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【2024/03/29 05:18 】 |
第65話 決戦ではなるべく空気を読もう 5




「やれやれ。だから高杉さんには内密に事を運ぼうと思ったんですよ」

武市が嘆く。

「坂田さんを誘って私たちだけでネオ紅桜を誘き寄せ、回収する。そうすれば高杉さんが過去へ行くなんて言い出すこともなかったのに。これで鬼兵隊は主を失うことになりますね」

「晋助さまが行くなら私も付いていくッス。そこが過去だろうが宇宙だろうが同じことッスよ」

また子が声を張る。

「白夜叉ァ、それは晋助さま流のプロポーズっス! 晋助さまがそういうおつもりなら私たちはアンタを晋助さまの一部として鬼兵隊に迎えるッスよ! 心置きなく受けると良いッス!」


「いや違ぇだろ。高杉は過去には行かねーだろ」

銀時は無表情に言い返す。

「だって送り届けるとか言ってるもん。これ俺だけ過去に持ってかれるんだよね? 高杉はこの時代で普通に生きてくんだよね?」


「はぁ? あんた、恋愛不感症っスか?」

また子が呆れたように腰に手を当てる。

「さっき晋助さまがアホほど愛を告げていたの、もう忘れちゃったんスか? あんだけ盛り上がっといてアンタと離れるわけないッス!」


「俺りゃ過去には行かねェ」

「そうッスよねぇ」

「この時代でやらなきゃならねーことがある。鬼兵隊を残していくワケにはいかなくてね」

「そうそう、鬼兵隊を…え? し、晋助さま!?」

「悪いが付いてってやることはできねェ。銀時、お前とはこれで永劫の別れだ」

高杉の隻眼が苦し気に眇められる。

「もともとオメーは過去にしか生きられない攘夷の申し子だ。この場違いな時代に存在すりゃ血を流して傷つくだけ傷つくだろう。前ならともかく今は身を護る術もねェ。俺は、そんなお前を見ちゃいられねェ」

「……ウン」

銀時が諦めたように笑う。

「わかってたよ。俺とお前じゃ感覚が違うって」

「…」

「戦争でどんなに力を尽くしても失ったものを取り戻す役には立たねーって悟っちまったし。お前がその感覚を共有できないのも無理ないしな」

「銀時ィ…」

「お前が山小屋に現れたのは『ネオ紅桜』の回収のためだし、川辺で会ったのだって鬼兵隊のヤツラを無駄死にさせないため。それでいいし。不満に思うこともねェ。でも俺はオメーにだけは操を立ててたんだよ。オメーにだけは他の誰かと懇(ねんご)ろになったと思われたくなかったんだ」

笑みを浮かべたまま銀時は宙空へ顔を向ける。

「あんときだって俺は。先生がいて高杉がいて…な日常を取り戻せればそれで良かった」

「……」

「オメーがあそこへ帰してくれるってんなら、それも良いかもな」


「ちょ待ってくださいよ! そんなのってありますか!?」

新八がたまらず声をあげる。

「僕は銀さんに高杉さんと気兼ねなく付き合ってもらえる日が来ると思ってたんです、なのに銀さんだけ過去へ行くんですかッ?なんなんですかそれ、アンタら別れる気ですかッ!」

声が震える。

「ていうかアンタ、僕たち置いて過去へ行っちゃうつもりなんですかッ!?」


「ワタシも行くアル」

神楽が力強く言う。

「目の見えない銀ちゃんはワタシが守るネ!」


「バカ言うなィ。テメーは俺の嫁だ。そんなとこ行かせられるか」

沖田が挟む。

「きっと旦那は大丈夫だろ。むこうで昔の高杉とくっついて、たくさん子供こさえて、その子孫がこの時代にワサワサ蔓延(はびこ)ることになりまさァ」


「いやだ銀時の子は見たいが高杉との子なぞ願い下げだ」

桂が真顔で言う。

「銀時、考え直せ! お前なら俺が護るし嫁にももらうぞ! 高杉の甘言に惑わされるな!」


「どこが甘言んん!? どー考えても苦言だろーがァ!」

銀時が桂の方へ怒鳴る。

「もーいい、ゼッタイ過去行くッ! テメーともこれっきりな!」


「過去へ行くなんて止めとけ、目の前の困難から逃げてどうする!?」

近藤が溶解剤を掛けられながら言う。

「そんなことしたら巡り巡ってもっと面倒くさい事にぶつかるんだぞ!お前はトシと結婚して真選組に紛れこむのが一番良いんだって!」


「そうよ、銀時ちゃん」

妙が胸のあたりで両手を握る。

「一緒にいてくれる人が一番じゃないの。どう考えても銀時ちゃんの婿には新ちゃんが適任よ。皆で『花嫁に簡単エクササイズ入門!初心者を募集!恒道館ブライダル護身術』を広めましょう?」


横で大江戸テレビの撮影カメラが回っている。

狂死郎は引きつり笑いで妙のカメラ目線を窺っている。


「銀さん」

気を取り直して狂死郎が告げる。

「アナタが決めたことなら反対はしません。二人の間のことは二人にしか分かりませんし、第三者を気にする必要はないでしょう」

くすっと笑う。

「アナタの愛の作法…そんな格好をしてまで守ろうとしたものは確かに見届けました。あの男なら仕方ありません。これでお別れでしょうが、どうか祝福させてください」


「旦那ァ…」

長塀の外で山崎が耳に当てたインカムを押さえて内部の様子に聞き入っている。

「行っちゃうんですか…」

見えない電磁波の檻が阻んで塀に登ることもできず、手近に屯所内を覗けるような高台もない。

山崎の横で源外が一緒にインカムに耳を近づけて聞いている。


「過去へ行っても帰ってこれるんですかね」

隈無清蔵が呟く。

「まあ、そんなことをしたら歴史に影響を残しそうですが」

「ううう…」

神山は項垂れている。

そうしながら岩場の上の高杉を睨もうと、努めて顔をあげて見上げている。

隊士たちは爆牙党の者たちに縄を打ち、溶解剤を運び込み、負傷者の手当をしながら様子を見守っている。

池には変身を解かれた男たちに混じって長谷川が仰向けに浮いている。

ホストやキャバ嬢も小さくざわめきながら、どうなることかと見入っている。

 

「こちら、花野です」

ひそひそと実況を再開する。

「結婚式直前、屯所の写真撮影会場では大変なことが起きています」

小さな声でも十分聞こえるほど、あたりは静まっている。

「花嫁の坂田銀時さんはかつて攘夷戦争に参加しており、現在でも攘夷活動に多大な影響を与えるということで、かよわい女性の身になった今、この坂田さんを比較的安全な過去へ送り返そうという流れになっています、ライブ中継でお伝えしています!」


「……過去が安全なんてわけがあるか」

土方が、声を絞り出す。

「行っちまったらお前のまま、この魂のまま帰ってこれる保証はあんのか?」

「土方くん」

「俺はお前を失っちまう! 坂田銀時を失っちまう…!」

「あー…大丈夫だって。たぶん。最後まで無事だったとこに居りゃ危なくねーし、それが大体どのへんだか戦争の終わりまで一回経験してるから判ってるしな」

「二度目は違うかもしれねーだろ」

土方は銀時を抱き締める。

「お前はどうなるんだ?この時代の、ここにいるお前は?ほとぼりが冷めたら、また戻ってこれんのか?」

「そんなの俺が知りてー…」

「戻ってはこられねェ」

高杉が告げる。

「人が時間を超えるのは一度きりだ。銀時はあの時代で死ぬまで生をまっとうするのさ」

「じゃあ、この、目の前の銀時は…」

「消えるんだよ」

高杉が吐き捨てる。

「幕府の玩具みてーに女にされた白夜叉は、二度とテメーらの見世物にはさせねェ。過去の俺と俺の仲間たちがコイツの生きたいように自由にさせる」

「だったら俺も行かせろッ」

高杉を睨みあげる。

「銀時が過去へ行くってんなら、その運命を変えられねぇってんなら俺も行く。俺はコイツを離さねぇ」

「無理な注文だな」

高杉が鼻を鳴らす。

「この装置は容量が限られている。俺と銀時以上の人数は運べねェ」


「なんだ。じゃ、本当にお別れか」

銀時がうつむいて笑う。

「俺、この世界から消えちまうんだなァ…」


「銀時、お前は過去なんかに行きてぇのか!?」

土方が腕を掴む。

「一言、イヤだって言いやがれ。そしたら高杉なんかに渡さねぇ!」

「…でもなァ」

「過去に行ってなにか良いことあんのか?こことどう違うんだよ!?オメーに得なことなんか何もねぇ、ガキどもや、お前を大切に思ってるヤツラを置き去りにするだけじゃねぇか!」

「俺、オンナになっちゃったしィ」

銀時が自分の帯に手を置く。

「こんな目じゃ、ろくに俺の剣は届かねー。護るどころか大切な奴等を危険に晒すだけだ。厄介な連中、銀河系最大の犯罪シンジケート?とかに恨みも買っちまってる。高杉はそれを知ってるから過去に逃げ場を用意したんだろ」

「う、」

宇宙海賊、春雨。

先だっての攘夷派内部抗争の折、春雨の戦艦が江戸上空に飛来したのは周知のこと。

銀時は春雨ともコトを構えているのか。

春雨を相手取るとなると真選組全員の命を並べても足りない。


「俺はいいんだよ、俺は。どうなろうと自業自得だし」

銀時が言う。

「でもよ、あいつらやお前らが酷い目に遭うのは我慢できねーよ。俺が原因なのに、俺が何もできないなんて生き地獄はカンベンしてくれや」

「ぎ、銀時…!」

「ありがとうな、土方くん。オメーには感謝してんだ、俺なりに」

手をあげて土方の在り処を探す。

「あいつらのこと頼んだぜ。俺がいなきゃ春雨に襲われることもねーと思うけどよ、あいつら無茶すっから」

「ダメだ、…めろ、」

「これでお別れな。行かせてくれんだろ?」

銀時の手のぬくもりが頬に触れる。

「オメーにはずっと素直になれなかったけど今なら言える。オメーのこと、最初に見たときから楽しい野郎だなって…」

「…やめろ、やめねぇか!」

土方は自分に触れた手を掴んでそのまま頬に押しつける。

「そんなもん聞きたくねぇんだよ!二度と会えねぇなんてやってられっか、お前が誰を向いてても構わねぇ、好きだ、お前が好きなんだ…!」

「土方くん…」

ほろっと熱い雫が銀時の頬に落ちる。

くぐもった声とともに土方の背中が震える。

「お前を離したくねぇ、離せねぇよ、ダメだ、行くな!行かせねぇ!」

「ちょ、オメー…、」

「離さねぇ、高杉に渡すくらいなら、オメーを失うくらいなら、オメーに一生恨まれてやる、上等だ…!」

土方は銀時を腕の中に閉じ込める。

見て、高杉は鼻白む。

「よぅし、トシ、こっちだ!」

近藤が声をかける。

「そのまま銀時を連れて下がってこい!」

隊士たちがぬかりなく岩場のまわりを固める。

銀時を抱いたまま玉砂利に座り込んだ土方を高杉の視界から遮っていく。

「高杉! お前が銀時を思う気持ちは俺たちと同じだろう。だがお前は指名手配犯だ。見逃すことはできん!」

「たかすぎっ!」

後ろへ引いて連れていかれそうになりながら、銀時は土方の腕から身を乗り出す。

その手に届かない高杉を求めるように岩場へむかって手を伸ばす。

「もう腹は決まってんだ、お前と行く!」

きれいな指先だった。

その手は宙をつかんでいた。

「連れてけ、迷ってなんかねぇから!」

白無垢の袖がなびいている。

銀時の巻き毛が柔らかそうで愛おしい。

なあ、銀時。お前は病院のベッドから手を出して振ったよな。

そういうとき、お前はその手をどうされてぇんだ?

知りたがった俺にお前は答えたっけ。

『お前の好きにすればいい』。

俺はお前の望むことをしてやりてぇ。

『だったら俺のして欲しいことすりゃいいじゃん。イチゴ牛乳掴ませるとか、いろいろ』

ああ、そうか。

お前のして欲しいことをすればいいのか。

それなら俺はお前を離してやろう。

お前の望みを叶えるために。

「…あ、?」

最初から。

「ひじかた…くん?」

お前を逃がすのは俺だと。

決めていた。

「行け」

土方の腕がゆるむ。

銀髪に名残惜しそうに唇が当てられる。

「言ったろ? お前が逃げるときは俺が逃がしてやるって」

「え…マジで、いいの?」

「元気でな。たまには、…いや、なんでもねぇ」

忘れないでほしいと。思い出してほしいと願うのは傲慢だろう。

「死ぬな。そんだけだ」

「あぁ、そんなら自信ある」

銀時は腕をすり抜け、立ち上がる。

「達者でな、土方くん」

その言葉を残し、銀時は土方を残して玉砂利を踏む。


「あ、なにやってんだィ土方さん!」

沖田が慌てて叫ぶ。

「アンタまで高杉に乗せられるたぁマヌケすぎだぜ副長俺に代われ土方ァ!」

「なんで離しちゃうのトシィィ!」

近藤が頭を抱える。

「これじゃ高杉の思うツボだってばぁ!」


「ワーイワーイ、ざまーみろ」

神楽が嬉しそうに笑う。

「誰も銀ちゃんの邪魔はできないアル!行け、行け銀ちゃん!ヤバ男とよろしく高飛びするヨロシ!」


「そんなぁ…」

新八は立ち尽くし、そして膝を折る。

「過去で危ない目に遭ったらどうするんですか…!?」

 

白い衣裳が、ひるがえる。

銀時は勘だけで隊士を躱す。

「たかすぎっ!」

岩場に手を触れて確かめながら、それでも軽々と踏んで登っていき。

頂上から腕を掴んで引き上げる男のもとへ、その胸めがけて飛び込んでいく。

「たかすぎ、たかすぎぃ…!」

「銀時…!」

小柄な白無垢姿が高杉の両腕に抱き締められる。

「お前、いいのか?もう戻って来られねェんだぜ」

「うん。お前にこうされたぬくもりだけで生きてける」

高杉の首に両手を回して抱きすがる。

「1分でも。1秒でも。むこうに着くまでのあいだ、こうしてて良い?」

「銀時…、」

隙間なく銀時の背を抱いて引き寄せる。

「オメーと離れるなんざ、身を切られるようだ」

「ん。わかってるって」

銀時は幸せそうに笑う。

「俺のためにしてくれるんだ、お前にも辛い…、選択させちまってすまねー」

「長居は無用だ、行くぜ?」

「っ、…そうだな。長引くとみっともねーとこ見せそうだし」

銀時は庭をキョロキョロ見下ろす。

新八、そして神楽の気配を探し、なにごとか考えていたが結局、言葉にならず。

「じゃ、オメーら元気でやれよ」

無気力な顔で、努めて素っ気なく言い渡す。

「世話した分も、してもらった分も、チャラってことで。そんじゃ、さいなら~」


「銀さん!」

「銀ちゃぁんんん!」


「さがってな、メガネ。時空の歪みに巻きこまれたら危ないぜ?」

高杉が装置のスイッチを片手で細かく押していく。

「しっかり掴まってろ銀時、次に吸いこむのは戦場(いくさば)の風だ!」


「高杉さん、ちゃんと戻ってきてくださいよ?」

「し…晋助さまぁ!」


「待て、高杉!」

近藤が身構える。

高杉の装置から重い空気の塊が吹き出してくる。

「お前は間違ってる、銀時を…、過去に連れてったってなんにもならねェだろぉぉ!」


高杉は答えず。

銀時は楽しげに笑んでいる。

吹き出す圧に押され、皆、頭をかばい身を低くしてそれに耐える。

まるで先のない道行きだというのに。

その不吉を寄せつけないかに二人は愛おしげに互いの身に触れ合い。

そして。

「銀時ぃぃぃぃ!」

轟音とともに岩場の上の空気が炸裂する。

耳に刺さる重音、波のように押し寄せる爆圧。

空に舞い上がる砂埃で二人は視界から消え失せる。

耐え切れず瓦解した岩場の岩や生えていた草が土煙と一緒に飛散する。

「ゲホ、ゴホ!」

近藤が、そして隊士たち、志士たち、客人たちも。

目を押さえ口を押さえて異常な爆砕をやりすごす。


「行っちまった…!」

熱風が収まり、ようやく視界が効くようになったとき。

岩場は消失し、そこにいたはずの二人の姿はどこにもなかった。

 

「さて」

武市が半歩さがる。

「高杉さんは無事行ったようですし、我々はこれにて退かせてもらいますよ」

「晋助さまの帰りを待たなきゃならないっスからね」

「なかなか楽しい余興でござったな」

また子、万斉も言い残して鬼兵隊隊士たちは撤収を計る。

その動きは素早い。

あっというまに大勢いた男たちが屋根の向こうへ見えなくなる。

「源外さん、電磁波を止めてもらえませんか?」

武市が塀の外へ呼びかける。

「それがあると私たちも出られないものですから」

「あぁ、なんだってぇ?」

源外がこちらに耳を向けて怒鳴る。

「今の空気が裂けたような爆発はなんだったんだ。オメーらみんな無事なのかよぉ!」

「問題ありません。それより電磁波の檻を消してください、お願いします」

「止めろってか?おおよ、任せときな!」

源外が戦車の中へ潜りこんでいく。

「少し時間がかかるがよぉ、年寄り急かすんじゃねぇぞ。がははは!」

「なるべく早くお願いします」

武市は、そして近藤を見る。

「志村新八君を快く受け入れてくれて感謝しますよ。あの状況では身柄を拘束されてもおかしくなかった。ひとえに貴方の懐の深さと解しておきましょう」

「銀時と約束したからな」

近藤が苦笑する。

「鬼兵隊に合流しちまった新八君を俺たちは全力で連れ戻す努力をするってよ。俺は約束を果たしただけだ。お前たちの都合を汲んだわけじゃねぇ」


「そうですか。それならそれで結構です」

武市は淡々と告げる。

「次にお会いするときはその首、いただきますよ。局長さん」

「それはこっちのセリフだ。全員、逃がさねーからフンドシの垢ァ落としとけよ!」


武市と、数人が屋根の向こうに消える。

電磁波の檻は解除されたのか、鬼兵隊は音もなく屯所から去っていった。


「フフフ…近藤。ぬかったな」

神楽と沖田の下で、桂が笑う。

「攘夷党の同志たちがエリザベスはじめ全員逃走したのにお前は気づかなかったろう?」

「エッ、いつのまに!?」

「我が攘夷党は常に安全な逃走路を確保している。いまごろ塀の外に待機して源外どののカラクリが消えるのを待っていよう」

「なんだとっ、むざむざ逃がしてなるか! 今すぐ取っ捕まえに行ってやる、と言いたいところだが」

近藤が表情を変えて力なく嘆息する。

「今日だけは見逃してやる。爆牙党の浪士たちを大量検挙できた。申し開きはできるさ」

「そうか。なら俺も見逃してくれ」

「お前はダメ。桂だから」

「なんだと、キサマそれでも武士か!」

「武士だからこうすんの!」

「考え直せ。武士とは臨機応変なものだ」

「ダメダメ諦めろ。高杉を逃した上、お前まで逃せねェ」

「……おのれ、高杉ぃぃぃ!」



「私たちもおいとましましょう」

狂死郎が皆を率いる。

「もうここに銀さんはいません。私たちの用事もなくなってしまった」

「本城さん…」

「私たちの立ち入りを許可してくださって感謝しています」

近藤に頭を下げる。

「もし天使を追いかけるのに疲れたら私たちの休息所へおいでください。お待ちしていますよ」


「皆、先に帰ってて頂戴」

ホストたちがパノラマ迷路へ向かうのに合わせて妙がキャバ嬢たちに伝える。

「私は神楽ちゃんを助けなくちゃ。新ちゃんのこともあるし長谷川さんも放置していけないわ」

「お妙、一人で大丈夫?」「あたしたちも手伝うよ」

「いいのよ。皆、お店があるでしょう?」

妙はにっこり笑う。

「私は今日は休むわ。こんな日に出勤なんてムリだから」


かくしてキャバ嬢もホストたちに続いて屯所の正面門へ向かい、外来者のいなくなった中庭は屯所本来の静けさを取り戻していく。

隊士たちが池の有害電波の電源を切って長谷川を助け出す。

『岡田』の変身が解けた2名も水から引き上げられて捕縛された。

捕獲剤まみれの『岡田』を地面から引き剥がすには、まだ時間が掛かりそうだ。

藤達はじめ検挙された爆牙党の浪士たちは留置のために別棟へ引き立てられていく。

 

新八は座り込んだまま地面を掴んでいる。

その様子を後ろから妙が見守っている。

神楽たち捕獲剤の餌食となった数名は、ようやく溶解剤が功を奏して身体の一部を動かせるようになった。

崩壊した岩場を前に、池のかなたを眺めやって座っていた土方は、ようやく袴の裾を払いながら立ち上がる。

誰にも顔を見せたくないように背けている土方のもとへ、


「こんにちは。見廻組の佐々木異三郎です」

白い隊服に身を固めた長身の男が庭へ踏み入れてきた。

「このたびは援護要請いただきまして光栄ですよ。まるで真選組と仲良く連携がとれているみたいじゃないですか。我がエリートのエリートによるエリートのための部下たちはお役に立ちましたかな?」

「佐々木…!?」

土方が固い表情のまま、それでも顔をあげて佐々木を見る。

「なにしに来やがった、『白夜叉』の監視か!?」

「まあ、そんなところです」

佐々木は悪びれない。

「少々、気になる情報が入ってきたものですから」





続く


 

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【2012/11/22 21:50 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
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