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団子屋の店主が銀時を見て言葉に詰まる。 「女になって男前の兄ちゃんと結婚するんだって? そういうのはよォ、早めに言えよなァ…言ってくれりゃ俺だって…」 店主は銀時の顔から体つき、腰つきを眺める。 ひととおり見終えると、また銀時の顔をボンヤリ見つめる。 「お前さぁ、銀時、絶対、俺の店に来て団子食ってった方がいい。結婚しても来いよ?」 「オイ。なに人の顔じろじろ見てんだ。俺は女になんざならねぇ」 銀時は声を低くする。 団子屋の店主の頭の中で銀時がどんな風に変換されているか想像がつく。 「今日は人探ししてんだよ。人つってもウチの眼鏡だけどな。オメー、新八見なかったか?」 「見ねぇ。通ったかもしれないけど見てねぇ。テレビ見てた」 店主は銀時の横にいる黒ずくめの真選組隊士に目を走らせる。 「どうも、…見回りごくろうさんです、銀さん…いや銀時…いや銀時さんにはウチを贔屓にしてもらってます。どうぞ御贔屓に…」 「テメェ、態度違うじゃねーか。俺の顔見るたびツケ払えっつってたのにコイツには御挨拶かよ」 「ツケがあんのか?」 イラッと目を眇めた銀時の横で土方が財布を取り出す。 「俺が払う。いくらだ?」 「…いいんで? 3700円になってますけど、…気持ちオマケして3000円で」 「ちょ、なんでオメーが払うんだよ! いんだよ俺が払うから! オメーもなに値下げしてんだよ、俺んときはビタ一文まけないくせによ!」 「俺は女には値下げするんだよ。銀時、おまえ女になるって考えるとすごい美人だな。また来いよ、いくらでもツケにするからよ」 店主は銀時に言い、土方に頭をさげる。 「言ってくれればよォ、俺だってよォ…」 ぶつぶつ言っている店主に背を向け団子屋を離れる。 銀時の横を歩く土方は通りに目を配りながら、なにも言わない。
「この人…ですか」 狂死郎は目を見張った。 「銀さんに女性になるとまで決意させた相手は、貴男だったんですね。土方さん」 「その話はいいじゃねーの。俺は新八の行方を探しててだな、」 「そうはいきません。かぶき町はこの噂でもちきりですよ。なんたって銀さんの祝言ですから。当日は皆、式場へ詰めかけるって張り切ってます」 「とと当日って、祝言の?」 「もちろん。銀さんの晴れ姿を一目見ようとね」 「俺たちの式は屯所でささやかに挙げる。警備の関係上、招待客以外、ご遠慮願ってる。門外も外周すべて立ち入り禁止になるからよ。どっかのテレビ局が来るみてぇだから、放映されるのを茶の間で見てくれや」 「…そうですか」 狂死郎は目を伏せて嘆息する。 「しかし意外でしたね。あなたと銀さんは水と油のようなものだ。銀さんがあなたを選ぶとは。少々、妬けますよ」 「なに言ってんだ、オメーが妬けるわけねーだろ、俺たち何もないんだし」 「銀さんが女性になるとなれば話は別です。私はすべての女性を笑顔にしたい。銀さんも大切に持て成させていただきますよ。この高天ヶ原で」 クスっと笑う。 「火遊びしたくなったら、いつでもいらしてください。ヤケドを覚悟の上でね」
「オメェはホストまでたらしこんでんのか」 「たらしこんでねぇ」 「ホストクラブなんざ許さねぇ」 「許さねーとか、オメーに許されなきゃならない覚えはありませんー」 「ホストばかりじゃねぇな、…かぶき町…、いや江戸中どこへ行っても知り合いの男ばっかじゃねぇか。外はダメだ。やっぱ外出禁止だな」 「お前なに考えてるの。頭の中で俺を女にしてるだろ。俺は女になんかならねぇ。男と会ったってなんの問題もねぇんだよ」
そろそろ夕方になろうかとしていた。 新八を訪ね歩くも手がかりはなく、銀時の提案で恒道館へ向かう、その途中。 「…ア?」 最初に気がついたのは銀時だった。 そのあまりの信じられなさに前方を凝視し、その気配に土方が反応してそちらを見る。 ふたつ先の細い曲がり角に、派手な着流しの男が、こちらに背を向けて立っている。 「ありゃ…誰だ?」 土方は、いぶかしんで目を凝らす。 高杉の手配書は回っていても、普段、高杉がどんな風体で、どんな場所に出没しているか、土方は知らないに違いない。 間違いない、あれは高杉の着物。 しかし、どう振舞えばいいのか銀時は迷う。 彼は自分たちの行手にいる。 まさか土方と歩いているときに向こうから出向いてくるなんて。 土方との婚礼をテレビ放映で知ったのだろうか。 用件は。 嫌味でも言いに来たのか。 それとも問答無用で叩っ斬りに来たのか。 自分はこのまま彼に近づいていっていいのか。 適当に理由をつけて土方もろとも引き返し、遭遇を避けるべきなのか。 「オイ、なに固まってやがる。オメェの知り合いか?」 土方が尋ねてくる。 銀時は返事ができない。 ただ、用心深く一歩一歩、いつもと変わらぬ足取りで彼の佇む背中へ近づいていく。
数歩のところで、独特の笑い混じりの声が掛けられる。 「お前を待っていたんだ。どうしてもお前を外せない話があるんだよ。俺たちと一緒に来てもらいたい」 言い終わると同時に路地から、橋から、道の前後から攘夷志士が飛び出してきて二人を囲む。 見覚えがある。高杉配下の鬼兵隊の面々だ。 「てめぇ…、」 銀時が身構える。 木刀には手をかけぬまま、派手な着流しを睨みつける。 「どういうつもりだ?」 「友好的にしようぜ。手荒な真似は嫌いでね。だが暴れるならこっちも腕づくで連れていくことになる」 銀時は、告げた男を見つめる。 横で土方が刀の柄に手をかけている。 大量の攘夷志士に囲まれている以上、土方の所作は当然のものだ。
派手な着流しが、ゆっくりとこちらを振り返る。
銀時は、そして土方も思わず息を飲んだ。 PR |
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