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本日の更新 * 高銀第19話更新(ここ)1件
「んー、…海。江戸湾13号地の砂浜」 新八の行き先を聞かれて銀時はダルそうに答える。 「お通の楽屋。コンビニの溜まり場。電気街。あとは恒道館とかぶき町だな」 「広い範囲を回ることになりそうだな。…乗れや」 土方は一台のパトカーの助手席を開けて銀時に促す。銀時は土方の顔を見る。 「なに。これに乗るの?」 「嫌か」 「目立ちすぎんだろーが」 「人探しにゃ便利だぜ。追跡にもな」 「オメーが運転すんの?」 「せっかくのドライブだ。運転手は要らねぇだろ。二人っきりでデートと洒落こもうや」 「…マジでか?」 銀時のやる気のない瞳が、うんざりしてパトカーを眺める。土方はドアを開けたまま銀時の腕を掴み、銀時を見つめる表情は甘やかなまま顔を近づけて、銀時の耳元に囁く。 「ウソでも笑いやがれ。隊士どもの前だ。ちったァ喜んで見せねぇか」 「……う、ぁ…あっ、デ、デートだよね、コレ!」 銀時の声が不自然に裏返る。腕を掴まれたまま、なんとか身を引いて、及び腰になりながら土方に向き直る。 「ウソ、マジで? 運転してくれんの副長さんが? そんな車に俺、乗っちゃっていいわけ?」 「オメェに運転なんかさせられねぇ。これからは俺がどこにでも連れてってやらァ」 「う、嬉しぃ…嬉しいよ、ウン。嬉しいってば!」 銀時は腕を突っ張る。土方の手を振りほどこうとして、手首を本格的に土方に掴みなおされてしまい、動きを止める。土方の咎めるような瞳を見て思い出す。そういえば熱愛カップルを演じなければならない。 「でもさぁ、…ちょっと落ち着かなくね? デートってより連行されてるみてーじゃね? 俺としちゃ、こんな無粋なモンより普通の車に乗りてーなぁ、なんて…、」 「あいにくウチにゃこんな無粋なツートンしかねぇんだよ。乗りな」 「えぇえー、初デートがパトカーとか何ソレ、トラウマ植えつける気ぃ!」 銀時は不服そうに土方に瞳を向ける。 「だったらいっそ歩きで行こうぜ。新八だって公共交通機関しか使ってねーんだからよ」 「…なんだ。そんなに車ん中でイチャイチャしたかったのか?」 薄ら笑いを浮かべながら土方が銀時の身体を引き寄せる。中途半端な抵抗しかできずにタタラを踏んでいる銀時を自分の胸板に密着するほど抱き寄せ、銀時の背中から尻にかけて引き締まる手触りのいい腰に両腕をまわして銀時を腕の中に収める。 「公用車だろうが気兼ねするこたァねぇよ。俺たちの血も汗も泥も染み込んでる車だ。キレイな使い方はしちゃいねぇ」 「あ、ぁ、…ッ──そ、そうなの?」 「屯所より景色のいい場所で初手合わせといくか?」 「んぁ!? なに言ってんの、おまえ……じゃねーよ、そーだな、そんじゃ竹刀でも持ってく? お稽古好きだねェ土方くん、手合わせはお初じゃねーけど、コテンパンにノシてあげるぅ~」 「竹刀はいらねぇだろ。自前の道具で事足りらァ」 こめかみに怒りを溜めたイラッとした笑いを銀時に向けてくる。 「それより他の道具準備しねーと。人気のねぇところじゃ店もねぇし」 「やだぁ、土方くんのエッチ~…ふぐっ、」 人目を気にしながら、のらりくらり返答していた銀時は、至近からいきなり唇を塞がれた。唇を柔らかく押しつぶされる感触。驚いて相手を見れば目の前に土方の切れ長の瞳があって、睨みつけてくる。 「あ、…ぁん、…ぅく、…ぁむ、…、ん…、」 触れるだけのキスだと思ったら、しっかり舌を差し込まれて、舌を吸われた。腰を引き寄せられていても顔を背けるのは簡単だ。しかしまわりから視線が来ている。真選組屯所の正面門の内側、外の道に面した半分公共の広い場所。隊士たちの注目は逸れようもなく自分たち二人に突き刺さってくる。 「はぐ、…んぐ、…っ、ぁ、…らめらって、」 銀時のこめかみにも怒りが浮かぶ。土方の首に手を這わすフリをして、グググっと後ろ髪をつかみ、キスを引き剥がす方向で徐々に指に力をこめて引っ張る。銀時の瞳も土方のそれを睨み返し、離せや、と眼力に意志をこめる。 「恥ずかしいのか?見かけによらずウブだな」 ニヤッと瞳が笑い、土方は唇をつけたままそんなことを周りに聞こえるように言う。 「てっ、てっ、てっ、てめっ! …んあぅ、…うっ、んむっ…──んっ…、んぅーっ…」 銀時の視線が周りを窺って、あせあせと泳ぐ。熱愛の演技をするのは承知したが、土方は人目がある限り自分たちは恋仲であるとアピールするつもりだ。そして自分はそれを人前では拒めない流れではないか。他人がいることは、銀時にとって行為を続けさせられるための枷になる。 「ちょ、どこ触って、ぁう、…んぁあっ、…ぁく、…ん…、」 土方と二人きりで部屋にいたときは拒めたものが、拒めない。副長が人目もはばからず白昼堂々、想い人を腕の中に閉じこめ、長いキスを愉しんでいるのも、その恋人の身体を服の上から探り回して、びくっと身を強ばらせる部分を指先で弄りまわしているのも、隊士たちには格好の見世物でしかなく、当然ながら咎める者も、中断するよう諌める者もいない。 「あっ、ァッ、──ッ、いっ、…いいかげん、やめてください、…っく、…んぁ、…ぉ、願いしますぅぅう…!」 土方のキスが、服の上から乳首に吸いつこうと降りてきたところで、銀時は土方の額をグググっと掌底で押し剥がした。それでも土方は目的の箇所を正確に見つけて優しく唇に挟みこむ。 「~~~っ、!!!」 銀時は声を噛み殺し、思いがけず感じてしまった自分の身体になかんずく失望しながら、両手を土方の肩に突っ張って、腰を容赦なく引いて後ずさる。 「…仕方ねぇな」 人目に配慮して、なるべく穏便に土方を押しのけたつもりだった。土方が続けようと思えば突破できるくらいの抵抗、しかし土方は銀時の吐息に潜む怒りを感じたらしい。しぶしぶと顔をしかめて、悔し紛れのように銀時の耳たぶにキスを押しつけ、一回ギュッと噛んでから上体を離す。 「続きは海に着いてからな。…あと、これ持っとけ」 苦笑の中に甘い視線を混ぜて銀時を覗きこむ。その一連の動作の中で土方はポケットから取り出したものを銀時に握らせた。 「…携帯電話?」 見ればそれは黒塗りの、使いこまれた携帯電話。一瞬で銀時は、ああ、と思う。自分の居所の確認だ。彼らは銀時の首に鈴をつけるつもりなのだ。 「屯所の連絡用だ。どのキーでも長押しすりゃ屯所に繋がる。サイドキーでもな。つながったらバイブで震えるからよ、いちいち取り出さなくても使えるって寸法だ」 「へぇ。…間違えて押しちゃったらどうすんの?」 「そのつど確認が入る。誤報はよくあることだ。気にすんな」 命の危険に晒される彼らは、こんなものまで装備しているらしい。銀時は手の中の物体を眺め、そのまま懐の合わせへ突っ込んだ。 「副長、いってらっしゃい」 なにげない、しかし下世話な笑いを向けられる。二人の親密度や行為の具合を探れないか、自分も一枚噛めないか、くらいの勢いで隊士たちの視線が食らいついてくる。 「てめぇらキッチリ仕事しろ。指示は出しといたかんな」 土方は言い捨てて銀時を車に押し込め、運転席に座る。なかなか副長職というのは忙しいらしく、急に銀時と出かけることになったため、部屋を出る前に、こまごまとした指示の変更を部下たちに残していた。
銀時は土方と反対側の窓に肘をついて窓の外を見る。 『よく、戦況にらんじゃ、噛んで含めるように現場に指示してたっけ』 滅多に声を荒げることはなかった。いつも余裕の笑みを浮かべて、自分の身を顧みない方法ばかり取っていた。余裕がなくなったのは自分と二人きりのとき。すべての感情をぶつけるように銀時の生身には容赦がなく、銀時の体内では暴君を極めていた。 ───高杉…… 考えると、他のことが耳に入らなくなって、高杉のことばかり考えてしまう。高杉とは、単なる旧友の間柄。戦況の悪化とともに自分たちの接触は薄れ、戦の終結とともに情交する関係は自然に消滅した。そのあとは、交わした約束があるわけでも、言外の絆の証があるわけでもない。昔寝てた相手、それだけだ。会えば口くらいは利く。迷惑をかけられれば文句を言う。その程度。 ただ、このごろ夜中に出会うようになった。犬の散歩に途中から加わってしばらく歩く。なにということもなく喋る。大通りに出る前にアイツは身を翻して去っていく。 ───べつに誰かと籍入れたって、アイツには関係ねーんだよな 銀時は空を見たまま目を眇める。 車は屯所を離れ、首都高速に入って江戸湾へ向かった。
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