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【2024/04/19 07:43 】 |
第56話 ご祝儀は社会人のたしなみ 5





「万事屋の旦……、ぎっ…銀時さん…っ!」

柵から乗り出した隊士たちが絶句し、目をギョロつかせて白い花嫁姿を眺めている。

息をするのを拒むようにムッと口を引き結び、決死の形相で視線を銀時のあちこちに這わせている。

その数瞬のち、呼吸が崩れるように思い思いの動きを展開させる。

「姐さん…っ!」

「貴方の為なら死ねるっ、いや死にますマジで!」

「俺が護るんだァ!!」

「いやオレだァ!」

「これからは毎日屯所に居るなんて…死ぬ、死ねるぅーッ!」

銀時に向かって騒ぐ者もいれば、携帯画面を見つめてシャッターを切ったり、一心不乱にメールを打ったり、どこかへ走っていく者もある。

「副長死ねーッ!」

「そうだ死ねぇ~!!」

「押すなーっ、柵が、壊れる、保たねぇーっ!」

「メキメキいってるぞ、押すなって!」

「触ったら斬首、覗いたら切腹ってマジすか、アンタぁ!」

柵が撓(たわ)む。

隊士の重みを支えきれずに壊れ始める。

先導の隈無清蔵は後ろへ片手を差し伸べて花婿たちの足を止めている。

苦々しい顔で隊士たちを睨んでいる土方と、立ち止まったまま俯いている白無垢の銀時。

庭と屋敷を隔てる唯一の柵が倒れれば勢いのまま隊士たちが花嫁の銀時に殺到するのは分かりきっている。

いやな音を立てて柵が倒されていく。

「う、おぉォー!」

傾いた柵を乗り越えて隊士たちがついに屋敷の域に踏み込んでくる。

思わず土方は銀時の前に立ち、その身を抱いて自分の後ろへ隠す。

隊士たちに悪気が無いのは解っている。

しかし彼らの形相に土方は緊張を漲らせる。

「感心しませんな」

闇雲に馳せる隊士たちの前に立ちはだかったのは、穏やかな、しかし有無を言わせぬ物腰の護衛、隈無清蔵だった。

「その勢いで詰めかけては花嫁の衣装に泥が飛びます。屯所で執りおこなう栄えある第一回目の祝言に、そんな汚点を許せますか?よごれた衣装のままこの人を幕閣たちの笑いものにしたいという人が、この中に居るのでしょうか?」

高らかに呼びかける隈無の声に隊士たちの足が鈍る。

「それでも己の欲望のまま花嫁に接近したいという者は来るといいでしょう。その不届き者には、もれなく…」

バシュッ、バシュッと隊士たちの足元に何かが撃ちこまれる。

声をあげてそれを避けようと飛び跳ねる。

被弾した地面には毒々しい紫の塗料が弾けている。

撃ちこまれたのはペイント弾、撃ったのは頭上の屋根にいた白い隊服の一団だった。

「この『今月の給料から不届き料さっぴき弾』をお見舞いします。一ヶ月ほど着色は取れませんので、各自どんな目に遭うかはご想像ください」

少し。

いやかなり隊士たちは正気に返る。

目の前には彼らの愛おしい憧れの人、しかしその隣りで怒りの眼を吊り上げているのは。

「や…やべ…!」

「いや、オレたちは何も…、……すいませんした、」

それが隊士たち一流の祝福であることも。

銀時の清淑な花嫁姿に血迷っての悪乗りとも、土方は解っているだろう。

しかしその紫の塗料がこびりついた一ヶ月は会うたび殴られること必至。

バツが悪そうに、未練タラタラ、けれども最終的に隊士たちは乗り越えてきた柵の向こうへ、てんでに引き上げていった。

「やっと道が開けました」

見届けて隈無は二人に前を指し示す。

「どうぞ、お進みください」

地面に炸裂した塗料を避けて、何事もなかったように隈無が先導を再開する。

土方が気がかりそうに銀時を見る。

「歩けるか?」

「ん…、」

小さく頷いて銀時は土方の袖に手をかける。

その指先を掬い取るように腕に引き受けて土方は自分の花嫁とともに前へ踏み出す。

飛び石をひとつひとつ確かめるように銀時は草履で踏んで越えていく。

銀時は俯き、土方も花嫁の足元に注意を払っている。

「銀さん」

隊士たちが歪めた柵から庭へ出ようとしたとき。

「…おめでとう。とってもキレイだよ…!」

グスッと鼻を啜る長谷川の声。

「なんてお似合いなんだ…!こんな良い野郎に想われて、銀さんもそいつを信頼してんだな。見てりゃ解るよ…」

「長谷川さん…」

銀時はそちらを見る。

しっとりと嫋(たお)やかな花嫁の面差しが長谷川に向けられる。

「なんでこんなとこ来たの?」

「なんで、って…た、助けに? ってか、アレ?なんでだろ?」

「俺、長谷川さんに助けに来てって言ったっけ?」

「い、いやぁ…、」

「まあいいや。祝儀もってきたよな?」

「え、祝儀って?」

「式に祝いに来るなら用意してくんだろ?社会人なんだからよ」

「す、すいません」

咲き誇ろうとほころびかけた純真な花、なのに唇が開いて可憐な声で告げるのは長谷川がよく知る銀髪の友人が述べる口上そのもので。

長谷川の鼻のグズつきが止まる。

「あの…銀さん、目、良くなったの?」

「あ。すっごい良くなった」

こともなく銀時は潤んだ瞳を瞬(またた)かせる。

「それより祝儀。ツケにしといてやるからあとでちゃんと持ってこいよな」

「は、ハイ…」

「俺、長谷川さんに書いたよね。祝儀よこせって。なんで祝儀も無しに来てんだよ」

「なんでじゃありませんよ。それが苦労して乗りこんできた人間に言う台詞ですか」

妙が銀時の前に立ちはだかる。

「自分こそ、私たちにこんな手間を掛けさせておいて、なんでそんな格好になってるんです?」

きつく見下げる際どい笑顔で言い渡す。

「だいたい天パのくせに私より可愛いなんて許せない。殺しますよ?」

「ちょっ…!」

土方が焦って妙を遮ろうとしたとき。

銀時が両手でそれをとどめさせる。

「オメーもなにしに来たの?俺のツラ見にきたってわけじゃねーだろ。ぞろぞろ大勢いるとこ見ると、さしずめ暴れに来たのか」

「新ちゃんのことを聞きに来たの。銀さん、新ちゃんをフッたんですって?」

 


続く


 

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【2012/11/22 22:40 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
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