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【2024/04/23 15:15 】 |
第48話 何事も始まるまでが大変 7




部屋に呼ばれた山崎は手際よく用事をこなした。

二人分の朝食を運びこむと、彼は如才なく退出した。

「んで。婚礼衣装ってどれよ?」

朝食を済ませたらしい銀時と土方が姿を見せたのは、屯所の隊士たちが午前の勤務のためにとっくに宿舎から出払った後だった。

銀時は両眼に黒い包帯をつけ、土方の腕を掴んでいる。

「神楽は何を見ろって言ってんの?」

「さぁな。けど丁度良かった。オメーにも衣装を合わせておきてぇ。あとコンタクトレンズ」

土方は銀時が平らな地面を踏めるよう誘導していく。

「さすがにグラサンやアイマスクじゃお偉いさんたちに顰蹙を買う。包帯ってのも、めでてぇ席で負傷してるのかって煩せぇ小言を言われかねねぇ。それで遮光性の高い、ほぼ目隠ししてるのと変わらねぇコンタクトを用意した」

「コンタクトって、目ん中いれるヤツ?」

銀時は警戒気味に尋ねる。

「痛ぇのはゴメンだぜ。てか目ん玉に、ちっこいモンかぶせたくれーじゃ眩しくて目ェ開けてらんねーよ」

「安心しろ、虹彩よりでけぇ。眼への刺激もごく少なくしてくれるとよ」

「でけぇって、…そんなデカいもん入るかァ!」

銀時が声をあげる。

「まさか目ん玉全体に被せるんじゃねーだろな!?もうレンズってよりそりゃ眼球カバーだよ!目ぇ開けたら白目も黒目もなくベッタリ真っ黒だったら負傷中とかそんな可愛いもんじゃねェ、人前に出ちゃいけないレベルだよ、ホラーだよ!」

「さすがにそりゃ…大丈夫なんじゃねぇか? 一応、相手は技術屋だし」

土方は自信なさそうに口ごもる。

「ともかく完成品が届いてるはずだ。オメーにゃそれを着けてもらって本番に備え、慣れてもらう。なぁに、そんなに深刻に考えなくとも目ぇ伏せて下向いてりゃいい。わずかな時間の辛抱だ」

「いま辛抱つった。辛抱ってからには俺が辛くて苦しいことをオメーも解ってるってこった」

「…オメーはっ、苦しいのは自分だけだと思ってんのか!」

土方も声をあげる。

「ちったぁ人の気も考えろ!オメーが…! …っ、オメーが難儀してる横で俺が安穏と式の次第を満喫するとでも思ってんのか!?」

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇけどよ、もっぺんお偉いさんにだなァ、アイマスクか包帯の着用を認めさせるよう根回しする努力をだなァ!」

「こっちも大枚はたいてオメーの特殊コンタクトレンズを発注しちまったんだよ!」

銀時の手を引いて縁側の踏み石から母屋の廊下へあがる。

そのまま障子を開けて座敷へと踏み入れる。

座敷に人の気配はなく、真新しい衣装が上等な絹の匂いを放っている。

「だったらせめて「黒目です」ってごまかせるレベルの普通サイズに変更してくんない!?オメーは俺が『妖怪めぐろ』でもいいわけェ!?」

「………うるせぇぇえ! とりあえず暗室に入って包帯解けやァ!」

土方は急ごしらえの仕切りの中に銀時を連れ込む。

「ここでコンタクトの試着をだなァ、……あ。」

「んだよ。どーした?」

銀時は後ろから土方を窺う。

「黙ってちゃ解らねェだろ、俺は見えないんだからそうやって不安を煽るのはやめとけ。どうせ大したことじゃねーんだろ?」

「これ。……まごうことなき眼球カバー」

モノを取り上げて頬をヒクつかせながら銀時を振り返る。

「オメーの目にピッタリのサイズだと思う」

「………ホラね、ほらねェェェェ!!」

銀時が騒ぎ立てる。

「人類がなんでサングラスを採用してきたか解る?!光を遮るのに目ん玉に異物を差し込むのは効率が悪いからだよ!皆そろって目ん玉ヌラヌラになるのを防いできたんだよ!」

「ぐぬぬ…、どうなってんだ…、」

土方は長径3センチほどもある特注レンズを箱ごと握りしめる。

「祝言の席で使うって重々説明したんだぜ、」

その微妙な曲線を描く品物全体が黒い光沢を放っている。

装着したら、銀時の言うとおり眼が均一な黒光りに見えるだろう。

「あのカラクリ技師、祝儀代わりに腕を振るうってやる気出してたのに…なんでだ?!」

「祝儀代わり?カラクリ技師?」

銀時が聞きつける。

「それってもしかして平賀のジーサン?」

土方から否定の言葉が返らないのを見て鬼の首を取ったように笑う。

「そりゃ無理だろ。あのオヤジ、コンパクトで繊細なモンはカラクリじゃねェって豪語してるし。デカくてプリンなケツが好きだし。あんなガサツなオヤジに目に入れるような儚いモン作れるわけねーよ」

「光工学はお手の物って自負してたんでな」

土方は手にしたコンタクトレンズをためつすがめつ眺める。

「古来よりのカラクリ技術に天人由来の素材や原料を取り入れて100パーセント光をカットする十全なものが作れるって言ったんだ。可視外光線も弾くってよ」

「お前ら、よくあのジーサンに依頼する気になったね」

銀時は呆れと感心の入り混じった溜息をつく。

「相手は将軍暗殺未遂のお尋ね者だろうが」

「お尋ね者だろうがなんだろうが技術は買う」

土方は箱からレンズのひとつを取り出す。

「目的のためなら一時的な休戦だって有り得らァ。…入れてみろやコレ」

「エッ? …どうやって」

銀時は素朴な疑問を返す。

「やったことないし。コンタクトって目が見えなくてもハメられるモンなの?」

「さぁな、俺も使ったことねぇから解らねぇ。耳栓するみてぇにキュッキュと詰めちまえばいいんじゃねぇか?」

「ちょ、そんな鼻血にティッシュみたいなノリでいいのかよ? これ以上、目が再起不能になりたくないんですけど」

「…まて、ここに取説が入ってる」

土方はガサゴソ紙を広げる。

「『レンズは自然に眼球に吸いついていく』だとよ。やっぱり目に被せるだけでいいんじゃねぇか」

「ちょ待てェ、待ってェェ!」

銀時の包帯を解かせ、目にコンタクトを押しつけてこようとする土方の手を必死で掴む。

「そんなモン吸い寄せる磁石みてェな機能、俺の眼球には無いから!」

「けどそう書いてあんだぜ」

「それだけ!?他になんも無いの?」

「ええと、…あ。『極限まで近づけろ』って書いてある」

「ウソォォォ!」

再び目に迫ってくる巨大コンタクトを押し戻す。

「ゼッタイ違うぅぅ!なにかが違うぅ!!」

銀時は目を押さえて身を翻す。

「つきあいきれっか、そんなもん被せられんのはゴメンだぜ!」

「あ、バカッ、暗室から出たら…!」

「んぎゃがああああっ!」

黒いカーテンで遮られた狭い空間から出た途端、もんどり打って銀時は転がる。

両肘で眼を塞いだが室内の比較的弱い光でも過敏な眼器には耐えられなかった。

「言わんこっちゃねぇ」

土方がうずくまる銀時を抱え起こす。

「一旦、暗室へ入っとけ。もうしねぇから。……アレ?これ折れてるとこ広げたら続きがある」

源外の説明文に目を落とす。

「『指で上下のまぶたを開いて以上のことを行え』」

「ううっ…、あんのクソジジィ…、最初の手順を最後に書くんじゃねーよ!」

ぼろぼろと涙が銀時の両眼からしたたっている。

「オメーもなぁ、ひととおり読んでから人にモノを押しつけろやァ!」

「あぁ…つまりこういうことか。『指で上下のまぶたを開いて極限まで近づけろ。そうすりゃレンズは自然に眼球に吸いついていく』」

「ハメるのも吸いつかれるのも入れるのも今はしたくねェ…」

「そうか?じゃあやめとくか」

土方は暗室でしゃがみこむ銀時を見やる。

「『ハメたとしても痛くないはずだ。なぜなら痛みを緩和する特殊素材を練り込んである』」

「えっ、…そうなの?」

「『これには極秘に入手した失明毒中和剤が仕込んであるからハメていれば見えるようになる。騙されたと思ってハメておけ』」

「ま、マジでか!」

銀時は顔をあげる。

「やってくれたぜジーサン、アンタ掛け値なしの天才だ!救世主ってオメーのことだよ!!」

「『ただし視力が残ってないときは完全に悪化させる』」

「…エッ?」

「『目が痛ぇときや見えないときは、絶対にハメるな!』」

「………目が痛ェし見えないからハメようってんだろーがぁ!!」

うがぁぁぁ!と銀時は座敷の畳を叩いて暴れる。

「あのジジイなに考えてんだァ、俺の目に最後のトドメ刺す気ィ!?」

「今はやめといた方が無難だな」

土方は説明書もろともコンタクトを箱にしまい始める。

「もう一度、使い方を慎重に問い合わせてみらァ」

「…頼む」

すっかりうなだれた銀時は憐れを誘う。

そう見えても源外が入手した中和剤の情報がどこからもたらされたのか、銀時は十分に承知しているだろう。

土方は外した包帯をもう一度銀時の眼に巻き直すと銀時の手を引いて暗室を出る。

「先にコッチを済ませちまおうぜ。祝言当日、オメーが着る婚礼衣装だ」

暗室が置かれたと同じ座敷に、上等の着物が衣桁(いこう)に掛けられている。

「これっ…!?」

銀時の手に衣装の布地を触らせると、銀時は驚愕を浮かべた。




続く

 

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【2012/11/24 08:00 】 | 高銀小説・1話~完結・通し読み | 有り難いご意見(0)
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