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「幕府は白夜叉を人身御供にすることを断念しましたよ」 佐々木異三郎が高杉に告げる。 「現在の坂田銀時は白夜叉の子孫であると広く世間に浸透しました。アレを白夜叉本人と決めつけて断罪するのは幕府にとって外れの公算が大きい賭けです」 「幕府が世論を気にする日が来るたァ、言論統制もずいぶん弱まったもんだ」 高杉が笑う。 「真選組がマスコミを駆使した功績かね」 「当面、見廻組に坂田銀時の捕縛を持ちかけてくる幕臣はいないでしょう。本人が『自分が白夜叉である』とバラさない限りは」 「あのバカのことだ。いずれやりかねねェ」 「貴方からの定期的な口止めをお勧めします」 「無駄だな。アイツは困ってる奴にゃ誰にでも手を差し伸べる。真選組でも攘夷派でも誰にでも手を差し伸べる。それがアイツの生業、なんでも屋だからな。アイツにとっちゃ、どっち側もコッチ側も無ぇんだ」 「では逮捕の際には市井に生きる一般市民の生活のための正業と。そんな方向で取り調べておきましょう」 「すまねーな。今回は助かったぜ」 「いえいえ、お安いご用ですよ」 裏門をくぐって佐々木異三郎は高杉家を辞する。 「これも私にとっては貴方が見せてくれる面白いもののひとつにすぎませんから」
銀時は定春を連れて散歩に出る。 かぶき町を抜けて空き地や草むらの多い住宅地へ。 よろこんで定春は銀時を引きずりながら散歩の順路を歩いていく。 「今夜は一段と涼しくなったもんだ」 そして神社の前で出会うのだ。 定春と、定春の大好きな飼い主にとって特別な存在である高杉という男と。 「こんな日はテメーの作った鍋に限らァ」 「実家に取材拒否の料理人みたいなの取り揃えといて、なに言ってんの」 「オメーのメシにゃ敵わねェ」 間髪入れず。 「なにを置いても食いてェ味だ」 「んぇ。そ、そぉ?マジで? …んなわけねーよ!」 「おやおや。オカンムリかァ?今夜はメシにゃありつけねェか。俺りゃなにをしくじっちまったかね?」 「…肉。昼間、あんだけいいの送っといて、しくじってるわけねぇだろ。ちゃんと鍋つくったよ。今夜は鍋ですぅ!」 高杉に会うと銀時は機嫌のいい匂いを出す。 そして高杉は7枚くらい食べただけでお腹いっぱいになる素敵な肉をくれる。 定春は高杉が好きだ。 だから銀時がゆっくり歩きたい、という匂いを出しているから協力することにする。 「星がよく見えらァ」 いつもの道で高杉が夜空を仰ぐ。 「届きそうで届かねェ。昔っから俺りゃあのキラキラしたモンに焦がれてたっけ」 「高杉の星好きは異常だよなぁ」 銀時も見上げる。 「先生が『天体は方向を見失ったとき道を指し示してくれる標(しるべ)です』なんて言ったもんだからオメーとヅラがのめりこんじまって。競争で星図つくったりしてたっけ」 「俺の言ってる星はオメーだぜ?」 空へ行っていた視線が帰ってくる。 「俺がのめりこんだ星は銀時、お前だ」 「あ…ぇっ?」 「俺がいつも愛でて探してる星はオメーなんだよ。どこにいても輝く。眩しいくれェに光を放つ。夜闇にあってひときわ煌めく銀色の星。俺をこんなに惑わすモンは他にねェ」 「そッ…、そんな大変なことになってたの俺、お前の頭ン中で?」 「お前はいつだって俺に道を示してくれる。今回だって例外じゃねェ」 「俺、お前のお気に入りは北極星だと思ってた!」 銀時が彼方の星を指す。 「明るいし!どっからでも見えるし!だから新八にあのパスワードを渡したんだけどォ!」 「あぁ。たしかに受け取った」 高杉は笑んでいる。 「ありゃ受け取っちまえば即座に解けるが。それを読み取るまでが手強かったな」 吉田松陽に教えを受けていたとき。 昼の北極星を見る方法論を巡って一悶着あった。 樹木のウロを選んだ高杉たちと、空井戸から見ようとした数人の塾生たち。 見えなかった空井戸組が論を取り繕って雑誌に投稿し、それが作為的に仕立てられた偽証であると看破されて学術機関から咎められたのだ。 「あんとき捏造(ねつぞう)って言葉初めて覚えた」 銀時が唇を尖らせる。 「意味は『ウソのストーリィをでっちあげること』。オメーに祝言は本心じゃねぇ芝居だから乗せられんなって伝えるには、うってつけだと思ってよ」 「申し分のねぇ選択だ」 「…だろ?」 銀時の尖っていた唇が平らになる。 「俺もさぁ、アレ思いついたときは天才じゃね?って思ったね。どっからともなくスーッと言葉が降りてきたからね」 「あぁ、天才だな。テメーにゃ誰も敵わねーよ」 「やっぱりィ?」 唇の端が気分よさそうに上がっていく。 「まぁね。高杉も星を見ながら俺を思い出してたんだろ? これから星を見るたび高杉のこと思い出しそうじゃね?星を見上げて切ない顔してるオメーの横顔をよォ、ぷぷぷっ」 「そいつァいい」 高杉が目を伏せて笑う。 「星を見るたびオメーは俺を思い出すわけだ。悪い気はしねェな」 「んぁ…、」 銀時はチラッと高杉を見る。 なにを言っても否定されない。 そろそろ気恥ずかしい。 「あ~…あ、そうそう。鍋さぁ、すげー気合い入れて作ったから!」 突っこみどころを用意してみる。 「肉が来てから材料買いに行って、夕方4時から作り始めたんだぜ!?も~白菜なんかオメー好みに煮えてっから!鶏とか十分下処理してっから臭みとか全然ないしッ!」 「オメーがそんだけ自信もってんだ。さぞ良い出来だろうよ」 お前は俺の味の好みを知ってんのか、とか。 素人が気張ったって、たかが知れてるだろうよ、とか。 そんな返しを予想してたのに高杉は機嫌のよさそうな声で応えるだけだ。 「あ、あのォ…たかすぎ、くん?」 「見ろよ、銀時」 こいつどうかしちゃったの?と顔色を窺おうとしたとき。 高杉は、いつか銀時が肝を冷やした集合住宅を見上げる。 「あの左から2番目の部屋。先だってから一向に人が入らねェ」 「…エ?」 「その上の上の階も空室じゃねェか」 「あ…、まぁそうだけど」 示された部屋は入居者がいないためカーテンが開いている。 窓からガランとした暗い室内が透けて見える。 「俺りゃよォ、考えたんだが」 高杉が声を押さえて耳打ちする。 「あの2番目ってェのは…位置が悪いんじゃねェか」 「位置?なんの位置?」 「だから…具合が悪いんだろうよ。縁起的な意味で」 「縁起的って、それは、」 銀時の両足が思わず爪先立つ。 「もも、もしや、夏に聞くと涼しくなるよーなカンジの?」 「『出る』んじゃねェか?」 真顔で言う。 「でなけりゃあの場所だけ人が寄り付かねェのは説明がつかねェ」 「なな、ななななッ…!!」 高杉の観察眼は突拍子のないことでも正確に言い当てる。 「なんてこと聞かせやがるぅ、俺は毎晩ここ通っ…ぅッ、うッぎゃぁああーッ!」 勝手に身体が駆け出す。 定春の引き綱を持って全力で。 一目散に騒がしい繁華街めざす。 「…テメーがあんまり可愛いんで呆れるぜ」 逃げていく銀時の後を高杉はノンビリ歩いていく。 「ひとつの部屋を挟んだ上階と下階に人が入らねェってことは、その部屋が並以上に騒音を立てるから人が居着かねェって相場が決まってら」 高杉の声が届く。 「あんなところに恐ろしげな因縁でもあると思ったのかァ?」 「んだとォーッ!」 銀時は息を切らして振り向く。 「てっ…、テテテテメッ、知ってたよ、分かってたからね!誰も怖がってねーぞゴラァ!」 「…ぶっ」 目の色を変えて果敢に肩を突っぱる銀時を見て、思わず吹く。 こんな瞬間をくれるのは銀時だけだ。 「んあッ、笑ってんじゃねーよ!」 「ククッ…すまねーな」 「ちょ、お前、俺のことバカにしてね!?生身で戦艦に突っこんでくバカとか陰口叩いてねぇ!?」 「言ってねェ」 「ウソつくんじゃねェ、チラッチラ聞こえてたからね!ヅラとゴチャゴチャ言ってたの!」 「そりゃ違うな。聞き間違いだろ」 「どう違うんだよ、言い逃れすんじゃねーよ、単行本ひっぱり出して確かめるかんな!」 「好きにすりゃいい。俺りゃ法螺は吹かねェ」
犬の散歩に途中から加わってそぞろ歩き、なにということもなく喋る。 以前と違うのは高杉が途中で身を翻して行ってしまわないことだ。 今は二人で万事屋へ、同じ場所に向かって一緒に帰る。 「俺とお前の組み合わせってさぁ、マズイんじゃねーの?」 銀時が後ろに尋ねる。 「過激派テロリストとプロパ…プロパン……そのォ、旗頭な俺がいたら目ぇつけられんだろ?」 「お前は白夜叉じゃねェ、その孫だ」 高杉が銀時に続いて階段を登る。
「白夜叉が使ったのは元に戻れねェ薬だし、一度時間を超えたら帰ってこれねェことになっている。男のオメーがここにいるはずねーんだ」 引き戸を開けて定春を入れる。 銀時は手探りで電灯のスイッチを探す。 「オメーが苦労して勝ち得たのは、お前が自由に想いを遂げる権利ってわけだ」 「オレ、やっちまったよなぁ」 玄関を入る。 「まさかこうなるとは思わないものなァ。…あ、高杉。おかえり」 「ただいま」 引き戸が音を立ててピシャリと閉じる。 電気が点く。 話し声と物音が部屋へ移っていく。 部屋を満たした温かい色の光が万事屋の窓から漏れ出した。
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* 高銀話です(連載中) 銀時が平坦に尋ねる。 「真選組への嫌がらせ?じゃなきゃ祝言に来るお偉いさん狙ったテロ?」 画面に映し出される若めの桂は白無垢に綿帽子。 紫の口紅や暗めのシャドーも似合う花嫁っぷりだ。 「そういやヅラは真選組に捕まっていたな」 高杉が無感動に思い出す。 「ありゃお前と同じ薬で若返らせて代役に仕立てられたんじゃねーか?」 「なんでヅラなんだよ?」 銀時は不服そうに身を乗り出す。 「外見は女みてぇってもヅラだよ?捕まったって真選組の思惑どおりに動くヤツじゃないからね」 「じゃあ惚れたんだろ」 こともげに高杉が言う。 「あの新郎やってる隣りの男によォ」 銀時は画面を見る。 待っているとようやく新郎の顔が映る。 長身で大柄のその人物は土方ではない。 ピシっと正装して花婿然とした、顔面頭部がボコボコに腫れ上がっている傷だらけの近藤。 「ありゃ真選組の局長だな」 高杉が顔をあげる。 「まさかヅラが敵将を射止めるたァ見事という他あるめーよ」 「……いや。ダメだろ」 銀時が画面を見たまま言う。 「だってアレ、ゴリラだもの。人類じゃないもの。ヅラの情人にゃなれねーよ」 「ゴリラだろうが人類じゃなかろうがヅラが良いってんだ」 高杉は目を細める。 「四の五の文句つけたって始まらねェよ」 「ならなんであのゴリラ泣きそうなの?派手にボコられてんじゃねーか」 銀時が画面の近藤を睨む。 「あれやったのヅラじゃねーだろ。お妙だろ。他の女の尻追っかけてるようなヤツにヅラが惚れるわけねーんだよ」 「助けに行くか?」 「なんで?」 クルッと高杉を見る。 「なんで行くの?助けるって誰を?ヅラ?行かねーよ、そんなん」 「ククッ…」 高杉は銀時のふくれっ面を見下ろす。 「そんなに他の野郎に取られるのが気に入らねーか」 「別にィ。俺の助けなんか要らねーだろうしィ。逃げたかったら勝手に逃げるだろーしィ。余計なことしてあいつを喜ばせんの腹立つしィィ!」 「違いねェ」 真選組は桂を丁重に扱っている。 銀時に続いて桂まで奪われたら真選組も難儀だろう。 ネオ紅桜の脅威も去った。 高杉はザッと試算すると救助を放棄して高みの見物を決め込む。 「ほォ…花嫁はヅラだけじゃないのか」 桂の後ろに映ったものを見て、わざとらしく感嘆する。 「景気のいいこった。ありゃオメーんとこの娘じゃねェか」 「…」 「真選組に嫁に出すことにしたのか?」 「してねーよ」 銀時は浴槽のフチに両腕を組んでその上に顎を乗せる。 「なに勝手に人ん家の娘にあんな格好させてんの。保護者代わりの俺になんの断りもなくだよ。アイツの親父に俺はなんて言って半殺しにされりゃいいわけ?」 沖田とともに廊下をしずしず歩いてくるのは綿帽子に白無垢の神楽。 こころなしか沖田はカメラに得意気な目線を向けてくるし、手を引かれた神楽は照れたような澄まし顔で神妙にしている。 「…そういや白無垢がイッパイあったな」 銀時が呟く。 どんな年齢にも対応できるよう用意されていた衣裳。 祝言に参列するだけの予定で盛装していた神楽は、急遽、花嫁役に駆り出されて衣裳を着せられたに違いない。 してやったりの沖田の黒い笑いに透明な純情が混ざっているのを銀時は冷静に眺める。 「真選組もえげつない真似しやがる」 高杉が面白がる。 「ありゃ志村じゃねーか。アイツまで花嫁にさせられちまったのか」 「…え。新八?」 銀時は顔を上げる。 神楽たちの後ろに続いて現れたのは同じく白無垢を着た新八。 眼鏡のないその顔を真っ赤にして俯く姿が初々しい。 隣りの花婿は顔を映さないようにしているが、背格好からして山崎だろう。 「あ~あ、なんつー歩き方してんだよ。そりゃ女の歩きじゃねーよ」 銀時は握っていた拳を緩めて笑う。 どうやら新八は若返ることも女性化することもなく素のまま女装させられたらしい。 身体になんの違和感もないのが丸わかりなほど、いつも通り重心をまっすぐ腰で支える剣術家の歩きをしている。 「…つーかさぁ、あいつら何も考えてないよね」 新八の後ろの光景を見て銀時は浴槽に肘枕を突く。 「ただ人数をカサ上げしたいだけだよね」 サングラスを掛けた顎ひげの長身が白無垢を纏って普通に歩いてくる。 化粧はしているが、もはや『女』に見せようとすらしていない。 長谷川を娶ろうという隊士は、名前は知らないがよく見かける坊主頭の何番隊かの隊長だ。 土方ではない。 そのあとも隊士とその彼女と思しきカップルが入場してくるが新郎の中に土方は居ない。 なにかの拍子にカメラが参列者を映したとき、銀時は立会人席に探していた人物を見つけた。 いつもの隊服をピシリと着こなし、鋭い不敵な眼光には一部の隙もない。 土方はすでに真選組の鬼副長に戻っていた。 「元気そうじゃねーか」 高杉が評する。 銀時は返さない。 なにかを声に出して述べられるほど浅い縁(えにし)ではなかった。 土方の立てた策が邪魔されずに進めばいい。 いま思うのはそれだけだ。 「……あ」 参列者の中に見慣れたポニーテールがあった。 にこにこと機嫌よく式の主役たちを見守る志村妙。 一番先に懇願されて動員されそうな彼女は花嫁の列になく、チラチラと隊士たちの視線を浴びながら親族席にいた。 「ま…そうだよな」 銀時は引きつり笑って近藤のボコられ顔と妙を見比べる。 妙は楽しそうに新八や神楽を見ていた。 式は滞りなく進んだようだった。 荒れはてた中庭はまったく映らなかった。 幕府の高官たちも真面目な顔をして座っていた。 なにを考えているのか、その堅苦しい表情からは窺い知れなかった。 自分 ─── 白夜叉を見ても彼らはあんな顔で参列していたのだろうか。 「体制派のジジイどもが居ねェな」 高杉が告げる。 「おおかた白夜叉が見られねェと聞いてテメェで足を運ぶのを嫌がったんだろうよ」 「じゃ、あそこに来てる連中は?」 「松平片栗虎のシンパだな。それから胸クソ悪い幕臣どもの代理人がチラホラ見える」 「そうか」 とはいえ桂は自分の代わりに屈辱的な見世物にされていよう。 屈辱的つーか、どいつもこいつもボーっとヅラの顔見てるだけだけど。 ヅラは顔だけは無駄に綺麗なんだよな。 しかし。 桂がおとなしく近藤の隣りに座っているということは近藤は周到な配慮をしているのかもしれない。 花嫁じゃない桂だ、などと暴れ出されては手がつけられないだろうから。 「……ま、いっか」
銀時は半笑いのままブクブク腰を落として湯の中へ沈んだ。 昼食というか、本格的な料亭の日本料理だ。 エビだの魚だの花だの木の芽だのを、焼いたり揚げたり蒸したりして色とりどりに配している。
寿司やらステーキやらのリクエストは、脇に添える程度だが洗練された品目として取り入れられている。 「……旨ぁ~!」 銀時は燦然とかがやく特大パフェを箸休めにつまみながら高杉に尋ねる。 「なにコレ祝い膳!?客が来たから特別な趣向とかなんとか!?」 「そんな特別なモンじゃねェ」 高杉は感慨もなく気に入ったものだけに箸をつけている。 「オメーと食うから気合い入れてくれとは言ったがな」 「これが家飯とか、お前ん家はどうかしてんじゃね?」 銀時は高杉が残した分まで一欠片余さず平らげていく。 そんな銀時を見ながら高杉は手酌で酒を楽しんでいる。 喋るより食べる方が忙しい銀時は、なにか話さなきゃと思いつつ深淵な味の世界に没頭している。 給仕の人間はイチゴ牛乳が空になる前にちょうどいいところで注ぎに来てくれる。 湯葉だの筍だのお椀だの、次々出てくる料理は転げまわるほど旨い。 「…でさぁ」 銀時は唐突に話をフッた。 「なんで山小屋に俺を置いてったわけ?」 「…ア?」 「あの素人剣術のドン臭い兄ちゃん…なんだっけ?藤江田君?菅原君?」 「荒巻壮太。天堂藤達の子飼いの道場師弟だ」 「そうそう。あれが役立たずだったのはオメーに変身を解除されたからだったんだな。そのあとアイツの気配が消えてオメーが乗っかってきたから、たぶんオメーがどうにか手を下して始末してくれたんだろうってのは分かったけどよ」 味噌焼きを頬張る。 「結局、オメーは俺を置き去りにして帰ってったんだろ?」 「…」 「なんで俺を連れてかなかったんだよ。そうすりゃ新八の誤解も一発で解けたのによ」 「あの時点では」 歯切れ悪く答える。 「オメーは土方と相思相愛だと思ってたからだ」 「んぇ?」 「荒巻とネオ紅桜は回収した。天堂藤達に釘を刺す材料は押さえた。だが他の野郎を恋しがってるテメーを連れて帰るほど血迷っちゃいねェ、どうか俺を好きになってくださいと懇願するようなみっともない真似ができるか、と思ったのさ」 「けどさぁ!」 銀時が非難がましく叫ぶ。 「おま、あれだけヤッといて…、俺がノリノリで応えてたの一番よく分かってたのオメーじゃねーかぁ!」 「戦争中、俺はオメーに無理を強いた」 高杉は真顔で言う。 「植えつけられた恐怖で、あのくれーの恭順があっても可笑しくねェだろうが」 「お、おかしくねぇって、おかしいだろ、おかしいと思えよ、どう考えてもおかしいィィィイイ!」 銀時は真っ赤になって口ごもる。 「だったらなんで、あの、その…お、オメーが恋しくなかったら、オメーより先に気ィ失って逝っちまうわけねーだろがァァァァ!」 「……そうか?」 「そーだよ!」 「だったらテメーでそう言やァよかったんじゃねーのか?」 高杉が腹立たしそうに銀時を見る。 「人を全否定しておいて逝っちまったのは、身体をつなげても心は思い通りにならねェって完全な拒絶に他ならねェって思うだろが」 「だだ、だからそれは…!」 あんとき、ものすごい格好させられてた。 触手プレイであれこれされて感じちまって。 どろどろになって汚れて、とても高杉に見せられたもんじゃなかった。 「あ、あんまり恥ずかしすぎたから…、」 「俺が俺じゃねェってことにすれば、俺に見られたことにゃならねーってか?」 「そそ、そ、そう、」 ウンウンと頷く。 「だってよ、あんな汚い格好してんの見られたら、まるで俺が股関節ゆるいみたいだろ、高杉に嫌われちまったら、……あの野郎ォォォ、世界を何度八つ裂きにしても飽き足りねーよッ!」 「そりゃ回避できて良かったなァ」 ニヤニヤ笑う。 唇の形が嬉しそうだ。 「んで…、ひさしぶりだったし。オメーがキモチ良くなってくれっかどうか自信なかったし。気ィ遣われるより痛くされた方が慣れたカンジで気楽にできたけど…なにより、他の野郎じゃなくてオメーとヤッてるって思ったら」 銀時は赤面のまま高杉に顔をあげる。 「最高にキモチよくて思わず逝っちゃいました」 「……フッ」 酒を膳に置く。 身を乗り出して銀時に触れる。 「俺も、あんなに無我夢中で腰振ったのは久しぶりだ」 なにか言おうとする銀時の唇に唇を押しつける。 「テメーが愛おしいぜ。身体ァ抜群だしな。顔も好みだ。だがよォ、過去を詫びるならテメーを自由にしてやらなきゃならねェ。あんときそう考えて、前後不覚のオメーを土方の手に委ねることにした」 「だからっ…! ん…、はむっ…」 「志村から話を聞いたのはそのあとだ」 キスで言葉を奪っておいて間近に囁く。 「犬の散歩をしてる暇があったら土方と布団で乳繰り合う方がマシだってな」 「んんッ…!」 「居ない日は井戸の底で水ゴリする、それを元にギャグを捻って雑誌に投稿するってよォ」 「ぁんっ…はっ…、」 「それでテメーの縁談が『捏造』って分かった」 ゆっくり、銀時を押し倒していく。 「テメーの土方への気持ちは、そう見せかけてるだけだってな」 「高杉ぃ…まだ」 銀時は上に乗りかかる高杉を見上げる。 「メシ食ってねぇ」 「あとで食え」 「…んっ!」 「それで病院へオメーを取り返しに行った」 完全なる私事。 兵を動かすわけにはいかないから単身で。 「オメーの気持ちを確かめ、斬り死にしても連れ帰って目の治療をするつもりだったのさ」 「死んだら…、ダメつったろ」 胸元を開けられ、首に吸いつかれて銀時は息を乱す。 「生きる予定のない野郎は…お断りだから」 「人質やら、弱みやら握られて…テメーが本心を偽っているのは間違いねぇ。真選組に囲まれた中でテメーが何言ったって信じるわけにいかねェ」 手で乳首を弄りながら、硬さを示した部分を求めて手が下腹部を探っていく。 「テメーが俺を拒もうと、どんな弁明をしようと…俺はお前を連れて来ると決めた」 「っぅ、ァッ…!」 「だってそうだろう?『井戸の底』で『投稿』とくりゃ、答えは『ウソ偽りの捏造』しかねェ」 「ァッ、んぅぅ…っ、」 「俺とお前、あとはほとんど知る者もねェ符牒を使っての伝言だ…俺の勘違いじゃねェハズだ」 銀時は身もがく。 ゆるく立ち上がった性器を掌でゆっくり愛撫される。 ときおり乳首を噛まれ、声を立てるまで吸いあげられる。 尿道口を開かれながら敏感な亀頭を捏ねられると、すぐに膝が揺れて腰が動き始める。 「だからもう迷わないと決めた。テメーが志村に託したのは、俺への救難要請だ。テメーが何を言おうと…どんな態度を取ろうと、お前を得るためじゃねェ、自分が悔いの海に沈まねェために…やれるだけすべてやるしかねェ」 「はっ…ぁぁあぐっ!」 「もう一度お前の気持ちを確かめて、それが本心だと納得するまで…他の野郎にゃ渡さねェってな」 「ッ、はぅっ…、んぅぅ…っ、」 入ってきた指が中を十分なサイズまで広げていく。 先刻も受け入れたはずのそこは先ほどとは違う抵抗感がある。 身体が違うからか、異物への恐怖と、その奥底に潜む期待のような快楽の源。 子供の身体では感じなかった高杉への欲求が指で弄られるごとに沸き立ってくる。 「そのために万全の陣を敷いた。私情と言われようが構わねェ。自分を救えずになにが革命だ。お前を縛るものから解き放ち、その本心を聞く。それが真選組襲撃の全容だ」 からみつく銀時の腿を開かせてローションを使う。 冷たいそれにヒヤリとしたのも束の間、すぐにローションは二人の体温になじむ。 入り口を十分に慣らしたあと、腰を進めて中を穿つ。 狭いところを突破するまで銀時は息を逃がして耐えている。 そのさまも、くせのある銀髪も愛おしい。 高杉は銀時が目を瞑っているのをいいことに欲望むき出しの顔を歪ませながら穴の奥を犯す。 「すべてじゃなかったな。お前の本心を聞いたら、こうして…」 「ぁんんッ!」 「テメェとひとつになりてェ。テメェのなにもかも、奥底まで俺で埋めつくして貪りてェ…そんな下心が渦巻いてらァ」 「たかすぎっ…、」 銀時は受け入れたものを咥えこんで、きゅうっと締め上げる。 まるで悲鳴のように腰が揺れ、中が締まり、絡んで離すまいとする。 高杉が突くたび銀時が浮かべるのは苦痛の表情そのもので。 なのに漏れる喘ぎはどう聞いても高杉を煽る快楽の嬌声。 「ぎんとき、好きだ…、これからずっと俺りゃ…オメーとともに在る」 「ぅっく、ぁ…離れたらコロスって…言ったよ…な、」 手を伸ばして銀時は高杉の首に腕を回す。 「武士に…二言はねぇ、勝手にくたばったら…っ、コロスから…っ!」 「テメェの手にかかりゃ、本望だなァ…?」 ククッと笑って腰を押しこむ。 銀時は声もなく呻く。 反り返る身体、銀色の髪、ふせられた睫毛も銀色なのが最高に刺激的だ。 高杉はほとんど消えた胸の傷に触れる。 天人の薬の妙な効能で、あのとき負った傷は薄い傷跡に変わっている。 欲望のまま銀時を貪るのに遠慮は要らない。
二人だけの獣の交歓。
国を護った英雄たちが取り上げられ、その中で白夜叉の波瀾万丈の生涯も紹介されている。 結末は真選組屯所でのあの爆発。 まるで悲恋のように編集された構成は、攘夷戦争の特集というよりは古典的な恋愛物語のようだ。 銀時の花嫁姿や高杉へのひたむきな表情が、粋と情けを愛する江戸市民に深い共感をもって受け入れられてしまった。
銀時がこぼす。 「名前も坂田銀時で。だって女になっちゃった銀時は過去へ行って子供を産んだんだよ。だから白夜叉そっくりの俺はアイツの子孫でいいと思う」 番組は必ず銀時が過去の世界で子孫を残したことを匂わせている。 おそらく銀時が子孫を名乗り、表を歩いて暮らせるよう真選組の思惑が入っているのだろう。 「ま、幕府さえ黙らせりゃ、世間は他人の色恋なんざ忘れてくモンだ。そのうちオメーが銀時だろうが子孫だろうが、どうでもよくなるだろうよ」 高杉が頷く。
しかし、世間はそんなに甘くはなかった。 もうほとぼりが冷めた頃だろうと高杉のお墨付きをもらって外を歩いたら、すぐに人の目にとまってジロジロ見られた。 ひそひそ話されたり、物言いたげに見られたり、家の奥へ人を呼びにいく者までいる。 銀時は引きつりながら見ないようにして歩いていく。 救いだったのは、物珍しそうな視線が概ね好意的だったことだ。
団子屋の前を通りがかると、張っていた店主にバッチリ捕まった。 「お母さん…いやお婆さん?いや、アンタの先祖さんとは昔、ちょっとあってね…」 あったのはツケだけだ。 なのにワケありみたいな言い方をする。 「お代はいいんで、どうぞどうぞ。寄ってってくださいよ!」 「いや急ぐんで」 銀時は丁重に断る。 あの分だと店主の野郎、人をオカズにしやがったな。
「あ、銀さん!」 サングラスの無職が手を振る。 どうやら真選組に永久就職とはいかなかったらしい。 「『銀さん』はマズイか。なんて呼べばいい?」 「いいよ、銀さんで」 あの屯所の騒動以来、近しい知り合いには連絡を入れておいた。 事情を説明し、この世に健在であると伝え、いつ万事屋へ戻るかも明かしておいた。 長谷川は変わらぬ銀時の様子に、へらりと笑う。 「じゃあ子孫の銀さんで。…どう、ゆっくりできた?」 「うん。食ったし寝たし。ジャンプ読み放題だし」 「彼氏とよろしくしてたんじゃないの?」 「あたりめーだろ。シッポリだよ」 「いいなぁ。俺なんかもらったバイト代、マシンに吸い込まれちゃった」 「台の選び方がマズかったんじゃねーの。今度オレに選ばせろって」 「イヤだよ、銀さん自分が座っちゃうんだもん」 長谷川にも世話になった。 だが互いにそれを口にすることなく手を振って別れる。 「今度飲みに行こう、銀さんのおごりで」 「ふざけんな」
「おや銀さん。身体の方はすっかり良いようですね」 かぶき町に差し掛かると高天原の前で狂死郎に遭った。 「どうでした?好きな男のために女装した気分は」 「ぶふっ!?な、なんでそれを…?」 銀時は狂死郎を凝視する。 「まさか。お前、知ってたの?」 「なにをですか?あれは女性になったんじゃなくて、若返っただけだったってことですか?」 狂死郎はあたりを憚って小声で告げる。 「もちろん。たとえどんな姿をしていようと男か女性かの区別はつきます。商売ですから」 「あー…そう、」 屯所で会ったとき、花嫁姿の銀時に対して狂死郎は最初から最後まで浮き足立つことがなかった。 あれは銀時が性転換などしていないと解った上での沈着だったのだろう。 「思った通りの人でしたね。銀さんの恋人は」 狂死郎が会心の笑みを浮かべる。 「なるほど、あの人のためなら真選組の言いなりになってあんな格好で式に臨もうとした銀さんの純愛も分かります」 「いや、あのね、純愛とかじゃなくて」 銀時は訂正を試みる。 「べつにアイツのためってわけでもねーよ。しょっぴくって言われたんだよ」 「見せつけられて、ほんの少し妬けました。あの人にも銀さんにも敵う気はしませんが」 ウィンクして狂死郎はホストらしい軽口に本心を混ぜる。 「私もお二人の幸せを祈らせていただきましょう」
「有意義だったぞ」 いきなり塀の影から声を掛けられた。 「敵の内情をつぶさに調べることができた。奴等は取引などと称していたが俺にかかればあの程度の警備、赤子の手をひねるようなものだ」 それなりの変装をしていたが、桂は成人男性の姿をしていた。 「まあ、多少の計算外は否めないがアクシデントはつきものだしな」 改めてコホンと咳払いする。 銀時はイラッと青筋立てる。 「聞いてねーよ!テメーがゴリラと恋に落ちたとか、大事なものの中に真選組も入りそうとか、俺にはまったく、なんの関心もねぇ!」 「まあそう言うな」 フフフと笑う。 「ヤツのクセや好みから好きなブランド、行きつけのバー、将軍の護衛予定まで実にたやすく情報を仕入れたのだ。聞きたいか?聞きたいだろう?アイツの喜ぶウィスキーの比率はな~」 「やめろテメェ、本気でそんなものに情報の価値があると思ってんのォォォ!?くだんねーことに俺のメモリを使わせんな、国家機密的なモンが一部紛れこんでる気もするけどォォォ!」 「高杉とは」 押しやる銀時の手をすり抜けて桂が振り向く。 「心が通じたのか?」 「あぁ。……まぁな」 銀時は、動きをとめて桂を見る。 桂が頷く。 「貴様ら二人とも初恋の成就だ。めでたい限りだ、と言っておこう。…して、そんなタイミングで申し訳ないが俺はしばらく姿を消すぞ」 身を翻す。 「あれ以来、なにかと周囲が騒がしくてかなわん。ゆっくり逢引もできんし蕎麦も食えん。というわけで俺への連絡はエリザベスに託してくれ」 「ハイハイ。また行方不明とかになって鬘(ヅラ)だけになって戻ってくんなよ?」 「ヅラ(鬘)じゃない、ヅラ(桂)だ」 言い置いて去っていく。
花野アナが撮影スタッフを引き連れて走ってくる。 「現代に蘇った坂田銀時さんの末裔の方ですよね!?少しお話を窺ってもいいでしょうか、お名前を窺いたいのですが!」 「あー、俺。坂田銀時です」 さわやかっぽい笑顔で撮影に応じる。 「戦争中、数奇な人生を送った祖母と同じ名前なんですよ~」 「そうなんですか」 花野アナの表情がホッとしたように親しみを浮かべる。 「歴史は変わったということですね。貴方のご先祖さまは、この時代から過去へ時間を超えた攘夷戦争の英雄と呼ばれた人なんですよ、なにかお聞きになってましたか?」 「ああそうなんですかぁ」 申し訳なさそうに言う 「なんでも祖母は最初の出産のあと肥立ちが悪くて、そのまま…だから詳しい話は聞いてないんすよ」 「まぁッ、そうなんですかッ!?」 ものすごい勢いで驚かれる。 「坂田さんが…あの人が、そんなことになったなんて…」 言葉に詰まり、見る間に涙を滲ませる。 「それでも、お子さんが生まれたということは少しは幸せな時間を過ごしたと考えていいんでしょうか…?」 「あ~、そう聞いてますよ」 銀時は花野アナの涙に面食らって言い繕う。 「なんか祖父とはラブラブで~、ラブラブすぎて周りが手がつけらんないほどラブラブで~とにかくラブラブ~ってことですから」 「…そうですか」 花野アナが目を拭う。 「これから坂田さんはどうされるおつもりですか?」 「どうするもなにも俺は前からずっと、かぶき町で万事屋銀ちゃんを営業しています」 高杉と練った設定通りにカメラに向かって言い放つ。 歴史は変わった。 変わった世界での万事屋銀ちゃんの主は子孫である坂田銀時だ。 皆が知ってる銀時は、子孫の方の銀時だったのだ。 そう言いくるめてしまえば多少の齟齬は押し通せる。 ハッタリをかませて力説すると花野アナはすんなり了解した。 「そうですか。そうですよね、坂田さんにとっては最初からこの世界が御自分の世界ですよね?」 花野アナはカメラに微笑む。 「過去へ舞い戻った花嫁、坂田銀時さんは子孫の方の中に生き続けています。過去での苦労、そしてロマンスはいかばかりだったでしょうか。私たちの想像を裏付けてくれる資料はありませんが、子孫の方がこの時代に生きていらっしゃる、それが時間を超えた花嫁の愛の証のように思えてなりません。以上、かぶき町から花野がお伝えいたしました!」
げんなり疲れきった様子で万事屋の階段をあがろうとする銀時に、お登勢が出てきて声を掛けた。 「ずいぶん肌ツヤがよくなったじゃないか。栄養も幸福も充実してるようだね」 「ババア…」 「滞納してた家賃は、どこからともなく払い込まれたよ。しかも二重にね」 「え。どういうこと?」 「アンタのために…」 お登勢は手にした煙草を吸いこんで溜める。 「二人の男が別々に支払ったってことさね」 「マジかよ。正気の沙汰じゃねーよソレ」 「当分、家賃の心配はしなくてよさそうじゃないか。あの男、ハッキリ言ってったからね。アンタをもらうって」 お登勢が笑う。 「多少、二階でドタバタしてても気にしないよ。あたしゃあの男が気に入っちまった」 「いよぅ、銀の字」 絶句している銀時に、追い打ちをかけるように源外がお登勢の店から顔を出す。 「目は治ったみてぇじゃねぇか、よかったなぁ!」 「じーさん、アンタなんでこんなとこへ…!?」 「今日、オメーが帰ってくるっていうから祝杯をあげによぅ。どうだ、お登勢んとこで飲んでかねーか?」 「わかった、わかったから!いいから引っ込め!」 銀時は急いで源外を店へ押し戻す。 「ジジイ、テメーはお尋ね者なんだよ、ちったぁ自覚を持て!」 「銀ちゃあん!」 二階から子供らが降りてくる。 「待ってたのになんでそっち入っちゃうアルか?!」 「おかえりなさい、銀さん」 新八が曇りない笑顔で迎える。 「高杉さんから聞いて…僕ら、嬉しくて…!」 「あらあら、すっかり銀時ちゃんじゃなくて銀さんになっちゃったのね」 二人の後ろから妙が顔を見せる。 「残念だけど、まあいいわ。歓迎会は、どうせならお登勢さんのとこでやらせてもらいましょうか?」 「いいね、今日は臨時休業だ」 「主役はオメーだぜ、銀の字!」 「タダ酒ほど旨いもんはないカラネ」 キャサリンが酒の用意をしている。 「ソレハいいけど、誰が金を払うンダヨ!」 「ちょっとまて、歓迎会ってなに!?」 銀時はじゃれついてくる子供たちに引っ張られて暖簾のかかってないお登勢の店へ入っていく。 「オレ普通に帰ってきただけなんだけどォ!」 「普通じゃないですよね。銀さんが出てってから、やっとの帰還ですよね?」 「そういや俺りゃ大将から礼金もらっちまってよぉ、今日はこれでパァッといくかぁ?」 「じゃあとっときの酒を出すよ。銀時の成婚祝いさね」 「いや、それは…」 銀時はゴクンと息を飲む。 「だから、俺とアイツは世間の騒ぎが収まるまで隠れてただけでェ、身体のこととかもあって疲れてたしぃ、それ以外テメーらが考えてるようなことはなんにもっ…!」 「ここ10日、くんずほぐれつヤッてましたって顔してなに言ってるアル」 神楽が銀時をカウンター席に座らせる。 「顎とんがってるヨ、銀ちゃん」 「ちょ、神楽!そーいうの言うんじゃありませんん!テメーこそ沖田とナンもなかったんだろーなァ!」 「ないアル」 「どっちだァァァ!?」
「おっ、ありゃ旦那たちじゃねーですか」 黒い隊服の集団が歩いてくる。 隊士を引き連れた沖田と、その隣りに土方。 真選組の市中見廻りは昼のこの時間、かぶき町に差し掛かっていた。 「元の身体に戻ったよーだな。軽くて速そうな旦那とも戦ってみたかったけど」 「戻らねぇわけねーだろ。そんなだったらあんなに苦労した甲斐がねぇ」 スナックお登勢へ入っていく銀時の姿を見て土方は憮然と言う。 「仕事中だ。もう行くぞ、総悟」 「土方さんだけ行ってくだせェ、俺たちは祝賀パーティに呼ばれてくるんで」 「やめとけ、平賀源外もいるんだ。話をややこしくするんじゃねぇよ」 「じーさんにも世話になりやした。礼儀知らずの土方さんに代わって俺が挨拶しときやす」 「………勝手にしろ!」 土方が踵を返す。 「オイ皆、総悟を置いて屯所に帰」 言い終わらないうち、隊士たちは沖田と一緒に駆け出していく。 酒にも馬鹿騒ぎにも銀時にも目がない連中。 「テメーら、午後の給料差っ引いとくかんなぁ!」 土方が彼らの背に浴びせる。 聞こえているはずなのに脅しが効く隊士たちではない。 「ったく、なんだってんだ…」 一人、取り残された土方は見回りを続ける気にもならず、煙草が吸える場所を求めて歩き出す。 ポケットの中の煙草を掴んだまま水路の上にかかる橋の欄干にやってくると、ようやく煙草に火をつけて一服する。 銀時が消えたあと、真選組の祝言は問題なく終了した。 独身者の多さを憂う幕府の役人たちを、とりあえず黙らせることに成功した。 白夜叉不在の咎めを覚悟したが、しかし幕府は土方を腫れ物に触るように扱った。 目の前で花嫁を奪われて失恋に傷心の男。 彼らの目に映っているのはそんな痛々しい姿なのだろう。 好都合だが。 実際、あれからなにをやる気もしない。 銀時のためとか、賊をおびき出すためとか、幕府をごまかすためとか、いろいろ理由をつけたが所詮自分は銀時に恋い焦がれていただけだ。 銀時に、自分とともに恋に落ちてほしかった。 既成事実を作ってしまえばひょっとしてそんなことにならないかと期待し、ヤケクソで「要求を拒否することは認めない」と条件をつけたが、叶わぬ恋だった。 新居で初めての晩、自分か高杉かどちらか選べと銀時に迫って、自分は拒否された。 あのときありえないほど目が腫れて、とても人前に出られなかった。 目の見えないアイツを流血覚悟で襲う選択もあったが。 自分で傷口を広げるような真似はさすがにできなかった。 銀時にはその自制心を『布団の中では最強』などと称されたが。 なんのことはねぇ、自分で自分の腹をかっさばきたくなかっただけだ。 「全部終わったら、帰してやるつもりだったんだぜ?」 いない銀時に呟く。 ふと思い立って懐から取り出したのは一枚の写真。 屯所の庭で、花婿の自分と白無垢の銀時が中央に映っている。 隊士たちの笑顔。 自分も表情を作りながら、必死で視力のない銀時の身を気遣ってあたりを睥睨していた。 残っているのはこれだけだ。 一枚撮ったところで賊の襲撃を受けた。 目を細めて銀時を眺める。 見えないながら健気に前を向いて花嫁らしい仕草をしていた銀時。 愛おしくないはずがない。 いま銀時の名を、姿を思っても身体が熱くなる。 けど。 「……テメェは帰してやらなきゃな」 高杉のもとへ。 未練を残したってしかたない。 土方は写真を掴み、まっぷたつに破る。 「……!」 自分は写真の銀時もろとも引き裂くつもりだった。 しかしちぎれた写真は土方を境に破け、銀時だけは奇跡的に全身無傷で残していた。 「笑えねぇな…」 銀時が自分に嫁ぐために装った美しい白装束を見て、それを誰にも見られないよう手の中に握る。 咥えた煙草の横から煙を吐きながら、土方は小さく笑んだ。
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* 高銀話です(連載中) 銀時は高杉の手を掴む。 引き寄せられて身体が浮き、脱いだ襦袢ごと高杉に抱きかかえられる。 「ちょ、ヤッ…!」 身を捩って降りようとする銀時の動きを封じたまま高杉は廊下の一方へ歩き出す。 バタバタ足が宙を蹴る。 その太腿が廊下の暗がりに白く浮かび上がる。 背中から腰に襦袢が回されている。 高杉の肩に縋りながら銀時は硬い胸に腕を突っ張る。 「もう見えてるから!自分の足で歩けるからヤダッ!」 「押さえといた方が良かねーか」 高杉は平然と笑う。 「ケツから滴らせて歩くってのも悪かねーがな」 「ちょ、そーいう問題じゃなくて」 銀時が、むくれる。 「運ばれんの好きじゃねぇって知ってんだろ!?」 「……あぁ」 高杉の調子は変わらない。 「覚えてる」 「なら、おろせよ」 「怖ぇか?」 「…、」 「トドメを刺されると思ったら両手両足括られて連れてかれたんだったなぁ」 「その話はいいっての」 「俺がお前を置き去りにしたあと捕まったんだろう?」 「関係ねーよ」 「それを聞いても俺りゃオメーが自力で帰還したことに満悦して、オメーがどんな辛酸を嘗めたか思いを馳せることもなかった」 「そんなんどーでもいいしィ」 「なァ、銀時」 銀時を抱く高杉の腕がきつくその身を掻き抱く。 「すまなかったなぁ、お前をズタズタに傷つけて。お前にも人としての限界や押し殺しちまう感情があるってこと…お前を偶像に仕立ててた俺にゃサッパリ解らなかった」 「…」 「これからお前が俺にその身を預けられるよう、一生かけて務める。お前のすぐ傍で信頼を勝ち取りてェ。俺にその機会を与えちゃくれねーか」 「信じられるかよ。テメーの言葉なんか」 高杉の二の腕をグイと押す。 「さんざんバカだなんだ人を罵りやがって」 強い瞳で高杉を見据える。 「俺がテメーの戯言を信じると思う?それが口先だけじゃないって解るまで、またどんだけ踏ん張らなきゃならねーと思ってんだ」 「銀時…」 「お前はさ、俺が思いつかないような絵空事を、まるで手の届く現実みたいに言う。すっかりその気にさせられてお前の言ったとおりに手ぇ伸ばしてみると、お前はもう遥か遠くを向いてる」 つらそうに口元に笑みを浮かべる。 「お前の魅惑的な囁きに心踊らせても、結局は落胆して委細飲みこむことになる。繰り返せば諦めを覚える。お前との関わりはさぁ、俺にとっていくら気ィ引かれても虚ろな世界でしかねーんだよ」 「…そうか」 「今は俺が大切、みてーなこと言ってくれてっけど。人間そんなに変わるもんじゃねーし。手に入ったらどーでもよくなるだろーし。そのうち俺が思ってもみないモン目指して突っ走ってっちまうかもしれねーしな」 「…そうだな」 「お前はテメーの信念にしがみついて世界ぶっ壊すとかいって派手にやらかして、なんやかんやで玉砕して人の言うことも聞かずに一人で納得して逝っちまいそうじゃね?」 「……言葉もねェ」 「だから、オマエは止めとけって…ヅラが」 「ア?」 「ヅラだけじゃねェ、会うヤツ会うヤツお前を選ぶとロクなことにならねー、命すり減らして死んじまう、あんなヤツのどこがいい、物好きも大概にしろって怒るわ、笑うわ、呆れるわ」 「んだと?」 「だからさぁ、俺は言ってやったんだよ。テメーら全員余計なお世話だって、高杉はたまんなく可愛いんだって!」 「…かわいい?」 「そう。高杉が下準備と根回しに苦労しながら、さも涼しい顔して荒唐無稽を実現してみせるときにする、ちょっと得意気に結んだ唇の上がり具合とか。高いとこ登ってオレ一番高ぇ~ってワクワク喜んでる顔とか。いくら見てても見飽きねーんだよ」 「心外だ」 「あーもう、なんでオマエなの? なんで俺オメーみてぇな野郎に惚れちゃったわけ!?」 「…なんでだろうな?」 「バーカバーカ!誰がテメーなんか!…チクショー、あぁ俺はバカですぅ!」 悔し気に睨みながら拳を振り上げる。 勢いと不釣り合いな弱々しい連打を高杉の胸元に見舞う。 「お前の傍にいたら命がいくつあっても足んねェ。何度心が引き裂かれるか知れねェ。でも面白いんだよ!お前の傍でお前を感じて一緒に居んの好きだし、匂いも感触もこんな好きなヤツいねーし、命のやりとり含めてオマエといるのが俺は最高にワクワクすんの!」 「身に余らァ」 「体力だってあの頃のようなわけにゃいかねぇ。誰の傍にいれば楽ができるか重々存じあげてる。でもなァ、身体が言ってんだ。無風の海みてーな安穏は窒息しそうだって。心が悲鳴あげちまうんだよ」 高杉の僧服の乱れた襟に顔を擦り付ける。 「お前が誰を好きになろうが知らねぇ!どんな仕打ちされようが変わらねぇ。俺が見て触ってひとつになりたいのはオマエだけ、俺の心が決めたことは俺自身にだって曲げられねーんだ」 「銀時…好きだぜ?」 懐のぬくもりを抱きしめる。 「お前が俺に抱いたその境地、今度は無にしねェ。いつも報いずに思いの潰(つい)える虚しさばかり突きつけちまったなァ。恐縮の至りだ。…悪かった」 「高杉ぃ…」 「恋心を自覚したのはお前が戦(いくさ)を去ったあとだ。だが今更、どのツラさげてお前に会える? 迷う俺にアッサリお前は以前と同じ顔で笑った」 思い返して目を伏せる。 「お前は俺が傍に寄ることを許した。謝る言葉もなく取り繕うだけの俺に夜毎、顔をあわせ犬を連れて散策するのを拒まなかった。あの犬は俺にとっちゃ恩人でね」 定春は吠えなかった。 高杉に擦り寄っていった。 まるで銀時の心を読んだようで、なんだかなー、だったのを覚えてる。 『これがオメーの白い獣か?』 高杉は臆することなく定春を見上げて匂いを嗅がせた。 『たいそう美しく利発じゃねーか。どうだぃ?今度俺と…』 定春に笑いながら持ちかけた。 『江戸の町ん中ァ、夜明けまで走り回らねーか?』 聞いて定春はビックリして高杉を二度見してた。 かなりグラっと心奪われていた。 果てしなく歩きまわるのも、誰かと一緒に駆け遊ぶのも定春にはこたえられない喜びで。 よくこんな一言で犬を虜にするもんだと感心したっけ。 『ダメぇ!定春が走り回ったら何をどんだけ壊して怒られるか分かんねーからァ!』 『…そうか』 高杉は、ねだる定春の鼻面を撫でた。 『なら、いつか機会があったら同行たのむぜ?』 定春は目を輝かせ、尻尾を振って飛び回って、もう高杉を拒むどころじゃなかった。 夜中の散歩に出ると高杉を待って立ち止まってたくらいだ。 「俺は銀時が好きだ、そいつァ解った。だがどうやったら大切にできるのか、そもそもテメーはどう思ってるのか五里霧中だった。そんな俺をお前はなにも言わず受け入れてくれた。過去の所業があってなお、お前は俺を責めもせず拒みもしない。自分はテメーに許されている、そう思ったら初めて我が身を恥じた」 「へー、そうなんだ」 「贖罪の方法は解らねェ。だがお前が差し出してくれる心を壊さねェようにしようと思った。人を愛する方法は、どうやらお前が俺に示してくれている。お前が俺を包んだように、俺もお前を包もう…ってな」 「そのわりに、すぐキレて怒るよな」 「テメーを大切にするって慣れない作業に取り組んで恋心を打ち明ける機会をおずおず窺っていたら、真選組と婚約したって報を聞いてよォ。俺りゃ土方に敵わねェのか。俺の取り組みはどんなにテメーの目に無様に映ってたか。考えたらテメーを律する寄す処(よすが)を無くしちまってな」 「それぜんぶ我欲じゃねーか」 「お前が土方を選んだと思や、心穏やかじゃいられねェ」 「俺の幸せを願うのが愛なんじゃねーの?」
「そんな控えめな愛は持ち合わせねーな」 廊下を歩いて奥まった戸口をくぐる。 こじんまりした脱衣場を通りすぎながら高杉は抱いたまま銀時の身体から襦袢だけ落とす。 踏み入れた浴室はうってかわって広く、凝った造り物や装飾が配してあって、くもりガラスの窓から昼の明るさが差し込む他は高い天井や浴槽の奥は不気味に暗がりがわだかまっている。 それでもタイル張りの浴室は磨かれた目地が白く浮かび上がり、浴槽に張られた湯が温かそうに煙っている。 レトロな浴室なのにシャワーや蛇口もあって、その前に置かれた椅子に腰掛けるよう下ろされた。 「洗ってやるから待ってろ」 「いらねーよ、自分で洗う!」 慌ててシャワーの蛇口をひねる。 蛇口は龍をモチーフにした真鍮細工で、どこを掴むか戸惑う。 それでもなんとか湯を出して頭を突っこむ銀時を見届けると、まだ僧服を纏っていた高杉は脱衣場へ引き返していく。 アイツ戻ってきたらゼッテーちょっかい出してくる。 その前に洗っちまわねーと。 とくに顔。 化粧を落とす石鹸てあんの? 知ってんだよ俺は、よく変装すっから。 こういう頑固なヨゴレって普通の石鹸じゃ落ちねーんだよな。 とにかく半端に塗料が流れたオバケみてーなツラは高杉には見せらんねぇ。 あとその…ケツ。 中に出されたモン、ぜんぶ掻き出して洗っとかねーと。 「手伝ってやらァ」 「んぎゃあ!」 後ろのそこへ手を伸ばした途端、背後から高杉に抱えこまれた。 「んなっ、な、なにしやがる!?」 「テメーん中に仕込んだヤツ、出しといた方がいいんだろ?」 「そうだけど、ちょ、離せって!」 裸の高杉の胸腹が背中に密着してきて鼓動が跳ね上がる。 そのまま床にかがめられ、四つん這いに尻を高くあげさせられる。 「自分でやる、自分でやれっから触んなッ」 「角度的に届かねェよ。残らず掻き出してーなら俺に委ねるしかあるめーよ」 「ヤッ…メッ、んんッ!」 尻たぶを左右に開かれて敏感な部分に触れられる。 高杉を受け入れていたそこは期待なのか恐怖なのか自然にきゅっと力が入る。 力を抜いて緩めさせようと、穴を撫でまわしていた指が埋めこまれてくる。 「あ、ぁうッ…!」 がくがくと身を揺らして衝撃に甘い痛みが混じるのを受け止める。 高杉の指は力強く中へ分け入ってくる。 こんな明るい場所で、そんなところを奥まで探られている、そう思うと下肢が震えてきつく目を閉じる。 「はぁ、あぁ…、」 中で指が動いている。 高杉のそれは先ほどの熱い塊を思い出させて。 快感を欲しがる部分に誘おうと勝手にゆらゆら動いてしまう。 「もう少しだから辛抱してなァ」 高杉は真面目な声で言うと作業を続ける。 熱いものの残骸が指に絡められて掻き出されていく。 ずるん、と異物が取り除かれ、腸内がカラになる。 まるで擬似の排泄行為。 銀時は拳を握ってその羞恥に耐える。 「…ァ、」 指先を湯で洗い流すと、ふたたび中へ差し入れられる。 どこを触られても甘いうねりが腹の中に乱反射する。 「ぁ、…ぁん、ン…っ」 ひときわ刺激に弱い腹側の一点を指が行き来する。 じらすように周りを弄ってはすり抜けていく。 「はっ…んっ、んんんーッ!」 銀時は自分の口を押さえる。 高杉の指が、いままで避けてきた一点を指で挟んで揉むように刺激している。 「ィヤッ、ぁぐっ、なっ、ぁッ!?」 腹側へ不規則なリズムで押しこまれる。 下半身に溜まった痺れが一瞬でペニスを擡げさせていく。 「うぁッ、た、かす、ぎッ!」 「もう中は綺麗にしたぜ?」 二本の指を自在に動かしながら片腕で銀時の腰を捕らえて引き起こし、その双丘に口づける。 「すっかり勃っちまった。もう入れてもいいかァ?」 「なっ…んなっ…!」 銀時は言葉が声にならない。 「ソレなんのためにやったんだよ!?」 「決まってんだろーが。また愉しむためだ」 「やだ、イヤだ、キリがねェ!」 前へ這って逃げる。 「なんかもう疲れた!ゆっくり休みてーよ!誰かァ!」 若々しい身体は高杉の腕力に抗しきれず、造作もなく引き戻される。 「誰かコイツ止めてェ!死ぬ、死んじまう、……ぅ、ぅぁあああッ!」 後ろの穴になにかが触れる。 指でも熱い塊でもない、やわらかくて指より自在に動くヌルリと湿ったもの。 「ゃっ…、ぃゃっ…だっ、」 尻にあたる頬と乱れた息遣いから、なにをされてるか分かる。 それは穴を丹念に這いまわりながら、中心を優しく抉って中へ入りこんでくる。 「ぁっ…たかすぎ…っ…!」 「ン…、すきだぜ、ぎんとき…」 「ゃ、やだ、そんなの…っ、やっ、ぁッ…!」 「お前の身体中、どこもかしこも舐めてェと思ってた」 「ぁんんッ!」 身体中…? 全身、そして下腹部が熱くなる。 なんでよりによってソコなんだよ。 叫びたいが息が整わない。 「オメーの至るところぜんぶ愛しいぜ、ぎんときィ…」 「はっ…ぁっ、はぅっ…」 舐める音がする。 高杉のあの舌がしていると思うと腰が砕けそうになる。 入るときか出るときか両方か、たえず高杉の口と舌から背徳的な快感を送りこまれて。 されるまま銀時はタイルに潰れて下半身を愛されているしかない。 「いいかげん、入れて欲しかねーか?」 ちゅ、とキスされる。 「舌ァ引き抜かれそうだ。俺のコイツもオメーの中に収まりてェしなァ?」 「…ぅ、」 高杉のを奥まで。 埋めてほしい。 アレが欲しい。 動かして、突いて。
「たかすぎ…」 「ククッ、光栄だな」 高杉は体勢を取ると勃起をあてがう。 「ねだるときも、あくまでお許しをくださるわけだ。この気の強ぇ白夜叉さまは」 「んなっ! そんなんしてねーだろ、…あぐ、んぁっ…!」 太く硬いものが後ろを押し開き、確実に奥を求めて進んでくる。 「あっ、ぁ、あぅぅッ!」 その先端が腹側の一点に突き刺さる。 背が跳ねて銀時は声もなく先走りを滴らせる。 「はっ、あっ、ゃっ、だっ…ぁんん!」 奥を貫く前に、浅いそこを確かめるように何度も突かれる。 ペニスが腹につくほど反り返り、とろっ…と透明の液が噴き出す。 「ゃッ…、もぉッ、ぁああっ!」 腰をつかまれ、高杉が動くたび前立腺が不規則に捏ねられる。 そのたびペニスの先から、とめどなく薄い液が漏れる。 「はぅ、…ぁぅう…ぁ…ふぅっ…んっ」 精の放出の快感、遠くへたゆたうような穏やかな絶頂。 息も忘れるほど押し寄せるそれに銀時は呆然と浸る。 背中に高杉が覆いかぶさってくる。 硬くて太いものを押しこまれるが、もう痛みはない。 いろんな角度から突かれて腹の中がトロけていく。 「ぎんとき…ぎんときっ…!」 荒い息遣いが聞こえる。 自分の息もせわしない。 痛くされなくても気持ちいい。 腸壁に熱いものを掛けられる異様な興奮に銀時はすべての吐精を果たし、ヒンヤリしたタイルの上へ静かに息をついて横たわった。
疑わしげに尋ねる。 タイルの床に仰向けにされて、膝を立てて両足を開かされている。 「まだ俯せのがマシなんだけど」 「深いところに出しちまったからな」 高杉は指を差し入れて掻き出している。 「次はサカっちまうわけにゃいかねーだろ?」 「それとコレ、俺がM字開脚させられてんのはなにか関係があるわけ?」 「お前の尻が形良くてよォ」 目を細めて指を動かす。 「見てると挿れたくなっちまうのさ。だったら見ねェようにするしかあるめーよ」 「それってどうなの」 もろに性器を晒してるのは構わないんだろうか。 「このいたたまれないキモチはどこへ供えりゃいいんだよ」 「もう終わる」 高杉は仕上げに浅いところを一拭いする。 「あとは中まで開いて洗い流してやらァ」 「ちょ、カンベン!」 銀時は勢いよく上半身を起こす。 「大変なことになるから!それってどう考えてもシャワ浣……うぐっ、」 言いかけて止まる。 胸苦しくなにかがこみあげてくる。 「……ちょ、待って…、キモチワル…、」 口を押さえる。 本格的に吐き気がする。 高杉の下から身を引き上げてヨタヨタ這うように排水口へ向かう。 「あぐ…、んがっ…おぼ、おぼろろぼっしゃー!!」 胸のあたりで、逆流しようとする塊が暴れている。 懸命に銀時はそれを口から出そうとする。 しかし空腹の胃は吐くものもなく。 銀時はとまらない嘔気に涙を滲ませる。 「かはっ!」 最後に。 銀時の口から出たものがあった。 「ケヘッ、ェゲッ…、」 急激に腹が軽くなる。 すっきりして重荷を取り去ったように身体中が楽になる。 「なんだそれは?」 高杉が覗きこむ。 出てきたのは長い紐状のデコボコした物体。 抜け殻のように潰れているが、どうやら丸い部分が数珠つなぎになった一塊のものだ。 「んあ?」 銀時も見下ろす。 「んあぁぁーッ!」 その形には見覚えがあった。 土方に手渡され、飲むようにいわれた天人の薬。 「これ、コレッ…!」 「心当たりがあるのか?」 高杉は怪訝そうに銀時を見る。 うなずいてそれを告げようとしたとき。 銀時は朝と同じ感覚に襲われる。 息苦しく浅い呼吸は次第に空気が吸えなくなり。 肩が背中がとめどなく震え。 体が分解されるような不安に手足を丸めてうずくまる。 「ぁっ、…ぅ、くっ…」 手足が勝手にうごめき、小刻みな震えが全身に広がってとまらず銀時の意志では収拾がつかなくなる。 高杉は黙って傍に着いている。 なにが起こっているか、おおむね察しているのだろう。 銀時の動揺をよそに高杉は冷静に見守っているように見える。 「ぁぐ…ぅ…、」 こんなのは聞いてない。 もっと若返っちまったらどうしよう。 でも薬は吐いたんだし。 銀時は首を振る。 高杉が動かないかぎりコトは安全に違いない。 その一念で体内に吹き荒れる細胞変容の嵐に歯を食いしばる。 「銀時」 気がついたら高杉の腕を掴んでいた。 力任せの指の跡がついている。 その指はもとの自分の大きさで。 掴む力は年齢相応、視線もさっきより高い。 「…あ」 手を突いて起き上がる。 見慣れた自分のもとの姿。 身体は充実して気力が漲っている。 「戻った…」 「どうやらコイツは徐放剤らしいな」 高杉が薬の塊を拾い上げる。 「体内に留まってるうちは若年化させるが、吐けば効果が切れて戻っちまう仕組みだ」 「ちょ、そんなもん触んなって」 「真選組はハナから時限式に変身させて元へ戻すつもりだったのか。この分だと効果は1日たらずってところだな。挙式直前に飲まされたってのは、時間が経ったらオメーが吐いちまう危険が増すからだろうよ」 「なに。じゃ俺、二重に騙されたの」
あのとき引っ掛かりを感じたのだ。 オンナになってないのに、あたかも自分が女体化したみたいに宣伝する彼らを見て、もしかして『戻らない』ってのも方便なんじゃないかって。 もしかしたら、これ全体が世間の目をごまかすフィクションじゃないか。
土方は自分をこの状態から解放する手立てがあるんじゃねーかって。 高杉が銀時の身体を点検する。 「元通りのオメーの綺麗な身体だ」 「………ハァ~、」 銀時は、しゃがみこんで大きく息を吐く。
「よかったぁぁぁ!」 目も見える。身体も万全。銀時はタイルの浴槽にボーっと寄りかかる。 「機嫌いいじゃねェか」 「ん、気分いい」 「そいつァなによりだ」 あとから入ってきた高杉が銀時の横に腰を下ろす。 浴槽は広く、十人やそこら入ってもプール並みに余る。 気にもせず浮かんでいると高杉の指が銀髪に絡んでくる。 「…なに?」 「可愛いからよォ」 「そーかよ」 いたわるように触れてくる高杉の手は心地いい。 目を閉じてゆだねていると疲れと安堵に寝入ってしまいそうだ。 「昼飯は何がいい?」 高杉こそ上機嫌に聞いてくる。 その伸びやかな声にますます眠りを誘われる。 「ん…寿司とか、鯛とか、ステーキとか…あとチョコレートパフェとマロンパフェとイチゴ牛乳とプリンとモンブランとショートケーキをホールで」 「よさそうなところを支度させる」 高杉は家の者を呼びつける。 銀時がウトウトしていると、耳障りのいい声が簡潔に用事を伝えている。 それを終えるといきなりパチンと音がして、浴槽の壁に設置された巨大モニターの電源が入る。 「んぇ…?」 「オメーが寝てる間、見ようと思ってな」 高杉は手にしたリモコンでチャンネルを変えていく。 「どうやら真選組の屯所で始まったらしいぜ」 「…始まったって?」 「幕府の偉物を集めて祝言をあげるのが今日の奴等の仕事だろ。その中継をやってるって聞いたからよォ」 「祝言?」 銀時は画面を見上げる。 「オレ居ねーのにできんの? アレ、じゃ代役を立てたのかな?」 てっきり中止だと思いこんでいた。 「土方くん、誰と式を挙げるんだろ?」 「気になるか?」 「ならねーよ」 「オメーにベタ惚れだったもんなァ。まさかこんな簡単に手のひら返すたァ…」 言いかけて高杉も黙る。 銀時は屯所の中継を凝視する。 花野アナの静かなリポートとともに厳かな雰囲気の中で式が執り行われている。 ちょうど花嫁が廊下をわたって座敷へ向かってくるところ。 その綿帽子の下の面差しが大写しになる。 紋付を着た新郎の横。 たおやかな細身の、しっとりした雰囲気のある芯の強そうな少女。 「……………ヅラ?」 銀時は思わず画面を指す。 印象的な瞳、うつくしい黒髪。 それはかつて自分たちとともに混沌の戦場を駆け抜けた、あのころの戦友の顔立ちそのものだった。
続く
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* 高銀話です(連載中)
ゆるみきろうとした銀時の身体が跳ねる。 「ぃ、ぃや、たかすぎっ、もっ…あぁッ…!」 「イヤってこたァねーだろ」 耳元で乱れた吐息が告げる。 「めっぽう締めつけてくるぜ?」 「や、そこ、ぁ、…あんんんっ!」 銀時は板敷を引っ掻いて苦しげにもがく。 尻は高杉の剛直をきゅうきゅう締めあげながら形よく揺れている。 「もうイッた、イッたから…! ゃ、ぁあッ、イク、イきすぎちまうっ…、」 「まだイけるだろ?」 激しく突かれる過剰な挿入に震えながら喘ぐ銀時の下腹部へ手を添える。 射精直後の萎えきらないペニスを捕らえ、カリ首に指をまわして亀頭責めにする。 「反応、いいなァ…銀時ィ?」 「いッ…、いやッ、いやぁぁああッ!」 腸壁を剛直で満たされ押し広げられながら、イッたばかりの敏感な亀頭にくりかえし与えられる緩い回転刺激に、銀時の下半身はあふれるような快楽で蕩けてなくなりそうになる。 ひとつを感じとる間に呼吸もできないほど押し寄せる快楽に銀時は必死に喘ぎ、その間も腹の奥へ送りこまれる熱いうねりに犯され、一瞬たりと止まらぬ裏筋への緩やかな刺激と不意に尿道口に挿しこまれる指腹の強烈さに悲鳴をあげ、その一切を処理できずに脳髄は地獄のような快楽に恐怖する。 「ぁあッ、か、んじすぎちまっ、…ゃめっ、もぉ、ぁ、たかっ…!」 「ぅ、…クッ、ぎんとき…」 腰をくねらせてヒクつく相手に息をつかせる気もなく突いては奥を掻き回し、身体のすみずみから奥深くまで肌を合わせて愛し尽くしながら高杉は徐々に昇りつめ、 「ぎんとき、オメー…俺が好きか?」 「はっ…、んぅ…、すき、」 銀時は瀕死の傷を負ったときでもあげないような必死な吐息で答える。 「ぁふ、あいしてる…にっ、決まってんだろぉ…ッ!」 「……アァ、そうだな」 俯いた高杉の口の端が仄かに笑む。 「俺もだぜ銀時、オメーを愛してる…この命、くだけてもかまわねぇ…!」 「ぁっ…ふぁ、たっ…かすぎ…ぃ…!」 「ぎんとき、ぎんときッ…お前が好きだ、愛してるぜ」 「ぁ…出して…中に、たかすぎの、欲しっ、ぁッ…はぁあ…!」 耳に告げられる言葉を聞けば獰猛な衝動が駆け抜ける。 相手の胸腹を離れることを許さない力で引き寄せ、我が身を密着させて擦りつけ銀時の中を奥まで強く擦りあげる。 緩く擡げた銀時のペニスを急かすように煽り立てながら愛しい相手を腰ごと引き寄せると、その深いところへ熱い体液を一気に迸らせる。 「ぁんッ、…はんッ…んっ…、んっ………!」 精液が銀時の体内に注がれる。 腸襞に滲みていく感触に、ひさしぶりの強烈な刺激に身も世もなく悶える。 爪先まで伸びた下肢は小刻みに震え。 射精もなく達した銀時は感極まったまま廊下の板敷に崩れ伏せる。 上下する呼吸、投げ出された手足。 美しい獲物が己の与えた雄の精に屈服して無防備を晒している、その悦楽。 「銀時…、」 銀髪に軽く噛りつきながら数度、腰を振る。 腸襞は激しく絡みついてくるものの、くったりとして銀時は動かない。 横向きに板に押し当てている顔を見れば、その瞳から涙が伝っている。 「大丈夫か?」 「ぁ…ぁん…っ…」 銀時は肌近くに視線を感じるのか、それを嫌うように手の甲で顔を覆い、目を擦る。 カチャ、と音がして何かが板に落ちる。 「……………あれ?」 銀時は、はたと動きを止める。 「……見えてる」 呆然とあたりを見回す。 片眼を押さえたまま身を起こし、薄暗い廊下に確かめるように視線を凝らす。 「み、見えてるよ、痛くねーし刺さらねーし、な、治ってる…!?」 「よかったなァ」 「ゃっ…、くぅっ!」 ズルっと銀時の中から腰を引き抜く。 最後のダメ押しのような刺激に銀時は硬直する。 その様子が微笑ましくて高杉は身を寄せ、銀時の背や腹を掻き撫でると銀時は弱い唸りをあげて威嚇する。 「ちょ、やめてくんない!?」 「なにをだ」 「ひとの尻、揉んでんじゃねーよ!」 「ああ、あんまりにも好かったもんだからな」 「刺激するなっての!」 嫌がってみせるが、高杉を振り切らない小さな素振りでそれをする銀時に愛おしさが募る。 「可愛いなァ、オメーはよォ」 「いま忙しいから!」 高杉の腕にゆるく包まれたまま、銀時はもう片眼をゴシゴシ擦る。 ほどなくコンタクトレンズが目から零れる。 目に装着していたときは、そんなものを着けていると分からないほど透明なレンズだったが、外れて板敷に転がったそれは黒く武骨で、一目で在り処がわかるほど大きい。 「み、見える!平気だ、こっちも!」 銀時は両眼を交互に押さえてパチパチ瞬いている。 「やたっ、完璧だよコレ、ジジイ信じてよかったよ、すげーよ、すげくね!?」 「源外のじいさんのカラクリか」 レンズを拾い上げる。 「紅桜のデータを解析しちまうたァ、やっぱり只者じゃねーな」 「エッ…?」 「じいさんに頼まれたのさ。お前の眼を解毒してやりてェから毒液の組成が解るものを借り受けたいってな」 「あ、そうだよな。これってネオ紅桜の毒液だもんな」 「あいにく血清はヅラとの騒ぎで無くしちまったが、素のデータから探す気ならどうしてくれても構わねェって心当たりをじいさんに渡したのよ」 「ありがとう、じーさん」 銀時は拳を握る。 「おかげで眼が痛くねーし!食いもんの味にビックリしねーで済むし!」 「オイ銀時」 「ぶつからねーで歩けるし走れるし、つまづかねーしィ!」 「いい加減こっち向けや」 「や、…ちょ、」 「その瞳を見せろ。深く澄んだオメーの魂の色をよォ…?」 「ん、ゃだ、恥ずかしーだろ、」 銀時はムキになって眼を逸らす。 高杉が頬を掴み、自分の方へ向けて覗きこむと、銀時のふたつの冴えた瞳がハタリと高杉を見上げる。 視線を捉える。 からみあったそれは相手を見通すように強く奥底で繋がりあう。 「綺麗な眼だ」 「…ん、まァね」 「吸いついて食っちまいてーなァ」 「ダメだから、食えないから」 銀時は警戒体勢を取る。 「それよかお前の眼、やらしすぎ。おまえ俺のどこ見てんの?」 高杉の顔に手を伸ばす。 「おまえの眼にオレって、どんな風に見えてんの…?」 「したたるような色香を最高の身体から垂れ流してる粋で気怠い肉感的美人」 「………ああ、そう」 即答されて言葉がない。 「高杉って、目ぇ悪いんじゃね?」 「それほどでもねェさ」 高杉は笑ってゆるゆる目蓋を包むように撫でる。 「治って良かったじゃねーか。じいさんには、いくら礼を言っても足りねェな」 「うん、今度言うわ。会えたらだけど」 「俺がじいさんから聞いてたのはコンタクトを装着して2時間以上経過すれば、あとは血圧と心拍をあげてオメーをありえねーほど快楽漬けにすりゃ自然に見えるようになるって話だったがな」 「…んぇ?」 銀時は止まる。 「か、かいらく漬け? そ、それって…!」 「快楽物質にエンドルフィンてのがある。そいつァ強烈な刺激を食らうとテメェの脳から放出される。強力な麻薬みてェなもんだが、じいさんによるとそいつが紅桜の失明毒を中和するなによりの解毒剤なんだとよ」 「…っ、てことは、あの…、」 「ありえねーほど気持ちよくイッたんなら、なによりだぜ」 「ぎゃ、ぅ、んな、なに言ってんの、なに言ってんの高杉ぃぃぃぃ!」 銀時が顔を真赤にして掴みかかってくる。 「そ、それって、俺が治ったってことは、お前とそーゆうことしたって宣言してるよーなもんじゃねーかァ!」 「この事実は俺とじいさんしか知らねェ。なんの問題もねーだろうが」 「あるよ!だってそれ、気絶するほどキモチよく逝かねーとこうならねェんだろ!?」 「…アァ、」 高杉はニヤッと笑う。 「源外のじいさんは察するだろうさ」 「ぎゃああ、イヤだァ、イヤすぎるぅぅ!!」 「それよりよォ、おまえ…土方とは寝てなかったみてーじゃねェか」 「…寝てねーよ、言ったろ」 「寝てたとしても、テメーにさほどの快感はなかったってことだ」 「なんでそう土方くんを貶めんの」 銀時は向き直って嘆息する。 「真選組の新居に初めて連れてかれたとき、土方くんに宣告された。もう挙式なんだし、いい加減あきらめろって。真選組で暮らすなら自分を受け入れろってさ」(46話参照) 「……」 「夜通し口説かれたけど、オレ、ついに『ウン』て言えなくてさぁ、土方くん、大泣きしちゃったんだよね。次の日、朝から目ぇ腫れて、真っ赤で、誰が見ても分かるくれー顔中すげーことになっちゃって」 訪ねてきた神楽に、とてもドアを開けられず、土方の腹心を呼びに行ってもらった。(47話参照) 地味な隊士が気の利くヤツで、凍ったタオルや冷却スプレーを持ってきて、なんとか腫れと赤味が引くまでアレコレ世話していった。 土方は、それで銀時にその気がないことをなんとか飲み込んだが。 やはりショックだったらしく、なにかの弾みに悲痛に叫ばれた。
銀時は高杉を目に映す。 「土方くんは最初から最後まで、アイツの武士道を貫いた。オンナになる薬を飲まされたと思ったらガキになっただけだった。目を開けてられないオレに、お尋ね者のジイさんに金払ってまでコンタクトレンズ用意してくれた。最後にはオレをその手で逃がしてくれた。アイツの大事な真選組がヤベーかもしれねーのに」 「……フッ」 高杉は目を伏せる。 「銀時ィ、土方は最初からオメーを逃がすつもりだったぜ?」 「あ、うん。そう言われた。逃がすときは自分の手で逃がしてやるって」 「そうじゃねーよ。アイツはお前が白夜叉だという事実から、オメーを逃がそうとしてたんだ」 「んぇ…?」 「なんでマスコミを引っ張りこんだと思う? お前が性転換することを取材させ、挙式の騒動を逐一記録させ。そしてこりゃァ土方の想定以上の出来映えだろうが、お前が俺に連れられて過去へ消えていったところまで。なんのためにあの連中を居合わせるよう仕向けたか、考えてみりゃ明白だろうが」 「なに、なんのため?」 銀時は改めて考える。 「そういや、あんな混乱になってもテレビ局のカメラが最後まで居たような居なかったような…」 「ククッ…真選組がマスコミに流したかった筋書きは、『攘夷戦争の英雄らしき白夜叉は失明の憂き目に遭い、二度と戻れぬ薬で女体化し、すべての戦闘力を失った。その状態で真選組に嫁入りし抗争の表舞台から消え、何者かに担ぎあげられて利用される価値はなくなった』ってな具合だろうよ」 「え。そーなの?」 「だから俺が筋書きを変えてやったのさ、『女になった白夜叉は鬼兵隊の手で過去の世へ戻され、現世の人間の手の届かないところで、おそらく子を成した。もし白夜叉によく似た者が現世で見つかったとすれば』」 「…すれば?」 「『それは過去へ戻った白夜叉の血を継ぐ者だろう』とな」 「それって…白夜叉によく似た者って、オレ?」 自分を指す。 「オレのこと言ってんの?」 「そうだ。オメーはこの時代で堂々と表を歩きゃいい。オメーは白夜叉じゃねェ、白夜叉の子孫だ」 頬にキスする。 「幕府の奸物どもも他力本願の志士どもも、白夜叉じゃねェ子孫にはなんの責任も被せられねーからな」 「あ、そうか」 銀時が合点する。 「俺はもう白夜叉じゃないわけね? この時代に白夜叉はいないんだから、俺は子孫にすぎねーってわけだ」 「その通りだぜ」 「あー、よかったァ!」 ほんわり笑みを浮かべる。 「一生、逃げ隠れして窮屈な思いしなきゃならねーかって心配してたんだよね」 「そんなことにはならねーよ」 高杉が頬をついばむ。 「納得が行ったところで部屋に入らねーか。ここじゃ堅くて存分にできねェ」 「入らねーよ、風呂行くんだから」 銀時は改めて自分の格好を見下ろす。 「うわー、ベタベタ。ここまでくるとキモチワルイ」 花嫁衣裳の残骸を紐を解いて腰から外す。 手で顔をこすって眉を顰める。 「かぴかぴに突っ張ってんだけど。風呂どっち?こっち?」 「…岩風呂と洋風タイルと露天、どこがいい?」 「岩風呂!」 言ってから首を振る。 「岩風呂は却下、露天はアレなんで、洋風で。…なに、もしかしてオマエん家、風呂3つあんの!?」 「あ?たぶんそのくれェはあるだろ」 高杉が立ち上がる。 「こっちだ。連れてってやらァ」 「…いや、一人で」 「そんなわけにゃいくめェよ」 鼻で笑って高杉は、膝を突く銀時の前に支えの手を差し出した。
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* 高銀話です(連載中)
「んー…、全然説得力ねェからいいわ」 銀時の手に触れた物は熱く脈打っている。 「ここまで脆(もろ)い体に縮んじまったら相手にされねーかと思ってた」 「姿形はずいぶん若くなっちまったがよ、中身はオメーのまんまだろうが」 高杉の声が近く、覗きこんでくる。 「そのオメーが俺をこうして恋しがってくれてんだ、なに遠慮することもあるめーよ」 「うれしいこと言ってくれんじゃねーの…」 ほろ、と笑みがこぼれる。 「高杉ってさぁ…そんときの関心ってか、ソノ気がもろに硬さに出るよね」 「あたりめーだろうが」 銀髪を手櫛で梳いて頬を撫でる。 「男なら誰だってそうならァ」 「ちょっと違うんだよなぁ、硬さっていうか…フィット感?」 見えもしないのに上を見ながら首を傾げる。 「ノリノリのときはツルっとしてすんなり入るのに、どこに当たってもキモチいってか…逆にあんまりどーでもいいときはゴツゴツしててさぁ、なじまねェってーの?トゲトゲしいんだよね、さきっぽ尖ってるだけに」 「ほォ。そんなに違うかよ」 高杉は笑いを堪える。 「けどそりゃオメーが乗り気がそうじゃないかで感度が違うってェ盛大な暴露じゃねーかァ?」 「んなっ…!ち、ちちちちげーよッ、」 頬がカーッと熱くなる。 「あああアレだ、あんときッオメーが山小屋にきてヤッたとき、つっけんどんに掻き回されて、その、なじむヒマもなく駆け抜けてったっつーか…!!」 「ありゃオメーが俺を認めようとしなかったからだろうが」 高杉が咎める。 「慣れねェ手つきで精一杯、テメーが感じるよう相務めたってのによォ…テメーが本物だったらもっと凶暴でヘタクソな筈だって決めつけられちゃ立つ瀬がねェ」 「だだ、だって高杉、優しくすんだもの」 銀時は俯いて顔を隠す。 「俺がキモチ良くなるよーに、なんてされたことなかったからさぁ、……ヤッててお前が面倒臭いとか、つまんなかったらどーしようって、気が気じゃなかったんだよ」 「昔は手荒にしようがどうしようが、オメーの身体が応えてたから満足してると思ってた」 悔恨を滲ませる。 「けど痛ぇのが好きならともかく、俺のやり方は乱暴すぎたって気がついてよォ」 「オンナでも買ったの?」 険悪に笑む。 「それとも他の野郎を抱いて指摘されちゃった?」 「否定はしねェ。離れてる時間、いろんな人間と関わった」 「あ。そーなんだ。高杉くんってモテるもんね」 声がムッとしている。 「そいつらに優しく抱くやり方、したんだ。なにそれ。そいつらと仲良くしてりゃいいじゃねーか。ちょ、どいてくんない?断りもなく乗っかってんじゃねーよ、人になれなれしく触んなボケ」 「埒もねーこと抜かすな。そいつらとは情を交わしちゃいねェ。酒飲みながら下世話な話をしただけだ」 「ふぅ~ん。…で」 銀時の声はトゲだらけだ。 「どうやって俺にそれを信じろって?」 「俺たちゃ似たもの同士だ」 高杉が銀時の呼吸まで窺っている。 「オメーが土方との間に何もなかったってんなら、俺だってその程度だ。オメーが潔白なら俺を疑う愚は犯すまいよ」 「えー、そんなのアリかよ」 銀時は頬をふくらませる。 「俺が潔白ならオマエも潔白ってソレずるくね?」 「ならテメーの身体で確かめるんだな。俺が手馴れてるかどうか」 高杉の言葉は揺るぎがない。 「そもそもブランクがなきゃ、あんなおっかなびっくりテメーに触れたりしねェ。アッというまにテメーを酔わせてた自信があるぜ?」 「そ、そんな無駄な自信はいらねーッ、じゅ、じゅーぶん感じてたっての!」 「けどオメーにゃ違和感だったんだろ?オメーの中に入れたモンが馴染まなくてよそよそしいってよォ」 「そっ……そりゃ、まあ…」 「あんときゃオメーが土方と相思の仲だと覚悟していたからな。ひさしぶりだってのにコイツは他の野郎を想ってるとくれば、よそよそしくもなろうよ」 「お前、俺が土方くんと愛しあってるかもしれねーのに乗っかってきたわけ?」 銀時は今更のように非難する。 「それって人としてどうよ?」 「まあ、褒められたもんじゃねーな」 高杉は言いにくそうに笑う。 「オメーが媚薬ですっかり準備万端になってたもんだからよォ、土方のモンかもしれねぇオメーが身体開いて蕩けてるの見て興奮した」 「こ、ここ、コウフンした、じゃねーだろぉッ!」 銀時は言葉にならない文句を並べる。 「なっ、なに見てっ…ひ、ひとのカラダっ…ぁいう、んぐぁああ!!」 「ぐっ…、なんだ?」 高杉は顎にいきなり掌底を食らって仰け反る。 「テメ、なにしやがる」 「なっ、なにもクソもねぇぇええーッ!」 容赦なく高杉を押しのける勢いで身を返し、布団から逃げ出す。 「見んなバカ! ふ、ふふふ、風呂ッ、それかせめて洗面所ォォォ!!」 四つ這いで畳を掴んで褥から去っていく。 「触んな、コッチ来んな! ちょ、冗談じゃねェ、誰かいませんかァーッ!」 わたわたと戸口めがけて這う銀時を高杉は黙って眺める。 手さぐりでぶつからずに進んでいけるところは流石、銀時というべきか。 「銀時」 小さく嘆息して声を掛ける。 「なにやってんだ?」 「う、ううう、うるせェ!構うな!まだ来んじゃねーよ、…あたっ!」 銀時は廊下に出ようとして狙いを外し、柱に頭をぶつけている。 「いまの無し、ナシ! いいから忘れとけ、アレだ、ちゃんとしてくっから!」 「なにをちゃんとしてくるって?」 「だから身ぎれいにしてくんだよ、やべェ、うっかりしてた!」 「そのまんまでいいだろうが」 呆れて焦れた声。 「テメーに顎打たれた方がよっぽど興が醒めるぜ」 「なに言ってんの、お前?」 銀時は憤慨する。 「高杉はなぁ、きれい好きなんだよ? なに不自由ないボンボン育ちで、汚ぇもんなんか晒せねーの! 汗くせー身体なんかもってのほか! 風呂、どっち?」 「風呂なんてあとでいい」 布団から立ち上がって銀時のもとへ歩いていく。 「汗だろうが血だろうが、そんなモン嫌った覚えはねェ。勝手に決めつけてんじゃねーよ、ホラ戻ってこい」 「お断りします」 なるべく高杉の視界に入らないよう、白い襦袢を腰にまといつかせた姿が廊下へ這い出していく。 「厠借りるから。たぶんこっちだろ」 「…ったく」 むず、と腰紐をつかんで引き戻す。 「そのままでいいって言ってんだ、もういいからヤろうぜ?」 「ぎゃあっ!」 腰を浮かされてジタバタもがく。 「いやだ、こんなみっともないカッコでヤリたくねェーッ!」 「ああ、わかった。テメーは好きなだけ嫌がってろ」 上から胴を横抱きにして部屋へ連れ帰ろうとする。 「俺も好きなようにヤるからよォ」 「ちょ、やだって、ダメだって!」 銀時は廊下の板敷きに爪を立てて抵抗する。 「きたないカッコしてたら感じるどころか引け目しか感じねェ!」 「うるせぇ、これ以上は我慢できねェ」 「お前、アレだよ? こんなんじゃ入るもんも入んねーよ!?強姦だよ!?」 「…なにが強姦だ、俺りゃテメーと気持ちよくなるためにここまでこうしてやってきたんだろうが」 「だったらあと10分くれェ待ったっていーだろうが!」 「だいたい、どこがどう汚れてるってんだ?」 高杉は鼻白む。 「俺だって汗くれーかいてる。そんなの問題にゃならねーぜ」 「いいですか、まず俺を下ろしなさい。そしてちょっとここに座れって」 銀時は自分の傍らを指す。 「今日の朝、クスリ飲まされて身体が縮んで、シャワー浴びたけど乾くひまもなくコンタクト入れて化粧して首から下まで白粉ぬりたくって花嫁衣裳着せられた。歩き方とか特訓して汗だく、のち庭へ出てってあの騒ぎ。オメーの手下に触手絡まされたり、なめまくられたりしてドロドロ。のち、フジびたいに泡ふかれて足ベタベタ。まあその間、いろんなヤツに助けられたりキャッチされたりして、いちいち汗かいて、極めつけはテメーの狂言爆弾な。砂とケムリを頭からカブった」 いうとおり、銀時を離して傍らへしゃがんだ高杉に言い聞かせる。 「ありとあらゆるヨゴレに塗(まみ)れてんだよ。汗とドロと化粧と、いろんな人間の手脂とかね、ヨダレとかね。わかる?その上からオメーに触られても、オメーと肌の間になにか膜が張ってるような気がしてキモチよく酔えないんだよ」 「……」 「だからさ、心置きなくオメーと愉しめるよう、洗い流させてくんない?」 「…わかった。テメーの言うのは尤もだ」 高杉は深く頷く。 「風呂は使え。気が済むまで洗やァいい」 「やった!」 銀時は嬉しそうにキョロキョロする。 「じゃ、さっそく…風呂場ってどっち?」 「だがその前に、俺りゃもう我慢できねェ。だから、ようは手早く済ませりゃいいって話だろ?」 「へ? なにを?」 「洗う前に触られたくねェなら、そっちはあとでじっくり愛してやらァ」 「ちょ、…ちょ、ちょ、ちょ、なに? なにーッ!?」 廊下で銀時を四つ這いにして白襦袢をめくる。 襦袢の裾を頭の方へかぶせて下半身を露出させると、おもむろに双丘を開いて剛直をあてがう。 「んぁッ、はぁうぅぅ!」 直前まで高杉と縺れあって、そこそこ態勢ができていたのもあって。 やわらかく押されれば銀時の意志と関係なく、後ろは高杉を受け入れはじめる。 「む、ムリだって!慣らしもしてねー…ぁぐっ…!」 銀時は目を見開く。 ズブズブと埋めこまれてくる硬いペニスを、身体は奥深くまで欲しがって誘いこもうとしている。 「い…ぃやぁぁぁ! どーなってんの、オレのケツおよび腹ん中ァ!」 のたうって、前へ逃れようとする。 「まるでゆるゆるみてーじゃねェか、どんだけ高杉ならオッケーなんだよ、どうかしてんじゃねェ!?」 「クッ…どんどん引きこまれるぜ、」 逃げる腰を引き寄せると背中を抱きこんでかぶさり、深々と体内へ差しこんでいく。 「たしかに…、テメーは昔、ろくに…慣らさねーでも入ったっけな…、若返った身体のせいか?」 「ウソッ、たかすぎ、デカくねッ…!?」 銀時は喘いで苦しがる。 「こ、…んな大きかったっけ…? はぐッ…、あ、ぁあっ、長っ…、」 受け入れる苦痛はあるが嫌がってはいない。 火照ったように熱い銀時の身体は鼓動を高めていく。
それを胸腹でじかに感じながら小柄な銀時の身体を押さえこみ、2~3度腰をつかって己の雄を根本まで差しこむ。 首を振って銀時は腰を小刻みに揺らす。 のけぞった背が緊張し、尻がきゅっとあがって高杉のペニスを強く締めつける。 まさにあの頃の銀時の幼い柔らかさ、そのまま。 知らず高杉は興奮して衝動的に抽送する。 ますます高い声が銀時の喉から漏れて、しっとりうごめく腸襞が高杉自身に絡みついてくる。 「ぎんとき…、スゲェ、イイぜ? オメーん中ァ…格別だよ」 「ぁんっ、んっ、……んんんーッ!」 耳に後ろから囁くと、腸壁のじれったい動きが高杉の根本から先端まで大切そうに締めつけてくる。 「…すきだ、銀時、愛してる」 「たかすぎっ……、たかすぎぃ…!」 手を突いたまま花嫁衣裳の残骸を纏いつかせ、不本意な成り行きだろうに、それでも銀時は気持ちよさそうに背を反らして高杉を受け止めている。 体内では高杉を離したくないかのように熱烈に締めては引っ張りこまれ、まるで銀時が口の中でアメの棒を味わうように熱心にしゃぶりつかれ饗(もてな)される。 心の底から銀時が愛しいと思う。 この愛おしい者を大切にしていかなければと。 離したくない、誰にも渡したくないと。 衝動を突きこみながら銀時に縋り、快楽と情熱を熱い身体の奥へ押しこみながら、銀時が歓ぶところを念入りに擦りあげては体内に己の跡を刻んでいく。 「はぁ…、ん…、ゃ…もぅ…イく…ぅ…」 揺さぶられながら銀時は弱々しく許しを乞う。 耳たぶを噛み、銀髪を唇でまさぐりながら高杉は銀時自身をするりと手中に収める。 「オイオイ、先にイッちまうのかァ?」 「ハ…ァっ、あぐぅ、んぅぅっ…!」 「こらえろ、イクのは一緒だ」 「ゃッ、あぁっ…」 反応がいい若い身体にこの注文はきつかろう。 無視して達したところでどうということもない。 しかし銀時は手を突っ張って、けなげに快感に抗っている。 独占欲と支配欲が同時に満足するのはこんなときだ。 銀時が、誰よりも強い男が自分の与える雄の刺激にのたうち、その扱いに甘んじている。 吸いつくような肌、白く均整のとれた肢体。 これが自分のものなのだと実感する言いようのない享楽。 「ぁ、たかすぎ…、もぅ…」 送りこまれる快楽に音を上げて銀時が懇願する。 手の中の銀時自身は先走りをこぼして脈打っている。 高杉はグッと腰を引くと、名残り惜しげに絡んでくる銀時の腸壁を突き通すように根本まで埋めこむ。 「いいぜ」 そうして許可を告げる。 「見せてくれるんだよなァ、オメーの、尻が、よすぎてイッちまうとこをよォ?」 「は、ぁっ…んっ、……ぁんん…っ…!」 びくびくと銀時の身体が突っ張る。 かすかな呻きとともに、高杉の手に精が放たれ。 そして力のはいった身体が、ゆるやかに弛緩していった。
続く
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* 高銀話です(連載中)
「忘れないけどよ。あのさぁ、高杉」 相手を逃がさないよう銀時は高杉の両肩を手で掴む。 「なんで今日、鬼兵隊は真選組に乗りこんできたの?」 「……」 「手下ども動かす理由が解んないんだけど」 心持ち離れた肩が銀時の手に阻まれ、そのまま固まる。 高杉は饒舌を収めてピタリと黙っている。 「あんだけの人数を動員する正当な理由があったわけ?」 解ってて責める銀時の意地悪が炸裂する。 「実家には厄介にならないようにしてんのに、手下はたいした戦果もねーコトに動かしていいのかよ」 「……行きがかり上だ」 「へえ。そーなの」 笑い混じりに感心する。 「わざわざ敵地の屋根に兵隊登らせたのって、とくに大義もないことだったわけ。あ、もしかして頭(かしら)のイリュージョンの見物?」 「…」 「私情で兵隊動かしてんじゃねーよ」 銀時から笑いが消える。 「死人ケガ人出たら取り返しつかねぇとこだろ」 「…」 「オメーが過去なんか行かずココに潜りこむだけだってのは、あいつら知ってんのか?」 「一部の連中は承知だ」 高杉は息を吐く。 「鬼兵隊はネオ紅桜殲滅に動いていた。武市が町中でオメーを呼び止めたのもネオ紅桜寄生体を呼びこむ協力を願うためだ。こっちも寄生体の正体を掴んでいたわけじゃねェし、アレが行方知れずの身内かもしれねェ、そうなりゃ野放しにはできねェ。テメェらの手でカタつけなきゃならねーからな」 岡田似蔵。 生死不明の彼が未だに紅桜に捕らわれて暴れている、高杉はそう案じたのか。 「だがアレは俺たちの知己(ちき)じゃなかった。だからひとまずアレに用は無ぇ、真選組への置き土産にして俺たちは退いたのさ」 川辺で遭遇したとき、高杉は部下を退かせた。 その不機嫌な様子を見送っていて銀時は『岡田』の手に落ちたのだ。 「オメーを連れて歩く野郎のツラを見たとき、野郎がオメーを幕府から身を挺して護るつもりなのは一目で解った。そしてテメーも」 言いにくそうに言葉が切れる。 飲みこもうとするそれを銀時は問いただす。 「俺が、なに?」 高杉の襟を掴んでギュッと力をこめる。 「最後まで言えや、気になんだろーが」 「オメーと野郎には距離の無ぇ一体感があった」 一言ずつ絞るように押し出す。 「あの野郎がオメーの肌に触れたのは確かだ。言い訳は聞かねェ、俺にゃ分かる。オメーをモノにしてどんな敵軍だろうと一撃で仕留められるってツラしてる野郎を見りゃ、オメーが野郎に心傾けてるってのは容易に見てとれた」 「は?」 銀時は急いで記憶を辿る。 川辺で高杉と遭ったとき? なに言ってんのコイツ。 いやそりゃ確かに疚(やま)しいことは皆無じゃねーけど。 「なっ…、なんか勘違いしてね? オレ土方君とは何もないからね?」 手を緩めて無意識に高杉の胸板を押しやる。 確かに迫られたことはある。 どっちか選べと言われ、乗りかかられて。 「その様子じゃ、あったんだろーが」 高杉の銀時を布団に押しつける力が強くなる。 隻眼が、責めるようにきつく睨んでいるのが思い浮かんで焦る。 「一度だけ聞かせろ。ヤツと何回くらい寝た?」 「………へっ?」 「ヤツとはどんな風にヤッた? 満足したのか?」 「ンぁ?」 「真選組に肩入れしたくなるほどヤツぁ、ヨかったのかよ?」 「なんで俺がヤッたことになってんだよ」 「とぼけんな。偽り吐かれんのが一番辛ぇ」 高杉が唇を触れさせてくる。 唇が熱い。 怒ってる気配、これは物騒な徴候。 「一度きりで忘れる。だから正直に明かせ」 「だからヤッてな…、ふぐっ!」 いきなり唇を塞がれた。 振り切ろうとしても逃がさない強さで思いのこもったキスをされる。 痛みを、激しさを覚悟していた唇に、しかしゆるやかな動きで求めるように触れてきて。 その切なさに銀時は力が抜ける。 「…ヤッてねェなら、あんな一線超えたような睦まじさで歩いてるわけねーだろが」 キスが頬に移る。 「野郎は完全にテメーのこと自分の所有物として見せびらかしてたぜ。テメーの肌も温(ぬく)もりも知ってるってツラしてよォ」 「温(ぬく)もり…? あぁ、そーいや!」 銀時は心の中でポンと手を打つ。 「膝枕したっけ」 「…ヒザマクラだァ?」 「つっても俺マガジン読んでたけどね。あ、思い出したわ。俺とアイツって婚前あつあつカップルに見えるように演技しろって言われてたんだ、ゴリラに」 言いながら銀時はひたすら動揺を押し隠す。 土方とは何回かキスを交わした。 ぽわんとして流されそうになったし。 高杉のことがなかったら関係を持っていたろう。 ……いや、違うから。 これ浮気とかじゃないから。 「俺も人前ではアツアツに見えるよう努力してたし、アイツもしてた。だからじゃね?」 出るな、嫌な汗ェ! 「ソレもコレもいろんなヤツをおびき寄せるためだったんだよ、よかったなお前もコロッと騙されて。見え透いた芝居だったけど役に立ったんならヤッた甲斐があったわ」 「…テメー俺を舐めてんのか」 高杉の声が怒りを潜ませる。 「それだけで野郎があんな自信を漲らせるかよ」 「てっ、………テメーもいい加減にしろ」 銀時は声を落とす。 「俺はテメーに操を立ててたっつっただろーが。誰にもヤラせちゃいねーよ。土方君は無理矢理ヤるよーな人間じゃねェ。しまいにゃ怒るぜ」 「……抱けば判ることだからよォ」 高杉は唇の先端を軽く吸う。 「その前にテメーの口から聞いときたかっただけだ」 「んじゃ抱いてもらおうじゃねーの」 自分に触れる高杉の顔を手で探して触れる。 「テメーの身体で俺の無罪を確定して吠え面かけ」 多少、言ってないことはあるけども。 高杉が争点にしてるのはヤッたかヤラないかだし。 その点では潔白だし。 銀時は余裕で高杉のヤキモチを包みこむ。 「まあオマエが心配すんのは分かるよ。そんだけ俺の演技が完璧だったってことだよな、ウン」 「……戦(いくさ)のあとオメーの行方が知れなくなって、初めてテメーが大切だと。自分のことを差し置いてもお前のために動くと決めた」 「それが愛だろが」 シャラッと返す。 流れでツッコんでしまってから自分のセリフに固まる。 「んな、なに言ってんのオレ!? んでなに言ってんのオマエーッ!!」 「解らねェ。こいつを愛って言っていいのかも解らねェ」 ついばんだまま唇の尖りを舌でなぞってくる。 「俺りゃ不慣れでな」 「んっ…、はぅ…っ」 高杉の口調は真摯だ。 本心から言っている言葉だろう。 しかし接吻は不慣れなんてもんじゃない。 確実に銀時が感じるやり方でキス責めにしてくる。 身体は早くも高杉を欲しがって腰がくねってしまう。 それを隠すような、隠しきらないような、どっちでもいいような動きで高杉に縋る。 高杉の身体だってとっくに反応している。 前だったらこの段階で着物を剥がれて押しこまれていた。 薬で変化した身体には、成人した高杉の堅くて重い骨格は圧迫感があって。 正直押さえこまれたら強姦される。 この柔い身体でうまく躱せる自信がない。 その微かな恐怖が高杉への募る恋心をますます煽り立てて。 無条件に高杉が欲しいと思った。 「ハァ、たかすぎ……もぅ…、」 「俺は…俺なりにテメーを大切にしてたんだよ、お前がその気になるまで…手ぇ出すまいってな」 言いながら白い襟を引き開けようとする。 なのにさきほどから帯に阻まれて花嫁衣裳は鎖骨の半分くらいしか開かない。 「テメーはいくら粉かけてもはぐらかすばかり。その気が無ぇと思うじゃねーか。そこへきて真選組の副長とはあの見せつけっぷり。俺を拒んで土方に靡(なび)いたと思うだろが」 「コナ…かけたって、…いつだよ…?」 高杉の手は帯をまさぐっている。 「口説かれた覚え無いんですけど」 「テメーにとっちゃその程度ってこった。俺りゃな、自信なんかねェのさ。いつテメーに見限られるか気が気じゃなかった」 「そんな自信たっぷりに言われても」 「土方といるテメーを見て、所詮オレの芸当は付け焼刃にすぎねぇってオメーに言われた気がした。いくらオメーを大切にしたいと思っても、俺がそんな気障(キザ)な真似するのはちゃんちゃらおかしいってな」 「いや『気障(キザ)』の定義がおかしいんだけど」 「お前はあんな、味方のために命張るような、…銀時、テメーのためなら面目を潰しても甘んじて泥をかぶるような優しい野郎が好きなんだろう?」 「そりゃなぁ…、でもその表現で俺が思い浮かべるのは別の野郎だけどね」 「だからあのネオの寄生体はあの場に放置した。真選組にゃ止められねェのを承知の上でだ。どうなろうと構わねェ、止めてやる義理はねェ。むしろ野郎が潰されちまえばいいとな」 「ああ…そうなんだ」 『岡田』は高杉の持っていた装置でしか制止できなかった。 しかしやたら怒りまくっていた高杉は銀時に罵声を浴びせて帰っていった。 なにあれ。嫉妬だったわけ? こいつバカ? 「あー…考えたら腹立ってきた」 「腹立たしいのはこっちだ」 高杉は銀時の背中に腕を回して帯を解く。 「土方が潰れるどころか銀時、テメーが拉致られやがって。指咥えて奪られちまう真選組もアレだが捕まるテメーもテメーだ。もういっそ見捨てようかと思ったがよ」 シュ、シュと帯を引き抜き、まとめて放る。 「しがない寄生体がテメーに何するか分かりきっていたからな。テメーを助けられるのは俺だけ、そう考えたらもう一度テメーの気の抜けたツラぁ見たくなってなァ」 「それで…、んぁ、ッ…ヘリで信州まで助けにきたわけ?」 「動かしたのはほんの数名、ネオ紅桜回収は鬼兵隊の急務。寄生体ひとつを回収にあの動員なら私用で組織を振り回したことにはならねェ」 「はっ…ぁ、たかすぎっ、あの…、念のため聞くけど…」 腰紐をほどかれ、引き抜かれると銀時は唇を噛む。 「おれ、……オレの体って、そのォ…、」 「承知してるぜ?」 乗りかかったまま、銀時の上で高杉が笑う。 「薬で変わっちまったんだろ?」 「そ、それがですね、オメーの思ってるのと違うってーか…」 「安心しろ、分かってる。違うことなんざ無ぇよ」 帯をなくし緩みきった着物の襟を高杉が丁寧に掴む。 素肌の胸が高杉の目に露わになるのも時間の問題。 「なにを分かってるってんだよ、つか、あんまビックリされるとこっちもバツ悪いってーか…」 「この身体のどこに驚くとこがあるってんだ?」 白い打掛の襟をつかんで遠慮なく花嫁衣裳を襦袢ごと開かせる。 「!!」 銀時は観念して目を瞑る。 そういやここって明るいの?暗いの? 高杉の目に、どれだけ見えるんだろう…? ぽと、ぽと、と柔らかいものが襦袢の合間から落ちて転がる。 胸のふくらみを演出するための柔らかな詰め物。 身体の線をごまかすために丸めて細工した手拭い。 そして高杉の視界に晒されたのは、銀時の育ち盛りの頃そのままの柔軟でしっとりした少年らしい体つき。 のびきらない肢体に、それでも手応えのある筋肉がうっすらと乗り。 なめらかな肌は弾力があって、むしゃぶりつきたくなるほど肉感的な光沢をたたえ。 下半身は覆われていたが、その体型だけで一目瞭然。 女性ではありえない形と、堅い骨組みは、高杉の知っていた若い雄 ─── 在りし日の白夜叉の体躯そのものだった。
絶句している高杉の下から逃げようと銀時は、おもむろにもがき始める。 「ぜんぜんオンナじゃねーんだよ、花嫁のカッコして化けてただけで! 騙すつもりじゃねーッてか、騙される方が悪ぃだろ、どっからどう見てもオトコなんだからよ!」 もう胸を隠すしぐさもなしに足をあげて逃走を図る。 「俺も知らなかったんだよ、てっきりアレだと思ってたのに、俺が飲まされたのはオンナになる薬じゃなくて…、」 「若返りの妙薬だ」 高杉が言葉を掬う。 「なにをバタバタしてんだ? 委細存じあげてるって言ってんだろうが。俺りゃァ…」 銀時の腕を掴んで引き戻し、その乳白色の胸に手掌を当てる。 「この綺麗な身体に見惚れてただけだ」 「んぇ…!?」 銀時は動きを止めて高杉を窺う。 「驚いて声も出なかったんじゃねーの?」 「バカか。お前が昔の体形に戻っただけってのはパッと見で分かる。ヅラも承知してたぜ、お前が花嫁衣裳をかぶってるだけだってのはよォ」 「……マジでか。けっこうオンナになりきってたのに」 「オンナになりきってるヤツは野郎の首に股ひろげて絡みついたりしねェな」 「手が使えなかったんだよ。てか、なんなのアイツ!」 「藤達か?」 「違う、オマエの部下!」 銀時は本気で機嫌を悪くする。 「ムネとか足とかガチで触手入れてきたんだけどッ!まったく空気読まずにベロベロしやがってよォ!」 声が完全に怒っている。 「アイツといい花粉症野郎といい、テメーの部下ってどうなってんの? テメーの大ファン? 揃いも揃って俺が気に食わねーってか? ざけんな、テメーらごときが俺の恋路を邪魔できっかよ。ああいう野郎には身の程を教えてやらなきゃな、ああでも俺いま目が見えないから、ついうっかり手がすべって刃物が飛んでって偶然クビ落としちゃうかもしれねーわ」 「堪忍してくれ」 高杉が居心地悪そうに告げる。 「そりゃァ俺の咎(とが)だ」 「…は?」 「オメーの言うとおりなのさ。今日の出動に際して奴等に責められた。私用で兵を動かすつもりかとな。だから俺りゃ…こりゃ私情は挟んでねェ、ネオ紅桜を殲滅する鬼兵隊の仕事の一貫だと。奴等にはそう説明した」 「ふーん。そーなの」 「鬼兵隊の存在意義は腐った世を破砕すること。それ以外は兵を動かすことまかりならねェ、奴等はそう言った。ネオ紅桜寄生体を解除するだけなら俺抜きの数人で足りるとな。だが今日は藤達に仕置きしながら真選組を牽制するもってこいの舞台、それなりの人数が要る。俺も出る。そう言うと鼻で笑いやがった」 高杉はいまいましそうに言葉を続ける。 「俺の目的は寄生体でも藤達でも真選組でもない。ただ白夜叉を奪られたくない一心であろう、私情以外の何物でもなかろうとな」 「ぶぶっ!」 思わず吹き出す。 「分かってんじゃねーの!」 「だから俺りゃ突っ撥ねた。俺はただ鬼兵隊の仕事を淡々とこなすだけだ。銀時に気を取られたりしねェからそのつもりでやれと。そうしたら」 高杉は苦り切った声で告げる。 「俺に当てつけてきやがった。見えるようにお前の身体を弄って俺を挑発したのよ。取り繕ってねェで本心を見せろとな。俺りゃ堪えてたんだが…」 「つい、飛びこんできて本心を丸出しにしちまった?」 「……フッ」 楽しげに笑う。 「報復はしたぜ。少しは慌てたろうよ。俺がお前と消えちまうなんてェ行き当たりばったりな展開は予想もしてなかっただろうからな」 「え。あれアドリブだったの」 「まァな。本当は万斉がお前を抱えたまま過去へ吹き飛ばされるって方向で狂言を締める予定だった。その方が無理ねェだろ、俺が時間を行き来するより」 「そりゃそうだけど」 「源外のじいさんとも打ち合わせてあった。俺が『戦場(いくさば)の風』という言葉を使ったら電磁波を止めろとな」 「あ、そっか。俺連れてたら電磁波の檻を超えられないから」 銀時が気づく。 「なに? ジジイも仕掛け人として一枚噛んでるわけ? オイオイ、大丈夫かよ。バレたらジイさん真選組に捕まっちまわね?」 「その心配は無ぇな。今回、真選組には手を打ってある」 見廻組局長が。 近藤の望ましくない動きは封じ込めてくれるはず。 佐々木異三郎はよく動いてくれた。 高杉の注文に応えて真選組をサポートし、ネオ紅桜殲滅と銀時奪還を滞りなく遂げさせてくれた。 この密約は口外できない。 たとえ銀時が相手であっても。 「そういうわけで銀時。万斉がテメーにやったのは俺への嫌がらせだ。俺が頭下げてすまねェなら万斉を呼んで謝罪させる」 「今はいーわ、そのうちテメーでシメとくから」 銀時は小さく笑う。 「だいたいよォ、大将がじきじきに謝ってんなら話は終(しま)いだろーが」 「…すまねェ」 「ん。好きだぜ、たかすぎ…」 「ありがとよ、銀時…」 「…で」 銀時は高杉の下腹をなぞる。 「さっきから全然萎(しぼ)まねぇコイツは、俺がオトコだろーが、ガキだろーが、女装してよーが、どうでもいいわけ?」
続く
拍手ありがとうございます!
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* 高銀話です(連載中)
「あれ?」 くん、と匂いを嗅ぐ。 古びた木造の家屋と草木の瑞々しく澄んだ香が漂っている。 「ここってビシッと庭師が手入れしてそうな家があるとこじゃねーの?塀が高くて木しか見えない屋敷だろ。ここってお前ん家だったの!?」 「高杉の名は出てねェし、知らなかったろうな」 高杉が身をかがめて潜り戸を抜ける。 木戸が閉め立てられると外界から隔てられた閑静な世界に身を置く。 「人を寄せるための来客用だ。家の者は住んでねェ」 敷石を踏んで玄関に入る。 「親父が面倒くせェ男でな。金や人脈を握ってるせいか幕府は手が出せねェ。おかげで実家は治外法権、いると解ってても踏み込んじゃこられねーのさ」 「わかった! オメーらここに潜伏してんだろ?」 「アァ?」 「オメーの兵隊だよ。ここをアジトにしてるから捕まらないんじゃないの?」 「鬼兵隊は俺の配下だ。こんなとこ使うわけあるめェよ」 「なんでだよ」 「俺がやってるのは高杉家とは一切関わりのねェことだ。家に寄りかかるような真似はしちゃいねェ。俺が死のうが親父は知ったこっちゃねぇってな」 「そんなわけあるかよ」 「そうじゃなきゃ困るのさ。まあ近年、封建制度の解体が進んで家が取り潰されることもねーからな。家長の監督責任なんてのを問われる時代じゃなくなった。おかげで好き勝手できらァ」 玄関から数段あがり、廊下と思しき通路を進む。 ひんやりとした空気に清涼な香が漂う。 「どうせ実家にしこたま迷惑かけてんだろ。勝手に屋敷、あがりこんじゃっていいの?」 板張りの廊下が微かに鳴る。 「お前、勘当とかされてねーのかよ?」 「放蕩息子ってのは溺愛されるモンらしい」 慣れた様子で奥へ向かう。 「使う旨は伝えてある。常駐の連中も承知している。食いたいモンあったら言いな。適当に調達してくるぜ」 「え、お前が?」 「俺じゃねェ。ここを任された従僕が適当に揃えらァ」 「じゅ、じゅうぼく、?」 「下働きを呼んだらしいからな」 「ええと、それは…お手伝いさん、みたいな?」 「『手伝い』? ああ、まあ召使いだな」 「あの…俺、こんなとこに入り込んでいいわけ?」 銀時は急に気後れする。 「お前んち凄ぇよね、格式とか高そうだし、バレたら叩き出されそうじゃね?」 「銀時。テメェに言っとくぜ」 高杉は銀時を覗きこむ。 「テメェは俺の伴侶だ。本来ならこんな離れじゃなく本家に匿うのがスジだ。だが煩ぇ連中がいちいち挨拶に来たら邪魔だろう。ゆっくり朝寝もできやしねェ。そう考えて人の居ねェところにした。お前が望むなら今すぐでも一門に引きあわせてやらァ」 「いや。結構です」 素で答える。 「俺みたいなのがお前んちに受け入れられるわけないもん」 「なんでだ」 「どこの馬の骨とも分からねーだろ。釣り合いが取れねーんだよ、家柄とかなんとか、格が違うの」 「なんだそんなことか」 高杉は面白がって笑う。 「古臭ぇな、銀時ィ。この天人の宙船が飛び交うご時世に、時代錯誤もいいとこだぜ」 「ふざけんな。目がらビーム出るほど見られてコソコソ陰口叩かれんのは俺なんだよ」 「かもなァ。やっかむ野郎は手に負えねェからよ」 「すり替えんな。やっかむヤツなんかいねーよ。むしろお前を説得しに来るね」 「強奪しに来るの間違いだろ。好みが似ているヤツは多い。油断してると口説かれるぜ?」 「こんな素性の分かんない貧乏人なんか誰も口説ねーよ!」 「貧乏人?」 高杉が眉をひそめる。 「解ってねーなァ。テメェはその存在自体が価値ある宝なんだよ。強いて例えりゃ勝ち馬みてェなモンだ、テメェに乗った者が勝つ」 「なにそれ」 「財だの素性だのより、そいつの持っている人間としての引力が重要なのさ。お前は良い運気をありったけその身に引き寄せる。事業をする者、人の上に立とうとする者にゃ涎が出るほど欲しい宝珠だよ」 「適当なこと言うんじゃねーよ。負けたからね、敗戦しただろ? 俺がいたって関係ねぇんだ、俺がついた方が勝つってんなら将棋の対局とかに呼んでもらって大金稼ぐつーの。っとに、人の傷えぐるんじゃねーよ」 「戦(いくさ)は条件が悪すぎたろ」 高杉は静かに言う。 「だったら欠けていた条件をひとつずつ満たしていけばいい。次は幕府抜きで天人と喧嘩だ。二度と遅れは取らねーよ」 横抱きのまま、ぶつからないよう向きを変えられる。 襖をくぐる気配、畳を踏む音。 客間らしき座敷に入ったのが分かる。 「なぁ…親父サン、オメーのこと心配してんじゃねーの?」 「そんなタマじゃねーな」 「攘夷やめたら?」 「そんな大層なものはしちゃいねェ」 高杉はサラッと告げる。 「この腐った世の中、壊してやりてェだけだ」 「壊されると困んだけど」 「テメーには解らねェかもしれねーな。安穏とした暮らしに浸かった身には、この国の危うさはよォ」 「俺にはお前が危うく見えるよ」 高杉の首に縋る。 「一人でトンがったって時代は動かねェ。国は変わらねェ。それはあの戦争で解ったじゃねーか。あのやり方じゃ欲しいものに手は届かねェ。武力でぶつかって殺して力づくで…ってのは、いまどき流行らねーだろ」 「表向きはな。時代が動くにはそれなりに手を汚さなきゃならねぇ役回りの人間が要るもんだ」 「それお前じゃなくたっていーだろ」 「俺ほどの適役は居ねェのさ」 「死んじまったらどうすんだよ、ったく」 「そんときゃ、オメーの懐ん中に抱かれて逝きてェな」 「なにその弱気」 銀時は唇を尖らせる。 「死ぬ予定なんか考えてんじゃねーよ。俺、その場に居ないからね。自分で生きて還って来ねーと抱いてやんないから」 「じゃあよォ、銀時」 柔らかいものの上に降ろされる。 「意識が飛んでも戻ってこれるように、この身体にテメェのぬくもり覚えこませちゃくれねーか」 客間の奥の寝室。 伸べられた布団の上に。 「この手が、肉体が、お前の肌身を探り当てられるように」 降ろされた姿勢から、ゆっくり高杉の身体で押されて背が布団につくよう倒されていく。 「猛り狂う血肉の行き着く先を、この熱をお前の中に埋めてひとつになる高揚を…魂が溶けるまで教えてくれ」 「知ってんだろ」 銀時は俯いて顔を伏せる。 「さんざヤッたんだから」 「昔の話だ」 前髪ごしに額に口づける。 「それに、あんときゃテメー相手に一人で暴れてただけだ。ちっともヨクなかったろ?」 「い、いやあの、いいとか悪いとか…、べつにそーゆうカンジじゃねぇし、」 「じゃあどーいうカンジだ」 「そ、そりゃその…、オ、オメーが…す…すきでたまんなかったから!」 「銀時」 「んぇ…?」 「お前は可愛い野郎だなァ。こんなにテメーが愛おしいなんざ知らなかったぜ」 「そ…、そう?」 「すきだぜ、銀時…」 「ん。俺も」 「この格好も悪くねェな」 襟元に指を入れて首すじを辿る。 「花嫁衣裳か。いったい誰に嫁ぐつもりだったんだ?」 「だ、だから嫁がねーよ!」 高杉の指が肌に触れる。 着物を脱がされる覚悟はしている。 なのに、高杉の手で肌を暴かれると思うと気恥ずかしくて。 力を抜いて横たわっていないと突き飛ばしてしまいそうだ。 「似合ってるぜ。白装束は久しぶりじゃねェか」 「うぐ、…さっさとやれって」 「しかも10歳は若返ってやがる。戦場で馳せていた白夜叉の面影があらァ」 「知らねーよ、中身は今の俺のままだから…、若い頃のバカで唐突で無鉄砲なところとかないから!」 「それでも身体は10代の頃に戻ってるよ。肌はまぶしいほど透けて、身体は華奢で柔らけぇ。背も縮んで花嫁衣裳を着るにはもってこいだ」 「は、…ぁっ、」 「すさまじい血飛沫の世界でしか見られねェ武神を。この白夜叉の生き姿を、なにも知らねェ呑気な連中が見たかと思うと業腹だぜ」 「やっ…」 「そこへもってきてこの化粧はよォ」 唇で頬からまぶたをなぞる。 「目が呪術にかかちまったのかってくらい吸い寄せられる」 「…んっ」 「見まいと思っても抵抗できねェ。テメェは化粧すると、どんな美貌の持ち主かハッキリ際立つなァ、銀時ィ」 「み、…見んな、こんなの…!」 「なんでだ? 見ない手はあるめーよ。こんな綺麗な花嫁をよォ」 「テ、テメ、俺をおちょくってんだろォ!」 「まさか。俺りゃそんな命知らずじゃねェ」 「だったら…!」 「俺に嫁げ」 銀時の背を掬って抱き締める。 「生涯、俺の半身として共に生きる誓いを立てろ。そのための真っ白な装束だ。オメーは俺が娶る」 「え……ええ!? んー、あー、…ええーと…、………うん」 身体に食いこんでくる高杉の思い。 痛いほどのそれに銀時は応えて腕を回す。 「いいぜ、高杉。お前とケッコンする。添い遂げてやるよ」 「その答え以外、俺りゃ聞かねェとこだった」 「婚姻届は心ん中で提出な。俺、この時代に居ない人だし」 「そんな紙切れ一枚、問題じゃねェ。大切なのはテメェの心だ」 抱擁に力が籠もる。 高杉の身体が燃えるように熱くなっていく。 「テメェは俺のもんだ。俺はそのテメェの魂と結びつきてェんだ…!」 「もう結びついてるっての」 銀時は、はふ、と息を逃がす。 「俺はお前のもんで、お前は俺のもんだろ?」 「……その言葉、忘れんな?」
続く
半端なところで終わってしまった。
いや、書けばいいんですけどね、好きに。
まーもう高杉と銀時の世界だからダイジョーブね、楽勝楽勝。
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* 高銀話です(連載中)
「気になる情報?」 土方は言葉を拾う。 「なんだそりゃ」 「なァに、たいしたことじゃありません」 佐々木は表情も変えずに言う。 「白夜叉を逃したそうですね。鬼兵隊の高杉によって過去へ連れ去られたとか」 「……ッ、」 「報告は逐次、部下から送信されているものでね。連れ戻す手段もないとのことですが、この不始末。どう責任を取るおつもりです?」 手には携帯があり、視線はその画面を追っている。 「本日、挙式に参列される幕府の招待客は、力を封じられた白夜叉が精神的に真選組隊士に手篭めにされる儀式の場をサディスティックに楽しむつもりだったのですよ。逃したのであれば挙式は中止。真選組の立場が危うくなることは必至ですが」 つかみどころのない目つきで土方を見る。 「なんのために幕府が坂田銀時を婚姻相手として絶対に離すなと厳命したか、ご理解いただけてなかったのでしょうか?」 解っていないはずがない。 配偶者候補として銀時を申請したときの幕府の反応。 高杉と密会している白夜叉を、どのように引っ張ってきて詮議しようか、見廻組が検討していた矢先だった。 幕府は真選組に幽閉となる白夜叉の悲運を面白がって見廻組の捜査を打ち切らせたのだ。 いわば見廻組は獲物を横取りされたも同然で。 銀時が縁組みを拒んで真選組を飛び出せば、その場で見廻組は銀時の逮捕劇に全力を注ぐだろうことも見えていて。 なのに挙式当日、土方は銀時を自分の手で逃してしまった。 佐々木にしてみれば突っ込みどころ満載に違いない。 「フッ…」 土方はふてぶてしく佐々木を見る。 「なにか問題でもありますか?」 もともと決めていたのだ。 辻斬り事件が解決したら、折を見て銀時の望むところへ返そうと。 上がなにを言ってきても『離婚した』と突っぱねるつもりだった。 「白夜叉はこの世から消えたんですよ。しかも自らの希望で。幕府は英雄殺しの恨みを買うことなく要注意人物を始末することができた。おあつらえ向きじゃないですか」 銀時、お前は俺が逃がしてやる。 だからその間、お前と婚姻を交わす狂言を愉しませてくれ。 本人にはついぞ言わなかったが、自分は終始その腹だった。 「これで白夜叉が攘夷浪士どもに担がれる危険はゼロに等しくなりました。へたに真選組で抱え込むより過去へ行ってもらった方が反逆者たちとの接触が困難になり、我々の当初の目的に適う。そう判断したから行かせたんですよ」 口の端で笑う。 「嘘か誠か、時間を超えるなどと豪語していましたが。屯所周囲に万物を遮断する檻を仕掛けていたにも関わらず姿が見当たらないということは本当に過去へ行ったのでしょう。このまま高杉もなんらかのトラブルに巻きこまれて消えてくれれば一石二鳥というわけです」 「詭弁を弄しますね」 佐々木が平坦に見下ろす。 「たしかにその論でいけば貴方は忠実に任務を果たしたと言えます。しかし列席者は支度をされこちらへ向かっている。今から中止を告げるのは非礼に過ぎますよ。祝言を予定通り執り行えなかった真選組の問責は免れません」 「あれぇ、いつのまに中止って話になったんですか!」 近藤が進み出る。 「挙式は予定通り、これから執り行うつもりでおるんですが」 「おや。そうでしたか」 佐々木は近藤に向き直る。 捕獲剤の付着した着物をジロジロ見る。 ようやく地面から解放されたばかりの近藤は白い粘着片をこびりつかせていた。 「他に式を挙げるカップルがいらっしゃったとは知りませんでした。白夜叉以外、眼中になかったものですから」 わざとらしく首を傾げる。 「しかし、それで幕府の重鎮方が満足されますかな。我が見廻組としても警備の一端を担った手前、彼らの不興を買うような真似は歓迎しません。近藤さん、貴方が見廻組所有の最新銃を借りたいとおっしゃったから馳せ参じたんですよ。まさかこのような結末になろうとは」 「これは異なことを」 近藤は正面から佐々木を見る。 「俺の覚えてる限り、白夜叉の嫁入りを見届けるために屯所に隊士を配置したいとおっしゃったのは佐々木殿の方でしたな。屯所への立ち入りを渋る俺に、最新兵器の貸し出しを持ちかけて是非にと言われた。こちらから出動をお願いした事実はなかったように思いますね」 「そうでしたっけ?」 佐々木は肩を竦める。 「まあどちらでも良いでしょう。結果は同じことです。ですが白夜叉が絡まないのであれば我々がここに居残る旨味はない。エリート一同、機材ともども引き上げさせていただきますよ」 「引き止める理由はありません」 近藤が堂々と渡り合う。
「幕府の方々の警備は俺たちだけで十分です。なんだかんだ言って白夜叉がいなければ攘夷浪士の襲撃は半減するでしょうからな。佐々木殿も、白夜叉の逮捕は断念していただきたい」 佐々木はクルリと背を向ける。 「白夜叉が坂田銀時であると特定したときは胸が踊りましたが。もうどこにも存在しない人間です。伝説の英雄は過去へ還ってしまった。浪士どもの『巨大な餌(え)』とする計画は諦めます。エリートは暇じゃありませんから」
「銀ちゃんがどこにも存在しないってどういうことアルカ」 神楽は、ようやくカチコチの地面から外れてタタッと駆け出す。 「ヤバ男と一緒に結婚式から逃げただけで、すぐ帰ってこれるんでショ?」 「神楽ちゃん…」 新八は神楽に覗きこまれて座ったまま半笑いに見上げる。 「銀さんはね、過去へ旅立ったんだよ。もう僕ら…一生、銀さんに会えないんだ…!」 「そんなのイヤヨ」 神楽の頬がプッと膨れる。 「だったら銀ちゃんを行かせなかったアル。新八ィ、なに泣いてるネ。オマエ本当に銀ちゃんがワタシたち置いて過去に行っちゃったと思ってるカ?そんなんだからオマエは新八アル。銀ちゃんに関しても修行が足りないんだヨ!」 「そう…かな?」 新八は目を逸らす。 「そう、だと良いんだけど…な」 神楽の銀時への無邪気な信頼に一層、胸を締めつけられる。 なにを言っても、口を開けば繰り言しか吐けなさそうな新八は懸命に涙を堪える。 自分がしたことは正しかったのか。 もっと違うやり方があったのではないか。 「新ちゃん」 妙がゆっくり近づいていく。 「その真選組の制服、似合ってるわ。私は心配ばかりしていたけど。新ちゃんは、よく頑張ったのね」 「姉上…」 「私は新ちゃんの成長が嬉しい。きっと銀さんもそう思ってるんじゃないかしら?」 新八と並び立って妙はにっこり笑う。 「驚くことはないでしょう。銀さんはもともとチャランポランで軽率でいい加減な人よ。とくにあの銀時ちゃんは好きになった相手には股もゆるそうだったし」 「なんてこと言うんですか姉上ェェェ!」 「過去だろうと未来だろうと、ためらいもなく行くでしょうね。でもね」 まなざしを新八に向ける。 「新ちゃんや神楽ちゃん、自分の大切な人たちを悲しませるような人ではないわ。もし二度と会えないんだとしても、銀さんは貴方たちに笑ってもらえる自信があるんだと思うの」 「……本当に? それは…そ、そうかもしれませんけど、でも…」 「だから新ちゃんは銀さんにいつどこから見られてもいいように笑ってなさい。それが侍に対する侍の礼儀ですよ」 「は、はい。……はい、姉上…!」 新八は涙を飲み込む。 頭では解っていても、もう二度と銀時に会えない悲しさは消せない。 それでも笑うのが侍ならば。 笑って前を向こう。 「連絡入れなくてごめんなさい。これから気をつけます」 銀時の幸せをこんなにも純粋に願ったことがあるだろうか。 いさぎよく新八は空を仰いで立ち上がる。
「皆さま、ごらんになりましたでしょうか」 花野アナが人もまばらになった庭で中継を続けている。 「花嫁である坂田銀時さんは目の前で消えてしまいました。これは御自分の意志で過去へ遡っていった、つまり行方不明ということになるでしょうか。花婿である副長さんのお気持ちはいかばかりでしょう。こんな状況ですが、少しお話をうかがってみたいと思います」 「どうでもいいですが、アンタ」 土方へ近づこうとする撮影クルーの前を沖田が遮る。 「屯所から実況電波なんか飛ばせると思ってんですかィ」 「え…?」 「かりにも幕府の機密機関ですぜ。有線で中継車へ流してるならともかく、局の車両も来てねぇし、見たとこコードは繋がってねーな」 沖田も捕獲剤の名残を身体中に纏っている。 「アンタらが屯所内の撮影映像を無線で中継してるつもりなら、それぜんぶ撹乱されてどこにも届いちゃいませんぜ」 「え…ェェエーッ!?」
「外からの電波もキャッチして吟味してから通しまさァ。ここは見た目よりハイテクなんで。幕府のエリートの通信を妨害するなんてマネはできやせんが。民間のテレビ局の中継電波なんざ通しやせん。さっき近藤さんの許可をもらって屯所の門を入ったところからアンタたちの中継はとっくに途絶えてら」 「向こうも連絡のつけようがなかったろーな。電波は遮断されてるし、道は検問で塞がれてるし。生中継でまったく繋がらなくて視聴者にどんな言い訳したのか興味あるぜィ」 「う、ウソ! えっ…どーしよう!?」 「カメラに記憶媒体仕込んであるなら映像は残ってるだろ。それ消すまでの技術は今んところないんで。確かめたらどうですかィ?」 「メモリー運ぼう!」 スタッフの一人が提案する。 「検問の外まで走ってけば渡せるはずだ、事情を説明して、これまでの映像を編集して流してもらえば、」 「こっちはどうする!?」 「とりあえず結婚式の絵がいる、花野ちゃんとカメラ、音声は残って。ライブは無理だから編集しやすいカットで撮って!」 「大目玉ですね、不味いでしょ」 「あとで花嫁のドキュメントで流せば数字取れるよ、こんだけ茶の間の興味煽ってんだ、おつりが来る。ここは俺たちは副長さん撮っとこう!」 アシスタントディレクターが土方を指す。 土方はなにも耳に入らない様子で佇んでいる。 「あの…いまのお気持ちはいかがですか?」 花野アナがマイクを向ける。 「花嫁の坂田さんは時間の向こうへ行ってしまわれたわけですが」 「………放っといてくれねぇか」 土方は沈痛な面持ちで煙草を取り出し、咥えて火をつける。 「なにも話すことはねぇ」
「平賀源外は?」 「無事、送り出しました」 山崎が近藤に耳打ちする。 「電磁波装置は危険だからって取り外していきましたよ。置いていくから自由に使ってくれって」 「そうか、タダで強力な装置が手に入ったな!」 「言っときますけど、あんなの俺らが再装着させるの無理ですよ。カラクリ技師じゃなきゃ手に負えませんし、タダはタダでもタダのゴミですから」 「え~、ウチにもカラクリ得意なヤツいるだろ。そいつらに頼もうよォ」 「マニュアルもないし装置に印がついてるわけでもない。ぜんぶ源外さんの頭の中なんです。ゴミにしたくなけりゃ、使いたいとき源外さんを連れてくるしかありませんね」 「うーむ…」
後ろから桂が声を掛ける。 捕縛剤から剥がされ、手錠をかけられた姿で隊士たちに両側から引き立てられている。 「俺になにを吐かせようというのだ。見てのとおり、今日のことに関して俺はお前たちと同じものを見ていた。高杉の動向も知らん。情報を取ろうとしても無駄だぞ」 「お前から尋問で役に立つ情報を引っ張れるとは思ってねぇさ」 近藤が桂を見て表情を和らげる。 「もっと違うことに役立ってもらおう」 「囮か。無駄だ。捕虜は見捨てるのが俺たちの掟。俺を気にかける者などおらん」 「それはどうかな。…山崎!」 「はい、局長」 「桂を連れていけ。念入りにやるんだぞ!」 「わかりました」 山崎は引きつり気味に敬礼し、気の毒そうに桂を見る。 桂は訝しげに見つめ返す。
助けだされた長谷川は下着姿になり一張羅を枝に掛けて乾かしている。 「結局さ、政略結婚の前に銀さんが噂になってた意中の彼氏ってのが、あの鬼兵隊の人だったわけだよね?」 「よもやそんな噂があったとは!」 神山がグリグリ眼鏡を長谷川に向ける。 「人の口に戸は立てられぬというのは本当ですな!」 「まあ高杉も過去へは同行しないみたいだけどね。あんだけの別嬪をよく手放せるよね。さぞ不自由してないんだろうけどさ、ちょっと生意気っていうか? 俺なら銀さんを離さないけどな」 「しょせん高杉は幕府に楯突く犯罪者。なにを考えているか計り知れない、攘夷浪士はただ憎み検挙するべし! それに付いていった白夜叉も同罪!」 神山は言葉を切って考えこむ。 「しかし、あの高杉と白夜叉の関係は。互いを信頼し、求め合う姿は、自分と沖田隊長の結びつきを見ているようで! 敵でなくば喝采を送りたいところでありました!」 「あんなハクいんだもんな、反則だよな。中身は銀さんなんだからさ、お願いすれば一回くらいヤラせてもらえたんじゃないかなァ」 「自分もいつか、一回くらい沖田隊長と! 絆を確かめあうように互いの身体にガッツリと!」 「なに大声で縁起でもねェこと口走ってんでぃ」 「はぶぶっ!」 「さっき狙いを外した罰だ。一番隊の使ったバズーカ、ぜんぶ手入れして磨きあげときなァ」 「ババ、バズーカををっ!?」 はたかれた頭を神山は最敬礼で沖田に下げる。 「おまかせください隊長! 隊長のバズーカは、特に入念に、わたくしが責任をもって注意深く、優しく、それでいて大胆な指使いで…!」 「そんな責任感はいらねェからバズーカに詰まって打ち上げられちまえ。今日、一番隊は屯所の上の制空権を握っておく必要があった。その理由が解らねぇからテメーはヘリひとつ落とせねェんでぃ」 沖田は言い置いて立ち去る。 「午後は本番だ。うるさいハエを近寄らせんな。今度外したらテメーをヘリに括りつけて標的にするぜ」 「イ…イエッサー!!」 涙目で敬礼する神山。 見ていた長谷川は複雑な顔で言葉を失う。
「なんだ。銀時」 「さっきから平らなところを走ったり曲がったりしてんだけど」 銀時は高杉の首にすがったまま抱きかかえられて運ばれている。 「これ、どう考えても現在の江戸の町ん中だよね!?過去ってのは町ん中走ってると着くわけ!?」 「気にするな」 高杉は可笑しそうに応える。 「そのうち着くからよ」 「気にするわぁ!どうやって着くんだよ!?」 銀時が叫ぶ。 「あそこでバーンてなったと思ったら、お前ものすごい勢いで俺抱えて走り出すんだもの、俺たちいつ時間を超えましたかァ!?そして車の音や商店街のスピーカーが聞こえてくるここは何時代ですかァ!」 「そんな簡単に時間を逆行できるわけねェだろ」 見下ろして高杉が笑う。 「まさか信じて俺に付いてきたってのかよ? ククッ…可愛いじゃねェか、銀時ぃ。テメェのそういう一途なとこ、嫌いじゃないぜ?」 「やっぱりフェイクかよ」 銀時が口を尖らせる。 「時間を超えるとかじゃなくて、ただデカい音と目眩ましであそこから脱出したってわけか。お前、いつからイリュージョンやるようになったの。いや解ってたよ、解ってたからね、時間なんか戻ることはできないって!」 「過去に行けるなら地球に降りた最初の天人から順に叩っ斬ってやらァ」 高杉が覗きこむ。 「どれ、見せてみろ。仲間と今生の別れのつもりで俺に付いてきたテメェのツラぁ」 「んぎゃあぁ、見るな!」 銀時は顔を隠すべく、もっと強く高杉にしがみつく。 「だから解ってたって言ってんだろ、テメェのハッタリかもしれねーし、本当に過去に行くかもしれねーから五分五分だって!」 「なら半分は奴等を捨てて行くくれェの覚悟をしたんだな?」 高杉の冷やかしは止まらない。 「そして俺とも別れる心づもりでいた。ずいぶん悲壮な決意をしたもんだぜ」 「う…うるせーつうの!その気にさせたのオメーじゃねぇか!」 銀時は白い頬を紅潮させる。 「まあ、ありえねーと思ってたよ! お前みてぇに一度気に入ったら魂の果てまで寄り添わねぇと気がすまない野郎が、俺だけ過去に送りつけて自分はもとの時代に帰るなんてよ」 「訂正しろ。気に入ったくらいでそこまでならねェ」 高杉はムッとして物言いをつける。 「惚れこんだ相手だ。俺が魂のすべてを捧げるのはお前くらいのもんだ。誰にでも執着するわけじゃねェよ」 「んな…、なにさりげなく恥ずかしいこと言ってんだよ、本人の前で」 「何度でも言ってやらァ。テメェは俺の最愛の人間だ」 「あ、…そ、それはどうも…」 銀時はモゴモゴする。 「俺も…俺もね、お前のこと…」 「…」 「い、いやその。察してください」 銀時は赤くなった頬を高杉の襟に押しつける。 「なにもかも振り切って、お前の判断に身ひとつで付いてきたってのが何よりの証拠だろ!」 「…そうだな」 高杉は満更でもなさそうに口の端をあげる。 「愛してるぜ、銀時」 「たかすぎ…」 「俺はお前を愛してる」 「ん…、俺も」 言葉をためらう銀時が、つられたように愛を口にする。 「お前を愛してる。高杉ぃ…」 「テメェが好きだ。もう離さねェ」 「マジかよ…信じちまうよ?」 「真実ほど信じにくいもんだ」 「信じて、やっぱり違ってたら…俺、死ぬ」 「そうしろ」 「そんときは、お前も殺す」 「望むところだ」 「テメー、抵抗すんなよ? お前に手向かわれると面倒だからな」 「しねェよ。この首、お前にやらァ」 「やだ。首だけじゃ動かねェ。身体ごとがいい。生きて動いて話せねェなら意味ねぇもの」 「首が却下なら生きたままテメーと居るしかあるめェよ」 「うん、そうしとけ」 高杉に顔を押しつけ、秘かに微笑む。 「んで…ここ、どこなの? どこあたりだか、さっぱり解らねーんだけど」 「薬のせいか? その身体になったせいで勘が鈍ったか、銀時ィ」 高杉の足が速度を落とす。 「まだ真選組の検問ラインの内側だぜ。ここに実家の別宅がある。身を隠すなら敵の近く、ってな」 「屯所の近く?」 銀時は少しの間、考える。 「じゃあ、あのう…俺を過去に捨ててかないってことは…オメーは、これからどうすんの?」 「しばらく潜伏してお前と二人で過ごす」 抱き締める腕が熱い。 「それには普段使わねぇ屋敷にもぐりこむのが至当だ。敵も味方も誰の邪魔も入らねェ。しばらくここは俺とお前の城だ」
そういえば60話あたりの賊の人数を間違えてました。 また来週、読んでいただけると嬉しいです。
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* 高銀話です(連載中) 武市が嘆く。 「坂田さんを誘って私たちだけでネオ紅桜を誘き寄せ、回収する。そうすれば高杉さんが過去へ行くなんて言い出すこともなかったのに。これで鬼兵隊は主を失うことになりますね」 「晋助さまが行くなら私も付いていくッス。そこが過去だろうが宇宙だろうが同じことッスよ」 また子が声を張る。 「白夜叉ァ、それは晋助さま流のプロポーズっス! 晋助さまがそういうおつもりなら私たちはアンタを晋助さまの一部として鬼兵隊に迎えるッスよ! 心置きなく受けると良いッス!」
銀時は無表情に言い返す。 「だって送り届けるとか言ってるもん。これ俺だけ過去に持ってかれるんだよね? 高杉はこの時代で普通に生きてくんだよね?」
また子が呆れたように腰に手を当てる。 「さっき晋助さまがアホほど愛を告げていたの、もう忘れちゃったんスか? あんだけ盛り上がっといてアンタと離れるわけないッス!」
「そうッスよねぇ」 「この時代でやらなきゃならねーことがある。鬼兵隊を残していくワケにはいかなくてね」 「そうそう、鬼兵隊を…え? し、晋助さま!?」 「悪いが付いてってやることはできねェ。銀時、お前とはこれで永劫の別れだ」 高杉の隻眼が苦し気に眇められる。 「もともとオメーは過去にしか生きられない攘夷の申し子だ。この場違いな時代に存在すりゃ血を流して傷つくだけ傷つくだろう。前ならともかく今は身を護る術もねェ。俺は、そんなお前を見ちゃいられねェ」 「……ウン」 銀時が諦めたように笑う。 「わかってたよ。俺とお前じゃ感覚が違うって」 「…」 「戦争でどんなに力を尽くしても失ったものを取り戻す役には立たねーって悟っちまったし。お前がその感覚を共有できないのも無理ないしな」 「銀時ィ…」 「お前が山小屋に現れたのは『ネオ紅桜』の回収のためだし、川辺で会ったのだって鬼兵隊のヤツラを無駄死にさせないため。それでいいし。不満に思うこともねェ。でも俺はオメーにだけは操を立ててたんだよ。オメーにだけは他の誰かと懇(ねんご)ろになったと思われたくなかったんだ」 笑みを浮かべたまま銀時は宙空へ顔を向ける。 「あんときだって俺は。先生がいて高杉がいて…な日常を取り戻せればそれで良かった」 「……」 「オメーがあそこへ帰してくれるってんなら、それも良いかもな」
新八がたまらず声をあげる。 「僕は銀さんに高杉さんと気兼ねなく付き合ってもらえる日が来ると思ってたんです、なのに銀さんだけ過去へ行くんですかッ?なんなんですかそれ、アンタら別れる気ですかッ!」 声が震える。 「ていうかアンタ、僕たち置いて過去へ行っちゃうつもりなんですかッ!?」
神楽が力強く言う。 「目の見えない銀ちゃんはワタシが守るネ!」
沖田が挟む。 「きっと旦那は大丈夫だろ。むこうで昔の高杉とくっついて、たくさん子供こさえて、その子孫がこの時代にワサワサ居るってことになりまさァ」
桂が真顔で言う。 「銀時、考え直せ! お前なら俺が護るし嫁にももらうぞ! 高杉の甘言に惑わされるな!」
銀時が桂の方へ怒鳴る。 「もーいい、ゼッタイ過去行くッ! テメーともこれっきりな!」
近藤が溶解剤を掛けられながら言う。 「そんなことしたら巡り巡ってもっと面倒くさい事にぶつかるんだぞ!お前はトシと結婚して真選組に紛れこむのが一番良いんだって!」
妙が胸のあたりで両手を握る。 「一緒にいてくれる人が一番じゃないの。どう考えても銀時ちゃんの婿には新ちゃんが適任よ。皆で『花嫁に簡単エクササイズ入門!初心者を募集!恒道館ブライダル護身術』を広めましょう?」
狂死郎は引きつり笑いで妙のカメラ目線を窺っている。
気を取り直して狂死郎が告げる。 「アナタが決めたことなら反対はしません。二人の間のことは二人にしか分かりませんし、第三者を気にする必要はないでしょう」 くすっと笑う。 「アナタの愛の作法…そんな格好をしてまで守ろうとしたものは確かに見届けました。あの男なら仕方ありません。これでお別れでしょうが、どうか祝福させてください」
長塀の外で山崎が耳に当てたインカムを押さえて内部の様子に聞き入っている。 「行っちゃうんですか…」 見えない電磁波の檻が阻んで塀に登ることもできず、手近に屯所内を覗けるような高台もない。 山崎の横で源外が一緒にインカムに耳を近づけて聞いている。
隈無清蔵が呟く。 「まあ、そんなことをしたら歴史に影響を残しそうですが」 「ううう…」 神山は項垂れている。 そうしながら岩場の上の高杉を睨もうと、努めて顔をあげて見上げている。 隊士たちは爆牙党の者たちに縄を打ち、溶解剤を運び込み、負傷者の手当をしながら様子を見守っている。 池には変身を解かれた男たちに混じって長谷川が仰向けに浮いている。 ホストやキャバ嬢も小さくざわめきながら、どうなることかと見入っている。
「こちら、花野です」 ひそひそと実況を再開する。 「結婚式直前、屯所の写真撮影会場では大変なことが起きています」 小さな声でも十分聞こえるほど、あたりは静まっている。 「花嫁の坂田銀時さんはかつて攘夷戦争に参加しており、現在でも攘夷活動に多大な影響を与えるということで、かよわい女性の身になった今、この坂田さんを比較的安全な過去へ送り返そうという流れになっています、ライブ中継でお伝えしています!」
土方が、声を絞り出す。 「行っちまったらお前のまま、この魂のまま帰ってこれる保証はあんのか?」 「土方くん」 「俺はお前を失っちまう! 坂田銀時を失っちまう…!」 「あー…大丈夫だって。たぶん。最後まで無事だったとこに居りゃ危なくねーし、それが大体どのへんだか戦争の終わりまで一回経験してるから判ってるしな」 「二度目は違うかもしれねーだろ」 土方は銀時を抱き締める。 「お前はどうなるんだ?この時代の、ここにいるお前は?ほとぼりが冷めたら、また戻ってこれんのか?」 「そんなの俺が知りてー…」 「戻ってはこられねェ」 高杉が告げる。 「人が時間を超えるのは一度きりだ。銀時はあの時代で死ぬまで生をまっとうするのさ」 「じゃあ、この、目の前の銀時は…」 「消えるんだよ」 高杉が吐き捨てる。 「幕府の玩具みてーに女にされた白夜叉は、二度とテメーらの見世物にはさせねェ。過去の俺と俺の仲間たちがコイツの生きたいように自由にさせる」 「だったら俺も行かせろッ」 高杉を睨みあげる。 「銀時が過去へ行くってんなら、その運命を変えられねぇってんなら俺も行く。俺はコイツを離さねぇ」 「無理な注文だな」 高杉が鼻を鳴らす。 「この装置は容量が限られている。俺と銀時以上の人数は運べねェ」
銀時がうつむいて笑う。 「俺、この世界から消えちまうんだなァ…」
土方が腕を掴む。 「一言、イヤだって言いやがれ。そしたら高杉なんかに渡さねぇ!」 「…でもなァ」 「過去に行ってなにか良いことあんのか?こことどう違うんだよ!?オメーに得なことなんか何もねぇ、ガキどもや、お前を大切に思ってるヤツラを置き去りにするだけじゃねぇか!」 「俺、オンナになっちゃったしィ」 銀時が自分の帯に手を置く。 「こんな目じゃ、ろくに俺の剣は届かねー。護るどころか大切な奴等を危険に晒すだけだ。厄介な連中、銀河系最大の犯罪シンジケート?とかに恨みも買っちまってる。高杉はそれを知ってるから過去に逃げ場を用意したんだろ」 「う、」 宇宙海賊、春雨。 先だっての攘夷派内部抗争の折、春雨の戦艦が江戸上空に飛来したのは周知のこと。 銀時は春雨ともコトを構えているのか。 春雨を相手取るとなると真選組全員の命を並べても足りない。
銀時が言う。 「でもよ、あいつらやお前らが酷い目に遭うのは我慢できねーよ。俺が原因なのに、俺が何もできないなんて生き地獄はカンベンしてくれや」 「ぎ、銀時…!」 「ありがとうな、土方くん。オメーには感謝してんだ、俺なりに」 手をあげて土方の在り処を探す。 「あいつらのこと頼んだぜ。俺がいなきゃ春雨に襲われることもねーと思うけどよ、あいつら無茶すっから」 「ダメだ、…めろ、」 「これでお別れな。行かせてくれんだろ?」 銀時の手のぬくもりが頬に触れる。 「オメーにはずっと素直になれなかったけど今なら言える。オメーのこと、最初に見たときから楽しい野郎だなって…」 「…やめろ、やめねぇか!」 土方は自分に触れた手を掴んでそのまま頬に押しつける。 「そんなもん聞きたくねぇんだよ!二度と会えねぇなんてやってられっか、お前が誰を向いてても構わねぇ、好きだ、お前が好きなんだ…!」 「土方くん…」 ほろっと熱い雫が銀時の頬に落ちる。 くぐもった声とともに土方の背中が震える。 「お前を離したくねぇ、離せねぇよ、ダメだ、行くな!行かせねぇ!」 「ちょ、オメー…、」 「離さねぇ、高杉に渡すくらいなら、オメーを失うくらいなら、オメーに一生恨まれてやる、上等だ…!」 土方は銀時を腕の中に閉じ込める。 見て、高杉は鼻白む。 「よぅし、トシ、こっちだ!」 近藤が声をかける。 「そのまま銀時を連れて下がってこい!」 隊士たちがぬかりなく岩場のまわりを固める。 銀時を抱いたまま玉砂利に座り込んだ土方を高杉の視界から遮っていく。 「高杉! お前が銀時を思う気持ちは俺たちと同じだろう。だがお前は指名手配犯だ。見逃すことはできん!」 「たかすぎっ!」 後ろへ引いて連れていかれそうになりながら、銀時は土方の腕から身を乗り出す。 その手に届かない高杉を求めるように岩場へむかって手を伸ばす。 「もう腹は決まってんだ、お前と行く!」 きれいな指先だった。 その手は宙をつかんでいた。 「連れてけ、迷ってなんかねぇから!」 白無垢の袖がなびいている。 銀時の巻き毛が柔らかそうで愛おしい。 なあ、銀時。お前は病院のベッドから手を出して振ったよな。 そういうとき、お前はその手をどうされてぇんだ? 知りたがった俺にお前は答えたっけ。 『お前の好きにすればいい』。 俺はお前の望むことをしてやりてぇ。 『だったら俺のして欲しいことすりゃいいじゃん。イチゴ牛乳掴ませるとか、いろいろ』 ああ、そうか。 お前のして欲しいことをすればいいのか。 なら俺はお前を離してやろう。 お前の望みを叶えるために。 「…あ、?」 最初から。 「ひじかた…くん?」 お前を逃がすのは俺だと。 決めていた。 「行け」 土方の腕がゆるむ。 銀髪に名残惜しそうに唇が当てられる。 「言ったろ? お前が逃げるときは俺が逃がしてやるって」 「え…マジで、いいの?」 「元気でな。たまには、…いや、なんでもねぇ」 忘れないでほしいと。思い出してほしいと願うのは傲慢だろう。 「死ぬな。そんだけだ」 「あぁ、そんなら自信ある」 銀時は腕をすり抜け、立ち上がる。 「達者でな、土方くん」 その言葉を残し、銀時は土方を残して玉砂利を踏む。
沖田が慌てて叫ぶ。 「アンタまで高杉に乗せられるたぁマヌケすぎだぜ副長俺に代われ土方ァ!」 「なんで離しちゃうのトシィィ!」 近藤が頭を抱える。 「これじゃ高杉の思うツボだってばぁ!」
神楽が嬉しそうに笑う。 「誰も銀ちゃんの邪魔はできないアル!行け、行け銀ちゃん!ヤバ男とよろしく高飛びするヨロシ!」
新八は立ち尽くし、そして膝を折る。 「過去で危ない目に遭ったらどうするんですか…!?」
白い衣裳が、ひるがえる。 銀時は勘だけで隊士を躱す。 「たかすぎっ!」 岩場に手を触れて確かめながら、それでも軽々と踏んで登っていき。 頂上から腕を掴んで引き上げる男のもとへ、その胸めがけて飛び込んでいく。 「たかすぎ、たかすぎぃ…!」 「銀時…!」 小柄な白無垢姿が高杉の両腕に抱き締められる。 「お前、いいのか?もう戻って来られねェんだぜ」 「うん。お前にこうされたぬくもりだけで生きてける」 高杉の首に両手を回して抱きすがる。 「1分でも。1秒でも。むこうに着くまでのあいだ、こうしてて良い?」 「銀時…、」 隙間なく銀時の背を抱いて引き寄せる。 「オメーと離れるなんざ、身を切られるようだ」 「ん。わかってるって」 銀時は幸せそうに笑う。 「俺のためにしてくれるんだ、お前にも辛い…、選択させちまってすまねー」 「長居は無用だ、行くぜ?」 「っ、…そうだな。長引くとみっともねーとこ見せそうだし」 銀時は庭をキョロキョロ見下ろす。 新八、そして神楽の気配を探し、なにごとか考えていたが結局、言葉にならず。 「じゃ、オメーら元気でやれよ」 無気力な顔で、努めて素っ気なく言い渡す。 「世話した分も、してもらった分も、チャラってことで。そんじゃ、さいなら~」
「銀ちゃぁんんん!」
高杉が装置のスイッチを片手で細かく押していく。 「しっかり掴まってろ銀時、次に吸いこむのは戦場(いくさば)の風だ」
「し…晋助さまぁ!」
近藤が身構える。 高杉の装置から重い空気の塊が吹き出してくる。 「お前は間違ってる、銀時を…、過去に連れてったってなんにもならねェだろぉぉ!」
銀時は楽しげに笑んでいる。 吹き出す圧に押され、皆、頭をかばい身を低くしてそれに耐える。 まるで先のない道行きだというのに。 その不吉を寄せつけないかに二人は愛おしげに互いの身に触れ合い。 そして。 「銀時ぃぃぃぃ!」 轟音とともに岩場の上の空気が炸裂する。 耳に刺さる重音、波のように押し寄せる爆圧。 空に舞い上がる砂埃で二人は視界から消え失せる。 耐え切れず瓦解した岩場の岩や生えていた草が土煙と一緒に飛散する。 「ゲホ、ゴホ!」 近藤が、そして隊士たち、志士たち、客人たちも。 目を押さえ口を押さえて異常な爆砕をやりすごす。
熱風が収まり、ようやく視界が効くようになったとき。 岩場は消失し、そこにいたはずの二人の姿はどこにもなかった。
「さて」 武市が半歩さがる。 「高杉さんは無事行ったようですし、我々はこれにて退かせてもらいますよ」 「晋助さまの帰りを待たなきゃならないっスからね」 「なかなか楽しい余興でござったな」 また子、万斉も言い残して鬼兵隊隊士たちは撤収を計る。 その動きは素早い。 あっというまに大勢いた男たちが屋根の向こうへ見えなくなる。 「源外さん、電磁波を止めてもらえませんか?」 武市が塀の外へ呼びかける。 「それがあると私たちも出られないものですから」 「あぁ、なんだってぇ?」 源外がこちらに耳を向けて怒鳴る。 「今の空気が裂けたような爆発はなんだったんだ。オメーらみんな無事なのかよぉ!」 「問題ありません。それより電磁波の檻を消してください、お願いします」 「止めろってか?おおよ、任せときな!」 源外が戦車の中へ潜りこんでいく。 「少し時間がかかるがよぉ、年寄り急かすんじゃねぇぞ。がははは!」 「なるべく早くお願いします」 武市は、そして近藤を見る。 「志村新八君を快く受け入れてくれて感謝しますよ。あの状況では身柄を拘束されてもおかしくなかった。ひとえに貴方の懐の深さと解しておきましょう」 「銀時と約束したからな」 近藤が苦笑する。 「鬼兵隊に合流しちまった新八君を俺たちは全力で連れ戻す努力をするってよ。俺は約束を果たしただけだ。お前たちの都合を汲んだわけじゃねぇ」
武市は淡々と告げる。 「次にお会いするときはその首、いただきますよ。局長さん」 「それはこっちのセリフだ。全員、逃がさねーからフンドシの垢ァ落としとけよ!」
電磁波の檻は解除されたのか、鬼兵隊は音もなく屯所から去っていった。
神楽と沖田の下で、桂が笑う。 「攘夷党の同志たちがエリザベスはじめ全員逃走したのにお前は気づかなかったろう?」 「エッ、いつのまに!?」 「我が攘夷党は常に安全な逃走路を確保している。いまごろ塀の外に待機して源外どののカラクリが消えるのを待っていよう」 「なんだとっ、むざむざ逃がしてなるか! 今すぐ取っ捕まえに行ってやる、と言いたいところだが」 近藤が表情を変えて力なく嘆息する。 「今日だけは見逃してやる。爆牙党の浪士たちを大量検挙できた。申し開きはできるさ」 「そうか。なら俺も見逃してくれ」 「お前はダメ。桂だから」 「なんだと、キサマそれでも武士か!」 「武士だからこうすんの!」
「考え直せ。武士とは臨機応変なものだ」 狂死郎が皆を率いる。 「もうここに銀さんはいません。私たちの用事もなくなってしまった」 「本城さん…」 「私たちの立ち入りを許可してくださって感謝しています」 近藤に頭を下げる。 「もし天使を追いかけるのに疲れたら私たちの休息所へおいでください。お待ちしていますよ」
ホストたちがパノラマ迷路へ向かうのに合わせて妙がキャバ嬢たちに伝える。 「私は神楽ちゃんを助けなくちゃ。新ちゃんのこともあるし長谷川さんも放置していけないわ」 「お妙、一人で大丈夫?」「あたしたちも手伝うよ」 「いいのよ。皆、お店があるでしょう?」 妙はにっこり笑う。 「私は今日は休むわ。こんな日に出勤なんてムリだから」
隊士たちが池の有害電波の電源を切って長谷川を助け出す。
『岡田』の変身が解けた2名も水から引き上げられて捕縛された。
新八は座り込んだまま地面を掴んでいる。 その様子を後ろから妙が見守っている。 神楽たち捕獲剤の餌食となった数名は、ようやく溶解剤が功を奏して身体の一部を動かせるようになった。 崩壊した岩場を前に、池のかなたを眺めやって座っていた土方は、ようやく袴の裾を払いながら立ち上がる。 誰にも顔を見せたくないように背けている土方のもとへ、
白い隊服に身を固めた長身の男が庭へ踏み入れてきた。 「このたびは援護要請いただきまして光栄ですよ。まるで真選組と仲良く連携がとれているみたいじゃないですか。我がエリートのエリートによるエリートのための部下たちはお役に立ちましたかな?」 「佐々木…!?」 土方が固い表情のまま、それでも顔をあげて佐々木を見る。 「なにしに来やがった、『白夜叉』の監視か!?」 「まあ、そんなところです」 佐々木は悪びれない。 「少々、気になる情報が入ってきたものですから」
えーと、この話はハッピーエンドです。
拍手ありがとうございます!
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* 高銀話です(連載中)
新八が空を仰いだまま庭へ駆け出す。 狂死郎、妙たちも目で行方を追いながら歩き出てくる。 「銀ちゃぁ~ん!」 焦って呼ぶ神楽の声。 沖田は目を見開いている。 「たぁかすぎぃ~! なにをやってるんだキサマぁ!」 桂が叫ぶ。 一呼吸おいて近藤が屋根の上の白い隊服の男たちに合図する。 予期していなかった白隊服たちは捕獲銃の準備をしていなかった。 手をこまねいて目標を見上げる中、 「どこ行く気っスかァ!」 来島また子の二丁拳銃が火を吹く。 「晋助様の許可がない限り、『上』はこの鬼兵隊が通さないッス!」 「みなさん、お願いしますよ」 武市が、高杉を伺いつつ部下たちに狙撃の指示を出す。 「けして白夜叉に当たらないようにしてください」 一斉に放たれる鬼兵隊の発砲が『岡田』の行く手を遮る。 彼らは最初から電磁波の及ばない筒抜けの上部を警戒していた。 そのために高い位置に陣を敷いていたのだ。 屋根からの牽制射撃が『岡田』の脱出を食い止める。 『岡田』は煩わしそうに跳躍をゆるめると、銀時を抱えたまま屯所の庭に降下してくる。 『ググゥ…』 電磁波を越えられなかったのか、それとも故意に戻ってきたのか。 どちらとも取れる状態で『岡田』は池に滝を流すために積まれた岩場の頂上へ、足を揃えて着地する。 それほど高いものではない、しかし下から見上げる形になるそこは庭の中央に位置する目立つ場所。 賊は池を背にし、母屋に正面を向け、観衆を嘲笑うよう、銀時を見せつけるよう悠々と立ち臨んだ。 「クソッ、ふざけやがって…!」 土方は藤達を部下に押しつけて池のほとりへ駆け戻ってくる。 鬼兵隊がいなければ逃げられていた。 いやそもそも電磁波の仕掛け自体、高杉の手配だ。 恋敵の視点の高さ、備えの周到さに歯噛みせずにいられない。 岩場は写真撮影に使った和傘の近く、その大半は池に接していて背後を突くことはできない。 動かせる隊士は少なく、たとえ揃っていてもこの『岡田』を前にどれだけのことができるのか。 「なにしてるんスか!」 また子が本気で銃弾を撃ちこむ。 「勝手な真似は許さないッスよ!」 「やめなさい、白夜叉に当たるでしょう」 武市が止める。 「顔に傷でもついたらどうするんです」 「なんスか、それ!?」 また子が苛立つ。 「アンタまさかあの白夜叉まで狙ってるんスか!」 「狙うとかそういう次元じゃありません。年齢といい、見目麗しさといい、誰が見ても白夜叉は素晴らしい美少女ですよ。私が言っているのはね、もし白夜叉に傷でもつけたら高杉さんが怒るということです」 「アンタのその邪(よこしま)な見方の方が晋助様を怒らせるッスよ!」 その間も撃ちこまれる銃弾を『岡田』はすべて触手で弾きとばす。 準備ができた捕獲銃が屋根の上から掃射される。 『岡田』に届く前に叩き落とされる。 弾丸ではない、白い不定形の一塊となったものを。 『岡田』は数本の触手で受け止めると手当たり次第に庭の観衆へ投げつける。 「きゃああああッ!」 花野アナと撮影クルーが浴びそうになって逃げ惑う。 「撃ち方やめ!」 近藤が止める。 静まった刹那、一番隊の衝撃銃が『岡田』を狙う。 「今度は返しようがねェだろィ」 沖田が地面にカチコチに固まったまま指示を出す。 「絶好のマトだ、テメーら外すんじゃねーぞ。旦那ごとで構わねェ、ヤツを池の中へ叩っ込んじまいなァ」 「銀ちゃんごとなんて駄目アル!」 神楽が足をバタバタする。 「池に落ちたら銀ちゃん、マヒして動けなくなっちゃうヨ!ただでさえオマエらに薬使われてあんな身体になっちゃったのに、死んじゃったらどうするアルカ!」 「おち、落ち着け、リーダー…ぐふっ」 神楽の足が桂をボコボコ連打する。 岩場の頂めざして構えられた衝撃銃は、しかし発射する前に銃身を跳ね上げられて封じられる。 「ぐわっ」「がはっ!」 一番隊の射手は耳や鼻を打たれて顔を押さえる。 ヒュンヒュンとムチのように撓(しな)る触手に死角はなく。 長さも太さも自在に繰り出せるカラクリの管は一切の攻撃を寄せつけない。 その間に『岡田』は片腕に抱いている銀時に口づける。 後ろから耳を咥え、髪、首すじへ顔を埋める。 刹那、感じ入ったように息を吸いこんで何度も花嫁の匂いを貪る。 「や、やめっ…!」 銀時は身もがく。 腕は掴まれ、背中から抱かれ、絡みつく触手と豪腕に抜けることもできない。 『ング…グフゥ…フゥ…』 『岡田』は笑いともとれる呻きをあげて襟元に吸いつく。 「なっ、なにしてんのテメェ!?なにするつもり!?」 銀時の声が焦りを帯びる。 厚い舌べらが胸の素肌をもとめて襟を乱し、その下へ潜りこんでいく。 「はぁ、…あぅっ…!」 嫌がっていた銀時がビクッと首を反らせ、身体を固く震わせる。 純白の着物の中へ入りこんだ『岡田』が花嫁の敏感なところを舐め苛んでいるのは傍目にも明らかだ。 「ぃやぁ…あっ…、ぁあッ、」 こらえきれない切ない吐息が鼻にかかったようにくぐもる。 銀時が本気で蜿(もが)いているのも、本気で逃げられないのも見てとれる。 「やめてくださいっ!」 新八が岩山に取りすがり、手をついて登っていく。 「銀さんを、銀さんを離せぇッ!」 すかさず伸びてきた触手がパシッと新八の顔を下から弾く。 顔を跳ねあげられながら、新八は岩にしがみつき、賊を睨んでその足元を目指す。 「新八に…なにすんだッ、…コラ、」 銀時が顔を歪める。 「あいつには、手ぇ出すな…っ、」 新八の頬が打ち身で赤くなっている。 なおも触手が、いたぶるように新八に襲いかかる。 「やめな」 騒然とする庭に一言。 命令することに慣れた、人を従わせずにいられない声が響きわたる。 「時間の無駄だ。さっさと戻ってこい」 隊士たちや志士たち、キャバ嬢やホスト、撮影クルーも振り返って屋根を仰ぐ。 僧服姿の高杉が池の岩場を見据えている。 静かに言い渡しているだけなのに誰の耳も確実にその声を拾いあげる。 『岡田』の両肩がビクリと竦む。 触手が新八を逸れていく。 「!今だ、包囲しろッ」 隙を窺っていた土方が岩場に突入する。 動ける隊士たちを率いて賊の足元を駆け上がる。 制御不能に思えた賊が鬼兵隊の首領に恭順を示したことなど驚愕には当たらない。 この間になんとしても銀時を取り戻す。 土方にはそれだけだ。 「ソイツを離せ」 刀を抜き放って肉薄する。 「飼い主が呼んでるじゃねぇか。行かなくていいのか?」 『グッ……ググッ…』 賊はなにごとか考えるように間を置く。 こちらを注視する鬼兵隊の、そして高杉の視線を感じる。 高杉は爆牙党の天堂藤達を諌め、『ネオ紅桜』を始末しようとやってきただけだ。 挙式は気に食わないだろうが真選組をここで潰そうとは思っていないはず。 ぶつかる気であれば真選組の戦車にカラクリ技師を乗せたりはしないだろう。 いわば源外は人質だ。 目的を果たした今、高杉は『岡田』を連れて引き上げる以外にない。 そして真選組には鬼兵隊を追撃する戦力はない。 その予定調和。 見廻組の『援軍』たちは見たままを彼らの局長に報告するだろう。 いかに真選組が攘夷浪士集団を相手どって奮戦したか。 『白夜叉』と呼ばれたかつての英雄がなんの脅威にもならない身体になって、視力も奪われたまま真選組の田舎侍のもとに、いかに慎ましく嫁入りしたか。 高杉だって銀時が幕府の追求を逃れ、安全圏に入ることに異存はないはず。 ようするに『岡田』がここで粘る理由はない。 『岡田』が狂いでもしないかぎり。 そして高杉がそんな失態を『岡田』に許すわけがない。 『ガアッ…!』 土方の思惑を破って突如、賊は新たに頑丈な触手を生やして振り回す。 正確な攻撃ではないが激しい威嚇に攻める隙がない。 捕り手を退けておいて『岡田』はおもむろに銀時の身体に触手を這わせる。 その蚯蚓(みみず)のような先端をクチクチと開いて着物の下へ入りこみ、花嫁の白い襦袢に包まれた無垢な肌を細かく噛んで刺激していく。 「ぁんっ…ん、…んむっ…」 土方の目の前で、銀時は口を開かされる。 極太の触手がその中へ無理やり押し入っていく。 銀時は首を振り、噛み砕こうとするが、『岡田』は苦もなく顎を上げさせると喉の狭まりを突破し、その太い先端を擦りつける。 「んぐッ、…ぅぐッ、ぁが、…ぅぐッ…!」 苦しそうに眉を寄せ、もがいて肩を揺らす銀時の姿を『岡田』は土方に、そして庭にいる者たちに嘲笑うように突きつける。 「ぎ、銀時…!」 土方は怒りに視界が眩む。 銀時の口から触手が滴らせた透明な液体があふれてくる。 しゃぶらされたものが形よく塗られた紅い唇から無遠慮に出し入れされている。 刀に掛けた土方の手に無類の力が籠もったとき。 「ンッ! ンぅ…ッ、…んんーっ!」 銀時が慌てたような呻きを漏らして身を捩った。 『岡田』を蹴ろうと両足を振り上げてバタバタしている。 見れば触手が着物の裾を割って足を這いのぼっていく。 膝、太もも、そしてその奥の敏感な部分を求めて無数の触手が先端をクネらせていた。 「ハっ…、ぁぐっ…ふ…っ、」 目尻に涙が湧く。 ビクン、ビクンと不規則に撥ねる身体は着物の下に入りこんだ触手を払うすべもなく、あらぬところへ這い寄るそれに一方的な愛撫を施されていく。 銀時の焦点のない瞳がうつろになる。 助けを乞うわけでもないその目の縁から、はらりと雫がこぼれる。 「…やめろ」 ブチっとなにかが切れる。 「やめやがれぇッ!」 土方は刀の柄をきつく握る。 頭の中が敵を斬り殺すこと、ただそれだけになる。 「副長ォ!」 飛んでくる触手を避けながら必殺の一撃を見舞う。 殺気立っていながら計算されつくした土方の剣戟、相手の軸足を狙って銀時にはどうあっても当たらない一点を見切っての得意の突き。 ─── 獲った 確実な手応えを予感した瞬間、予測しうるすべての動きを無視して目の前に銀時がいた。 『なにっ!?』 勢いは止まらない。 このままいったら銀時を刺し貫く。 土方は不自然に手首を返して切っ先を逸らす。 ぐき、と靭帯が外れて手首がおかしな方向へ曲がる。 『グフ…』 賊が笑う。 人間の動きでは起こり得ない角度で銀時の立ち位置をずらして盾にした。 躊躇なく銀時を危険に晒し、土方の動揺を楽しんでいる。 土方は無理な体勢から刀を地面へ放り投げる。 「クッ…、」 バランスを崩した身体は岩を踏み損ねる。 なんとか足がかりを捕らえて勢いを殺した土方は受け身を取って岩場の下の地面に転がる。 「副長ッ」 隊士たちが駆け寄ってきて引き起こされる。 手首に激痛が走り、指は思うように曲がらず、刀が掴めそうにない。 土方は岩山へ向き直って仰ぎ見る。 頂きに、ただ一人君臨する狼藉者がその長身を聳(そび)やかしている。 花嫁はグッタリと力をなくし、『岡田』に凭れかかるよう背を反らして抱かれている。 ─── ああ、もう… 自分には銀時を護る力はないのか。 土方の頭に凍るような絶望が掠めたとき。 ものすごい質量の、熱気をまとったモノが土方の脇の地面を大きく跳ね上げて疾風のように駆け抜けていった。 「!?」 その姿は岩場を蹴り、次の瞬間には『岡田』の上から一刀両断に振り下ろしている。 高々と『岡田』の頭上まで両足を曲げたまま跳躍する身のこなしは、しかし重い一撃を芯から砕くような鋭さで打ち下ろし、心臓を刺し貫く勢いの冷酷さは銀時の戦闘ぶりを見るようだ。 『岡田』は、あわやのところで高杉の強襲を受け止める。 右腕に幅広の刀身を生やし、それだけでは足りず左腕も刀に変化させて両腕がかりで高杉を止め、満身の力で踏ん張って、どうにか頭を割られずに食い止める。 「銀さぁんッ!」 その腕から解放された銀時は、岩場からなんの支えもなく転落する。 絡みついていた触手は、高杉の殺気に触れて萎縮したように銀時の身体から離れていく。 伸ばした新八の手は届かず。 受け止めようとする隊士たちも間に合わず。 手首を傷めたまま土方は落ちてくる銀時の下へ飛びこむ。 「ぐッ、」 白無垢に包まれた小柄な身体。 普段の銀時とは違う軽さが幸いし、からくも両腕で抱きとめる。 勢いのまま尻もちをつくと、膝に乗せた銀時の顔を覗きこんだ。 「大丈夫か?」 「…ん、」 銀時は肩をさすっている。 「それをいうならオメーこそ。手首潰しちゃっただろ。グキって変な音したし」 「なんともねぇ。お前が無事なら、それで十分だ」
「…ずいぶん好き勝手やってくれたじゃねぇか」 低く問う。 「どういう了見だ?」 高杉は刀を引き、鞘に収めて岩場の頂上に立つ。 戦意を失った『岡田』は刃向かう気力もなく膝をつき、高杉のもとに蹲っている。 「……晋助の恋慕する白夜叉」 『岡田』はその輪郭を失い、人間相応の精悍な武人の体格へ成り変わっていく。 「アレがどれほどのものか知りたかったでござる」 「…で。どうだった」 高杉は口調は軽いが、目は笑っていない。 「満足のいく確認はできたのかぃ?」 「晋助が」 サングラスを押さえて立ち上がる。 「白夜叉を他の誰にも触らせる気がないということだけは」 「……」 「だがあの感じやすい甘やかな鼓動は、なかなか。もう一度かき鳴らしてみたいものよ」 「フッ…テメェも酔狂だな」 高杉の隻眼が部下を見下ろす。 「次は無ぇぜ、万斉」 向けられた威圧を不服としながらもサングラスの男、河上万斉は一振りの刀を手に岩場を蹴る。 桂は眉を潜める。 その刀には見覚えがある。 妖刀『紅桜』。 すべて殲滅したはずが他にデータを写し取ったものがあったのだろうか。 ということは万斉が変身していたのは『ネオ紅桜』ではなく本家本元の『紅桜』を用いてのことか。 万斉は岩場を降り、軽々と屯所の屋根に駆け上がって鬼兵隊と合流する。
土方は身構える。 銀時を抱き、地面に低い姿勢で膝をついたまま高杉を窺う。 高杉の視線は土方を通り過ぎ、銀時に注がれている。 尋常ではない要求が突きつけられるのを感じ取る。 無言で拒否する土方に、高杉は片手を差し出す。 「銀時を渡せ。それは俺が連れていく」 案の定。 高杉の宣言は土方にとって最悪だった。 「誰の目にも触れない、手の届かない場所へな」 「断る」 土方は銀時を隠すように抱きしめる。 「なんでテメェなんぞに渡さなきゃならねぇんだ」
そんなことをすれば銀時は、鬼兵隊に拉致された一般人としては扱われまい。 平穏な暮らしとは一生かけ離れた境遇に身を落とすことなる。 「テメーに銀時を隠しおおせるか?」 高杉が抑揚なく尋ねる。 蔑むでも窘めるでもない、ただ淡々と土方に語る。 「幕府にしろ、オメーらの敵にしろ、これからも銀時を巡って面倒事を起こすだろう。以前の銀時ならともかく、テメェらに女にされ、目も見えねぇ状態の白夜叉が自分の身ひとつ護れねェのはテメェらも重々解ったはずだ」 顔をあげる。 「それとも、ソイツを男に戻す方法でもあるってのか?」 「………いや」 土方は高杉を睨みつける。 「一度、女になっちまったら元には戻らねぇ。完全な女になる。そういう薬だ」 「つまり。かつての戦争でめざましい働きをし、攘夷志士の信望も厚い英雄、白夜叉はすべての戦う力を取り上げられて女にされ、二度と男に戻ることはねぇ。そういう筋書きか」 軽く嘆息する。 「そんな弱った白夜叉が平穏無事に生きていける場所なんざ、あると思うのか。その気になりゃ誰だって幕府の武装警察に踏み込むこたァ難しくねェ。いずれ奪われて略奪者の思惑に好きに翻弄されるだけだ。テメェらがそれを良しとするなら話は別だがな」 「だからってテメェに渡す謂われは無ぇぜ」 高杉は絶対の強者だ。 本来の銀時と遜色ない戦闘力を持ち、謀略に長け、人を動かす力を持つ。 だが銀時を離すことなど土方にはできない。 「まるでテメェなら護りとおせるみてぇな言い方だが。テメェと行ったって修羅の道だ。それこそコイツが安らぐ場所なんかこの世に無ぇ」 「だから連れていくのさ。そいつが逃げ隠れせずに済む時代。攘夷戦争のさなか、この国の過去の世界へな」 「……なんだと」 土方は意味が解らず聞き返す。 「なに言ってんだ。そんなことできるわけねぇだろうが」 「男を女にするくれぇだ。天人の技術力をもってすれば難しいことでもあるめェよ」 高杉は僧服の袂(たもと)から一塊の器具を取り出す。 いびつな突起を備えたそれは見たことのない形状をしている。 「時を超える装置だとよ。年月をさかのぼって過去の時代へ赴くことができる。白夜叉はそこへ送り返す。この時代に居たってテメェらに食い物にされるだけだからな」 ククッと笑って高杉は銀時を見下ろす。 「そんだけ若けりゃ白夜叉に瓜二つの妹とでも通用するだろう。嬉しいか?あの場所へ還れるんだぜ。俺がキッチリ送り届けてやらァ」 暗い笑みを浮かべながら、そうして再び銀時に片手を差し出して誘う。 「来いよ、銀時。お前をあそこへ解き放ってやる。先生が生きていた頃。ともに肩を並べて戦ったあのとき。誰もお前に仇をなすことのない侍の世界にゃ、今のお前だって受け入れる度量があらァ」
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