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* 高銀話です(連載中)
──ああ、コイツは一部の隙もなく終わらせようとしている。毛の先ほども俺に心を開く気はねぇ。 土方は腑に落ちた。 「そうだな。間違ってねぇよ。取引は岡田の件が片付くまでだ」 イライラする。 「ただし、それまでお前は俺のモンだ。俺の求めに逆らうことは認めねぇ」 銀時を見る。 「それがたとえ身体の関係だろうと、婚姻届への署名だろうと拒むことは許さねぇ。それだけ誓え」 「……オメー自分で何言ってんのか分かってんの」 銀時の瞳が見返してくる。 「そんなん、オメーが虚しいだけだぜ」 「虚しいかどうか、テメーとの狂言を愉しませてもらおうじゃねぇか。それともテメーが護ろうとしてるモンは身体や紙切れにゃ引き換えにできねぇほど軽いモンなのか?」 「…てめェ」 睨むように土方を見ていた瞳に、しかし侮蔑は浮かばなかった。持て余したような困惑が怒りと共に放たれる。 「いいぜ、完璧な仮面カップルを演じてやらァ。お望みどおり禁じ手はナシだ。その方が辻斬り野郎が早く現れるかもしれねーからな」 銀時の瞳が、ふと力を失って沖田を見る。 「今の、沖田君が証人な」 「わかりやした」 沖田は神妙に頷く。 「土方さんの末路をこの目で見届けますんで安心してくだせェ」 「末路たァなんだ!」 土方が声をあげる。 「そういや、アレだ。オメー神楽と新八、呼んでくんね?」 「かまいやせんが。呼んでどうするんで?」 「あいつらに説明しなきゃならねーだろ。オレ当分帰れそうにねーから」 「旦那。気持ちは分かりやすが、あいつらにだって真相をバラされちゃ困るんでさ」 「バラさねーよ」 銀時が即答する。 「あいつらに喋ったらどこまで広まるか分からねー。偽装だの狂言だのヒヤヒヤする間もなく俺は刑務所ブチこまれるね」 「わかりやした。土方さんとの偽装婚をチャイナと眼鏡に信じこませられるかどうか、小手調べってわけですね」 「神楽と新八さえ騙せりゃあとは心配いらねーよ。なんたってあいつらメシが掛かってっかんな」 ちらりと土方を見る。 「コイツと結婚して屯所に入るって話になるんだ。今までどおり外に出て仕事させてもらえねーみたいだし。だったら万事屋は廃業ってことになんだろーが」 「そのことだけどな」 土方が挟む。 「万事屋のガキどもには当分の間、生活手当が支給されるぜ」 「…そりゃありがたいけど」 銀時の表情が、いくぶん軟化する。 「ソレって、いくらくらい?いつまで?どっから出んの?」 「金はウチに回された嫁娶促進対策費から捻出する。金額は必要最低限の生活ができる範囲だ。期間は未定だが、お前がここにいる限り支給が止まることはねぇよ」 「なんだそれ。働くより実入りがいいじゃねーか。グラッと来たよコレ。身売りも悪くねーよ、どうしてくれんだ」 「知るか、俺が」 「それって表向き、万事屋が稼働しねーからオメーらが面倒見てくれるってことだよな」 銀時が嘆息する。 「やべェ。あいつら俺を売りかねねェ。帰るつっても敷居をまたがせてくんねーぞ多分」 「そいつァご愁傷さまで」 沖田は怪訝な顔をする。 「んじゃ、そういうことで」 銀時は腰をあげるべく膝を立てる。 「俺、厠行ってくるわ。ちょっと時間かかっかもしれねーからよ。その間にあいつら呼んどいてくれよな」 「そういやまだスッキリしてなかったんですねィ」 沖田も腰を浮かせる。 「手伝いやしょか。ついでに案内しやしょう」 「いらねーよ、場所もだいたい分かるから付いてくんな」 沖田を振りきって銀時は障子戸に歩き、手をかける。 「あ、そうそう。オメーらに言っとくけど。俺が風呂と厠とアクビのノビしてるときは邪魔すんな。手ぇ出してきやがったらテメーらの届かねぇとこで最悪の報復に出るかんな」 銀髪頭が振り向いて一瞬、酷薄な視線が二人を突き通す。 「俺も治外法権なんて興味ねぇんだけどよ。どうしても行かなきゃならねーんなら背に腹は代えられねーもんな」 その突き放すような瞳に、まるで二人の眼にはそれが別人のように映る。 「…やべェ。土方さん」 沖田が閉まった障子戸を凝視している。 「旦那も好きだけど、今のアレ調教して躾けたいでさァ」 「……あんな顔すんだな」 土方はゾクリと戦慄に唇を歪ませて笑う。 「素顔を拝めるなんざ思わなかった。アイツ…あんな顔、見せやがった」 続く PR |
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* 高銀話です(連載中)
「攘夷浪士の中でもっとも過激でもっとも危険な男…」 笑いの形のまま沖田はその唇をペロリと舐める。 「…の配下、鬼兵隊の四天王とか言われてる岡田似蔵。俺たちがおびき出すのはコイツでさ」 いたずらっぽく肩を竦めて言葉をつけ足す。 「岡田は今、厄介な事件を起こしてくれてましてね。聞いたと思いやすが江戸の町に出没して手当たりしだい男を漁(あさ)ってやがる。こいつが逃げ足は早ェし、化け物みてーに強ェ。捕縛は困難で潜伏場所も掴めねェ。有力情報もねェときた。けど必ず野郎の二人連れを狙う。そして旦那を御指名だ。結婚話を使ってアンタを囮にすれば岡田は一発で食らいついてくる。そう思いやせんか?」
「岡田の狙いは分からねぇ」 土方が口を切る。 「なぜ一般人を襲撃するのか。なんのためにお前の名を出すのか。個人的な思惑なのか、鬼兵隊のテロ計画の目逸らしか。そもそも体が変形するって情報も解せねぇ。目撃者の見間違いかもしれねぇ。あるいは新型の兵器か」 ちらと銀時を見る。
銀時が、すると表情を解いて軽く溜息をつきながら、やる気のない眼を沖田に向けた。 「お前ら自信満々みてーだけどよ。辻斬り野郎が来なかったら、このお膳立てまったく役に立たねーだろ。オメーら自分たちの見込み違いを棚にあげて俺を無能よばわりしたあげくムカついて汚ねェもん見る眼で見下げて叩き出して終わりだよな。それも時間の問題だけど、それまで俺は従業員二人抱えて仕事放り出すわけだから。手切れ金として日当くれーは日割りで出せ。でないと出るとこ出るかんな」 「かまいませんぜ。旦那がどこへ出ようと幕府(おかみ)がそいつをウチに回してきやす。俺が受理しやしょう」 「んで、どうやってソイツおびき寄せんの?噂まいて屯所にやって来るまで待つわけ、スズメにコメ撒くみてーに」 「それが基本ですが、その他にもいろいろ。ヤツが痺れを切らして飛び出してきそうなことならなんでも採用しまさァ」 「あ~、祝言の席とか?」 「ですねぃ。そこで景気よく公開初夜とか」 「しねーよ。どこのエロ本の風習だ」 「武州の田舎じゃよくやるんで。あと上司の嫁を部下が数人がかりで前もって試して具合を見とくってのも…」 「んなもんあるかァァァ!」 土方が怒鳴る。 「どうやっておびき出すか、どういう動きを取るかは今後万事屋とも相談して臨機応変に当たんだよ。テメーは話をややこしくすんな」 「ややこしくしてんのは土方さんでさァ。旦那が屯所で隊士たちに囲まれながらストリップでもすりゃァ、天の岩戸よろしく砲門ぜんぶ開きながら鬼兵隊が戦艦ごと降りてきまさァ」
銀時が低く尋ねる。 「ソイツがしてきた事が解明されて二度と辻斬りが出ねーってことになれば取引は終わり。そんとき俺が俺の居場所を決めりゃいい」 半分閉じた瞳がスッと向けられる。 「…ってことで間違ってねーよな、土方?」
続く
私信:すみません、本文だけで時間切れになりました。 |
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* 高銀話です(連載中)
「てっとり早く済ませようぜ」 土方が退くと銀時は、のそりと身を起こした。 「テメーら、そろそろ口割れや。俺はエサなんだろ。お偉いさんの目眩ましに祝言あげるってのも方便か」 「そっちは嘘偽りありやせん」 すかさず沖田が答える。 「ウチの独身率の高さは幕府(おかみ)からバッチリ目ェつけられてるんで。どっちかっていうとソレが本命でしてね。あとのクソみてェな計画は後から取ってつけたようなもんでさァ」 「そっちが本命?」 銀時は眉を顰める。 「だったらなんで俺なんだよ。世の中にはテメーらの嫁になれそうな女があふれかえってんだろーが」 「そりゃ、あそこにいた連中は旦那に懸想してるからでさ。あとはそれぞれ自分の狙いに奔走してるんじゃねェかな」 「なに、テメーらが懸想してるから俺が連れてこられたの?んじゃ俺がテメーらの意識にのぼらなかったら来なくて済んだわけ?」 「そうかもしれやせんね」 沖田がもっともらしく肯定する。 「近藤さんと独身野郎どもが酒飲みながら嫁さん談義してて、あっさり万事屋の旦那の名前が出て、アレ嫁さんに欲しいとか、アレが女だったらとか盛り上がって。どうせこんな想いは届きっこねぇって酔っ払いどもがクダ巻いて。そしたら近藤さんが、だったらアイツを嫁さんにする合法的なやり方を考えようじゃねェか、もうこのさい誰が娶っても構わねぇ、真選組の嫁さんになってもらわね?って流れになったんでさ」 「どっからツッコンでいいのか分からねー。とりあえず嫁さん談義に俺の名前を出したバカを殴らせろ。嫁ってのは亭主と共同作業してガキ産むもんだ。俺にそんな特殊能力はねぇし。好きこのんで獲得するつもりもねぇ」 「さっきの奴らが言ってたのはソレ?」 「不愉快なモン耳に入れちまいやしたね」 「別にどうでもいいぜ。俺はテメェの体を女にしようなんざ思ってねーから」 「そいつァ残念なことで」 「けどよ」 銀時は考えをめぐらせながら沖田と土方を見る。 「祝言が本命ってことは、オメーら上への体裁をつくろいてぇんだろ。本当に辻斬り事件が終わったらウチに帰っていいんだろな?子作りがどうとか言ってるし、偽装を終わらせる気あんのか?なんだかこのままウヤムヤのうちに結婚させられてテメーらの中に取り込まれそうなんだけど」 「そこまでやる気はねぇよ。ある程度のケリがついたらオメーは自由の身だ」 「…と、土方さんはこんなこと言ってますがね」 沖田は、口を挟んできた土方を見やる。 「そんな都合よくいくわけねぇでしょう。旦那は入籍するんでさァ。公的な結婚ですぜ。そのまま屯所に閉じ込められて無理やり女にさせられて子供でも孕んじまえば逃げられねェ。しかもその相手はこのままでいくと土方さんですぜ。よく考え直しなせェ」 「………エ?」 「そっ、総悟ォォォ!」 目が点になった銀時に、沖田を一喝した土方が向き直る。 「そんな事実はねぇ!ありゃアイツのでまかせだ。勝手に入籍なんかしねぇし、オメーの意志を無視してコトを進めることもねぇ!」 「嫌がる旦那にセックスを強要しようとしていた男がなに言ってんでぃ。キレイ事はやめましょうや、土方さん。かぶき町で旦那が俺たちのところへ来たときから旦那は俺たちの捕らわれ人だ」 沖田は銀時に真顔で告げる。 「アンタ、暫定花婿の土方さんに半強制的に性行為を強いられる捕らわれの花嫁なんですぜ。暫定花婿を撤回しないと大変なことになりまさァ」 「でたらめ言うなァァ!コイツは俺を選んだオメーの決定を覆したいだけだ、耳貸すんじゃねェェェ!」 「……んなこと解ってるつーの」 銀時はダルそうな眼で土方を見る。 「だからお前を選んだんだよ。撤回なんかしねーよ。話進めていい?」 「…ア?」 土方は、沖田も銀時を見る。 「撤回しないんですかぃ?」 「…それで選んだって、どういう事だ?」 「どうって…」 銀時は目を逸らして銀髪の中へ指を差し込む。頭を掻きながら、その話題を片付けなくては先に進めないことを悟って口を開く。 「お前は俺に非道いことしねーだろ?沖田君や他の誰かが強攻策に出ても、お前だけは俺を裏切らねェ。お前はお前の武士道に背くことはねぇんだよ。それはお前と刀まじえた俺が一番よく知ってるかんな」 「…」 虚を突かれた土方は銀時を見たまま固まった。 「お前らが俺を逃がす気がないのは分かってた。オメーらの思惑はイマイチ読めねぇ。だったら俺はオメーの信条に縋るしかねぇだろが」 銀時は土方を見ない。 「祝言も処遇も、オメーがそうするってなら、もう逃げようがねぇ。きっとオメーは誰より考えてそうするんだろーし。俺にとってお前が選ぶ道が一番、納得しやすい理不尽なんだよ。だからお前だ。解ったか。解ったんなら次いくぞ、次」 「つまり土方さんは御(ぎょ)しやすいってことですね」 ポンと手を打って沖田が言う。 「たしかに狙い目どおりでさァ。さっそく胸を打ち抜かれてやすぜ、旦那の追いつめられた人質が誘拐犯を懐柔するような熱の入った演説に、俺ァコイツに非道いことなんかできねぇ…!って眼で決意してますぜ」 「オメーはいちいち台無しにすんじゃねーよ」 銀時は平坦に言う。 「もうちょっと押せば土方君が俺を解放してくれたかもしれねーのによ」 「だから土方さんと二人きりにするのはマズイんでさァ」 「って言いながらオメーはコイツを放っとけねーよな。そんなにコイツが俺に取られるか心配?」 「できればどっちも手に入れてぇとこなんで。いっそ三人でヤりやせんか?」 「オメーのそのあけすけなところが気に入ってるけどよ。三人とか無理だから。辞退するから二人でどーぞ、俺の見てないところで」 「見えなきゃいいんで?だったら目隠ししてやりまさァ。音だけってのも燃えますぜ」 「だから参加しねーから俺は。それよりボッキリ話の腰を折ってくれてありがとよ。再三聞いて悪りぃけど、コイツの言ってた『おびき寄せる』って誰を?どうやって?」 銀時の眼が沖田を見据える。 「オメーが入って来なきゃ土方君に洗いざらい聞けたんだよ。邪魔したんだからキッチリ吐けよな。オメーのオープンマインドを見込んで引き止めたんだからよ」 「それと土方さんにこれ以上、性交渉を迫られちゃたまらねーから第三者(オレ)が必要だったんでしょう?」 「そんな細かいところはいんだよ」 「自信なかったんですねぃ。旦那も自分の欲求に流されやすい素直な身体してやがる」 「うっせーよ!それこそどーでもいんだよッ」 「『誰をおびき寄せるか』って?そりゃァ、旦那が他の男とイチャイチャしてたら怒り狂う野郎に決まってまさ。旦那もよく知ってる、あの」 ニヤと笑った沖田の唇がその音を辿った。 「……鬼兵隊首領、高杉晋助」
続く |
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* 高銀話です(連載中)
「やれやれ。とんだヘタレもあったもんだぜぃ」 廊下に面した障子戸が開いて、いきなり沖田がポケットに片手を突っ込んで立っていた。部屋の中の、まだ畳に組み敷かれたままの銀時と、それに被さったままの土方を瞳だけで見下ろす。 「そこまで持ち込んでオトせねぇなんて土方さんにしか達成できない偉業でさァ。まったく旦那もこんな野暮天を引き当てちまうとは想定どおりの災難でしたね。一番隊隊長沖田総悟、心からお悔やみ申し上げまさァ」 沖田はわざと意外そうな口調で銀時に尋ねる。 「旦那、まだこのヘタレに強制わいせつ受け続けますかぃ?それともチェンジで?」 銀時は手首の先を沖田に向けてヒラヒラ振る。押さえこまれたままの身体は沖田の出現と同時に力を失って萎えている。 「とりあえずこの話は一旦、白紙に戻してもらうわ。基本的にはウチに帰る方向で」 銀時は顔をあげて、すぐ目の前の土方に無気力な、いつもの掴みところのない表情を向ける。 「も一回、詳しい話きかせてくれる?それによっては銀さん、考えないでもないからさ。オメーの立場とか。真選組の厄介事とか」 詰まった土方が応えるより早く、沖田は残りの障子戸をパシンと開け放った。仁王立ちしたまま背後に申し付ける。 「まだ万事屋の旦那は誰のもんにもなってねぇ。真選組の副長さんが権力を盾に嫌がる旦那を連れ込んで一方的に言い寄ってるだけだ。結婚式までお膳立てされちまってるから旦那が屈するのも時間の問題かもしれねーけどな。というわけで」 ちらりと後ろを窺う。 「テメーら、江戸の町にこの話バラまいてこい。最終的に旦那を土方の野郎から取り上げて表向きは貞淑な本性は俺だけにエロいMで欲しがりの美人妻に仕立てあげるのは次期副長候補沖田総悟だってことをそこらの愚民どもに分かりやすく吹聴してきなァ」 「えぇえええ!?なんで隊長だァ!」 庭にいる数人の隊士たちが部屋の中に向かって廊下の縁から身を乗り出している。開け放たれた障子戸から中の二人の体勢は丸見えだ。沖田はフフンと片頬をあげたまま柱に寄っかかって見下ろしている。 「うるせェェェ!」 土方は全員に怒鳴る。 「コトは決まったんだ。コイツは俺のもんだ。万事屋がなにほざこうがコイツが俺と婚姻関係を結ぶことに変わりはねぇ!とっとと失せやがれ!」 「アレレ?たしか旦那の意志優先じゃありやせんでしたか?」 沖田がまたもや意外そうに首を傾げる。 「それを言ってたのは土方さんでしたよね?」 廊下の板敷きに這いずってこようとする隊士たちは、ますます音量を上げていく。そろそろ騒ぎを聞きつけた者たちが庭の左右から姿を現してこちらを窺っている。土方は自分の部屋の外に詰めかけている者たちに目を向ける。銀時から手だけをゆるく離し、まだ銀時に乗ったまま上半身を起こして座敷から隊士たちを睥睨した。 「テメーら、よっぽど死にてぇらしいな」 その瞳孔の開いた眼が一瞬にして全員を、その顔と素性と実力を値踏みする。なんの抑揚もなく響いた土方の声はその場にいる部下たちの耳朶を打った。 「たしかにコイツはまだ誰のもんでもねぇ。当然だろ。祝言の話が出たのは今日だ。これから俺たちはよりよく知り合っていくんだよ。身体も感情(こころ)もな。その過程で齟齬が出て、こぜりあいみてぇな痴話喧嘩やらかしたところでテメーらにどうこう言われる筋合いはねぇ」 土方はチラリと畳の上に伸べた銀時を見やる。銀時は腕の束縛が解けても、やる気なく畳に倒されたまま土方と廊下の外のやりとりをボンヤリ窺っている。 「大切なのは、コイツが俺を選んだというその事実なんだよ。事実を曲げたいヤツがいるなら相手するぜ。今の俺は誰にも負ける気がしねぇからな」 言い置いて土方は沖田を見据える。土方の剣気は充実している。沖田は気に入らない顔でそれを見る。銀時を得て、なるほど土方は気合い十分だ。沖田とて簡単には勝たせてもらえないだろう。口を結んだまま土方と銀時を交互に見ていた沖田は、おもむろに片足を上げると足元の隊士に一蹴りくれた。 「退きな、テメーら。土方副長の御命令だ」 沖田が言い放つ。 「当分ここに近づくな。不心得者は俺が斬ってやら。ここで見聞きしたことはテメーらの胸の内にしまっとくんだな。他の野郎どもにも内緒だ。くれぐれも愚民どもの耳に入れるんじゃねぇや」 「だから、隊長!万事屋は嫌がって…!」 「そいつはテメーらの心配にゃ及ばねェ」 「…お、俺このあと外回りだった!」 隊士たちは口々に言い残して廊下の縁側を離れる。バタバタ疾走していく物音が庭の向こうへ散っていく。やがて完全に付近の庭から人の気配が消えた。 「それじゃ俺はこれで」 「あー…沖田君さ、ちょっと頼みがあんだけど」 銀時がだるそうな声をかける。 「なんですかぃ?土方の息の根をとめろって話ですか」 |
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* 高銀話です(連載中)
「ん…、」 「ちょ、おまえらダメだって!」 廊下に面した障子戸の向こうから騒がしい小声が制止した。 「聞こえたらどうすんだよ、殺されるぞ」 複数の恨みや嘆きがヒソヒソしている。 「気にすんな」 小声で銀時の顔に囁きながら唇を押しつけてくる。 「放っときゃいい。どうせ誰も入って来ねぇ」 銀時は自分たちを伺っている第三者の存在に正気を引き戻される。 「…やっぱナシ」 銀時は表情を閉ざす。 「祝言には出席すっけど肉体(からだ)はナシだ」 土方は黙りこむ。 「んぅぐッ…!?」 抱いていた銀時を畳に落として押さえこんだ。 「な、っにしやがっ…!」 焦って土方を跳ねのけようとするが下からの抵抗などタカが知れている。遠慮なくその逃げ場のない顔に顔を近づけて唇を追いかける。逸らす顎に阻まれて捕まらなければ手近な頬を噛み、首を噛み、その襟の合わせから鼻をつっこんで肌を吸い上げる。 「ちょ、なにコレ!なにしてんのお前ッ」 思いの外、抵抗できなくて戸惑っている。 「黙ってモクモクと一人でコトを進めんなァ!」 銀時はわめいているが、まだ怒ってはいない。 「ッ、…れねぇ」 四つ這いで自分にまたがる土方を押し戻し、近づけられる顔に顔を突きあわせながら銀時はついに大声を上げる。 「だいたいおかしーだろうが!なんでヤんなきゃなんねーんだ?オメーらの計画ではお偉いさんを納得させるための祝言つっただろうが。ホントにヤる必要なんかねーんだよ!てかそれを強制ってテメーらソレ犯罪だろ慰謝料よこせ、ハンバーグランチにドリンク付けねぇと、あ、三人分よこせ、ガキどもも腹すかせてるんだよ、それからパフェな!」 「声がデケェんだよッ!!」 土方が叫ぶ。 「こっちだっていろいろあんだ、そう簡単に見破られちまったら意味がねぇ!付け入る隙がねぇくらい、お前がこっちに夢中だって話になってもらわねぇと、おびき出せねぇだろうがァ!いいから黙って力抜いてろや、俺がどんだけテメーに惚れてるか教えてやらァ!」 「………おびき出すって?」 銀時の抵抗がピタリと止まる。 「誰をおびきだすの、オメーら?」 「……あ。」 被さっていた身体がピクッと動きを止める。
続く |
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* 高銀話です(連載中) 「…エ?」 銀時は自分の考えにギョッとした。 「え、マジで?」 土方は銀時が唇を解いても顔をしかめも口調を荒げもしなかった。 「どうした…なんかあんのか?」 銀時が、どうあっても捕まりそうにない相手が、腕の中で溺れたような瞳をして自分を見ている事実。もう離したくないと言わんばかりに銀時を抱く指に力が入る。それに身を揺らして反応する銀時に、ますます逃がすまいと力が篭もる。 「お前、俺のこと好きなの?」 銀時の問いかけは囁くように睦言のように土方の耳をくすぐる。 「アァ、…好きだ」 たまらず銀時の跳ねた前髪を甘噛みする。 「お前のことが気になって仕方ねぇのは、好きだからだろう?」 いつもなら否定の決めつけ口調で放たれる言葉も、銀時に舌足らずに問いかけられれば心地良い戯れになる。解っている答えをなぞるように問い詰められるのは恋人同士の愛の確認のようだ。 「べつに不愉快ってほどでもなかったけどよ…でも、キライじゃねぇってのは好きだっつうことにはならねーよな?」 腕の中の銀時に口元を緩めてみせる。 「俺とイケナイ遊びすんのはキモチイイぜ?」 銀時は観念したように感じ入ったような溜息をつく。 「お前…キスしようつったのは、こーゆーことだろ?」 眉を寄せて土方に尋ねる。 「俺ってオメーのこと好きなのかな?」 純粋な疑問を浮かべる銀時に土方は言葉を失う。そして直後、静かに笑う。これまで土方など眼中になかった銀時が、自分はコイツをどう思っているのかと検討するまでになったのだ。銀時の意識に食い込むことができた成果は大きい。 「嫌いなのか?」 好きだろ?と聞きたいのをこらえて反対で聞く。銀時の気まぐれは読めている。下手に押し付けると逃げていく。この問答を恙無く進められるのも今までの銀時との不毛な積み重ねがあってこそだ。 「んー…わからねー」 ゆっくりと提案の形をとって銀時に望む。 「わかるまでこうしていねぇか?」 銀時の鼻先に自分のそれを近づける。 「俺はお前にキモチイイことする。お前はただキモチヨくなってりゃいい。面倒なことが起こったらそれは俺の責任だ。ぜんぶ俺が負ってやらァ。だからオメーはなんにも考えず俺の腕ん中に居りゃァいい」 銀時は笑って土方の頬ずりを受ける。 「なんだか気分イイし。お前真剣だし。匂い好きだし。なにより…身体キモチぃんだよな」 土方の首の後ろに手をまわす。 「流されちまいてぇ。オメーとキモチイぃことしながら日がな一日のんびりしてみてぇ。なんも考えないで頭カラッポにして寝ていてぇ」 愛撫に酔った銀時の口が、ついでのように告げる。 「『辻斬り』?」 土方は一瞬だけ眉を歪める。 「お前に選択権がある。俺のもとにとどまるか、他へ行くか。そんときお前が決めるんだ」 銀時の意外そうな声。 「ウチ帰っていいの?そりゃ助かるけどよ、つーか辻斬り片付いたら取引も終わりだろうな?」 当然ながら帰る気満々らしい銀時に胸のあたりが重くなる。 「よほど事情が変わったら分からねぇけど」 たとえば、お前が俺に絆されるとか。 「辻斬り事件が思わぬ大物を釣り上げでもしたら延長要請するかもしれねぇ」 銀時は不服そうに口にする。 「お前はどう思ってるか知らねぇけどさ、お前らのコレ強制だしなんだかんだ言って。一般人を権力で言いなりにしてるって解ってるよな?俺がここに居んのはお前らに捕まったからで。お前を選んでケッコン?婚姻?させられるのも脅されたからで。お前に迫られてこんなことになってんのも祝言の偽装のためで。俺がなんの権限もない被害者で弁護士も拒否権も確保されずにこんな目に遭ってるんだってこと、誰かに知られたらお前らヤバくね?でもこれ俺には完璧に責任なくね?…つーか」 まわした手で土方を引き寄せながら、その指に触れる黒髪の手触りを楽しむ。 「俺の咎(とが)つったら、このままキモチヨくお前に流されちまいてぇって思ってることぐらいじゃね?」 つい、と銀時の顔が近づき土方の唇の中に柔らかな自分のそれを押しつけた。
続く |
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* 高銀話です(連載中) 第七話 気を引いても虚ろな世界(高銀)
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