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* 『高銀の話(旅小説その5)』 http://blog.livedoor.jp/rumoihide/ 更新(一件) 花野アナはマイクを握ったまま最前列に混じっていた。 「え~、真選組は人々を受け入れ、事態の収拾に当たる模様です! 我々は彼らに同行し、その様子をしっかりと伝えたいと思います!」 妙、長谷川、狂死郎を先頭とする一団が撮影クルーと共に一番隊に率いられていく。 彼らが誘導するのは屋外だ。 建物には入らず、ちょっとした隙間を抜けながら土の地面をそのまま歩いて裏へ裏へと回りこんでいく。
「ずいぶん歩くのね」 妙は付かず離れず当然のように妙のそばを同行している近藤に笑顔で尋ねる。 「道順を解らなくしてケムにまこうったってそうはいきませんよ」 「いや、そんなことはありませんよ!ちょっと入り組んでますけど、これは警備上の問題でね!ガッハッハッハ!」 「同じようなとこ何回も通ってる気がするけど、違うのかな?」 長谷川は来た方を振り返る。 「皆ちゃんと付いてきてる?通路が狭くて一人二人ずつしか通れないから最後尾が見えなくなっちゃった」 「大勢を一気に攻めこませないための造りですね。ここが砦となる真選組の本陣であれば当然の備えでしょう」 狂死郎が前後を見回す。 「それにしても長い。まるで迷路だ。味方はすっかり縦長一列に引き伸ばされてしまったが…」 「真選組の屯所ってさ、そんなに広大無辺じゃないよね。普通の武家屋敷くらいの規模だよね?これじゃまるでターミナルの地下動力部くらいの勢いなんだけど。なんでこんな広いわけ?オレたち異次元に迷いこんだ?」 「ちっぽけな孤島に大渓谷が横たわり、空を圧する絶壁が押し続き、果ても知らぬ大森林が打ち続く…」 前を歩いていた沖田がバズーカごと振り返って長谷川の呟きに応える。 「『パノラマ島奇談』て大作がありやしてね、それに出てくるのと同じ仕掛けでさァ。俺たちは屯所を堅固な要塞に造り替え、ついにパノラマ島にすることに成功したんで」 「パノラマ島?じゃ、じゃあ俺たち、全裸で鬼ごっこのアダムとイブにされちゃうわけェ!?」 「そんなワイセツ物の陳列はしてねーです」 沖田は、両側の建物が迫った細い通路から、やっとひらけた場所へ一同を連れて踏み出していく。 「ここに陳列されるのはもっと卑猥なもんでさァ。花婿の土方さんと、すっかり変わっちまった万事屋の旦那」 若いながらも風情よく整えられた立ち木、適所に配された庭石。 ちょっとした岩山から流れこむ滝を受けて水音と波紋を広げる涼やかな池。 艶やかな曲線を形づくる鮮やかな緑の濃淡に陽光が降り注いでいる。 「ここは…、」 池の手前に大きな日よけの和傘がひとつ、立てられている。 ゴミひとつなく掃き清められた玉砂利に赤い毛氈が敷かれ、漆塗りの腰掛けが設置され、そこに立つ主役を待ち構えている。 「結婚式場!?」 通路から出てきた者たちは目を瞬かせる。 あとからあとからやってきて、通路付近にキャバ嬢とホストが溜まっていく。 玉砂利の緋毛氈の周りには真選組の隊士が紋付を着けてたむろし、手持ち無沙汰に、しかしソワソワと談笑している。 彼らが気にしているのは庭に面した家屋の廊下。 視線はその一方向へチラチラと向けられている。 「どうしたんですか局長、沖田隊長」 大切な瞬間を見逃すまいと待ち構えながらも、彼らの上司の到来には気づいていて隊士たちは次々にペコリと会釈する。 彼らが連れてきた派手かつ武装した民間人にはどうしたものかと顔を見合わせていたが、その中から抜け出てきたのは監察役の山崎退だった。 「どうしたもこうしたも、お妙さんが話があるって訪ねてきてくれたんだ。お通ししないわけにいかないだろう?」 近藤はキリッと締まった表情で山崎に説明する。 「いっそ挙式に参列してもらえば夫婦みたいで格好がつくしな!」 「誰が夫婦?」 後ろから妙に薙刀の柄で尻を突かれる。 「聞こえなかったのかしら。私は新ちゃんの手がかりが欲しいの。銀さんに新ちゃんのことを聞こうと思って」 「でも局長、もうすぐ副長たちが出て来る時間ですし」 山崎は遠慮がちに引きつり笑う。 「一般人がいたら、マズイのでは?」 「挙式の前に、銀さんと我々で話をさせてください」 狂死郎が近藤、山崎のやりとりに割って入る。 「30分の立ち入りを許可されています。その間の我々の行動は容認されますよね?」 「あ~、局長が許可したんですか…」 山崎は頭を掻く。彼も正装だ。 「まいったな、これから写真撮影なんですよ」 「写真撮影?挙式は…!?」 「ええ、午後からの挙式ですけど、そのときはお偉いさんが一杯ですからね。幕閣のお歴々を待たせて俺たちだけでワイワイ内輪の記念撮影なんてできないでしょ?」 池を背景にしたセッティングを振り返る。 役番のない隊士たちが慣れぬ正装にかしこまって陽気につどっている。 「だからお客さんが来る前にここで好きなだけ写そうと思いまして。副長も万事屋の旦那もすっかり準備を整えて式に出る格好ですし、式の前のリハーサルにはちょうどいいかなって」 「そう。それならこちらも都合がいいわ」 妙が笑顔のまま薙刀を斜めに持って進み出る。 「写真撮影の前にあのダメ侍を討つ。新ちゃんの仇、足腰立たなくなるまで叩き潰してあげなくちゃね」 「その前に銀さんの気持ちを確かめましょう」 狂死郎が念を押す。 「どういうつもりで性転換や結婚を承諾したのか。不本意ななりゆきではないのか。もしそうだとしたら、お妙さん。貴女の仇討ちを看過するわけにはいかない」 「そういや銀さん、もう性転換したの?」 長谷川がキョロキョロし、皆の見ている建物の縁側廊下へグラサンを向ける。 「銀さんがバイトでオカマバーの女装してたの見たけどさぁ、あんな感じかね。タッパがあって肩幅広くてドスドス歩く感じの…」
「やっと追いつきました、…あっ!ここはあの、秘密の中庭ですね!」 キャバ嬢やホストをこまめに取材してコメントを取っていた花野アナが、ようやく撮影クルーとともにやってきた。 「通常は隊士の方々も立入禁止という特別な場所だそうですが、今日は皆さん、特別におめかしして揃ってらっしゃいます。一般隊士の皆さんに副長さんの結婚式をどのような思いで迎えているのか、少しお話を伺ってみましょう!」 「ちょ、困るよ! この通路、全部撮ったんじゃないだろうね!? ここ、企業秘密だからね!」 「来るときはカメラ回しっぱなしだと思いますけど」 慌てる近藤に花野アナが答える。 「でも我々は抗議者の声をお聞きしていたので、人物以外の写しちゃ悪いものは撮ってませんよ?」 「カットしといてくれよなっ!」 近藤が撮影クルーに言い放つ。 「編集とか、お茶の間に流す前にやるよね!?そんとき背景をモザイク処理できるんだよね!?」 「これ、生中継です」 カメラ脇のAD(アシスタントディレクター)がダメ、の手を振る。 近藤は衝撃を受けて強張った表情のまま立ち尽くす。 「そんなことより、いつになったら来るんですか」 妙が焦れる。 「支度の場へ乗りこんでいってもいいのだけど」 「まさか体調を崩したとか」 狂死郎が案じる。 「邪道なクスリで意識を失うこともあると聞きます」 「お化粧に手間取ってるんじゃないの~?」 長谷川はニヤニヤ笑いで廊下を眺めている。 「女はさァ、出掛けに突拍子もないところで引っかかって嘘だろ?ってほど時間かかるからさ」
そのとき。 家屋の一番近いところで、庭と建物を仕切る柵に身を乗り出していた隊士が叫んだ。 「き、きた! きたきた、きたぁ~っ!!」 「え?来た?来たんですか?」 花野アナが隊士たちの中で振り返る。 「どこですか、どんな…? きゃ、きゃああああ!」 うぉおおおおーッ という地面から響くような雄叫びとともに、隊士たちが仕切りの柵めざして殺到する。 花野アナと撮影クルーは隊士の勢いにもみくちゃにされて踏鞴(たたら)を踏む。 妙、狂死郎、彼らの加勢の者たちと長谷川も、つられて隊士たちの後ろへ踏み出し、しまいに駆け足になる。 近藤は誇らしげにそちらを見守り、頭の後ろに両腕を組んだ沖田は無関心を装って横を向いている。
先導は長身の隊士、護衛の隈無清蔵。 後ろに雄々しい花婿、勇壮ですらある黒の紋付を着けた土方が続いている。 その横に、白く可憐な存在。 綿帽子をすっぽりかぶって顔は見えない。 うつむいた銀色の前髪だけが見え隠れする。 小柄な肩に真っ白な打ち掛けを羽織り、背は花婿の肩ほどまでしかなく、華奢な身体は掛下の着物も帯も足袋も、帯に挟んだ懐剣の柄飾りまで全て白一色に包まれ統一されている。 花婿に寄り添われ、手を引かれ、一歩一歩慎重に歩くさまは、とても武人の銀時と同じ人物とは思えない。 なにより背格好が違う。 線の細い少女のような。 「ぎ、ぎ、ぎ………銀さん、…?」 一同、目を疑う。 気遣われ、いたわられながら踏み石を降り、段差に戸惑いながら花婿に支えられて白い草履をはき、袖から覗いた白い手で着物の裾を持ち上げて庭へやってきた清楚な花嫁。 呼びかけに、ぴくっと足を止める。 中庭に出る柵の手前。 皆が柵にすずなりになって凝視する。 「おまえら…」 そろそろと綿帽子の頭があがる。 「なんでこんなとこに居んの?」 高い鳥のさえずりのような微かな声。 友人たちを見る、綿帽子の下に現れたしっかりと見据える両の瞳。 世人の視線を惹きつけてやまない整った顔立ち、危ういほどに細い首すじ。 化粧を施されたその肌はみずみずしい透明感に光を放つ。 ほんのり彩りを加えられた目元と頬、ぷっくりした紅い唇は扇情的ですらあって。 あどけない子供のような柔らかな輪郭、丸っこい目尻のラインは人懐っこさを滲ませる。
まちがいない。
続く PR |
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* 高銀話です(連載中)
※『◯◯化あり閲覧注意』などの説明書きを必要とする方はお読みにならないで下さい。
花野アナは息を切らして走っている。 「なんとか挙式の取材に間に合いそうです!」 大江戸テレビ局に引き返した撮影クルーは中継車で屯所に向かった。 目的地一帯の道路は真選組に封鎖されていた。 歩行者は立ち入りを制限されていなかったため、彼らは撮影機材を担ぐと自分たちの足で走り始めた。 「このっ…右手に続いている塀が、もう屯所の塀なんです、結婚式はまさにこの向こうで執り行われるわけですっ! …あっ、あれはなんでしょう!?」 花野アナは行く手に群がる人垣を指す。 カメラがその光景を写しだす。 真選組屯所の正門には数十人の男女が押しかけて門衛と向かい合っていた。 「お連れできないって、どういうことかしら?」 にこにこと笑みを浮かべた人物が中心にいる。 ハチマキを締め、タスキ袴で薙刀を携え、すっかり戦闘態勢を整えた志村妙。 「新ちゃんのことで銀さんに聞きたいことがあるの。さっさと銀さんを呼んできてくださいな。今日は土方さんとの結婚式なんでしょう?新ちゃんを凶悪テロリスト集団に追いやったまま自分だけ幸せになろうなんて許せないわ」 ずい、と一歩、門へ踏み出す。 「銀さんが出てこないならこちらから行きます。どいてちょうだい」 「こっ、困ります、姐さん」 真選組の門衛たちが弱りはてる。 「誰も入れるなって命令なんで…!」 「あら。そんな命令、誰が出しているのかしら?近藤さん?」 妙は笑んだまま首をかしげる。 「だったらあのゴリラも潰す。まとめて潰すわ。よくも新ちゃんを犯罪者ふぜいの仲間入りさせてくれたわね。新ちゃんの口から聞くまでは信じませんよ。あのダメ侍に失恋して世をはかなんでテロに走ったなんて」 ブンっ、と薙刀が空を切る。 とっさに隊士たちは腰の刀を掴む。 妙の眼の色が変わる。 「やんのかコラ?」 「い…いえっ、滅相もありませんッ!」 隊士たちが平伏せんばかりに頭を下げる。
「大変なことが発覚しました、どうやら三角関係のようですっ」 花野アナがカメラを振り向く。
「婚約者の方に恋人がいたということでしょうか、結婚式当日に波乱含みの展開です! 引き続き我々は真相を確かめるため、この場に留まりたいと思いますっ!」 「なにをやってんだ、お前ら」 そのとき。 騒ぎを嗅ぎつけたのか、どこからともなく一人の男がやってきた。 「もうそろそろ時間だぞ、悪いが地域住民の方々にはお引き取り願わんと…、あっ、お妙さんッ!」 紋付袴に帯刀した正装の近藤は嬉しそうに眼を輝かせる。 「まさか貴女が俺を訪ねてくれるなんて、今日はなんて良い日だ!俺は幸せな男です…!」 眼を潤ませて敬礼する。 「お妙さん、まぶしいほど美しいですねッ!その薙刀、本当にお似合いですッ! で、どうしたんですか?こんなに大勢引き連れて。もしかしてトシと銀時の祝言に合わせて俺とダブル挙式をやっちゃおうとか!? ぐふっ!」 「誰がゴリラの世話係に就任するって言いました?」 薙刀の柄の先を近藤の腹に突きこむ。 大柄な男が腹から二つ折りになる。 「私の用件はただひとつ。新ちゃんを取り戻したいの。それにはあのダメ侍と話をつけなきゃならないわ。新ちゃんをフッて土方さんに愛を囁かれようだなんて。覚悟はできてるんでしょうね、あの天パ」 にっこり笑いながら指の骨をバキバキ鳴らす。 「今すぐここへ連れてきてくださる?」 妙の後ろには彼女に加勢する数十人のキャバ嬢が立ち並んでいる。 近藤は腹を押さえながら汗を浮かべる。 「いや、銀時は…今日は、表に出すわけにはいかなくてな、」 「そうなんですか。ならこちらから行くわ。お構いなく」 「ちょ、ちょちょちょ、待っ…!」 すれ違って門に踏み入れた妙を押しとどめる。 「挙式は幕府の重鎮たちの名代が居並ぶ予定でして、一般の方はお妙さんのお知り合いといえど、お招きするわけには…!」 「それは無いんじゃないの、近藤っち~」 横からザラついた男の声が軽く挟んでくる。 「俺たちさ、ずっと銀さんに会わせてくれって毎日ここへ来てたよね? おたくら、まったく会わせてくれなかったじゃん。そのまま結婚式を敢行しようなんて、そんなのおとなしくハイそうですかって引き下がれると思う?」 いつもの短い上着と膝までのズボン。 グラサンの鼻あてをずり上げながら長谷川泰三がキャバ嬢の後ろから歩き出てくる。 「どうも臭いんだよね、陰謀のニオイがぷんぷんする」 キャバ嬢たちが長谷川の異臭を追いやろうと顔を顰めて手を振る。 少し泣きそうになりながら彼は袴を押さえる。 「俺はアンタらのこともキライじゃないし。できれば波風立てたくないんだけどさ」 気を取り直して門の背後に広がる青空を見上げる。 「ダチが困ってるなら話は別だ。アイツが女になってまで野郎との結婚を望んでるなんて到底思えねェ。本人から直接事情を聞くまでは引き下がらないよ。腕づくでもここを通らせてもらう」 屯所の空は、今は機影ひとつない。 招かれざる者たちが一掃されたそこには晴れやかな静けさが広がっている。 「長谷川さん…、」 近藤は苦し気な顔をする。 「だったら俺たちは、アンタを逮捕しなきゃならなくなる」 「では我々も参戦しましょう」 逆方向からザッと、華美な装飾を身につけた男たちの一団が進み出る。 「私も納得のいかない者の一人です。なぜ友人である我々が銀さんと会って真意を聞くことができないのか。いやがる銀さんを女性として妻に娶るなど許されるはずがない」 フワフワの襟も美々しいナンバーワンホスト、本城狂死郎。 後ろにはアフロ頭の八郎も控えている。 「女性のために犯罪者の汚名を着るのはホストにとって栄誉ある勲章に等しい。手加減なくいかせてもらいますよ、近藤さん」 「ちょっ店長、銀さんは女性じゃないからね。れっきとした野郎だからね」 「もう性転換させられてるでしょう。この人たちの手によってね」 「なんかテンションあがってない? まあ、中身が銀さんであれだけの美形だからね。気だるい瞳でつまんなそうに赤い唇とがらせてシッシッて追い払われたらオレ速攻で猛獣になれるわ、解るよ」 「いや解らないです。貴方とは違うんで」 「正直、銀さんが他の野郎に処女散らされるとこ考えると興奮して夜も…いや、俺が言いたいのはね、本人が嫌がってる結婚なんか認めないって、ホントそれだけだよ」 「もういいわ。男の妄想という汚物を垂れ流さないでくださいな」 妙が長谷川に肘鉄をくれる。 「それよりどうするつもりですか、近藤さん。これだけの人数を相手に、これから結婚式という場所で一戦交える騒動をお望みかしら?幕府の偉い人たちも居るんでしょう、真選組の不始末になりますよ」 「できれば皆さんには、お妙さんだけ残して穏便に引き上げてもらいたいんですが!」 「そうはいきません。ここまで気合い入れて準備して手ぶらで帰るなんて冗談じゃないわ」 「いやだから、お妙さんだけは残ってくださって結構です! 式が終わったあと銀時にでもなんでも会わせますから!」 「式が終わった後じゃ意味がない」 狂死郎が実戦の気合いを露わにする。 「私たちの目的は銀さんの救出です。意にそまない結婚なんてさせません」 「銀さんを取り返しにきた。ぶっちゃけ、そういうことだから」 長谷川も武器を取り出す。 モップのようなデッキブラシのような掃除道具を構え持つ。 「頼むから穏当に銀さんに会わせてくれよ。事情があるのは解ってるし事と次第によっちゃオレは引き下がるつもりだからさ」
「お聞きになりましたでしょうか?ここへ集まった人々は結婚式の中止を求めていますっ!」 花野アナが声を潜める。 「婚約者の方を強奪しに来たと公言してはばかりません!現場は緊迫しています!」
「う~む…」 腕組みして近藤は考えを巡らせる。 その体躯に皆の視線が集まる。 局長の号令と同時に行動を起こせるよう隊士たちは戦闘体勢を取る。 対するホストやキャバ嬢も各々の得物を握りこむ。 「よし、わかった!」 皆が固唾を飲んで近藤の顔を見つめる。 「今から30分だけ屯所への立ち入りを許可します! だが全員、式が始まる前に御退出いただくぞ! そこはこちらも譲れない一線だ、なんとしても厳守でお願いしたいッ!」 ワッと歓声があがる。 「人数を確認させてください、ズルはしないように! こちらも逮捕者を出したくは、…ちょ、聞いてる!?」 正門に一気に押し寄せる人の勢いに押されて近藤が後退る。 「待って、まだだって、そんなに押したら…危ねーっ!」 気勢を上げて正門を突破するキャバ嬢たち、それに続く勇み足のホストたちに押し切られ、近藤と門衛たちは敷地の内側へ流されていく。 車寄せの広いスペースと、正面のいかつい建物、立ち並ぶ植木。 一般市民とはいえ武装した彼らが屯所内へなだれこみ、各自の直感を働かせてあちこち散らばっていこうとしたとき。 「待ちなせえ」 ヒュウゥゥ…と飛来音。続いて腹にズシンと響く振動、同時に足元の地面が炸裂する。 「そんな格好でウロチョロされちゃかなわねーや」 土煙、耳閉感、げほげほしながら悲鳴をあげて逃げ出す人々を一箇所に集めるよう第二弾、第三弾が浴びせられる。 「どこ行くつもりでィ。屯所内を勝手に歩くのは禁止ですぜ。一匹たりとも逃さないんで、ついてきなせェ」 煙の薄れた向こうにバズーカ砲を担いで立つ一人の青年。 「狙いは土方さんの首でしょ。解ってまさァ、案内するぜぃ」 青年の周りには十数人の武装隊士が控えている。
屯所の護りを担う真選組の一番隊だった。 |
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* 高銀話です(連載中) 手を出せ、と言われて掌を掴まれ、その上に軽い物質を乗せられた。 両眼に包帯をしたまま銀時はそれをゆるゆる握る。 丸くてデコボコしてほんのり冷たい。 長さのある数珠つなぎになったもの。 「オメーのクスリだ」 言って土方は水の入ったコップを渡そうとする。 「とっとと飲んじまえ」 二人きりで過ごす挙式前の時間。 誰も立ち入らせないまま新居の居間で膝を突き合わせていた。 「ちょっ、…ちょっと待てェェェ!」 ひとまとめにしてもブレスレットよろしく手の上でとぐろを巻いている。 とても飲み下せるような形状ではない。 「なんなのコレ違うよね?薬じゃないよね?!」 銀時は『物体』を握った手をなるべく前へ突き出しながらコップを押し返す。 「少なくても口に入れて飲みこむような代物じゃねェだろーが!?」 「クスリじゃないなら、なんだっつうんだ」 「いやいやいや違うだろ、だってこれ繋がってるもの!ころころした丸いのがいっぱい連結してるもの!ケツに押しこむビーズとかパールの類(たぐい)だよね?そんなもん誰が口から飲むか、騙そうったってそうはいかねーよ!」 「なんでそれがケツビーズだ。そりゃそういう形のクスリなんだよ。粒ごとに種類の違うホルモン剤とか、骨格を変える薬とか、細胞を変える薬とか、違った成分のものを一緒に飲ませるために繋がってんだ。水を含むと柔らかくなって簡単に飲み込めるんだとよ」 「か、簡単だとォ?ふざけんな、こんなもん飲めるわけねーだろ!」 ことさら手の中の感触を確かめる。 「半分だけ喉から出てきたらどうすんだコラ!お前だってモズク噛みきれなくてヤッたことあんだろ!?飲めない吐けない苦し紛れに口から引っ張ったら一人SM状態で涙出たろーがァ!」 「誰がそんな真似するか。モズク酢だろうが糸コンだろうがマヨネーズかけて食や…、」 土方は気がついたように顔を上げる。 「…あ。クスリにマヨネーズかけろってか。悪かったな、気がつかなくて」 「ま、まて、待て待て待てェ!さらに飲みにくくすんじゃねーよ!てか完全に飲めなくなるからヤメろぉ!」 ポケットからマヨネーズを取り出す気配に悲鳴を上げる。 土方は意外そうに銀時を見る。 「飲む気はあんだな」 投げ捨てずにクスリを持ったままの銀時の掌。 うぐ、と銀時は詰まる。 難癖をつけながらもマヨネーズから死守してるのはクスリを飲むつもりであることに他ならない。 土方の瞳が和らいで銀時を見る。 「なんならイチゴ味の牛乳でも用意してやろうか」 「………いらねェ」 首を振った銀時の口から溜息が零れる。 「コレ飲んだら…俺は俺でなくなっちまうんだろ。心の準備なんかできねーよ。いくら準備したってやれるもんじゃねぇ」 「解らなくもねぇが」 水のコップを傍らの座卓へ置く。 「俺と祝言を挙げるためにはコイツが要る。変わっちまったお前を何があっても護ってやる。お前は俺の信条を頼みにするしかねぇんだろ?上等だ。俺はお前を裏切らねェ」 「土方くん…」 熱を含んだ土方の言葉に銀時は切なく告げる。 「女になったらさァ、俺、毎朝オメーに稽古つけてやる。だって死んじまったら護れねーもの。一瞬で未亡人とか泣けるもの」 「どんだけ弱いの俺!?オメーん中で!」 「布団の中では強いと思うけどね。最強クラスだけどね」 「………知るか、そんなモンんん!」 土方は言葉に詰まったあとグッと奥歯を噛み締めて横を向く。 その素振りに銀時は大きく息を吐いて肩を落とす。 「飲むわ。んでオメーと祝言挙げる」 空いてる方の手を差し出す。 「これ以上ガタガタ言ったところで俺はオメーを信じるしかねェ。女になったら確実に動きが取れなくなる。オメーの庇護を受けながらガキでもこさえて真選組の屋台骨を強化する気の長い労働に取りかかるとするか」 「……ぬかせッ」 嘯(うそぶ)く銀時に土方は吐き捨てる。 「ケツからビーズ突っ込まれねぇうちに、とっとと口から飲みやがれ!」 「それが覚悟を決めた相手に言う台詞ぅ?」 銀時は唇を尖らせる。 「まあいいけどね。とっとと水よこしやがれ」 「……、」 銀時の手に土方は水のコップを持たせる。 大きめのそれに十分な量の水が注がれている。 銀時は片手に持ったクスリをもう一度握ると、まとめて口の中へ放りこむ。 追うようにコップを口に運び水とともにクスリを喉へ流しこむ。 ゼッタイ飲みきれなくて悲惨なことになると覚悟した物体は、なんの抵抗もなく一塊となって無事に胃の腑へ落ちていった。 「ふぅ…」 ほっとしたように息をついたのも束の間。 「んぐッ!ののの、飲んじまったァ!」 サーッと顔がこわばる。 焦って口を開け、喉を押さえて舌を出す。 「やべ、やべぇって! これ俺、女になっちまわね!? ちょ、カンベン! ちゃんと飲んだんだからさァ、もう良いよね、吐いていい? てか吐くわ、マジで女になるとかありえねーし!」 「吐けるわけねぇだろ。一瞬で溶けて吸収される即効性だ」 土方が冷酷な笑いを浮かべる。 「舌を噛まねぇよう、口を閉じといた方がいいぜ? 身体の骨組みから造りが再構成されるんだ、どこもかしこも軋みをあげてバラバラになって別物に組み上がる。窒息しねぇよう、しっかり息してろや」 「んなっ、そっ!」 銀時は恨みがましく土方の方を向く。 「そんな危険なクスリなのかよ、あぶねーなんて…、聞いてねっ…!」 非難をあげる声は次第に喘ぎ混じりになり、苦し気に上下しはじめた肩はガクガクと揺れ、あるときを境に銀時は喉が塞がったように崩折(くずお)れる。 「…んッ、…っく…!」 畳を掻きむしる腕の筋肉がデタラメに収縮し、見る間に小刻みに震える波が全身へ伝わっていく。 土方は目を見張り、危険な徴候が無いかどうか目を走らせて確認する。 差し出した腕を、懸命に銀時に触れないよう空中にとどめて気遣う。 敏感な変異の瞬間を迎えている銀時の身体は、やがて常とは違うものに向かって仕上がっていく。 畳表を掴みあぐねた手も、腹部を押さえて突っ伏した躯幹も、畳に曲げ潰れた脚も。 ふんわりした光を放つ銀髪のなめらかな質感さえ。 音を立てて組み変わるように土方の目の前で、脆(もろ)く柔らかな構造へと姿を作り変えていった。 「大丈夫か?万事屋」 ゆっくりと背中が上下して息が通るのが見える。 着ていた単衣はもはや身体に合わず、不格好に布地が余っている。 変わりきった朧気な身体が力なく変異を終える。 「……ァ、はぁ…」 銀時の口から呻きが漏れる。 土方が聞いたことのない高さの銀時の声。 堪えきれず土方は銀時の背を抱き起こし、腕に抱いてその顔を覗きこむ。 「オイ、どんな具合だ?苦しいとこはねぇか?」 「んぁ…なにこれ……サイアク…」 銀時の手が動いて顔にまといつく包帯を剥がそうとする。 吸いつくような肌、しっとり水気を含んだ艶やかな唇。 細い肩は抱きしめても腕が余る。 「よォ、俺の…」 笑いかけて土方は銀時の眼から包帯を外す。 「花嫁さん?」
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更新情報 |
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更新情報
* 銀魂ネタバレ感想更新/先週の週刊ジャンプの感想5月16日分(1件) |
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更新情報
* 銀魂ネタバレ感想更新/今週の週刊ジャンプの感想5月15日分(1件) |
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更新情報 パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます。 連休明けってなかなか現実に戻れないですよね。 今まで普通にできてたことが、まったく手がつかないとか。 ええ、ブログの更新とかですね。 それに加えて今週のジャンプ銀魂。 ここでは内容については書きませんけども、私は完全に停止しました。 なのでもうしばらく停止していようと思います。 私の頭の中で、どれだけ原作銀魂が大きな部分を占めているのか改めて知りました。 空知先生の華麗な踏み切りを賛美したい気持ちで一杯です。 右下に拍手レスがあります。 |
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更新情報 * 高銀第52話更新(ここ)/本日(1件) * 余市日夏の銀魂たわごと更新/4月28日分(1件)
* 銀魂ネタバレ感想更新 パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます。
* 高銀話です(連載中)
ばらばらばら…とヘリコプターのプロペラ音をバックに花野アナが叫ぶ。 「今日は、真選組副長さんと婚約者の方の結婚式が執り行われます。いま私たちは真選組屯所の上空に来ていますっ!」 中継映像が空から真選組の拠点を映し出す。 「この結婚式では婚約者の方の性転換が話題になっているんですが、私たちはその現場に空からお邪魔しようと思いますっ! ……あっ、なにか屯所内で動きがあったようです!」 真選組の敷地内で黒い隊服の男たちが慌ただしい動きを見せている。 一斉に動き出した大勢の隊士に花野アナが声を弾ませる。 「練習のようですね。挙式のとき副長さんに内緒の演出でもあるんでしょうか!?隊士の方々によるサプライズな趣向が用意されてる模様です!」 映像が隊士たちを大写しにする。 なかには黒い隊服に混じって白い隊服を着た男たちが見慣れぬ機器を取り出して作業している。 花野アナは感心したように彼らをリポートする。 「真選組の方たちも、結婚式には白い隊服があるんですねっ!初めて知りました。着てる人と着てない人がいるようですが、式に参列する人だけが白隊服を着用なんでしょうか。デザインは一緒のようですが、白だと式典にピッタリな気品がありますね……えっ?なに、なんですかあれっ」 花野アナたち撮影の一行は、自分たちに向けられた砲口に気がつく。 グリグリ眼鏡の隊士が担いだバズーカが、撮影隊のヘリコプターに照準を合わせている。 「なんのお茶目でしょう、こちらを狙って…ウソですよね、……きゃあああああっ!!」 ドンッ!という発射音とともに空気が振動する。 すぐ近くでの炸裂と爆風。 ヘリコプターは衝撃に煽られ急激に傾く。 「う、うわああああああッ!!」
「チッ、外しやがったか」 グリグリ眼鏡の隊士、神山から沖田がバズーカを引ったくる。 「よく見ときなァ。バズーカってのはこうやって撃つんでィ」 銃器を肩に乗せ、スコープを覗いて標的を捕らえる沖田のさまは獲物を外さない不動の構え。 神山の砲撃を免れたヘリコプターも一瞬後には沖田のバズーカが命中し撃ち落とされるだろう。 「やめて、やめてぇ!」 「撃たないでくれ、頼む!」 大江戸テレビの中継ヘリがへろへろと体勢を立て直そうと必死で飛んでいる横を、沖田のバズーカの砲弾が通過する。 「墜ちる、だめだぁ!」 「当たったんですか、墜ちるんですかこれ!?」 「許可取ったんだぞ、なんで…!」 スタッフが頭を押さえ身を竦ませる中、ヘリの操縦士だけは懸命に操縦桿を操っている。 そのままヘリコプターは浮力を取り戻し、屯所から逃げるように高度をあげていく。 「まだ飛んでるんですか?」 「当たってない!?」 スタッフと花野アナが遠ざかる屯所に目を凝らしたとき。 離れた場所で、どーん!とぶつかったような音がして、近くの空を飛んでいた別のヘリコプターが撃ち落とされた。 「今日は招かれざる客、万来ですねィ」 沖田はまた次の方角へバズーカを構える。 「すいやせんが、空から来んのはやめてくだせェ。間違って撃ち落としちゃうんで」 花野アナのインカムに沖田からの音声が入る。 沖田もインカムをしている。 彼らは隊服に身を包み、警護に当たり、どう見ても婚礼に臨む支度ではない。 ふと付近の空を見渡すと、報道関係では見かけないヘリコプターが一定間隔おきにあちらにもこちらにもプロペラ音を轟かせて屯所上空を旋回している。 時折、その乗員が銃器を構え、屯所や隊士を銃撃している。 柄の悪そうな浪人たちや、統率の取れた若者集団、タスキを掛けた年かさの者たちなど、年齢も格好もヘリコプターごとにさまざまだ。 彼らはそれぞれ別口に屯所を襲撃しているようだった。 「なんで武力闘争になってるの!?」 花野アナは顰蹙する。 「今日は晴れの結婚式ですよ、今日ぐらい攘夷テロはやめてほしいですよねっ!」 大江戸テレビからそのとき彼らに指示が入る。 上空からの取材は中止し、屯所の正面から中継に入るように、とのことだった。 「そんな…!?いまからヘリポートに戻ってたら時間がない!」 花野アナは屯所の方向を振り返る。 「性転換薬を使うドキュメントを生中継する予定なんですよ、なんとかならないの!?」 しかし対空砲で迎撃しまくる屯所に戻るわけにもいかず、付近にヘリコプターが降りられる場所もなく、彼らは一旦大江戸テレビ局へ引き返すことにする。 「急いで、間に合わない! どこか降りられそうなところはありませんかっ?!」 花野アナは未練がましく地上を見つめる。 降りたところで車がなければ屯所へ行けないことは解っている。 走ってでも中継を間に合わせたいところだが、ヘリはどんどん遠ざかって走れる距離ではなくなっていく。 時計を見ながら我慢している花野アナはそのときふと街に人が見当たらないことに気がついた。 「…あら?」 屯所一帯、かなり広い範囲にわたってその周辺には歩いている者も車で移動している者もいなかった。 活動している人の姿が見られない。 しかもその区域への道路を真選組が封鎖しているさまが一部だけだが上空から確認できた。 「なんでだろう、なにかあるのかな? まさか結婚式に厳戒態勢ってわけでもないですよね?」 花野アナは首をかしげる。 自分たちが屯所へ向かう車まで真選組の規制を受けて通行許可が下りないとは、まさかこのときは思ってもいなかった。
続く
結局いつもの土曜日更新となりました。 今週はできないと思ってたから嬉しいです。 拍手ありがとうございます! ひとついただくたびに「やたっ!」ってうきうきしてます ![]() |
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本日の更新
* 余市日夏の銀魂たわごと更新/(1件) * 銀魂ネタバレ感想更新 /今週の週間ジャンプの感想など(6件) 単行本派の方はネタバレありますので御覧にならないでください。 パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます。 体調わるくて更新しないでいたら留萌さんのツイッターは毎日きちきち書かれているので溜まってしまった。今日まとめて更新したから6件という目を覆いたくなる事態に。 拍手ありがとうございます! 小説更新遅れてますが、続きを書くつもりでいますので、お待ちいただけると嬉しいです! |
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本日の更新
* 余市日夏の銀魂たわごと更新 /(2件)15日、16日の2日分 * 銀魂ネタバレ感想更新 /今日の週間ジャンプの感想(1件) 単行本派の方はネタバレありますので御覧にならないでください。 パソコンは左、携帯は下のリンクから飛べます。 週末から眠いし気力ないし、暇さえあれば横になって寝ています。 そして判明。 どうやらダイエットでチョコやナッツを食べないからセロトニン不足になってるらしい。 私が好きなカロリーの高いものにはウツにならない物質が入っているのだ。 明日からチョコレートを食べようと思う。 なぜ明日からなのかというと夜の甘味はダイエット台無しだからだ。 だからね、なぜ銀ちゃんがイチゴパフェやチョコレートやココアが好きかと言うと、銀ちゃんは気力無い人だから、きっとそういう物質が必要なんだと思うの。 それを解ってて差し入れしちゃうくらいの好男子が銀ちゃんの彼氏になれるんだと思う。 くれぐれも「甘党野郎!」などと罵ってはいけない。 「銀時~差し入れじゃあ」とか、「銀時、お前の好きなんまい棒チョコレート味だ」とか、「祭りは綿あめが最高だよなァ、お前の頭も綿菓子みたいだゼ」とか、そういうのが彼氏候補になるんである。 明日からチョコレート食べて気力アップするといいなあ! 拍手ありがとうございます。 温かい拍手に温泉浴でもしてる心地にさせてもらってます ![]() |
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