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土方は銀時の膝枕で安らかに身を横たえ、仮眠している。 太もも、それも体幹に近い低くなった部分を提供している銀時は、部屋の柱に寄りかかりながら土方に借りた週刊マガジンをのんびり捲っている。 部屋の中央には人数分の昼食が一膳ずつ並べられている。 炊飯器三台、ポットに茶道具、汁のおかわりの鍋や予備の料理が盛られた皿まで準備されていた。 そこへ。 廊下から慌ただしい足音と息せき切った子供たちの騒ぎ声を引き連れて沖田が訪室する。 「入りやすぜ、土方さん」 ガラリと開けられる障子戸。 反射的に土方は銀時の膝から頭を浮かせ、来客を確認すると覚醒しきらぬ目をきつく瞑って腕を軽く伸ばす。 銀時は土方にぶつからぬようマガジンをどかし、足は動かさず顔だけあげて子供たちを迎えた。 「遅ぇよオメーら。メシが冷めちまうよ」 素っ気なく言いながら閉じた雑誌を脇に置く。 体勢を解いたとはいえ銀時が土方を膝枕で寝かせていたのは明白、子供たちは近すぎる二人の距離を目の当たりにする。 「……銀ちゃん!オマエなにしてるアルか!?」 「どっ、どういうことですか銀さんっ!」 「どーもこうも、『すべて』をお前らに聞いてもらうために呼んだんだよ」 銀時は起き上がろうとする土方の肩を支えながら、な?土方君、と呼びかける。 土方は予想以上に深く眠ってしまった頭を強く振り、その合間になんとか銀時に相槌を打つ。 「わざわざ来てもらってすまねぇな。とりあえず座って…一緒にメシでも食おうや」 「…いただくアル」 むすっとしたまま神楽は膳の前にドスンと腰を落とす。 気をきかせた沖田がポットから茶を入れはじめ、銀時が積まれた茶碗を取って炊飯器の米飯を盛りはじめる。 傍らで土方が飯茶碗を受け取り、ひょいひょいと各自の膳に乗せていく。 新八だけが遠慮がちに視線を走らせ、障子戸を静かに閉めると、自分の場所とおぼしきところへようやく着席した。 「あ、あのぅ…それで銀さん、『すべて』って…?」 「んん?」 いただきます、の掛け声とともに箸を取り、味噌汁やら焼肉やら米飯やらを口の中へ掻っ込み、皿に盛られた食料をはち切れるまで腹に継ぎ足そうとしている、そんなとき。 食事を口に運びながら気がかりの消えない新八が、おそるおそる銀時に尋ねた。 「僕らがここに呼ばれて、土方さんの部屋で…そのっ、…お、お昼をいただくことになった、そのワケを教えてもらえるんですよね?」 「ああ。俺ら、結婚することにしたから」 銀時が土方を膝枕していた理由は?とはどうしても聞けなかった新八の耳に、銀時の常と変わらない声がサラッと告げてきた。 「さっき、土方君にプロポーズされてよォ、断ったんだけど有り得ねーくれぇ熱烈に口説かれちまって。生活も保障する、オメーらの面倒も見るって言われてグラッと来てからは、もうコイツしか居ないんじゃね?って今を逃したら二度と手に入らねぇバーゲン品の争奪戦みてーな気分になっちまって、気がついたら祝言に出るって返事しちゃってたんだよね」 「銀ちゃんもマヨラー警官も救いようのない馬鹿アルな。オマエたち二人とも男ネ。男同士で結婚できないヨ」 平然と料理を口に放りこみながら、気がつかなかったアルか?と神楽が蔑みの視線をそれぞれに送る。 その隣りで皆と昼食を共にしていた沖田が馬鹿はオメーでィ、とコメントする。 「男でも『女体化予定』って書いとけばキョウビ婚姻届は受理されるんですぜ。知らなかったのかチャイナ」 「嘘ヨ。そんな話聞いたことないヨ」 「だったら役所行って婚姻届もらってきたらどーでィ。性別の下にちゃあんとそういう欄があって丸つけるだけになってら」 「なら女同士でもありアルか?ワタシと姉御で結婚できるアルか?」 「女同士は無理だよ、神楽ちゃん」 新八が困り顔で、自分たちの馴染んだ風習を説明する。 「昔からこの国には女の人と結婚するのと同じくらい、男の人同士で縁を結ぶならわしがあって、それは男女の結婚と同じように正式なものなんだ。天人の文化の台頭で公にそういうのは敬遠されるようになっちゃったけど、ちゃんと逃げ道があって『いずれ女の人になります』ってことにしとけば認められることになってるんだよ」 「じゃあ銀ちゃん、女になるアルか?」 飯粒を飛ばす勢いで一気に尋ねる。 「マヨラーの奥さんになって胸ユサユサのボンキュッボンで赤ちゃん産んでマミーになるアルか?」 「ならねーよ」 ひときわ低い声で銀時が答える。 「義務じゃねーし。そもそも性転換は天人の胡散臭い技術で可能ってのが建前の方便だし。女になったかどうか追求されるわけじゃねーし、ならなくたって罰則はねェ」 「…それでなんでわざわざこの不良警官にしたアルか?」 神楽は首を傾げる。 「コイツにしなくても銀ちゃんはモテるアル。早まらなくていいネ、仕事ない上に治療費かかってヤケになるのは分かるけど、そんなんで自分を安売りすんなヨ」 「そうやって理想ばっか追っかけてると、いつまでたっても家ん中かたづかねーんだよ。物にはなんでも売りどきってもんがあんだ」 銀時は食べる手を止めずに会話する。 「安いかな~?くらいがあとあと面倒がねェの。どーせ安く買われたんだからこれ以上損することもねーな、くれーの気楽さが喧嘩と婿入りのコツなんだよ」 「不良警官にプロポーズされてそれで満足アルか?コイツに遠慮して小っちゃくまとまる銀ちゃんなんて見たくないヨ。一生、ゴハンにマヨネーズだヨ。考えなおしてヨ!」 土方は神楽の発言を一言一句聞き漏らさず、それでも眉を寄せ目を伏せてマヨネーズをたっぷり乗せた米飯を手を止めずに掻きこみつつ無視を決め込んでいる。 「銀ちゃんは結婚しても男のままなんでショ?なんのために結婚するアル?しなくてもいいネ!赤ちゃん生まれないなら今までどおり、万事屋と不良警官で、たまに会って喧嘩して、なにも変わらないヨ、結婚しなくても一緒ヨ!」 「一緒じゃねーだろ」 沖田が遮る。 「結婚しちまえば旦那は土方さんのモノだ。他の野郎との不用意な接触は許されねェ。腐っても幕臣の身内だ。貞節な伴侶となって土方さんに操を捧げてもらわねーと」 「そんなの束縛されるだけアル!なんの得にもならないヨ」 神楽は銀時に向き直る。 「銀ちゃんはマヨラーと結婚なんて無理ヨ!ふわふわ漂ってる頭の毛みたいに気の向くままにあっち向いたりこっち向いたり、いろんな人に会って、万事屋やって、やっと自堕落に生きてるネ。それがなかったら窒息してしまうヨ!」 「あ~…その万事屋なんだけどよ」 ヘラっと銀時が笑う。 「当分、休業な?俺、土方君のためにいろいろしなきゃならねーし、さしあたって屯所で暮らすから」 「……え?」 新八が目を剥く。 「なに言ってるアルか、銀ちゃん!」
神楽が悲痛な叫びをあげた。 PR |
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