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【2024/04/25 20:45 】 |
第55話 ご祝儀は社会人のたしなみ 4




「ごほっごほっ…ひどっ…、も~荒っぽいのなんとかなりません!?一般市民を撃つなんてひどすぎますっ!」

花野アナはマイクを握ったまま最前列に混じっていた。

「え~、真選組は人々を受け入れ、事態の収拾に当たる模様です! 我々は彼らに同行し、その様子をしっかりと伝えたいと思います!」

妙、長谷川、狂死郎を先頭とする一団が撮影クルーと共に一番隊に率いられていく。

彼らが誘導するのは屋外だ。

建物には入らず、ちょっとした隙間を抜けながら土の地面をそのまま歩いて裏へ裏へと回りこんでいく。

 

「ずいぶん歩くのね」

妙は付かず離れず当然のように妙のそばを同行している近藤に笑顔で尋ねる。

「道順を解らなくしてケムにまこうったってそうはいきませんよ」

「いや、そんなことはありませんよ!ちょっと入り組んでますけど、これは警備上の問題でね!ガッハッハッハ!」

「同じようなとこ何回も通ってる気がするけど、違うのかな?」

長谷川は来た方を振り返る。

「皆ちゃんと付いてきてる?通路が狭くて一人二人ずつしか通れないから最後尾が見えなくなっちゃった」

「大勢を一気に攻めこませないための造りですね。ここが砦となる真選組の本陣であれば当然の備えでしょう」

狂死郎が前後を見回す。

「それにしても長い。まるで迷路だ。味方はすっかり縦長一列に引き伸ばされてしまったが…」

「真選組の屯所ってさ、そんなに広大無辺じゃないよね。普通の武家屋敷くらいの規模だよね?これじゃまるでターミナルの地下動力部くらいの勢いなんだけど。なんでこんな広いわけ?オレたち異次元に迷いこんだ?」

「ちっぽけな孤島に大渓谷が横たわり、空を圧する絶壁が押し続き、果ても知らぬ大森林が打ち続く…」

前を歩いていた沖田がバズーカごと振り返って長谷川の呟きに応える。

「『パノラマ島奇談』て大作がありやしてね、それに出てくるのと同じ仕掛けでさァ。俺たちは屯所を堅固な要塞に造り替え、ついにパノラマ島にすることに成功したんで」

「パノラマ島?じゃ、じゃあ俺たち、全裸で鬼ごっこのアダムとイブにされちゃうわけェ!?」

「そんなワイセツ物の陳列はしてねーです」

沖田は、両側の建物が迫った細い通路から、やっとひらけた場所へ一同を連れて踏み出していく。

「ここに陳列されるのはもっと卑猥なもんでさァ。花婿の土方さんと、すっかり変わっちまった万事屋の旦那」

若いながらも風情よく整えられた立ち木、適所に配された庭石。

ちょっとした岩山から流れこむ滝を受けて水音と波紋を広げる涼やかな池。

艶やかな曲線を形づくる鮮やかな緑の濃淡に陽光が降り注いでいる。

「ここは…、」

池の手前に大きな日よけの和傘がひとつ、立てられている。

ゴミひとつなく掃き清められた玉砂利に赤い毛氈が敷かれ、漆塗りの腰掛けが設置され、そこに立つ主役を待ち構えている。

「結婚式場!?」

通路から出てきた者たちは目を瞬かせる。

あとからあとからやってきて、通路付近にキャバ嬢とホストが溜まっていく。

玉砂利の緋毛氈の周りには真選組の隊士が紋付を着けてたむろし、手持ち無沙汰に、しかしソワソワと談笑している。

彼らが気にしているのは庭に面した家屋の廊下。

視線はその一方向へチラチラと向けられている。

「どうしたんですか局長、沖田隊長」

大切な瞬間を見逃すまいと待ち構えながらも、彼らの上司の到来には気づいていて隊士たちは次々にペコリと会釈する。

彼らが連れてきた派手かつ武装した民間人にはどうしたものかと顔を見合わせていたが、その中から抜け出てきたのは監察役の山崎退だった。

「どうしたもこうしたも、お妙さんが話があるって訪ねてきてくれたんだ。お通ししないわけにいかないだろう?」

近藤はキリッと締まった表情で山崎に説明する。

「いっそ挙式に参列してもらえば夫婦みたいで格好がつくしな!」

「誰が夫婦?」

後ろから妙に薙刀の柄で尻を突かれる。

「聞こえなかったのかしら。私は新ちゃんの手がかりが欲しいの。銀さんに新ちゃんのことを聞こうと思って」

「でも局長、もうすぐ副長たちが出て来る時間ですし」

山崎は遠慮がちに引きつり笑う。

「一般人がいたら、マズイのでは?」

「挙式の前に、銀さんと我々で話をさせてください」

狂死郎が近藤、山崎のやりとりに割って入る。

「30分の立ち入りを許可されています。その間の我々の行動は容認されますよね?」

「あ~、局長が許可したんですか…」

山崎は頭を掻く。彼も正装だ。

「まいったな、これから写真撮影なんですよ」

「写真撮影?挙式は…!?」

「ええ、午後からの挙式ですけど、そのときはお偉いさんが一杯ですからね。幕閣のお歴々を待たせて俺たちだけでワイワイ内輪の記念撮影なんてできないでしょ?」

池を背景にしたセッティングを振り返る。

役番のない隊士たちが慣れぬ正装にかしこまって陽気につどっている。

「だからお客さんが来る前にここで好きなだけ写そうと思いまして。副長も万事屋の旦那もすっかり準備を整えて式に出る格好ですし、式の前のリハーサルにはちょうどいいかなって」

「そう。それならこちらも都合がいいわ」

妙が笑顔のまま薙刀を斜めに持って進み出る。

「写真撮影の前にあのダメ侍を討つ。新ちゃんの仇、足腰立たなくなるまで叩き潰してあげなくちゃね」

「その前に銀さんの気持ちを確かめましょう」

狂死郎が念を押す。

「どういうつもりで性転換や結婚を承諾したのか。不本意ななりゆきではないのか。もしそうだとしたら、お妙さん。貴女の仇討ちを看過するわけにはいかない」

「そういや銀さん、もう性転換したの?」

長谷川がキョロキョロし、皆の見ている建物の縁側廊下へグラサンを向ける。

「銀さんがバイトでオカマバーの女装してたの見たけどさぁ、あんな感じかね。タッパがあって肩幅広くてドスドス歩く感じの…」

 

「やっと追いつきました、…あっ!ここはあの、秘密の中庭ですね!」

キャバ嬢やホストをこまめに取材してコメントを取っていた花野アナが、ようやく撮影クルーとともにやってきた。

「通常は隊士の方々も立入禁止という特別な場所だそうですが、今日は皆さん、特別におめかしして揃ってらっしゃいます。一般隊士の皆さんに副長さんの結婚式をどのような思いで迎えているのか、少しお話を伺ってみましょう!」

「ちょ、困るよ! この通路、全部撮ったんじゃないだろうね!? ここ、企業秘密だからね!」

「来るときはカメラ回しっぱなしだと思いますけど」

慌てる近藤に花野アナが答える。

「でも我々は抗議者の声をお聞きしていたので、人物以外の写しちゃ悪いものは撮ってませんよ?」

「カットしといてくれよなっ!」

近藤が撮影クルーに言い放つ。

「編集とか、お茶の間に流す前にやるよね!?そんとき背景をモザイク処理できるんだよね!?」

「これ、生中継です」

カメラ脇のAD(アシスタントディレクター)がダメ、の手を振る。

近藤は衝撃を受けて強張った表情のまま立ち尽くす。

「そんなことより、いつになったら来るんですか」

妙が焦れる。

「支度の場へ乗りこんでいってもいいのだけど」

「まさか体調を崩したとか」

狂死郎が案じる。

「邪道なクスリで意識を失うこともあると聞きます」

「お化粧に手間取ってるんじゃないの~?」

長谷川はニヤニヤ笑いで廊下を眺めている。

「女はさァ、出掛けに突拍子もないところで引っかかって嘘だろ?ってほど時間かかるからさ」


「…アッ!」

そのとき。

家屋の一番近いところで、庭と建物を仕切る柵に身を乗り出していた隊士が叫んだ。

「き、きた! きたきた、きたぁ~っ!!」

「え?来た?来たんですか?」

花野アナが隊士たちの中で振り返る。

「どこですか、どんな…? きゃ、きゃああああ!」

うぉおおおおーッ という地面から響くような雄叫びとともに、隊士たちが仕切りの柵めざして殺到する。

花野アナと撮影クルーは隊士の勢いにもみくちゃにされて踏鞴(たたら)を踏む。

妙、狂死郎、彼らの加勢の者たちと長谷川も、つられて隊士たちの後ろへ踏み出し、しまいに駆け足になる。

近藤は誇らしげにそちらを見守り、頭の後ろに両腕を組んだ沖田は無関心を装って横を向いている。


母屋の縁側、建物をぐるりとめぐる廊下の曲がり角。粛然と進んでくる人影がある。

先導は長身の隊士、護衛の隈無清蔵。

後ろに雄々しい花婿、勇壮ですらある黒の紋付を着けた土方が続いている。

その横に、白く可憐な存在。

綿帽子をすっぽりかぶって顔は見えない。

うつむいた銀色の前髪だけが見え隠れする。

小柄な肩に真っ白な打ち掛けを羽織り、背は花婿の肩ほどまでしかなく、華奢な身体は掛下の着物も帯も足袋も、帯に挟んだ懐剣の柄飾りまで全て白一色に包まれ統一されている。

花婿に寄り添われ、手を引かれ、一歩一歩慎重に歩くさまは、とても武人の銀時と同じ人物とは思えない。

なにより背格好が違う。

線の細い少女のような。

「ぎ、ぎ、ぎ………銀さん、…?」

一同、目を疑う。

気遣われ、いたわられながら踏み石を降り、段差に戸惑いながら花婿に支えられて白い草履をはき、袖から覗いた白い手で着物の裾を持ち上げて庭へやってきた清楚な花嫁。

呼びかけに、ぴくっと足を止める。

中庭に出る柵の手前。

皆が柵にすずなりになって凝視する。

「おまえら…」

そろそろと綿帽子の頭があがる。

「なんでこんなとこに居んの?」

高い鳥のさえずりのような微かな声。

友人たちを見る、綿帽子の下に現れたしっかりと見据える両の瞳。

世人の視線を惹きつけてやまない整った顔立ち、危ういほどに細い首すじ。

化粧を施されたその肌はみずみずしい透明感に光を放つ。

ほんのり彩りを加えられた目元と頬、ぷっくりした紅い唇は扇情的ですらあって。

あどけない子供のような柔らかな輪郭、丸っこい目尻のラインは人懐っこさを滲ませる。

まちがいない。

まごうことなき彼らの友人、万事屋のあるじ。

坂田銀時は、その魂を携えたまま年若い花嫁へと変貌を遂げていた。

 

続く


 

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【2012/11/22 22:45 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
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