレベルだから、出ていくなよな」 「なにソレ」 銀時は不快をあらわに眉を立てる。 「なんでそんなことになってんの。てか、そんなことあるわけねーだろ。デタラメ言ってんじゃねぇよ。騙されねェから諦めろ。そんなことより俺に話があんじゃねーのか。…別件で」 「ふぅん。聞く気になったか」 近藤は銀時を見ながら口元に笑みを浮かべる。 銀時はイラッと身構え、否、警戒して反射的に身を引く。 近藤の眼は笑っていない。 両の眼は獲物を狩る雄のそれ。 「てめェ…」 「そうやってると、お前は毛ェ逆立てた猫そのものだな」 近藤は笑い、スッといつもの柔和な顔つきに戻る。 「詳しい話が聞きてェなら、ひとまずお前の気に入りを一人選べ。誰にでも聞かせる話じゃねェ。お前と、お前の選んだ野郎だけが知ることだ」 近藤が公然とそう言い放ったとき。 隊士たちの中から人を掻き分けて這いでてくる者がいた。 「あのォ旦那、俺なんかどうでしょうかね?」 頬を紅潮させ、恥ずかしげな、しかし得意げな瞳でまっすぐ銀時を見上げてくる。 銀時の見知った顔で、人に圧迫感を抱かせない、しかしそれだけにある意味、銀時にとっては警戒しなきゃならない真選組の監察、山崎退。 「俺ならコトの詳細は掴んでますし、旦那とはヒトカタならぬ馴染みもありますし、俺なら旦那も安心でしょう?」 「ぬっ、ぬけがけだぁ!!」 すかさず他の隊士たちが立ち上がり、騒ぎ出す。 「山崎てめェ、自分からは名乗りをあげない取り決めだろーが!」 「純粋に万事屋に決めさせるはずだ!だから平等に全員にチャンスがあるんだ、売り込みはナシだ、ひっこんでろ山崎ィ!」 前に這いでた山崎を、その隊服を掴んで隊士の群れへ引き戻す。 のみならず何人かはドサクサまぎれに山崎をボコる。 「あきれた。オメーら本当にチャンスは平等だと思ってんのかぃ」 隊士たちに混じって座っていた沖田が後ろを睥睨してほくそ笑む。 「冷静に考えてみなせェ。旦那が選ぶのはどう考えたって一番の野郎だ。一番、顔を合わせる喧嘩相手とか。一番権限のある局長とか。一番強いヤツとか。一番若いヤツとか。一番隊隊長とか。あ、やっぱ俺だ」 ズッと沖田が立ち上がる。 「というわけで万事屋の旦那。呼びにくいんで銀時って呼びますんで。それでいいですかねィ?」 座る銀時の前に進みでて片手を『よろしく』の形に差し出した沖田に、銀時が彼の顔を見上げる形で返答しかけたとき。 「ちょっと待て。そうはさせねェよ」 沖田の手から銀時を遮るように土方が二人の間に入る。 「お前これで万事屋が呼び名のことで承諾したら、『万事屋が選ぶのは俺だ、ってことでいいですかねって意味で聞いたんだ』って話をすり替える手だろうが。答えんな、こんな手に乗るこたァねぇ」 「なんでわかったんですかィ。邪魔すんなよ土方コノヤロー、もう少しで旦那が頷いたのに」 「コトがコトだけに万事屋の意志優先だ。姑息な真似すんな。いいから座ってろ」 「…なんだかんだ言いながら」 沖田は冷たい笑いで土方を見下ろす。 「アンタがここに居んのはどうしてなんでぃ?自分も万事屋の旦那の争奪戦に加わってる気ですかィ?え?選ばれると思ってる?土方さんが?旦那に選ばれる気でいる?うわ、痛たたたッ!」 「うるせぇ!放っとけや!」 グサグサ沖田の言葉に突き刺されながら土方はグッと堪える。 いつもなら売り言葉に買い言葉で沖田のからかいを全否定して回る。 しかし今回は否定するわけにはいかない。 銀時のいる目の前で心にもない逃げを打つことは自分の首を締めることになる。 おそらく沖田もそれを狙っている。 それだけに土方は口を噤む。
だから、銀時から目の前に指を突きつけられたとき、土方は一瞬判断が遅れた。 「…えっ?」 土方が顔をあげると銀時がこちらを見ていた。 ジッと正面から真面目な表情で、その深い色の瞳がふたつ土方に真っ直ぐ注がれている。 ─── ああ、綺麗だな 目が勝手に銀時の顔の造作を辿っていく。 分かりにくい輝きをたたえた瞳。 なめらかそうな頬、バランスのいい鼻すじと、よく動くけれど今は禁欲的に閉ざされた唇。
その唇が動いて自分の名を呼ぶ。 「よろしくな。ひじかたくん」
近藤が別室に来るよう声をかけても、その声すら土方の耳を素通りしていった。 PR |
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