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* 高銀話です(連載中)
毛布ごしに身ぶるいする銀時を宥める。 「まだそうと決まったわけじゃあるめぇ。『紅桜ネオ』を試す人間は少なくねぇみてぇだ。坊主が適合させたたぁ思えねェよ。おめぇが遭遇したのは間違いなく別人だ」 「銀さん、話が見えないんだけど」 やりとりを聞いていた長谷川が口を挟む。 「新八君、超兵器を使ったヤバイ事件に巻き込まれてんの?」 「このごろ江戸の町に、また辻斬りが出とるだろう。ありゃ、電脳幹を使って変身した『紅桜ネオ』の使い手よ。坊主はその電脳幹のコピーを弄っとった。事実はそれだけで、それ以上のこたぁ無ぇ」 「それで銀さんは辻斬りが新八君じゃないかって話? だって20~30代の男ばっか狙って襲うんだろ? ありえないよ!」 「………新八は俺に懸想してんだよ」 銀時は頭を俯けたまま言った。 「こないだそう言われた。俺ァ全然気づかなくてよ。…新八のヤツ、俺を本気にさせようとあんなもんに『変身』しちまったんだろ…」 「坊主が言ったのか。おめぇに惚れてるって」 源外が尋ねると銀時は毛布の向こうで、こくと頭を縦に振る。 「やっぱおめぇだったか。それで『紅桜ネオ』を使っておめぇを攫い、坊主が腕づくで思いを遂げようとしたと、おめぇはそう言いてぇんだな?」 「か、顔は?」 長谷川が焦ったように問う。 「銀さん、新八君の顔見たの? それ本当に新八君だったの?」 「顔は……違った」 銀時が答える。 「声も。ガタイも新八とは似ても似つかねぇ。仰ぎ見るくれぇタッパがあった」 「だったら…」 「顔や体格が別人でも、それで坊主じゃねェという保証にはならねぇがな」 源外が諭す。 「電脳幹は人間の細胞配列も変えちまう。アレは人間を、顔も身体もまったく別人に作り変えちまうんだ。だがな銀の字、そりゃ別人だぜ。誓って坊主じゃ無ぇ。なぜなら素人がカラクリ技師無しで『紅桜』みてぇな変身できるはず無ぇんだよ」 「…アンタ、新八を手伝ってやったんじゃねーのか」 「手伝うもんかよ。俺りゃ場所と道具を貸しただけだ。坊主があんまり夢中になってたからよ、他でやられるよりゃ良いかってな。だが断じて手出しはしてねぇ。成功させるわけにはいかなかったから、遠目に様子を見ちゃあいたがな」 「じゃあ新八が、アンタの知らないところで…カラクリ技師の世話んなってたとしたら?」 鬼兵隊の高杉晋助だ、と土方は言った。 新八は反社会組織に踏み込もうとしている、と。 ならもう、新八は高杉の抱えるカラクリ技師の助力を得ているのではないか。 「……アイツ、あの野郎。ドンピシャ俺を狙ってきた」 あぐらをかいた銀時が毛布の向こうで顔を背ける。 「身体から触手みてーなの生やしてよ、まともに自分の言葉喋ることもできねーで…あんなんでアイツ大丈夫なのか。今、どこでどんな思いしてんだか…」 声が毛布にこもる。 「俺がもっと早くアイツの気持ちに気づいてやってりゃ、こんなことには…」 「あ、…あのさ、銀さん」 長谷川がとりなす。 「源外さんも言ってるじゃない、新八君じゃないって。絶対違う、別人だって。だからさ、まずは新八君に会って話を聞いてみた…」 「別人なら、俺を狙う理由なんか無ぇだろうがッ!」 銀時は声を荒らげた。 「辻斬りの被害者は俺に似た野郎ばっかなんだと。俺の名を呼びながら探し回ってヤッてたってさ。新八じゃなかったら、あれがトチ狂った新八じゃなかったら、他の誰が俺似の男探してそんな真似するってんだよっ」 「いやだけどさ、」 「確かに電脳幹使ってる人間は他にいるかもしれねぇよ?けどな、そういうヤツは俺に用なんざ無ぇんだよ。辻斬りが俺を狙うのがそいつが新八だっていう何よりの証拠なんだ」 「だからってお前、あの新八君がそんなことすると思うわけェ!」 「じゃあ長谷川さん、あれが新八じゃないとして、俺を狙う理由はナンだよ?」 たんたん、と銀時は自分の膝を叩く。 「アイツ、俺とヤリてぇって。ガキだと思ってたのに道具まで揃えて準備してたらしい。思春期の男なんだよなァ、アイツも。ちゃんと汲みとってそれなりの対応をしてやりゃ良かった」 「それなりの対応って?」 「一人前の男と認めて、ガキ扱いしねーで話しあう。オメーとそういうことはできねぇから他を当たれってキッパリ言い渡す」 「言っちゃうの!?」 「だってデキるわけねーだろ、そんなん。お妙になにされっか解らねーし」 「どっちにしろ辻斬りに走ったんじゃないのソレ!」 「アイツがそんなバァッカなわけねーだろ。悟りと諦めの早いヤツなんだよ。どこまでも泣きながら走ってって強引に煩悩の火を消しちまう童貞思考のニルバーナ君なんだよ」 「ニルバーナ君て何!?」 「『涅槃』という意味ですね」 それまで離れたところに佇み、けして会話に入ってこなかった隈無清蔵が両腕を背中に回した直立姿勢で告げる。 「悩みや束縛から脱した安楽。一言でいうと悟りの境地です」 「…あ、ども」 長谷川がぺこと頭を下げ、銀時に顔を戻す。 「とにかくさぁ、銀さんだって分かってんじゃん、新八君が悪いことするわけないって。銀さんが信じてやらなくてどーするのよ」 「ん、…まぁそうだけどよ」 はぁ、と大きくため息をつく。 「じゃあ新八のヤツ、あいつ何やってんだよ。反社会組織に祝言ぶち壊す手伝いしてもらってるってのか…」 ───アンタがそんなつもりなら僕にも考えがあります。 銀さんが土方さんと結婚するなんて絶対イヤだ!絶対阻止してやる! 実力行使でアンタの目を覚まさせてやる!後悔しないでくださいよ、銀さんッ! 新八の声を思い出すと、なにをどう判断していいのか考えが止まってしまう。 源外は、こほんと咳払いして話を切り出す。 「まぁおめぇの言うとおりかもしれねぇよ? あれが坊主じゃ無ぇとは言い切れねェ。だがもしそうなら一刻も早く坊主を電脳幹から切り離さねーとならねぇだろうよ」 源外の方へ無言で顔を向ける銀時に、源外は頭を掻く。 「『紅桜ネオ』は使ってるうちに気が変になって、だんだん錯乱して廃人になっちまうってぇ噂だ。電脳幹が人間の脳や身体を侵蝕していくんだろうなあ」 「切り離せるのか」 即座に銀時が尋ねる。 「どうやって?」 「そいつぁなんとも。ありゃ本人の意志でオンオフするもんだ。本人が意識を失えば、とりあえず外れるんじゃねーか?」 「あれを意識失わせるって、無理だろ。無理ムリ!」 銀時はぱたぱた手を振る。コテージで相対した『岡田』は生身で手向かいできるような状態ではなかった。 「…水とか?」 長谷川が源外と銀時を見る。 「電動のカラクリなら普通に水かけりゃショートすんじゃない?」 「オメー、なかなかいいこと言うなぁ。でもダメだな。電脳幹は完全なる防水仕様だ。水は無効だ」 「でもさ、海水に浸かったら故障したんでしょ?」 「通電中は対塵、対圧、対熱、対水、対衝撃の防御が完璧に施される。使用中に物理的に壊すのは不可能に近ぇ。通電してねェときは、その限りじゃねぇがな」 「じゃあ電気の供給を止めちゃう、ってのは?」 「もともと機動兵器『紅桜』を考案したのは鬼兵隊の大将と、大将に見込まれた稀代のカラクリ技師だ。エレキテルの遮断がなによりの弱点だってのは重々承知してたろう。『紅桜』のバッテリーは超小型で過酷な使用に耐える脅威の高性能、引火防爆機能付きの寿命知らずってぇ永久機関とも噂された、『紅桜』の肝(キモ)だ。詳しい構造は知らんが外部からどうこうできるようなもんじゃないことは確かだ」 「じゃあ他人が強制的に電脳幹を解除できないってこと?」 「そうとも言える」 がはは、と源外が笑う。 「俺の息子が担いだ大将だ、そんなヘマはしねーよう!」 得意気な源外、脱力する長谷川。 彼らの声を聞きながら銀時は、ふと思考を逸らす。 そういえば『紅桜』はもともと高杉と村田鉄矢が生み出したカラクリだ。 ああ、だから高杉が出ばってきてたのか。 『紅桜』の残骸を他人に拾われていいように使われるなんて、アイツ我慢できないだろう。 いっそ、きれいさっぱり殲滅されちまってた方が高杉もせいせいしたろうに。 ヅラの面当てか。 いやヅラはそんな気の利いた真似できねェ。
毛布をかぶって誰からも見えないのをいいことに想いを馳せる。 新八が、高杉のもとへ行った。 アイツは新八から受け取るだろうか? 悪戯の仕掛けの成果を待つように、銀時は満足気に目を細めた。
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