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「オイ、コイツどうしたヨ?ついに頭にマヨネーズまわったアルか?」 「ついにもクソも最初っから土方さんの頭の中はマヨネーズが材料だぜ。すっかり旦那に夢中になっちまって痛々しいばかりでさァ。うわゴト聞かされるこっちの身にもなれってんだ」 「本気で銀ちゃん嫁にもらうつもりらしいアルな。銀ちゃんの溜めた分を自分が払うって、どうやら奴らの関係はそれに尽きるアル。一言でいって、金(カネ)ヨ」 「まるで身受けされる芸者だぜィ。もう万事屋に返さないって悪徳高利貸の親父みてェなことぬかしやがる。いいのかチャイナ?」 「銀ちゃんの好きにさせるアル」 神楽は沖田に顔を近づけたまま銀時を盗み見る。 「こう見えて銀ちゃんは金銭感覚も社会適応力もまるでない無気力を絵に描いたような男アル。マヨラーがあんなに結婚したがってるなら銀ちゃんの言うとおり今が売りどきアル」 「いいのか?旦那は土方さんに夜の方も強要されるんだぜ」 「そんなの本人の自己責任ネ」 「じゃァどーでィ、ついでにお前も屯所に嫁に来ねーか。夜の生活もセットで俺の幼妻(おさなづま)として」 「お断りヨ」 神楽はピシャリと言って沖田から離れる。 「ワタシは銀ちゃんと違って安売りはしないアル」 一連の、皆によく聞き取れる内緒話を終えると神楽は銀時と土方に向き直る。 「わかったアル。金めあてでもカラダめあてでもどーでもいいヨ。二人で決めたことを、ちゃあんと守るアル。そうすればワタシは銀ちゃんのやることに文句言わないアル」 神楽の眼が眇められる。 「カネの払いが滞ったら銀ちゃん迎えに来るからナ。ちゃんと給料払うヨロシ」 「言われるまでもねぇよ」 答えながら土方は意外そうに神楽を見る。 銀時を親か兄のように慕っている神楽は、そう簡単には納得してくれないだろうと予想していたのだ。 「あ…なに、もしかしてコレうまくいった?」 暴れられたら無傷ではすまないだろうと覚悟していた銀時も拍子抜けしたように尋ねる。 「俺が結婚して万事屋休業して土方君と暮らすってことで異議なし?」 「そういうことアルナ」 「お断りします」 頷く神楽の横で。 拳を膝の上に握りしめていた新八が、その顔を上げる。 「僕は認めませんよ。そんなの納得できますか、駄目でしょう、こんなの。お金は要りません、だから万事屋へ帰りましょう、銀さん!」 「…へ?」 銀時は勢いに押されて、立ち上がった新八を見上げる。 「や、だから俺は土方君と結婚…」 「駄目です!」 「ダメつっても、いまさら取り消せねーし、俺もう屯所から出られな…」 「定春だってアンタの家族でしょ!」 銀時の前に踏み出していく。 「エサ代はともかく、散歩だって行かなきゃならない。夜中に銀さん行ってたじゃないですか、あんな物騒なとこ神楽ちゃんや僕には無理ですよ!」 「なにも夜中に行かなくたっていーだろ、夕方の早い時間にオメーらで行ってくれりゃ事足りるだろ」 「定春のトイレ事情考えてくださいよ、夜中に一回行っておいた方が体にだって良いでしょう!」 「知らねーつうの」 銀時は目元に苛立ちを乗せる。 「夜中に定春の散歩してる時間があったらここで土方君と布団にくるまって暑苦しい運動してる方がマシなんだよ」 「ほっ本気で言ってるんですかッ!?」 「土方君がいない夜は井戸の底で水ゴリでもして土方君の無事を祈るの。その体験をもとにギャグのひとつもヒネってジャンプ放送局に投稿して次のレースで優勝めざすんだから放っとけや」 「そん、なっ…」 新八は顔を歪めて哀願するような瞳を銀時に向ける。 銀時は見ないフリをして横を向き、取り合わない。 「土方さん」 ゴクンとひとつ、新八は息を飲み込む。 「銀さんは渡しませんよ。悪いけど、二人の仲は認められない。貴方は知らないでしょうけど、銀さんは…銀さんは、僕のものです!」 エッ?と場にいる全員が新八を見上げる。 「僕がどんなに銀さんを思ってるか、アンタに思い知らせてやる!」 最後は銀時に向けて新八が叫ぶ。 誰かが何を言うより早く、新八は身をひるがえす。 「あっ、新八ィ!」 神楽が思わず立ち上がる。 「待つネ!ここは黙って銀ちゃんを祝福してやろうヨ!銀ちゃんだって人には言えない下半身事情があって、きっとそれにマヨラーがぴったりなんだヨ!察してやれヨ!」 「神楽ちゃんには分からないよ!」 新八は障子戸を開けて廊下へ飛び出す。 「僕はずっと銀さんを見てきた。銀さんだけを見てきたんだ!」 「だから何ヨ?」 「銀さんが土方さんと結婚するなんて絶対イヤだ!絶対阻止してやる!」 「新八、オマエ本当に銀ちゃんに惚れてたアルか。オマエが銀ちゃん嫁に欲しかったアルか?」 「……そうだよッ!」 新八は眼鏡の奥の瞳を潤ませて銀時を睨む。 「いつか、そうなるんだって…そうなれるって、思って、憧れてきたのに。アンタは他の男の物になるんですね。もういいです!こうなったら実力行使でアンタの目を覚まさせてやる!後悔しないでくださいよ、銀さんッ!」 「いや、ちょ、」 銀時は半端にあげた片手で新八を引き止める。 「何。え。そうなの?新八君、俺のこと、そういうカンジだったわけ?」 「…侍が、侍の元へ弟子入りして衣食を共にするのに、他に理由がありますか」 「弟子入り!?」 銀時が聞き返す。 「え、そうだったの?」 「銀さんがいつか指南してくれるんじゃないかって。でもあんまり銀さんがそういうのに積極的じゃないんなら、僕から仕掛けてった方がいいかなって。最近悩んでて。いろいろ準備もしてたんです」 「準備!?って、その…、お道具的な?」 「ええ、道具ですよ。他に何があるんです?」 じろりと新八は銀時を睨む。 「この間、僕は悟ったんです。この人には全身がんじがらめで手足の自由を奪って視覚も奪って、それでようやく僕に本気になれるって」 「いいいッいや、イヤイヤイヤ、そんなの要らないからッ!普通でいいから!ソレで十分燃えるから!」 「なんの話だ?」 不愉快そうに土方が口を挟んでくる。 沖田はきょとんと新八を見上げる。 「なんでィ、メガネが同好の士たァ知らなかった。お道具ならいいのが揃ってますぜ。通販も確かな店教えまさァ」 「とにかく、アンタがそんなつもりなら僕にも考えがあります。土方さんも、せいぜい夜道に気をつけてくださいね!」 障子戸を乱暴に閉めたて、反動で戸が跳ね返る。 間髪入れず追った神楽がその戸を掴んで開け放ち、廊下へ飛び出していく。 「なに考えてるアルか!?馬鹿なことするなヨ!だからオマエは新八だって言われんダヨ!」 神楽の声がけたたましい足音と共に遠ざかっていく。 「早まるのよくないネ!オマエ侍だろ?泣くなよ鼻水たれてるヨ!」 「泣いてないよ!誰が鼻水だよッ!」 新八が声を響かせる。 「僕、当分万事屋行かない!定春の面倒頼むよ、神楽ちゃん!」 「どこ行くつもりアルか、新八ィ!」 次第に声が聞こえなくなる。 銀時はジッと子供らの気配を窺っている。 土方は机の上から煙草を取り上げる。 沖田は、そんな彼らを見て肩をすくめる。 「アイツら疑うってことを知らないんですかぃ。信じこませるまでもなく頭ッから信じてやしたね、旦那の結婚話。要らねェ嫉妬までしちまうほど本気で」 「ガキは単純だからなァ」 銀時はボンヤリ応える。 そう言いつつ、嘘にまみれた言葉で二人を騙したことに、銀時は濃い疲労を浮かべている。 「行かなくていいのか」 土方が煙を吸い込みながら銀時に尋ねる。 「ヤケになって無茶するかもしれねぇぞ」 「行っていいわけ?」 逆に銀時が尋ねる。 「あの分だと屯所を出てったんじゃねーか。こっから出ちゃいけないんだろ?」 「…俺と一緒なら問題ねぇ」 つけたばかりの煙草を、せわしなく吸いこむ。
「メガネを保護すんのは警察としても保護者としても当然のことだ。俺がお前を外へ連れてってやらァ」 PR |
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