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* 高銀話です(連載中)
銀時が声を潜める。 隈無清蔵はオヤと思う。 毛布の下で銀時は携帯を耳に押しつけて動きを止めている。 まるで相手の声を聞き漏らすまいとしているようだ。 『すまねぇな。用があるのはお前じゃねぇ。傍に隈無は居るか?』 「なんだ、俺じゃねーのかよ」 不服気に言って銀時は毛布から携帯を差し出す。 「やっぱオメーらだったろが。ええと、くまなく…サン?」 「私に?」 隈無は首を傾げる。 「もしもし。代わりました」 銀時の携帯を通じて自分に連絡が入るなど普通ではない。 なにごとかと緊張する隈無清蔵の耳に副長、土方十四郎の声が流れこんできた。 『隈無か。そっちの様子はどうだ?』 「変わりありません」 安堵する。 いつもの無愛想な土方の口ぶり。 「坂田さんはお食事を終え、安静に休まれています」 『なら話は早ぇ。隈無、お前は屯所に戻って来い。お前じゃなきゃダメなんだよ』 「どういうことですか、副長?」 『いま離れに改装業者が入ってるのは知ってるな?』 「ええ」 『水道業者も来てる。それで近藤さんがこの際だから屯所の厠革命も進めちまえって言い出したんだよ。自動水栓のカタログあるから、それ見て業者から見積もり取ってお前が交渉役に当たりゃ文句ねーだろが』 「わかりました。そういうことなら私がお役に立てるでしょう。しかし…」 隈無清蔵は毛布に籠もる銀時を見る。 「病室が手薄になります。ここの責任者は私ですので、どなたかと交代していただく必要があるでしょう」 『手配する』 土方は短く言い切る。 『ともかくお前は今すぐ屯所に向かってこい。業者を待たせている。もう帰りたがってるのを一挙に大量発注させてやるつって引き留めてんだ』 「すぐに出ます」 『そこの外警備のヤツを病室に向かわせる。今、そこは何人だ?』 「私一人です。廊下に二人体勢で、副長がお帰りになってから変わってません」 『よし。頼んだぜ』 プツリと通話が切れる。 ふと隈無清蔵は違和感を覚える。 しかしその正体を考える間もなく銀時に隊服の上着を差し出される。 まぶしがる銀時に少しでも遮光を施したくて毛布の上から掛けていた隊服の上着。 「行くんだろ?」 毛布はかぶったまま銀時に告げられる。 「コレはもう大丈夫だ。暗くなってきたせいか、あんまり目に来ねーから」 「…すみませんね」 受け取って、羽織る。 「交代の者が来ます。御用がありましたらその者にお申し付けください」 「あーそうするわ。携帯は?」 「こちらに置きます」 「ん…コレか」 シーツの上に置いたものを銀時は探り当てて握る。 ぴゅっと、手と共に携帯は毛布の中へ吸いこまれていった。 「…………」 隈無清蔵は一礼してベッドサイドを離れる。 病室の扉を開けると番兵よろしく隊士が二人、扉の両脇に立っている。 「あれ、隈無さん」 隊士たちは親しげに見上げてくる。 「厠ですか?」 「そうじゃありません。屯所に戻ります」 「えっ?」 「私の交代はすぐ来ますから」 「あ、…ハイ」 「責任者として君たちにお願いがあります」 隈無清蔵は感情のこもらない瞳で年若い隊士たちを見下ろした。
「………痛てっ」 銀時は毛布の中で携帯を閉じた。 折りたたみ式のそれを開くと猛烈なバックライトの光量が目に刺さる。 包帯も眼帯も断った。 それらが目を覆ってるだけでロクでもない場面を思い出し身体がヒヤリとするからだ。 「たかすぎぃ…」 携帯に向かって呟く。 目を閉じて横たわっているが、眠らない。
「ただいま戻りました」 屯所で隈無清蔵は水道業者の所在を求めて聞き回った。 しかし業者の居所を知ってる者はいなかった。 「おかしい。確かに…」 「清蔵さんじゃありやせんか」 離れの改築現場へ足を運んでも、そこは暗くひっそりとして人がいる気配はない。 訝しがる隈無清蔵に声を掛けたのは一番隊隊長、つまり隈無清蔵の直接の上司である沖田総悟だった。 「今日は病院詰めじゃなかったんですかィ?」 「いえ。副長に呼び戻されまして」 「土方さんに?」 沖田は首を傾げる。 「おかしいな。土方さんは近藤さんと一緒にとっつぁんのお供に行ってますぜ。こないだの『岡田』の件で関係各所から説明を求められたとかで」 「では屯所に戻るよう命じたあれは誰だったんです?」 「隊長!」 伝令の隊士が廊下を走ってくる。 「病院がッ…、万事屋の旦那の病院が襲撃を受けましたぁーッ!」 「なにッ」 二人は即座にそちらへ向き直り、腰の刀を押さえて走りだす。 「しまった、謀られたか!?」 「近藤さん土方さんに連絡は?」 「まだです、今してます!」 「一番隊は総出で病院向かう。伝令、無線室行っときな」 「はっ!」 「まさか本当に来るとは…」 「だから俺が残るって言ったんでィ」 沖田と隈無清蔵は警察車両へ走る。 警報が鳴り渡る。 出動の合図。 屯所に伝令の声が飛び交い、ドタドタ走りまわる隊士たちの出支度で騒然としていく。 「野郎…、旦那が攫われたら二度は無ぇぜ」 部下の運転する車に乗りこみ、沖田は毒づいた。
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