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二人きりになると銀時はバツの悪そうな曖昧な笑みを浮かべた。 「ここって所帯持ち用に改装したの?どんな造り?」 膝の下の布団をぱむぱむ叩いて確かめながら、四つん這いで畳を探り、さりげなく布団から降りていこうとする。 「待てや」 土方がそれを阻む。 「せっかく邪魔者は居ねぇんだ。事実上の初夜だぜ。たっぷり楽しむとしようや」 「な、ちょ、てめっ!」 肩を掴まれ布団に引きずり戻される。 「さっきあいつらに手は出さねェつってたじゃねーかァ!」 「手は出さねェよ。無茶もしねェ」 尻をついて足を崩した銀時を土方は膝をついて覗きこむ。 「けど俺たちゃこれから生涯を共にすんだ。最初の夜は大切にしてぇし。つもる話もありゃ、お前の話も訊きてぇ」 「つもる話って?」 銀時はわたわたと後ろへ下がる。 「そんなもんあんの?土方君て根に持つタイプ?前髪がV字なだけにやっぱりドッキリでしたとか壮大な囮調査でしたとかそんなん?」 背中が床柱にぶつかって余計あわてる。 「いまさら電気代払ってくれないとか困るんですけど」 「あいにくこいつァドッキリじゃねぇ。4日後には俺とお前の祝言だ。婚礼衣装の仮縫いもあるし、お偉方への挨拶のリハーサルもある。いや話ってなァそんなことじゃねぇよ。お前、その…つれあいになんて呼ばれたい?」 銀時の座る前に膝を詰めてくる。 「万事屋、でも坂田、でもねぇだろ?俺はお前を…俺のもんだって実感できる呼び名で呼びてぇ」 「あ、じゃあ…銀さんで」 銀時は詰めた膝の主が膝立ちになって上から被さってくる気配に狼狽する。相手の本気が真面目な話から逸れることを許さない意気込みに満ちている。 「たいていのヤツはそう呼ぶから」 「そうじゃないヤツは?」 両肩を包むように手を置かれる。 「昔からお前と親しいヤツはなんて呼ぶんだ?」 「…あ、……えっと、」 ためらうように言葉を切る。 呼ばれるのは銀ちゃんとか銀時とか白夜叉とか。 「ぎんとき」 答えられずにいると唇が耳元で囁いた。 「親しいヤツは名前で呼んでんだろ。俺はお前と一番親しくなるんだ。だからこう呼ぶ」 「あの、…なんかしっくりこねぇんだけど」 肩をすくめて耳を逸らす。 「オメーに呼ばれてる感じがしねぇ。やっぱ万事屋、がいんじゃね?おたがい無理ない感じで」 「寝床で万事屋って呼ぶのも色気ねぇだろ?」 「いや色気とか求めてねーし」 「俺とお前の関係も変わるんだ。呼び方も変えるんだよ、今までとは違うってお前の耳にまず教えてやらァ」 言いながら唇が銀時の耳たぶに軽く触れてくる。 近すぎる身体を押し戻そうと手を突っ張れば、逆に腰を引き寄せられて距離がなくなり密着する。 「んあ、…ちょ!」 耳からキスが首すじへと降りてくる。 優しくいたわられる行為は銀時を容易に火照らせる。 「ちょ、やめろって。俺まだあんま身体動かねーし」 「動く必要なんざ無ぇよ」 座った銀時に覆いかぶさっていながら土方は体重を掛けない。 「お前の身体…どこもかしこも俺の印つけるだけだ」 「…ゃ、それ痛ぇから…、まだ…待てって」 銀時は首を吸う相手のサラサラの黒髪をぎゅっと指で掴む。 「されても、デキねぇつってんだよ、あの、と、…とうさん?」 とうさん。 呼ばれて土方はピクッと動きを止める。 「…なんだ『父さん』て?」 切れ長の瞳に憤りをよぎらせて顔をあげる。 「なんで俺がお前の父親なんだよ!?タチ悪い寝言ぬかすな!」 「…ひでーなァ」 銀時は離れた分の距離をつかってぼりぼり頭を掻く。 「俺にとって親しい人間は、そいつが男なら…父親みてーな憧れ?家族愛?そういうの求めてぇって思うじゃねーか」 ぷい、と横を向く。 「オレ父親の顔、知らねーし」 「だっ、だからって、父親…!」 土方ははわはわ目を泳がせる。 「ダメだろ怪しすぎらァ。近親相姦みてぇな気分になるじゃねーか、父親呼ばわりされて抱けるか!」 「こんなの…他の野郎にも言ったことねーのに」 銀時は呟きに悲哀を滲ませて土方へ顔を向ける。 「俺、重度のファザコンだから。つれあいにはとーさん、て呼びてぇって…思ってて…こんなん、恥ずかしくて誰にも言えねぇ…お前が結婚相手だっつーから…言ったのに…、なぁ…呼ばせてくれんだろ? お前、俺の…片割れなんだからよ…?」 「………う」 土方は言葉に詰まる。
銀時は真剣だ。 「お前、十四郎だろ?」 素の声で銀時が言った。 「俺が銀さんだから、お前、十さん。これでスッキリ問題解決じゃね?」
銀時は口を押さえて、うぷぷ…と笑った。 PR |
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