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【2024/04/19 16:01 】 |
第57話 ご祝儀は社会人のたしなみ 6




「新八なんかフッてませんー」

銀時は気怠く言い返す。

「正確に言うと、フってる暇なんかありませんでしたァ。銀さんは僕のもの宣言したあと後悔すんなつって走り去ってっちまったんだからよ」

「なんですって。それじゃまるで新ちゃんが勝手に告白して玉砕したみたいじゃないの」

「その通りだけど」

「ますます認められないわ。新ちゃんの片想いの挙句、勘違いからのストーキング宣言だなんて。銀さん、新ちゃんのどこがダメだったんです?」

「どこがって。新八は弟みてーなモンだ。そういう関係にゃなれねーよ」

「新ちゃんはダメで、土方さんは良かったわけ?」

「…お前なァ。俺と新八が結ばれても良かったの?」

「あらいやだ。もォ、そんなの絶対ダメに決まってるでしょう」

ホホっと妙は口を押さえる。

「あんな目と眉の離れた稼ぎの悪いダメ侍なんてお断りよ。でも銀さんが女の子になってまで他の人とくっついて新ちゃんをフるなんて、そっちのがダメに決まってんだろーが」

妙の機嫌の悪い目つきが殺気走る。

土方と隈無が身構える。

得物をブン回すべく妙が握り手を変えたとき。

「アネゴー!!」

母屋の縁側から身軽い人影が飛び跳ねてきた。

「いらっしゃいマセヨ~!来てくれて嬉しいアル!」

「まああ、神楽ちゃん!」

妙は走りこんできた少女に声を弾ませる。

「おめかししたのね。とっても似合ってるわ、素敵よ」

「えへへ~!」

神楽は妙の腕にぶら下がってご満悦の体になる。

金銀の縫い取りをした薄桃色のチャイナ服に髪飾り。

神楽も祝いの席に加わる絢爛な身支度をしていた。

「銀ちゃんも似合ってるでショ? あれワタシも手伝ったんだヨ。マジ花嫁さんカッケーアル。ワタシもああいうのやりたいアル!」

「そうね、銀さん…いえ、あれはもう銀時ちゃんでいいんじゃないかしら? あそこまで可愛いらしいなら私の義妹として志村家に入ってもらってもよかったんだけど」

「わぁ、それならワタシも一緒にアネゴの妹になるアル!皆でお風呂入ったり布団でダベったりしようヨ!」

「それは願ってもないわ。でも義妹が二人いたら新ちゃんが大変でしょうね」

「新八は皆でいるの好きだから、なんだかんだいって喜ぶネ」

「おぅ、チャイナ。化けたじゃねーかィ」

沖田がわざわざ歩み寄ってきて声を掛ける。

「めでてェときの菓子みてーなナリしやがって。うまそうなんで食っていいですかィ」

「オマエに食わせるもんなんかひとつもないアル」

「なんでぃケチ」

カシャ、と音がして沖田が差し出した携帯カメラに神楽の姿が収まる。

「まあいいや、これでメシ3杯はいける。タダでいいオカズが手に入ったぜぃ」

「ちょっと、タダってなにアルカ。ワタシにもゴハンとタクアン回せヨ!」

「あらあら神楽ちゃん、タダでセクハラされてるの? ダメよ、男子は振り回すくらいでないと」

「お妙さん!俺はいつでも貴女に振り回されてますっ!」

「半径2メートル以内に入ってきたら振り回しますよ?」

「うごおおおッ!」

歩き出しながらお妙は薙刀を振り回す。

足取り軽く神楽がそれに続き、沖田も歩調を合わせる。

彼らが場所を空けたことで、ようやく本日の主役の進路が確保される。

銀時は土方に伴われ、隈無に先導されてゆったり柵から中庭へ進み出てくる。

隊士たちは彼らを押し包むように写真撮影の池の前へ移動していく。

「銀さん」

その目前を遮ったのは本城狂死郎と八郎率いるホストたちだった。

「それがアナタの覚悟なんですね」

「…店長」

「しかと見届けました。アナタの愛の作法を。そうまでして貫こうとしているものを私には止めることなどできない」

「いや止めらんないとかじゃなくて。ソコは止めようよ。止めてください」

「アナタにこんな格好をさせているのはこの人なんですね」

狂死郎は隣りに立つ土方へ視線を移す。

「なんて罪作りな男なんだ。貴男には一生、敵いそうにない」

「そいつァどーも」

土方は軽く鼻で笑う。

「どんな形であれ祝いに来てくれたのは有り難てぇ。当分コイツはオメーらの顔見にいくことは無ぇからよ」

「それはどうでしょう?」

「ホストクラブでくだらねぇ火遊びなんざさせねぇつってんだ。コイツの幸せを守んのは俺だからな」

聞いて狂死郎の後ろのホストたちが色めき立つ。

土方の挑発に拳を握りガンを飛ばす者もある。

「…まあまあ」

含み笑いで両者を抑えたのは当の狂死郎だった。

「それは銀さん次第でしょうから。とりあえず貴男の銀さんへの愛は重々承知しました。我々が余計な手出しをするのは野暮というもの」

「おめーらホント何しに来たの?」

銀時は不満を露わにする。

「祝言ぶち壊しに来たとかじゃねーの?暴れるんならさァ、さっさとやれってんだよ。やらないんなら帰ってくんない?」

「カンベンしてくださいよ旦那ァ…、いや姐さん」

山崎が走りこんでくる。

「これから写真撮って、ウチウチの挨拶して、軽く乾杯するんですから。この人たちはブチ壊すより一緒に写真に入ってもらったらどうですか?」

「入んのかよ、こんな大人数」

「なんとかなります」

「典型的な迷路写真じゃねーか。自分の顔探すのが嫌んなるから却下」

「旦那は探さないでしょ? 真ん中なんですから」

 

「はい、こちらリポーターの花野です!」

中庭でカメラに向かって解説する。

「これから写真撮影が行われる模様です。ですが人が多くて花嫁花婿にまったく近づけません!」

庭の中でも人が立ち入れるスペースは限られている。

花野アナの背後には参拝を待つ初詣客のような喧騒が映しだされている。

「さきほどから、なんとかお二人の姿を捉えようとしているのですが…御覧いただけますでしょうか? 婚約者の方は無事に性転換を終え、本当に可愛らしい花嫁となって副長さんの隣りに寄り添っています! まさにお似合いの二人ですっ!」

 

池の前にしつらえた和傘の元に新郎新婦が佇んでいる。

その両側にズラリと紋付や隊服の男たちが並ぶ。

局長、各隊の隊長たち、役付きの者、監察方、伝令方、技術班、平隊士…と真選組の序列はこの上なく明確だ。

花嫁の綿帽子は彼らの肩より下にあるものの、姿勢のいいガッチリした男たちの真ん中にあって白い姿は強靱な輝かしい存在感を放ち、少しも見劣りすることはない。

「それじゃ撮りますよ~」

山崎は撮影会の世話役らしい。

三脚を立てた本格的な写真機を手慣れたしぐさで操作している。

「まずは俺たちだけで何枚か撮ります。そのあと御友人たちに入ってもらいますんで」

おのおの隊士たちはグッと顎を引き、胸を張ってカメラレンズを睨めつける。

銀時は袖から覗く指先を着物の前で揃え、うつむきがちに口を噤んで視線を落としている。

土方は片手に扇子を握りこみ、もう片手は皆から見えないよう、そっと銀時を支えるように添えている。

「こっち見てくださ~い、笑って笑って~」

山崎がケーブル状のシャッターボタンのスイッチを手の中で押しこむ。

「はい、チーズ!」

カシャと慎ましい音がして、この瞬間が平面に記録される。

「まだもう一枚いきます。今度は俺も入るんで」

皆が姿勢を崩さないでいると山崎はカメラを覗きこんでタイマーを仕掛けている。

 

「いつもは強面(こわもて)な隊士の方々が、まるで七五三のようですね!」

キャバ嬢やホストが撮影の様子を眺めている。

その間を縫って花野アナがようやく見物人たちの最前列に至る。

「このあと我々のカメラがお二人に密着し、至高の花嫁となった坂田銀時さんの変身を上から下まで詳しくお伝えしていきま~す!」

 

「あれ、誰アルか?」

撮影を見守っていた人々に混じって神楽が屯所の屋根の陰を指す。

「あんなところから見下ろすなんてお行儀が悪いネ。しかもあの仮装。いやな気分アル」

「えっ、仮装?」

近くにいた長谷川が首を曲げてそちらを見上げる。

屯所の切妻屋根の合間に居たのは。

 

「ワハハハハハ!真選組諸君、この程度でこの桂の足を止められると思ったら大間違いだ!」

まったく瞬間を同じくして。

庭の正面、一般道路に面した長塀の上に。

長谷川が食い入るように見ているモノとは真逆の方向から、高らかな笑いと共に腕組みした桂、お供のエリザベスが現れ、決起した攘夷党の武装志士たちがワラワラと梯子を掛けて登ってくる。

「貴様らのような幕府の犬が、白夜叉と呼ばれ夷狄に立ち向かった最後の攘夷志士(もののふ)、我らの最強の武神を捕らえ娶ろうなどとは笑止千万。こんな縁組は絶対に認めん。よって桂小太郎、ならびに我と志を同じくする攘夷党有志はこの祝言を問答無用で阻止し、貴様ら真選組に天誅をくだす!」

ビシッと近藤に人差し指を向けて宣言する。

そのまま身を乗り出してキョロキョロする。

「銀時!迎えにきたぞ。どこにいる?」

「ここだ、ここ」

真選組の黒ずくめの中央で銀時が応える。

「お前、目ェ悪いの?真ん中でこんな格好してんのに見えないわけ?」

「おおそこに居たのか。ちんまいので気がつかなかった。…ん? き、貴様、なんという格好だっ」

桂は顔を赤らめて片手で目を覆いながら銀時を睨む。

「おなごのような格好で副長土方と並び立つとは、まるで心身ともにその男のものになろうと宣言してるようではないか、破廉恥なッ!」

「だからそうなの」

銀時は半眼を桂に向ける。

「これはそういう宣言のセレモニーなの。結婚式なんだからよ」

「なんだと?考えなおせ。貴様は若いんだ、十分やりなおせる」

桂は覆いを外して正視する。

「というか本当に縮んでないか? ははァん、さては若返ったな? 道理で見たことあると思った」

我が意を得たりと笑みを浮かべる。

「貴様はアレだ、俺と一緒にヤンチャ坊主に就任してた往年の白夜叉そのものだ」

「てめ、なに言ってくれてんの?」

銀時が口を尖らせる。

「全国放送されてる生中継で、人のこと物騒な解説つけて呼ばないでくんない?」

「そうだぞ、桂!」

近藤が進み出る。

「銀時は真選組に嫁入りするんだ!あやふやな情報をもとに誹謗を繰り広げ、真剣に愛し合ってる二人を引き裂くような真似は俺が許さん!」

「なにを言う。銀時のことは俺が一番よく知っている。あやふやなことなどあるものか」

「お前、銀時が判らなかっただろ?」

近藤の力強い正言。

「少し外見が変わったくらいで見分けのつかない奴が『一番よく知ってる』だと? お前が言ってるのは人違いじゃないのか!?」

「なに?」

「真選組が花嫁として迎えるからには、俺たちは全力で銀時を護る!邪魔するな、桂」

「貴様ら…!」

桂は思慮深く中庭を見渡す。

「そうか…なるほど、そういうことか」

「解ってくれたか」

近藤はわずかに表情を解く。

「ならばここは退いて二人を祝福してくれ」

「つまりそれは銀時ではなく、銀時そっくりの女性(おなご)というわけだな。そんな者がいたら俺は奪いとってでも求愛する」

「えぇーッ?」

銀時が不承知めいた声をあげる。

口元に笑みを乗せて桂は言い放つ。

「どっちにしろ銀時(仮)は俺がもらっていくぞ!」

その宣告と同時に。

桂率いる攘夷党の志士たちが呻くように呟く。

「白夜叉…あなたを幕府には渡すまい!」

腹にたまった怒りが彼らの腕をブルリと震わせる。

対する真選組も満を持して応戦する。

着物の者は襷をかけて用意の愛刀を携える。

「二人とも下がってろ。トシ、銀時を頼むぞ」

「アァ。解ってる」




「あ………わわっ、」

長谷川は慌てふためいて言葉が出てこない。

意味不明な単語を発しながら辺りを見回して伝えるべき相手を探す。

周りは攘夷党の襲撃に気を取られている。

「し、…新八君…!」

長谷川は小声で叫ぶ。

「ダメだよ、来ちゃ…!」

「新ちゃん?」

妙が長谷川を振り見る。

「今、長谷川さん、新ちゃんって…」

長谷川の視線を辿ってそちらを見る。

『それ』が目に入る。

短く息を飲む。

「あれが!? う、嘘よ!あれが新ちゃんのわけ…!」

「新八…?」

神楽は首を傾げる。

だらりと垂れた腕、3メートルにも及ぶ巨体、崩れかけたリーゼント。

ヨダレを垂らし、焦点をなくし、カラクリめいた管を全身に生やした異形の者。

真選組屯所の屋根の陰から庭を見下ろしていたのは。


『坂田銀時は…どこだィ?』


紅桜 ─── 否、ネオ紅桜に憑依され原型をとどめぬまでに変形した狂気の宿主だった。





続く


 

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【2012/11/22 22:35 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
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