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ゆるみきろうとした銀時の身体が跳ねる。 「ぃ、ぃや、たかすぎっ、もっ…あぁッ…!」 「イヤってこたァねーだろ」 耳元で乱れた吐息が告げる。 「めっぽう締めつけてくるぜ?」 「や、そこ、ぁ、…あんんんっ!」 銀時は板敷を引っ掻いて苦しげにもがく。 尻は高杉の剛直をきゅうきゅう締めあげながら形よく揺れている。 「もうイッた、イッたから…! ゃ、ぁあッ、イク、イきすぎちまうっ…、」 「まだイけるだろ?」 激しく突かれる過剰な挿入に震えながら喘ぐ銀時の下腹部へ手を添える。 射精直後の萎えきらないペニスを捕らえ、カリ首に指をまわして亀頭責めにする。 「反応、いいなァ…銀時ィ?」 「いッ…、いやッ、いやぁぁああッ!」 腸壁を剛直で満たされ押し広げられながら、イッたばかりの敏感な亀頭にくりかえし与えられる緩い回転刺激に、銀時の下半身はあふれるような快楽で蕩けてなくなりそうになる。 ひとつを感じとる間に呼吸もできないほど押し寄せる快楽に銀時は必死に喘ぎ、その間も腹の奥へ送りこまれる熱いうねりに犯され、一瞬たりと止まらぬ裏筋への緩やかな刺激と不意に尿道口に挿しこまれる指腹の強烈さに悲鳴をあげ、その一切を処理できずに脳髄は地獄のような快楽に恐怖する。 「ぁあッ、か、んじすぎちまっ、…ゃめっ、もぉ、ぁ、たかっ…!」 「ぅ、…クッ、ぎんとき…」 腰をくねらせてヒクつく相手に息をつかせる気もなく突いては奥を掻き回し、身体のすみずみから奥深くまで肌を合わせて愛し尽くしながら高杉は徐々に昇りつめ、 「ぎんとき、オメー…俺が好きか?」 「はっ…、んぅ…、すき、」 銀時は瀕死の傷を負ったときでもあげないような必死な吐息で答える。 「ぁふ、あいしてる…にっ、決まってんだろぉ…ッ!」 「……アァ、そうだな」 俯いた高杉の口の端が仄かに笑む。 「俺もだぜ銀時、オメーを愛してる…この命、くだけてもかまわねぇ…!」 「ぁっ…ふぁ、たっ…かすぎ…ぃ…!」 「ぎんとき、ぎんときッ…お前が好きだ、愛してるぜ」 「ぁ…出して…中に、たかすぎの、欲しっ、ぁッ…はぁあ…!」 耳に告げられる言葉を聞けば獰猛な衝動が駆け抜ける。 相手の胸腹を離れることを許さない力で引き寄せ、我が身を密着させて擦りつけ銀時の中を奥まで強く擦りあげる。 緩く擡げた銀時のペニスを急かすように煽り立てながら愛しい相手を腰ごと引き寄せると、その深いところへ熱い体液を一気に迸らせる。 「ぁんッ、…はんッ…んっ…、んっ………!」 精液が銀時の体内に注がれる。 腸襞に滲みていく感触に、ひさしぶりの強烈な刺激に身も世もなく悶える。 爪先まで伸びた下肢は小刻みに震え。 射精もなく達した銀時は感極まったまま廊下の板敷に崩れ伏せる。 上下する呼吸、投げ出された手足。 美しい獲物が己の与えた雄の精に屈服して無防備を晒している、その悦楽。 「銀時…、」 銀髪に軽く噛りつきながら数度、腰を振る。 腸襞は激しく絡みついてくるものの、くったりとして銀時は動かない。 横向きに板に押し当てている顔を見れば、その瞳から涙が伝っている。 「大丈夫か?」 「ぁ…ぁん…っ…」 銀時は肌近くに視線を感じるのか、それを嫌うように手の甲で顔を覆い、目を擦る。 カチャ、と音がして何かが板に落ちる。 「……………あれ?」 銀時は、はたと動きを止める。 「……見えてる」 呆然とあたりを見回す。 片眼を押さえたまま身を起こし、薄暗い廊下に確かめるように視線を凝らす。 「み、見えてるよ、痛くねーし刺さらねーし、な、治ってる…!?」 「よかったなァ」 「ゃっ…、くぅっ!」 ズルっと銀時の中から腰を引き抜く。 最後のダメ押しのような刺激に銀時は硬直する。 その様子が微笑ましくて高杉は身を寄せ、銀時の背や腹を掻き撫でると銀時は弱い唸りをあげて威嚇する。 「ちょ、やめてくんない!?」 「なにをだ」 「ひとの尻、揉んでんじゃねーよ!」 「ああ、あんまりにも好かったもんだからな」 「刺激するなっての!」 嫌がってみせるが、高杉を振り切らない小さな素振りでそれをする銀時に愛おしさが募る。 「可愛いなァ、オメーはよォ」 「いま忙しいから!」 高杉の腕にゆるく包まれたまま、銀時はもう片眼をゴシゴシ擦る。 ほどなくコンタクトレンズが目から零れる。 目に装着していたときは、そんなものを着けていると分からないほど透明なレンズだったが、外れて板敷に転がったそれは黒く武骨で、一目で在り処がわかるほど大きい。 「み、見える!平気だ、こっちも!」 銀時は両眼を交互に押さえてパチパチ瞬いている。 「やたっ、完璧だよコレ、ジジイ信じてよかったよ、すげーよ、すげくね!?」 「源外のじいさんのカラクリか」 レンズを拾い上げる。 「紅桜のデータを解析しちまうたァ、やっぱり只者じゃねーな」 「エッ…?」 「じいさんに頼まれたのさ。お前の眼を解毒してやりてェから毒液の組成が解るものを借り受けたいってな」 「あ、そうだよな。これってネオ紅桜の毒液だもんな」 「あいにく血清はヅラとの騒ぎで無くしちまったが、素のデータから探す気ならどうしてくれても構わねェって心当たりをじいさんに渡したのよ」 「ありがとう、じーさん」 銀時は拳を握る。 「おかげで眼が痛くねーし!食いもんの味にビックリしねーで済むし!」 「オイ銀時」 「ぶつからねーで歩けるし走れるし、つまづかねーしィ!」 「いい加減こっち向けや」 「や、…ちょ、」 「その瞳を見せろ。深く澄んだオメーの魂の色をよォ…?」 「ん、ゃだ、恥ずかしーだろ、」 銀時はムキになって眼を逸らす。 高杉が頬を掴み、自分の方へ向けて覗きこむと、銀時のふたつの冴えた瞳がハタリと高杉を見上げる。 視線を捉える。 からみあったそれは相手を見通すように強く奥底で繋がりあう。 「綺麗な眼だ」 「…ん、まァね」 「吸いついて食っちまいてーなァ」 「ダメだから、食えないから」 銀時は警戒体勢を取る。 「それよかお前の眼、やらしすぎ。おまえ俺のどこ見てんの?」 高杉の顔に手を伸ばす。 「おまえの眼にオレって、どんな風に見えてんの…?」 「したたるような色香を最高の身体から垂れ流してる粋で気怠い肉感的美人」 「………ああ、そう」 即答されて言葉がない。 「高杉って、目ぇ悪いんじゃね?」 「それほどでもねェさ」 高杉は笑ってゆるゆる目蓋を包むように撫でる。 「治って良かったじゃねーか。じいさんには、いくら礼を言っても足りねェな」 「うん、今度言うわ。会えたらだけど」 「俺がじいさんから聞いてたのはコンタクトを装着して2時間以上経過すれば、あとは血圧と心拍をあげてオメーをありえねーほど快楽漬けにすりゃ自然に見えるようになるって話だったがな」 「…んぇ?」 銀時は止まる。 「か、かいらく漬け? それって…!」 「快楽物質にエンドルフィンてのがある。そいつァ強烈な刺激を食らうとテメェの脳から放出される。強力な麻薬みてェなもんだが、じいさんによるとそいつが紅桜の失明毒を中和するなによりの解毒剤なんだとよ」 「…っ、てことは、あの…、」 「ありえねーほど気持ちよくイッたんなら、なによりだぜ」 「ぎゃ、ぅ、んな、なに言ってんの、なに言ってんの高杉ぃぃぃぃ!」 銀時が顔を真赤にして掴みかかってくる。 「そ、それって、俺が治ったってことは、お前とそーゆうことしたって宣言してるよーなもんじゃねーかァ!」 「この事実は俺とじいさんしか知らねェ。なんの問題もねーだろうが」 「あるよ!だってそれ、気絶するほどキモチよく逝かねーとこうならねェんだろ!?」 「…アァ、」 高杉はニヤッと笑う。 「源外のじいさんは察するだろうさ」 「ぎゃああ、イヤだァ、イヤすぎるぅぅ!!」 「それよりよォ、おまえ…土方とは寝てなかったみてーじゃねェか」 「…寝てねーよ、言ったろ」 「寝てたとしても、テメーにさほどの快感はなかったってことだ」 「なんでそう土方くんを貶めんの」 銀時は向き直って嘆息する。 「真選組の新居に初めて連れてかれたとき、土方くんに宣告された。もう挙式なんだし、いい加減あきらめろって。真選組で暮らすなら自分を受け入れろってさ」(46話参照) 「……」 「夜通し口説かれたけど、オレ、ついに『ウン』て言えなくてさぁ、土方くん、大泣きしちゃったんだよね。次の日、朝から目ぇ腫れて、真っ赤で、誰が見ても分かるくれー顔中すげーことになっちゃって」 訪ねてきた神楽に、とてもドアを開けられず、土方の腹心を呼びに行ってもらった。(47話参照) 地味な隊士が気の利くヤツで、凍ったタオルや冷却スプレーを持ってきて、なんとか腫れと赤味が引くまでアレコレ世話していった。 土方は、それで銀時にその気がないことをなんとか飲み込んだが。 やはりショックだったらしく、なにかの弾みに悲痛に叫ばれた。
銀時は高杉を目に映す。 「土方くんは最初から最後まで、アイツの武士道を貫いた。オンナになる薬を飲まされたと思ったらガキになっただけだったし。目を開けてられないオレに、お尋ね者のジイさんに金払ってまでコンタクトレンズ用意してくれた。最後にはオレをその手で逃がしてくれた。アイツの大事な真選組がヤベーかもしれねーのに」 「……フッ」 高杉は目を伏せる。 「銀時ィ、土方は最初からオメーを逃がすつもりだったぜ?」 「あ、うん。そう言われた。逃がすときは自分の手で逃がしてやるって」 「そうじゃねーよ。アイツはお前が白夜叉だという事実から、オメーを逃がそうとしてたんだ」 「んぇ?」 「なんでマスコミを引っ張りこんだと思う? お前が性転換することを取材させ、挙式の騒動を逐一記録させ。そしてこりゃァ土方の想定以上の出来映えだろうが、お前が俺に連れられて過去へ消えていったところまで。なんのためにあの連中を居合わせるよう仕向けたか、考えてみりゃ明白だろうが」 「なに、なんのため?」 銀時は改めて考える。 「そういや、あんな混乱になってもテレビ局のカメラが最後まで居たような居なかったような…」 「ククッ…真選組がマスコミに流したかった筋書きは、『攘夷戦争の英雄らしき白夜叉は失明の憂き目に遭い、二度と戻れぬ薬で女体化し、すべての戦闘力を失った。その状態で真選組に嫁入りし抗争の表舞台から消え、何者かに担ぎあげられて利用される価値はなくなった』ってな具合だろうよ」 「え。そーなの?」 「だから俺が筋書きを変えてやったのさ、『女になった白夜叉は鬼兵隊の手で過去の世へと連れ戻され、現世の人間の手の届かないところで、おそらく子を成した。もし白夜叉によく似た者が現世で見つかったとすれば』」 「…すれば?」 「『それは過去へ戻った白夜叉の血を継ぐ者だろう』とな」 「それって…白夜叉によく似た者って、オレ?」 自分を指す。 「オレのこと言ってんの?」 「そうだ。オメーはこの時代で堂々と表を歩きゃいい。オメーは白夜叉じゃねェ、白夜叉の子孫だ」 頬にキスする。 「幕府の奸物どもも他力本願の志士どもも、白夜叉じゃねェ子孫にはなんの責任も被せられねーからな」 「あ、そうか」 銀時が合点する。 「俺はもう白夜叉じゃないわけね? この時代に白夜叉はいないんだから、俺は子孫にすぎねーってわけだ」 「その通りだぜ」 「あー、よかったァ!」 ほんわり笑みを浮かべる。 「一生、逃げ隠れして窮屈な思いしなきゃならねーかって心配してたんだよね」 「そんなことにはならねーよ」 高杉が頬をついばむ。 「納得が行ったところで部屋に入らねーか。ここじゃ堅くて存分にできねェ」 「入らねーよ、風呂行くんだから」 銀時は改めて自分の格好を見下ろす。 「うわー、ベタベタ。ここまでくるとキモチワルイ」 花嫁衣裳の残骸を紐を解いて腰から外す。 手で顔をこすって眉を顰める。 「かぴかぴに突っ張ってんだけど。風呂どっち?こっち?」 「…岩風呂と洋風タイルと露天、どこがいい?」 「岩風呂!」 言ってから首を振る。 「岩風呂は却下、露天はアレなんで、洋風で。…なに、もしかしてオマエん家、風呂3つあんの!?」 「あ?たぶんそのくれェはあるだろ」 高杉が立ち上がる。 「こっちだ。連れてってやらァ」 「…いや、一人で」 「そんなわけにゃいくめェよ」
鼻で笑って高杉は、膝を突く銀時の前に支えの手を差し出した。 PR |
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銀時は高杉の手を掴む。 引き寄せられて身体が浮き、脱いだ襦袢ごと高杉に抱きかかえられる。 「ちょ、ヤッ…!」 身を捩って降りようとする銀時の動きを封じたまま高杉は廊下の一方へ歩き出す。 バタバタ足が宙を蹴る。 その太腿が廊下の暗がりに白く浮かび上がる。 背中から腰に襦袢が回されている。 高杉の肩に縋りながら銀時は硬い胸に腕を突っ張る。 「もう見えてるから!自分の足で歩けるからヤダッ!」 「押さえといた方が良かねーか」 高杉は平然と笑う。 「ケツから滴らせて歩くってのも悪かねーがな」 「ちょ、そーいう問題じゃなくて」 銀時が、むくれる。 「運ばれんの好きじゃねぇって知ってんだろ!?」 「……あぁ」 高杉の調子は変わらない。 「覚えてる」 「なら、おろせよ」 「怖ぇか?」 「…、」 「トドメを刺されると思ったら両手両足括られて連れてかれたんだったなぁ」 「その話はいいっての」 「俺がお前を置き去りにしたあと捕まったんだろう?」 「関係ねーよ」 「それを聞いても俺りゃオメーが自力で帰還したことに満悦して、オメーがどんな辛酸を嘗めたか思いを馳せることもなかった」 「そんなんどーでもいいしィ」 「なァ、銀時」 銀時を抱く高杉の腕がきつくその身を掻き抱く。 「すまなかったなぁ、お前をズタズタに傷つけて。お前にも人としての限界や押し殺しちまう感情があるってこと…お前を偶像に仕立ててた俺にゃサッパリ解らなかった」 「…」 「これからお前が俺にその身を預けられるよう、一生かけて務める。お前のすぐ傍で信頼を勝ち取りてェ。俺にその機会を与えちゃくれねーか」 「信じられるかよ。テメーの言葉なんか」 高杉の二の腕をグイと押す。 「さんざんバカだなんだ人を罵りやがって」 強い瞳で高杉を見据える。 「俺がテメーの戯言を信じると思う?それが口先だけじゃないって解るまで、またどんだけ踏ん張らなきゃならねーと思ってんだ」 「銀時…」 「お前はさ、俺が思いつかないような絵空事を、まるで手の届く現実みたいに言う。すっかりその気にさせられてお前の言ったとおりに手ぇ伸ばしてみると、お前はもう遥か遠くを向いてる」 つらそうに口元に笑みを浮かべる。 「お前の魅惑的な囁きに心踊らせても、結局は落胆して委細飲みこむことになる。繰り返せば諦めを覚える。お前との関わりはさぁ、俺にとっていくら気ィ引かれても虚ろな世界でしかねーんだよ」 「…そうか」 「今は俺が大切、みてーなこと言ってっけど。人間そんなに変わるもんじゃねーし。手に入ったらどーでもよくなるだろーし。そのうち俺が思ってもみないモン目指して突っ走ってっちまうかもしれねーしな」 「…そうだな」 「お前はテメーの信念にしがみついて世界ぶっ壊すとかいって派手にやらかして、なんやかんやで玉砕して人の言うことも聞かずに一人で納得して逝っちまいそうじゃね?」 「……言葉もねェ」 「だから、オマエは止めとけって…ヅラが」 「ア?」 「ヅラだけじゃねェ、会うヤツ会うヤツお前を選ぶとロクなことにならねー、命すり減らして死んじまう、あんなヤツのどこがいい、物好きも大概にしろって怒るわ、笑うわ、呆れるわ」 「んだと?」 「だからさぁ、俺は言ってやったんだよ。テメーら全員余計なお世話だって、高杉はたまんなく可愛いんだって!」 「…かわいい?」 「そう。高杉が下準備と根回しに苦労しながら、さも涼しい顔して荒唐無稽を実現してみせるときにする、ちょっと得意気に結んだ唇の上がり具合とか。高いとこ登ってオレ一番高ぇ~ってワクワク喜んでる顔とか。いくら見てても見飽きねーよ」 「心外だ」 「あーもう、なんでオマエなの? なんで俺オメーみてぇな野郎に惚れちゃったわけ!?」 「…なんでだろうな?」 「バーカバーカ!誰がテメーなんか!…チクショー、あぁバカは俺ですぅ!」 悔し気に睨みながら拳を振り上げる。 勢いと不釣り合いな弱々しい連打を高杉の胸元に見舞う。 「お前の傍にいたら命がいくつあっても足んねェ。何度心が引き裂かれるか知れねェ。でも面白いんだよ!お前の傍でお前を感じて一緒に居んの好きだし、匂いも感触もこんな好きなヤツいねーし、命のやりとり含めてオマエといるのが俺は最高にワクワクすんの!」 「身に余らァ」 「体力だってあの頃のようなわけにゃいかねぇ。誰の傍にいれば楽ができるか重々存じあげてる。でもなァ、身体が言ってんだ。無風の海みてーな安穏は窒息しそうだって。心が悲鳴あげちまうんだよ」 高杉の僧服の乱れた襟に顔を擦り付ける。 「お前が誰を好きになろうが知らねぇ!どんな仕打ちされようが変わらねぇ。俺が見て触ってひとつになりたいのはオマエだけ、俺の心が決めたことは俺自身にだって曲げられねーんだ」 「銀時…好きだぜ?」 懐のぬくもりを抱きしめる。 「お前が俺に抱いたその境地、今度は無にしねェ。いつも報いずに思いの潰(つい)える虚しさばかり突きつけちまったなァ。恐縮の至りだ。…悪かった」 「高杉ぃ…」 「恋心を自覚したのはお前が戦(いくさ)を去ったあとだ。だが今更、どのツラさげてお前に会える? 迷う俺にアッサリお前は以前と同じ顔で笑った」 思い返して目を伏せる。 「お前は俺が傍に寄ることを許した。謝る言葉もなく取り繕うだけの俺に夜毎、顔をあわせ犬を連れて散策するのを拒まなかった。あの犬は俺にとっちゃ恩人でね」 定春は吠えなかった。 高杉に擦り寄っていった。 まるで銀時の心を読んだようで、なんだかなー、だったのを覚えてる。 『これがオメーの白い獣か?』 高杉は臆することなく定春を見上げて匂いを嗅がせた。 『たいそう美しく利発じゃねーか。どうだぃ?今度俺と…』 定春に笑いながら持ちかけた。 『江戸の町ん中ァ、夜明けまで走り回らねーか?』 聞いて定春はビックリして高杉を二度見してた。 グラっと心奪われていた。 果てしなく歩きまわるのも、誰かと一緒に駆け遊ぶのも定春にはこたえられない喜びで。 よくこんな一言で犬を虜にするもんだと感心したっけ。 『ダメぇ!定春が走り回ったら何をどんだけ壊して怒られるか分かんねーからァ!』 『…そうか』 高杉は、ねだる定春の鼻面を撫でた。 『なら、いつか機会があったら同行たのむぜ?』 定春は目を輝かせ、尻尾を振って飛び回って、もう高杉を拒むどころじゃなかった。 夜中の散歩に出ると高杉を待って立ち止まってたくらいだ。 「俺は銀時が好きだ、そいつァ解った。だがどうやったら大切にできるのか、そもそもテメーはどう思ってるのか五里霧中だった。そんな俺をお前はなにも言わず受け入れてくれた。過去の所業があってなお、お前は俺を責めもせず拒みもしない。自分はテメーに許されている、そう思ったら初めて我が身を恥じた」 「へー、そうなんだ」 「贖罪の方法は解らねェ。だがお前が差し出してくれる心を壊さねェようにしようと思った。人を愛する方法は、どうやらお前が俺に示してくれている。お前が俺を包んだように、俺もお前を包もう…ってな」 「そのわりに、すぐキレて怒るよな」 「テメーを大切にするって慣れない作業に取り組んで恋心を打ち明ける機会をおずおず窺っていたら、真選組と婚約したって報を聞いてよォ。俺りゃ土方に敵わねェのか。俺の取り組みはどんなにテメーの目に無様に映ってたか。考えたらテメーを律する寄す処(よすが)を無くしちまってな」 「それぜんぶ我欲じゃねーか」 「お前が土方を選んだと思や、心穏やかじゃいられねェ」 「俺の幸せを願うのが愛なんじゃねーの?」 「そんな控えめな愛は持ち合わせてねーな」 「ソレ愛って言わねーから」 「なるほど。そいつァ為にならァ」 廊下を歩いて奥まった戸口をくぐる。 こじんまりした脱衣場を通りすぎながら高杉は抱いたまま銀時の身体から襦袢だけ落とす。 踏み入れた浴室はうってかわって広く、凝った造り物や装飾が配してあって、くもりガラスの窓から昼の明るさが差し込む他は高い天井や浴槽の奥は不気味に暗がりが蟠(わだかま)っている。 それでもタイル張りの浴室は磨かれた目地が白く浮かび上がり、浴槽に張られた湯が温かそうに煙っている。 レトロな浴室なのにシャワーや蛇口もあって、その前に置かれた椅子に腰掛けるよう下ろされた。 「洗ってやるから待ってろ」 「いらねーよ、自分で洗う!」 慌ててシャワーの蛇口をひねる。 蛇口は龍をモチーフにした真鍮細工で、どこを掴むか戸惑う。 それでもなんとか湯を出して頭を突っこむ銀時を見届けると、まだ僧服を纏っていた高杉は脱衣場へ引き返していく。 アイツ戻ってきたらゼッテーちょっかい出してくる。 その前に洗っちまわねーと。 とくに顔。 化粧を落とす石鹸てあんの? 知ってんだよ俺は、よく変装すっから。 こういう頑固なヨゴレって普通の石鹸じゃ落ちねーんだよな。 とにかく半端に塗料が流れたオバケみてーなツラは高杉には見せらんねぇ。 あとその…ケツ。 中に出されたモン、ぜんぶ掻き出して洗っとかねーと。 「手伝ってやらァ」 「んぎゃあ!」 後ろのそこへ手を伸ばした途端、背後から高杉に抱えこまれた。 「んなっ、な、なにしやがる!?」 「テメーん中に仕込んだヤツ、出しといた方がいいんだろ?」 「そうだけど、ちょ、離せって!」 裸の高杉の胸腹が背中に密着してきて鼓動が跳ね上がる。 そのまま床にかがめられ、四つん這いに尻を高くあげさせられる。 「自分でやる、自分でやれっから触んなッ」 「角度的に届かねェよ。残らず掻き出してーなら俺に委ねるしかあるめーよ」 「ヤッ…メッ、んんッ!」 尻たぶを左右に開かれて敏感な部分に触れられる。 高杉を受け入れていたそこは期待なのか恐怖なのか自然にきゅっと力が入る。 力を抜いて緩めさせようと、穴を撫でまわしていた指が埋めこまれてくる。 「あ、ぁうッ…!」 がくがくと身を揺らして衝撃に甘い痛みが混じるのを受け止める。 高杉の指は力強く中へ分け入ってくる。 こんな明るい場所で、そんなところを奥まで探られている、そう思うと下肢が震えてきつく目を閉じる。 「はぁ、あぁ…、」 中で指が動いている。 高杉のそれは先ほどの熱い塊を思い出させて。 快感を欲しがる部分に誘おうと勝手にゆらゆら動いてしまう。 「もう少しだから辛抱してなァ」 高杉は真面目な声で言うと作業を続ける。 熱いものの残骸が指に絡められて掻き出されていく。 ずるん、と異物が取り除かれ、腸内がカラになる。 まるで擬似の排泄行為。 銀時は拳を握ってその羞恥に耐える。 「…ァ、」 指先を湯で洗い流すと、ふたたび中へ差し入れられる。 どこを触られても甘いうねりが腹の中に乱反射する。 「ぁ、…ぁん、ン…っ」 ひときわ刺激に弱い腹側の一点を指が行き来する。 じらすように周りを弄ってはすり抜けていく。 「はっ…んっ、んんんーッ!」 銀時は自分の口を押さえる。 高杉の指が、いままで避けてきた一点を指で挟んで揉むように刺激している。 「ィヤッ、ぁぐっ、なっ、ぁッ!?」 腹側へ不規則なリズムで押しこまれる。 下半身に溜まった痺れが一瞬でペニスを擡げさせていく。 「うぁッ、た、かす、ぎッ!」 「もう中は綺麗にしたぜ?」 二本の指を自在に動かしながら片腕で銀時の腰を捕らえて引き起こし、その双丘に口づける。 「すっかり勃っちまった。もう入れてもいいかァ?」 「なっ…んなっ…!」 銀時は言葉が声にならない。 「ソレなんのためにやったんだよ!?」 「決まってんだろーが。また愉しむためだ」 「やだ、イヤだ、キリがねェ!」 前へ這って逃げる。 「なんかもう疲れた!ゆっくり休みてーよ!誰かァ!」 若々しい身体は高杉の腕力に抗しきれず、造作もなく引き戻される。 「誰かコイツ止めてェ!死ぬ、死んじまう、……ぅ、ぅぁあああッ!」 後ろの穴になにかが触れる。 指でも熱い塊でもない、やわらかくて指より自在に動くヌルリと湿ったもの。 「ゃっ…、ぃゃっ…だっ、」 尻にあたる頬と乱れた息遣いから、なにをされてるか分かる。 それは穴を丹念に這いまわりながら、中心を優しく抉って中へ入りこんでくる。 「ぁっ…たかすぎ…っ…!」 「ン…、すきだぜ、ぎんとき…」 「ゃ、やだ、そんなの…っ、やっ、ぁッ…!」 「お前の身体中、どこもかしこも舐めてェと思ってた」 「ぁんんッ!」 身体中…? 全身、そして下腹部が熱くなる。 なんでよりによってソコなんだよ。 叫びたいが息が整わない。 「オメーの至るところぜんぶ愛しいぜ、ぎんときィ…」 「はっ…ぁっ、はぅっ…」 舐める音がする。 高杉のあの舌がしていると思うと腰が砕けそうになる。 入るときか出るときか両方か、たえず高杉の口と舌から背徳的な快感を送りこまれて。 されるまま銀時はタイルに潰れて下半身を愛されているしかない。 「いいかげん、入れて欲しかねーか?」 ちゅ、とキスされる。 「舌ァ引き抜かれそうだ。俺のコイツもオメーの中に収まりてェしなァ?」 「…ぅ、」 高杉のを奥まで。 埋めてほしい。 アレが欲しい。 動かして、突いて。 「たかすぎ…」 キモチよく逝かせてもらいてー。 「……いれて…いいぜ」 「ククッ、光栄だな」 高杉は体勢を取ると勃起をあてがう。 「ねだるときも、あくまでお許しをくださるわけだ。この気の強ぇ白夜叉さまは」 「んなっ! そんなんしてねーだろ、…あぐ、んぁっ…!」 太く硬いものが後ろを押し開き、確実に奥を求めて進んでくる。 「あっ、ぁ、あぅぅッ!」 その先端が腹側の一点に突き刺さる。 背が跳ねて銀時は声もなく先走りを滴らせる。 「はっ、あっ、ゃっ、だっ…ぁんん!」 奥を貫く前に、浅いそこを確かめるように何度も突かれる。 ペニスが腹につくほど反り返り、とろっ…と透明の液が噴き出す。 「ゃッ…、もぉッ、ぁああっ!」 腰をつかまれ、高杉が動くたび前立腺が不規則に捏ねられる。 そのたびペニスの先から、とめどなく薄い液が漏れる。 「はぅ、…ぁぅう…ぁ…ふぅっ…んっ」 精の放出の快感、遠くへたゆたうような穏やかな絶頂。 息も忘れるほど押し寄せるそれに銀時は呆然と浸る。 背中に高杉が覆いかぶさってくる。 硬くて太いものを押しこまれるが、もう痛みはない。 いろんな角度から突かれて腹の中がトロけていく。 「ぎんとき…ぎんときっ…!」 荒い息遣いが聞こえる。 自分の息もせわしない。 痛くされなくても気持ちいい。 腸壁に熱いものを掛けられる異様な興奮に銀時はすべての吐精を果たし、ヒンヤリしたタイルの上へ静かに息をついて横たわった。
疑わしげに尋ねる。 タイルの床に仰向けにされて、膝を立てて両足を開かされている。 「まだ俯せのがマシなんだけど」 「深いところに出しちまったからな」 高杉は指を差し入れて掻き出している。 「次はサカっちまうわけにゃいかねーだろ?」 「それとコレ、俺がM字開脚させられてんのはなにか関係があるわけ?」 「お前の尻が形良くてよォ」 目を細めて指を動かす。 「見てると挿れたくなっちまうのさ。だったら見ねェようにするしかあるめーよ」 「それってどうなの」 もろに性器を晒してるのは構わないんだろうか。 「このいたたまれないキモチはどこへ供えりゃいいんだよ」 「もう終わる」 高杉は仕上げに浅いところを一拭いする。 「あとは中まで開いて洗い流してやらァ」 「ちょ、カンベン!」 銀時は勢いよく上半身を起こす。 「大変なことになるから!それってどう考えてもシャワ浣……うぐっ、」 言いかけて止まる。 胸苦しくなにかがこみあげてくる。 「……ちょ、待って…、キモチワル…、」 口を押さえる。 本格的に吐き気がする。 高杉の下から身を引き上げてヨタヨタ這うように排水口へ向かう。 「あぐ…、んがっ…おぼ、おぼろろぼっしゃー!!」 胸のあたりで、逆流しようとする塊が暴れている。 懸命に銀時はそれを口から出そうとする。 しかし空腹の胃は吐くものもなく。 銀時はとまらない嘔気に涙を滲ませる。 「かはっ!」 最後に。 銀時の口から出たものがあった。 「ケヘッ、ェゲッ…、」 急激に腹が軽くなる。 すっきりして重荷を取り去ったように身体中が楽になる。 「なんだそれは?」 高杉が覗きこむ。 出てきたのは長い紐状のデコボコした物体。 抜け殻のように潰れているが、どうやら丸い部分が数珠つなぎになった一塊のものだ。 「んあ?」 銀時も見下ろす。 「んあぁぁーッ!」 その形には見覚えがあった。 土方に手渡され、飲むようにいわれた天人の薬。 「これ、コレッ…!」 「心当たりがあるのか?」 高杉は怪訝そうに銀時を見る。 うなずいてそれを告げようとしたとき。 銀時は朝と同じ感覚に襲われる。 息苦しく浅い呼吸は次第に空気が吸えなくなり。 肩が背中がとめどなく震え。 体が分解されるような不安に手足を丸めてうずくまる。 「ぁっ、…ぅ、くっ…」 手足が勝手にうごめき、小刻みな震えが全身に広がってとまらず銀時の意志では収拾がつかなくなる。 高杉は黙って傍に着いている。 なにが起こっているか、おおむね察しているのだろう。 銀時の動揺をよそに高杉は冷静に見守っているように見える。 「ぁぐ…ぅ…、」 こんなのは聞いてない。 もっと若返っちまったらどうしよう。 でも薬は吐いたんだし。 銀時は首を振る。 高杉が動かないかぎりコトは安全に違いない。 その一念で体内に吹き荒れる細胞変容の嵐に歯を食いしばる。 「銀時」 気がついたら高杉の腕を掴んでいた。 力任せの指の跡がついている。 その指はもとの自分の大きさで。 掴む力は年齢相応、視線もさっきより高い。 「…あ」 手を突いて起き上がる。 見慣れた自分のもとの姿。 身体は充実して気力が漲っている。 「戻った…」 「どうやらコイツは徐放剤らしいな」 高杉が薬の塊を拾い上げる。 「体内に留まってるうちは若年化させるが、吐けば効果が切れて戻っちまう仕組みだ」 「ちょ、そんなもん触んなって」 「真選組はハナから時限式に変身させて元へ戻すつもりだったのか。この分だと効果は1日たらずってところだな。挙式直前に飲まされたってのは、時間が経ったらオメーが吐いちまう危険が増すからだろうよ」 「なに。じゃ俺、二重に騙されたの」
あのとき引っ掛かりを感じたのだ。 オンナになってないのに、あたかも銀時が女体化したみたいに宣伝する彼らを見て、もしかして『戻らない』ってのも方便なんじゃないかって。 もしかしたら、これ全体が世間の目をごまかすフィクションじゃないか。 土方には自分をこの状態から解放する手立てがあるんじゃねーかって。 「とくに変身の影響は残ってなさそうだな」 高杉が銀時の身体を点検する。 「元通りのオメーの綺麗な身体だ」 「………ハァ~、」 銀時は、しゃがみこんで大きく息を吐く。 「よかったぁぁぁ!」
目も見える。身体も万全。銀時はタイルの浴槽にボーっと寄りかかる。 「機嫌いいじゃねェか」 「ん、気分いい」 「そいつァなによりだ」 あとから入ってきた高杉が銀時の横に腰を下ろす。 浴槽は広く、十人やそこら入ってもプール並みに余る。 気にもせず浮かんでいると高杉の指が銀髪に絡んでくる。 「…なに?」 「可愛いからよォ」 「そーかよ」 いたわるように触れてくる高杉の手は心地いい。 目を閉じてゆだねていると疲れと安堵に寝入ってしまいそうだ。 「昼飯は何がいい?」 高杉こそ上機嫌に聞いてくる。 その伸びやかな声にますます眠りを誘われる。 「ん…寿司とか、鯛とか、ステーキとか…あとチョコレートパフェとマロンパフェとイチゴ牛乳とプリンとモンブランとショートケーキをホールで」 「よさそうなところを支度させる」 高杉は家の者を呼びつける。 銀時がウトウトしていると、耳障りのいい声が簡潔に用事を伝えている。 それを終えるといきなりパチンと音がして、浴槽の壁に設置された巨大モニターの電源が入る。 「んぇ…?」 「オメーが寝てる間、見ようと思ってな」 高杉は手にしたリモコンでチャンネルを変えていく。 「どうやら真選組の屯所で始まったらしいぜ」 「…始まったって?」 「幕府の偉物を集めて祝言をあげるのが今日の奴等の仕事だろ。その中継をやってるって聞いたからよォ」 「祝言?」 銀時は画面を見上げる。 「オレ居ねーのにできんの? アレ、じゃ代役を立てたのかな?」 てっきり中止だと思いこんでいた。 「土方くん、誰と式を挙げるんだろ?」 「気になるか?」 「ならねーよ」 「オメーにベタ惚れだったもんなァ。まさかこんな簡単に手のひら返すたァ…」 言いかけて高杉も黙る。 銀時は屯所の中継を凝視する。 花野アナの静かなリポートとともに厳かな雰囲気の中で式が執り行われている。 ちょうど花嫁が廊下をわたって座敷へ向かってくるところ。 その綿帽子の下の面差しが大写しになる。 紋付を着た新郎の横。 たおやかな細身の、しっとりした雰囲気のある芯の強そうな少女。 「……………ヅラ?」 銀時は思わず画面を指す。 印象的な瞳、うつくしい黒髪。
それはかつて自分たちとともに混沌の戦場を駆け抜けた、あのころの戦友の顔立ちそのものだった。 |
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銀時が平坦に尋ねる。 「真選組への嫌がらせ?じゃなきゃ祝言に来るお偉いさん狙ったテロ?」 画面に映し出される若めの桂は白無垢に綿帽子。 紫の口紅や暗めのシャドーも似合う花嫁っぷりだ。 「そういやヅラは真選組に捕まっていたな」 高杉が無感動に思い出す。 「ありゃお前と同じ薬で若返らせて代役に仕立てられたんじゃねーか?」 「なんでヅラなんだよ?」 銀時は不服そうに身を乗り出す。 「外見は女みてぇってもヅラだよ?捕まったって真選組の思惑どおりに動くヤツじゃないからね」 「じゃあ惚れたんだろ」 こともげに高杉が言う。 「あの新郎やってる隣りの男によォ」 銀時は画面を見る。 待っているとようやく新郎の顔が映る。 長身で大柄のその人物は土方ではない。 ピシっと正装して花婿然とした、顔面頭部がボコボコに腫れ上がっている傷だらけの近藤。 「ありゃ真選組の局長だな」 高杉が顔をあげる。 「まさかヅラが敵将を射止めるたァ見事という他あるめーよ」 「……いや。ダメだろ」 銀時が画面を見たまま言う。 「だってアレ、ゴリラだもの。人類じゃないもの。ヅラの情人にゃなれねーよ」 「ゴリラだろうが人類じゃなかろうがヅラが良いってんだ」 高杉は目を細める。 「四の五の文句つけたって始まらねェよ」 「ならなんであのゴリラ泣きそうなの?派手にボコられてんじゃねーか」 銀時が画面の近藤を睨む。 「あれやったのヅラじゃねーだろ。お妙だろ。他の女の尻追っかけてるようなヤツにヅラが惚れるわけねーんだよ」 「助けに行くか?」 「なんで?」 クルッと高杉を見る。 「なんで行くの?助けるって誰を?ヅラ?行かねーよ、そんなん」 「ククッ…」 高杉は銀時のふくれっ面を見下ろす。 「そんなに他の野郎に取られるのが気に入らねーか」 「別にィ。俺の助けなんか要らねーだろうしィ。逃げたかったら勝手に逃げるだろーしィ。余計なことしてあいつを喜ばせんの腹立つしィィ!」 「違いねェ」 真選組は桂を丁重に扱っている。 銀時に続いて桂まで奪われたら真選組も難儀だろう。 ネオ紅桜の脅威も去った。 高杉はザッと試算すると救助を放棄して高みの見物を決め込む。 「ほォ…花嫁はヅラだけじゃないのか」 桂の後ろに映ったものを見て、わざとらしく感嘆する。 「景気のいいこった。ありゃオメーんとこの娘じゃねェか」 「…」 「真選組に嫁に出すことにしたのか?」 「してねーよ」 銀時は浴槽のフチに両腕を組んでその上に顎を乗せる。 「なに勝手に人ん家の娘にあんな格好させてんの。保護者代わりの俺になんの断りもなくだよ。アイツの親父に俺はなんて言って半殺しにされりゃいいわけ?」 沖田とともに廊下をしずしず歩いてくるのは綿帽子に白無垢の神楽。 こころなしか沖田はカメラに得意気な目線を向けてくるし、手を引かれた神楽は照れたような澄まし顔で神妙にしている。 「…そういや白無垢がイッパイあったな」 銀時が呟く。 どんな年齢にも対応できるよう用意されていた衣裳。 祝言に参列するだけの予定で盛装していた神楽は、急遽、花嫁役に駆り出されて衣裳を着せられたに違いない。 してやったりの沖田の黒い笑いに透明な純情が混ざっているのを銀時は冷静に眺める。 「真選組もえげつない真似しやがる」 高杉が面白がる。 「ありゃ志村じゃねーか。アイツまで花嫁にさせられちまったのか」 「…え。新八?」 銀時は顔を上げる。 神楽たちの後ろに続いて現れたのは同じく白無垢を着た新八。 眼鏡のないその顔を真っ赤にして俯く姿が初々しい。 隣りの花婿は顔を映さないようにしているが、背格好からして山崎だろう。 「あ~あ、なんつー歩き方してんだよ。そりゃ女の歩きじゃねーよ」 銀時は握っていた拳を緩めて笑う。 どうやら新八は若返ることも女性化することもなく素のまま女装させられたらしい。 身体になんの違和感もないのが丸わかりなほど、いつも通り重心をまっすぐ腰で支える剣術家の歩きをしている。 「…つーかさぁ、あいつら何も考えてないよね」 新八の後ろの光景を見て銀時は浴槽に肘枕を突く。 「ただ人数をカサ上げしたいだけだよね」 サングラスを掛けた顎ひげの長身が白無垢を纏って普通に歩いてくる。 化粧はしているが、もはや『女』に見せようとすらしていない。 長谷川を娶ろうという隊士は、名前は知らないがよく見かける坊主頭の何番隊かの隊長だ。 土方ではない。 そのあとも隊士とその彼女と思しきカップルが入場してくるが新郎の中に土方は居ない。 なにかの拍子にカメラが参列者を映したとき、銀時は立会人席に探していた人物を見つけた。 いつもの隊服をピシリと着こなし、鋭い眼光には一部の隙もない。 土方はすでに真選組の鬼副長に戻っていた。 「元気そうじゃねーか」 高杉が評する。 銀時は返さない。 なにかを声に出して述べられるほど浅い縁(えにし)ではなかった。 土方の立てた策が邪魔されずに進めばいい。 いま思うのはそれだけだ。 「……あ」 参列者の中に見慣れたポニーテールがあった。 にこにこと機嫌よく式の主役たちを見守る志村妙。 一番先に懇願されて動員されそうな彼女は花嫁の列になく、チラチラと隊士たちの視線を浴びながら親族席にいた。 「ま…そうだよな」 銀時は引きつり笑って近藤のボコられ顔と妙を見比べる。 妙は楽しそうに新八や神楽を見ていた。 式は滞りなく進んだようだった。 荒れはてた中庭はまったく映らなかった。 幕府の高官たちも真面目な顔をして座っていた。 なにを考えているのか、その堅苦しい表情からは窺い知れなかった。 自分 ─── 白夜叉を見ても彼らはあんな顔で参列していたのだろうか。 「体制派のジジイどもが居ねェな」 高杉が告げる。 「おおかた白夜叉が見られねェと聞いてテメェで足を運ぶのを嫌ったんだろうよ」 「じゃ、あそこに来てる連中は?」 「松平片栗虎のシンパだな。それから胸クソ悪い幕臣どもの代理人がチラホラ見える」 「そうか」 当面の敵は居ない、とはいえ桂は自分の代わりに屈辱的な見世物にされていよう。 屈辱的つーか、どいつもこいつもボーっとヅラの顔見てるだけだけど。 ヅラは顔だけは無駄に綺麗なんだよな。 しかし。 桂がおとなしく近藤の隣りに座っているということは近藤は周到な配慮をしているのかもしれない。 花嫁じゃない桂だ、などと暴れ出されては手がつけられないだろうから。 「……ま、いっか」 銀時は半笑いのままブクブク腰を落として湯の中へ沈んだ。
風呂から出ると座敷に戻って遅い昼食を摂った。 昼食というか、本格的な料亭の日本料理だ。 エビだの魚だの花だの木の芽だのを、焼いたり揚げたり蒸したりして色とりどりに配している。 寿司やらステーキやらのリクエストは、脇に添える程度だが洗練された品目として取り入れられている。 ほんのぽっちりづつ、ぜんぶ味が違って、しかも激旨すぎて頬の奥が痛くなりっぱなしだ。 「……旨ぁ~!」 銀時は燦然とかがやく特大パフェを箸休めにつまみながら高杉に尋ねる。 「なにコレ祝い膳!?客が来たから特別な趣向とかなんとか!?」 「そんな特別なモンじゃねェ」 高杉は感慨もなく気に入ったものだけに箸をつけている。 「オメーと食うから気合い入れてくれとは言ったがな」 「これが家飯とか、お前ん家はどうかしてんじゃね?」 銀時は高杉が残した分まで一欠片余さず平らげていく。 そんな銀時を見ながら高杉は手酌で酒を楽しんでいる。 喋るより食べる方が忙しい銀時は、なにか話さなきゃと思いつつ深淵な味の世界に没頭している。 給仕の人間はイチゴ牛乳が空になる前にちょうどいいところで注ぎに来てくれる。 湯葉だの筍だのお椀だの、次々出てくる料理は転げまわるほど旨い。 「…でさぁ」 銀時は唐突に話をフッた。 「なんで山小屋に俺を置いてったわけ?」 「…ア?」 「あの素人剣術のドン臭い兄ちゃん…なんだっけ?藤江田君?菅原君?」 「荒巻壮太。天堂藤達の子飼いの道場師弟だ」 「そうそう。あれが役立たずだったのはオメーに変身を解除されたからだったみてーだけど。そのあとアイツの気配が消えてオメーが乗っかってきたから、たぶんオメーがどうにか手を下して始末してくれたんだろうってのは分かったけどよ」 味噌焼きを頬張る。 「結局、オメーは俺を置き去りにして帰ってったんだろ?」 「…」 「なんで俺を連れてかなかったんだよ。そうすりゃ新八の誤解も一発で解けたのによ」 「あの時点では」 歯切れ悪く答える。 「オメーは土方と相思相愛だと思ってたからだ」 「んぇ?」 「荒巻とネオ紅桜は回収した。天堂藤達に釘を刺す材料は押さえた。だが他の野郎を恋しがってるテメーを連れて帰るほど血迷っちゃいねェ。どうか俺を好きになってくれと懇願するような真似ができるか、と思ったのさ」 「けどさぁ!」 銀時が非難がましく叫ぶ。 「おま、あれだけヤッといて…、俺がノリノリで応えてたの一番よく分かってたのオメーじゃねーかぁ!」 「戦争中、俺はオメーに無理を強いた」 高杉は真顔で言う。 「植えつけられた恐怖で、あのくれーの恭順があっても可笑しくねェ」 「お、おかしくねぇって、おかしいだろ、おかしいと思えよ、どう考えてもおかしいィィィイイ!」 銀時は真っ赤になって口ごもる。 「だったらなんで、あの、その…お、オメーが恋しくなかったら、オメーより先に気ィ失うほど逝っちまうわけねーだろがァァァァ!」 「……そうか?」 「そーだよ!」 「だったらテメーでそう言やァよかったんじゃねーのか?」 高杉が腹立たしそうに銀時を見る。 「人を全否定しておいて逝っちまったのは、身体をつなげても心は思い通りにならねェって完全な拒絶に他ならねェって思うだろが」 「だだ、だからそれは…!」 あんとき、ものすごい格好させられてた。 触手プレイであれこれされて感じちまって。 どろどろになって汚れ、とても高杉に見せられたもんじゃなかった。 「あ、あんまり恥ずかしすぎたから…、」 「俺が俺じゃねェってことにすれば、俺に見られたことにゃならねーってか?」 「そそ、そ、そう、」 ウンウンと頷く。 「だってよ、あんな汚い格好してんの見られたら、まるで俺が股関節ゆるいみたいだろ、高杉に嫌われちまったら、……あんの野郎ォォォ、世界を何度八つ裂きにしても飽き足りねーよッ!」 「そりゃ回避できて良かったなァ」 ニヤニヤ笑う。 唇の形が嬉しそうだ。 「んで…、ひさしぶりだったし。オメーがキモチ良くなってくれっかどうか自信なかったし。気ィ遣われるより痛くされた方が慣れたカンジで気楽にできたけど…なにより、他の野郎じゃなくてオメーとヤッてるって思ったら」 銀時は赤面のまま高杉に顔をあげる。 「最高にキモチよくて思わず逝っちゃいました」 「……フッ」 酒を膳に置く。 身を乗り出して銀時に触れる。 「俺も、あんなに無我夢中で腰振ったのは久しぶりだ」 なにか言おうとする銀時の唇に唇を押しつける。 「テメーが愛おしいぜ。身体ァ抜群だしな。顔も好みだ。だがよォ、過去を詫びるならテメーを自由にしてやらなきゃならねェ。あんときそう考えて、前後不覚のオメーを土方の手に委ねることにした」 「だからっ…! ん…、はむっ…」 「志村から話を聞いたのはそのあとだ」 キスで言葉を奪っておいて間近に囁く。 「犬の散歩をしてる暇があったら土方と布団で乳繰り合う方がマシだってな」 「んんッ…!」 「居ない日は井戸の底で水ゴリする、それを元にギャグを捻って雑誌に投稿するってよォ」 「ぁんっ…はっ…、」 「それでテメーの縁談が『捏造』って分かった」 ゆっくり、銀時を押し倒していく。 「テメーの土方への気持ちは、そう見せかけてるだけだってな」 「高杉ぃ…まだ」 銀時は上に乗りかかる高杉を見上げる。 「メシ食ってねぇ」 「あとで食え」 「…んっ!」 「それで病院へオメーを取り返しに行った」 完全なる私事。 兵を動かすわけにはいかないから単身で。 「オメーの気持ちを確かめ、斬り死にしても連れ帰って目の治療をするつもりだったのさ」 「死んだら…、ダメつったろ」 胸元を開けられ、首に吸いつかれて銀時は息を乱す。 「生きる予定のない野郎は…お断りだから」 「人質やら、弱みやら握られて…テメーが本心を偽っているのは間違いねぇ。真選組に囲まれた中でテメーが何言ったって信じるわけにいかねェ」 手で乳首を弄りながら、硬さを示した部分を求めて手が下腹部を探っていく。 「テメーが俺を拒もうと、どんな弁明をしようと…俺はお前を連れて来ると決めた」 「っぅ、ァッ…!」 「だってそうだろう?『井戸の底』で『投稿』とくりゃ、答えは『ウソ偽りの捏造』しかねェ」 「ァッ、んぅぅ…っ、」 「俺とお前、あとはほとんど知る者もねェ符牒を使っての伝言だ…俺の勘違いじゃねェハズだ」 銀時は身もがく。 ゆるく立ち上がった性器を掌でゆっくり愛撫される。 ときおり乳首を噛まれ、声を立てるまで吸いあげられる。 尿道口を開かれながら敏感な亀頭を捏ねられると、すぐに膝が揺れて腰が動き始める。 「だからもう迷わないと決めた。テメーが志村に託したのは、俺への救難要請だ。テメーが何を言おうと…どんな態度を取ろうと、お前を得るためじゃねェ、自分が悔いの海に沈まねェために…やれるだけすべてやるしかねェ」 「はっ…ぁぁあぐっ!」 「もう一度お前の気持ちを確かめて、それが本心だと納得するまで…他の野郎にゃ渡さねェってな」 「ッ、はぅっ…、んぅぅ…っ、」 入ってきた指が中を十分なサイズまで広げていく。 先刻も受け入れたはずのそこは先ほどとは違う抵抗感がある。 身体が違うからか、異物への恐怖と、その奥底に潜む期待のような快楽の源。 子供の身体では感じなかった高杉への欲求が指で弄られるごとに沸き立ってくる。 「そのために万全の陣を敷いた。私情と言われようが構わねェ。自分を救えずになにが革命だ。お前を縛るものから解き放ち、その本心を聞く。それが真選組襲撃の全容だ」 からみつく銀時の腿を開かせてローションを使う。 冷たいそれにヒヤリとしたのも束の間、すぐにローションは二人の体温になじむ。 入り口を十分に慣らしたあと、腰を進めて中を穿つ。 狭いところを突破するまで銀時は息を逃がして耐えている。 そのさまも、くせのある銀髪も愛おしい。 高杉は銀時が目を瞑っているのをいいことに欲望むき出しの顔を歪ませながら穴の奥を犯す。 「すべてじゃなかったな。お前の本心を聞いたら、こうして…」 「ぁんんッ!」 「テメェとひとつになりてェ。テメェのなにもかも、奥底まで俺で埋めつくして貪りてェ…そんな下心が渦巻いてらァ」 「たかすぎっ…、」 銀時は受け入れたものを咥えこんで、きゅうっと締め上げる。 まるで悲鳴のように腰が揺れ、中が締まり、絡んで離すまいとする。 高杉が突くたび銀時が浮かべるのは苦痛の表情そのもので。 なのに漏れる喘ぎはどう聞いても高杉を煽る快楽の嬌声。 「ぎんとき、好きだ…、これからずっと俺りゃ…オメーとともに在る」 「ぅっく、ぁ…離れたらコロスって…言ったよ…な、」 手を伸ばして銀時は高杉の首に腕を回す。 「武士に…二言はねぇ、勝手にくたばったら…っ、コロスから…っ!」 「テメェの手にかかりゃ、本望だなァ…?」 ククッと笑って腰を押しこむ。 銀時は声もなく呻く。 反り返る身体、銀色の髪、ふせられた睫毛も銀色なのが最高に刺激的だ。 高杉はほとんど消えた胸の傷に触れる。 天人の薬の妙な効能で、あのとき負った傷は薄い傷跡に変わっている。 欲望のまま銀時を貪るのに遠慮は要らない。 二人だけの交歓。 「はっ…ぅ、ぅんっ…!」 機を捕まえて銀時が高く弾ける。 「んっ、……ぁあああっ…!」 反ったペニスから高杉の腹へ白濁が飛ぶ。 その裏筋をしごきながら腰を突き、うねりかえる銀時の腹の奥の柔らかい熱襞へ、高杉は欲望の精をぶちまける。 「クッ…、ぎんと、きっ…」 「ぁ…きた、……出てる…、たかすぎの…」 全身で精液を受け止めて、たまらなさそうに白い腰が揺れ動く。 欲しがるその中へ、高杉は最後の一滴まで吐き出して果てる。 「んっ…は、ぁっ…」 満足気な銀時の吐息。 二人は触れては舐めあうキスを交わす。
「テメーの肌ァ、手触りがいいなァ」 「ん…、まあな」 「すきだぜ?俺りゃァ…」 「オメーは俺が好きだよなァ。…俺もだけど」 銀時は気怠い視線で高杉を見つめる。 高杉は一時たりと銀時を離さない。 時間のすぎるまま何度でも睦み合っては絶頂へと身を放ち、また肌を重ねて一番深いところで互いを感じ合う。 食事をし、身を清め、ともに寝入ってはまた触れ合い、愛を告げ、じゃれつき、ふざけては他愛なく戯れる。
国を護った英雄たちが取り上げられ、その中で白夜叉の波瀾万丈の生涯も紹介されている。 結末は真選組屯所でのあの爆発。 まるで悲恋のように編集された構成は、攘夷戦争の特集というよりは古典的な恋愛物語のようだ。 銀時の花嫁姿や高杉へのひたむきな表情が、粋と情けを愛する江戸市民に深い共感をもって受け入れられてしまった。
銀時がこぼす。 「名前も坂田銀時で。だって女になっちゃった銀時は過去へ行って子供を産んだんだよ。だから白夜叉そっくりの俺はアイツの子孫でいいと思う」 番組は必ず銀時が過去の世界で子孫を残したことを匂わせている。 おそらく銀時が子孫を名乗り、表を歩いて暮らせるよう真選組の思惑が入っているのだろう。 「ま、幕府さえ黙らせりゃ、世間は他人の色恋なんざ忘れてくモンだ。そのうちオメーが銀時だろうが子孫だろうが、どうでもよくなるだろうよ」 高杉が頷く。 しかし、世間はそんなに甘くはなかった。
10日ほどの蜜月を過ごして銀時は高杉の屋敷を出た。 服装はいつもの黒い洋装に着流しを合わせ、木刀を差している。 もうほとぼりが冷めた頃だろうと高杉のお墨付きをもらって外を歩いたら、すぐに人の目にとまってジロジロ見られた。 ひそひそ話されたり、物言いたげに見られたり、家の奥へ人を呼びにいく者までいる。 銀時は引きつりながら見ないようにして歩いていく。 救いだったのは、物珍しそうな視線が概ね好意的だったことだ。
団子屋の前を通りがかると、張っていた店主にバッチリ捕まった。 「お母さん…いやお婆さん?いや、アンタの先祖さんとは昔、ちょっとあってね…」 あったのはツケだけだ。 なのにワケありみたいな言い方をする。 「お代はいいんで、どうぞどうぞ。寄ってってくださいよ!」 「いや急ぐんで」 銀時は丁重に断る。 あの分だと店主の野郎、人をオカズにしてやがったな。
「あ、銀さん!」 サングラスの無職が手を振る。 どうやら真選組に永久就職とはいかなかったらしい。 「『銀さん』はマズイか。なんて呼べばいい?」 「いいよ、銀さんで」 あの屯所の騒動以来、近しい知り合いには連絡を入れておいた。 事情を説明し、この世に健在であることを伝え、いつ万事屋へ戻るかも明かしておいた。 長谷川は変わらぬ銀時の様子に、へらりと笑う。 「じゃあ子孫の銀さんで。…どう、ゆっくりできた?」 「うん。食ったし寝たし。ジャンプ読み放題だし」 「彼氏とよろしくしてたんじゃないの?」 「あたりめーだろ。シッポリだよ」 「いいなぁ。俺なんかもらったバイト代、マシンに吸い込まれちゃった」 「台の選び方がマズかったんじゃねーの。今度オレに選ばせろって」 「イヤだよ、銀さん自分が座っちゃうんだもん」 長谷川にも世話になった。 だが互いにそれを口にすることなく手を振って別れる。 「今度飲みに行こう、銀さんのおごりで」 「ふざけんな」
「おや銀さん。身体の方はすっかり良いようですね」 かぶき町に差し掛かると高天原の前で狂死郎に会った。 「どうでした?好きな男のために女装した気分は」 「ぶふっ!?な、なんでそれを…?」 銀時は狂死郎を凝視する。 「まさか。お前、知ってたの?」 「なにをですか?あれは女性になったんじゃなくて若返っただけってことをですか?」 狂死郎はあたりを憚って小声で告げる。 「もちろん。たとえどんな姿をしていようと男か女性かの区別はつきます。商売ですから」 「あー…そう、」 屯所で会ったとき、花嫁姿の銀時に対して狂死郎は最初から最後まで浮き足立つことがなかった。 あれは銀時が性転換などしていないと解った上での沈着だったのだろう。 「思った通りの人でしたね。銀さんの恋人は」 狂死郎が会心の笑みを浮かべる。 「なるほど、あの人のためなら真選組の言いなりになってあんな格好で式に臨もうとした銀さんの純愛も分かります」 「いや、あのね、純愛とかじゃなくて」 銀時は訂正を試みる。 「べつにアイツのためってわけでもねーよ。しょっぴくって言われたんだよ」 「見せつけられて、ほんの少し妬けました。あの人にも銀さんにも敵う気はしませんが」 ウィンクして狂死郎はホストらしい軽口に本心を混ぜる。 「私もお二人の幸せを祈らせていただきましょう」
「有意義だったぞ」 いきなり塀の影から声を掛けられた。 「敵の内情をつぶさに調べることができた。奴等は取引などと称していたが俺にかかればあの程度の警備、赤子の手をひねるようなものだ」 それなりの変装をしていたが、桂は成人男性の姿をしていた。 「まあ、多少の計算外は否めないがアクシデントはつきものだしな」 改めてコホンと咳払いする。 銀時はイラッと青筋立てる。 「聞いてねーよ!テメーがゴリラと恋に落ちたとか、大事なものの中に真選組も入りそうとか、俺にはまったく、なんの関心もねぇ!」 「まあそう言うな」 フフフと笑う。 「ヤツのクセや好みから好きなブランド、行きつけのバー、将軍の護衛予定まで実にたやすく情報を仕入れたのだ。聞きたいか?聞きたいだろう?アイツの喜ぶウィスキーの比率はな~」 「やめろテメ、本気でそんなものに情報の価値があると思ってんのォォォ!?くだんねーことに俺のメモリを使わせんな、国家機密的なモンが一部紛れこんでる気もするけどォォォ!」 「高杉とは」 押しやる銀時の手をすり抜けて桂が振り向く。 「心が通じたのか?」 「……まぁな」 銀時は、動きをとめて桂を見る。 桂が頷く。 「貴様ら二人とも初恋の成就だ。めでたい限りだ、と言っておこう。…して、そんなタイミングで申し訳ないが俺はしばらく姿を消すぞ」 身を翻す。 「あれ以来、なにかと周囲が騒がしくてかなわん。ゆっくり逢引もできんし蕎麦も食えん。というわけで俺への連絡はエリザベスに託してくれ」 「ハイハイ。また行方不明とかになって鬘(ヅラ)だけになって戻ってくんなよ?」 「ヅラ(鬘)じゃない、ヅラ(桂)だ」 言い置いて去っていく。
花野アナが撮影スタッフを引き連れて走ってくる。 「現代に蘇った坂田銀時さんの末裔の方ですよね!?少しお話を窺ってもいいでしょうか、お名前を窺いたいのですが!」 「あー、俺。坂田銀時です」 さわやかっぽい笑顔で撮影に応じる。 「戦争中、数奇な人生を送った祖母と同じ名前なんですよ~」 「そうなんですか」 花野アナの表情がホッとしたように親しみを浮かべる。 「歴史は変わったということですね。貴方のご先祖さまは、この時代から過去へ時間を超えた攘夷戦争の英雄と呼ばれた人なんですよ、なにかお聞きになってましたか?」 「ああそうなんですかぁ」 申し訳なさそうに言う 「なんでも祖母は最初の出産のあと肥立ちが悪くて、そのまま…だから詳しい話は聞いてないんすよ」 「まぁッ、そうなんですかッ!?」 ものすごい勢いで驚かれる。 「坂田さんが…あの人が、そんなことになったなんて…」 言葉に詰まり、見る間に涙を滲ませる。 「それでも、お子さんが生まれたということは少しは幸せな時間を過ごしたと考えていいんでしょうか…?」 「あ~、そう聞いてますよ」 銀時は花野アナの涙に面食らって言い繕う。 「なんか祖父とはラブラブで~、ラブラブすぎて周りが手がつけらんないほどラブラブで~とにかくラブラブ~ってことでしたから」 「…そうですか」 花野アナが目を拭う。 「これから坂田さんはどうされるおつもりですか?」 「どうするもなにも俺は前からずっと、かぶき町で万事屋銀ちゃんを営業しています」 高杉と練った設定通りにカメラに向かって言い放つ。 歴史は変わった。 変わった世界での万事屋銀ちゃんの主は子孫である坂田銀時だ。 皆が知ってる銀時は、子孫の方の銀時だったのだ。 そう言いくるめてしまえば多少の齟齬は押し通せる。 ハッタリをかませて力説すると花野アナはすんなり了解した。 「そうですか。そうですよね、坂田さんにとっては最初からこの世界が御自分の世界ですよね?」 花野アナはカメラに微笑む。 「過去へ舞い戻った花嫁、坂田銀時さんは子孫の方の中に生き続けています。過去での苦労、そしてロマンスはいかばかりだったでしょうか。私たちの想像を裏付けてくれる資料はありませんが、子孫の方がこの時代に生きていらっしゃる、それが時間を超えた花嫁の愛の証のように思えてなりません。以上、かぶき町から花野がお伝えいたしました!」
げんなり疲れきった様子で万事屋の階段をあがろうとする銀時に、お登勢が出てきて声を掛けた。 「ずいぶん肌ツヤがよくなったじゃないか。いろいろと充実してるようだね」 「ババア…」 「滞納してた家賃は、どこからともなく払い込まれたよ。しかも二重にね」 「え。どういうこと?」 「アンタのために…」 お登勢は手にした煙草を吸いこんで溜める。 「二人の男が別々に支払ったってことさね」 「マジかよ。正気の沙汰じゃねーよソレ」 「当分、家賃の心配はしなくて済みそうだ。あの男、ハッキリ言ってったからね。アンタをもらうって」 お登勢が笑う。 「多少、二階でドタバタしてても気にゃしないよ。あたしゃあの男が気に入っちまった」 「いよぅ、銀の字」 絶句している銀時に、追い打ちをかけるように源外がお登勢の店から顔を出す。 「目は治ったみてぇじゃねぇか、よかったなぁ!」 「いや、あの、それは良っ…良いだろ、ありがてーから、礼を言うからあんま深く考えんなァァ!それよりジーサン、アンタなんでこんなとこへ?」 「今日、オメーが帰ってくるっていうから祝杯をあげによぅ。どうだ、お登勢んとこで飲んでかねーか?」 「わかった、わかったから!いいから引っ込め!」 銀時は急いで源外を店へ押し戻す。 「ジジイ、テメーはお尋ね者なんだよ、ちったぁ自覚を持て!」 「銀ちゃあん!」 二階から子供らが降りてくる。 「待ってたのになんでそっち入っちゃうアルか?!」 「おかえりなさい、銀さん」 新八が晴れやかな笑顔で迎える。 「高杉さんから聞いて…僕ら、嬉しくて…!」 「あらあら、すっかり銀時ちゃんじゃなくて銀さんになっちゃったのね」 二人の後ろから妙が顔を見せる。 「残念だけど、まあいいわ。歓迎会は、どうせならお登勢さんのとこでやらせてもらいましょうか?」 「いいね、今日は臨時休業だ」 「主役はオメーだぜ、銀の字!」 「タダ酒ほど旨いもんはないカラネ」 キャサリンが酒の用意をしている。 「ソレハいいけど、誰が金を払うンダヨ!」 「ちょっとまて、歓迎会ってなに!?」 銀時はじゃれついてくる子供たちに引っ張られて暖簾のかかってないお登勢の店へ入っていく。 「オレ普通に帰ってきただけなんだけどォ!」 「普通じゃないですよね。銀さんが出てってから、やっとの帰還ですよね?」 「そういや俺りゃ大将から礼金もらっちまってよぉ、今日はこれでパァッといくかぁ?」 「じゃあとっときの酒を出すよ。銀時の成婚祝いさね」 「いや、それは…」 銀時はゴクンと息を飲む。 「俺とアイツは騒ぎが収まるまで隠れてただけだから!身体の変調もあって疲れてたし、テメーらが考えてるようなことはなにも…!」 「ここ10日、くんずほぐれつヤッてましたって顔してなに言ってるアル」 神楽が銀時をカウンター席に座らせる。 「顎とんがってるヨ、銀ちゃん」 「ちょ、神楽!そーいうの言うんじゃありませんん!テメーこそ沖田とナンもなかったんだろーなァ!」 「ないアル」 「どっちだァァァ!?」
「おっ、ありゃ旦那たちじゃねーですか」 黒い隊服の集団が歩いてくる。 隊士を引き連れた沖田と、その隣りに土方。 真選組の市中見廻りは昼のこの時間、かぶき町に差し掛かっていた。 「元の身体に戻ったよーだな。軽くて速そうな旦那とも戦ってみたかったけど」 「戻らねぇわけねーだろ。でなきゃあんなに苦労した甲斐がねぇ」 スナックお登勢へ入っていく銀時の姿を見て土方は憮然と言う。 「仕事中だ。もう行くぞ、総悟」 「土方さんだけ行ってくだせェ、俺たちは祝賀パーティに呼ばれてくるんで」 「やめとけ、平賀源外もいるんだ。話をややこしくするんじゃねぇよ」 「じーさんにも世話になりやした。礼儀知らずの土方さんに代わって俺が挨拶しときやす」 「………勝手にしろ!」 土方が踵を返す。 「オイ皆、総悟を置いて屯所に帰」 言い終わらないうち隊士たちは沖田と一緒に駆け出していく。 酒にも馬鹿騒ぎにも銀時にも目がない連中。 「テメーら、午後の給料差っ引いとくかんなぁ!」 土方が彼らの背に浴びせる。 聞こえているはずなのに脅しが効く隊士たちではない。 「ったく、なんだってんだ…」 一人、取り残された土方は見回りを続ける気にもならず、煙草が吸える場所を求めて歩き出す。 ポケットの中の煙草を掴んだまま水路の上にかかる橋の欄干にやってくると、ようやく煙草に火をつけて一服する。 銀時が消えたあと、真選組の祝言は問題なく終了した。 独身者の多さを憂う幕府の役人たちを、とりあえず黙らせることに成功した。 白夜叉不在の咎めを覚悟したが、しかし幕府は土方を腫れ物に触るように扱った。 目の前で花嫁を奪われて失恋に傷心の男。 彼らの目に映っているのはそんな痛々しい姿なのだろう。 好都合だが。 実際、あれからなにをやる気もしない。 銀時のためとか、賊をおびき出すためとか、幕府をごまかすためとか、いろいろ理由をつけたが所詮自分は銀時に恋い焦がれていただけだ。 銀時に、自分とともに恋に落ちてほしかった。 既成事実を作ってしまえばひょっとしてそんなことにならないかと期待し、ヤケクソで「要求を拒否することは認めない」と条件をつけたが、叶わぬ恋だった。 新居で初めての晩、自分か高杉かどちらか選べと銀時に迫って、自分は拒否された。 あのときありえないほど目が腫れて、とても人前に出られなかった。 目の見えないアイツを流血覚悟で襲う選択もあったが。 自分で傷口を広げるような真似はさすがにできなかった。 銀時にはその自制心を『布団の中では最強』などと称されたが。 なんのことはねぇ、自分で自分の腹をかっさばきたくなかっただけだ。 「全部終わったら、帰してやるつもりだったんだぜ?」 いない銀時に呟く。 ふと思い立って懐から取り出したのは一枚の写真。 屯所の庭で、花婿の自分と白無垢の銀時が中央に映っている。 隊士たちの笑顔。 自分も表情を作りながら、必死で視力のない銀時の身を気遣ってあたりを睥睨していた。 残っているのはこれだけだ。 一枚撮ったところで賊の襲撃を受けた。 目を細めて銀時を眺める。 見えないながら健気に前を向いて花嫁らしい仕草をしていた銀時。 愛おしくないはずがない。 いま銀時の名を、姿を思っても身体が熱くなる。 けど。 「……テメェは帰してやらなきゃな」 高杉のもとへ。 未練を残したってしかたない。 土方は写真を掴み、まっぷたつに破る。 「……!」 自分は写真の銀時もろとも引き裂くつもりだった。 しかしちぎれた写真は土方を境に破け、銀時だけは奇跡的に全身無傷で残していた。 「笑えねぇな…」 銀時が自分に嫁ぐために装った美しい白装束を見て、それを誰にも見られないよう手の中に握る。
咥えた煙草の横から煙を吐きながら、土方は小さく笑んだ。 |
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佐々木異三郎が高杉に告げる。 「現在の坂田銀時は白夜叉の子孫であると広く世間に浸透しました。アレを白夜叉本人と決めつけて断罪するのは幕府にとって外れの公算が大きい賭けです」 「幕府が世論を気にする日が来るたァ、言論統制もずいぶん弱まったもんだ」 高杉が笑う。 「真選組がマスコミを駆使した功績かね」 「当面、見廻組に坂田銀時の捕縛を持ちかけてくる幕臣はいないでしょう。本人が『自分が白夜叉である』とバラさない限りは」 「あのバカのことだ。いずれやりかねねェ」 「貴方からの定期的な口止めをお勧めします」 「無駄だな。アイツは困ってる奴にゃ誰にでも手を差し伸べる。真選組でも攘夷派でも誰にでも手を差し伸べる。それがアイツの生業、なんでも屋だからな。アイツにとっちゃ、どっち側もコッチ側も無ぇんだ」 「では逮捕の際には市井に生きる一般市民の生活のための正業と。そんな方向で取り調べておきましょう」 「すまねーな。今回は助かったぜ」 「いえいえ、お安いご用ですよ」 裏門をくぐって佐々木異三郎は高杉家を辞する。 「これも私にとっては貴方が見せてくれる面白いもののひとつにすぎませんから」
銀時は定春を連れて散歩に出る。 かぶき町を抜けて空き地や草むらの多い住宅地へ。 よろこんで定春は銀時を引きずりながら散歩の順路を歩いていく。 「今夜は一段と涼しくなったもんだ」 そして神社の前で出会うのだ。 定春と、定春の大好きな飼い主にとって特別な存在である高杉という男と。 「こんな日はテメーの作った鍋に限らァ」 「実家に取材拒否の料理人みたいなの取り揃えといて、なに言ってんの」 「オメーのメシにゃ敵わねェ」 間髪入れず。 「なにを置いても食いてェ味だ」 「んぇ。そ、そぉ?マジで? …んなわけねーよ!」 「おやおや。オカンムリかァ?今夜はメシにゃありつけねェか。俺りゃなにをしくじっちまったかね?」 「…肉。昼間、あんだけいいの送っといて、しくじってるわけねぇだろ。ちゃんと鍋つくったよ。今夜は鍋ですぅ!」 高杉に会うと銀時は機嫌のいい匂いを出す。 そして高杉は7枚くらい食べただけでお腹いっぱいになる素敵な肉をくれる。 定春は高杉が好きだ。 だから銀時がゆっくり歩きたい、という匂いを出しているから協力することにする。 「星がよく見えらァ」 いつもの道で高杉が夜空を仰ぐ。 「届きそうで届かねェ。昔っから俺りゃあのキラキラしたモンに焦がれてたっけ」 「高杉の星好きは異常だよなぁ」 銀時も見上げる。 「先生が『天体は方向を見失ったとき道を指し示してくれる標(しるべ)です』なんて言ったもんだからオメーとヅラがのめりこんじまって。競争で星図つくったりしてたっけ」 「俺の言ってる星はオメーだぜ?」 空へ行っていた視線が帰ってくる。 「俺がのめりこんだ星は銀時、お前だ」 「あ…ぇっ?」 「俺がいつも愛でて探してる星はオメーなんだよ。どこにいても輝く。眩しいくれェに光を放つ。夜闇にあってひときわ煌めく銀色の星。俺をこんなに惑わすモンは他にねェ」 「そッ…、そんな大変なことになってたの俺、お前の頭ン中で?」 「お前はいつだって俺に道を示してくれる。今回だって例外じゃねェ」 「俺、お前のお気に入りは北極星だと思ってた!」 銀時が彼方の星を指す。 「明るいし!どっからでも見えるし!だから新八にあのパスワードを渡したんだけどォ!」 「あぁ。たしかに受け取った」 高杉は笑んでいる。 「ありゃ受け取っちまえば即座に解けるが。それを読み取るまでが手強かったな」 吉田松陽に教えを受けていたとき。 昼の北極星を見る方法論を巡って一悶着あった。 樹木のウロを選んだ高杉たちと、空井戸から見ようとした数人の塾生たち。 見えなかった空井戸組が論を取り繕って雑誌に投稿し、それが作為的に仕立てられた偽証であると看破されて学術機関から咎められたのだ。 「あんとき捏造(ねつぞう)って言葉初めて覚えた」 銀時が唇を尖らせる。 「意味は『ウソのストーリィをでっちあげること』。オメーに祝言は本心じゃねぇ芝居だから乗せられんなって伝えるには、うってつけだと思ってよ」 「申し分のねぇ選択だ」 「…だろ?」 銀時の尖っていた唇が平らになる。 「俺もさぁ、アレ思いついたときは天才じゃね?って思ったね。どっからともなくスーッと言葉が降りてきたからね」 「あぁ、天才だな。テメーにゃ誰も敵わねーよ」 「やっぱりィ?」 唇の端が気分よさそうに上がっていく。 「まぁね。高杉も星を見ながら俺を思い出してたんだろ? これから星を見るたび高杉のこと思い出しそうじゃね?星を見上げて切ない顔してるオメーの横顔をよォ、ぷぷぷっ」 「そいつァいい」 高杉が目を伏せて笑う。 「星を見るたびオメーは俺を思い出すわけだ。悪い気はしねェな」 「んぁ…、」 銀時はチラッと高杉を見る。 なにを言っても否定されない。 そろそろ気恥ずかしい。 「あ~…あ、そうそう。鍋さぁ、すげー気合い入れて作ったから!」 突っこみどころを用意してみる。 「肉が来てから材料買いに行って、夕方4時から作り始めたんだぜ!?も~白菜なんかオメー好みに煮えてっから!鶏とか十分下処理してっから臭みとか全然ないしッ!」 「オメーがそんだけ自信もってんだ。さぞ良い出来だろうよ」 お前は俺の味の好みを知ってんのか、とか。 素人が気張ったって、たかが知れてるだろうよ、とか。 そんな返しを予想してたのに高杉は機嫌のよさそうな声で応えるだけだ。 「あ、あのォ…たかすぎ、くん?」 「見ろよ、銀時」 こいつどうかしちゃったの?と顔色を窺おうとしたとき。 高杉は、いつか銀時が肝を冷やした集合住宅を見上げる。 「あの左から2番目の部屋。先だってから一向に人が入らねェ」 「…エ?」 「その上の上の階も空室じゃねェか」 「あ…、まぁそうだけど」 示された部屋は入居者がいないためカーテンが開いている。 窓からガランとした暗い室内が透けて見える。 「俺りゃよォ、考えたんだが」 高杉が声を押さえて耳打ちする。 「あの2番目ってェのは…位置が悪いんじゃねェか」 「位置?なんの位置?」 「だから…具合が悪いんだろうよ。縁起的な意味で」 「縁起的って、それは、」 銀時の両足が思わず爪先立つ。 「もも、もしや、夏に聞くと涼しくなるよーなカンジの?」 「『出る』んじゃねェか?」 真顔で言う。 「でなけりゃあの場所だけ人が寄り付かねェのは説明つかねェ」 「なな、ななななッ…!!」 高杉の観察眼は突拍子のないことでも正確に言い当てる。 「なんてこと聞かせやがるぅ、俺は毎晩ここ通っ…ぅッ、うッぎゃぁああーッ!」 勝手に身体が駆け出す。 定春の引き綱を持って全力で。 一目散に騒がしい繁華街めざす。 「…テメーがあんまり可愛いんで呆れるぜ」 逃げていく銀時の後を高杉はノンビリ歩いていく。 「ひとつの部屋を挟んだ上階と下階に人が入らねェってことは、その部屋が並以上に騒音を立てるから人が居着かねェって相場が決まってら」 高杉の声が届く。 「あんなところに恐ろしげな因縁でもあると思ったのかァ?」 「んだとォーッ!」 銀時は息を切らして振り向く。 「てっ…、テテテテメッ、知ってたよ、分かってたからね!誰も怖がってねーぞゴラァ!」 「…ぶっ」 目の色を変えて果敢に肩を突っぱる銀時を見て、思わず吹く。 こんな瞬間をくれるのは銀時だけだ。 「んあッ、笑ってんじゃねーよ!」 「ククッ…すまねーな」 「ちょ、お前、俺のことバカにしてね!?生身で戦艦に突っこんでくバカとか陰口叩いてねぇ!?」 「言ってねェ」 「ウソつくんじゃねェ、チラッチラ聞こえてたからね!ヅラとゴチャゴチャ言ってたの!」 「そりゃ違うな。聞き間違いだろ」 「どう違うんだよ、言い逃れすんじゃねーよ、単行本ひっぱり出して確かめるかんな!」 「好きにすりゃいい。俺りゃ法螺は吹かねェ」
このごろ夜中に散歩すると高杉と会う。 犬の散歩に途中から加わってそぞろ歩き、なにということもなく喋る。 以前と違うのは高杉が途中で身を翻して行ってしまわないことだ。 今は二人で万事屋へ、一緒に同じ場所へ帰る。 「俺とお前の組み合わせってさぁ、マズイんじゃねーの?」 銀時が後ろに尋ねる。 「過激派テロリストとプロパ…プロパン……そのォ、旗頭な俺がいたら目ぇつけられんだろ?」 「お前は白夜叉じゃねェ、その孫だ」 高杉が銀時に続いて階段を登る。 「白夜叉はオンナになって元へは戻れねェ。時間を越えて過去へ行っちまった瞬間も記録されている。白夜叉がこの世に居るはずねーんだ」 「そーだけど」 定春の引き綱を外す。 「孫っていうより、まるっきり本人なんですけど」 「世間は白夜叉の悲恋が今生で成就することを歓迎している。幕府もむやみに手が出せねェのさ」 引き戸を開けて定春を入れる。 銀時は手探りで電灯のスイッチを探す。 「オメーが苦労して勝ち得たのは、お前が自由に想いを遂げる権利ってわけだ」 「オレ、やっちまったよなぁ」 玄関を入る。 「まさかこうなるとは思わないものなァ。…あ、高杉。おかえり」 「ただいま」 引き戸が音を立ててピシャリと閉じる。 電気が点く。 話し声と物音が板の間へ移っていく。 部屋を満たした温かい色の光が万事屋の窓から漏れ出した。
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