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* 高銀話です(連載中)
花野アナが桂たちのいる塀めがけて移動する。 「あのうざったい長髪…桂です! 幕府から指名手配されている桂小太郎が、いったいなんのためにこの結婚式に現れたのでしょうか!?」 大江戸テレビの番組取材で真選組もろとも爆弾に巻き込まれた花野アナは桂たちに肉薄し、怒りの声を震わせる。 「ちょっと桂さん!非常識じゃありませんッ?敵とはいえ神聖な結婚式の最中ですよ、ここには一般市民の方たちだってたくさんいらっしゃるんです、弱きを助け強きを挫くラストサムライとして無関係な方たちを危険に曝すテロ行為に正当性があるとお考えですか!?」 「ラストサムライじゃない桂だ」 桂は塀の下へやってきた花野アナを見る。 「花野アナ殿ではないか。先だっては俺のせいでおぬしたちジャーナリストにまで怪我を負わせ、すまなんだな。テレビを見て猛省したぞ」 「本当に反省したんですか!?」 「うむ。ゆえに今日は炸薬は持ち合わせん」 「炸薬…えっ、それって爆弾持ってこなかったってことですよね?」 「そうだ。飛び道具は思わぬ者たちまで傷つける。その点を踏まえ、本日はこうして武士の魂のみ携えてきた」 腰の刀の柄に左手を乗せる。 「というか。このあたりは道路がすべて封鎖されてしまってな。車載するような重火器は運びこめなかったのだ。人力で検問をすりぬけ朝早くからこの地区へ侵入して今まで外でスタンバッていた。思ったより早く始まってくれて助かったぞ」 「いえ、まだ始まったわけでは…」 「おお、あのときのキャメラマンも居るのか。ならば覚えていよう、俺たち攘夷志士になくてはならん男…共に戦う運命をもった重要人物のことを」 「重要人物って、アンタが玄関に頭つっこんで、んまい棒チョコバー強奪されてた万事屋さんのことですか?」 「そうだ。坂田銀時こそ俺たちの命運を握る男。その銀時を真選組は…」 首を捻って近藤たちを見る。 「キャメラが来ているなら丁度いい、貴様ら真選組の卑劣なやり方を全国に向けて暴いてやる」 「おい桂…、やめろ」 近藤が顔色を変える。 「そんなことしたらアイツが…!」 「聞いて驚け! 恥知らずな真選組は純情な銀時をたぶらかして恋をしかけ、武士にあるまじき方法で俺たちを出し抜いて距離を縮め求婚したあげく銀時に『ウン』と言わせたのだァ!」 桂が大声で告発する。 「副長土方、ヤツが銀時と婚姻関係を結ぶにあたり銀時を攘夷党に迎える機会は永遠に失われた。銀時という貴重な人材を真選組に奪われたのだ。この落胆が解るか?」 花野アナを見る。 「なんとしても銀時を取り戻さねばならん。それが俺たち志士の悲願であり、本日の襲撃に俺たちを突き動かす原動力なのだ」 「そうなんですか!? あっ、もしかして…」 花野アナが声を上げる。 「朝から複数の攘夷グループが真選組に戦闘を仕掛けていたのはそういうことだったんでしょうか? 花嫁である坂田銀時さんを連れ去ろうとしていた、そう考えていいんですねっ!?」 「他の連中も来ていたのか。…ま、目的はひとつだろうな」 「そんな…彼らの目的が坂田さんだったなんて!」 花野アナの目が真剣になる。 「真選組と攘夷集団が坂田さんを巡って争っていたというのが事実なら、この結婚はなんらかの意図をもって仕組まれたものと考えることもできるわけですよねっ!?」 「もちろんだ」 桂が断言する。 「奴等が意図的に銀時を俺たちから取り上げたのは火を見るより明らかだからな」 「坂田さんは攘夷活動になくてはならない人物ということですが、いったい坂田さんとは攘夷浪士たちにとってどんな存在なんでしょう?」 「そうだな。銀時は頼りになるが暴れると怖くて逆らえない…ま、オカンだな」 「オカン!?お母さんっ!?」 「そのとおり。あれほど兵の士気を高められる人物を他に知らん」 「兵の士気を…!? 一体、坂田さんはどうやって…!?」 「フッ…知りたいか」 桂は得意気に笑う。 「これは知る人ぞ知る裏事情だから公言したくはないが。銀時は…いいか、これは秘密だぞ?かつて戦場で名を馳せた地球ルールUNOの名手なのだ。戦闘前は通常の3倍速でUNOを行う。冷静と情熱の間で兵の士気はどこまでも高まり、命知らずの働きにその身を投じて戦える、まさに攘夷の武神というわけだ」 「う…UNOですか?」 「うむ。血気にはやる武士(もののふ)たち相手に、勝利に必要な物はなにか、己を妨げるものはなにかといった思考を徹底的に引き出していく。あんなUNOが打てるのは銀時しかいない」 「…はぁ」 「銀時を獲得した真選組は出撃前のUNOで大変な戦果をあげることになる。俺たちは大切なUNO名人を奪われたのだ、これが幕府の陰謀でなくてなんだ!?」 「桂さん、それ陰謀でもなんでもないんじゃ…?」 花野アナは嫌そうに詰まる。 「たしかに士気を高めるのかもしれませんけど、攘夷活動になくてはならないというほどでは…」 「副長土方は真選組の頭脳と謳われる男。俺たちの戦力を削ぐため、あえて銀時に近づいたのだ。俺が銀時の説得にじっくり時間をかけてる隙に…許せん!」 「桂さんのあれは説得というより眼中になかった気もしますけど。坂田さんはUNOとか攘夷とか関係なく副長さんと結ばれた、そう考えることはできないでしょうか?」 「そこを突かれると痛い」 腕組みして目を伏せる。 「銀時が真選組なぞと結婚するハズがない。となるとアレは銀時ではないのかもしれない。アレは俺の知ってる銀時と見た目からして別人だからな」 桂は白い花嫁姿を眺める。 「たぶんアレ=伝説の白夜叉=銀時だと思うのだが…ちょっと自信ない。もしかして銀時じゃないかも」 「そんな良い加減なことで乗りこんできたんかい!?」 「真選組が往年のUNO名人、白夜叉を娶ると情報があったものでな。デマだったかな~?」 「てめ帰れ!」 向こうから銀時がドヤしつける。 「なにしに来てんの?邪魔と妨害ばっかしてんじゃねーよ!」 「結婚式に誰も乗りこまんのでは寂しいだろ?」 桂が笑みを含む。 「せめて俺だけでも祝儀をと思ってな。襲撃は俺からの心尽くしだ」
いつの間にか沖田が隊士を率いて桂と同じ長塀の上にあがっている。 「テレビ局もたまには使えるじゃねーか。時間稼ぎ、感謝しやす。民間人を安全な場所に誘導してコッチの体勢も整えたぜィ」 「沖田さん!」 花野アナが朗らかに振り向く。 庭にいたキャバ嬢やホストは建物や通路の陰に誘導され、そこかしこに武装した隊士が迎撃態勢をとっている。 樹木や岩陰に捕具を手にして待機する者、庭に面した建物の屋根から銃火器を構える者、塀の外の道路には装甲戦車まで押し寄せてくる。 真っ先に建物内へ立ち去ってしかるべき白無垢の花嫁は、しかし何故か花婿とともにその場にとどまり、池の端の和傘のもとで隈無をはじめとする護衛隊に手厚く守られている。 妙と神楽、長谷川は母屋に入るよう指示されながらも柵から身を乗り出して近藤の背中に押しとどめられている。 指差し叫ぼうとする彼らの声は近藤の必死の制止によって黙殺されていた。 「アンタも撮影隊も避難してくだせェ。こっから先は危険だ」 「あっ…はい!」 思わず飛び出した自分たちのジャーナリスト魂が功を奏したらしい。 しかしこれ以上の取材は生命にも関わる。 桂と沖田、両方を複雑な表情で見上げながら花野アナは撮影クルーとともに両者の激突を取材できる一番良い場所へと退いていく。
「貴様は」 桂が向き直る。 「真選組の…えーと誰だろう?どこかで見た覚えがあるのだが。まあいいや、わざわざこんなところまで倒されに来るとは殊勝なことだ」 「そいつはこっちの台詞でィ。まさかホントに此処から攻めてくるなんて、オメーらの脳味噌は土方さん以下でさァ」 「なんだと?しまった謀られたか! いやいや、お前らのみえみえの作戦など無視しても良かったのだがな。せっかく襲撃しやすい場所を用意してくれたのだ、誘いに乗ってやるのが情けというもの」 「負け惜しみは捕まってから好きなだけ吐きな」 「フン。減らず口は首が繋がっているうちに叩いておけ。勝負はなんにする?んまい棒早食いか?屯所猫の肉球ハントか?それともUNOを打つか?俺はUNO強いぞ~?」 「ずいぶんと舐められたもんですねィ。屯所の猫はオメーらなんかにハントされねェし、こんだけの人数でUNOなんか…たるくてやってらんねーやッ!」
桂も腰の刀に手を掛ける。 同じタイミングで二人の身体は宙に跳ぶ。 振り下ろし、薙ぎ払うその刀が撃ち込んだのは、互いの骨肉でも刀身でもなく、
庭の死角の屋根から銀時めがけて飛びこんできた異形の巨体、そのカラクリ仕掛けの両腕に桂と沖田の剣がめりこんだ。 『グォォォォォォォッ…サカタ………ギントキ…ィィィィ……!!』
退避させられたキャバ嬢がどこからか舞い降りた怪異に耳を押さえて叫びまくる。 ホストたちも硬直したまま腰が引けている。 花野アナはリポートを忘れて目の前の光景に見入り、スタッフは夢中でカメラを回している。 対照的に隊士たちは心得たように怪異を包囲し、ぬかりなく捕具を侵入者に向ける。 侵入者は一跳びで銀時まであと数メートルのところに迫っている。 近くにいる隊士たちが走りこんできて銀時の守りを厚くし、その最前で桂と沖田が敵の進攻を阻んでいた。
沖田が怪異の腕を受け止めた刀身をググ…と押し返す。 「こんな大仕掛けな舞台こさえてテメーが来なかったらどうしようと思ってやしたぜっ」
桂は怪異の腕に生えた刃の付け根を狙って押していく。 「それもこれも何もかもすべて高杉が悪い」
咆哮をあげて怪異は銀時のもとへ突き進もうとする。 させず桂と沖田が怪腕を封じて押しとどめる。 巨体が払いのけようと身をよじる。 銀時は和傘のもと、土方に抱きしめられたまま怪異に虚ろな眼を向けている。
近藤の号令が響き渡る。 その後ろで長谷川が声を張る。 「ヅラッち、それ新八君だから!電脳中枢幹で変身してるだけだから腕とか切らないでやって!」 「やめて、やめてぇぇぇ!」 妙が怪異に駆け寄っていこうとして近藤にとどめられている。 「新ちゃんを助けて、酷いことしないで!」 「お妙さん、落ち着いてください、ここは俺たちに任せて!」 「どうしちゃったの、何があったの新ちゃん!?そんな格好になっちゃって…なんで帰ってこないのよォ!」 「アネゴ、ワタシが行くヨ」 神楽が近藤の制止をすり抜ける。 「強いショックを与えれば新八きっと元に戻るネ。あのデカブツになって新八きっと苦しんでるアル。男は誰でもタマ蹴り上げれば変身なんか解けるって銀ちゃんが言ってたヨ」 「神楽ちゃん…!」 「やめろチャイナ娘!」 近藤は飛び出していく神楽と怪異、押さえて踏みとどまる沖田たちを一瞥する。 「捕獲銃、発射許可だッ!撃てーッ!」
いやに白い濃いペンキのような塊が怪異を狙い撃つ。 粘調性のゲル状物質はベチャリとへばりつくとそのまま固化して標的の動きをとめる。 沖田は銃の性質を前もって知っている。 桂は一瞬遅れて理解する。 ぎりぎりまで獲物を足止めして狙撃とともに飛び退く。 怪異は捕獲銃の弾道に残る。 命中、と思いきや両腕の邪魔が外れた怪異は超人的な脚力で銀時の頭上へ跳躍する。 「ほぁちゃーーーーーッ!」 銀時の目前へと跳び移ろうとした『岡田』に、しかし神楽の跳び蹴りが飛んだ。 「ぶふっ…!!」 「ぐはっ、リーダーっ!」 避けた桂と沖田めがけて巨体が跳ね飛ぶ。 その上に捕獲銃の粘調弾が降ってくる。 「新八ィ!正気に返るネ!」 委細かまわず神楽は『岡田』に馬乗りになって殴りかかろうとする。 『岡田』は驚異の腹筋で跳ね起きると、神楽をかわして銃弾を擦り抜ける。 「なっ…、」 長谷川、狂死郎、そして花野アナらは呆気にとられる。 見ていた誰もが愕然とする。 沖田、桂、そして神楽が捕獲弾の粘りに捕らわれて転がり、一塊となっていた。 「ちょ、お前ら邪魔ネ!」 神楽がもがく。 もがけばもがくほど自由がきかなくなっていく。 「こっち寄んな、早くこれ外してヨ!」 「やったぜ桂捕まえたぜ」 沖田は足をバタつかせる。 「このネバネバはそう簡単に取れやしねェ、桂ァ神妙にしなァ。ちょ、チャイナも動かないで」 「最新技術を妄信したか」 桂は二人の下敷きになっている。 「それを使うのは人間だということを失念しおって。……っ銀時!」 ハッと顔を起こす。 怪異は和傘のもとにいる銀時に迫っている。 隊士たちを薙ぎ払い、邪魔者をどかして笑いながら銀時に腕を伸ばす。 再び周り中から悲鳴が起こる。 捕獲銃は味方の巻きこみを危惧して撃ちあぐねている。 「お妙さん、ここにいてくださいッ」 近藤が羽織を脱いで妙に渡す。 「新八くんは絶対に大丈夫ですから!」 「で、でも…どうする気なんです?」 妙は羽織を受け取り、銀時を襲う怪人を見てうろたえる。 腰に刀を差して近藤は走っていく。 「体を張ってでも、アイツは俺が止めます!」
最後の護りの隈無も弾きとばされたとき。 「オイ。あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ」 ガキィ…と金属が金属を打ちつける音がして『岡田』の前に新郎が立ちはだかった。 銀時を後ろに置いて抜刀した土方が『岡田』の腕刀を阻んでいる。 「テメェは銀時に近づくな。指一本触らせねぇ。テメェが銀時を見ることも許さねぇ」 土方の低い声は感情がこもらない。 それだけに彼の激怒が伝わる。 「こいつはテメェの手の届く奴じゃねぇんだよ。連続辻斬り暴行犯、御禁制の闇商品保持および使用のかどで逮捕する。手向かえばこの場でテメェの命、もらいうける」 『グガ……ググ…』 「トシィィィィ!」 近藤が走りこんでくる。 振り上げられたもう片方の腕が土方に掴みかかる前に、近藤の剣がその腕を叩き伏せる。 『グギャァァァァァ…!』 再び両腕を押さえられた巨体が焦れてのけぞる。 その眼が届く距離の銀時を見下ろす。 『グゥ…、』 シュルシュルっと首の後ろから触手が滑り出る。 それが一斉に銀時に向かって伸びていく。
「無理だ近藤さん、銀時は…」 土方が叫ぶ。 銀時の周りにまともに立っている隊士はいない。 「銀時の眼は何も見えちゃいねぇんだ、遮光コンタクトでどうにか目ぇ開けてるだけなんだよ!」 「なんだと!?」 近藤が首を回して銀時をうかがう。 「クスリつかって治ったんじゃなかったのか!?」 「そこまで都合よくいかなかった、コンタクトは装着すると透明になって瞳が見える優れモンだ、見えるフリして眼ぇ動かしてただけだ!」 「そんな…、おまっ、じゃこの状況は」 近藤が引きつる。 「非常にまずくねーか…?」 「…クソがァ!」 土方は腕を弾きあげようとする。 『岡田』の腕は鉄の塊のようだ。 「ちょ…、傘ってドコ?」 銀時が周りの空間を手探る。 「なにも触んないんだけど!」 シュルル…と触手が迫る。 銀時は後ろへ下がろうとして漆塗りの椅子に蹴つまずく。 「んぁぁぁぁっ…!」 足をとられて後ろ向きによろめく。 宙に浮いた手首に触手が巻きつく。 「銀さん!」 銀時の身体を抱き取り、触手を素手で打ち払った者がいた。 横手から馳せ参じた黒い隊服の隊士。 自分の身体で銀時を庇い、触手を避けながら傘の下へと運びこむ。 「大丈夫ですか、銀さん?」 銀時の耳に、よく知る声が流れこんでくる。 「もう二度とあんなヤツにアンタを渡したりしませんからね!」 「し…新八!?」 銀時は声の方を振り見る。 それは息切れして上擦った新八の声だった。
続く
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