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【2020/02/22 01:50 】 |
第20話 恋の鞘当ては華麗にすべし 2





江戸湾13号地は新八が寺門通親衛隊の集会に使っている場所だ。

頑張れば、かぶき町から歩いていける庶民の憩いの海岸エリアである。

「…いねーな」

大江戸テレビ局の特徴的な建物を背景に、海辺からすぐの陸地側には新開発された街並みが広がっている。

道沿いに車を停めると銀時と土方は連れ立って道路から浜辺を見渡した。

幼児を連れた家族や散策のお年寄りが居るほかは、ランニングの若者が砂を蹴り上げて走ってるだけだ。

銀時は目に映る限り、すみから隅まで砂浜を探す。

いつもはバカやってる知り合いの一人くらい居るのだが、こんな日に限って声をかけて挨拶できそうな相手も見つからない。

「…メガネはオメーに恋慕してんだよな」

眼下の海辺を見たまま土方が尋ねる。

「婚儀を認めねぇつもりらしいが、なにかしでかすと思うか?」

「アイツは見かけによらず行動派なんだよ」

銀時は苦笑とも自慢ともつかない笑みを口元に浮かべる。

「考えがあるつって走ってったんだ。やるときゃやるだろーな。けどアイツに他人を傷つけるような真似はできねェ。そこは信用していいぜ」

「…わかんねぇモンだな」

「あ? なにが」

「まさかメガネが長いことオメェの元で想いを募らせていたとはな」

「俺だって初めて聞いたっつーの」

銀時が心外とでもいうように鼻を鳴らす。

「ぱっつぁんのことは嫌いじゃねーよ。けどま、弟みたいなもんだし。考えたことねーし。今も考えらんねーな」

だよな、と土方は思う。

銀時に絡みつく影はいくつか感知してきたが、新八が銀時を恋い慕っているとはカケラも予想していなかった。

─── では、俺は?

    銀時は少しは俺のことを性愛の相手に連想したことがあるんだろうか

「…次、探すか」

土方は浮かんだ疑問を飲みこんで銀時を促す。

新八を心配する銀時に余計な質問はNGだ。

「メガネがどんな手に出るか解れば場所も割りやすいんだがな」

「…あのさぁ」

踵を返そうとする土方。

その横で銀時は髪も、着物の袖も、裾も、風に浮かされて、美しくなびかせていた。

「ちょっと寄ってかない? 海」

「構わねぇが。なんか思い当たることでもあったのか?」

「そうじゃねーよ。今、二人きりだろ。…デートくれぇしようや」

銀時は自然体で誘う。

「俺たち籍入れるんだぜ。祝言あげる前に恋人みてーなことしとかねーと、あとで後悔してもアレだし?」

「…願ってもねぇな」

土方は予想外の申し出に素直に応じた。

銀時はフイと前を歩き、砂浜への階段を降りていく。

照れたように見えるが、銀時は照れるようなタマではない。

コイツ、なにか企んでる。

土方は感づいたが気づかないフリをして銀時のあとに続く。

「お。でけぇ貝殻」

細かい砂を踏んでいくと足元には陸地では見ない珍しいものが散らばっている。

それを覗きこみながら銀時は指を差して土方に見ろと言わんばかりだ。

打ち上げられた海の生き物や異国からの漂流物は、ただの残骸にすぎないのだが、砂浜の上に銀時と一緒に見つけながら歩くと、ただのゴミを見る作業が楽しい発見の歓びに変わるから不思議だ。

「ガラスみっけ」

どんな意図があろうと銀時とのデートを棒に振る手はないだろう。

波に揉まれて角がとれた丸い物体を、銀時は拾って手の中に転がしている。

見ていると銀時は土方の興味を確認し、ハイ、とそれを土方に手渡した。

「…ありがとよ」

そのとき少し銀時が笑った気がして、土方はやけに心が燥(はしゃ)ぐ。

どうってことないガラスのカケラ。

不透明な濃い緑のそれを掌の中に囲う。

「こういうの見つけんのウマいんだよ。海辺はお宝がいっぱいだかんな」

銀時が得意そうにに注釈する。

「ソレ、売れるんだぜ。金に困ったら俺たちゃここに来て集めんだ」

「こんな…ガラクタが売れんのか?」

「アクセサリーとか、壁に埋め込んで装飾にとか、需要あんだよ」

物知らずに呆れたように言ってから海を振り返る。

「もうここへ来て拾うこともなくなんのかな…」

それは万事屋三人の思い出なのだろう。

感傷に浸るような銀時の様子に思わず土方は否定する。

「別に終わりじゃねぇよ。また来りゃいいだろが、メガネとチャイナ連れて」

「…え?」

「ガキとの外出くれぇ、止めねぇよ。いくらでもここへ来て拾やいい」

「……なに?オメーは俺に海でガキと一緒にガラクタ拾えってか?小遣いくんねーの?」

「エ?」

「拾いたくないんですけど、別に」

「………」

「………」

銀時は軽く怒りを浮かべ、いっそ蔑んだ目をしている。

土方は気遣いが裏目に出てバツが悪いことこの上ない。

刺さる銀時の視線が痛くて握った拳を震わせる。

「…ま、」

「『ま』?」

「紛らわしい真似すんなァァァ!テメェが寂しそうにしてっから情けをかけてやりゃァ…!」

「アレ?寂しそうに見えた?」

銀時は、へらっと笑う。

「それは土方君の罪悪感だよ。人は負い目があるとき、周りの人間の行動に意味を付け加えます」

「うるっせーッ!」

銀時の胸ぐらを掴みあげようと腕を伸ばす。

ひらりと躱して銀時は2、3歩うしろへ飛び退く。

「図星ィ? 大丈夫だって、銀さんどんな環境にも慣れんの早いから。それより腹さぐりあって、いつまでも暗い顔つきあわせて罪悪感おしつけられてんのキツいから。だからさァ」

からかうように、本気ともとれる言葉を投げて銀時は身をひるがえす。

「追いかけて捕まえてみろや。捕まったら本気でセックスしてやっから」

はればれと宣言する。

「けど捕まんなかったら初夜はナシな? 欲しいモンは自分で確保しろよな」

「ぬかしやがって。上等じゃねーか」

土方はムキになって怒鳴る。

「言ったかんな、忘れんなよテメェ!」

「オメー警察官だろ、一応? アハハハハ、捕まえてごらんなさぁい!」

ひらひら袖をひるがえして逃げていく。

すぐに追いついてその袖を掴むことはたやすく思えた。

しかし銀時はすんでのところで土方の手を擦り抜ける。

「待て、テメェ」

銀時が加減して走っているのだと、本気を出せばすぐに差が開いて銀時がつまらないのだと、ものの数秒で分かったが、悔しさより銀時の油断を見すまして捕まえる方が先だ。

「こちとら伊達に砂浜でメシのタネ拾ってるわけじゃねーんだよ。アスファルトが恋しい? それとも車の座席ィ?」

土方の手を躱しながら銀時も笑顔で息を荒らげていく。

その顔が自分に向けられている限り、翻弄されてることなど甘い甘いもどかしさでしかない。

「なめんなコラァ!」

土方がジャンプ一番、銀時の着流しに飛びかかろうと砂を踏み切ったとき。


「あの~、失礼ですが真選組の土方副長さんと、噂の銀髪の婚約者の方ですよね?!」

マイクを持ったテレビでおなじみの女性レポーターが、カメラマンや音声、撮影スタッフを引き連れて海岸道路の方から砂浜めがけて走ってきた。

「……え?」

ぎくりと二人はそちらを見る。

あきらかに撮影が始まっている。

カメラの横には大江戸テレビのマーク。

そうか、この海岸は大江戸テレビから丸見えだ。

というより、いつから自分たちは撮影されていたんだ?


「いま、副長さんの熱愛が巷で話題沸騰しています! 来週予定されています結婚式にむけて、お二人の抱負をお聞かせください!」

ものすごい勢いで喋り迫ってくる花野アナ。

全国のお茶の間へ通じる穴のような黒いレンズを凝視して、ひくりと二人は頬を引きつらせた。




続く

 

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【2012/11/30 21:55 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
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