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* 高銀話です(連載中)
銀時の胸や腰に触手が絡みつく。 地面へ向かって上から強力に押しつぶされる。 肺が潰されて咳を吐く。 「………ッ、」 足を踏ん張り、圧力を背骨で支え、反撃の足場を固めようとしたとき。 触手を押し返す銀時の力を利用して巨腕が地面から銀時を浚い、足が浮くまで持ち上げて銀時を宙吊りにしてしまった。 「ッ、!? 撃つな! 万事屋に当たる」 真選組は岡田を包囲し、槍や刺股で押さえようと一番隊が肉薄していた。 岡田はその頭上を飛び越え、他は目に入らないとでも言うように銀時の背後に降り立ち、銀時に捕獲の触手を放ったのだ。
反撃をしようにも地に足がつかず、足がかりを求めて触手を踏もうとする足は、ますます触手に絡みつかれて身動きが取れなくなる。 腕はもとより肩や腰ごと締め付けられて銀時の自在の動きは封じられている。 あとからあとから滑り出てくる触手、それらが巻きつく厚みで銀時の姿が見えないほどだ。
土方は銀時への奇襲を防げなかった。賊の体つきから予測される動きを遙かに超えていたのだ。 バズーカより砲身の太い中筒を担いだ隊士たちが前列の者と入れ替わる。 岡田が高く掲げた左腕、カラクリ触手が増殖した塊と化したものの中から吊り下げられた銀時の足がギリギリともがいている。 「射てーッ!」 筒口が爆音を立てて黒い塊を噴射する。 その塊が空中で異形の岡田を捕らえるべく散開してその網を広げる。 銃に連結したままの網はフチに分銅がついていて、目標を捉えると茶巾のように収束して生け捕りにする。
第二弾が放たれる前に網を打ち払って跳躍し、その巨体をしならせて店並みの一階から二階、見る間に触手を伸ばして屋根の上へ駆け上がる。 触手を巻きつけた銀時を懐に抱きこむと、そのまま川沿いから逸れて屋根づたいに瓦の上を走りだした。
土方は携帯を持ち直し装甲車とパトカーに叫ぶ。 「岡田が逃げた。万事屋を連れてる。てめぇらルートを先回りして塞げッ」 家屋を踏みしだく衝撃音を放ちながら巨体は軽々と屋根から屋根へ跳んでいく。 「動きが速い、大外から回り込めッ」 『しかし副長、目標を捕捉できません!』 「万事屋がGPS受信機を持ってる、携帯5番だ。屯所の基地局に補正データを要請しろ」 川辺にパトカーが何台も走りこんでくる。 隊士を次々と乗せて発車する。 そのうちの一台に土方も乗りこみ無線で檄を飛ばす。 「飛行を許可する。こっちからも追い立てろ、どんどん情報流せ!」
『アレ…? 目の前がまっくらだ』 銀時は全身の痛みに意識を焼かれる疼きで覚醒した。 筋肉という筋肉が、ちぎられて溶かされたように発熱している。 どうやら身体は横たえられている。 雑巾のように締め付けられていた手足には、まばらに触手の感触が絡んでいた。
気を失っていたことも知らなかった。 両眼から後頭部への圧迫感で、柔らかい金属質のものがピッタリと視界を塞いで張り付いているらしいことに思い至る。
感覚を研ぎ澄ませばそこが生活臭のない屋内で、天井はさほど高くはなく、自分が寝ているのは木製の床板の上であろうことが感じ取れる。
探ってみたが知り得なかった。 触手が身体に絡んでいる以上、あの怪異が遠からぬ場所に居ることだけは確かだった。
窮地に変わりはない。 だらん、と力を抜いたまま銀時は秘かに確かめる。 動かそうとしても指は動かない。首の向きを変えられない。 力は入るのにグンニャリと重い手足は自分のものではない物体のようだ。 そして四肢からたちのぼる熱い痛み。 雑巾のように絞られまくって全身の筋肉がズタズタにされたのだろうか。
木刀は腰から抜かれている。 おさまりの悪いスカスカした脇腹の軽さが自分が丸腰であることを告げている。
銀時はジッとしたまま考えを巡らせる。 『…走れねーな。膝が立たねェ。肩は…動くか。腹這ってでも、芋虫みてぇに転がってでも……ていうか、ここ、どこ?』 自分はどこまで逃げれば逃げおおせるのだろう。 風が枝葉を揺らす音は、ここが船舶の中でも宇宙空間でもないことを示している。 公園か、庭のある屋敷。その物置小屋とでもいったところか。
鬼兵隊が紅桜の宿主に用があるのは確かだろうが。 『あの意地っ張り。怒って帰っちまうし。幕府と契れだ? ふざけんなコラ』 頬が怒りにピクつく。 『テメーがそんな態度ならこっちにも考えがあんだよ。救出されちゃうよ俺は土方君に。はっきり言って靡(なび)くよ、土方君に』 心の中の仮想の高杉に毒づく。 高杉は偉そうに笑ったまま顔色ひとつ変えずにこちらを見ている。
一度や二度じゃない。 恨みでもあんのかってくらい戦場で高杉は銀時を邪険にあつかった。 身体の営みを差し引いても、なんだか辛く当たられた気がする。
直面する捕食者に意識を向ける。
また子の表現を思い出す。
しかも筋肉痛で身体がろくに動かないのだ。
そのとき不意に床の振動が鳴り渡った。 気配に銀時は総毛立つ。 ソレは銀時の目の前に立っている。
肉を、喰らおうと飢えているのが分かる。
続く
ページを開いてくださる方も、ありがとうございます。
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* 高銀話です(連載中)
盛り上がった腕から刀が生えている。 巨体をズシズシと前進させてくる。 岡田似蔵としての面影はあるが、意味の解らない言葉を発する口は歯を剥き出しにしてヨダレを垂らし、どこを見ているのか眼球から焦点は失せている。 「おいでなすったか、…ずいぶんデケェな」 土方は値踏みしながら笑う。見かけより動きは軽い。本気になったら一飛びで馳せて一振りで捕り手を薙ぎ倒すだろう。 『副長、どうします?』 呑気に携帯が訊いてくる。 『高杉囲みますか、それとも予定通り岡田?』 「アホか、両方捕れ。両方ともウチのターゲットだろうが」 『無茶いわんでください、どっちも取り逃がします』 「弱音吐いてんじゃねぇよ! …なんだって一緒に湧きやがる」 土方はグッと握った携帯に叫ぶ。 「岡田だ。岡田に狙いを絞れ、そっちが先決だ」 高杉はここで取り逃がしても即座に具体的な脅威にはならない。しかし岡田は夜毎に犠牲者が出る。隊士の配置も装備も岡田を想定している。確実に岡田を捕ることが至上命令だ。 「逃げ道を想定して装甲車で押さえろ。一番隊二番隊、前へ出て岡田を囲め」 『相当人数の攘夷浪士が道を塞いでいますが、これは?』 「放っとけ、掻き分けてこい。手向かうようなら五番隊六番隊でお相手しろ」
武市が声を掛けてくる。 「あの人を貴方たちに渡すわけにいかないんですよ。ここは退いてくれませんか。我々が捕まえて連れ帰りますので」 「そういうわけにゃいかねぇよ」 土方は異形の相手を見上げる。 「アレを捕まえて事件を終わらせるのは真選組の急務だ。テメェら、万事屋と話しにきただけだろ。そっちこそ退きな。見逃すのも癪だが、邪魔がいなくなってくれる方がありがてぇ」 「私たちとしても、内部抗争の残務処理を幕府の役人に委ねるわけにはまいりません。…どうです? あの人を取り押さえるために、ここは協力するというのは?」 「本気で言ってんのか」 「ええ、あの人の身柄は譲りましょう。その代わり、あの人の一部分だけは我々に渡していただきたい」 「ククッ…やめときな、武市」 不愉快な冷笑とともに高杉が告げる。 「こいつらにアレの捕獲は無理だ。そして、俺たちはアレに用が無ぇ。こいつらが手を焼いてアレ相手に死闘を演じるのを楽しく見物しない手はあるめぇよ」 「テメェ、それで俺たちをバカにしたつもりか?」 土方は高杉を笑いながら見返す。 「すました顔して大口叩いてやがるが、テメェ、ここに何しにやって来た? 俺と万事屋が祝言あげるって聞いて、居ても立ってもいられなかったんだろうが」 いっときの、ささやかな意趣返しにすぎなくても、土方の吐き捨ては止まらない。 「どうだ? 俺とコイツが仲良く歩いてるのを見て、羨ましかったか? 素通りしようと思えばできただろう。なんでわざわざ声かけてきやがった。部下の作戦に口挟みに来たのか? 違うだろ?」 ボーッと立っている銀時を視線で指す。 「アイツは俺と一緒になることを承知した。テメェらに何があったか知らねぇが、アイツは俺のもんだ。俺は過去にはこだわらねぇ。尻尾を巻いて、とっとと帰りな、高杉。真選組は忙しいんだ。テメェなんぞに関わってる暇はねぇんだよ」
高杉は目を伏せて笑う。 「銀時ィ、テメェの牙は完全に腐れ落ちたようだな。もうそれ以上、凋落することもあるめぇよ。勝手に幕府と契(ちぎり)を結んで野垂れ死ね」 ふと顔をあげて銀時を見る。 「二度とそのツラ見せるんじゃねぇ。……斬るぜ」 その顔は激しい殺意に歪んでいた。 銀時は呆気に取られてそれを見つめる。 なにか言おうと銀時が口を開いた途端、高杉は身を翻した。 「武市。もう一度言う。兵を下げろ」 鬼兵隊の隊士が道を分ける中、騒ぎを外れてどことも知れない路地へ歩いていく。 「その野郎と関わったって時間の無駄だ。それだけ肝に命じたら、あとはてめぇらの裁量でカタァつけな」
武市は頭目の後ろ姿に声を掛ける。 「アレは回収しなくていいんですか!?」 答えは返らない。代わりに武市の横から鋭い一声があがる。
また子の指示で、鬼兵隊はザッと体勢を変える。高杉が歩き去ったことは志士たちも承知している。武市の顔を窺っていたが、また子の号令で志士たちの腹は決まった。 「また子さん、」 「なにしてるんスか、先輩。似蔵の亡霊より晋助様の意向が優先っスよ」 「しかし、……仕方がありませんね」 武市は銀時を振り返る。 「坂田さん。今日はこれで引きます。またいずれ」 「てめーら何しに出てきたんだ、ホント」 銀時は、バラバラと走りさっていく鬼兵隊の男たちを眺める。もうとっくに見えない高杉の消えた後を、つい銀時は目で追ってしまう。怒っていた。すごい顔で。あのまま食い殺されるかと思った。 意外だった。ちょっと笑ってしまう。そうか、アイツ怒ってんのか。 「万事屋ァ!」 「危ない、旦那ァ!」 土方と、真選組隊士たちの声が耳に入ったのは、そのときだった。 ブン、となにかが顔の前に飛来する。 「はぅ、ぐあ…っ!」 太い金属の管のようなものが数本、耳と首に巻き付く。 片手でそれを掴んで木刀を探る。 回避が遅れる。 胸や背中に衝撃がきて金属管が身体に絡みつく。 首が締まり、息が詰まる。 腰に差した木刀は抜けない。 腕が締め付けられ、上から力がかかって立ったまま地面に縫いとめられる。 背後から寄ってくる、重量のあるもの。 ズシ…、と地面が振動する。
人間のものとは思えない掠れて嗄(しゃが)れた声が、銀時の頭の後ろから降ってきた。
続く |
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暑さに身も心も溶け、高杉は少し汗ばんだ銀時を舐めては、口に含んでしゃぶりつき、いやがる銀時の表情や仕種を楽しんでいるんだろうな。とかボーッと考えてます。
パソコンが思うように操作できなくなり、遠ざかっていたら、メールやコメントをいただいて、急いでパソコン復旧に務めた次第です。 なので気がつかず、数日たってしまいましたが、申し訳ございません。 本日は返レスに参りました。 見守っていてくださる方、本当にありがとうございます。 いつも感謝しています。 |
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本日(8月15日)午前11時までに通販のお申し込みをくださった方へは通販の詳細を返信させていただきました。
もし返信が届いていない場合は、再度メールフォームから「届いてません」と御連絡ください。 お手数をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。 余市日夏 |
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本日の更新
* 余市日夏の銀魂たわごと更新(一件)/ * 銀魂ネタバレ感想更新(一件)/ジャンプ本誌ネタバレ知りたくない方は開かないでください パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます ひさしぶりにパソコン立ち上げたら動かないんですけどォ! 高銀小説の続き、今週も断念せざるを得ません すみません、更新滞ってます ![]() また、翔びます! たぶん9月の終わりくらいに ![]() |
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25話更新しようとしましたが暑くて頭はたらかず書けませんでした。 |
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* 高銀話です(連載中)
距離は縮まらなかった。 手を伸ばしても届かない間をおいて高杉は彼の配下の鬼兵隊士に囲まれていた。 その両脇には武市とまた子が並び立っていた。
銀時は重たそうなまぶたを半眼にして高杉を見ていた。 その唇は色をなくして噤(つぐ)まれていた。 いつもの口から先に生まれてきたような銀時の軽口は聞かれなかった。 相手をイラつかせるような表情も、からかう素振りもなく、ただその瞳を高杉に向けている。 人が違ったようだ、と土方は思った。 交戦の緊張に押し黙っているのとも違う。 弱点を突かれた無力な生き物のように、銀時は身を硬め、縮こまって、相手の裁定を待っているように見える。 こんな銀時を見るのは初めてだ。 土方の気分はささくれ立った。 沈黙は銀時と高杉の、二人だけの親密な関係を裏打ちしているようなものだったからだ。
高杉が笑ったまま顎をあげて銀時を差す。 「実に意味のねぇことだ。あんな腑抜けに、テメェらなんの用がある?」 「高杉さん、しかし…」 「兵を引きな。ぶつかる必要のねぇとこで消耗するこたあるめぇよ」 「は…、はい…」 「銀時ィ」 よく通る声で、高杉は艶っぽい視線を銀時にくれる。 「ひとつ聞くぜ。テメェ、鬼籍に入る覚悟はあるか?」 「……ねェよ」 銀時の声は掠れていた。 「もう若くねェんだし。心穏やかに暮らしてーな」 「せんだっては若くもねぇヤツが対戦艦用兵器を捩じ伏せてくれたもんだ」 にやにやしながら銀時を眺める。 「傷ァ治ってねェんだろ? あんまりドタバタすんじゃねぇよ。夜中にそいつの腹の上に腹の中身ぶちまけちまうぜ?」 「お前さァ…、それってコイツと寝んなつってんの?」 銀時の頬に穏やかに笑みが浮かぶ。 「それとも、御丁寧に腹の傷を抉ってくれてるわけ?」 「テメェが誰と寝ようが俺に関係あるか。テメェの勝手にすればいいことだ」 軽い調子で答えようとしながら、高杉の声はムッとするのを抑えきれず低くなる。 「せいぜい幕府が取り繕った脆(もろ)い寧静にでもしがみついているんだな。それにゃ、その幕府の犬のお膳立てが重宝するだろうよ」 「………わざわざソレ言いに来たのかよ」 銀時の表情が閉ざされていく。 「もういいわ。わかった、わかった。俺は平和に穏やかに生きたいんだからさ。死ぬ気もねぇし、テメーの嫌味聞いてる気力もねぇ。用が済んだんならどこにでも行っちまえよ。子分つれてアジトでも墓参りでも行きゃいいだろ」 「もともと俺りゃテメェに用なんか無ェよ」 高杉は視界から銀時を外す。 「オイ」 不機嫌な隻眼が土方を見る。 「銀時はケガしてんだ。連れまわすんじゃねェ、傷つけたら殺す」 ひとすじも余裕のない必死な声が告げる。 「夜は腹に乗っけろ。コイツを組み敷いたら赦さねェ」 「…バッ、バカかテメーわァ!!」 銀時が怒鳴る。 「なに言ってんの? テメッ、こんな大勢の前でなに生々しい宣言してくれてんだァァ!」 「ククッ、テメェらの魂胆は分かってる。だがよ、コイツは昔こそ戦場で名を馳せたが、今じゃただのボンクラだ。コイツを絞り上げても何も出てこねーよ。見ての通り、俺たちとも道を違(たが)った身の上だ」 騒ぐ銀時を無視して土方に伝える。 「今日のところは銀時に免じて退いてやる。テメェらも退くんだな。そいつァ俺たちへの布陣じゃねーだろう? それとも最後の一兵が尽きるまで、この川をテメェらの血で染め上げるか?」
「聞かねぇバカだな。計算もできやしねーのか」 高杉は目を細める。 「あいにくとこっちはテメェら潰してもなんの旨味もねぇんだ。俺達に刀を交えるべき対等な敵と見做されるようになってから出直してくるんだな」 「あのぅ、高杉さん」 武市が口を挟む。 「この人の布陣というのは、やはり真選組の捕り手ですか? もしかしたら私、策を返されました?」 「気がつかねーのか。このあたり一帯、真選組で埋まってるぜ。住民もとっくに避難済みだ」 「そういえば、さっきからやけに静かっスね」 また子があたりを窺う。 「真選組の罠っスか。狙ってるつもりで私たちが誘き出されたんスか、…坂田銀時!」 銀時を振り返って睨みつける。 「アンタ、あたしらをハメたんスね!? いくら腐ってもアンタが幕府に肩入れするなんて思わなかったっス! なんスか、その男とデレデレ歩いて見せつけて、目論見どおり私らが現れたときにはアンタほくそ笑んでたんスね!」 「アホか。いつ俺がほくそ笑みましたか。そしていつ俺がコイツとデレデレ歩きましたか」 「そうだよ。バレちゃ仕方ねぇ」 土方がほくそ笑む。 「俺とコイツが歩いてりゃ、それが気に食わない野郎が引っ掛かってくると思っちゃいたが。まさかこんな大物釣り上げるたァな」 再び携帯を取り出して通話ボタンを押す。 「テメェら、獲物は高杉だ。ここを先途(せんど)と暴れやがれ、真選組の大舞台だぜ! 全隊士、すみやかに突入準備……!」
ワッ…と人声があがる。 川端から路地を入った向こうに騒ぎが起こる。 敵の声か、味方の応戦か、状況が見えないまま鬼兵隊士たちはそちらへ向き直って低く構える。 「なに…? 気の早いヤツがチャンバラ始めちゃった?」 銀時にも事態が掴めない。 高杉も編笠をあげてそちらを見ている。 「ちょっとアンタ! 幕府の指揮系統は脆弱っスね!? ちゃんと命令を聞かせるよう下っ端に徹底しろっスよ!」 「いや、また子さん。少しおかしいですね」 武市がそちらへ向かって歩を踏み出す。 「交戦というより家が壊されるような音です。真選組が我々との戦いに、わざわざ家屋を狙って壊したりはしないでしょう?」 「いや、…保証の限りじゃねぇ」 土方は額に汗を浮かべる。 「若干一名、ウチには問題児が……うぉをっ!?」 同じ方向を見ていた土方が、突如、路地から現れたものに視線をあげて目を剥く。 銀時、そして高杉も言葉を失う。 また子は思わず拳銃を持った手の甲で口を押さえる。 「なっ、なんで、こんなとこに……!?」 身の丈、3メートルにも及ぶだろうか。 鬼兵隊の男たちを蹴散らし、狭い路地の建造物を薙ぎ払い、雄叫びとともに彼らの前に躍り出てきたのは。 「………似蔵さん…?」 武市が呼びかける。 それは体中が変形し、巨大化し、カラクリめいた管や人工構造物やあらゆる凶器のたぐいを全身から生やした異形のもの───紅桜の宿主だった。
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* 高銀話です(連載中)
額に巻かれた包帯。 髪型にそぐわない大作りな顔の輪郭と、手にした奇妙な形の変声器。にこりともせず平坦に銀時に語りかける。 「近ごろ巷(ちまた)を騒がす輩には我々も手を焼いていましてね。このまま放置するわけにはいかないんです」 高杉の着物を羽織った大柄な男が変声器ごしに叫ぶ。 「さあ坂田さん、悪法の芽を潰しましょう『大江戸青少年健全育成条例改正案』反対ィィィィィィ!」 「……知るかァァァ!」 キレイに揃った銀時の両足が武市の胸ぐらを突き飛ばす。 「ぐふうっ」 平坦な表情のまま武市は蹴り飛ばされていく。 「ちょっと待ってください。貴方に本気でこられたら死にます」 「死ねや」 倒れ伏した相手を銀時は踏み潰さんばかりに仁王立ちする。 「その声で喋んな。軽くトラウマ入るだろーが。なんでテメーはそんな格好でウロついてんだ。新たなテロか?」 「貴方と穏便にお話しするための方策です。いろいろ考えましたが、足止めにはこれが一番でしょう?」 「…だってさ、土方くん」 くるりと土方を振り向く。 「なんか変質者に声かけられちゃってー、ヒドい目に遭ってるんでー、パフェとかアイスとか食って忘れたいんですけどー、この先にちょうど『でにぃ~ず』あるんですけどー」 「お前、ソレ…」 土方はひきつりながら指を差す。 「そいつと知り合いなんだろ? つか、そいつ高杉配下の…」 「知りませんー。誰これ?」 肩越しに武市を見る。 「話したことないしィ。遠目に見たかもしれないけどォ、江戸にゃそんなヤツばっかだしなァ」 「それは無いでしょう、坂田さん。私ですよ、高杉さんの外部頭脳と言われた鬼兵隊の……ぐふっ」 立ち上がりかけた武市の腹に銀時のブーツの底がめりこむ。 「知らねーつったら知らないんだよ。ちったァ俺の立場を考えろ。警察の目の前で知り合い顔で話しかけてこられたら俺までロリコンの同類だと思われんだろーが。二度と妙なコスプレして俺に近づいてくんな」 「ロリコンじゃない、フェミニストです。ちなみにこれはコスプレじゃなくて高杉さんの着物ですよ。嗅ぎます? 脱ぎたてですからあの人のニオイが……ガフッ」 「なんでテメーが脱ぎたて着てんだァ!? アイツか、アイツがよこしたのか!? テメーらどういう関係だァァァ!」 武市の胸ぐらを掴んで頭がもげそうに振りまわす。ガクガク揺れる武市の口が切れ切れに告げる。 「包み隠さず、お話しします。我々の、潜伏しているアジトまで、御同行ください、坂田さん」 「テメ俺を陥れる気だろ、俺が邪魔だから警察の前でアジトとか同行とかイチゴパフェ食い放題とか言ってんだろォォォ!?」 「いちごパフェはありませんね。いちごワインならなんとか」 「パフェ無しィ? 見くびんな、俺がパフェ以外のモンに釣られると思ってんのか?」 「釣られたでしょ、高杉さんの着物に」 「お前なぁ…、」 笑顔が震える。 「言っとくけど、知ってたからね。知ってたよ? 高杉にしちゃテメェはデカすぎ。縦にも横にも間延びして、頭もデカイわ足も太いわ、高杉騙るにはテメェは別人すぎだァ!」 ペしっと武市の頭に乗っている変装用のカツラを叩き落とす。 「どーすんだコレェ、俺がテメェの格好に反応したとか、それが高杉の格好だったとか、もろに警察にバレちまっただろーがァ! もうダメだ、監獄行きだよ? 打首獄門だよ? テメェどうしてくれんだコレェ!」 「待ってください。我々と話したら獄門だなんて、そんなことないでしょう、ねぇアナタ、そこの人?」 「そこの人じゃねぇ。真選組副長、土方十四郎だ」 土方は刀から手を離す。武市にも、まわりの浪士たちにも殺気がないのは土方にも分かっている。 「そいつァ高杉の格好なのか。手配書きの寸法と背格好が違うから高杉たァ思わなかったが。テメェは武市変平太だな。変人謀略家と名高い、高杉配下の鬼兵隊四天王のひとり」 「真選組にまで私の名が知られてるとは光栄ですね。で、土方さん。ちょっと外してもらえませんか。今ここで事を荒立てたくはないんですよ。我々が用があるのは坂田さんだけですから」 「断る。コイツは俺の許婚(いいなずけ)だ」 土方は眼光鋭く言い放つ。 「来週、屯所で祝言を挙げるんでね。コイツは渡せねぇ。テメェら、誰のお使いだ? 高杉か? コイツに何の用だ?」 「祝言? それはまた唐突ですね」 武市はカツラの下の自前の髷(まげ)を念入りに直し始める。 「やめてくれませんか。そんなことになったら、またあの人がピリピリして我々も非常に気を使うし、話題探しにも困るし、隊士の果てまでギクシャクした空気が醸(かも)されるんです。ご存知ですよね? 坂田さんは攘夷戦争に行ったとき高杉さんとは攘夷軍に知れ渡った仲で……はがぐっ」 「お前さァ、なに言ってんの!? なに言ってるわけェ!? なんのことだかさっぱり分かんねーんだけどォ!!」 汗まみれの引き攣った笑顔で、銀時は手にしたカツラを武市の顔面に押しつける。 「オレ分かんなくなって混乱してるからさァ、もういいよね? いいよねコレ斬っちゃっても? 警察の人いるし、怖い浪人に囲まれて因縁つけられて正当防衛だよね?」 「待っとけ。まだ聞きたいことがある」 土方は武市、そして周囲をかこむ鬼兵隊士たちを見渡す。 「こんな風にこいつらと話せる機会は少ないんでね。核心にせまるこたァ口を割らねぇだろうが、用向きくれぇは聞いてもいいだろう。テメェらの万事…坂田銀時への用事は、ズバリ『岡田』か?」 「そうっスよ」 別方向から女の声がした。 「アイツには私たちも迷惑してるっス」 浪士たちの間から進みでてきたのは鬼兵隊の紅一点、来島また子。 「ちょっとアンタ、真選組ならアイツ早く捕まえてくれないっスかね。あんなの、ただのアイツの変態趣味じゃないっスか。あんな奇行で晋助様の顔に泥を塗るなんて、アイツ絶対許さないっス!」 腕組みして土方の前に立つ。 「ちょうどいいからアンタに言っとくっスけど、似蔵の起こしてる事件、鬼兵隊とはなんの関わりもないっスからね。似蔵がなんのために坂田銀時を探してるのか、私たちにはサッパリっス。この間のドンパチで行方知れずになったと思ったら、私たちになんの断りもなく辻斬り…じゃないっスね、辻強姦っスね、それを繰り返してるんで、鬼兵隊も対応に苦慮してるっスよ」 「つ、辻ゴーカンんん!?」 銀時が振り返る。 「なにアイツ、俺の名前呼んで探しながら男をゴーカンして回ってんのォ!?」 「違うんスか? 我々の情報ではそうなってんスけど」 また子が銀時を見る。 「アンタ真選組と結婚するんスね。なに晋助様を刺激してくれてんスか。早く死んでくれっス。それか似蔵の生贄になってあのホモを鎮めてほしいっス」 「ホモじゃありません、また子さん。衆道です」 「どっちでもいいっスよ、先輩。ちゃっちゃと坂田銀時を連れていかないと晋助様に知られたら事っスからね」 「あー、オレ行かねーから」 銀時が手を振る。 「パフェも無ぇようなとこ行きたくねーし」 「そんなこと言わないでください。貴方を腕づくで連れていくとなったら何人の死傷者が出ることやら」 武市がカツラを片手に耳打ちする。 「なんなら、バケツでもタライでも用意しますよ、パフェ」 「…いいのか?」 「ええ。負傷者の治療費を思えば安いもの」 「でもなァ、お前らと行ったら確実に獄門だものなァ。で、俺を連れてってどうする気?」 「それはまあ色々と」 「そんなあやふやな事でプレゼンが通ると思ってんのか。なめんな」 「この人の前では言えないことです」 「警察の前だろうが上司の誕生日前だろうが言わなきゃならないときがあんだろが。そんな怪しさ満点のミステリーツアーになんか誰も御招待されねーよ」 銀時は武市から身を離す。 「言えねェなら行かねーぜ。高杉の思惑が入ってねェなら気兼ねもねーし。どうせテメーらも人を囮にするとか、その程度だろ。もういい帰れ。モタモタしてっとお巡りさん2号をけしかけてお前らをしょっぴかせるかんな」 「誰がお巡りさん2号だァ!」 「え? だってお前、真選組のナンバー2じゃないの?」 「よーし、じゃコイツらの前に、まずテメェをしょっぴくか」 「連行される前にパフェ食いてーな」 「あとでたらふく食わせてやる。こっからは警察の仕事だ。さがって見てろ」 「やですぅ。見てたら流れ弾に当たりそうだもの」 銀色の武神を横に置いて土方は鬼兵隊士へ向き直る。 二人の構えに浪士たちの気配がザッと変わる。 「仕方ないっスね」 また子が拳銃を取り出す。 「こっちもパッパと済ませたいんで腕づくしかないっス。悪いけど当たっても勘弁っスよ」 「また子さん、ここは平和的に」 「そんなこと言ってる場合っスか。いつ真選組の応援が来るか分からないんスよ?」 「この人を相手に、この人数で足りると思ってるんですか、猪頭」 「この人数を揃えたのはアンタっスよね、武市変態」 「私は穏便に話をするための人数を揃えたんです。とてもこの兵力では」 「じゃあ引き上げるって言うんスか! なんのために危険を犯してこんな町中で布陣を敷いたんスか!?」 また子と武市のやりとりの間も浪士たちの剣気は高まってくる。きっかけがあれば抜刀して乱戦にもつれこみそうな形相だ。 「…ったく、無駄に仕掛けを潰させやがって。こっちのターゲットはテメェらじゃねぇんだがな」 土方は懐から携帯電話を取り出す。銀時を後ろに守ったまま通話ボタンを押す。 「…俺だ、配備はいいか? 不本意だが、こいつら……、ッ!?」 そのとき。 あたり一帯に奇妙な静けさが流れた。 殺気とは違う。 しかし危険な。 甘美な音楽のように強烈な。 気配、人の放つ空気としか言いようのないものが満ちて空間を支配していく。 鬼兵隊士が息を呑んでざわめく。 彼らのひと隅(すみ)が自然と分かれて道をつくる。 その只中から、人影。 編笠をかぶり、墨染の僧服姿で、錫杖を手にした一人の男。 「ずいぶんと面白そうな余興じゃねぇか。猛った血のニオイがプンプンすらァ」 ワラジを履いた白い足袋の足が、踏み出すごとに威圧感。 「江戸の町並みを血の色に染める。けっこうな見世物だ。テメェも見てみてーだろ?」 あげた編笠の下に見える、左目に包帯を巻いている。 右目はぎらりと活きている。 あたりを睥睨しながら銀時ただ一人に、その隻眼に湛えた強烈な光を注いでくる。 「腐った国には血が似合う。こんな血の祭りに招かれねーたァ、ちと寂しい気もするなァ」 携帯を懐へ突っ込んで刀に手をかける。 一部の隙もない相手に土方が抜刀をこらえる横で、フッと銀時の構えが解ける。 両腕が力なくダラリと下がる。
ぽつりと。 |
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本日の更新 |
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* 高銀話です(連載中)
団子屋の店主が銀時を見て言葉に詰まる。 「女になって男前の兄ちゃんと結婚するんだって? そういうのはよォ、早めに言えよなァ…言ってくれりゃ俺だって…、」 店主は銀時の顔から体つき、腰つきを眺める。ひととおり見終えると、また銀時の顔をボンヤリ見つめる。 「お前さぁ、銀時、絶対、俺の店に来て団子食ってった方がいい。結婚しても、来いよ?」 「オイ。なに人の顔じろじろ見てんだ。俺は女になんざならねぇ」 銀時は声を低くする。団子屋の店主の頭の中で銀時がどんな風に変換されているか想像がつく。 「今日は人探ししてんだよ。人つってもウチの眼鏡だけどな。オメー、新八見なかったか?」 「見ねぇ。通ったかもしれないけど見てねぇ。テレビ見てた」 店主は銀時の横にいる黒ずくめの真選組隊士に目を走らせる。 「どうも、…見回りごくろうさんです、銀さん…いや銀時…いや銀時さんにはウチを贔屓にしてもらってます。どうぞ御贔屓に…」 「テメェ、態度違うじゃねーか。俺の顔見るたびツケ払えっつってたのにコイツには御挨拶かよ」 「ツケがあんのか?」 イラッと目を眇めた銀時の横で土方が財布を取り出す。 「俺が払う。いくらだ?」 「…いいんで? 3700円になってますけど、…気持ちオマケして3000円で」 「ちょ、なんでオメーが払うんだよ! いんだよ俺が払うから! オメーもなに値下げしてんだよ、俺んときはビタ一文まけないくせによ!」 「俺は女には値下げするんだよ。銀時、おまえ女になるって考えるとすごい美人だな。また来いよ、いくらでもツケにするからよ」 店主は銀時に言い、土方に頭をさげる。 「言ってくれればよォ、俺だってよォ…」 ぶつぶつ言っている店主に背を向け、団子屋を離れる。銀時の横を歩く土方は通りに目を配りながら、なにも言わない。 狂死郎は目を見張った。 「銀さんに女性になるとまで決意させた相手は、あなただったんですね。土方さん」 「その話はいいじゃねーの。俺は新八の行方を探しててだな、」 「そうはいきません。かぶき町はこの噂でもちきりですよ。なんたって銀さんの祝言ですから。当日は皆、式場へ詰めかけるって張り切ってます」 「とと当日って、祝言の?」 「もちろん。銀さんの晴れ姿を一目見ようとね」 「俺たちの式は屯所でささやかに挙げる。警備の関係上、招待客以外、ご遠慮願ってる。門外も外周すべて立ち入り禁止になるからよ。どっかのテレビ局が来るみてぇだから、放映されるのを茶の間で見てくれや」 「…そうですか」 狂死郎は目を伏せて嘆息する。 「しかし意外でしたね。あなたと銀さんは水と油のようなものだ。銀さんがあなたを選ぶとは。少々、妬けますよ」 「なに言ってんだ、オメーが妬けるわけねーだろ、俺たち何もないんだし」 「銀さんが女性になるとなれば話は別です。私はすべての女性を笑顔にしたい。銀さんも大切に持て成させていただきますよ。この高天ヶ原で」 クスっと笑う。 「火遊びしたくなったら、いつでもいらしてください。ヤケドを覚悟の上でね」 「たらしこんでねぇ」 「ホストクラブなんざ許さねぇ」 「許さねーとか、オメーに許されなきゃならない覚えはありませんー」 「ホストばかりじゃねぇな、…かぶき町…、いや江戸中どこへ行っても知り合いの男ばっかじゃねぇか。外はダメだ。やっぱ外出禁止だな」 「…ア?」 最初に気がついたのは銀時だった。そのあまりの信じられなさに前方を凝視し、その気配に土方が反応してそちらを見る。 ふたつ先の細い曲がり角に、派手な着流しの男が、こちらに背を向けて立っている。 「ありゃ…誰だ?」 土方は、いぶかしんで目を凝らす。高杉の手配書は回っていても、普段、高杉がどんな風体で、どんな場所に出没しているか、土方は知らないに違いない。 間違いない、あれは高杉の着物。しかし、どう振舞えばいいのか銀時は迷う。彼は自分たちの行手にいる。まさか土方と歩いているときに向こうから出向いてくるなんて。 土方との婚礼をテレビ放映で知ったのだろうか。 「オイ、なに固まってやがる。オメェの知り合いか?」 土方が尋ねてくる。銀時は返事ができない。ただ、用心深く一歩一歩、いつもと変わらぬ足取りで彼の佇む背中へ近づいていく。 「これはこれは、真選組の人間と一緒とは珍しいな」 数歩のところで、独特の笑い混じりの声が掛けられる。 「お前を待っていたんだ。どうしてもお前を外せない話があるんだよ。俺たちと一緒に来てもらいたい」 言い終わると同時に路地から、橋から、道の前後から攘夷志士が飛び出してきて二人を囲む。見覚えがある。高杉配下の鬼兵隊の面々だ。 「てめぇ…、」 銀時が身構える。木刀には手をかけぬまま、派手な着流しを睨みつける。 「どういうつもりだ?」 「友好的にしようぜ。手荒な真似は嫌いでね。だが暴れるならこっちも腕づくで連れていくことになる」 銀時は、告げた男を見つめる。横で土方が刀の柄に手をかけている。大量の攘夷志士に囲まれている以上、土方の所作は当然のものだ。 派手な着流しが、ゆっくりとこちらを振り返る。
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